自業自得
黒羽快斗は浮かれていた。それはなぜか。答えは簡単。今日が快斗の誕生日だからである。
お祭やイベント大好き人間であることを自他共に認める快斗は、気づいていた。
「嬉しいな〜♪ オレのパーティーしてくれるなんてさ! お礼のマジックはいつも以上に気合い入るね」
付け加えておくが、呼び出したのは新一である。
滅多に鳴ることのない新一専用の着メロが鳴った時、快斗は驚いた。
「あ、あの新一から電話!?」
普段、自分から連絡を取ることはなく、取ったとしても素っ気無いメールで済ませてしまう新一からの着信なのだ。天変地異の前触れか。それとも、明日は季節はずれの雪でも降るのか。
数秒ほどフリーズして、我に返って焦って電話に出ると、
「……遅ぇ」
開口一番怒鳴られてしまった。
「ゴメンゴメン。あまりに珍しいからさ。どうしたのさ? 電話なんて」
「悪かったな、いつもメールで済ませるヤツで」
「いや、だからゴメンってば。用件をお先に……」
「あ、そうだった。今度の土曜日3時、オレん家来い。いいな?」
「……ち、ちなみに拒否権とか選択権とかは……」
「ねぇに決まってんだろ?」
「やっぱり。――なんかあんの?」
「来れば分かる。じゃぁ土曜日3時にオレん家だぞ」
ブチッ。ツーツーツー。
とまぁ、いかにも怪しく、そして堂々とオレ様っぷりを披露してくれた新一からのお呼び出しというこれまた怪しいお誘いに、快斗は乗ったのである。
別に新一ほどの推理力など無くても、パーティーをやってくれるであろうということは、すぐに分かった。
そして、現在の時刻は午後2時58分。
「時間には正確に、ってね」
視線の先に工藤邸が見えてきた。
そして、3時ジャスト。
ピーンポーン。工藤邸に来客を告げるベルが響いた。――それは、これから始まる悪夢のホイッスルでもあることを、快斗だけが知らない。
ガチャとドアが開き、新一が出てきた。
「時間ピッタリだな、元怪盗」
「もちろんですよ、名探偵」
「ま、とりあえずあがれよ」
中に入り、快斗は分からないフリをして、新一に尋ねた。
「なぁ、何の用だよ?」
「リビング」
「は?」
質問の答えになっていない。
「用件はリビングで。ほら、早く行け」
「新一サン……。客を先に上がらせるって……」
そう言って快斗は呆れるが、新一はお構いなし。
「勝手知ったる何とやら、だろ?」
リビングのドアは閉まっていた。
「……」
「……んだよ。早く開けろ」
「何企んでるの?」
「別に何も?」
「…………」
「…………」
双方、睨み合いが続く。
「……分かった。じゃぁ、開けるよ?」
「早くしろ」
ガチャ。パンパンパン!!
「ぅおわっ!」
「「「「ハッピーバースデー!!」」」」
「いやぁ、ありが……と!?」
ドタッ。
お礼を言い切らない内に気絶して倒れてしまった。
「あーぁ。こりゃ予想以上だな」
「ね、ねぇ新一。いくら何でもやりすぎじゃ……」
「そうやで工藤くん」
「オレにあんなコトさせたバツだから当然だ」
そう言う新一が指差すのは、今も飾られている先月の写真。
「まぁ、分からんでもないけどなぁ……」
「快斗、いつ起きるだろ」
「んじゃ悪いけど、飾り全部外すぜ。コイツが目ぇ覚める前に」
――今現在、工藤邸のリビングは見事なパーティー用の飾りで溢れている。……魚の。そう、魚で溢れているのだ。
季節はずれの鯉のぼりを引っ張り出してみたり、それぞれが持っている魚の小物だったり、お手製のイラストだったりと、それはもうたくさん。
ドアを開けて目に入るのは、大きな魚のイラストなのだ。
倒れた快斗はそのままにして、それらの飾りを全て外す。そして、通常のパーティー風にしたところで、新一が快斗に声をかけた。
「おい、快斗! どうしたんだよ?」
「……ん? ……さっ! さの付くヤツがいっぱ……いってあれ?」
「夢でも見たんちゃうか?」
「平次……。いや、違う。ここに入ったらそこら中に!」
「いきなり倒れるからビックリしちゃったよ。ホラ、早く座ってよ! パーティー始めよ?」
「青子……。そうだな! あれは夢だ。あんなのがここにあるわけねぇもんな」
ひたすら誤魔化し続けるうちに、ようやく『夢』だったと判断した。……いや、させられた。
「いっぱい作ったんやで! たくさん食べてな」
「うわー、マジで嬉しい!」
「デザートにケーキもあるからね」
「ケーキ!?」
「甘党の快斗のために、一生懸命作ったんだよ」
「まずは乾杯といくか」
そして、テーブルの上に乗せられた大量の料理が、6人のお腹へと消えた頃。
「そろそろケーキ食べよか」
「よっ! 待ってました!」
平次の提案に、快斗がノリノリで答えた。蘭が冷蔵庫から白い箱に入ったケーキを取り出し、持って来る。
テーブルの上に乗せ、新一が箱のフタに手をかけた。
「甘党の快斗のために蘭たちが必死で作ってくれたんだ。しっかり食えよ?」
そう言って、白いフタをあけた。そして、うきうきと中身を覗き込んだ快斗は……
「ギャーーーーッ!!」
と叫んで、再び気絶してしまった。その叫び声は、近所一帯に響き渡り、それを聞いた近所の住人は、通報するか本気で迷ったらしい。
ちなみに、白い箱の中身はもちろんケーキである。『魚型』のではあるが。
一体何を使ったのか、クリームの色は青く、目の代わりにいちごが飾ってあった。そして、鱗代わりに固めたゼラチンを1枚1枚乗せてある。そして、透き通ったそのゼラチンは、クリームの青色を見事に反射させている。
見事な『魚』を追求した、究極の一品。もちろん、味の保障はきちんとしてある。
新一の仕返しは、あの飾りだけでは足りず、無理を言って魚型のケーキの製作を女性陣に頼んだのだ。
そのケーキはもちろん、食べることも見ることさえも出来ず、復活した快斗の目の前で残り5人が――新一は快斗への嫌味のために根性で――綺麗に食べきり、甘党の快斗はケーキ無しの誕生日となった。
黒羽快斗、本日の教訓。
『危険! 新一をからかうな』
お礼のマジックの計画が消え去ったことは、快斗だけが知っている。
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