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列伝第3話 B級冒険者クロードの冒険譚(3/5)

これが自分に出来る全力の戦闘シーンです(仁の戦闘シーンから目を逸らしながら)。

そもそも、戦闘シーンを書く練習として始めたのが列伝ですし……。


補足:クロードたちもジオルドも殺す気で戦っています。降参したら追撃しないだけです。

 正直な話、この吸血鬼ジオルドの討伐はBランクの依頼ではないと思う。

 素の戦闘能力が相当に高く、<縮地法>すら使えるなんて、普通のBランク冒険者に勝てる相手ではないだろう。

 最低でもAランクは確実だ。下手をしたらSランクの依頼に分類されるかもしれない。


 とは言え、冒険者ギルドを責めるのはお門違いだ。

 そもそも、他のBランク冒険者では、ジオルドの<縮地法>まで引き出せなかったみたいだからね。

 もし仮に僕たちが負け、生きて戻ることになったら依頼のランクは再検討されることになるだろう。

 より強い相手と戦えるジオルドは、むしろ喜ぶかもしれないけど……。


「ふむ、あまり驚いていないようだな。知り合いにでもこの<縮地法>を使えるものでもいるのか?」

「答える必要はありませんね」


 情報も武器の1つだ。

 僕はジオルドみたいに、自分の弱点を公開するような豪胆な性格じゃないから……。


「まあ、当然か。では、今後は出し惜しみなく<縮地法>を使わせてもらおう」


 再び<縮地法>を使い、僕の目の前に現れて蹴りを放つジオルド。

 正直に言おう。


 相手だけ<縮地法>を使えるなんて反則だ!


 すかさず僕も<縮地法>を発動し、ジオルドの蹴りの届かない方へと移動する。


「何!?」

「はあ!!!」


 驚愕し、一瞬の隙が生まれた所に斬撃を繰り出す。


「くう!」


 回避のために<縮地法>を使うジオルドだが、僕の斬撃の方が一瞬早く到達した。

 <縮地法>で移動した先にいるジオルドは、負傷した左腕を押さえていた。


「ま、まさか。おぬしが<縮地法>を使えるとは思わなかった……。やれやれ、動揺して攻撃を食らうなど、拙者もまだまだ修行が足らないと言う訳か……」

「貴方に比べれば、距離も精度もまだまだ低いですけどね」

「元々、<縮地法>の本質は距離ではない。それにしてもおぬし、まるで<縮地法>の使い手と何度も戦っていたかのような反応をするな?」

「ええ、まあ……」


 <縮地法>の訓練の時、マリア先輩にしごかれたことを思い出してちびりそうになる。

 戦闘中にちびるとかシャレにならないけど、トラウマなんだから仕方がない。


 その訓練の中、距離の短い<縮地法>で上手く戦う術は必修の技術だった。


「むう……。そうなると拙者の対<縮地法>の経験値を上回られているかもしれんな」


 身の回りに<縮地法>の使い手がいなければ、対策の経験値は増えないだろう。

 そう言う意味では、周囲に規格外の方々が多い僕は、対策に関する経験と言う意味では恵まれているのだろう。……と同時にトラウマも増えるのはご愛敬。


「いや、この機会に存分に経験値を上げるというのはどうだろう?うむ、それがいい。クロードとやら、おぬしには拙者の練習相手になってもらうぞ」

「え、いや、出来れば勘弁してほしいんですけど……」

「問答無用!」


 ジオルドは僕に向けて<縮地法>を繰り出してくる。

 僕も<縮地法>で対抗するので、2人して高速移動戦闘をする羽目になっている。


「ちょ、ちょっと! 勘弁! してくれませんか!」


 <縮地法>で移動しながらなので、声が飛び飛びになっているのは仕方がない。


「断る! これほど 楽しい相手は 久しぶりだ! もっと 拙者を 高みへと 導け!」


 ある意味では十分に楽しませたので、万が一負けてもこの森からは出て行ってくれるかもしれない。

 だからと言ってわざと負けるつもりはない。

 それに……。


「私たちを忘れるんじゃないわよ!」

「だよ~!」


 そう言ってココとシシリーが高速戦闘に乱入してきた。

 2人は<縮地法>を使えない。

 しかし、だからと言って置いてきぼりになっているわけではない。

 僕が<縮地法>を使い、他のメンバーがそれをサポートするという戦い方だって、しっかりと訓練済みだからだ。


「ぬう! 邪魔を するな!」

「あんたが多対1で良いって言ったんでしょ!」

「そうだよ~!」


 攻撃をしつつ、僕の<縮地法>をサポートし、ジオルグの<縮地法>を邪魔するように動くココとシシリー。


「仕方あるまい! まずは 1人ずつ潰す!」


 そう言うと、ジオルドは高速戦闘に参加していないユリアさんを見た。

 この中では1番近接戦闘の苦手な、ユリアさんを狙うつもりだろう。


 ……<縮地法>は確かに強力なスキルだ。

 一瞬で間合いを詰め、攻撃を仕掛けられる。

 攻撃をした後、回避に使用しても効果を発揮する。


 じゃあ、どうやって防ぐか・・・・・・・・


「『ストーンウォール』!」


 ジオルドが<縮地法>を発動する瞬間、ユリアさんの<精霊魔法>による『ストーンウォール』が発動した。

 <精霊魔法>はその場にいる精霊によって効果が左右されるが、多彩な魔法が使えるスキルだ。

 薄暗いので光の精霊がおらず<光魔法>に相当する魔法は使えないが、森の中なので<土魔法>に相当する魔法は使える。

 『ストーンウォール』はその名のごとく、指定した場所に石の壁を生み出す。


「ぐわああああ!」


 <縮地法>により、自ら石の壁に直撃したジオルドが叫び声をあげる。


 そう、<縮地法>の一番の対処法は『進行方向に障害物を置く』。ただそれだけなのだ。

 途中で止まれないから、その効果は馬鹿にできない。


 強力なスキルと言うのは、自分たちだけが使えるものではない。

 もしも、相手が強力なスキルを使ってきた場合、どのように対処するのか、というのも戦いの中ではかなり重要な要素だ。


 だから、既知のスキルに関しては、全て対策を検討、訓練済みなのである。

 もちろん、<縮地法>に対する対抗手段も見てのとおりである。

 その訓練で、『ファイアウォール』に突っ込むことになったのが誰かは、ここでは語らないことにする。熱かった。



 それはともかく、この隙を逃すべきではない。


「はああ!!!」

「喰らいなさい!」

「え~い!」


 僕、ココ、シシリーの3人が呻いているジオルドに攻撃を仕掛ける。


「むうん!」


 『ストーンウォール』への直撃も合わせて、結構なダメージを負っていたはずだ。

 しかし、僕たちの攻撃は傷を付けてはいるものの、決して深手にはなっていなかった。


「嘘でしょ!?」

「え~ん」

「効いていないの!?」


 ダメージがないわけではない。それでもとどめを刺すくらいの勢いで攻撃したのに、ジオルドは立っていた。


「うぬぬ、ここまでダメージを負ってしまうとは、予想外だ……」

「こっちのセリフよ!何でまだ無事なのよ!」

「無事ではない。拙者は生まれつき頑丈でな。無理をしても怪我をしても平気なのだよ。そのせいで少々鍛えすぎてしまったが……」

「冗談じゃないわよ……」


 本当にどうしてこんな吸血鬼の相手がBランク依頼なのだか……。

 ここまでやって勝てないとなると、いよいよ奥の手をいくつか切らないといけなくなる。


「しかし、相当なダメージを受けてしまったな。……仕方あるまい、これほどの相手だ。とっておきを見せてやろう」


 と思ったら、相手の方が先に切り札を切るそうです。


「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


 ジオルドが急に叫び出した。

 それと同時にジオルドの身体が膨張し、変形、変色していく。


「おおおおおおおおおおおおおお……」


 声が消えた時、そこにいたジオルドはもはや別人と言っても良いレベルだった。


「待たせたな。これが拙者の切り札、<竜血覚醒>だ」


 そう言ったジオルドを一言で表すなら『竜』だった。

 全身が黒く変色し、人間の身体に近い形状をしつつも、頭部は明らかにドラゴンと呼ばれるものだった。

 今までは出していなかった翼は、蝙蝠の翼に似ているが、その迫力は桁違いだった。


「どうやら、先祖に竜がいるらしくな、拙者と兄者には不思議な力が宿っておるのだよ。兄者は吸血鬼のくせに太陽を克服しており、拙者は吸血鬼のくせに竜に姿を変える。尤も、この姿は消耗が激しく、普段から魔力を使わずに体内で循環させなければならん。そのせいか、吸血鬼らしくない体術に興味を持ったのだがな」


 竜に変化し、気分が高揚しているのだろう。

 今まで以上に饒舌になったジオルドが一通り説明してくれた。


「じゃあ、その姿があなたの真の切り札なんですね?」

「ああ、その通りだ。他にも切れる札はあるが、これ以上の物はもうないな。誇るがいい、この姿になるのは、兄者との兄弟喧嘩以来、100年ぶりだ」

「兄弟喧嘩でその姿になったんですか!?と言うか、その言い方だとあまり嬉しくないし、誇れもしませんよ」

「むう……。ちなみにその喧嘩では拙者が勝った」

「聞いていませんって……」


 <竜血覚醒>を使うというのは、ジオルドにとっては余程のことなのだろう。

 確かに、今までとは比べ物にならない力を感じる。


 駄目だ。

 今切ろうと思っていた札では、とてもじゃないが<竜血覚醒>の相手にはならない。


 本当に、ここまでしなきゃダメとは思わなかったよ……。


「ユリアさん。こちらも切り札を切りましょう」

「もしかして……」

「はい。ユリアさんには負担をおかけしますが……」

「いえ、気にしないでください。ココちゃん、シシリーちゃんもいいですか?」

「もちろん!」

「だよ~!」

「ほう、そちらも切り札を切るのか?面白い、見せてもらおう!」


 ユリアさんが目を瞑って宣言する。


「行きます!『コールエレメント』ウィンド!アクア!ライト!」


 ユリアさんは<精霊術>によって風の精霊、水の精霊、光の精霊を召喚した。

 <精霊術>は、精霊との契約は必要だが、精霊に直接魔法を使用してもらうため、普通の魔法以上の効果があることもある。


 3つの光が現れ、それぞれが30cmくらいの輝く女の子になった。


《ユリアちゃん。呼んだ?》


 この緑色に輝く女の子は風の精霊だ。Cランクの時に依頼の途中でユリアさんと契約してくれた。


《お呼びでしょうか。ユリア様》


 次の青色に輝く女の子は水の精霊だ。ある時フラッとやってきて、ユリアさんに忠誠を誓っていた。理由については頑として語らないけど、もしかしたらユリアさんが記憶を失う前のことを知っているのかもしれない。


《あ、クロード君、おひさー。何々?どんな手伝いが必要なのかな?おねーさんにドーンと任せておいて!》


 この軽い、じゃなかった、明るいお姉さんが光の精霊のアカリさんだ。

 彼女も依頼の中で助けたことに感謝して契約してくれた……はずだ。


「ほう、精霊か。その精霊も含めて7人でかかってくるというのか?」

「いいえ、違いますよ」


 僕は首を横に振る。

 確かに、精霊自体に戦ってもらうというのも有りと言えば有りだ。

 でも、その場合精霊への指示とMPの供給を全てユリアさんに任せることになる。

 それではあまりにも負担が大きすぎる。


 そこで、考えたのが……。


「『精霊化』をお願いします」

《はーい》

《お任せください》

《おっけー!》


 ユリアさんの合図とともに、3人の精霊たちは再び光の塊となって、僕、ココ、シシリーの3人にぶつかってきた。

 それと同時に僕たちの身体から精霊の色と同じオーラが立ち上った。


「これが僕たちの切り札の『精霊化』です。ユリアさんの召喚した精霊を僕たちが身に纏って戦います。利点としては、精霊を維持する魔力を僕たちが賄うことで、ユリアさんの負担が減ることと、僕たち自身の身体能力が大幅に強化され、各属性の魔法も威力を増すことです」


 欠点は魔力消費が激しすぎて長時間はもたないことと、『精霊化』を解いた後、しばらくはまともに動けないことだけど、そこまで説明する必要はないよね。

 ちなみに、『精霊化』には精霊との相性があり、僕は光の精霊しか装備できないし、ココは風の精霊、シシリーは水の精霊しか装備できない。

 今、ユリアさんが契約しているのが風、水、光の3人なので、メンバーを分けるときは僕、ココ、シシリーとユリアさんが組むことが多いのだ。


「ほう!こんな術は聞いたこともない!本当におぬしたちは素晴らしいな。では、最後を飾る戦いを始めようとするか!」

「行きます!」



 そこからの戦いは今まで以上に激しくなっていった。


 精霊を3人も呼び出すのは負担が大きく、『精霊化』を使用していると、ユリアさんはほとんど動けない。

 そこで、水の精霊を装備したシシリーがユリアさんの護衛に付く。

 盾装備の僕が守るのが本当は一番いいんだけど、ジオルドへの有効打は、光の精霊を装備した僕だけしか与えられなそうなので、仕方がない。


「通さないよ~!」

「ちいっ!今までよりも動きが格段に良いな!」

「そっちこそ!」


 ユリアさんに攻撃をしようとしていたジオルドをシシリーが止めた。

 その隙に風の精霊を装備し、より素早くなったココが背後からジオルドを狙う。


「甘い!」


 しかし、ジオルドの能力も大幅に向上しており、背後からの攻撃を見えているかのように跳んで避ける。

 着地点に向けて僕も斬撃を振るうが、特に僕の攻撃に警戒しているジオルドには当たらない。

 <光魔法>、<風魔法>を打ち込んでも避けられてしまう。


「まだだ!もっともっと打ち込んで来い!この窮地を越えた時、拙者はさらなる高みへと到達する!」


 ジオルドのテンションも最高潮になっている。

 しかし、そう言いつつもジオルドの戦い方は今までとは若干変わっている。


 隙のない技術と言うモノが減り、単純な能力による回避、攻撃が増えてきているのだ。

 その証拠に、<竜血覚醒>を使ってからジオルドは<縮地法>を使っていない。

 ……単純に『ストーンウォール』警戒かもしれないけど。


「くう!攻撃が当たんないじゃないの!」

「ココ、落ち着いて!」

「わかってる!……すう、はあ」


 攻撃が当たらず、イラつき始めたココをなだめる。

 冷静にならなければ、勝てるものも勝てなくなる。


 とは言え、結構なじり貧であるのは間違いがない。

 ジオルドの方も時間制限があるようなことを言っていたが、それがいつまでなのかはわからない。

 それに対し、こちらの残り時間があまりないのは明らかだ。


 さらに戦いが続き、いよいよもう3分も『精霊化』を維持できないというところまで来てしまった。

 このままでは単純な時間切れで僕たちの負けになってしまう。

 さすがに、ここまで来てそれは嫌だ!


 賭けに出てでも勝負を決めるしかない。

 僕は<縮地法>を発動し、ジオルドに急接近しつつ、上から振り下ろす斬撃を繰り出す。


「はあ!!!」

「ぬうん!!!」


 ジオルドはそれをバックステップで回避する。

 僕はそこからさらにもう1歩踏み出して、剣を振り切った状態から上向きに斬撃を繰り出す。

 見様見真似の『燕返し』だ。

 Bランク試験でクーガさんが使ってきた技を仁様に話したら教えてくれた技だ。


「ぐわっ!」


 ジオルドの身体を浅く切り裂くことに成功した。

 光の精霊が宿っているから、ジオルドには効果は絶大だ。


 しかし、無理に2発目の斬撃を繰り出した僕は、完全に態勢を崩している。

 その隙をジオルドが見逃すはずもなく、その拳を僕に繰り出してくる。


 やけにスローに感じる世界の中、心の中で僕は呟く。


《お願いします》

《まっかせてよ!》


 僕の身体から、光の精霊であるアカリさんが飛び出した。

 『精霊化』をギリギリで解除したのだ。

 残ったMPをほとんど全てアカリさんに渡し、<光魔法>を放ってもらう。


「ぐわああああああああああああああああああああ!!!!!」


 ジオルドの絶叫が聞こえたところで、MPの枯渇により僕は意識を手放した。


*************************************************************


Q&A


Q:なんで髪の毛剃ってるの?

ジオルド:髪を掴まれるのを防ぐためだ。


Q:なんで武器を使わないの?

ジオル:自分の肉体以上に使いやすい武器などない。


Q:なんで竜に変身したのにブレスを吐かないの?

ジオ:そもそも使えないのだ(作者注:<竜魔法>を覚えていないからです)。


Q:なんで変身前に羽を広げないの?

ジ:態々的を大きくする理由もあるまい。


Q:なんで変身後は羽を広げているの?

:中途半端な形態を維持すると消耗がより激しくなるのだ。

変身する敵キャラ。精霊との一体化による時間制限付き強化。ギリギリの戦い。……主人公?


東とクロードの短編が真っ当過ぎて、むしろ仁が浮くという事案が発生。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
先祖の竜ってドラゴニュートかな?
[気になる点] 魔装ってやつですな。 節約技として武器にだけ精霊を宿すのもでるかな。
[一言] クロード舐めプ疑惑。 ジオルドの縮地に合わせてライトボールを何故置かない? ユリアのストーンウォールに合わせて挟撃もできた筈。
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