表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/355

第54話 死神戦と反転エリア

先週、今週と体調不良で筆が進まず、ストックが目減りしています。

後数話で3章が終了するのですが、4章開始まで少し時間がかかると思います。

その間は短編や登場人物紹介でお茶を濁すかもしれません。

4章も概ね書きあがっているのですが、出来ればその章を開始するのは、その章がすべて書きあがってからにしたいと考えています。

1章分のストックを保持していると、修正とかが凄く楽です。

 ゼルベインを討伐した次の日の夕方、俺たちは40層のボス前まで来ていた。


「あれ?予定よりも早くない?」


 ミオが疑問の声を上げる。

 ボス前なので耳栓とかを外したが問題はないようだ。


「次の予定も決まったし、ミオも怖がっているから少し全力を出した」

「それは……助かるけど」

「そして全力を出しすぎたせいで、どんな魔物がいたのか覚えていない」

「前人未到のエリアをそんなあっさりと……」


 ここまで出てきたアンデッドは<亡者アンデッド>スキルを奪って瞬殺してきたから、どんな奴がいたのか記憶に残っていはいない。多分結構いろいろ倒しているはずなんだけど……。アルタに聞けば教えてくれるとは思うけど、教えてもらってもそれを活かす機会があるのだろうか……。


A:新規スキルだけ列挙します。<霊視>、<催淫>、<腐敗攻撃>、<腐敗耐性>。


 あ、それは助か、……後で<催淫>について詳しく教えてくれ。


A:はい、お任せください。


 いや、うん。気になるよね?



 いつものように扉にはボスの絵が描かれている。黒いローブで全身を覆った姿だ。顔はフードで隠れており見えず、大きな鎌を持っている。どう見ても死神である。


「ここのボスは死神グリムリーパーだな」

「げっ!死神……」

「ミオちゃん、どうかしたんですか?」

「いやマリアちゃん、ゲームの中で死神って強キャラなのがセオリーみたいな部分があるのよ。特に迷宮系で死神って言ったら大体会いたくないキャラトップ3に入ると思う」

「俺も覚えがあるな。俺の知っているゲームでは徘徊系の死神が特に怖かったな」


 ゲームにおいて迷宮内を徘徊しているタイプの死神は下手したら出会っただけで即死することもある。


「あー、あるある。大体勝てないほど強く設定されているのよね」

「そうそう」


 逆にそういった強キャラを狩るという楽しみ方もあるんだけどね。俺はどちらかというとそっちのほうが好きだったな。


「そういうのから見れば、ボス部屋で大人しく待っているここの死神は良心的なんじゃない?」

「いや、次のエリアの扉を守っているだけだからな。別に良心ではないからな?」

「あのー、少しいいですか?」

「なんだ?」


 俺とミオが死神談議に花を咲かせていると、さくらが手を挙げて質問してきた。


「死神なのにボス部屋で大人しくしていて良いんですか?地獄に送るべきアンデッドが周りに大量にいるんですけど?」

「……確かに言われてみれば違和感があるよな。墓地エリアにいるのに何もしてない死神ってさ」


 墓地とか死神にとっての仕事場みたいなものじゃないか。そこで何もしてないってどうなのだろう。職務怠慢か?人選ミスか?


「あるいは、ボスが地獄に送るのは探索者の魂だけってことかもしれないな」

「もしそうだとしても、わたくしたちが相手ではどのみち仕事なんてできないですわね」

《ふびーん》


 今まで40層に到達した探索者はいないという話なので、このボスと戦うのは俺たちが初めてのはずだ。死神の方も初めて探索者と戦うのだろう。その最初の相手が俺たちというのは不憫以外の何物でもない。

 その可哀想な死神のステータスはこちらである。


死神グリムリーパー

LV80

<鎌術LV7><闇魔法LV5><呪術LV6><浮遊LV7><亡者アンデッドLV5><門番LV7><迷宮適応LV7>

備考:大鎌を使う死神。空中を自在に動き回り、他者を殺すことに特化している。


 またレベルが急に上がったな。30層のボスである火竜フレイムドラゴンの時もそうだったから、30層ボス以降の仕様ということなのだろう。……こうなると50層ボスがどれだけの高レベルなのか楽しみだな。


 スキルは当然だが火竜よりもさらに強力になっている。構成を見る限り、空中を浮遊しながら鎌を振るったり、<闇魔法>や<呪術>を使ってくるのだろう。下手をすると一方的な虐殺になりそうな相手だな。さすが死神といったところか。

 ……色々と考察したけど、<亡者アンデッド>スキルを持っているのが1番の問題だな。いいの?スキル奪って倒していいの?


「どうしようか?まともに戦うべきか、スキルを奪って瞬殺するか……」

「瞬殺でお願いします。さっさと次のエリアに行きましょ!」


 ミオはさっさと墓地エリアを終わらせたくてしょうがないようだ。マップで確認できる次のエリアも、実を言うとアレなんだけどね……。


「闘いたい人は『ポータル』置くから、時間の空いた時にやってちょうだい!」

「他の皆はどうだ?」


 他のメンバーの意向を聞いてみる。セラあたりは闘いたいというかもしれないな。


「私は仁様に従います」

「私は瞬殺でいいと思います……」

《ドーラもー!》


 マリアはいつも通り。さくら、ドーラは瞬殺に賛成のようだ。さて、問題はセラである。シンシアのような戦闘狂というわけではないが、1番活躍できる戦闘にはできるだけ参加したがっているからな。


わたくしはどちらかというと戦ってみたいですけど、ミオさんがここまで言っているのに意見を通す気はありませんわ。必要でしたらミオさんの言う通り後日挑みますわ」

「その時は私もお供します」

「よろしくお願いしますね、マリアさん」


 セラもミオに気を使ったようだ。瞬殺4、マリア1で瞬殺に決まりそうなので、ミオもホッとした顔をしている。ちなみに俺は6票持っているので、最終的な決定権は俺にある。多数決とは、民主主義とは一体何なのだろうか……。


 それはともかく、後でセラとマリアを相手にしなければいけない死神が不憫である。

 死神グリムリーパーは見た目を裏切らずに<光魔法>が苦手なようだ。そしてマリアの<光魔法>のレベルは6である。多分、(前に奪った)ユニークスキル<神聖剣>とかも有効だろう。さらにセラには魔法が通じない。スキルの内の<闇魔法>と<呪術>を封じられ、高い防御力を誇るセラには<鎌術>も有効とは言えないだろう。

 ……これ、<亡者アンデッド>のスキルを奪わなくても瞬殺なんじゃないだろうか?


 閑話休題。



「じゃあ、ミオの希望通り瞬殺コースだ」

「よっしゃ!」


 多数決(風)に則り、瞬殺に決定した瞬間にガッツポーズを決めるミオ。そんなに嬉しかったのだろうか。

 さすがにここから上げて落とすような真似はしない。……少ししたいけど。


「じゃあ、扉を開けた瞬間に倒すから」

「頼んます」


 セラとマリアが扉を開ける。ボス部屋は火竜の部屋よりは小さいがミノタウロスやエルダートレントの部屋よりは大きく、縦横100m、高さ20mくらいである。一応、こいつも空を飛ぶから天井高めの設定のようだ。

 全員が入った後に扉が閉まる。


「はい、おしまい」


―バサッ、カツンッ―


 何かが落ちるような音がした。多分ドロップアイテムだろうな。

 そう思っていたら、マリアがドロップアイテムを拾いに行った。よく働く子ですね。


「本当に瞬殺ね」

「そうですわね」


 ミオとセラが呆れたような声を出す。いや、瞬殺って言っただろ?


「まあ、1日1回の強化した<生殺与奪ギブアンドテイク>を食らわしたからな」

「ああ、滅多に使わない能力ね」

「前に仁君がその能力を使ったのって、エルディアの門番が相手でしたっけ?」

わたくし、まだ配下メンバーに加わっていませんわね。初めて見ましたけど、強力ですわね」


 セラを買ったのはエルディアとカスタールの国境だからな。見たことないのも当然だ。そうか、最後に使ったのってそんなに前になるのか。ちなみに使ったのはこれで2回目である。


「多分、こんな機会でもないと使わないけどな……」

「瞬殺するくらいなら、戦闘経験にするっていうのがご主人様の方針みたいだしね。強力すぎる力はむしろ使わないってことね」

「まあな」


 基本的には折角の敵を戦闘もせずに瞬殺するなんて勿体ない真似はしない。今回はミオが墓地エリアを嫌がったから特別である。



「仁様、ドロップアイテムです」


 ドロップアイテムを拾ってきたマリアから手渡されたのは、真っ黒なローブであった。


不死者の翼ノスフェラトゥ

分類:ローブ

レア度:伝説級レジェンダリー

備考:自動修復、形状操作、スキル付与<飛行>


「ほー、伝説級レジェンダリーのマントか。また、面白いものが出てきたな」


A:通常のドロップテーブルではなく、初回討伐者限定で入手できるアイテムです。この層に来たのはマスターが最初のようですね。


 初回討伐という快挙を成し遂げた者へのサービスということだろう。

 さすがにこのサービスが死神だけのモノとは思えないので、他のボスたちも最初に討伐した者がボーナスドロップを入手したんだろうな。


「なるほど、今回はご主人様の引きの強さは関係ないということですわね。初回討伐のドロップということは誰が倒しても同じだったのでしょうし……」


 アルタが全員に同じ内容の説明をしたのだろう、セラが納得したように頷いている。


「いえ、そうでもないようです」


 しかし、マリアはそのセリフを否定し、もう1つのアイテムを俺に手渡してきた。


「これは?」

「ローブの隣に落ちていました。どうやらドロップアイテムが2つ入手できたようです」

「ドロップアイテムが2つ落ちることってあるのか?」


A:初回討伐時にドロップをすればドロップアイテムが2つになることはあり得ます。ただし、初回討伐時は限定ドロップが確定する代わりに、通常のドロップ率が下がるので非常に低確率となります。


「結局、普通にレアドロップが出るよりも凄いことになってるんですのね……」

「まあ、ご主人様だし、何が起こっても驚くほどのことじゃないわよね」

《さすがごしゅじんさまー》


 セラとミオが苦笑し、ドーラが褒めたたえてくれる。どうやら俺は何でもありの人間と思われているようだ。……全く否定できないのが辛いところだな。


 で、ドロップアイテムだが、何だこれ?


魂魄結晶

備考:疑似魂魄の結晶。


A:疑似的な魂です。主な使い方は無機物に装着させて動かすというものです。装着者の指示には絶対服従となります。役割としては魔石に近いものがあります。


 なんか凄そうなアイテムだな。……ちなみに人間につけたらどうなる?


A:生きている人間相手では何も起こりません。死体だったら動かすことができます。


 つまり、魂があるものは動かせない。そして魂が抜けた、あるいはないものは動かせる、と言ったところか?


A:その認識で問題ありません。ちなみに伝説の中で語られるアイテムの1つです。


 どう考えても『神薬 ソーマ』とか、『ヒヒイロカネ』と同じ枠だよな。ボスはごく低確率で伝説に語られるようなアイテムをドロップするって仕様らしいな。

 そう考えると、斧しか落とさなかったミノタウロスのほうが気になるんだけどな。


A:ミノタウロスに特殊なドロップはありません。


 あ、そう……。



「とりあえず、アイテムの検証はまた後にして、次のエリアに進もう」

「はーい!やーっと墓地エリアから抜けられる……」


 ミオが安堵した顔をしている。でもなー、次の層もなー。


「なんじゃこりゃー!?」


 階段を下り、次のエリアに到着した瞬間にミオが叫ぶ。


「どう見ても明るい雰囲気とは言えませんわね」

「マップに映る魔物から考えて、『地獄エリア』とでも呼ぶべきでしょうか?」


 41層からはマリアの言う通り、地獄エリアと呼ぶにふさわしいモノだった。基本的には1~10層に近い石造りの壁や通路なのだが、全体的に暗いし、壁や床には血のような跡がこびりついている。通路には装飾も多いのだが、髑髏や悪魔を模した趣味の悪い物しか置いていない。

 これだけだと魔王城エリアと呼んでもいいかもしれないが、マップに映る魔物全てに「デーモン」と付いていることから、地獄、あるいは魔界エリアと呼ぶのが相応しいだろう。


「2連続でミオちゃんには辛いエリアが続きますね……。仁君、さすがにミオちゃんを連れてくるのはやめませんか?可哀想ですよ……」

「さくら様ー!」


 さくらにミオが抱き着く。さくらはこれも全然平気そうである。さくらにとっては、向こうの世界そのものが地獄だったみたいだしな……。


「そうだよな。墓地エリア10層だけだから我慢してもらったけど、もう10層ってのはあまりにも可哀想だよな」

「それに、今度は瞬殺も簡単ではないでしょう。先の墓地エリアは仁様が<亡者アンデッド>のスキルを強奪したから早くクリアできたのですし……」

「そうですわね。この層の魔物はそんな簡単にいかなそうですわ」


 さすがのマリア、セラの戦力コンビでもこの階層の魔物を墓地エリアのペースで倒すのは無理と考えるようだ。確かに、墓地エリアよりも厳しいだろうな。


 ちなみにこれがマップに映る魔物の1例である。


デーモン・ソードマン

LV103

<剣術LV8><格闘術LV6><闇魔法LV6><身体強化LV7><飛行LV7><反転LV10><迷宮適応LV7>

備考:悪魔の剣士。


 正直に言って、迷宮の作成者は攻略させる気がないと思えてくる。これはボスではない。今までで言うのなら雑魚魔物のポジションでこれである。

 レベルがいきなり100を超えているし、スキルレベルも全てが5を超えている。ステータスも当然のごとく高い。魔物の分布自体は墓地エリアほど密集していないが、それでも普通の探索者でどうにかなる魔物、エリアとは思えない。

 もちろん、俺たちならどうにでもなる相手ではある。それでも、ある程度ステータスを開放しなければ苦戦は免れないだろうな。


 ちなみにスキルレベル10の<反転>って何?


A:明日、もう1度来たきときわかります。


 アルタがこういうってことは害にはならないのだろう。多分、面白いこと枠だな。


A:……(バレていますね)。



「とりあえず、今日はここまでにしよう」

「はい、では『ポータル』を設置してきます」

「ううー、早よ帰ろー」


 そうして『ポータル』で屋敷に戻った。とりあえず、風呂で汗を流してから会議である。


「じゃあ、ドロップアイテムと今後のミオについてだな」

「お留守番でお願いします」


 ミオが何度目かの土下座をする。


A:問題ありません。明日も連れていきましょう。


「そんな!?」


 アルタの声を聴いたのか、ミオが驚愕の声を上げる。


「えっと、それはミオが怖がらないって意味で問題ないんだよな」


A:大丈夫です。少なくとも、午前中に向かえば問題ありません。


「どうだ?ミオ、アルタはこう言っているんだが、ついてきてくれるか?」

「うー、アルタ、信じてるからね!もし怖かったらマジ泣きするからね!後、普通に漏らすからね!」

「堂々と言うなよ……」


 そうは言いつつもミオはついてきてくれるようだった。アルタは変な嘘はつかないし、心配することはないだろうけど、一体どうして「平気」なんだろうな。詳しい説明をしていないことから考えると、同じく詳しい説明をしなかった<反転>スキルと関係あるんじゃないかな……。


A:……(バレかけていますね)。



「じゃあ、次はドロップアイテムの検証、というか確認だな」

「1つは初回討伐のユニーク装備ですわね」

「ああ、マントの不死者の翼ノスフェラトゥだな」


 記載されている効果は自動修復、形状操作、スキル付与<飛行>の3つだな。とりあえず不死者の翼ノスフェラトゥを装備してみる。


「自動修復はまあいいとしよう。で、形状操作は……おお、本当に動かせるな」


 マントの端のほうに意識を向けると動かすことができた。


「変な感覚だけど、身体の中で動かせる部位が増えたような感じだな」

「物を持ったりできるんですの?」

「やってみる」


 近くにあった椅子を持ち上げてみるか。

 マントが椅子の足に絡みつき、そのまま持ち上げる。どうやら俺が重さを感じることはないようだ。なんというか念力に近いような感じなのかな。

 あ、MPがちょっと減っている。なるほど、操作には装着者のMPが必要というわけだな。


「これがあれば、コタツに入ったままミカンが取れるぞ」

「そんなものを使わなくても、仰ってくだされば私が取りに行きます」

「まあ、マリアちゃんならそうするわよね……」


 ……態々このマントを使う必要はなさそうだな。それにコタツに入るのにマントをつけるのもどうかと思う。


A:コート、マフラー、ミサンガなどマント以外の形状にもできます。


 あ、そうなの?ちょっとやってみよう。

 頭の中でコートになれと念じてみる。着ているローブの形が変わり、コートのようになる。


「お、本当に変化したな」

「コートに形状変化したんですのね。ご主人様にはそっちのほうが似合いますわ」

「じゃあ、とりあえずコートにしておこう。これ、便利そうだから俺が貰ってもいいか?」

「仁君、この中の誰がそれをダメだと言うと思いますか?」

「良いに決まっていますわね」

「そりゃそうよね。それに死神倒したのご主人様だし……」


 皆が苦笑しながら言う。とりあえず、このコートは俺のものということになった。もちろん、貸し出しは有りだけど。


「で、最後の機能だな。スキル付与<飛行>か。名前の通りなら装備者が空を飛べるようになるのかな」


A:そうです。


「そうみたいだな。俺のステータスに<飛行LV1>が追加されているな」

「コートがスキルを持っているのではなく、コートを装備した人にスキルがつくのですか?」


 さくらが疑問の声を上げる。


「ああ、物にスキルは付かないからな。あくまでもスキルを使うのは人ってことみたいだ」

「なるー。ん?じゃあもしかしてスキルレベル上げられるんじゃない?」

「あり得るな。やってみよう」


 ミオに言われるまま<飛行>のスキルレベルを10まで上げてみる。問題なく上げることができた。ちなみに装備することで付与された<飛行>スキルは1ポイントだけだった。ケチだな。


「できるみたいだな。試しにちょっと空飛んでくる」

「次貸してねー」


 一応、<風魔法>を使えば空に浮くくらいは出来る。しかし、自由に移動できるわけでもないし、MPは馬鹿みたいに使うしで使い勝手がいいとはとてもじゃないが言えない。

 後、<飛行>スキルの恩恵がどの程度あるのかも気になる。


 というわけで『ポータル』により人気のない場所に転移し、さっそく<飛行>スキルを試してみる。


「おー、こりゃ気持ちいいな」

《ごしゅじんさまといっしょー!》


 ドーラ(<飛行>は自前)と一緒に<飛行>スキルによる散歩?を楽しむ。コートが羽のように広がり、バッサバッサと音を立てて羽ばたいている。もちろん、本来はこんなサイズの羽で空を飛ぶことなどできないから、<飛行>スキルの恩恵があるのだろう。



「で、次はこの疑似魂魄だ」

「アルタの説明を聞くと、ゴーレムとかを作れそうね」


 もう1つのドロップアイテムである疑似魂魄について検証する。『神薬 ソーマ』と『ヒヒイロカネ』と同じ枠ということだが、その2つほど使い方が明らかではないからな。


「そうだな。検証だから何か適当なもの相手に使ってもいいんだが……」

「えー、それは勿体ないわよ。あ、付け外しできるなら別だけど」


A:できません。1度付けた後に外したら、それ以降使用できなくなります。


「消耗品みたいだな。残念」

「じゃあ必要、いえ、もう少し面白いものが見つかるまで保留しましょ?」

「だな」


 さすがに適当に使うには勿体ないということで、使用するのはまたの機会と言うことになった。


「これも外部には公表できませんね。それを言ったら、40層を突破したことがそもそも公表できません」

「そりゃあそうだ」


 マリアが言うまでもなく、30層以降の話は口外禁止しているからな。

 それにしてもこの迷宮、本当にいろんなものがあるよな。最深部には一体何があるんだろうな……。



 少し遅めの夕食を食べ終わり、子供組が寝た後にミラが屋敷に到着した。


 ミラが言うには、新しい村長への引継ぎを全て終わらせ、ミオの内政チートアドバイスも優先度の高いものから取り入れたそうだ。まあ、全てやろうとしたら年単位の時間がかかるモノもあったみたいだから、それは仕方のないことだろう。


 ちなみに夜に帰ってきたのは村で送別会があったからだ。ミラ1人を送るために、村中の人間(調査団、騎士団含む)が大規模な立食パーティを開いた。そしてミラは主賓だから、抜け出すわけにもいかずにこの時間になったと言う訳だ。


「で、ミラはこれから何をするつもりなんだ?」


 吸血鬼であり、年を取りにくいミラにできることはある程度限られる。村の代表者を続けられないのも、それが大きな理由である。


「そうですねぇ……。この屋敷でメイドでもしようと思っていますよぉ……」

「確かに、この屋敷の中なら吸血鬼であることは問題にならないな」


 この屋敷にいるのは全員俺の配下である。秘密厳守は全員に徹底させてあるので、吸血鬼が1人増えるくらい大した問題ではない。


「ならルセア、いつも通り教育は任せるぞ」

「はい、お任せください。丁度良く本日から新たに加わるメイドもいますので、一緒にカスタール側で教育をいたしましょう」

「よろしくお願いしますねぇ。ルセアさぁん」


 総メイド長であるルセアにいつも通りの丸投げをする。現在、カスタールとエステアの屋敷にはそれぞれメイド長がおり、それらを統括するのが総メイド長であるルセアであり、カスタールとエステアを行ったり来たりしている……らしい。ちなみに当然のように2人のメイド長も信者である。


「あ、そうだミラ、お前安全に人間に戻れるなら戻りたいか?もし戻りたいなら、俺の方で手段を探しておくぞ?」

「……お願いしてもいいでしょうかぁ」


 現状では吸血鬼から人間に戻ろうとすると精神が崩壊する。そのため、ミラは人間に戻ることを諦めた。しかし、本心ではまだ人間に戻りたいと思っているようだ。……まあ、当然か。


「わかった。だが確約は出来ないぞ?」

「それでもいいですからぁ、お願いしますねぇ」


 以前、この件についてアルタに聞いたところ、次のような回答が返ってきた。


A:現在、この世界にある方法では無理だと思われます。可能性があるとしたら、<多重存在アバター>のレベルアップか、マスターの未開眼の異能ではないでしょうか。


 可能性があるとしたら異能だけらしい。どちらかと言えば<多重存在アバター>の方が可能性高そうだな。元々、ミラの精神を治したのは<多重存在アバター>のレベルアップによるものだし……。


A:マスターが望んでいれば、いずれは叶うと思います。


 本当にそうなるといいよな。



 次の日、再び地獄エリア。新しい層なので、シンシア、双子、ケイトを連れてきて、次の層への階段の位置を確認させている。


「まさか、ここまで変わるとは思っていなかったわよ」

「まさしく反転だな」


 昨日の夜には不気味な地獄エリアだったが、今現在41層は天国エリア、天界エリアとしか言えないような雰囲気に変貌していた。

 床や壁が白く輝いており、汚れ1つない。髑髏などの装飾は天使を模したような金色の装飾になっている。


エンジェル・ソードマン

LV103

<剣術LV8><格闘術LV6><光魔法LV6><身体強化LV7><飛行LV7><反転LV10><迷宮適応LV7>

備考:天使の剣士。


 マップで確認できる魔物も昨日とはまさしく<反転>している。ステータスのほとんどが共通の点を考えると、昨日の悪魔が天使に変貌したってところだろう。<反転>スキルの効果で……。


「条件はやっぱり時間か?」


A:はい。その通りです。朝と夜の7時に反転するようです。


「よっし、じゃあ今日からは夜7時までが迷宮探索の時間ね!」


 ミオは地獄エリアを探索する気は0のようだ。


「昨日はこのエリアに入るのが遅かったからな。俺らの行動パターンだと、基本的に天国エリアを探索することになるんだろうな」

「そうそう!無理して遅くに入ることないわよね!」


 多分、迷宮内で手に入るものとかは若干差があるんだろうけど、その辺は今の俺たちが気にすることではないだろう。

 余談、というか例え話だけど、この層にルージュたちが来ていたら天使対策をして進んでいる最中に悪魔に反転されて全滅しそうだよな。弱点とかまるで反対だし。


「あっちなのです!」

「「こっちです」」

《距離は結構ありますね》


 階段の位置が分かったシンシアたちが一点を指さす。


 配置を調整して大体の距離が分かるようにしたところ、ここからだと30kmくらい離れた位置にありそうだ。他の階段の位置を探らせてみたところ、どうやらこの層からは階段間の距離は50kmほどあるようだ。さすが最終エリアと言ったところか……。


 シンシアたちを火山エリアに帰し、俺たちもこの天国エリアの攻略を開始する。


「天国エリアとか地獄エリアっていうよりも反転エリアが1番合っている気がします……」


 時間帯で呼び方を変えるよりはその方がいいかもしれないな。


「さくらのアイデア採用。今後は反転エリアと呼ぼう」

「反転エリア天国モードってことですわね」

「地獄モードに行くつもりはないけどね……」


 見た限りこの階層には罠の類が一切ない。40層までの罠沢山、敵沢山から一転し、超強力な敵がそれなりに多くいるというコンセプトなのだろう。ここまで来たら小細工なしで実力を示せと言われている気分になる。そもそも、ここにいる敵一体一体が明らかにセルディクを含めたSランク冒険者よりも強いからな。

 とは言え、今の俺たちはSランク冒険者たちよりもはるかに強くなっているから、よっぽど油断しなければ負けることはないだろうけど……。



エンジェル・アーチャー

LV104

<弓術LV8><格闘術LV6><光魔法LV6><身体強化LV7><飛行LV7><反転LV10><迷宮適応LV7>

備考:天使の弓兵。


エンジェル・ウィザード

LV102

<火魔法LV5><水魔法LV5><風魔法LV5><土魔法LV5><雷魔法LV5><氷魔法LV5><光魔法LV6><飛行LV7><反転LV10><迷宮適応LV7>

備考:天使の魔術師。


エンジェル・ガードナー

LV105

<盾術LV8><格闘術LV6><光魔法LV6><身体強化LV7><飛行LV7><反転LV10><迷宮適応LV7>

備考:天使の壁役。



―――???視点―――


「本当に止めてほしいんだけど……」


 誰もいない自室で呟く。

 折角、ロマリエの代わりとなる四天王を創りだしたというのに、今度はゼルベインがやられるんだから……。

 困ったな。このペースで四天王を潰されると、勇者との戦いに差し障るんだけど……。


「カスタールで倒されたロマリエ、隣のエステアで倒されたゼルベイン……。もし万が一同じ人間に倒されていた場合、次に行くとしたら……」


 地図を広げエステア周辺諸国を確認する。うん、エステアの隣国には四天王はいないな。さすがに短期間で3人殺されるのは辛い。その付近の魔族にも警戒を促しておこう。

 カスタールの時、無理をしてでもロマリエを殺した者を特定しておくべきだったかな。ゼルベインは迷宮にいたから、誰が殺したかを特定するのは困難だろうし……。


「勇者、の可能性は低いだろうな。人数が多いし……。脅威になるのはしばらく先だろうから……」


 それでも勇者に直接手を出すのは危険だから、出来るだけ準備をしてからにしたい。でも、その準備が2つも潰されている。それも結構有力で、四天王を直接起用している企みが……。

 犯人を特定しようにも、四天王を殺す実力を持った相手に不用意に接近するのは避けたい。触らぬ神に祟りなしと言う奴だ。魔王の僕が神様を恐れるのは当然なんだけどさ。


「本当に面倒だよ。こっちの制約、ちょっと多すぎるんじゃない?」


 ここにはいない誰かに向けて呟く。


 さて、次の四天王はどんな奴にするか。また忙しくなるな。



*************************************************************


裏伝


*本編の裏話、こぼれ話。過去の話に追加する可能性あり。


・勇者

 勇者召喚により勇者が呼び出される場合、基本的に複数人同時に呼び出されることがわかっている。

 統計を取ると(統計をとった者はいない)男女2人ずつの4人組であることが多かったようだ。過去最多は37人なので、今回の800人が異常であることがうかがえる。

 余談だが、カスタールの勇者(仁曰くアホ)の時には合計で2人呼び出されており、アホの方が内政と生産を担当し、それ以外(主に戦闘)をもう1人の勇者が担当した。なお、2人とも男性のため、ロマンスは発生しなかった模様。


微妙なタイミングだけど、魔王様の再登場です。

もうね、これだけで察しのいい読者さんには色々とバレるんじゃないかな。別に隠すつもりもないですけどね。自分、伏線下手ですし。


後、マントは某金色の電撃キャラの奴と思ってくれて構わないです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
これは魔神と女神の代理戦争で、この世界の支配権を賭けて異世界から勇者と魔王を召喚してどっちが勝つかを勝負してるとかかな?魔王が魔神が与えられた能力は眷属作成とかだろうか?主人公みたいに配下を増やして能…
[気になる点] 飛行スキルもいいけど浮遊スキルどうなったんだろう? あれなら羽なくても誰でも飛べそうだけど 使う人いないのかな?
[一言] やったね人形コレクション増え増え
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ