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ジプシーダンス
作:国沢裕



チャプター・15 ほーりゅう


「あの女、俺に平手打ちを食らわす前に、信じられないって言っただろ?」
 呆気にとられている私と夢乃に向かって、ジプシーは、彼女の戸籍や家系図などの資料に目を通しながら続けた。
「俺が術にかからなかった事を、あの女は信じられないって言ったんだ」
 術。
 って事は彼女は、裏世界関係の敵じゃなくて、陰陽道関係の敵って事? とっても可愛い女子高生にしか見えないのに。そんな力があるようには見えなかった。
「京一郎が調べてくれた資料を見る限り、彼女の家や血縁は陰陽道とは係わりがない。ただ、陰陽術の中には知識や力のない素人でも使える、蠱毒や犬神のような術も結構あるから、もう少し調べる必要がある」
「ジプシー、あのさ」
 私はどうしても気になったので、話の途中だったけれども聞いてみた。
「彼女、あの一瞬で、どんな術を眼で仕掛けてきたの? それにジプシーが術にかからなかったって事は、ジプシーの方が陰陽師としての力が上だったって事?」
 腕を組みながら、ジプシーは答えた。
「断言できないが、あの状況を考えたら傀儡術か。俺にイエスの返事を出させたかったんだろ。だから彼女の眼を見る前に、俺は自分のかけている眼鏡に防御結界をはった。力や状況判断としては、あの時点では俺の方が上だったな」
「……傀儡術って、何?」
傀儡くぐつ術は、簡単に言えば、相手を操り人形のように術者が動かすことの出来る術だ」
 ……彼女、そんな術を使ってまで、ジプシーと付き合いたかったのかな?
 恋する乙女は手段を選ばないのか。相手が自分の事を思ってもいないのに、付き合うのもどうかと、私は思うんだけれどなぁ。
 
 私がおとなしくなったので、ジプシーが京一郎に視線を移した。
「京一郎は、どう思う?」
 京一郎の考える、今回の彼女の中の不透明な十パーセント。ジプシーと同意見なのかな。
「ジプシー、おまえさぁ」
 いつになく真剣な顔で、京一郎がジプシーを見た。
「今回の彼女は、おまえの性格上、敵としかみなしていねぇだろ」
「? ……何が言いたい」
 珍しく細部において意見の食い違いが出たのか、京一郎とジプシーの視線がぶつかる。
 視線をはずさずに京一郎は言った。
「おまえの中の人間のカテゴリーは、敵か味方か一般人の三つに分かれてんだろ。そりゃま、今回の彼女は敵の部類だろうさ。けれど、俺の考える残りの不透明な十パーセントは、人間としてのカテゴリーとしては、女、だ」
 意味が理解できないという顔をして、ジプシーは京一郎を見る。
「まあ当たってりゃ、俺の言いたいことは追々わかるだろうが、俺の勘が外れてりゃ、やり方はいつもの感じでいい。お前にまかせる」
 しばらく、無言で二人は見つめていたが、ジプシーが視線を逸らせて言った。
「わかった。考慮に入れておこう。京一郎の勘だからな。ただ、……俺にはただ単に、女と言われてもなぁ……」
 なんだ? なんか何故だかジプシー困ってる感じがするぞ。これは面白いかも。
 私も今の意味、わかんないけれどさ。
 
 放課後、私と夢乃は甘味処に行こうと、明子ちゃん達から寄り道を誘われた。
 もしかしたら、朝の出来事に興味津々の明子ちゃん。私達からジプシーの情報や動向を知りたいのかも。
「相手の片鱗が見えた分、結構精神的に落ち着いている。俺についている必要はないから行って来い」
 ジプシーはそう言って、教室で、私と夢乃と別れた。京一郎は、先に教室を出たのか姿が見えない。そう言えば、午前中はバイクで情報集めに走り回ったって言っていたからなぁ。普段は歩きで学校に来ている京一郎も、移動手段の変わる今日は別行動になるって事だな。
 私と夢乃は、今日に限って皆が別行動だという、この事をあまり深く考えていなかった。







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