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ジプシーダンス
作:国沢裕



チャプター・12 ほーりゅう


 そして月曜日の朝。今日はさすがに学校がある。
 京一郎は二日間徹夜だったそうで、日曜日の夕方に家で寝るって帰ったけれど、私は土曜日からずっと夢乃の家にお泊りした。
 考えたら私、土曜日におとりになったって事は、何か進展があるまで、おとりのままって事じゃないの? ずっと、夢乃やジプシーや京一郎の中の誰かと、行動を共にしていないといけないってことじゃないのかなぁ。
 二人に合わせて一緒に家を出たので、早々に教室に着いてしまった暇な私は、夢乃やジプシーと一緒に窓の外の他の生徒の登校風景を眺めていた。
 朝一番の教室って人は少ないし、晴れた日に窓から入る朝の風も結構さわやかだなぁ。知っている人達が眼下を通るのを、四階からぼんやり眺めているのも楽しいかも。
「お、早いねぇ」
 京一郎も珍しく朝早くから教室に入ってきた。
「いつもはギリギリのイメージがあるほーりゅうも、さすがに夢乃の家から登校となると遅刻になる訳ねぇよな」
「ギリギリのイメージは、京一郎だって一緒でしょ」
「俺はギリギリどころか普段は遅刻だって」
 京一郎は笑いながら言った。

 その時、窓の外で車の音がした。いやに大きく聞こえたので、私は思わず音がした校門の方を見る。
「おっ、あれ、フェラーリじゃねぇ?」
 同じように窓の外を見た京一郎が、目ざとく見つけて声を上げた。
 フェラーリ。車に疎い私でも聞いた事のある車の名前。門の前で、赤いオープンカーが止まった。登校中の学生の間からも歓声が聞こえる。人気がある車なんだぁ。
「あれはF430のスパイダーだな。二千万は下らねぇ」
 へえ! すごい高級車。誰が乗ってきたんだろ。
 同じように窓から覗いていたジプシーが、続けて言った。
「ミッションでV8エンジン。車回りが硬くて小回りがきかないから、乗るのは好みだ」
 ……やっぱり男子は車が好きなのか。どういう事か私には意味がわからないけれど、よく知っているなぁ。
 見ている間に、左ハンドルの運転席から男が降りた。高級車に似合った雰囲気の、あれは大学生なんだろうか。そのまま助手席へ回り、少々気取ってドアを開ける。
 中から現れたのは、セーラー服を着た女の子だった。
 大学生のお兄ちゃんが、高校生の妹を送ってきたような図なんだろうか。でも、あの制服、ウチの生徒じゃない。
「あれ? でも何処かで見たような制服に見えるけれど、何処で見たんだろ?」
 私は腕を組んで考える。すると、そばでジプシーが小さい声で言った。
「見覚えがあるのは、お前が生徒会長の妹に会った事があるからだろ。会長の妹が通っている私立中学の、あれは高等部の方の制服だ。デザイナーが同じだからデザインが似ているんだろ」
 なるほど。
 改めて、眼下の女の子を眺める。
 
 細身で華奢な感じの、とても可愛らしい子だ。遠目でも良く分かる、小顔でパッチリとした二重。鼻筋も通り小さな唇。毛先を軽くふわふわ縦ロールに巻いたようなロングヘアー。そして、意識して動く動作も、場が華やかになるような芸能人的なオーラをまとっている感じがする。
「なんか、可愛いらしいんだけれどねぇ」
 ずっと眺めていた京一郎が言う。
「へぇ〜。京一郎って、ああいう子が好みなんだ」
 私は言った。暴走族に入っている京一郎は、もっと何て言うか、そっち系が好みかと思っていた。それが先入観ってものか。
「いや、ロリータファッションの似合いそうな女に、特別興味はねぇよ。俺はどちらかと言うと、顔が問題じゃなくて、こう、ボン・キュッ・ボンな身体の方が」
 目の前の空間に手の動作で形を作り、ジェスチャー付で私に説明する京一郎の頭を、夢乃は「嫌な人!」っと言いながら後ろから叩いた。
 ジプシーは、車から降りた彼女を無言で一瞥しただけで、車以上の興味はなさそうだ。
 そんな私達がいる校舎の上方を、車から降りて門を通って来た彼女は見上げたらしい。
 偶然、窓の外を見下ろした私と目が合った。
 彼女は私を見て、にっこりと微笑む。
 そしてそのまま、近くの入り口から校舎に一人で入って行った。でも。
「あれ? ウチの学校に入ったけれど、いいのかな? 今日は通常授業で何のイベントもないし、他校生って入っていいものなの?」
「他校生でも職員室とか、まあ用事で来る場合があるだろうしな」
 京一郎はそう言ったが、しばらくすると、廊下からざわめきが聞こえ、先程の彼女がこの教室の入り口に姿を現した。

 彼女は、まだ十数人の生徒しか来ていない教室内をゆっくりと見渡し、一瞬私の上で視線をとめる。しかし、すぐにそのまま視線を逸らし、今度は窓際にいるジプシーに眼をとめた。
 嬉しそうな顔で教室の中を進み、自分に近づいてくる彼女に気がついたジプシーは、窓の外の風景を見ていた視線を無表情のまま彼女に移す。
 ジプシーの正面に立った彼女は、これでもかと思う位の満面の笑顔で言った。
「はじめまして、高橋麗香たかはしれいかと言います。江沼聡君、私と付き合ってくださいませんか」







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