第58話 パーティと火竜戦見学
3章終了のリザルト回です。いつもより長いです。すいません。
来週から2~3週は本編を休む可能性があります。
その間に「アズマの外伝」、「クロードの列伝」、「3章登場人物紹介」を放り込む予定です。
2週空きで本編開始だと、いつもより更新間隔が短くなる不思議。
迷宮での話を終え、首都の屋敷に戻る。
『旦那様、迷宮突破おめでとうございます!』×30人くらい
扉を開けると大勢のメイドたち(若干執事含む)が、一斉に唱和してきた。見れば屋敷の中がやたら飾られている。
「あ、ああ、ありがとう……」
いきなりの事だったので少しビックリしてしまった。いや、やたら入り口に人が集まっているのは気付いていたけど……。
「主様、パーティの準備が出来ております。どうぞこちらへ」
メイド服に身を包んだルセアが前に出てきて案内をしてきた。向かう先はいつも食事をしている部屋ではない。やたら飾り付けられていたのはパーティだからか……。
そうだよな、世間的に見れば迷宮の踏破って言うのは偉業だよな。パーティくらい開いたっておかしくはないよな。まあ、外部には話すことはできないが……。
「主様が迷宮を踏破したことをさくら様とセラさんにお聞きしましたので、僭越ながらパーティの開催を企画させていただきました。ご迷惑でしたらすぐにでも撤去いたしますが……」
「いや、迷惑だなんてことはない。良いことがあったときに祝ってくれるのは普通に嬉しいさ」
俺の中でも間違いなく迷宮踏破は嬉しいことだ。その後のキャロとの話の方が印象に残ってしまったけどな……。
「それは良かったです」
ルセアに案内されたのはホールだ。高校の体育館2個分くらいはある。結構な広さだが、今までは使う理由がなかったから半ば放置していた施設である。
A:メイドたちは結構使用していますよ(信者の集会で……)。
あ、そうなのか。じゃあ勝手知ったるなんとやらだな。
A:……そうですね。
「あ、旦那様なのです!」
《旦那様、迷宮踏破おめでとうございます》
「「「おめでとうございます(なのです)」」」
「ああ、ありがとう」
シンシア達はこっちで準備をしていたようだ。
ホールは特に念入りに飾り付けがしてあった。テーブルがあちこちに並べられており、その上には山のような料理が置かれている。どうやら立食パーティのようだな。正面には垂れ幕がかかっており、「迷宮突破おめでとう会」と書かれていた。小学校とか幼稚園みたいな飾りつけではあるが、そこに書かれている内容だけは人知を超えている。
もし俺がパーティなんか不要と言っていたら、この飾りつけや料理が人知れず撤去されていたかもしれないと考えると、少し恐ろしいものを感じる。
だって、ここまで念入りに作業をしているのに、無駄に終わる可能性が十分に残っているんだ。今までの俺の行動を見れば、『金をかけて』とか『ド派手に』とかに興味がないのは分かるだろう。それなのに態々『派手な』パーティを全力で準備してたんだ。
全力を尽くせば報われるのならいい。全力を出すことで可能性が上がるのならいい。でも、これは全力の有無にかかわらず、相手の気持ち1つで無駄になるかもしれないんだ。逆に言えば、俺が喜ぶかもしれないのなら、無駄になる可能性が高くても全力を出す理由になるってことなのだろう。……信者と言うのを少し甘く考えていたかもしれない。
A:……。
ホールにも俺の配下が大勢いた。その中には見慣れぬ顔も結構来ているな。とは言え、その連中も大半が黄色で、残りが青色だが……。
「これ、勝手に食べ始めていいのか?」
「はい、主様のお好きなようにしてくださって結構です」
「挨拶とかはしなくていいのか?」
パーティとなると面倒な事もあるからな。出来ればやりたくないが……。
「主様の望むままに。一応、準備だけはしていますが……」
「……やりたくないな」
「わかりました」
俺がそう言うとルセアは一緒についてきたメイドの1人に何か合図をする。そのメイドは一礼するとどこかへ駆けていった。準備していたものを片付けに行かせたのだろう。……一体、どのような準備をしていたのやら。
挨拶無しと言うことで俺たちも勝手に食べ始めることにした。話によると現在、この屋敷には俺の配下のごく一部が来ているとのことだ。ごく一部って……、約150人いるんだけど……。また増えている?
A:増えています。どんどん増えています。
あ、そう……。
なんでも、ある程度の貢献度のある配下たちが抽選を行い、当たりを引いた者は客側として、外れを引いた者は使用人側としてパーティに参加しているんだとか。あ、シンシア達は全員揃って外れだったそうだ。
そして、ここにいる人間のほとんどが黄色のためか、彼女たち(大半が女性のため)の関心はもれなく俺に向かっている。あからさまに視線を向けたりはしていないが、チラチラと見てくるし、他の人と話しながらも意識は全力でこちらに向けているという器用な奴もいる。
俺たちも別れ、思い思いに食事を始める。まあ、マリアだけは俺の後ろからついてきているのだが……。
とりあえずそこらの料理を皿に乗せよう……と思ったそばからマリアが料理を皿に盛ったモノを手渡してきた。……手際が良すぎる。
「どうぞ」
「ああ……」
皿を受け取り食事を開始する。
客側の配下が話しかけてくるのかと思いきや、誰も話しかけてこない。
A:ルセアが事前に言い含めています。
まあ、なんだ。言ってしまえば賑やかし要員なわけだな。主役は俺、正確には迷宮攻略パーティメンバーだけど、それだけでホールを使うのも寂しい。とは言え内容が内容だけあって、外部の人間は呼べない。じゃあ、内部の人間で埋めよう、ってことか……。
A:一応、奴隷ではない配下の者も呼ばれています。
ああ、サクヤ、カトレアの王族とか、ミドリのような従魔も来ているな。あ、外にはミオの従魔のポテチもいる……。
マリアから渡された料理を食べながら、適当に誰かと話をしようとして辺りを見渡す。
サクヤ(取り皿に料理山盛り)とカトレア(取り皿に料理山盛り)が何か話をしているな。ちょっと行ってみるか。
「…………んでもらうには、そう言ったものを準備しなきゃいけないわけ」
「でも、この国の特産である迷宮由来の品物を渡すのは今更ではないでしょうか?」
「そこが腕の見せ所ね。それを取引材料にしてどうにかするのが1番楽かな」
「なるほど、勉強になります」
何やら真剣な表情で話をしている。国に関することかな?基本的に国の方針に口を挟む気はないから、話しかけずに他のところに行くか。
「あ、お兄ちゃん!こっち来て!」
俺に気付いたサクヤが手招きをしてきたので、問題なしと判断して近づく。
「改めて迷宮踏破おめでと!」
「おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。でもカトレアには言いたいこととかあるんじゃないか?」
カトレアの方は自国の迷宮が踏破されたんだからな。色々と気になるし、言いたいこともあるだろう。
「仁様が迷宮を踏破したことですか?仁様がダンジョンマスターになったことですか?まあ、どちらも驚きはしましたけど、少なくとも踏破の方に関しては時間の問題だと思っていましたから。仁様に踏破を目的にされてしまったのですから……」
「ま、お兄ちゃんが迷宮攻略に向かったって段階で、お兄ちゃんの配下は誰も攻略を疑ってはいなかったわね」
「まあ、やると言った以上は意地でもやるからな」
東の件もあったし、余程のことが無ければ断念はしなかっただろうな。
「ダンジョンマスターの方はイマイチ何ができるのかはわからないんですけど、この国が亡ぶようなことはないのですよね?」
「ああ、基本的には現状維持だ」
「じゃあ、問題ありません。カスタールと同じようにこの国も仁様の支配下に置かれたというだけですから」
別にカスタール自体を支配しているわけじゃないんだけどな。あくまでも女王が俺の配下って言うだけで……。
「普通に考えたら大事だけどねー。まあ、カスタールはお兄ちゃんのモノになったおかげでむしろ繁栄してるから」
「そうなのか?」
そんなこと知らんぞ?
A:メイドたちが色々やっています。
あー……。その辺の活動、『繁栄』に関わるレベルになっているのか……。後、『メイドたちが』と言いつつも主導しているのはアルタだよな?
A:……。
「うん、各地に拠点を構えたお兄ちゃんの配下が、安価で負傷者の治療を行ったり、転移魔法や《無限収納》を用いて安定した物資の供給を行っているおかげで、国内情勢がここのところ急激に安定してきているんだよ」
「マジか……。初耳だぞ」
A:そのような些事、マスターに報告するほどのことではないと判断しました。
些事で1つの国の国内情勢が安定して堪るかと言いたい。
A:マスターの直接的な利益にならない情報など、些事以外の何物でもありません。
判断基準がそこにあるのなら、確かに些事になりかねないな……。まあ、配下に無理をさせないのなら、好きに進めてくれ。
A:はい。心得ております。
そこで、カトレアが俺の手を握ってきた。
「是非!エステアにも配下の方の派遣をお願いします!」
カトレアはとてつもないレベルの美少女なので、手を握ってお願いされた場合、ほとんどの男性はそのお願いを聞いてしまうだろう。
「ま、そうなるわよね」
納得したように頷くサクヤ。
「まあ、アルタがいいのなら……」
A:すでにある程度は派遣が済んでおります。今後、少しペースを上げましょう。
「だってさ」
「ありがとうございます!」
じゃあ、アルタよろしく。
A:はい。
「そう言えば、俺が来る前にも二人で真剣な顔をしてたけど、どうかしたのか?」
「え?あ、うーん、何でもないよ。ね、カトレアちゃん?」
「え、あ、はい。何でもありません」
2人して何でもないというのなら何でもないのだろう。少なくとも、俺に話したくないことまで聞くつもりはない。
「わかった。困ったことがあれば俺に相談しろよ?少なくとも2人の力にはなるからな。『国民のため』と言われると渋るだろうが……」
「あ、あはは……」
サクヤが少し気まずそうにしている。俺たちがエステアに向かってすぐに国関係で依頼出してきたからな。
「私はこれからも公務には参加するつもりです。ですが、国を大きく動かすような内容にはあまり関わるつもりはありませんので、その可能性は低いと思います。もし、何かお願いすることがあれば、しっかりと対価はご用意いたしますのでご安心ください」
「ああ、それが分かっているのならいい。あ、最初にアルタに相談するのが1番かもな。ちょっとしたことならアルタが解決してくれるだろう」
頼む。
A:わかりました。
「あ、それはスッゴイ便利、オススメ」
サクヤが頷く。どうやらちょくちょくアルタに質問などをしているようだ。
「重ね重ねありがとうございます。……ふう、本当に配下になっていい事しかありませんね。『悪魔に魂を売る』なんて言って申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるカトレア。ああ、配下になる前にそんなことを言っていたな。
「ああ、そんなこともあったな。気にするな。確かに悪魔っぽい言い回しであったのは事実だからな」
「何?お兄ちゃんにそんなこと言ったの?あー、でも私の時も助けてくれるのと引き換えに配下にしたわけだから、悪魔的と言えなくもないかな……」
そうだね。サクヤの時もあまり真っ当な言い回しでは無かったね。
「と言っても、あの時は敵が魔族だったし、それから見ればお兄ちゃんは天使だったけどね」
「それはまた似合わない称号だな……」
白尽くめで背中に羽をはやした自分を想像して、あまりの似合わなさに驚愕する。ドーラを背負って<光輪>スキルを使えば、それっぽいことが出来るのがまた何とも言えない。
「それもそうよねー」
「でも、本当に感謝しています」
「あ、それは私もだからね」
「ああ、わかっているさ。ま、今後ともよろしくな」
「「はい!」」
サクヤたちと別れ、うろうろしながら食べ物を漁る。正確には取ろうとするとマリアが先に行って取ってくるので、それを受け取るだけの簡単なお仕事だ。マリアとずっと一緒にいるとダメ人間になりそう……。
A:……(それが狙いみたいですけど)。
うん?なんか言ったか?
A:いいえ……。
あ、そう。
食べ歩きをしばらく続けていると、急にピアノの音が聞こえてきた。
何かと思って音のする方を見ると、比較的最近奴隷になったフィーユがピアノを弾いていた。
横にはバイオリンを持ったミラと、他にも何名かのメイドが楽器を持って演奏を始めていた。
全員そろいの衣装を着ている。白い礼服のような感じだな。ミラ、礼服似合わねー。吸血鬼のイメージに白が合わないし、胸が大きすぎて他の連中と服の印象が変わっているし、卑猥な方に……。
フィーユは少し前まで、腕を欠損したショックから呆然自失となり、何もできない状態だった。しかし、『神薬 ソーマ』により、腕が治ってからは意識を取り戻すことに成功し、現在は俺の奴隷メイドとなっている。
ん?よく見たらメイドたちは元暗殺者のメイドじゃないか?
A:はい。そうです。
ガーフェルト公爵家の元令嬢と、元ガーフェルト公爵直属の暗殺者集団が一緒に演奏している絵面って結構凄いよな。
折角なのでしばらくは演奏に耳を傾けることにした。
俺は音楽に関しては素人だが、この演奏の、いや、フィーユの実力が抜きんでていることだけは分かった。明らかにフィーユのピアノが主役で、他の音はフィーユのピアノを引き立たせるだけの脇役にしか聞こえなかったのだ。音楽系のスキルのを持っているのはフィーユ以外にも数名いる。しかし、それでもフィーユとの間には越えられない壁があるようだった。
数曲終わったところでフィーユたちが立ち上がり、礼をして退場していった。演奏を聴いていた者たちはその場で拍手をする。
俺が言うのもなんだが、本来フィーユの演奏はパーティの余興で弾かせるようなモノではないのだろう。ガーフェルト元公爵が必死になって回復手段を探したのも頷けるよ。許しはしないけど。
折角なのでフィーユたちの楽屋、まあ控室なんだが、を覗くことにした。舞台裏なんて本来覗くものではないだろうが、そこはほら、あれだ。ご主人様特権?って奴だ。
控室の前に到着した俺は扉をノックする。
「はぁい、どなたですかぁ」
「俺だ」
「あらぁ、マスターじゃぁないですかぁ。どうぞお入りくださぁい」
扉を開け中に入ると、ミラ、フィーユ、メイド達が着替えている最中だった。ミラよ、何故着替え中に入室の許可を出したし……。
「どうしたんですかぁ?」
「いや、着替え中に入室の許可を出すなよ」
「だってぇ、マスターが入りたいって言ったらぁ、私たちに拒む権利なんてないですよぉ」
他のメイドたちも頷いている。しかし、誰も恥ずかしがる様子1つ見せないな。
ちなみにフィーユは黙々と着替えを続けている。もちろん、恥ずかしそうな様子はない。
「まあ、それはそうなんだが……、それでも着替えくらいは待つぞ?」
「まぁ、私たちが見られてもいいと思っているんですからぁ、気にしなくてもいいですよぉ」
ミラがそう言うと、一足先に着替え終わったフィーユも頷いた。そして、近くにあったスケッチブックのようなモノに何かを書き込む。
そこには『着替えを見られても音楽には何の影響もないから構いません』と書かれていた。
フィーユは音楽に全てを捧げていると公言している。そのため、フィーユが喋ることはない。発声練習や歌唱はするが、それ以外は基本的に筆談である。普通に喋るのも喉に負担になるから、だそうだ。
かなり極端な子だが、スキルに高レベルの<演奏>と<歌唱>があり、特化するのもある意味納得ではある。
「それでぇ、何か御用ですかぁ?」
「いや、演奏がなかなか良かったから、一声かけに来たんだよ」
『お気に召したのなら幸いです』
「そうですねぇ。久しぶりにいっぱい練習しましたわぁ」
「元々弾けたのか?」
「えぇ、一応、村長の娘と言うことで色々習っていましたからぁ」
『すぐに上達しました。素晴らしい腕前です』
「どういたしましてぇ。私も楽しかったですよぉ」
フィーユは字を書くのが早い。筆談なのに会話と一緒にしても違和感がないとか凄くね?
「この調子ならフィーユが表舞台に返り咲くのもそう遠い話じゃなさそうだな」
これだけの実力があるのだから、表舞台に戻ってコンクールに出たり、コンサートを開いたりしても十分にやっていけるだろう。
『はい。既にいくつか話が進んでいるモノもあります。私単独のモノと、『音楽隊』のモノの両方とも』
「音楽隊?ここにいるメイドたちの事か?」
『はい。彼女たちは私とともに音楽の道を志してくれるそうです』
フィーユがそう言うと……、違った、そう書くとメイド(元暗殺者)の1人が前に出てくる。
「私たちは今まで人を不幸にすることしかしてきませんでした。なので、今後は人を幸せにすることをしたいのです」
他のメイドたちも頷いている。
そう言われるとダメとは言えないよな。彼女たちは俺に手を出しかけたとはいえ、今はもう俺の配下だ。悔いが残っているのなら、それを晴らさせてやりたい。真っ当な手段でそれが出来るのなら、なおさら文句を言う理由がない。
「私も腰かけですけどぉ、参加していますよぉ」
『ミラさんは吸血鬼であること隠すため、3年という期限付きで参加してもらっています。仁様がミラさんを人間に戻してくだされば、そのまま音楽隊に残ってもらいたいと思っています』
「その時はぜひ正式参加させてくださぁい」
『はい』
本来ならばミラは吸血鬼という正体を隠すため、あまり表舞台には出ない方がいい。一応、その点を考えての3年という期限なのだろうが、出来れば人間に戻って音楽を続けたいと、ミラもフィーユもメイドたちも思っているようだった。
「……ミラを人間に戻す方法は探してやるから、期待しないで待っていろ」
『そこは「絶対に探してやるから、期待して待っていろ」が正しいのではないでしょうか?』
「そうですねぇ。そう言ってくだされば惚れ直していたんですけどぉ」
「……無責任な物言いが好きじゃないんだよ。アルタでも異能くらいしか手がないって言っているんだからな?」
異能は俺の都合がいいように発現するから、可能性がないわけではない。俺が本当に望めばその可能性はさらに上がるだろう。……それでも、絶対とは言えないからな。
「わかっていますよぉ。無理にとは言いませんからぁ」
『今思いついたんですけど、ミラさんには変装して音楽隊に参加してもらうというのはどうでしょうか?数年に1度変装を変えればミラさんだとバレないと思うのですが?』
「それはいいアイデアですねぇ!」
確かにそれならば、誤魔化すのはある程度容易になるだろう。しかし、そのアイデアには致命的な欠陥がある。
「胸でバレるだろ?」
「あ」
『あ』
他に類を見ないほどの爆乳である。少なくとも、同一人物であることだけは誰の目で見ても明らかである。
その後、年齢を重ねたようなメイクをしてみたり、爆乳を何とか隠してみたりと色々やったという話を聞いたが、結果は芳しくなかったようだ。
俺が頑張んないとダメそうだな、これは。
しばらくパーティの出席者と話をしたところで、ふと思い出したことがあったのでミオとドーラを探す。
マップを見ると、ミオは外でポテチの側にいる。ドーラはお菓子が置いてあるテーブルの付近にいる。近くにいるドーラから回収していこう。
「ドーラ、おいで」
《はーい》
近づいて声をかけるとすぐさま近寄ってきた。
「ちょっとミオのところに行くけど、ついてきてくれるか?」
《うん!》
そう言って手を差し出してきたので、持っていた皿をマリアに預けてドーラと手をつなぐ。
庭に出るとミオがポテチに餌をやろうとしていた。より正確に言うと、肉を右手に持ちながら左手を差し出していた。
「何やってるんだ?」
「あ、ご主人様。ちょっと待ってて。……ほら、早くなさい」
「クーン……」
ポテチは悲しそうに鳴くと右の前足でミオの左手にお手をした。
「よし!」
そう言うとミオは右手に持っていた肉をポテチに食べさせ始めた。
「もう1度聞く。何やってんだ」
「見ての通り、ポテチにお手をさせてたのよ。この子、肉を見せつけた状態じゃないとお手をしないのよね。ポテチ的には犬じゃないからお手なんかしたくないらしいんだけど、肉の誘惑には勝てないという半端っぷりなのよね。見て、ポテチの足元ヨダレの跡があるでしょ」
「……あるな」
見ればポテチの足元はしっかりと濡れていた。悲しそうに鳴いていたことから考えて、不服は不服なのだろう。だが、現在肉を食べているポテチは凄く幸せそうである。
「ハッハッ!」
凄い勢いで肉に齧りついているポテチ。犬小屋で生活し、お手をさせられる生き物。それは犬である。つまりポテチは犬である。フェアリーウルフ(レア)とはいったい何だったのか……。
「見ての通りこの子、ヘタレなのよ……」
「迷宮が終わったから、旅に同行させてもいいんだけど?」
「無理ね。この子のメンタルじゃご主人様との同行は耐えられないわね」
俺の提案をばっさりと切って捨てるミオ。
ポテチがヘタレと言っているのか、俺との旅が過酷と言っているのか、判断が難しいところだな。
「大人しく屋敷で番犬……、違った、頼りない愛玩番犬をしていてもらうしかないわね……」
「それは番犬とは言わない」
「マップあるし、タモさんがいるし、番をする必要はないわ。形だけ番犬っぽい子を置いておくってことよ」
「ほぼ完全にペットだな」
「そうね……」
《そのワクはゆずれなーい!》
ドーラが不思議な対抗意識を燃やしている。あ、ペット枠の自覚はあったんだ。
こうして、ポテチが家に置いて行かれることが決まった。何のためにテイムしたのだろう……。
「レアだったから……」
「クーン……」
ミオに聞いたら目をそらしながらそう答えた。気持ちは分からなくもないけどな。肉を食べ終わって話を聞いていたポテチが悲しそうに鳴く。
「で、ご主人様、どうかしたの?」
「ああ、マリア、ミオ、ドーラの3人に武器をプレゼントしようと思ってな」
《ぶきー?》
「武器、ですか?」
「なんでまたこのタイミングで?」
3人とも疑問符を浮かべる。
「簡単に言えば迷宮のクリアボーナスだ。3人の武器は伝説級じゃないだろ?ここらで足並みを揃えておこうと思ってな」
「そんな理由で伝説級を用意されるのも凄いわよね」
現在、ドーラとミオはミスリル装備を使っている。手持ちにはミスリル装備は希少級よりも上の秘宝級の装備もある。しかし、希少級と秘宝級くらいの差であったら武器を更新するよりも手になじむ品を使う方がいいと判断し、そのままミスリル装備を使い続けていたのだ。
今回は、全員の武器のグレードを伝説級で揃えるのが目的なので、流石に更新してもらう。
「まあ、折角だから使ってくれ」
「そりゃ使えるんなら使うわよ」
「ありがたく使わせていただきます」
《ありがとー!》
太陽剣・ソル
分類:片手剣
レア度:伝説級
備考:『月光剣・ルナ』装備時に効果上昇、迷彩剣、自動修復
月光剣・ルナ
分類:短剣
レア度:伝説級
備考:『太陽剣・ソル』装備時に効果上昇、迷彩剣、自動修復
マリアに渡したのは片手剣と短剣のセットだ。基本的には片手剣だけで戦っているマリアだが、二刀流も十分に使える。折角なので、1本でも強いが2本使えばさらに強力なセット装備を与えておこうと思ったのだ。
ちなみに迷彩剣とは魔力(MP)を込めると武器全体が透明になるという効果だ。普通に考えて見えない武器って怖いよね。それもマリアのように器用な戦士が持っているとなおさらだよね。あ、MPの消費はかなり多いから、普通は長時間使えないよ。
星弓・ミーティア
分類:短弓
レア度:伝説級
備考:魔力を矢に変換、飛距離大補正、自動修復
ミオには流星の名を冠する短弓を渡す。これは魔力(MP)を込めて弦を引くことで、魔力(MP)に矢と言う実体を与えて放てるという優れモノだ。弓の課題である矢の消費を完全に克服している。もちろん、普通に矢を放つこともできる。
余談だが、魔力の矢は5分くらいで消える。魔力(MP)を多く込めれば、矢も大きくなる。俺が試しに使ったときは、電信柱くらいの矢が5km以上飛んでいった。普通に戦略兵器である。
支配者の杖・レプリカ
分類:戦闘杖
レア度:伝説級
備考:魔力のステータスを一部攻撃力に上乗せできる。
正義の盾
分類:盾
レア度:伝説級
備考:防御力適用範囲拡大、自動修復
ドーラに渡したのはダンジョンマスター・レプリカの使っていた戦闘杖である。ドーラに合っているから、そのまま使ってもらうことにした。盾の方は盾で守っている部分以外にも盾の防御力を与えるという効果がある。盾部分以外は若干防御力が低いようだが、それでも十分に防御力は上がる。
『支配者の杖・レプリカ』の方は、折角東ゆかりの品があるのだから、誰かに使ってほしかったというのが本音だ。ちなみにレプリカじゃない方の『支配者の杖』は東の墓に置いてあるらしい。迷宮の隠しエリアに墓があると言うので、今度墓参りに行こうと思う。
『支配者の杖』は伝説級よりも上位の幻想級らしいが、流石に友人の墓に供えられた武器を使う気にはなれない。……東なら『気にしないでください。折角の武器を使わない方が勿体無いですよ』とか言いそうな気はするが。
「おー、便利そうね」
「はい。今後はこれで仁さまの身をお守りさせていただきます」
《すごい力をかんじるー》
「ま、武器の差が勝敗に関わるレベルはとうに超えているんだけどな」
「それを言っちゃあおしまいよ……」
俺の皮肉にミオが突っ込みを入れた。
ミオとドーラと別れ、会場の端の方で物思いにふける。
「次は浅井だな……」
元の世界において、東明、浅井義信の2人は俺の親友と呼べる存在だった。一応、2人ほど幼馴染はいるのだが、アイツ等は『親友』カテゴリではない。
親友、東明は知っての通り前ダンジョンマスターだ。学校にいた人間よりも先にこの世界に転移し、この世界で生涯を終えた。辛いこともあったようだが、不幸な最期ではなかったようだから良しとしよう。
もう1人の親友、浅井義信は恐らく勇者だ。ああ、勘違いしないように説明を加えるが、今回の召喚で呼ばれた勇者のことではない。それよりも昔に呼ばれた勇者のことだ。
異世界召喚のあった日、学会で海外に行っていた東だけでなく、浅井も学校には来ていなかったのだ。
学校に行く前に浅井の妹から連絡があったのだが、どうやら朝から行方不明だったらしい。部屋に行ったらもぬけの殻だったので、悪ゆ……、もとい親友の俺に連絡してきたということだ。
これだけなら普通の行方不明事件だが、この世界を旅してきた俺にはわかる。浅井は勇者としてこの世界に召喚されたのだ。
当然、いくつかの理由がある。
1つはカスタールで入手した『守護者の大剣』と『守護者の大楯』の存在である。
現在はセラの使っている伝説級装備だが、この武器の意匠が元の世界のゲームで浅井の使っていた装備にそっくりなのである。
これを作ったのはかつての勇者と言う話だ。この勇者が浅井……ではない。浅井のキャラクターと伝え聞く勇者のキャラクターには大きな差があるからな。浅井はあれほどアホではないし……。
生産系の祝福を持った勇者がカスタールでは非常に有名だ。しかし、この勇者は別に1人で旅をしていたわけではない。もう1人の勇者とペアで行動していたという記録が残っていたのだ。
本名は不明だが、通り名のようなものは残っていた。その名も『天眼の勇者 アーサー』である。これが2番目の理由であり、ぶっちゃけ、ほぼこれで確定である。
3つ目、最後の理由はある意味殺し文句のようなものだ。
そもそも、俺と東が異世界に転移していて、浅井だけが転移しないだなんてそんな馬鹿なことがあるわけがないだろう。
もちろん、俺よりも後に召喚される可能性だってある。でも、ここまで状況が揃っていて、『天眼の勇者 アーサー』が浅井でない可能性を考えたら、それは0%と言っても問題はないだろう。
証明としては穴だらけかもしれないが、少なくとも俺はこの世界に浅井がいたと確信している。
恐らく、浅井はこの世界で寿命を迎えただろう。
生産系の祝福を持った勇者は、カスタールで生涯を終えたという逸話が残っているが、『天眼の勇者 アーサー』は魔王を倒した後、旅に出たという記録は残っているのだが、その後の足取りが一切わからなくなっているのだ。
旅に出たという以上、女神の言い分の通り元の世界に帰ったということもないはずだ。
カスタールでも『天眼の勇者 アーサー』に関する記述は多くなかった。しかし、浅井がこの世界に来ていた以上、どこかに足跡は残っているはずだ。
東は国や迷宮に大規模なヒントを残していたから探すのが簡単だったが、浅井の足跡はほぼノーヒントだ。だから、この世界を観光しながら、ゆっくりと足跡を探そうと思う。もし、家族に宛てた手記でも残っているようなら、何とか元の世界の家族に届けてやりたいな。
「さて、そろそろパーティに戻るか……」
主役の1人がこんな隅っこにいるのも良くないだろう。
それに、話しかけては来ないけど、さっきから凄い数の人間が俺に意識を向け続けているからな。
パーティは10時過ぎまで続き、流石に締めはと言うことで少しだけ前に立って挨拶をした。はいそこ、跪かない。
翌日、俺達はシンシア達探索者組の火竜戦を見学することにした。あ、ドーラは《ドラゴンきらーい》と言っているのでお留守番だ。
ボス部屋の前でシンシア達のステータスを確認したところ、これならば余程の事がない限りは火竜にも負けないレベルまで上げられていた。
《本当はここまで上げるつもりはなかったんですけど、旦那様とは別行動であると考えたら、あと少し、もう少しと際限なく訓練をすることになってしまいまして……》
「ケイトちゃんは心配性なのです……」
「私は余裕のある方がいいです。ね、カレンちゃん」
「私は格下相手の方がいいです。ね、ソウラちゃん」
「多数決じゃ勝てないのです……」
ケイト、双子が安全志向のため多数決になると一方的にシンシアの負けとなるようだ。パーティメンバーの支持を得られない勇者……。
「まあ、俺としても無理はしてほしくないからな。次の層からもレベルが急に上がるし、余裕はあって困らないからな」
アンデッドたちも普通に戦うと強敵だからな。強くなっておくに越したことはない。
「流石にもう十分なのです!火竜を倒すのです!」
《そうですね。旦那様も見ています。皆さん、張り切っていきますよ!》
「「はい」」
「はいなのです!」
そうしてボス部屋の扉を開けたシンシア達が火竜との戦闘を開始する。
俺たちは壁の近くで見学である。
どうでもいい話だが、俺達が戦闘に巻き込まれる可能性は0である。<迷宮支配>スキルを持った俺に対して、迷宮内の魔物は攻撃をすることが出来ない。もっと言えば俺に被害を与えるかもしれない行動をとれない。その為、隅の方にいないと火竜が動けなくなるのである。
さて、戦闘が始まってから10分ほどたったが、その経過は圧倒的と言っていい。もちろん、シンシア達が有利である。
戦闘開始直後にシンシアの全力攻撃が火竜の頭にヒットした。それ以降も常に優位な状況を保ち続けている。当然ケイトのサポートあっての事だが……。
《ソウラちゃん氷魔法を右の翼に向けて放って下さい!》
「はい!」
ソウラの放った『アイスバレット』が火竜の右翼に直撃する。左翼は既に攻撃を受けボロボロとなっていたため、ふらつきながら飛行していた火竜がついに落ちてきた。
そして、着地点はケイトの放った<氷魔法>により、氷が広がっている。
「GYO?」
-ツルン-
-ドスン!-
氷と言うのはよく滑る。凍った地面を踏んづけた火竜は綺麗にすっ転び、完全に無防備な状態になった。
《今です!》
「とどめなのです!」
「「行きます」」
飛行能力を失い、HP的にも残りわずかとなった火竜に、シンシア達のタコ殴りを覆す力は残っていなかった。
「GYUEEEEEEEEEEEE……」
―バタン―
それから間もなく崩れ落ちる火竜。
残念ながらヒヒイロカネは出てこなかったようだ。まあ、そんなポロポロ出るようなモノじゃない(ハズ)だからな。
《旦那様、無事勝利いたしました!目立った被害もありません!》
「やったのです!楽勝なのです!」
「「やりました!」」
勝利した4人がこちらに駆け寄ってくる。全員大きな怪我もなく、圧勝と言っていいだろう。
ステータスが高くなったのはもちろんだが、勝利の大きな要因となったのはシンシアがあまり飛び出さなくなったことだろう。正確には飛び出した後、指示に従って引くことを覚えたというべきか。
まあ、普通の人から見たら当たり前の事なんだが、シンシアはそのせいで高いスペックを台無しにしていたからな……。
「おめでとう。シンシアも随分と安定してきたな」
「そうなのです!シンシアも成長しているのです!」
《ここまでするのには苦労しました……》
「はい……、大変だったよね、カレンちゃん」
「はい……、辛かったよね、ソウラちゃん」
やはりパーティメンバーはそれなりの苦労をしたようだ。その甲斐あって、ようやくシンシアわんこが俺抜きでの「待て」と「ハウス」を覚えたみたいだからな。
とにかく、今の戦闘を見る限り30層台でも十分に戦っていけそうだな。
「ところで旦那様、質問があるのです」
「なんだ?」
シンシアが手を挙げて質問をしてきた。
「旦那様がダンジョンマスターになったのに、私達が迷宮を進む意味ってあるのですか?私たちが火竜を倒さなくても、旦那様なら火竜のレアドロップとかも取り放題ではないのです?」
「あ、それ私も気になってた!ご主人様ダンジョンマスターになったんだから、迷宮内は自由自在なのよね?……例えば迷宮の魔物を棒立ちにさせて一方的に殴るとかもできるのかな?」
「ミオ、それは出来たとして嬉しいのか?」
「ミオちゃん……」
「ちょっ!例よ!あくまでも例だからね!」
俺とさくらが少し引くと慌てて否定するミオ。もし出来たとしても、そんな情けない方法で経験値なりステータスを稼ぎたいとは思えない。
「ミオは置いておいて……」
「置いておかれた!?」
「いつもの事ですわね」
「それも酷い!」
がっくりと崩れ落ちたミオは放置する。
「まず、俺はこの迷宮のダンジョンマスターになったが、基本的には運営をするつもりも、ダンジョンマスターの立場で一方的な利益を得るつもりもない。出来なくはないが、それは俺の趣味じゃないし、既存のバランスを崩すことになりかねないからな。だからこそ、出来ればシンシアたちには真っ当な手段で迷宮を進んでほしい」
これはダンジョンコアのシステムにも関する部分なのだが、ダンジョンコアのリソースは有限だ。正確には消費と回復のサイクルがある。現状は東の入念な調整により、常に残りリソースが一定になるようになっている。ここで、俺がダンジョンマスターの権限を使って好き勝手すると、簡単に均衡は崩れ、ダンジョンとして成り立たなくなるだろう。
まあ、俺が『好き勝手』にしたらどれだけの被害が出るのかわからないというのが、ダンジョン運営をしない1番の理由だったりするのだが……。絶対東の作り出したバランスを崩壊させるだろうからな。
「じゃあ、私達にもまだ出番はあるのです?」
「ああ、むしろここからが本番だと思っているぞ。いつになるかはわからないけど、いずれはシンシア達には到達階層を公表して、更新してもらうつもりだ」
《よろしいのですか?私たちの、恐らくは旦那様のお名前も表に出てしまいますけど?》
「ああ、構わない。俺も結構色々やってるし、この国内部で名前を隠すのは限界があるだろうからな」
この国に来た時からカスタールでの地位はチラついていたし、吸血鬼の討伐に始まり、迷宮の入り口発見、王女を助け、国王を助け、勇者を倒し、神薬を発見した。名前を隠しているモノもあるが、それでもこれだけやればどこかしら名前は漏れていくだろう。
そして、すでに頑張ってまで名前を隠蔽する必要性は無くなっている。今更気にするだけ労力の無駄だろう。
「俺の能力については当然秘密だが、俺の実績については絶対に隠さなければいけないとは言わない。もちろん、態々言う必要もないがな」
《私たちとの関係についてはいかがしますか?》
「そうだな。能力については元々の才能ってことでいいだろう。俺は『偶然、強い奴隷を手に入れた運のいい人間』もしくは、『才能を見抜く目を持った人間』くらいの評価に落ち着くようにしてくれ」
《わかりました。そのように調整いたします》
「なのです???」
流石ケイト、理解が早くて助かる。シンシアは後でケイトに聞いてくれ……。
「面倒事は増えると思うが任せたぞ、ケイト」
《はい。お任せください》
俺が指示をするとケイトのやる気が見るからに向上した。後でシンシアに聞いた話によると、ケイトのテンションは俺がいるとき、いないときで大きな差があるらしい。
シンシア達はそのまま墓地エリアを進むと言うので(ケイトのやる気が溢れているのも理由の1つ)、俺達は先に首都の屋敷へと戻ることにした。
「この国でする予定の内容は全て終わったし、しばらくしたらまた次の旅に出るぞ。目的地はアト諸国連合、そして真紅帝国だ」
屋敷に戻ってすぐ、主要な配下たちを集めて宣言した。主要な配下とは言いにくいが、ルージュたち真紅帝国組も呼んでいる。
ちなみに、この国でする予定だったことは3つ。「迷宮の踏破」、「迷宮探索のための配下育成」、「この国、または迷宮と東の関係の調査」である。どれも無事に終わったと言えるだろう。
「メンバーはいつも通り、俺、さくら、ドーラ、マリア、ミオ、セラ、タモさんの6人と1匹だ。真紅帝国に入った段階で案内役としてルージュとミネルバを加える」
「む、私とミネルバだけなのか?他のメンバーも連れていく気でいたのだが……」
俺の宣言にルージュが少しだけ不服そうに言う。
「そんなに人数がいてもしょうがないだろ。いざと言うときのためにも、足手まといは少ない方がいい」
「迷わずに足手まとい扱いされるのも悲しいな。まあ、全くその通りなのだが……」
ルージュはいまだに敬語が使えない。しかし、以前のような高圧的な雰囲気は消え去っている。
世間的には俺達とルージュ達は関係がないということになっている。しかし、時々屋敷に直接『サモン』で呼び出して模擬戦などをするくらいの事はしていた。その模擬戦において、俺達メインパーティは元より、シンシア達探索者組、さらには一部のメイド(強)にまで負ける始末である。
何度も何度も挑んでは、その度にボコボコにされていくルージュ。最終的には心が折れ、高圧的な態度が消え去ることになった。元々持っていた自信、プライド等も粉々になったようで、今ではメインパーティに対しては全員『殿』か『様』付けである。その上、時々卑屈になったりもする。ずいぶんと情緒不安定になってしまったようだ。
「ミネルバが嫌なら、他のメンバーでもいいぞ?」
「いや、そう意味ではミネルバが適任だ。1番、常識がある……」
ミネルバ以外のルージュの付き人も頷く。
「じゃあ、ミネルバだな」
それを言われたらミネルバ以外の選択肢は消えるな。
態々常識知らずを案内役にする理由はないだろう。
「国内情勢についてもミネルバの方が詳しいからな」
「あれ?じゃあ、ルージュを連れていく意味の方がないような……、必要な時に呼び出すだけでいい気がしてきたな」
「それはあんまりだろう……」
力なく項垂れるルージュ。とは言え、状況によっては矢面に立たせるルージュを連れて行かないという選択肢もない。
「まあ、元々ルージュを連れていくのは決まっているからな。嫌だと言っても連れていくんだが……」
「だったら、なぜわざわざ貶めたのだ……」
「それがご主人様よ……」
「ミオ殿……」
ルージュを慰めるミオ。うん、ミオほどではないが、ルージュもなかなかにイジり甲斐があるからな。
「さて、ルージュイジりも済んだところで話は終わりだ。各自出発の準備を進めてくれ」
「はい!」×多
特にメイドたちが元気よく返事をしていた。彼女たちは俺達が旅に出る際、<無限収納>に料理を入れたり、馬車の準備をしたりとなにかと仕事があるからな。
俺?必要な準備なんて何もないよ。メイドたちがやってくれるというのもあるけど、そもそも<無限収納>や『ポータル』のおかげで、「準備」がいらないんだ。だって、必要になったら後で取りに来るなり、<無限収納>に入れといてもらうなりすればいいから……。本当にズルい。
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ステータス
進堂仁
LV78
スキル:
武術系
<武術LV5><剣術LV10><格闘術LV10><飛剣術LV10 new>
魔法系
<魔法LV5><呪術LV4><憑依術LV4><奴隷術LV7><無属性魔法LV1><固有魔法>「リバイブ」「ルーム」「ワープ」「ポータル」「エナジーボール」「アンク」「サモン」
技能系
<技能LV3><魔物調教LV7><獣調教LV5><鍵開けLV3><泥棒LV5><恐喝LV4><統率LV10><鼓舞LV10><拷問LV3>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><縮地法LV5><気配察知LV6><索敵LV6><飛行LV10 new>
その他
<幸運LV1><迷宮支配LV10 new>
異能:<生殺与奪LV6><千里眼LV-><無限収納LV-><契約の絆LV-><多重存在LV3><???><???>
装備:霊刀・未完、不死者の翼
木ノ下さくら
LV60
スキル:
武術系
<武術LV5><棒術LV10>
魔法系
<魔法LV5><火魔法LV9><水魔法LV9><風魔法LV9><土魔法LV9><雷魔法LV9><氷魔法LV9><闇魔法LV9><回復魔法LV9><魔道LV1><発動待機LV1><固有魔法>「リバイブ」「ルーム」「ワープ」「ポータル」「エナジーボール」「アンク」「サモン」
技能系
<技能LV3>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10>
その他
<幸運LV1>
異能:<魔法創造LV->
装備:星杖・スターダスト
ドーラ
LV56
スキル:
武術系
<武術LV5><棒術LV10><盾術LV10 up>
魔法系
<魔法LV5><竜魔法LV5><固有魔法>「リバイブ」「ルーム」「ワープ」「ポータル」「エナジーボール」「アンク」「サモン」
技能系
<技能LV3><調剤LV6>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><突進LV10><咆哮LV10><飛行LV10><噛みつきLV10>
その他
<幸運LV1>
装備:支配者の杖・レプリカ、正義の盾
ミオ
LV55
スキル:
武術系
<武術LV5><剣術LV6><弓術LV10>
魔法系
<魔法LV5><固有魔法>「リバイブ」「ルーム」「ワープ」「ポータル」「エナジーボール」「アンク」「サモン」
技能系
<技能LV3><魔物調教LV3><料理LV7><家事LV4>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10>
その他
<幸運LV1>
装備:星弓・ミーティア
マリア
LV67
スキル:
武術系
<武術LV5><剣術LV10><暗殺術LV5><魔法剣LV3><神聖剣LV3>
魔法系
<魔法LV5><光魔法LV6><結界術LV2 up><固有魔法>「リバイブ」「ルーム」「ワープ」「ポータル」「エナジーボール」「アンク」「サモン」
技能系
<技能LV3><執事LV6><忠誠LV5>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><縮地法LV5><HP自動回復LV6>
その他
<勇者LV6><幸運LV1>
統合された元のスキルポイントを全て所持。
装備:太陽剣・ソル、月光剣・ルナ
セラ
LV54
スキル:
武術系
<武術LV5><剣術LV10><槍術LV9><盾術LV10 up>
魔法系
<魔法LV5><固有魔法>「リバイブ」「ルーム」「ワープ」「ポータル」「エナジーボール」「アンク」「サモン」
技能系
<技能LV3><作法LV5>
身体系
<身体LV5><身体強化LV10><HP自動回復LV6><跳躍LV10>
その他
<幸運LV1><英雄の証LV5><敵性魔法無効LV->
装備:守護者の大剣、守護者の大楯
露骨な感想稼ぎをしても感想があまり増えなかったので、テンプレをします。
『読んでくださり、ありがとうございます。ブックマーク、評価、感想などをいただけると励みになりますので、ぜひよろしくお願いいたします。』
Q:お前、50話を越えて、3章終えたところでそれを言うのか?
A:ここまで読んでくれた人なら、評価でそれほど低い点数を付けないと思うし……。多分、半数以上はブクマついてるし……。
Q:それを堂々とバラすのか?
A:小賢しい企みは自分からバラしていくスタイルだし……。
20160612改稿:
「彗星」→「流星」