第56話 迷宮主戦と迷宮保護者
ラスボス戦です。
迷宮の真実が(一部)明らかになります。
感想欄で予想されていた人もいましたが、ラスボスは「もう1人の自分」ではありません(盛大なネタバレ)。
もちろん、ラスボスを「もう1人の自分」にするアイデアも考えました。
でも、それは後のお楽しみです。エルフの森編の「鏡の儀式」までお待ちください(嘘告知)。
「えーっと、ご主人様、また1人でボスと戦いたいんですの?割とよくあることとは言え、折角のラスボスですし、私も戦いたいですわ」
フリーズから最初に復活したセラがそんなことを言う。確かに1人で戦うことは比較的多いよな。執事に始まり、最近では魔族も俺1人で倒したようなモノだな。あ、2人の名前が少し似てる……。
「仁様が御望みなのです。私に否はありません。ただ、少しでも仁様に危機が迫った際には、手を出さずにいられる自信はありません」
「まあ、同じ部屋にはいるわけだし、危なくなるまではご主人様1人で戦ってもらうっていうことでいいんじゃない?」
「私の意見は無視ですの……?」
「ご主人様が1度発言した内容を簡単に翻すわけないじゃない。諦めるのが吉よ」
「ですわね……」
マリアはいつもの通りで、ミオが落としどころを提案する。しかし、今回はその落としどころでは意味がない。
「いや、ボス部屋に入るのは俺1人だけだ。皆には申し訳ないけどボス部屋の扉の前で待っていてもらう」
「「「え?」」」
「な!?」
《?》
さくら、ミオ、セラが疑問の声をあげる中、マリアだけは驚愕の声をあげ、真っ青になっている。ドーラは話が難しそうになってきたため、横でぼーっとしている。
「ま、ま、まさか仁様がお1人で、私もセラちゃんも見ていないところで戦うというのですか?」
「ああ、そのつもりだ」
マリアが反対するのは予想通りである。1人で戦うのだったらともかく、その前に『誰も見ていないところで』が付くと、凄まじい勢いで反対するからな。それも今回は相手がわかっていない状態である。いつもより激しい反対は覚悟の上だ。
「仁様どうかお考え直しいただけないでしょうか仁様は私にとって最も大切なお方ですその仁様が誰も見ていないところで危険な目に遭うかもしれないことをするなんて私には耐えられそうにありませんそれでもし仁様に万が一のことがあれば私も後を追うことになります仁様が1人で戦うくらいなら私が1人で戦います仁様は後ろで見ていてくださいもしラスボスにとどめを刺したいのでしたらギリギリまで弱らせますのでそれで許していただけないでしょうかできれば仁様にこそ扉の前でお待ちいただきたいのですがそれは仁様の主義に反するでしょうからそこまでは言えませんもちろん1番いいのは仁様は安全な屋敷で何もしないでただただ神のように君臨していてくださることなんですけどもし外の様子が見たい旅がしたいというのでしたら配下の者の視覚を共有すれば旅をした気分にもなれるでしょうそれに配下でしたら順調に増えていますしスキルでしたら私が修得いたします仁様が積極的に動かなければいけない時期はもう過ぎたはずです仁様が旅をするのが好きと言うことで配下一同常に気をもんでいるのです本来であれば仁様の移動には配下を総動員して護衛するくらいの事はしたいのですが……」
ちょっと激しすぎやしないだろうか?途中から願望みたいのが出てきたし、後半に関してはほとんど耳を素通りしていったぞ……。
話を続けているマリアをじっと見つめる。俺の目を見たマリアは話を止めた。
「仁様の決意が固そうです……。こうなると私にはどうすることもできません……」
俺の意思が固そうなのを見て、マリアも翻意させることが無理だと判断したようだ。真っ青を通り越して死にそうな顔をしている。
「マリアちゃんは平常運転として、理由くらいは教えてくれるのよね、ご主人様?」
「ああ、もちろんだ。大した理由がないのに、そんな危険なことをするわけはないからな」
それから、俺は1人で中に入りラスボスと戦いたい理由を説明した。
そして、全員に納得してもらった俺は1人ボス部屋に入ることになった。
「仁様!本当に!本っ当に気を付けてくださいね!少しでも危ないと感じたら、いえ、少しでも危なくなるかもしれないと思うだけでも、ぜひ私をお呼びください!絶対ですよ!」
「仁君の強さは分かっていますけど、それでもやっぱり心配ですね……」
「そうですわね。ボスもはっきりしていませんし、何が起こるかわかりませんからね」
不安そうな顔をするマリア、さくら、セラ。1人で戦ってもいいとは言ってくれたが、心配なモノは心配なようだ。
「さっきも言ったけど、ボスについては予測できているし、俺なら問題なく倒せるはずだぞ?それにマリアとの約束は守るからな」
「まあ、マリアちゃんの保険はやりすぎな気がしなくもないけど……」
「何を言っているのですかミオちゃん!これでも足りないくらいです!」
マリアは俺が1人で入ることを止められないと見るや、俺の安全のためにいくつもの保険を提案してきた。ボス部屋に入ったらすぐに『ポータル』を設置することや、一部のスキルをレベル10にしておくことなどである。そして、少しでも危ないと思ったら『サモン』でマリアたちを呼ぶ。もしくは俺の危機にマリアたちが『ポータル』で飛んでくるという。つまり俺の目的を達成するためには、俺はピンチになることすら許されないということだ。
突っぱねても良かったのだが、それをするとマリアが心労で死ぬ。勇者の死因としては斬新すぎる形でマリアが死ぬ。さすがにそんなことで仲間の命を危機にさらすのもアレなので、マリアの提案を受け入れることにしたのだ。
「ああ、やっぱり心配です!」
さっきから落ち着きなくうろうろしているマリア。このままだと俺がボス部屋に入ってから間もなく追いかけてきそうだな……。それは困るんだが……。
「よいしょっと」
「あ、セラちゃん、何をするんですか!?」
セラがマリアを羽交い絞めにした。マリアがじたばたもがいている。さすがのマリアもセラに羽交い絞めにされたら抜け出すことは不可能なようだった。ヒント『ワープ』。
「少し落ち着いてくださいな。マリアさんがその調子だと、ご主人様も集中してラスボスと戦えませんわよ。そのせいで怪我でもしたらどうするんですの?」
「あっ!うう……、仁様、お気をつけて……」
羽交い絞めのまま脱力して俺を送り出すマリア。なんだか磔にされているようにも見える。
「じゃあ、行ってくる」
《はやくかえってきてねー。おみやげわすれずにー》
そう言ってボス部屋の扉を開け、中へと入っていく。……この部屋の中でお土産にできるモノって、ボスドロップしかないよな。
ボス部屋を一言で言い表すと『白』だった。床も壁も天井も真っ白で目印となるようなものが何もない。今入ってきた扉もボス部屋側は真っ白のため、扉を閉じると視界が白一色となる。
「入ったけど何も出てこないな……」
ボス部屋の扉が閉じた後も何も出現しない。
とりあえず俺はマリアとの約束を守るために扉の近くに『ポータル』を設置する。少し待ってみたが、マリアが飛び出してくるようなことはなかった。セラが止めているのか、マリアにその気がないのか……。
A:セラが必死に止めています。
……。
まあ、とりあえず問題は無いようだし、俺もさっさとボスと戦うかな。
ボス部屋は今までで1番広く、1辺が500mの正方形で高さも50mはある。
俺はボス部屋の中心に向かっていった。ゲーム知識ではあるが、ボス部屋に何もいないときはとりあえず中心に向かうべきだろう。恐らく、何らかのイベントが発生するはずだ。まあ、急に敵が出てきてびっくりすることもあるけどな。
余談だがダンジョン内で意味ありげな広場があるのに、何もイベントがなく先に進めるときは、帰り道でそこに敵が出てくると考えていい。
-ブオン―
俺が部屋の中心に到着すると、音とともに10mほど先に何者かが転移してきた。……まあ、ラスボスに決まっているんだけどな。
ダンジョンマスター・レプリカ
LV200
<迷宮支配LV10>
「支配者の杖・レプリカ」
備考:ダンジョンマスターを模倣した存在。能力は劣化している。
支配者の杖・レプリカ
分類:戦闘杖
レア度:伝説級
備考:魔力のステータスを一部攻撃力に上乗せできる。
<迷宮支配>
複数のスキルを統合したスキル。迷宮の全てを管理できる。
ラスボスはパッと見たところ、俺と同じくらいの年齢の男性だ。スーツに眼鏡と知的な雰囲気だが、人間ではないことは明確だ。何故なら肌の色が真っ白で生気がなく、まるで石膏のようだからだ。雰囲気は違うが、40層台の天使に近い部分があるな。
ラスボスはしばらく俺の方を見て、その後に手に持った杖を構えた。話をする機能がないのか、ここまで来たら話なんて不要と思っているのかは知らないが、俺としてもラスボスとだらだら話をするつもりはないので、霊刀・未完を構える。
先に動いたのはラスボスの方だ。無詠唱で複数の魔法を展開してきた。LV5魔法である『ファイアジャベリン』、『アクアジャベリン』、『ウィンドジャベリン』、『ストーンジャベリン』、『アイスジャベリン』、『サンダージャベリン』を同時に発動している。
ラスボスの持つ<迷宮支配>は俺の複合スキルと同じように、複数のスキルを1つのスキルに内包させているのだろう。その中には少なくとも<火魔法>、<水魔法>、<風魔法>、<土魔法>、<氷魔法>、<雷魔法>、<無詠唱>、<並行詠唱>が含まれているはずだ。先入観を持つのは良くないが、ここまで見た限り魔法特化だよな。
後、<無詠唱>と<並行詠唱>のコンボでは同時発動はできないから、何か別のスキルが影響しているんだろうな。
A:スキル<並行発動>です。
そのまんまなスキルだな……。
ラスボスは6つのジャベリンを俺に向けて同時に投擲してきた。
投擲が同時とは言え、着弾まで全く同時と言うわけではない。わずかな差を見切り3度刀を振るうことでその全てを切り払った。
俺が魔法を消滅させてもラスボスには一切の動揺は見られなかった。むしろこの程度はして当然だと言った様子だ。石膏っぽいから表情とかないけど……。
小手調べが終わったからか、次に同時発動してきたのはLV7の風魔法『テンペスト』、氷魔法『ブリザード』、雷魔法『サンダーレイン』の3つだった。
どれも強力な広範囲攻撃魔法で、今現在俺の周りには強風、吹雪、落雷が吹き荒れている。
LV7の広範囲魔法には他の属性もあるのだが、風、氷、雷以外は干渉しあって威力が下がるから、3つだけを使っているようだ。
「あ、歩きにくい……」
圧倒的なステータスのなせる業か、ダメージこそ無いものの横から来る突風のせいで前に進みにくくなっている。
おっと落雷が来るな。俺はひょいっと落雷を避ける。このくらいの雷なら見てから回避余裕です。
あ、ラスボスが追加で攻撃しようとしているな。3つの魔法に干渉されない雷魔法LV8の『サンダーボルト』だな。動きを阻害してから、当て難い大技を決めるって言うのはゲームではお約束みたいなものだしな。
A:3つの魔法は普通の人間からしてみたら即死級の魔法です。ただの阻害魔法に感じているのはマスターの感覚がおかしいからです。
……。
とは言え、大人しくそんな攻撃を喰らうのも性に合わない。さっさとこの魔法を消し飛ばすとするか。
「ふっ!」
少し力を入れて剣を振るう。
-バシン!-
その瞬間、俺の周囲で荒れ狂っていた3つの魔法は霧散する。そのままの勢いで<縮地法>を使い、ラスボスの前に接近する。さすがに驚愕したのか、引き腰になっている。表情は変わらないけど……。
「おらっ!」
目の前にいるラスボスに向けて斬撃を放つ。ラスボスは何とか回避しようとするも、避けきれず杖を持っていない左腕を切り落とすことに成功した。
ラスボスは片腕で杖を振るってきたが、崩れた体勢から振るわれた杖など簡単に避けられる。俺が一歩下がり杖を避けると、杖は切り落とされ宙を舞っていた左腕に直撃した。
-ドオオオオオオオオン!!!!-
その瞬間、切り落とされた左腕が大爆発をした。
「何!?」
俺もラスボスも爆発に飲み込まれて吹き飛ばされる。ダメージこそ無いものの10m以上吹き飛ばされてしまった。
空中で体勢を整え、着地してラスボスの方を見るとすでに次の魔法を発動していた。しかも左腕は元に戻っているし、HPはほとんど減っていない。そして徐々にHPが回復していく。
「随分と面倒な相手だな、おい!」
ボス側がHP回復手段を持っているのって酷いよね。その場合、圧倒的にステータスを上げて、回復以上のダメージを与えなければいけなくなるから……。
次にラスボスが放ってきたのはレベル9の火魔法『ボルケーノブラスト』と土魔法『グランドプレス』の2つだ。
『グランドプレス』は俺の上空から巨大な岩を落とすというモノ。『ボルケーノブラスト』は『ファイアボール』とは比べ物にならないほど大きな火球を数10発連射するというモノだ。それぞれのサイズや数は魔力とMPによって定まる。
ラスボスの『グランドプレス』は俺の頭上20mくらいの位置に半径50m程の平たい岩が浮かんでいる。『ボルケーノブラスト』は5m程の火球が100発は並んでいるところだ。
上からは『グランドプレス』、横からは『ボルケーノブラスト』を放つことで逃げ場をなくそうというつもりだろう。普通に考えたらかなりえぐい戦術である。せめて弾幕にしろよ。上からまとめて潰すとか、手っ取り早い手段に走り過ぎだろう。
A:弾幕はジャベリン辺りで無駄だと判断したと思います。
-ゴゴゴゴゴゴ-
浮いていた『グランドプレス』が徐々に落下してくる。ラスボス周囲の『ボルケーノブラスト』がこちらに向かってくる。
さすがに全部受けたら俺もダメージを負う可能性があるな。そしたらマリアがやってきてしまう。こちらも本格的に攻撃に移るとするか。
「飛剣連斬!」
珍しく技に名前を付けた『飛剣連斬』である。当然、<飛剣術>の事である。
簡単に説明すると、眼にもとまらぬ速さで<飛剣術>による遠距離攻撃を連射するのである。簡単である。
上空の『グランドプレス』と前方の『ボルケーノブラスト』に向けて、おおよそ100づつの斬撃を繰り出す。1つ1つの斬撃が10m程の大きさを持ち、銃弾よりも速く飛んでいく。
-ガガガガガガガガ-
ものすごい勢いで削れていく『グランドプレス』。100発撃ち切る前にすでに砂利くらいのサイズまで細切れになっていたので、落ちてきたところでダメージはない(普通の日本人なら、砂利でも30mの高さから何万個も落ちてきたら大変なことになります)。
『ボルケーノブラスト』は100対100で丁度いいように見えるが、威力はこちらの方が上だったようで、こちらには1発も届いていない。
「やっぱり、格好いいな!」
正直言って<飛剣術>は大のお気に入りである。なんていうか、俺の中二心をとらえて離さない。
っと、いつまでも技の余韻に浸ってないで戦闘に集中しないとな。攻撃に出ると決めたからには、次の魔法を発動される前に勝負を決めよう。
ラスボスの周囲は『飛剣連斬』と『ボルケーノブラスト』が衝突したことによる爆発のせいで煙が充満しており、姿が確認できない。
マップでラスボスのHPを確認するとかなり減っており、ほとんど0と言ってもいいような状態だった。『飛剣連斬』が『ボルケーノブラスト』を越えてラスボスまで届いていたようだな。
煙が晴れると、そこには首から上だけになったラスボスの姿があった。身体が破壊されてから時間がたっているはずだが、一向に再生する様子はない。杖もどこかに吹き飛んだ、もしくは破壊されているため、もはやラスボスは脅威とは言えないだろう。
と、そんなことを考えていたのがいけなかったのか、急にラスボスの目が赤い光を放ち、点滅し始めた。あ、やば……。
Q:死に体のラスボスが、最後にしてくる攻撃って何?
A:自爆です。
-ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!-
「飛剣連ざあああああああん!!!」
腕一本とは比較にならないほどの大きな爆発が部屋を震撼させる。さすがの俺もこれを喰らうと痛そうなので、『飛剣連斬』をかなりの勢いで繰り出す。『ポータル』とかで部屋の外に行けば間違いなく無事だろうけど、最後っ屁を無視するのもラスボスに失礼だからな。
爆発を全て切り払った『飛剣連斬』のおかげで、俺にはダメージは全くなかった。いやー、流石に少し焦ったよ。全く、最後まで基本に忠実だよな。
-ブオン-
ラスボスが出てきた時と同じ音がしたと思ったら、ラスボスの出現地点に光の柱が現れた。うん、どう考えてもワープポイントです。だってこのボス部屋に下の層に行くための階段とかないし……。
《ボス倒し終わったぞー》
とりあえず皆に念話で報告をした。
《あ、おめでとうございます……。マップを見ると「ワープポイント」って書いてあるんですけど、これなんですか?》
さくらが聞いてきた。お、本当だマップには「ワープポイント」って丁寧に書いてあるな。
《クリア後の報酬とかを渡す部屋に行くんじゃないのかな。ちょっと行ってくる》
《仁様!?わ、私も連れて行ってください!》
ワープポイントに入ることを伝えたら、マリアが凄い勢いで食いついてきた。まあ、それも当然と言えば当然である。ラスボスを倒したとはいえワープで別の場所に行ったら、また単独行動させるようなモノだからな。
ラスボスは倒したし、連れて行っても平気かな?このまま別行動を続けるとマリアの精神にダメージが入るぞ……。
A:多分大丈夫です。
《アルタが大丈夫そうって言っているから、マリアも来てもいいぞ》
《はい!》
《えー、私も行きたーい》
《ドーラもー!》
年少組が付いて来たそうにしている。あ、ミオは子ども扱いです。
《私はそれほど興味ありませんわ。もう戦闘もないでしょうし》
《私も後でお話を聞かせて頂ければ問題ありません……》
年長組は特に行きたいとは思っていないようだ。
光の柱のサイズを見てみるとマリア、ミオ、ドーラくらいなら一緒に入れそうである。
《じゃ、3人はサモンで呼ぶぞ。さくらとセラは屋敷に戻っていてくれ》
《はい……》
《マリアちゃん、ご主人様の事をよろしくお願いしますね》
《お任せください》
さくらとセラが『ポータル』で帰ったようでマップから表示が消えた。
「『サモン』!」
残る3人を『サモン』で呼び出す。指定した位置が光始め、すぐに3人が現れてきた。
「ご主人様!改めておめでと―!」
《おめでとー!》
「あ、私も言うのが遅れて申し訳ありません。仁様、迷宮踏破おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
出てきたミオたちが開口一番に祝ってくれた。ラスボス戦をしたのは俺だけだが、この場合ミオたちも踏破者になるのかな?
A:なりません。
あらら……。まあ、また今度皆には戦わせればいいか。本来のボスと……。
「じゃあ、早速ワープポイントに入るか。一応、踏破者は俺だからミオとマリアは手をつないでおこう」
「はい!」
「はーい」
マリアを右手、ミオを左手で手をつなぐ。
《ドーラは?》
「肩車だ」
《わーい!》
ぱたぱたとドーラが飛んで肩に乗る。手で足を押さえていないからバランスが悪いが、ドーラのバランス感覚なら落ちることはないだろう。落ちても空飛べるし。
右手に少女、左手と肩に幼女を装備した俺がワープポイントに入る。信じられるか?これ、迷宮踏破者なんだぜ?
ワープした先も、ラスボス部屋と同じように真っ白な空間だった。ただ1つ違う点があるとすれば、そこには屋敷が建っていたことくらいか。
「なんで屋敷?」
《?》
ミオが首をかしげる。つられてドーラも首をかしげる。
「それはもちろん、居住区ですから」
屋敷の扉を開けて出てきたのは……。
「バニーガール?」
「はい。前マスターはバニースーツと呼んでいました……ピョン」
そこにいたのは一言で言えばバニーガールだった。
正確には白い髪の毛を肩まで伸ばし、赤い瞳をした17歳くらいの少女だった。バニーガールの格好故に、セラやミラ程ではないが十分に発育した胸が必要以上に存在感を放っている。あ、ウサギ耳とうさ尻尾もついている。と言うか語尾……。
名前:キャロ
LV130
性別:女
年齢:68
種族:獣人(兎)
スキル:<不老LV-><迷宮支配LV5>
称号:迷宮保護者
確認したら本当にウサギの獣人だった。
「あんたは?」
「はい。私の名前はキャロと言います……ピョン。キャロットから取ったと前マスターが仰っていました」
キャロットって、ニンジンか。ずいぶんとウサギに寄せたキャラ付けだな。
「私はこの迷宮の管理、維持を担う迷宮保護者の主任、つまり主任迷宮保護者と言う役職についております。あ、……ピョン」
「語尾、時々忘れるのね……」
「ええ、ウサギならこの語尾だ、と聞いて以来、何とか口癖にしようとしているんですけど、中々染みついてくれないんですよピョン」
ミオの突っ込みにキャロが苦笑する。完全にキャラ付けであると認めてしまった。根が真面目なのだろう。アホな話まで鵜呑みにしてしまったようだ。
「貴女がダンジョンマスターなの?」
ミオの質問に少しだけ悲しそうな顔をした後、首を横に振って答えた。
「いいえ、ダンジョンマスター、この迷宮の最高管理者は現在空席となっております。主任迷宮保護者は序列で言えば第2位となりますピョン」
「繰り上がりでキャロがダンジョンマスターになったりしないのか?」
俺の質問にも首を横に振った。
「迷宮保護者は迷宮保護者です。人がいないからと言ってダンジョンマスターになれるわけではありません。そもそも、迷宮保護者と言うのは基本的に迷宮の保守・点検をすることが仕事です。ダンジョンマスターのように運営には一切権限がありませんピョン」
ダンジョンマスターが迷宮を運営し、迷宮保護者が保守点検を行うことになっているようだ。仕事が違うんだから、空席になったからと言ってそこに座れるわけでは無いのだろう。
「もっと根本的なことを言えば1度迷宮保護者になったものは迷宮保護者以外にはなれないということもあります。それにダンジョンマスターになる権利を有するのは迷宮の裏ルート攻略者の方だけです。前マスターからそのように厳命されております」
「と言うことはやっぱり……」
ミオが恐る恐るこちらを見てくる。
「はい。この迷宮の裏ルートを見事突破した、仁様にダンジョンマスターになってほしく思います」
そう笑顔で宣言するキャロ。
「2つ質問がある」
「何なりとお答えいたしましょう」
「何で俺の名前を知っている?迷宮内の活動でも覗いていたのか?」
まだ俺は名乗っていない。いや、さっさと名乗るべきだったが、微妙にタイミングを逃していたのだ。それなのに当たり前のように名前を言い当てたことから、迷宮内の監視でもしていたのかと勘ぐる。
「いいえ、そう言うわけではありません。迷宮内の監視も出来ますけど、今回は単純にダンジョンカードの情報を読み取っただけです。あれは迷宮側が主導して作り方を教えたものですから、情報はこちらに集められているんですよ。名前を調べるくらい簡単です。それ以外の迷宮産のアイテムの多くも、元々はこちら側で用意したものですよ。あ、ピョン」
やけに都合のいいアイテムがあると思ったら、最初から迷宮側が与えていたものだったということか。何の利益があるのかは知らないけど。
「なるほど、理解した。じゃあ2つ目。前ダンジョンマスターはどうなった?」
キャロは少しだけ言葉に詰まる。
「……前マスターは随分と昔に亡くなっておられます」
「そうか……。もう死んでいたか……」
もしかしたらと思って聞いたが、やはり前ダンジョンマスターは死んでいたか……。残念ではあるが、それは言っても仕方のないことなのだろう。
「質問は終わりですか?急に決められることではないと思いますので、質問はいくらしてくださっても構いませんよ」
「ああ、質問したいことは色々あるが、これだけは先に言っておく」
「何でしょう?」
「俺はダンジョンマスターになる」
俺はキャロにはっきりと宣言した。ダンジョンマスターになる覚悟は50層の扉の前で既に終わっている。
「……そうですか。やっぱり、前マスターの手記を読んでいたのですね……ピョン」
「ああ。しっかりと読んできたさ。なんたって親友が異世界で残した手記なんだからな」
「はあ……。やはり、前マスター、アズマ様のご友人でしたか……」
キャロがため息をつく。キャロも予想はしていただろう。ダンジョンマスターの資格を得てここに来る人間がどんな人間なのかを……。
俺の元の世界の親友、東明。彼が作った迷宮を引き継ぐのに、俺以上に相応しい人間はいないだろう。
感想欄にも予測していた人がいなくて一安心です。
伏線をほとんど入れてないので、そもそも気づけるわけないと言えばそれまでなんですが。
外伝で東が出てきたのが2章終わり。3章の途中でも外伝で出てきた(しかもダンジョンやってた)。ある意味それが一番の伏線(作者の心情的な意味で)。
前書きの「明らか」は東明の「明」とかけています(余計な小ネタ)。