チャプター・11 ほーりゅう
私は夢乃の家で、京一郎と一緒に夕食をご馳走になり、そのまま泊まる事にした。明日は日曜日だし、問題はないよね。
夢乃のお母さんが、私の叔母に連絡を入れてくれる。前に泊まりで試験勉強をした時、お泊りセットとしてパジャマを置かせてもらっていたので、急でも大丈夫だったし。
夜更かしは美容の敵だもんね。私と夢乃はさっさと寝る事にしたので、夢乃の部屋のベッドの隣に、一組布団をもらって来た。
早い時間から電気を消す。暗い中で、私は唐突かもしれないけれど夢乃に言った。
「今日の事、シチュエーションのせいだと思うんだぁ」
「……何が、どういう事?」
夢乃が聞いてきた。話題を持ち出すこと自体照れるけれど、暗闇だから、恥ずかしくなく言えるよね。私は仰向けに寝転がったまま続ける。
「確かに喫茶店や公園でドキドキしたけれどさ、あれはジプシーが相手だからじゃなくて、同じ事を京一郎がしたとしても、多分同じようにドキドキしたと思う。だから、その状況だけのせいだと思うんだぁ」
「……うん、私もそう思う。ジプシーって何となく、ほーりゅうの好みじゃないって気がするし」
「でしょ。夢乃はそんな状況になった事、ないの? ジプシーと同じ家に住んでいてさ」
「私は。ジプシーは多分家では、誤解が起きないように必要以上に気を使っているよ。私自身ももう、家族同然に思っているし。……それに、なんて言うか、私もジプシーは恋愛対象から外れるんだよなぁ。好みの関係かな。私の好みは……そうね、知的で大人っぽい人」
「それはわかる! 夢乃、英語の熊谷先生を見る時の眼が違うもん」
「やだなぁ! そんな所だけ何見てるのよ! ほーりゅうは」
見えないけれども赤くなっているだろう夢乃。そばで並んで座っていたら、きっと背中を照れ隠しにバシバシ叩かれているかも。……そうか、熊谷先生って事は、夢乃って、知的で大人っぽくて優しいタイプが好みなんだなぁ。
「大人っぽいと言えば。……私が転校してくる前にいた高校の生徒会長、三年生だったけれど、多分夢乃の好みだったと思うなぁ。何か、こっちの生徒会長と違って、すごく落ち着いていたし、頭も良くて大人って感じだったなぁ」
「それ、こっちの会長に失礼よ。それに足立会長は二年生だし。一年後にはもっと落ち着いて貫禄が出るかもよ。……ほーりゅう、そういうあなたはどんな人がいいの?」
「私かぁ……」
う〜ん。特にコレって言うこだわりはないんだけれど。
「そうだなぁ。私は、気持ち的には別れても、すぐまた会いたいって思える相手かなぁ。あと、恋愛なんだから、一緒にいるだけでドキドキしたり嬉しくなるような。……顔はそりゃ良いに越した事はないだろうけれどさ」
「ウチの男共、見目は良いんだけれど、何故か私たちの恋愛対象から外れるよね。……そばにいる距離が近すぎるのかしら」
「……くそっ! どうしてもゲートが開かねぇ!」
京一郎がパソコンの画面の前で独り言ちた。
それまでは予備のパソコンも引っ張り出し、ジプシーと京一郎の二人で長い間黙々と作業をしていが。
「大した組織でもないのに、パスワードが三重もかかっていやがる」
「それでも組織の中のスナイパーリストだ。まあ、位置的には裏帳簿と同等位の最重要機密にはなるだろうからさ」
手を止めずに画面を見ながらジプシーは言う。
「俺、考えたら昨日も徹夜じゃねぇか。機械使ってもパスワード解除に全然頭回んねぇ。……下で珈琲入れてこようかな。お前も飲むだろ?」
両手をあげて背伸びをしながら、京一郎は言った。
「ところでさ、ほーりゅうと夢乃のヤツ、気がついているのかな」
ちょっと声を落として、京一郎が言った。
「何を?」
声をさらに落としながら、笑いを含んだように京一郎は言った。
「特に、ほーりゅうの声。でかくて内容が隣の部屋まで筒抜けだって。全く好き勝手言いたい事を言っていやがる。俺ら対象外だってさ」
「さっきまでこっちの部屋が、それだけ静かだったって事だろ。それに、ほーりゅうの声が大きいから夢乃もつられているんだろう。普段は、夢乃の声は聞こえない。……まあ内容はともかく、女共は平和だって証拠だ」
京一郎は席を立ち、静かに扉をすり抜けて部屋を出て行く。
ジプシーも一旦手を止め、伸びをしながら眼を瞑った。
そして今日の喫茶店での会話を思い出す。彼女の質問。あの時は、俺は演技じゃなかった。
以前ほーりゅうに、我龍との関係を直接聞かれた時は、かなり精神的に動揺した。今回は聞かれ方が違ったせいか、俺が自ら話す気になったせいか、比較的精神を安定させたままで奴の話が出来た。……こうやって少しずつ、俺は奴の事も考えていけるようになるのかな。
あと、ほーりゅう。
あの様子では、彼女も能天気なりに自分の能力の事をかなり気にはしている。本当に感情がすぐ顔に出る女。よく今まで事件に巻き込まれずにいられたものだ。
能力に関して全く無知で未開発なのは、今まで相談する相手もいなかった為だろう。
俺自身がこんな時だが、ほーりゅうの件も乗りかかった船だ。いつまでも先延ばしする訳にもいかない。何か対策を考えていかないと。 |