チャプター・46 ほーりゅう
私は、今出せる力を最大に攻撃を仕掛ける為、両手を上にあげて狙いを定める。かなりの至近距離だから、普段は方向なんか定まらない超能力だけれど、多分はずさない。
私の本気が伝わったのか、麗香も私に向き直り、両手を左右横に広げる。でも、今のやる気満々の私に対して迫力負けしている上に、自らがジプシーを傷つけた事に動揺している為だろう。なかなか彼女の両手の平の上に、力が集まらないのがわかる。
その時、全く注意を払っていないであろう彼女の足元に、梵字を配した巨大な陣が、うっすらと浮かび上がった。陣の中心は、傷だらけで床に伏したままのジプシーがいる。
ジプシー、私の声が聞こえたんだ。大丈夫、まだ意識を失っていない。彼女の防御を、この状態でもしてくれている。
私は自分の力の大きさ、知らないけれど、彼女の力を出し切らせてのオーバーヒートが目的だから最大で攻撃する。だから、彼女自身が傷つかないようにジプシーが護ってくれるって信じているよ。
私は麗香に向かって、手を振り下ろした。
それでも必死で反撃をしてきた麗香の力を、私の力は丸ごと飲み込んで彼女に向かう。そして彼女に当たる寸前、彼女の目の前に五芒星が浮かび上がり、私の力がその中心を通って、彼女を吹っ飛ばした。
廊下と教室の間の壁に、背中から全身をぶつける麗香。その壁までにも浮き上がっていた陣が、彼女が廊下の上に崩れ落ちる時、消えていくのが見えた。
これって、ジプシーの防御結界が間に合っていたって事、だよね。
私は、崩れ落ちたまま動かなくなった麗香を見つめて、その場に立ち尽くした。
どの位、時間が経ったのだろう。数分か、いや、数秒の事かもしれない。
やばい、ジプシーを病院に連れて行かないと、とようやく頭が回り始めた時、うつむいたままの麗香が、つぶやくように言った。
「あなたの方が、私より強いって事ね。私、負けたのかしら」
そして、麗香は座り込んだまま、自分の眼の前に、ゆっくり両手をかざす。
「力が、思い通りに出ないのよ。何故? 私、あなたに負けたから? 力を使い過ぎたから? 力の出し方が、使い方がわからなくなってきた……」
「それは客観的にみて、力の乱用で出し過ぎた為にオーバーヒートをし、その回路が焼き切れた為だろうな。もう君に、術を使う能力は残ってはいない」
突然、廊下に朗々とした声が聞こえ、私は驚いて、声のする方へ向いた。
「……え? 生徒会長?」
ゆっくりと私と麗香の方へ、苦笑しているような表情で、会長が歩み寄って来る。
「全く、一昨日の後始末の仕事が山積みで、この時間までかかって、こちらは事後処理をしているというのに。また校内で乱闘騒ぎか」
そして、座り込んだままの麗香の正面に、会長は立ち止って見下ろす。
「他校生の君、私も一昨日の件は偶然居合わせたから、大体の事情は把握している。私が思うに、もう君には術を使う力も、奴を振り向かせる力も残っていない。あきらめろ」
居丈高に一方的に言われ、プライドの為か、わずかに麗香の表情が動く。
「あなたに、何がわかるって言うの。ただの人間のくせに」
「君だって、もう今は力を持たない、ただの人間だ」
突然、彼女は身を起こし、会長にぶつかるように向かって行った。そして、会長の胸の辺りに両手を当てて、押し付ける。
だけれど、何も起こらない。……あれはきっと、私に仕掛けてきた触覚による衝撃波の体勢なんだろうけれど。
本当に、会長の言う通り、力と思えるものが何も出ないんだ。
麗香は首を左右に振りながら、ゆっくりと後退る。
そして声をかける間もなく、身を翻し一気に走り出した。会長が通ってきた廊下を突き当たって曲がり、階段を駆け下りる気配がする。
「江沼、彼女は多分、このまま校外へ出るぞ」
会長がそう言った時、足元から軽い揺れを感じた気がした。そして私は、無意識に眼を閉じる。
これは多分、復元結界がとかれた瞬間だ。
再び眼を開いた時、窓や壁が破壊され、炎と煙を上げていた廊下は、この時間にふさわしい、何事もなかったかのような当たり前の風景と静寂に包まれていた。
|