列伝第3話 B級冒険者クロードの冒険譚(1/5)
クロードの短編です。列伝はwordで10ページ以内と決めているので4分割です。
リアル多忙で執筆が進まないため、次週本編再開できるかわかりません。
次週再開の場合は(ほぼ)日刊クロードになり、再来週再開の場合は(ほぼ)隔日刊クロードになります。
僕の名前はクロード。主人である仁様の奴隷だ。
現在はカスタール女王国の王都クインダムを中心として、Bランク冒険者として活動している。
Bランクの冒険者と言えば上級冒険者とも呼ばれ、到達するには厳しい試験を超える必要がある。もちろん、苦労に見合った見返りもあり、Cランク以下とは扱いが大きく異なる。場所によっては貴族に準ずる扱いを受けることもある。
僕も1度だけ貴族が主催するパーティに呼ばれたことがあるんだけど、すごく居心地が悪かったのを覚えている。出てきた料理も、ミオ先輩や屋敷の料理担当の子が作るものの方が何倍もおいしいし……。
少し話がそれたけど、本来であればBランクの冒険者と言うのは、奴隷にはなることが出来ない。当然だよね、奴隷に対して貴族に準ずる扱いをするなんて普通は無理だから。
ではなぜ、僕のような子供(12歳)の奴隷がBランク冒険者になれたのか?
それをこの場では詳しく説明をするつもりはないけど、簡単に言えば、「仁様のおかげ」だということだ。僕のご主人様は規格外だから……。
「後1回、Bランク以上の依頼を成功させたら、クラン設立の許可が下りるようになります」
僕は仁様にクラン設立が間近に迫ったことを伝えた。
「思っていた以上に早かったな」
クランと言うのは冒険者のグループの形の1つで、パーティよりも大きな規模の集団となる。言ってしまえば冒険者の派閥・軍団のことだ。
僕は仁様にクランを作り、そのクランのリーダーになるように命じられている。クランを作るにはいくつもの条件があるのだけど、僕たちはそのほとんどを既に満たしている。
後、唯一残った条件は、一定数のBランク依頼を成功させることだけだ。簡単に言えば、実績が足りないということである。
僕たちはBランク冒険者になって日が浅いので、ある意味では当然だよね。
「ココとロロが張り切っていまして……」
「そうか、今度褒めてやらないとな」
「2人も喜ぶと思います」
ココとロロは僕の仲間の少女たちで、仁様のことを大好きだと公言している。
2人は仁様に褒めて欲しいがために、他のメンバーよりも多くのBランク依頼を受けているのだ。褒めてもらえると知ったら、大喜びするだろうな。
「それと、『ポータル』で上手くBランク以上の依頼が途切れないようにしました」
「そりゃ、予定より早いのも当然だな」
仁様が納得したように頷く。
Bランクの依頼と言うのは、当然のことながらCランク以下の依頼とは比べ物にならないほど危険だったり、困難だったりする。
普通に考えて、そんな依頼が大量に残っているわけはない。もし、Bランク以上の依頼が大量に残っているギルドがあったら、その付近は危機的状況と言ってもいいと思う。
そのため、Bランク依頼の達成回数と言うのは、クラン設立において最も難しい条件になるのが通例だ。
だけど僕たちは出来るだけ早くクランを作りたいから、少しだけズルをすることにした。
さくら様の創り出した『ポータル』という転移魔法を用いて各地に移動して、Bランク以上の依頼を探し回るという、普通の人間にはできない常識外れのズルだ……。
もちろん、バレないように色々と手は打っているけど、あまり多用するのも危険だから、今回が最初で最後だ。
「はい。それにもう最後のBランク依頼も受ける目途がついているんですよ。『吸血鬼退治』だそうです」
「うわぁ……」
仁様が微妙な顔をしている。何かあったのだろうか?
「どうしたんですか?」
「いや、大したことじゃない。エステア王国で俺たちも『吸血鬼退治』の依頼を受けたんだよ」
「あ、そういえばセラ先輩から聞いた記憶があります。そうだ……、確かミラさんも吸血鬼でしたよね。……依頼、断った方がいいでしょうか?」
ミラさんは仁様の従魔の吸血鬼だ。カスタールの屋敷でメイド修行をしていたのを見たことがある。その……、とても胸の大きな女性でした。
僕たちが自分と同じ吸血鬼を討伐するというのは、ミラさんにとって気持ちのいいことではないだろう。
「まあ、構わないだろうけどな。念のためミラに聞いておくか……。『サモン』ミラ」
「きゃあ!?」
仁様は配下を呼び出す魔法である『サモン』を使って、メイド服姿のミラさんを呼び出した。相変わらず仁様は自由だよね。
「マスター?何の御用ですかぁ?急に呼び出してぇ?」
「ミラに聞きたいことがあったんだ。念話よりも呼び出した方が早そうだったからな」
仁様が自由なのはこの屋敷の人なら誰でも知っているので、ミラさんも特に抗議の声は上げない。
「それでぇ、聞きたいことって何ですかぁ?」
「ああ、クロードがBランク依頼で吸血鬼と戦うみたいなんだが、ミラとしてはどう思う?」
「吸血鬼ですかぁ?どんどんやっちゃってくださぁい。悪い吸血鬼に生きている価値なんてないですからぁ」
何でもないことのようにあっさりと言うミラさん。自分も吸血鬼なのに……。
「ミラは元人間だぞ。吸血鬼のせいで、望んでもいないのに吸血鬼にされたんだ」
「それは……」
僕の考えを読んだ仁様が補足する。詳しい話を聞いたわけじゃないから、そこまでは知らなかった。
もし、自分の意思とは関係なく吸血鬼にされたというのなら、吸血鬼に対して同族意識が湧かないのも当然だ。ましてやそれを行ったのが吸血鬼と言うのなら恨むのも無理はない。
「そういうことだ。吸血鬼退治はまったく気にしなくていいからな」
「わかりました。お気遣いありがとうございます」
「頑張ってくださいねぇ。応援していますからぁ。あ、倒した後で詳しくお話を聞かせてくれませんかぁ?」
「はい。わかりました」
「お願いしますねぇ」
ミラさん、本当に吸血鬼が嫌いなんだね……。
次の日、僕、ココ、シシリー、ユリアさんの4人は吸血鬼退治の依頼を受けるために、冒険者ギルドに向かった。
ノット、アデル、ロロ、イリスは別の依頼の途中と言うことで、こちらの依頼には参加しない。
最初の頃は8人一緒に依頼を受けることがほとんどだったけど、最近では別行動をすることもかなり多くなってきた。まあ、シシリーだけはココといつも一緒にいるんだけどね。
冒険者ギルドに到着した僕たちは、受付にBランク依頼「吸血鬼退治」の用紙を持って行く。
「あ、クロード君、吸血鬼退治の依頼を受けてくれるのね?」
「ええ、この依頼さえ達成できれば、クラン設立が出来ますからね。頑張らせていただきます」
「よろしくね。詳しい説明はギルド長がするから……」
「わかりました」
受付嬢さんに案内されるままに応接室へ向かう。
しばらくするとギルド長がやって来た。
「遅くなってすまんな」
「いえ、大丈夫です」
「よし、早速依頼について詳しい説明をするとしよう」
「お願いします」
そう言うと、ギルド長は持っていた地図を広げた。
どうやらカスタール周辺の地図のようだ。
「まず、件の吸血鬼がおるのは、王都クインダムの南、エステア王国に向かう道の途中にある森の中だ」
「ここだと、馬車で3日くらいかかりますね」
ユリアさんが地図上の距離からおおよその移動時間を計算する。
正直なことを言えば、近くに『ポータル』があるから、その気になれば日帰りで行けるんだけどね。
「うむ、確か君たちは馬車を持っておったよな?」
「はい~、Bランクになった時に買いました~」
「あまり高いのじゃないけどね」
シシリーとココの言う通り、Bランクになった時に僕たちも安めの馬車を買った。
Bランクとなると、行動範囲が急激に広がるから、馬車の1つも持っていないと苦労すると、Aランク冒険者のクーガさんに聞いていたからだ。クーガさんはソロの活動だから、馬車じゃなくて馬での移動らしいけど……。
「それで、その吸血鬼の被害はどうなってるんですか?」
「うむ、それなんだが……」
僕の質問に対して言い渋るギルド長。既に相当な人数が被害に遭っているのだろう。
「一般人の被害者は0人だ」
「「「「はい?」」」」
予想外の答えに対し、全員が疑問の声を上げる。
「一般人は誰も死んでおらんと言ったのだ。どうやら、その吸血鬼は一般人を殺すことには興味がないらしい。今まで、何人ものBランク冒険者が挑んでおるのだが、全員返り討ちに遭い、しかもその多くが生きて帰ってきておる。その者たちから話を聞いたところ、正々堂々と正面に立って戦いを挑んできたそうだ」
「正々堂々ですか……?」
おおよそ魔物に対して使うのには相応しくない単語が出てきた。
「ああ、戦いの前に名乗りを上げ、戦わない者は下がるように伝える。もちろん、戦わぬといったものに攻撃を仕掛けるような真似はしない」
「本当に正々堂々ですね」
「それに降参すればその場で逃がしてくれるらしい。最後まで戦うことを選んだ数名の冒険者は死んだがな……」
普通に考えて、魔物との戦いに負けたら死ぬ以外はないだろう。
Bランクの魔物相手に負けたのに、降参だったら生き残れるというのは破格の待遇だ。
「ただ、戦わないと言ったのに、後から攻撃を仕掛けた者には容赦せずに攻撃するぞ。その場合でも死者が数名出ておる」
「まあ、正々堂々の戦いを汚したら、そりゃあ怒りますよね」
「戦いに誇りを持っているのならばそうだろうな。以上のことから、この吸血鬼の印象は『戦闘狂』、もしくは『求道者』だな」
「そうですね」
「だね~」
吸血鬼なんだから、薄暗い森の中では有利だろう。
その状況で奇襲もせずに正面から戦いを挑むなんて、戦い自体を望む者でなければ選ばないだろう。
「しかし、実質的には無害なのだが、吸血鬼と言うだけで危険なことには変わりがない。周辺住民から、追い払うように依頼されておる」
「あれ?討伐じゃないの?」
「魔物なんですよね?野生生物を追い払うならわかるのですが……」
ギルド長の言葉にココとユリアさんが疑問の声を上げる。
「ああ、言っておらんかったか。一般人に害が出ておらんと言うこともあり、今回は『討伐』でも『追い払う』でもいいそうだ」
冒険者は被害には含まれないらしい。世知辛いね。
まあ、自己責任と言ってしまえばそれまでか……。
ある程度の実力があれば、実力差を見極めて早々に降参するという手だってあったはずだから。
「追い払った場合の証明はどうすればいいのでしょうか?」
ユリアさんが鋭い指摘をする。
確かに、討伐の場合はギルドカードで確認できるし、遺体を見せることも出来るけど、『追い払う』を選択した場合の証明は非常に困難だ。
「まあ、ギルド職員による直接の目視確認しかないだろう。そもそも、この依頼は件の森の近くの冒険者ギルドで出された依頼だったのだ。しかし、その村付近のBランクが全滅したせいで王都まで上がってきたのだ。君たちには吸血鬼を討伐、追い払った後にその村に行ってほしい。討伐なら遺体を見せ、追い払ったのならギルド職員が森に確認に行くことになっておる」
「報告があった後とは言え、ギルド職員を森に向かわせるのは危険じゃないですか?吸血鬼が帰ってきているかもしれませんし……」
「クロード君の言う通り、『追い払う』というのは一時的なものだと思います。その辺りはどうなっているのでしょうか?」
僕とユリアさんの疑問に対して、ギルド長は頷きながら言う。
「それなのだが、その吸血鬼がこう言ったそうだ。『よい戦いが出来て、その相手が望むというのならば、私はこの森を出ていこう』とな」
「あらあら~……」
「とんでもないわね……」
「つまり、吸血鬼を倒さなくても、吸血鬼が認める戦いをすれば、自ら出ていくと言ったということですか?」
僕の確認にギルド長は大きく頷いた。
「うむ、そう言うことだ。本来ならばそんな言い分を鵜呑みには出来んのだが、何分冒険者以外の被害者が0人でな。ワシの直感ではあるが、嘘ではないと思っておる。……それに、追い払うを条件に入れた方が依頼料は下がるしな」
「大人の事情ということですか……」
「大人って汚い……」
ユリアさんとココが大人の事情に嫌悪感を示す。
『必ず殺せ』よりも『追い払うでも可』の方が条件が簡単になり、依頼料が下がるらしい。
結局、他の場所に吸血鬼が行くだけで、根本的な解決にはなっていないんだけどね。
「わかりました。討伐か追い払うかは実際に会ってから考えます。ギルド職員が森に行くというのなら、僕たちが護衛をすればいいだけですしね」
「うむ、それに関してはよろしく頼む」
その後もいくつかの質問をして、ある程度の情報が集まったところで出発することになった。
「気を付けていくのだぞ」
「頑張ってね。クロード君!」
「いってらっしゃい!」
「はい、行ってきます」
ギルド長と受付嬢さんたちに見送られながら、僕たちは王都クインダムを出発した。
ちなみに、受付嬢さんたちが見送りに来たせいで、冒険者ギルドの業務が滞ったらしい。
それから3日後、吸血鬼退治の依頼を出した街に到着した。
『ポータル』を使っていないのだし、時間がかかるのはしょうがない。
街は普通に賑わっており、近くの森に強大な吸血鬼が住んでいるようには思えなかった。
実害がないというのは本当のようだ。それでも、近くに自分たちを簡単に害せる存在がいるというのは落ち着かないモノなのだろう。
最初に街の冒険者ギルドに向かい、吸血鬼退治の依頼を受けたことを伝えよう。
冒険者ギルドに入ると、いつものように冒険者たちが怪訝そうな顔をする。見知らぬ街に行った時はいつも冒険者に絡まれるからね。仕方ないよね。
女性陣も慣れたもので、他の冒険者の視線など気にならない様だ。
「依頼を受けてこの街に来ました。これ、Bランク冒険者のギルドカードと依頼票です」
「どうぞ」
「はい」
「よろしくおねがいしま~す」
こういう時はさっさと身分を提示するに限る。
4人分のギルドカードと依頼票を受付嬢さんに提示する。
「ま、まさか貴方が王都で有名な最年少Bランク冒険者のクロードさんですか!?」
「はい。これから仲間と一緒に吸血鬼を退治、もしくは追い払います」
「頑張るね~」
受付嬢のお姉さんがギルドカードを見て驚いた声を上げる。
本当は受付嬢さんが冒険者の情報を漏らすのはいけないことなんだけど、周囲への牽制と言うことで今回は許してあげよう。
周囲の冒険者たちがざわついたけど、僕たちへの手出しを考えているという感じじゃないからね。
実は今までにも何回も絡まれて、襲い掛かってきた冒険者を逆に打ちのめしたせいで、『新人潰し潰し』なんて変なあだ名まで貰っちゃったから、これ以上の厄介事は嫌なんだよね。
無事に報告も終わり街の外へ向かう。
「おかしいなー。クロードが絡まれると思ったんだけど……」
「いや、ココ。そんな何度も絡まれたりしないからね?」
「クロード君なら絡まれるよ~」
「いや、だから……」
「今回がレアケースだと思いますよ」
「……もういいです」
少し傷つきました。
ドラキュラの語源はドラゴンだと聞いたことがあります。
つまり、これで鳥、亀、虎、竜の『四聖獣』が終わることになります(暴論)。
『七つの大罪』、『北斗七星』、『タロットカード』、『十二支』、『十二星座(+蛇使い座)』、『セフィラ』、『北欧神話』etc
複数人のキャラを出すときに楽なんですよね。こういうの(メタ)。
テンプレテンプレ。