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ジプシーダンス
作:国沢裕



チャプター・13 ほーりゅう


 はっきり「付き合ってください」と、彼女は言った。
 
 私は、大胆にも他校の教室へ乗り込んできて、ジプシーに告白をした彼女に驚いた。
 確かに文化祭後から最近まで、ジプシーは人気があった。机の中に置かれたり校門で待ち伏せされて渡されたラブレターは、かなりの数になっていたはず。今でも人気があるのだろうけれど、京一郎の一言で、それ以上に近寄り難さが出た為、今では誰も手紙を渡そうなどと考えないが。……そう言えばジプシーって、ラブレターは沢山もらっていても、直接「付き合って欲しい」とは、言われていなかったな。ジプシー、私の知っている限り、初の告白だ。
 私は彼女をじっくり観察した。名前は、高橋麗香と言うのか。先程、窓から覗いて見た印象と変わらない。京一郎の言うロリータファッションの似合いそうな、ゆるいくるくるロングヘアーに覆われた小顔、パッチリとした綺麗な二重と通った鼻筋の下の小さな唇。そして近くで見ても、細身ながら場が華やかになるようなオーラを持っている。かなり、いや、これ以上はそうそうはいないであろう可愛い女の子だ。 
 しかし何で、こんな朝っぱらから他校に来て告白なんだろう? 自分の学校はどうしたんだろうか。
 そうそう、ジプシーが最近気配や視線を感じたりするって言っていたアレ、イメージが違うけれど、この彼女かな? だとしたら、やっぱり私が言っていた一般人のストーカーの線で当たりじゃん!

 彼女は重ねて言った。
「私を彼女にして欲しいんです。お願いします」
「ごめん。今は誰とも付き合う気がない」
 彼女が言い終わるかどうかのタイミングで、彼女から視線を逸らしたジプシーが言った。
 私も、遠巻きで見ていた十数人の生徒も、あまりの断りの速さに呆気にとられた。当の彼女も、あまりの即答に理解が出来なかったらしい。眼を見開いて、困惑の表情で固まっていた。
 ジプシー、断るにしても早すぎるって。それに、もう少しやんわりとした言葉を選んだ方がいいのでは。
 さすがに私は思った。これじゃあ、勇気を出してここまで来た彼女が可哀想過ぎる。
「……付き合う気がないって事は、今、彼女はいないって事ですよね」
 ようやくという感じで、彼女が口を開いた。
 ジプシーが視線を移して、一瞬私を見る。……そっか、一昨日の、おとりデートもどき。あれは本当におとりだから、どう考えても彼氏彼女としてのデートじゃないでしょ。ジプシーもそう考えたんだろう。
「いないし、今後もしばらくは、誰とも付き合う気は、ない」
 ジプシー、はっきり言い過ぎ。それでも彼女は食い下がる。そうそう、せっかくここまで来たんだもんね。……って、私は誰の味方なんだか。
「視線を逸らさないで。私の眼を見てもう一度答えてくれますか?」
 教室内の雰囲気を察したのか、廊下にも他クラスの人だかりが出来てきた。何だか騒ぎが大きくなって来たかも。京一郎は、面白がっているような顔でジプシーの後ろで見ている。
 その時、ジプシーは彼女から視線を逸らしたまま、かけている眼鏡の真ん中に左手の中指を添えて何かを言葉にした。あまりにも小さな呟きだったので、彼女にも聞こえなかったらしい。
「何ですか? 私の眼を見て返事をください」
 ジプシーは、ゆっくりと正面から彼女の眼を捉える。そして、一拍おいて、はっきりと言った。
「残念だが、僕は君と付き合う気は全くない。さっさと帰ってくれないかな」
 驚愕の表情をした彼女は、小さくつぶやいた。
「そん、な……信じ……られない……」

 教室に、平手打ちの音が響いた。
 思わず私は、顔を両手で覆ったが、指の間からしっかり見ていた。結構なきつさの彼女の平手打ちは、ジプシーの眼鏡を私の足元まで飛ばした。
 ジプシーはよろめいたが、慌てて後ろにいた京一郎がジプシーの両肩を抱きかかえたので、踏みとどまる。その時、自分を支えた京一郎へ、ジプシーが何かをささやいた。
 そして、教室から走り出て行く彼女を、誰も動けずに無言で見送った。

 教室が一気に騒ぎ始めたのは、彼女の姿が見えなくなってからだった。
 皆、ジプシーに声をかけてくることはないが、それぞれが遠巻きに見ながら憶測で話を始める。普段からあまりクラスメイトとの親交を持たないジプシーだから、まあ、その辺は仕方がない。
 私は、足元に飛んできた眼鏡を拾った。大丈夫、割れていないし歪んでもなさそう。そして、眼鏡を渡そうと、ジプシーに近づいていった。
 平手を食らった頬を押さえ、まだうつむいているジプシーの反対側の空いている手に、眼鏡を押し付ける。
「はい、眼鏡。でもさ、確かに今の断り方、結構きつい言い方かも……」
 私の言葉は、そこで止まる。

 これ以上、嬉しさを抑えれらないという感じの笑みが、ジプシーの口元に浮かんでいた。
 この男、笑ってる!

 何で? 
 訳がわからず、思わず後ずさりした私の眼は、京一郎の姿を探していた。いない。さっきまでジプシーの後ろにいたのに。
 そして、登校してきて次々と教室に入ってくる生徒の向こうで、逆に教室から出て行こうとする京一郎をみつける。
 京一郎は、出口付近にいた夢乃に、すれ違いざま何か囁いてから、教室を飛び出して行った。私は夢乃に走り寄る。
「夢乃! 京一郎は? 何て?」
「今からサボり。またお昼から来るって」
 そして、夢乃はそう言った後、声を潜めて私に言った。
「ジプシーが京一郎に、『敵が動いた』って言ったわよ」







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