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ジプシーダンス
作:国沢裕



チャプター・10 ほーりゅう


 寒い季節になると、日が落ちるのが早い。薄暗くなってきた道を歩く。
 結局、あの大きな公園から出た後、私とジプシーとの間に特に会話がない。向こうはどう思っているのかわからないけれど、私は気まずいまま、ゆっくりとした歩調のジプシーの後について歩いていた。
 ……どういう事か、問い詰めるべきなんだろうか? こういう事は、問い詰めていいものなのか? でも、なんて切り出せば良いのかがわからない。
 迷っている間に、ジプシーの家に着いてしまった。

 ジプシーが家の門を開け、私も一緒に玄関をくぐる。
「お邪魔しまぁす」 
 靴を脱ぎながら、私は家の中に声をかけた。私の声が聞こえたようで、キッチンから夢乃のお母さんが出てくる。
「お帰り、聡。ほーりゅうちゃんもいらっしゃい。夢乃と京ちゃんも、もう二階に戻ってきているわよ」
 そうだ、夢乃! ……こういう事は、夢乃に相談したらいいのかも!
「お先に失礼しまぁす!」
 私はそう言って、ジプシーを玄関に置いたまま、二階への階段を駆け上がる。
 
 私は夢乃の部屋の扉を勢いよく開いたが。あれ、いないや。ジプシーの部屋なの?
 今度は恐る恐る、ジプシーの部屋の扉をあける。
「お、ほーりゅう、お帰り」
 夢乃もいたが、先に京一郎が声をかけてきた。そして、二人はジプシーのパソコンで画面を見ながら、写真の印刷を沢山していた。
 何しているんだろ。写真の一枚を手にとって眺める。……ただの街の風景。街並みや人が行き来する通りばかりを写している写真。なんだこれ? でもどこかで見た事があるような景色。
「ほーりゅう、ごめんなさい!」
 いきなり夢乃が、私に向かって手を合わせて謝ってきた。
「止めようと思ったけれど、押し切られちゃったの」
 一体何の事? 私は状況がわかっていない。写真と夢乃を見比べる。
「先に言っておくが、発案者は奴だからな。俺じゃねぇよ」
 京一郎もパソコンの画面を見つめまがら言う。……何だか嫌な予感。
「OK! 大体印刷出来た。後は写真チェックだな」
 京一郎はそう言ってパソコン前の椅子から立ち上がると、私の方へ歩いてきた。
「怒るなよ。説明するから」
「説明によっては怒る!」
「まあまあ、落ち着けって。一応お前の意見を取り入れた形には、なってんだから」
 ?
「このままの状況がいつまでも続いていたら、こちらからは動きようがねぇだろ? だから、おとりとしてだな、お前と奴でデートコースを回ってもらった」
 ……はあ?
「デートという気の緩みそうな隙を作って、もし裏の世界の連中が動くようなら、それでよし。お前が主張していた奴への一般人のストーカーなら、デートという状況があれば必ず動くだろうから、それでもよし。結果としては誰もその場では仕掛けてこなかったが、今回も、その誰かの視線と気配をジプシーは感じたそうだ。連絡をもらった俺と夢乃で、お前らの周辺の通行人などの写真を撮りまくってきた。この中に怪しい人物が写っていたら簡単なんだがなぁ」
 ……なにぃ?
 慌てて写真を見直す。そうか、見覚えがあるようなこれって、喫茶店の中から見えた外の風景!
「連絡って? そんなの、何か合図したっけ?」
「ジプシーの携帯から俺の携帯へ。今、気配を感じたってメール」
 あ。あの、一瞬ジプシー自身の殺気を感じた時! 確かにあの時、ジプシーは携帯を触ってた!
「一応喫茶店を出た後の公園までつけて行ったけれど」
 ……公園! って事は。
「お前らの、いかにもラブシーンまで見たが、向こうも隠れていたのかなあ。周囲に写真に撮るような人の気配がないから、その時点で俺と夢乃はこっちに戻ってきて、プリントアウトしていた」
 見たんだ。アレ、夢乃も京一郎も、見ていたんだぁ!!

「ぎりぎり触れない距離をとった。問題ないだろ」
 後ろで、いつのまにか部屋に入って来ていたジプシーが言った。私が振り返ると、無表情で机の上に鞄を置き、制服の上着を脱ぎながら京一郎の方へ歩いていく。
 この男! こいつの演技にだまされた。先ほどまでの笑顔で穏やかな方がフェイクか! もういつもの無表情に戻っているし。それに、触れた触れないの問題じゃない。よくも乙女の気持ちを! 
 後ろから殴ってやろうかと、ジプシーの背後で私はコブシを振り上げる。
「あれ? お前にしちゃ珍しい。制服なのに、下に拳銃吊っていたとは」
 その時、不思議そうに聞いた京一郎に、ジプシーが写真を見ながら答えた。
「ああ。今日は特別。俺一人なら素手でもどうとでも切り抜けるが、さすがに今回は俺の事情でほーりゅうを巻き込んだから。街中でも状況に応じてすぐに臨戦態勢に入れるようにはしていた」
 私はジプシーの言葉で、ふと気がついた。確かに今回は、おとりだったかもしれないけれど。携帯で京一郎に連絡する直前までは、喫茶店で話をした内容や私が訊ねた事は、おとりとは関係ない内容だったし。
 あの時の話は、本当のジプシーの気持ちだったんじゃないかな。
 ……それに、やり方は荒っぽかったとしても、あの場で何かあったら、きっと本当に私を護ってくれる気だったんだ。やっぱりジプシーは、そんなに悪い奴ではないのかも……。
 私は、振り上げた手をどこに下ろそうか迷った。
 そんな私の様子に気がついたのか、冷ややかな眼つきで私を一瞥して、ジプシーは言った。
「いろいろと未経験だったようだが、ちょうど良かっただろ。練習が出来て」

 この、男!
 私は後ろから殴った上に、首まで絞めてやったわ! きゅう〜っと!







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