チャプター・21 夢乃
……あの電話、偽の呼び出しだったんだ!
私は、その事に気が付くのが、遅かった。
最近のジプシーの様子が今までと違っていたから、何となく電話に疑いを持たなかった。普通に考えたら、あんな電話をかけてくる人じゃない。
唖然としているほーりゅう。まだ何が起こったのか理解出来ていないかもしれない彼女と私は、顔の識別がはっきりしない位の暗闇の中、学校の廊下で五人の男子生徒に囲まれていた。
それでも、窓から入る街のわずかな明かりで、私は五人の顔をチェックする。確か全員、ウチの高校の運動部所属の一、二年。なんとなく見覚えがある。所属の部はばらばらだ。部活が終わった後に下校せず残ったのか、それとも部活をせずに残ったのか、全員ユニホームではなく制服を着ている。だが、その中の一人は剣道の竹刀を持っていた。
まずい。
「ほーりゅう、逃げて」
私は彼女を背にかばって言った。
「え? 何で?」
ほーりゅうは聞き返す。……ここで、ほーりゅうに天然ボケを発揮されても困るので、簡潔にはっきり言う。
「ここに、この学校に今、ジプシーはいないわ。偽の呼び出しだったのよ。そして私達二人共そろって捕まる訳にはいかない。私が彼らの注意を引き付けている間に、用務員でも警備員でも外の人間でも誰でもいいから、助けを呼んで。早く!」
「あ……私も戦う! だって私には」
私は連中の動きに注意を払いながら、ほーりゅうの肩を押して言った。
「行きなさい! ここで貴女の力が暴走したら、多分私には止められない。文化祭の時のような偶然は起こらないんだから! 出来る限り相手にも怪我をさせたくないでしょう?」
ほーりゅうはあの時の出来事を思い出したらしい。ゆっくりと後ずさりする。
「夢乃、ごめん! 頑張って助けを呼んでくる!」
そう言ってダッシュしたほーりゅうの後を、三人が追いかけようする。
その足元へすばやく身を落として、円を描くように私は足払いをかけた。二人はひっかかってくれたが、僅かに遠くの一人には届かない。しまった!
ほーりゅうは、音楽室とは逆の正門の方向へ廊下を走って行き壁に突き当ると、曲がって三階へ降りる階段へと姿を消した。追って行った男も一人、同じように消えていく。
ほーりゅうと男が消えた方向を背に、倒れた二人がゆっくり起き上がり、私の方に向いた。
私は、昼休みの時に聞いた、ジプシーの言葉を思い出す。
この連中の、次の行動を起こす時の緩慢な動きは、裏で操り人形のように術者が動かすという傀儡術の為に違いない。ならば、おそらく彼女・高橋麗香の仕業。
いつもジプシーの近くにいる私とほーりゅうが、目ざわりって事ね。
追っ手を一人取り逃がしてしまったけれど、無事に、ほーりゅうは逃げ切れるだろうか。
そう考えながら、私は自分の置かれた状況を確認する。もうほーりゅうの事は、ほーりゅう自身に任せるしかない。
四人に囲まれた形で、私は両手の五指を広げ、ゆっくり半身になり基本の構えをとる。
私は自分の合気道の実力を充分に知っている。この四人を倒せるとは思っていない。せいぜい四〜五分の足止めが限度。それでもほーりゅうが逃げ切れる時間稼ぎになれば。
今から、道場での練習じゃない。
私は、ジプシーから教えられた通り実戦向けに、基本の構えからさらに腰を落としつつ、両手の手刀を高めに構えた。
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