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ジプシーダンス
作:国沢裕



チャプター・37 京一郎


 ジプシーの話を聞いた後、ほーりゅうは怪訝な顔をしていた。多分、最後の説明が長すぎて、すぐに理解できていないのだろう。夢乃の方は、少々青ざめた顔になっている。こちらは恐らく説明内容を理解した上で、俺と同じ事を考えている。
 明らかに、ジプシー個人の負担が大きい。
「もう一度、説明をお願い! どういう意味?」
 ほーりゅうが聞きなおす。
 ジプシーは、考えながら言葉を選びつつ、ほーりゅうに言った。
「つまり、結界が消えても、怪我をした所はすぐに治る訳ではないから、怪我をするな」
「それはわかる。他の部分」
 ちょっと間を置いて、ジプシーは、きっぱり言い切った。
「後は、俺自身の問題だから、お前は気にする必要はない」
「へ? どういう事よ。さっきの説明と、全然長さが違うじゃない。第一、それなら何で、京一郎や夢乃が心配そうな顔をしてんの?」
 鈍感そうに見えて、意外と目ざとい。俺と夢乃の表情を読んでいる。
 ジプシーは、やれやれという感じを出しながら言った。
「いや、結論的には、俺自身も怪我をしたり、意識を失ったりするなって事。多分俺のやる事が多いから、京一郎達が心配しているだけだ」
 
 結構、時間が経っていたらしい。気がつくと、昼休み終了のチャイムが鳴り始めた。
 まだ、納得していないような顔のほーりゅうに、俺は言った。
「ほーりゅう、今聞いた限りでは、確かにジプシー一人の負担が大きいが、これから俺と二人で話し合って、一番いいやり方を選ぶ。次の授業は休んでも俺はコマ数がまだ大丈夫だし。お前ら二人は授業に戻れ」
 本当は、ジプシーのような能力を持ち合わせていない俺には、奴の負担を軽くすることは出来ないかもしれない。せいぜい俺に出来る事は、スムーズに事が運べるようにサポートする位だろう。だが、ほーりゅうや夢乃の心配を、わざわざ増やす事もない。
 しぶしぶ椅子から立ち上がる、授業のサボリ癖がついていないほーりゅう。
 その彼女に向かって、ジプシーが言った。
「そうそう、お前の最初の仕事だ。高橋麗香を挑発する台詞、考えておけ」
「何よ、それ!」
 そう言いながらも、ほーりゅうと夢乃は、自習室を出て行った。

「さて」
 彼女達が出て行った後、昼休みが終わった事で、急に静寂が広がった校舎を感じつつ、俺はジプシーに言った。
 ジプシーが俺を見る。
「とりあえず、お前は弁当を食え」
 お前もそれを言うか、と言わんばかりの嫌そうな顔に、俺は続けた。
「これからのお前は体力勝負だろう。今、食べた方がいい。それに計画自体は、さっき聞いた内容が大筋なんだろう?」
 ジプシーは、仕方がなさそうに鞄から弁当箱を出しながら答えた。
「そうだな。高橋麗香の能力を黙っている事と、俺が仕掛ける罠の内容以外、ほぼ全部だ。復元結界の決まり事も百パーセント事実」
「高橋麗香の能力、そんなに複雑で難しいものなのか?」
「いや」
 ジプシーはすぐに答える。
「一言で説明が出来る。だが本当に、ほーりゅうの士気を落としたくないから言わなかっただけだ。今からお前には全て話すし、俺の仕掛ける二つの罠も説明する。……それを承知した上で、全員で高橋麗香の術に落ちたい。罠の一環で」
「了解。お前の食事が終わったら、俺の役割も含めて打ち合わせよう」

 黙って食べ始めた奴をみて、俺は、ふと思い出した。
「なあ、言いたくなかったり、今回の件に全く関係ないって事なら、無理に話さなくていいが。今回の件に関係があるのなら聞いておきたい事がある」
 俺の、珍しく聞きにくそうな前振りに、ジプシーは顔を上げ、ちょっと意外そうに俺を見た。
「何だ」
 俺は、奴の表情を見るために、ゆっくり言った。
「お前、一昨日の運動場で、生徒会長の『黄金率』って言葉に反応しただろう?」
 眼を見開いて、奴は俺を見る。
 しばらく、俺の顔を眺めていたが、ようやく言葉が決まったかのように言った。
「ああ、……あれ。あれは、……俺の深読みのし過ぎだと思う。多分、この一件には関係ない」
 そして、再び弁当に視線を落としたジプシーを見て、俺はこの話に関しては、ここで終わりだと思った。しかし、ジプシーは考え続けていたらしく、ゆっくり話し出した。
「多分、本当に関係ない話なんだ。……黄金率、その種の最も美しくみえる比率の事だろ。四角の辺の比やフィボナッチの数列、パルテノン神殿のように無生物もあるが、自然界における比として生物に関して言えば、らせん状に詰まっているひまわりの種のつき方や、巻貝のフォルムなどは、遺伝子伝達レベルの話になる」
 話の方向性がわからない為、俺は言葉を挟まずに黙って聞く。
「彼女は理由として、俺を綺麗だからと言った。彼女は俺の中に、彼女が知らないはずの俺の両親の掛け合わせの、遺伝子レベルでの黄金比を見たのかと思ったんだ。そんな事、あるはずがないのに」
 うつむき気味にそう言った奴の整った顔を、俺は無言で眺めた。







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