チャプター・40 ほーりゅう
夢乃と京一郎と一緒に、しぶしぶ私はジプシーの後に続いて、四階の自習室を出る。階段をゆっくり降りながら、言われた通りに、私は一昨日練習した事を思い出して、力を呼び起こそうとする。そうだよね。これが今回の私の目的だもん。さすがに今日は本気でやらないと。
私の目的。彼女と超能力で戦って、彼女の力がオーバーヒートするまで追い込む。
うつむいて集中集中と思いながら階段を降りていると、一階分だけ降りた所で立ち止まったジプシーの背中にぶつかった。
「痛ぁ〜い! 何よ、急に立ち止まらないでったら」
一応出っ張ってた鼻の頭を押さえてジプシーを見上げると、横を向いたまま無表情で黙っている。同じように視線を追って横を向くと、一昨日と同じ三階の廊下の向こうに、高橋麗香が自校の制服姿で、一人立っていた。
「あなた、私を一人呼び出しておいて仲間連れ? あなたも一人で来ると思っていたのだけれど」
高橋麗香は、私をまっすぐ見て言った。
怒ったような強張った表情だが、不思議な事に、怒りは彼女の可愛らしさの中に美しさを彩る。
私は、神秘的なモノを見るように視線が釘付けになりかけたが、いやいや、見とれている場合じゃない。私は彼女と戦う為に、呼び出したんだ。……ん? 実際彼女を呼び出したのはジプシーなんだけれど、私が呼び出したって事になってんの?
「俺と夢乃は見届け人だ。邪魔する気はねぇよ。もっとも、余計な邪魔者を連れてきていたら排除しようかと思っていたが、あんたは一人で来たようだし」
夢乃を背にかばい、京一郎がそう言って、両手の平をあげて見せた。
高橋麗香は京一郎を一瞥し、そのままジプシーに視線を移す。
「あなたは、何故ここにいるの」
「何故って、自分の彼女がこの遅い時間に出歩くなら、普通はついてくるだろ」
しれっと悪びれず、ジプシーは言った。
「あなた、この前に自分で、彼女はいないって言ったじゃない!」
思わず叫んだ彼女に、ジプシーは無表情で答える。
「じゃあ訂正。こいつとの関係は、お前が見た通りだ」
見た通り? 私は思い起こす。それは、喫茶店での偽デートや公園での偽ラブシーンや一昨日のバカップル姿って事? それって更なる誤解を招くのでは。
案の定、高橋麗香は、ぎりっと私を見据えた。
「私に見せ付ける為に呼び出したの? なら覚悟は出来ているでしょうね」
そう言った彼女の周囲に、前に嗅いだ事のある花の香りが広がった。
これって。
「いい香り。麗香さん、これ、何て言う名前の香水?」
思わず聞いてしまった私の頭を、ジプシーは左手でガシッと掴んで言った。
「お前、状況をわかってる? 本当に思った事が何でも、すぐに口から出る女だな」
「だってぇ! 気になるじゃない」
またもやバカップルモードに入りかけた私とジプシーに、京一郎の、夢乃へささやく声が聞こえた。
「俺、こうやって外野から見ていたら、ジプシーって自分に気のある女二人を喧嘩させている、非道い奴に見える」
だから! 私はジプシーに、全然その気はないって。今回巻き込まれた形なんだってば。
なので。
そんな私の、ささやかなジプシーへの抵抗と逆襲の意味を込めて、バカップルモードを目の前で見せ付けられそうになってキレかかった表情の彼女に人差し指を突きつけて、私なりに考え抜いた挑発の言葉を言った。
ええっと。
「麗香さん。力ずくで私に勝ったら、ノシつけてジプシーをあげるわよ。好きにしたら。さあ、私からジプシーを奪ってみなさいよ!」
横で「げ、マジかよ」とつぶやくジプシーの声。後ろで大爆笑の京一郎。
でも、どんな形でも彼女が最大の力を出してかかってくるように仕向ける事が出来たら、今回はOKなんでしょ? 私、間違ってないもん。
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
そう言って私を見据える彼女の眼。
怒りで異様な光が反射しているような眼。
「お前、今、何も考えずに彼女の眼、見ているだろ?」
ジプシーの言葉に、私は、はっと我に返る。
え? ……あ! そうか、彼女の術!
そう思った瞬間、麗香は右手を、下からすばやく振り上げた。
ジプシーが同時に、私の手首を掴んで自分の腕の中に引き寄せる。
呆気にとられた私が見たのは、さっきまで私が立ってた廊下の表面に亀裂が生じ、背にしていた窓ガラスが砕け散る所だった。
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