チャプター・24 ジプシー
激痛の為に片膝をついている俺を見下ろしながら、生徒会長は居丈高に言った。
「今日も朝から騒ぎを起こしてくれたようだな。昼休みに詰問に行けば、貴様は逃げた後だ。さて、俺は生徒会室で仕事をしていた為に、この場に偶然居合わせたのだが。丁度いい。今からたっぷりと事情を聞かせてもらおうか」
……会長のこの様子では、彼女の傀儡術にはかかっていないようだ。まさか自分の意思で高橋麗香に協力している訳でもないだろう。会長がこの場にいるのは本当に偶然か。
俺は痛む横腹を押さえながら、ゆっくり立ち上がった。
高橋麗香に操られている三人は、仲間の二人が倒された事がわかっているのか、俺と会長から距離をとって、様子を見ているようだ。……口は聞けないらしい連中だが、状況判断は出来ているのか?
不意に、俺の耳は遠くの音を捉えた。目の前の会長の表情は変わらないから、彼には聞こえていないようだ。……これは、ガラスの割れる音。状況やタイミングからみて、恐らく割ったのは、ほーりゅうに違いない。あの音の位置は、やはり生徒棟だ。
俺は三人の連中の動きを眼の端で捉えながら、会長に言った。
「足立先輩、話は、とりあえずこの状況から抜けた後で」
そんな俺の言葉には聞く耳を持たない様子で、会長は言った。
「この乱闘も、貴様が原因なんだろう?」
俺をつかもうとする会長の手から、俺は身体を退いて逃れる。
どうやら、逆らったと感じたらしい会長は、本気で一度、俺を叩き伏せる気になったのが、その表情から読み取れた。
まずい。
高橋麗香に操られた三人とは別口で、空手の実力がある会長も相手か。
今、手加減をすれば、俺がやられる。
上段中段と正拳での連続攻撃を、さすがに体捌きだけではかわし切れずに上受下受と払いつつ、俺は後ろにさがって防御間合いを取る。その間合いを予想していたらしい会長の右の廻蹴が飛んできた所を、あえて俺もタイミングを合わせ、更に左足を退きつつ右の廻蹴の前足底で、会長の蹴りを真っ向からはじき返した。狙った俺の方の力が強かったらしく、不意を突かれた会長の軸足がよろめく。
すかさず俺は攻撃間合いまで踏み込んで、体重を乗せた左の外腕刀で会長の胸を狙い、壁際まで押し飛ばした。背を壁にぶつけた会長へ更に踏み込み、反撃を許さぬ一瞬の間で、はじき飛ばした会長の喉仏を壁に向かって動かぬ様に外腕刀で押し付ける。
そして俺は、右手の人差し指と中指の二本を立て、会長の両眼に突き立てようとして。
あと五センチの所で、止めた。
その体勢のまま、俺は容赦ない眼光で会長の顔を凝視しつつ言った。
「先輩。話は、後にしてもらえますか? 出来る説明はしますから」
眼を見開いたまま、驚愕の表情で俺を見る。俺の本気が伝わったか。
だが、会長からの返事を聞く前に、俺は気配を感じて、会長の身体を横に突き飛ばし、俺自身も身を沈めた。
俺の頭のあった空間に、うなりを上げるような勢いで蹴りが宙を舞う。
高橋麗香の操っている、空手部の一人の裏蹴りだった。
息をつきながら喉もとを押さえ、ようやく会長は、俺以外の三人に眼を向けた。そして、初めて気がついた様に言った。
「……一年の岩崎? それと平野か! 貴様ら、今日の練習に出て来ないで、何をやっている!」
「先輩、今の連中は、何を言っても聞こえませんよ」
俺は、対峙している空手部の主将と後輩達に向かって、声をかけた。
ようやく会長も、この異常な事態が飲み込めてきたようだ。
邪魔者は排除という術をかけられているのか、空手部後輩二人が、勝てるはずもない主将である会長に向かって構えようとした。
その途端、情け容赦のない会長の蹴りが飛んだ。しかも、野球部の一人も巻き添えて、三人共に。
瞬く間に三人が床に倒れ、俺は呆気にとられた。瞬殺。想像以上の速さと力だ。
先程の俺が優勢だった闘いは、もしかしたら偶然なのかとも思わせる位に、鮮やかな足技だった。しかし、この手加減なしの攻撃、三人共、大丈夫なのだろうか。
……ああ、なるほど。今回、俺に負けたと思った会長が、憂さ晴らしか八つ当たりで、この三人に当たったと言う可能性もあるか。この会長なら、やりかねない。
そう考えつつ傍観していたら、会長が俺の方を振り向いて言った。
「やはり、貴様が揉め事の原因か!」
……いや、だから会長、人の話を聞けって。
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