ジプシーダンス(44/50)PDFで表示縦書き表示RDF


ジプシーダンス
作:国沢裕



チャプター・44 ほーりゅう


「……耳元で、大声を出すな」
 声が聞こえた。
 そして両肘を床につき、私の上に覆いかぶさっていたジプシーが、少しだけ身体を起こした。
「ジプシー!」
「……だから、大きな声、出すなって」
 少しあいた隙間から、私は後ずさりに這い出て、改めてジプシーを見た。
 背中一面が血の色。そして、流れ続け、床の上に絶え間なく広がり続ける血溜まり。やっぱり、さっきの麗香さんの切り裂き系かまいたち、私をかばってジプシーが食らっちゃったんだ。
「何で……」
「……悪い。誰かが、復元結界に干渉してきて、そっちに気をとられた」
 それって、干渉した人間、ジプシー以上の能力者って事になるんじゃないの?
「大丈夫。結界はまだ、破られていないから。この怪我は、とっさに防御結界をお前に飛ばせなかった、俺のせい」
 荒くなってくる息の中でジプシーが言った。
 麗香も、まさかジプシーが私をかばって、ここまでひどい怪我をすると思っていなかったんだろう。
「こんな事、……あなたに、こんな怪我をさせる気なんて、なかったのに……」
 つぶやきながら、血の気の失せた顔で、麗香は茫然と立ち尽くす。

 どうしよう。どう見てもジプシーの出血が多い。このまま時間が経てば、命にかかわってくるかも。第一意識を失いかねない。そうなると、こんな事態に直面した今、意味がようやくわかったあの長ったらしい説明にあった復元結界。ジプシーが気を失った時点で、この破壊され炎も上がっている校舎が、このまま現実世界に残るってことなんだ。
 いっその事、ジプシーの意識がある間に、復元結界を術者のジプシーがといたら? それなら、校舎のダメージだけでも直るはず。ジプシーをすぐに病院へ運ぶ事も出来る。
 今回の作戦を放棄して、また改めて次の作戦を練ろうよ。
 私はそうジプシーに言おうとした。

 その時、両肘を床について、うつむいているジプシーの胸元で、鎖を伝って滑り落ち、炎の光を受けたロザリオが、揺れて反射した。
 麗香の眼が、ジプシーのロザリオに釘付けになる。
「二人、お揃いの、ロザリオ?」
 私は、咄嗟にその意味に気がついたけれど、ジプシーと私の持っているロザリオは、偶然似ているだけで同じじゃないって説明する余裕がなかった。 
多分これが最近何処かで聞いたフレーズ、可愛さ余って憎さ百倍って言うんだろうか。好きな相手を傷つけたショックと相俟って、ロザリオを凝視する麗香の力が、急激に膨れ上がったのがわかったから。
「だめぇ!」
思わず私は立ち上がり、ジプシーの前に両手を広げて立ちふさがった。意識をぎりぎり保っている、怪我をしているジプシーに、これ以上攻撃なんか、受けさせられない。
「あなた、退きなさいよ! つぶしてやる! そんなロザリオなんか、なくなっちゃえばいい!」
 そう叫ぶ麗香に、それでも私は退けない。ジプシーのロザリオは、彼のお母さんの形見なんだから。
 壊させる訳にはいかない。
 
 彼女の放った大きな気の塊を正面から受け、私はジプシーを超えて吹き飛ばされた。そして叩きつけられる先は、外に面した廊下の窓ガラス。
 その瞬間、苦痛に歪んだ表情のジプシーが、それでも力を振り絞って左手を伸ばしてきた。吹き飛ばされる私の右手首を掴む。
 でも、彼の血にまみれた私の右手を、握力の弱くなったジプシーは、握り切れずに滑って離してしまった。
 そのまま私は、本当にガラスを割り、三階の窓から外に身体ごと飛び出してしまう。

 ……これって、もしかしてやばい?
 これじゃあ、文化祭の時の、四階から落ちた強盗犯の二の舞だ。
 ただし、吹き飛ばす方じゃなくて、私が落ちる方で。
 
 そう思った瞬間、私は急激に、重力に従って下に落ちる感覚を覚えた。







ネット小説ランキング>「ジプシーダンス」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう