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ジプシーダンス
作:国沢裕



チャプター・23 ジプシー


 いない。
 ほーりゅうと夢乃の二人がいるのは校舎のこちらではなく、京一郎の向かった生徒棟の方か。

 俺は、電気の消えた職員室棟のそれぞれの階の廊下を確認しながら、一気に階段を四階まで駆け上がる。そして、四階から各教室の中を窓からチェックしつつ廊下を突っ切り、三階、二階と降りてきた。
 一階の職員室前では、さすがに走るのをやめ、静かに廊下側の窓から様子を伺う。
 うちの高校は、結構下校時間などにはうるさい。なので下校時間をとっくに過ぎた今、職員室の中にも教師の姿はない。
 となると、この時間で学校内にいるのは、夜間の見回りの為に別の部屋で待機しているであろう用務員か警備員位か。
 俺は、生徒棟に移動する事にして、一階の渡り廊下の方へ向かう。
 そして、渡り廊下を通ろうとして、音に気がついた。

 これは、……ピアノだ。
 聴いた事がない。知らない曲。

 音楽室は、生徒棟の四階の一番端で、ここからは最も遠い場所だ。俺は渡り廊下の手すりに手を掛け、身体を乗り出して音楽室を仰ぎ見た。
 暗い夜空を背景に、白い校舎の角に位置する音楽室が浮かび上がり、その窓が黒く開いているのが見えた。それでピアノの音が外に、もれ聴こえているのか。
 この時間にピアノ練習とは、普通にありえない。今回の呼び出しに無関係ではないだろう。
 俺は音楽室に行く気で、生徒棟への入り口の方向に顔を向けた。
 そして、前方に複数の影を見つける。

 空手部の一年が二人。二人とも隣のクラスの男で顔は知っているが、俺はどちらとも話をした事は一度もない。そして別の一人は、サッカー部のキーパーをしている二年。こちらも顔を知っているだけだが、資料上では彼は確か、類を見ない程の部活熱心な男のはず。そして、野球部の一年が二人。こちら二人は別々の違うクラスのはずだ。まだ野球部内でも補欠で、全くやる気の見られない連中だったはず。こちらの二人とも俺は話をした事がない。
 そんな五人が渡り廊下の、生徒棟の入り口に背を向け、ふさぐ様に立っていた。

 まず、気配がなかった。
 俺とした事が、すぐに気がつかなかったとは迂闊だったが、連中の様子が尋常ではない為か。この存在感のない連中の様子からみて、彼女・高橋麗香の仕業、傀儡術とみて間違いないだろう。この複数を同時に操るとなると……今聴こえてくるピアノ音が術を発動しているって事か。
 現状の問題は、操られているこいつらを、果たして叩きのめして良いのだろうか。俺が、同じ学校内で顔を知っている連中なだけに、そう躊躇する事を見越してこの連中を使ったとしたら、あの女、結構いい性格をしていやがる。
 俺は、出来るだけ怪我を負わさず、戦闘不能にさせる程度にとどめるつもりで構えた。
 
 親しい間柄でもないだろうに、連中は申し合わせたように、無言でタイミングよく殴りかかってきた。空手部の二人の構えと攻撃は確かに隙がない。主将をしている生徒会長の教えが良いのだろう。その二人の動きをメインに、俺はとりあえず全ての攻撃を避けながら、様子を伺う。そして、野球部の一人の大きな隙をかいくぐって、そいつの鳩尾に手加減しつつ足刀蹴を蹴り込んだ。廊下を軽く吹っ飛んだ後、起き上がる気配がない。……操られているって事は、そのうち、ゾンビのように起き上がってくるかもしれないな。油断は出来ないって事だが。

 まず、一人。

 その時、目の前に残り四人がいるはずなのに、背に殺気を感じた。
 頭で判断する前に、反応した身体がとっさに前受身をし、俺の立ち位置を変える。
 そして相対した先で、どう見ても怒り心頭の生徒会長が、空振りで蹴り終わった片足を宙に浮かせたまま、俺を睨みつけていた。

「……江沼、また貴様か!」
「な……足立先輩! 何故ここに」
 そう言った途端、一瞬の隙が出来た俺は、四人の中のサッカー部の二年に右手首をつかまれていた。つかまれたと同時に俺は、反射的に身体が動き、つかんでいた彼の右上膊の裏の急所を蹴り上げていた。
 しまった! 折れていなけりゃいいが。
 それでも、手を放したが痛さを感じてはいないような表情の顎に、俺は左の拳を手加減して叩き込んだ。頼むから、これで脳震盪でも起こして意識を失ってくれ。
 その直後、俺は左の横三枚に激痛を感じた。
 思わず脇腹を押さえて片膝が床についた俺を、会長が拳を引きながら構えなおし、冷ややかに見下ろしていた。 







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