ジプシーダンス(26/50)PDFで表示縦書き表示RDF


ジプシーダンス
作:国沢裕



チャプター・26 ジプシー


「やはり、貴様のせいじゃないか!」
 俺からの大まかな説明を聞いた後、生徒会長はそう言った。
 だが、口先ではそう言いながらも、何故か楽しそうに会長は続ける。
「しかし、まあ、なんだな。女に言い寄られてなんぞ、贅沢な悩みじゃないか。しかも俺の可愛い空手部の後輩を操って、自分に振り向かない貴様を襲わせるとはな。なかなか侮れない女だ」
 俺が高橋麗香にまとわりつかれている事と、あと、事実として見られているので彼女が傀儡術で人を操れる事を話した。俺はもしかしたら、会長に格好の話の種を提供してしまったのだろうか。だが、今回の場合は仕方がない。
 俺は会長に説明しつつ、倒した五人の状態をすばやく確認する。
 そしてようやく、生徒棟への渡り廊下を抜ける。当然のように会長はついてきた。
 ただ、ついてくるどころか、何かやる気満々の雰囲気までする。
 この会長は、結局お祭り好きなんだ。

 確か、さっきガラスの割れる音が聞こえたのは、音楽室の方ではなく、こちら側の角度だったはず。そう思いながら、俺は一番正門に近い階段のそばまで来て、立ち止まる。相変わらず、ピアノの音が途切れ途切れだが聞こえてくる。現在の彼女の術発動の源。
 俺の勘が、引っかかった。静かに神経を研ぎ澄ます。
「どうした?」
 立ち止まった俺を見ながら、会長は歩を進め、階段の一番下の段に足をかける。
「この上、四階の奥の音楽室に向かうんだろう?」
 そう言った会長が、何か気配を感じたかのように、不意に上を見上げた。
 正門に近いこの階段は、四階まで吹き抜けの構造になっている。
 眼を凝らすように、その空間を見つめる会長。その動作を俺は見ていた。
「……何か、上で光っている物が」
 会長は最後まで言えずに、硬直して眼を見開く。
 人間は、上から落ちて来る物から、反射的に避ける事が出来ない。反応出来て、せいぜいしゃがみ込む位だ。

 俺の眼が会長の言う光るものを捉える前に、吹き抜けの上に向かってリボルバーを抜いた。重力も乗って加速するものを確認してから構えたのでは遅い。
 轟音が三度、狭い建物の中で大きく響いた。

 すばやくホルスターに戻したが、俺は自分に注がれる会長の視線を感じた。今回は人命優先。見られてしまったものは仕方がない。
 三発とも手ごたえがあった。多分飛び散ったであろう、かけらの確認をする為に、俺は階段の周囲に眼を走らせる。
 だが。
 見当たらない。確かに、リボルバーを上に向けた後、光るナイフか包丁を三つ確認し、命中する所まで、俺の眼は対象を捉えていたのだが。いくらマグナム弾とはいえ、跡形なく粉砕する事はありえない。
 轟音と同時に鳴り止んだピアノの音。昼間の京一郎のバイク音で術がとけた事と合わせて、わかった事は、音でかけられた術は、それを上回る音で打ち消せると言う事だ。
 静寂の中で腕を組んで考えている俺に、会長が声をかけた。
「おい! 江沼!」
「先輩、エアガンです」
「……貴様!」
「改造して強力にしたエアガンです」
「……江沼」
「本物じゃありません。エアガンです」
 会長は、ため息をついて言った。
「江沼、学校へは不用物を持ってきたら没収する」
「先輩、目の錯覚です。僕は何も持っていません」
 何か、もう少しで、彼女の能力の全貌が見えそうなのだが。
 俺は、吹き抜けの空間をもう一度見上げてから、階段に足をかけた。







ネット小説ランキング>「ジプシーダンス」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう