第55話 反逆者と最終層
短編と同時投稿です。
短編を見たい人は「前の話」を押してください。短編の重要度は低めです。
こうすれば最新話が本編になると思ったので実験です。
「ほいっと」
<縮地法>により接近し、目の前にいるエンジェル・アーチャーを一刀両断にする。
「はっ!」
「そいやっ!」
マリアの剣がエンジェル・ウィザードを切り裂き、ミオの放つ矢が空中を飛行するエンジェル・ソードマンを撃ち落とす。
ステータスは30層台からほとんど上げていないが、まだまだ十分に余裕があるようだ。ここに来るまで、ほとんど傷らしい傷を負わずに天使たちを倒してきている。
「『ダークボール』!」
さくらの放った<闇魔法>がエンジェル・ガードナーの盾を避けて本体に直撃する。『ダークボール』は放った後も多少なら操作ができるからな。
天使と聞いて竜人種や吸血鬼のような人型の魔物を想像していたんだが、若干思っていたのとは違った。簡単に言えば羽が生えて法衣を着たマネキンだ。顔には目などはなく簡単な凹凸だけであり、切っても血がでない。そのため、さくらも躊躇なく攻撃を加えることができている。
「エンジェル」の後に「ソードマン」とか色々付いているから、武器を落とすのかと思いきや、武器は本体と一体になっているため、俺たちが武器として使うことはできなそうだった。例えばエンジェル・ソードマンなら、両手の手首より先が剣になっている。食事とかどうするのだろう?
そんなことを考えながら戦っていたら、いつの間にかこの場にいた天使たちは全滅していた。当然全員無傷である。
マップを見た限りだと次の層への階段まで敵の姿は見えないな。
「これで、41層も終わりだな」
「はい、わかってはいましたけど随分と時間がかかりましたわね」
「疲れたー。これが後9層もあるのかー」
《ドーラはまだいけるよー》
この日は1日かかって何とか41層を踏破することができた。分かってはいたが、階段間の距離が長いため、1日の大部分が移動時間となってしまった。
「これ以上続けると地獄モードに入るけど、ミオは構わないか?」
「構います!帰ろ?ドーラちゃん」
《はーい》
「ほっ……」
ミオが安堵の息をつく。
「ミオちゃんは本当に怖いのがダメなんですね……」
「さくら様は怖いの平気みたいで羨ましいです」
「ミオちゃんもショック療法、します?」
「え、遠慮します……」
さくらの誘いには不思議な迫力があった。まあ、さくらが怖いの平気なのは必要に迫られた結果らしいからな。ミオも同じ方法で怖がりを治したいとは思えないだろう。
そのまま少し歩き、42層への階段へと到着した。
このエリアの魔物たちは単独行動をせず、数体の集団で行動をしている。そしてその集団内では同種の天使が複数いることはあまりない。
集団行動をする代わりというわけでもないだろうが、この層の敵の数はそれほど多くなく、比較的戦いやすい。
41層ではソードマン、ウィザード、アーチャー、ガードナーが1体ずつの計4体一組で行動するパターンが1番多かった。推測ではあるが、今後このパターンが増えていき、敵が強化されていくのだろう。
「『ポータル』の設置、終了いたしました」
「マリア、ご苦労様。じゃ、今日はこのくらいにしておこうか」
「はい」×4
《はーい》
階段を下り、42層へ到着したところで『ポータル』を設置し、この日は帰還することにした。
「っと、その前に……」
「仁様、どうしたんですか?」
「ああ、モードが変わる瞬間ってのを見てみたくてな」
時間が来たら反転するとは聞いているが、実際に見ないとどう変わるのかはわからないからな。
「そうですね……。どうなるんでしょうか?」
「あ、あたしはパスね。先帰ってます」
ミオはそそくさと『ポータル』で帰って行った。そんなに嫌か……。
まあ、もう戦闘するつもりもないから構わないけどな。
それから10分もせずに7時になった。
その瞬間、周囲の通路が下から上に向かって急速に変色し、白から黒に塗りつぶされていった。白から黒に変わるのと同時に装飾の類も形を変え、不気味で悪趣味な物になっていく。
迷宮の終着点・心臓部が下の階層だから、変化も下から上に上がっていくということかな。
「しまったな。魔物が反転するところも見ればよかった」
折角モードが変化する瞬間を見るというのなら、魔物の変化もついでに見れば良かったと気付いたのは、全ての変化が終了した後だった。
「機会はまだ後8回あります……。朝の変化も合わせればもっとあります……。焦らなくても大丈夫ですよ……」
「それもそうだな」
マップを見ると魔物が近づいてきたので『ポータル』により帰還し、その日の探索は終了となった。
次の日、俺とドーラは迷宮の中を<飛行>スキルで移動していた。ドーラは自前、俺は不死者の翼を用いている。
昨日の探索を経て、歩いて移動するのは時間がかかりすぎると判断した俺は、戦闘中以外は飛行で移動することにしたのだ。これだけでかなりの時間短縮になるからな。
昨日、屋敷に帰ってから色々と試して分かったのだが、不死者の翼で人を掴んだ状態で<飛行>スキルを使えば、全員まとめて飛行による移動ができるようだ。もちろん、見た目の不格好さには目をつむる。
俺とドーラだけ飛行し、敵がいたら『サモン』で呼び出すという手もあったのだが、マリアが俺から離れるのを嫌がったため、全員移動をすることとなった。
「ぶらーん」
「ミオちゃん、いくら何でもそこまで気を抜くのはどうかと思いますよ……」
不死者の翼に掴まれた状態で完全に力を抜いているミオをさくらがたしなめる。
ミオ、ホラー以外は神経太いよな。
また黒か……。あ、さくらはちゃんとガードしているよ。
「重くないですの?大丈夫ですの?」
「大丈夫だって、軽い軽い」
「なら、いいですわ……」
若干自分の体重にコンプレックスのあるセラがしきりに確認してくる。MP消費で持っているから、俺自身が重さを感じることはないんだけどな……。
《ごしゅじんさまといっしょー!》
横を飛んでいるドーラは凄くご機嫌である。俺と一緒に空を飛ぶというのがとても嬉しいようだ。そういえば俺の配下で空を飛べるのってタモさんとミラだけだな。今後もドーラと一緒に空を飛んであげよう。
敵と接近したら皆を下して戦闘をし、終わり次第また飛行するということを繰り返した。このエリアには罠がないからこそできる戦術だ。相手が天使と悪魔で空を飛ぶということを考えると不死者の翼はこのエリアの攻略を助けるために死神からドロップしたのかもしれないな。まあ、<飛行>スキルもレベル1だと恩恵は小さいけど、無いよりはマシだということだろう。俺の場合は<生殺与奪>で無理矢理レベル10にしているけど……。
飛行による大幅な時間短縮の結果、20層台までと同じく半日で1層の合計2層、43層まで攻略できた。
あ、ついでに魔物の反転を確認しておいた、正直に言って気持ち悪かったな。時間になった瞬間、天使達が痙攣をはじめ、身体の表面が裏返ったようになって悪魔へと変貌した。もちろん、エンジェル・ソードマンはデーモン・ソードマンに変化していた。
当然のように新規の天使たちが増え、6~7匹程度の集団が基本となった。
エンジェル・ナイト
LV110
<槍術LV7><盾術LV5><格闘術LV6><光魔法LV6><身体強化LV7><飛行LV7><反転LV10><迷宮適応LV7>
備考:天使の兵士。
エンジェル・スマッシャー
LV112
<槌術LV7><斧術LV7><格闘術LV6><光魔法LV6><身体強化LV7><飛行LV7><反転LV10><迷宮適応LV7>
備考:天使の重戦士。
エンジェル・ヒーラー
LV111
<光魔法LV8><回復魔法LV8><身体強化LV7><飛行LV7><反転LV10><迷宮適応LV7>
備考:天使の僧侶。
久しぶりに出てきた魔物をすべて列挙しているけど、どうせ天使しか出てこないんだよな……。
次の日、その次の日と攻略を進め、48層に到達した。1層ごとに1~2匹の新しい天使が出てきて、それに対応するように1パーティの天使の数も増えていく。現状、天使のパーティは13匹の大所帯である。
新しく出てきたのは6種類。ファイター、アサシン、ドルイド、スナイパー、ガーディアン、ジェネラルである。
スナイパー、ガーディアン、ジェネラルはそれぞれアーチャー、ガードナー、ナイトの上位職のようで、単純強化されていたり、出来ることが増えていたりする。これらの上位職は46層を越えたあたりから出てきたので、40層台の後半戦を意識した配置と言うことだろう。
「お、この層の追加天使はなかなか面白いな」
48層の攻略中、久しぶりに興味を引くような面白いスキルを持った天使が現れた。
エンジェル・アベンジャー
LV119
<剣術LV8><盾術LV8><格闘術LV8><光魔法LV6><身体強化LV7><飛行LV7><反転LV10><迷宮適応LV7><反逆LV7>
備考:天使の復讐者
<反逆>
半径10m以内にいる「異界の勇者」からの被ダメージを低減させ、「異界の勇者」への与ダメージを増加させる。
半径10m以内の祝福の効果を制限する。この効果は迷宮内でのみ有効となる。
転移勇者を殺す気満々である。
本来、スキルよりも祝福の方が優先度が高いため、スキルでは祝福を打ち消したりすることは困難である。しかし、このスキルは迷宮内限定ではあるが、祝福を制限できるというのである。
例えば、俺たちの世界から勇者として召喚された者が意気揚々と迷宮攻略に乗り出したとしよう。祝福の効果は強力だから、普通の人間よりもはるかに有利に攻略を進められるだろう。
そして何も知らぬままこのエリアでエンジェル・アベンジャーと戦った場合どうなるだろうか。戦いの感覚が急激に変わり、下手をすると、いや、結構な確率で命を落とすだろう。
迷宮の作成者は勇者に何か恨みでもあるのだろうか。それとも勇者の祝福で攻略されるのが嫌だったのだろうか。
俺には前者のように感じる。なぜならばこのスキルを持っているのが迷宮のほぼ最奥の魔物だからだ。祝福を使ってほしくないだけだったら、このスキルは1層とか2層の魔物から持たせておくべきだろう。そうすれば祝福持ちの勇者には不利だという噂が広まり、迷宮へ挑む勇者は自然と減っていくからな。
あえてこんな奥で<反逆>を持たせているということは、もうすぐクリアだという希望を持った勇者を、ギリギリで絶望に叩き落とすためなのではないだろうか。まさしく、祝福で無双をしていた勇者への反逆のように……。
「うーむ、多分大丈夫だとは思うが、俺とさくら、マリアの与ダメージ、被ダメージを検証するか」
俺とさくらは「異界」、マリアは「勇者」に引っかかる恐れがあるからな。念のためと言うやつだ。
A:多分大丈夫です。
「じ、仁様お止めください!私はともかく仁様がそのような危険を冒す必要などありません!」
マリアが必死の形相になって俺を止めようとする。
「アルタも多分大丈夫って言っているから、多分大丈夫だろ」
「しかしっ!」
珍しく食い下がってくるマリア。ん、もしかしてマリア勘違いしてないか?
「マリア、検証するのは倒して奪ったスキルを使って仲間内での実験だぞ?戦闘中に攻撃を食らうってわけじゃないからな?」
「えっ?あっ……、すみません……。勘違いをしていました……」
やっぱり、戦闘中に実験するつもりだと勘違いされたようだ。勘違いに気付いたマリアが赤くなる。確かに少し紛らわしかったかもしれないな。反省反省。
「まあ、心配なのはわかるが、そこまでの無茶は……多分しないぞ?」
「仁君、そこは自信をもって言い切りましょうよ……」
「ご主人様なら、そのくらいのことはしかねないから……」
さくらとミオが苦笑する。
うん、今までの俺の行動を鑑みるとやりかねないな……。
少し歩き、エンジェル・アベンジャーを含む天使集団に接近した。
「私の弓で狙い撃つ?」
「いえ、ミオさんも念のため下がっていてください。ミオさんも絶対に大丈夫とは言い切れませんし……」
「あ、そっか。称号に「異界」も「勇者」もないけど、「転生者」はあるからね。何が引っ掛かるかわからないのは怖いわね」
確かに何が引っ掛かるかわからない以上、出来るだけ安全策を取るべきだろうな。
A:多分大丈夫です。
「危険を冒す必要はありませんわ。私とドーラさんで行って殲滅してきますわ」
《おー!》
そういって2人は魔物のほうに向かおうとする。
「待て、『サモン』。ほら、タモさんも連れていけ」
2人でも問題はないだろうけど、念のため掃討戦の強い味方、タモさんを呼び出して放り投げる。タモさんはセラの肩にベチャッと着地?する。
「わかりました。行ってまいりますわ」
《……行く》
《ごー!》
タモさんも配下メンバーの中では比較的古参に当たる。ステータスの配分の都合上、俺の配下は古参メンバー程強くなりやすい。そのため、実はタモさんも相当強い。具体的には天使を数匹まとめて相手にしても余裕で勝てるくらいである。
まもなく、マップ上から敵の反応が消え、セラたちがこちらに戻ってくる。<反逆>スキルも回収済みである。
その後、色々試してみた結果、俺たちには<反逆>スキルの影響はないということが証明された。
祝福封じは迷宮限定のようだが、ダメージの変動は迷宮外でも有効なようなので、今後「異界の勇者」共と事を荒立てることがあったら使ってみよう。日下部の件もあるから、可能性は低くないだろうしな。きっとビックリするぞ。
問題がないことが分かったので、48層も午前中に攻略することに成功した。昼食後に49層に下りると、またしても新規スキルを持った魔物が現れた。
エンジェル・ワイズマン
LV120
<火魔法LV7><水魔法LV7><風魔法LV7><土魔法LV7><雷魔法LV7><氷魔法LV7><光魔法LV7><回復魔法LV7><並行詠唱LV7><飛行LV7><反転LV10><迷宮適応LV7>
備考:天使の賢者。
<並行詠唱>
魔法を複数並行して詠唱することができる。同時に詠唱できる数はスキルレベル+1。
つまりこの天使は最大8つまで魔法を並行して放てるというわけだ。
「えいっ、ですわ!」
面倒なのでエンジェル・ワイズマンの相手はセラに任せることにした。<敵性魔法無効>のスキルにより、並列で何発魔法を撃たれても全部無効にするので、せっかくのスキルが活躍することなくエンジェル・ワイズマンは崩れ落ちた。
「セラは魔法使い相手なら簡単に完封できるよな」
「さっすが英雄!」
「それほどでもありませんわ」
謙虚なことを言っているが、実際にはかなりの上機嫌なのが見て取れる。大きな胸を張って、凄いいい笑顔をしているからな。
魔法使いの強敵が出た場合は、セラを前に出せば大体楽勝である。さすがメイン盾。
余談だが、胸を張っているセラを見て、自分の胸と比べたさくらが悲しそうな顔をしていた。ちなみにさくら(16)はこのパーティの中で2番目に胸が大きい。マリア(12)、ミオ(8)、ドーラ(5)と比べるのもどうかと思うけど……。あ、マリアは栄養状態を改善してから、徐々に大きくなってきているので、もうすぐさくらに追いつきそうである。余談終わり。
<並行詠唱>を実際に試してみたかったので、5匹ほどエンジェル・ワイズマンを倒して、スキルレベルを10まで上げる。いや、レベル7でそのまま使ってもよかったんだけど、折角ならレベル10にしてから使ってみたいだろ?
と言うわけで次の戦闘で使ってみることにした。
―ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドオオオン!―
何の音かって?『ファイアーボール』121連発が敵に直撃する音だよ。試してみたら<無詠唱>と合わせて使うことができたんだ。いくら<無詠唱>と言っても、実際には発射まで多少のタイムラグがある。そのタイムラグと並列の発動を上手く合わせることで、隙間のない連射が可能になったのだ。
それで折角だから11の二乗で121発撃ってみたというわけだ。
ちなみに詠唱は並行でも、魔法の発動自体は1つずつしかできない。それに<発動待機>のスキルがないと、詠唱が終わった瞬間に魔法が発動するから、意外とマネジメントが大変だったりする。
一応、言っておくと<無限収納>に魔法を入れておけば似たようなことはできるけど、極力ストックの魔法は使いたくないからな。普通に入れるのが面倒だし……。
「うわー、敵さん『ファイアボール』だけで全滅しちゃったよ」
「さすがにあれだけ撃てば当然の結果だと思います……」
ミオとさくらが若干引いている。
「原型を残しているのもガードナー、ガーディアン、ワイズマンの3匹だけですわね」
あまりの威力と連射により、ほとんどの天使たちは焦げた何かへと変貌していた。盾装備で防御力の高い2体と、魔法に対する抵抗力が高そうなワイズマンだけが原型を残した。
当然HP自体は全員0になっている。本当は70発も撃つ前にHPは全員0になってたんだけどな。
「こりゃ普段使いする戦術じゃあないな」
「そうですわね。あまりにも一方的になりすぎて戦闘になりません。ステータスを落としている意味がどこかへ消えそうですわ」
「経験値がほしいだけなら、飛行しながらこれを繰り返せば十分だけどな。30層台でアンデッドたちにやったのと同じようなことができるからな」
ファンタジーRPGじゃなくてシューティングゲームになるけど……。迷宮が舞台のシューティングゲームとか斬新すぎるだろう。
「まあ、残りあと2層だし、経験値目的ってわけでもないから、そこまでしなくてもいいだろう」
面白かったが、運用しようと思ったら殲滅用にしかならないため、迷宮内では<並行詠唱>スキルはお蔵入りと言うことになった。地下迷宮だけに。
……。
A:……。
その後も攻略を進め、日が落ちる前には49層の攻略が終わった。
帰る前に50層への階段を下り、50層で新しく出現する魔物を確認する。マップで確認すれば済むような話なんだが、この迷宮には1つそれを邪魔する仕様があるのだ。それは『誰も到達していない層には魔物が出現しない』というものだ。考えてみれば理解できないこともない。誰も来ていないのに魔物の準備をしてウロウロさせるのも無駄だろうからな。
恐らく、未踏破の層への階段を下りているときに新階層の魔物がポップするはずだとアルタが言っていた。逆に言えば階段を使わなかった場合、魔物はポップしない可能性がある。
例えば『床に穴をあけて下の層に降りる』と言う方法をとったならば、ルールの外を突くことになり、魔物すら出てこないで攻略できていたかもしれない。いや、絶対にしないけど……。ちなみに1人でも階段を通って新しい層に足を踏み入れたら、それ以降は魔物もきちんと徘徊するので、同じ方法を使うことはできない。最初の1人が無法者だった場合のみに起こる謎ケースと言うわけだ。俺は無法者ではないのでそんなことはしない。
と、言うわけで最後の追加天使だ。
アーク・エンジェル
LV125
<統率LV9><鼓舞LV9><飛行LV9><反転LV10><迷宮適応LV9><光輪LV8>
備考:大天使。
エンジェル・ソードマスター
LV125
<剣術LV9><格闘術LV8><飛剣術LV8><光魔法LV6><身体強化LV9><飛行LV9><反転LV10><迷宮適応LV9>
備考:天使の剣豪。
<光輪>
闇属性攻撃のダメージを低減する。パーティ内の天使のステータスを上昇させる。
<飛剣術>
斬撃により衝撃波を飛ばせるようになる。飛距離・威力は本スキルと<剣術>スキルの高さに依存する。
完全な指揮官タイプ(戦闘力低め)とソードマンの上位職と言ったところか。どちらも未所持のスキルを持っている。最終層付近はレアスキルの宝庫だな。
A:そういう設定なのでしょう。
ちなみにラスボスはエリアが異なるようで確認できなかった。まあ、明日のお楽しみと言うわけだ。
翌日、最終層の攻略を開始した。
「あっちなのです」
「「結構遠いです!」」
《ラスボスと言うことである意味当然ですが、この層にはボス部屋は1つしかありません》
火山エリアに行く前に引っ張ってきた探索者組にボス部屋の位置を確認したところ、結構離れた所に1つだけボス部屋があると言われた。
まあ、最終層にいくつもボス部屋があってもアレだしな。ある意味当然か。
「旦那様たち攻略が早すぎるのです!私たちはまだ火竜も倒していないのです」
《ステータスも上がってきたので、明日にでも火竜に挑もうと考えていたところなんですよ》
ステータスを確認してみると、確かに火竜を相手にしても十分に余裕を持って戦えるであろう値にはなっていた。
「丁度いいな。今日中にラスボスは倒す予定だし、明日はシンシアたちの火竜戦でも見学するかな……」
《旦那様が来るのですか!……絶対に無様な戦いは出来ません。シンシアちゃん、カレンちゃん、ソウラちゃん今日はいつもより厳しめで行きますよ!》
「は、はいなのです!」
「はい!ケイトちゃん本気だね」
「はい!ケイトちゃん真剣だね」
シンシアも大分大人しくなったようだ。いや、正確にはケイトに手綱を握られているといった感じか……。まんま、犬と飼い主みたいな関係だな。
ケイトは目が見えないから盲導犬と言ったところか。あ、躾のなっていない犬に盲導犬は無理だわ。
4人を火山エリアに帰し、俺たちは50層を進んで行った。もちろん、飛んで。
「結構、強くなってますわね」
「そうですね。あの光輪と言うのは面倒です。パーティ全体が強化されているせいで、下級の天使相手でも1発余計に攻撃を加えなければいけません」
セラとマリアの前衛2人がぼやく。<光輪>スキルを使っているアーク・エンジェルが天使パーティ全体を強化するせいで、敵を倒すのにも余計な力が必要となっている。余談だが、アーク・エンジェルが<光輪>を使うと頭の上ではなく、背中に大きな光の輪が現れた。意外と格好良かった。
エンジェル・ソードマスターは<剣術>と<飛剣術>により、近距離戦、遠距離戦両方で活躍するので、なかなかに鬱陶しい。まあ、遠距離戦ならともかく、近距離戦ではセラとマリアにあっさりやられる程度ではあるのだが……。
当然ではあるのだが、まだまだ俺たちは全力ではない。ステータスを相当に落とした上で少し手間取るようになった、と言うだけである。そもそも、闘うたびに上限は上がっていくのだから、ステータスは落とす一方である。
そうは言っても、敵の強化は馬鹿にならないレベルであり、これが普通の探索者だった場合、49層に比べ急激に強くなった天使相手に苦戦、あるいは全滅することもあるだろう。何回も感じたことだが、30層より先はいろんな方法で探索者をつぶしに来ている。それも初見殺しで……。
何回も戦闘を繰り返し、昼を少し越えたあたりでエリアが切り替わる。やっとボス部屋が確認できた。
しかし……。
「あれ?ご主人様、ボス部屋に何もいないんだけど?」
ミオが疑問の声を上げる。ボス部屋はあるのだが、その中には何の反応もない。
死神含め他の層のボスたちはボス部屋の中で動かずに探索者たちを待っている。今までの層ではボス部屋だけは最初からボスが設置されていたのである。
「仁様のマップが間違えるはずがないので、本当に何もいないのでしょう」
「50層にはボスがいないということですか?さすがにそれは考えられないと思うんですけど……」
もちろん、マップが間違えているなんてことも、50層にボスがいないなんてこともない。
「多分、まだ何が出現するかが決まっていないんだと思うぞ」
「あ、モードによって出るのが変わるんだ!」
「なるほど、ボスだけは反転せずにその時のモードで出てくるのが変わるということですわね」
ミオとセラが勝手に納得してしまった。俺の言いたかったのは違う意味なんだが……。まあ、後でわかるからいいか。
そうして、さらに戦い続けてボス部屋に着いたのは日が暮れる少し前と言ったところだった。
「このボスさえ倒せば、長かった迷宮もいよいよ終わりってわけね。あ、この扉も見納めなのね」
ミオが感慨深そうに扉をなでる。そこにはボスとなる魔物が書かれてはおらず、階層である50などと書かれているだけだった
しばらく扉を眺める。うん、やっぱりそうだよな。……仕方ない。
「皆に1つ頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」
意を決して皆に切り出す。マリアには反対されるかもしれないな。
「何ですか、仁君?改まって……」
「ご主人様の頼みを断る人がここにいるとも思えませんが……」
「そうですわ。何でも言ってくださいな」
《まかせろー!》
「おー」
皆が肯定的に話を聞いてくれるので、俺も遠慮なく切り出すことにした。
「ここのボス、1人で倒させてくれないか?」
「はい?」×4
《ほえ?》
俺以外の全員が固まった。
次週、ラスボス戦!
あ、3章はあと3話です。