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ジプシーダンス
作:国沢裕



チャプター・22 ほーりゅう


 明かりのない静寂の中、遠くで一際響くピアノの音を聴きながら、私は学校の廊下を走る。
 助けを呼ばなきゃ! 
 この場合、職員室へ行けばいいんだろうか? それとも学校を出て外へ?
 とりあえず、一階まで降りちゃおう。
 夢乃が他の男達を引き付けてくれている間に、早く助けを呼ばなくちゃ!

 私は四階の廊下の端まで走って来た後、三階へ向かう階段を駆け下りた。
 その途中の踊り場で、追いついてきた一人の男に、後ろから二の腕をつかまれる。
「やぁだ! 放して!」
 私は思い切り腕を振って、逃れようとした。
 他に助けてくれる人のいない、一人きりで味わう恐怖。
 そう思った途端に私は、自分の周りの空気が変わるのを感じた。
 ……! 
 やばい。
 これは私の、制御できない超能力発動の前に起こる感覚だ。

 先ほど夢乃に言われた言葉で、前の文化祭の一件を思い出す。
 ここは学校内の、三階と四階の間の狭い踊り場だ。だだっ広い外ではなく、さらに地上一階じゃない。この男を、今ここで私の超能力で吹っ飛ばしたら、下手をすれば大怪我させてしまうかも。それじゃあ、前の文化祭の時の二の舞だ。
 文化祭の時には、暴走した私の力を、偶然にも居合わせたらしい我龍が惨事にならないように助けてくれた。今、こんな時間にこんな所で、助けてくれる人がいる訳がない。我龍もジプシーもいない。ここでは私一人だけ。
 どの位の規模でどう発動するかわからない超能力を、今ここで出す訳にはいかない。
 そう言えばジプシーが文化祭の舞台の後で言っていた。私に向けられる攻撃や殺気が大きくなると、比例して私の力も大きくなる可能性があるみたいな事。だから、私は一生懸命、能力発動の原因にもなる恐怖心をなくそうとした。
 能力が出ても、出来るだけ被害を少なくしないと!

 そして私は、めちゃくちゃに腕を振って、つかんだ男の手を振り切ろうと暴れる。
 だが、男の力は強く、逆に私は踊り場の床に引きずり倒された。
 このまま押さえ込まれたら、多分無事じゃすまない。
 まだ自由だった足で、必死に男を蹴り上げた。何度か蹴った足が、男の向こうずねにでも当たったらしい。男の手の力が緩んだ瞬間に、私は這い出し、立ち上がって下り階段に向かい、駆け下りようとした。
 その時、後ろから足首をつかまれ、再び私は両手を床について倒れた。

 限界だ。
 首から下げているロザリオの中の石が、きっと光を放っているに違いない。制服の上から握り締めた感覚が、いつもより熱を持っているのを感じた。
 ここまできたら、自分ではもう止められない。
 私の周りの空気が一変、不穏な風を巻き起こし出し、内側から一気に噴き出す感覚を覚えた。

 私をつかんでいた男の身体が宙に浮き、目の前で階段下の三階へ吹き飛ばされる。同時に起こった周囲の空気が渦を巻き、踊り場の窓を全て内側から割っていった。
 吹き飛ばした男へ、怪我をさせたくないと反射的に手を伸ばした私は、だが手が届くどころか自分がバランスを崩し、階段上から転がり落ちてしまった。
 高い所から落ちるのではなく、もともと倒れた状態から階段を転がったので、比較的ぶつける事もなく、ごろごろと三階まで横に転がり落ちる。 
 それでも、最後の最後で、床に頭を打ったらしい。
 これが、星が飛ぶって言う状態なんだぁ。
 私は、三階の暗闇の中へのびる廊下に倒れている男と、目の奥にチカチカとする明るい点滅を見ながら、意識が暗闇に落ちていった。







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