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守護山娘シリーズ 作者:白上 しろ
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金剛は駆ける⑦

 行き先が逆であった姫乃は先輩と別れ、金剛と共に大阪方面を一望出来る広場にいました。疲れもどこに行ったのか、姫乃は惚気るように言いました。
「はぁ、『次は一緒に登らないか』って誘われちゃったぁ~、どうしよう~」
「良かったですね、姫乃様」
「うん! ホント! あなたのおかげよ!」
金剛も少し困ったように言いました。
「これは偶然です」
「金剛はいないの?」
「え?」
「その、なんて言うか、気になる人っていうか……」
「好きな人ですか?」
金剛にストレートに言われ、姫乃はまた赤くなりました。
「まぁ、そう・・・・・・」
「私は人間様が大好きです!」
元気よく答える金剛に、姫乃はうな垂れました。
「いや、そうじゃなくて。『人間様』も好きなのだろうけど。何て言うのかな、忘れられない人?」
「忘れられない?」
「うん。ずっと心から離れない人」
「あっ、はい。います! 私にもいます!」
「そうなの? 誰?」
「正茂様です!」
「正茂様? 正成ってまた古風な名前…… あれ? もしかして楠木正成のこと?」
「はい! よくご存じで!」
二人に一陣の風が吹き付けました。

 竜泉寺。
観音は言いました。
「南北朝時代の楠木正成様の事ですか?」
子角仙人は頷きました。
「おそらくそうじゃ」
「楠木正成様なら私もよく知っています。あの時は私もたくさんの武将の人間様とお会いしました。懐かしいです」
稲村が言いました。
「もう随分と昔の事だな。その正成様を金剛は今も忘れられないと?」
子角仙人は真剣に言いました。
「金剛は正茂殿が今もどこかで生きていると思っておる」
観音と稲村は驚きました。

 金剛と正茂が出会ったのは南北朝の時代、今から六、七百年ほど前の事です。金剛山山頂付近を走っていた青年の正茂。杉の上にいた金剛は人間様を見つけたと喜んで、その後を着いて行こうとしました。足の速い金剛です。追いつく事など簡単に出来ると思っていたのですが、正茂の足はそれ以上に早く金剛は追い着くことが出来ませんでした。ついに金剛は正茂を見失ってしまいます。
「あれ? いない」
「お主は何者だ?」
声が聞こえた後ろを振り返ると、正茂の姿がありました。木に隠れていたのです。追いつかなかったばかりか後ろも取られた金剛は再び驚き、そして感心しました。一方の正茂も驚いていました。
「お主、女ではないか。しかもまだ幼い」
正茂は大いに笑いました。
「何者が後ろを付けてきたのかと思ったが、まさかお主のような女子おなごとは。いやいや、見かけで判断してはならんな。これだけの脚力の持ち主。よほど腕利きの忍者であろう?」
「あの、私……」
金剛は自分の事を説明しました。正茂は理解してくれたかどうかは定かではありませんが、命を狙う者ではないと分かると、その能力を見込んで一緒に修行することになりました。
 雨の日も、風の日も、雪の日も。毎日金剛山で二人は修行をしました。厳しい修行ではありましたが、修行ばかりではなく、正茂は村の人々と一緒に田畑も耕していました。金剛も一緒に混じって手伝うのが、何よりの楽しみでした。
稲の実る田んぼを見て正茂は言いました。
「わしらだけではなく、稲にとっても災害は天敵じゃ。特に強風が吹けば、簡単に倒れてしまう。そうなれば米は台無しじゃ。じゃが、金剛山が守ってくれておる。強い風を防いでくれておる。じゃから、今年もたくさん米が実るのじゃ」
正茂の言葉に金剛はとても嬉しそうでした。

数年が経ったある日。正茂はもう立派な武将でした。葛城神社にて、金剛に戦に出る事を伝えました。
「今度また戦に出る事になった」
「そうですか。でも心配はしていません」
正茂はニコリと笑いました。
「そなたとは随分修行したものだ。ワシは年をとったが、そなたはまるで変わらぬのう。この山はワシの思い出の場所じゃ。時代は変わっても、ここは何も変わらぬ」
正茂は懐かしそうに金剛山の周囲を見渡しました。
「これからも頼むぞ、金剛。人の時代がどう移り変わろうとも、ワシら人間を見守っていてくれ」
正茂の様子が、金剛にはいつもと違うように思いました。河内の方に戻ろうとする正茂を金剛は思わず呼び止めてしまいました。
「あの、正茂様!」
正成は振り返ります。
「何じゃ?」
ですが今、何と言えばいいのか分かりません。
「あの、えっと・・・・・・ また、たくさんお米を作りましょう!」
「ああ」
「私、待っています」
正茂は笑顔で頷き、そのまま去っていきました。金剛は理由も分からず、心が高鳴っているのを感じていました。

後日、金剛山に訪れた子角仙人に金剛は正茂の事を話しました。
「正茂様はとてもお強い人間様です。きっとたくさんのヤッカイを倒して戻って来られます」
子角仙人は金剛をじっと見つめました。
「どうかされましたか?」
「正茂殿はヤッカイと戦っているのではない」
「え?」
「戦っておる相手は、正成殿と同じ人間様じゃ」
金剛は驚きました。
「ど、どういう事ですか! 人間様と人間様が戦っているという事ですか!?」
「そうじゃ」
「どうして!?」
「人間様には人間様の事情というものがある。わしらが口出しするものではない」
「そんな……」
金剛は大変、落ち込みました。落ち込みながらも正茂を待ち続けました。山頂のまだ今よりずっと小さい杉の木の上で周囲を見守りながら、正成を待ちました。しかし、どれだけ時間が経っても、正茂は戻って来ませんでした。

金剛は姫乃に正茂への思いを伝えました。
「正茂様はとても足の早い人間様です。早すぎて見えません。まるで風のようです。いいえ、正茂様は本物の風なのです。ある時、私は正茂様の気配を感じました。だから分かったのです。正成様の正体は風なのだと。私には風に近づく力があります。正茂様に追いつけなくても、限りなく近づく事が出来ます。もっと速くなれば、いつか正茂様に追いつけるかも知れません!」
姫乃は金剛の言っている事が例え半ば冗談だったとして、妙に胸が切なくなりました。
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