第53話 暴露合戦と分解
今回ちょっと長いです。
自分の未熟を公にするのもアレなんですが、さくらとマリアの口調を分けるのが困難になりました(2人とも特徴のない丁寧語)。
大抵の物語ではメインメンバーの口調は分け、セリフ回しだけでも誰が誰かわかるようにするべきなんですよね。その点の理解が不十分でした。
いくつかアイデアを考えた結果、さくらのセリフ末尾には固定で三点リーダを入れることにしました。元々、活発な子ではないので、そこまで不自然ではないと判断したからです。今までのセリフを見たら、素の状態でも半分以上三点リーダ付きでしたし。その内他の話も修正します。
ちなみに他のアイデア。
・さくらを方言少女にする。
・マリアをござる少女にする。
「ふむ、確かにそれを指示したのは吾輩だ」
「やっぱりか、後ろの魔物同様にテイムしたんだろ?」
「その通りだ。もっとも、ある程度時間が経ったらテイムを解除したがな。この迷宮の魔物はあまり頭がよくないようで、テイムをした後に指示をしたら言われたことしかしなくなるからな。まだ勝手に行動させた方がマシだ」
目の前の魔族、ゼルベインのスキル、<魔物調教>のレベルの高さを見て、もしかしたらと思ったのだが、当たりだったようだ。人為的な理由なしに上層進出とかありえないと思うからな。
「今度はこの層の魔物を上層に進出させるのか?」
「いやいや、それは無理だ。この層のアンデッドどもはさらに頭が悪い。連れて歩かねばまともに動きすらしないからな。だから吾輩はさらに下の層に進むのだよ。テイムした魔物を戦わせてより強い魔物をテイムする。それを繰り返すのが迷宮の攻略法だからな」
ゼルベインの呪印は従魔を強化できる。相手よりも弱くても強化すれば勝てる。勝てれば相手をテイムできるから、より強い魔物が配下になる。なるほど、確かに面白い攻略法だな。
「そして最終目標は迷宮最下層にいる魔物の軍勢を引き連れてこの国を蹂躙することだ!」
おお、まさか目的まで話してくれるとは思わなかった。いやー、話し合いって大事だね。
「さて、質問は以上かな?次は吾輩の質問に答えてもらうぞ」
「ああ、答えられることならな」
いや、向こうが話し終わったからって切りかかるようなマネはしませんよ。簡単に言えばこれは情報を賭けた戦いでもあるわけだ。負ければ死ぬから勝った方の総取りって意味で。
「カスタールでロマリエが持っていた魔剣の在処。後、ついでにロマリエを倒したのが誰かも知っていれば教えろ」
ロマリエの話はおまけなのか……。それに口ぶりからすると魔剣エターナルペインの関係者か?
まあ、相手も正直に答えてくれたし、俺も正直に答えないとね。やっぱり、誠意には誠意で返すべきだよ。この後殺すけど。
「その答えは両方『俺』だ」
そう言って魔剣エターナルペインを取り出す。
「魔剣を回収したのも俺、ロマリエを倒して国家崩壊の企みを潰したのも俺だ」
そこまで言うと、ゼルベインは頭を抱えながら震え始めた。
「……くくく、かっかっか!素晴らしい!魔剣を取り戻すのに苦労すると思っていたのが、まさかこんな簡単に魔剣が帰ってくるとは!」
感極まったように血走った眼で魔剣を凝視するゼルベイン。キモい。
「この魔剣、元々お前のだったのか?」
「当然だ!吾輩が魔王陛下に頼まれてロマリエに貸したのだからな!我がコレクションの1つを失ったとわかったときは気が狂いそうになったわ!」
「魔剣のコレクターかよ。悪趣味だな」
「くははは!コレクションするだけではないぞ。魔剣の効果について研究もしておる。そこの肉塊も実験台の1つだ!」
できるだけ見ないようにしている塊も魔剣の力だったのか。まあ、スキルにそれらしいのはなかったから疑問だったんだよな。魔剣の来歴を考えると『愛おしい人と1つになりたかった』鍛冶師が作ったとかそんなところかね。
「で、一応聞いておくんだが、そこの冒険者の戻し方って知っているか?」
「知らん!」
ですよねー。
「これで再び吾輩のコレクションが51本に戻る。おっと、1本吸血鬼に貸しておるからこれで50本か」
また聞きたくもない背景が1つ明らかになった気がする。
「その吸血鬼も多分俺が倒したぞ。魔剣ってこれの事か?」
魔剣ブラッドハートを取り出す。
ゼルベインのテンションが急に下がった。
「……それも吾輩のだ。どうあっても貴様を殺さんわけにはいかないようだな。折角魔剣の効果が伝承通りか確認できると思ったのに、台無しにしてくれたようだからな」
「ん?この魔剣の効果は人間を吸血鬼にすることだったぞ?吸血鬼が使ってた」
「あのヤブ蚊!使うときは吾輩を呼べと言っただろう!!!」
あ、そう言う契約だったのか。それにしては吸血鬼も随分ノリノリで魔剣を使ってたよな。
「もういい!さっさと殺して魔剣を取り戻す!行け!アンデッド軍団!」
戦闘開始のようだな。最後は半ば逆切れみたいな感じだけど。
総勢50匹のアンデッド系魔物が襲い掛かってくる。全て<亡者>スキルを奪われ崩れ落ちる。
「は?」
呆けた顔をするゼルベイン。いや、簡単に倒す方法があるんだから、使わない手はないよな。
「終わりか?」
「待て待て待て!貴様今何をした!?」
「もう質問は終わったんだろ?答える必要はないな」
質問フェイズは終了して、戦闘フェイズに移ったのだから、もう答える必要はない。いや、流石に質問フェイズでも答えなかったとは思うけど……。
「ちぃっ!仕方あるまい。もう1度現れよ我が僕ども!」
そう言うと再び、アンデッド魔物が50匹ほど出てきた。
「本当は下層攻略の戦力なのだが、出し惜しみしている場合ではないようだな!<存在強化>発動!」
そう言うとアンデッド系の魔物たちから黒いオーラが立ち上り始めた。セルディクの使った複合スキルの<闘神>に似ているな。ステータスも軒並み上昇しており、その上昇率も<闘神>に匹敵する。なるほど、言ってしまえば<闘神>を従魔にばらまける呪印ってことか。状況によってはかなり強力な力だと思うけど……。
「何をしたのかはわからんが、これでさっきと同じようにはいかんぞ。今度こそ死ねぇ!」
とにかく場所が悪いよな。
当然のように<亡者>スキルを奪われ崩れ落ちる50匹のアンデッド。
いや、ステータスが上がっても、スキルポイントは増えないんだから、結果は同じだよね?
「……」
「……」
俺もゼルベインも無言である。
「終わりか?」
-コクリ―
ゼルベインが頷く。
「しかし、やられたのはアンデッドの魔物だけ!吾輩に効果が及んでいないところを見ると、アンデッドにしか通用しない策と見た!こうなればなりふり構ってはおられん!自身を対象に<存在強化>を発動!魔剣の力も全て使って貴様を殺す!」
ゼルベインから黒いオーラが立ち上る。腰にさしていた2本の剣を抜く。
「この2本の魔剣は魔物としての性質を持つ、生きた武器と呼ばれるモノだ!吾輩の従魔でもある!よって<存在強化>が使用できる!……損傷が激しいから使いたくはないが仕方あるまい」
2本の魔剣からも黒いオーラが立ち上る。魔物としての特性もあるみたいだから『格納』に入れられなかったのか。
相手がべらべら喋ってくれるおかげで、アルタの出番がないな。
A:!?
「吾輩にここまでさせたことを光栄に思いながら死ぬが良い!」
剣を構えたところで<縮地法>により接近する。
「な!?」
「ふっ!」
-スパン!-
そのまま横に剣を一閃させ、ゼルベインを両断する。
「そんな……バカな……」
そのまま崩れ落ちるゼルベイン。HPは0になっている。
<縮地法>ってさ、酷い初見殺しだと思うんだよね。そう考えるとセルディクってかなり強いはずだったのかな。
「今回の魔族戦も私たちの出番無しですの?」
セラがムスッとした表情で言う。
「すまんな。魔族は瞬殺するって決めているんだ」
「その割には戦闘前に随分いろいろと話してましたわよね?」
「その代わり、いろんな情報を入手できただろ?」
「まさか、この国で起こったトラブルの半分以上に関わっていたとは驚きですね」
「そうですわね。最初の村、吸血鬼、ボルケーノゴーレム、あ、勇者だけは無関係でしたわね」
そう考えると、凄い奴に見えてしまうな。オチは酷かったけど。
《ごしゅじんさまー。これどうするー?》
ドーラが指さしたのは探索者の肉塊、ではなく辺りに散乱した魔剣の数々だ。『格納』は使用者が死ぬと中身がばら撒かれる。どうやらゼルベインの『格納』には魔剣しか入っていなかったみたいだな。どれもこれも碌でもない来歴と効果を持っている。
破壊すべきだろうか?でも、破壊しても碌でもないことが置きそうなんだよな。
A:破壊時に害を及ぼす魔剣は12本あります。
はあ、面倒だからまとめて<無限収納>に死蔵するか。
「全部回収する。危ないからドーラは触るな」
《はーい》
「セラ、マリア、触らずに<無限収納>に入れるのを手伝ってくれ」
「「はい」」
せっせと落ちている魔剣を触れずに<無限収納>に入れる。触るだけで害のありそうな魔剣もいくつかあるからな。
ゼルベインが最後に使っていた2本の魔剣は、魔物でもあるから<無限収納>に入らな……入った。なんで?
A:<存在強化>適用中に使用者が死亡すると、効果適用中の従魔も死亡するようです。つまり生きた魔剣の死体というわけです。
『生きた魔剣の死体』とか、今までの人生で1度も聞いたことの無い言葉だよね。まあ、入るなら入れておこう。
「さて、じゃあ問題の方に行こうか」
「そうですね。さすがに無視するわけにもいきませんし……」
「正直に言えば、あまり関わりたくはないですわ」
もちろん、探索者たちの塊の事だ。
いい加減、視界に入れないわけにもいかないだろう。ああ、詳しい外見の説明はしないぞ。と言うか、したくない。まさか、ルセアよりもひどいものを見ることになるとは思わなかった、とだけ言っておく。
精神の方も融合の際に壊れてしまったようで、口はあるが意味のある言葉を発することはない。
「さくらの魔法なら、治すことが出来るかもしれない。でもアルタに聞いたところ、さくらの魔法で治すとミラと同じようになるみたいなんだ」
「ミラさんと同じ、ですか?」
「ああ、肉体の変質により1度壊れた精神は、もう1度の肉体の変質には耐えられない。それを行うと完全に精神が破壊されてしまうらしい」
ミラは吸血鬼化の際に1度精神が壊れた。さくらの魔法で人間に戻したら、今度こそ完全に精神が壊れるとアルタが言っていた。
「ではどうするんですの?」
「俺は彼女たちを凍らせようと思う」
「はい?どういうことですの?」
「あ、<無限収納>ですか!?」
マリアも気が付いたようだ。<無限収納>の隠された効果に。
Q:<無限収納>のアイテムボックスに対する利点は何?
A:容量に制限がないこと、収納先で分解・合成ができること、死体を入れることが出来ること、物体の時間を止める・止めないが選べること、内部でアイテム使用ができること、石化、凍結状態なら生物も格納できること、魔法のストックができることなどがあります。
これは前にアルタ、もといヘルプに確認した内容だ。大切なのは『収納先で分解・合成ができる』、『物体の時間を止める』、『凍結状態なら生物も格納できる』の3つだ。
彼女たちを凍らせて<無限収納>に入れる。内部で時間を止め、精神を保全した状態で分解する。その後、アルタに精神を修復させれば、彼女たちを元に戻すことが出来る、ってアルタが言ってた。
A:はい。
「なるほど、そうやって治すのですわね」
《おおー》
マリアが説明したようで、セラとドーラも納得している。ドーラは半分くらいしかわかってないかもしれないけど……。
「じゃあ、始めるか。さくらも見たくはないだろうし、ここでやっていくのが1番かな。一応、安全地帯だし」
「では、念のため私たちは周囲の警戒をしています」
「ですわ」
《おー》
3人が少し距離を取った。
最初に探索者の塊に<奴隷術>をかける。アルタが精神を保護できるのは配下だけだからな。それに気になることもあるし……。
精神が崩壊しているせいか、全く抵抗なく<奴隷術>が成功する。そのまま自分を主人として登録した。
何が気になるってこの状態で分離したら奴隷契約とかがどうなるのかってことだな。そのまま8人分残るのか、誰か1人だけに残るのか……。
続けて、探索者の塊に<氷魔法>を使って凍らせる。探索者の塊は完全に氷に包まれるが、それでも死んでいない。この辺りも元の世界とはルールが違うんだよな。普通、ここまで氷漬けになったら死ぬからな。
探索者たちはHPが減っただけで死んではいない。そのまま<無限収納>に格納する。
「本当に氷漬けなら入るんですね」
「そういや、今まで試したことはなかったな」
「<無限収納>がかつてなく輝いていますわ」
「役に立つけど地味ってポジションだからな。……俺の異能、全体的にそう言うの多いけど」
派手なのは<生殺与奪>くらいかな。それでも基本的に攻撃力皆無だし……。
そのまま内部で分解を試みる。
<無限収納>内部で徐々に分離していく探索者たち。探索者の塊状態では名前もなかったのだが、分離するにつれて名前が確認できるようになっていく。
少し時間がかかったが、全員無事に分離することが出来た。ちなみに奴隷術は8人全員にかかった状態になっている。塊状態では効果は全員で共有するみたいだ。これ以降全く役に立たない情報だと思うけどね。
A:では精神の修復に入ります。
よろしく頼む。
「とりあえず、分解は無事に終了したから、アルタに精神の修復を頼んでおいた。ここまでやれば場所を考える必要もないだろう。この場を引き上げて屋敷に戻ろう」
「「はい」」
《はーい》
その場にあった魔石や貴重品を『バキューム』で回収し、『ポータル』で帰還することにした。分離した探索者たちの装備とかも置いてあったのでついでに回収するのも忘れない。
屋敷に戻り、さくらとミオを呼んで顛末を説明した。
「……と、言うわけだ」
「へー、あんな気味の悪い場所で、そんな碌でもない研究してたんだ。やっぱり魔族ってマトモじゃないわね」
「本当に見なくてよかったです……。確実に吐いていましたね……」
「ああ、だから分離まで向こうで終わらせておいた」
「それは本当に助かります……」
さくらはホラーは平気だけど、グロいのはダメ。ミオはグロいのは平気だけど、ホラーはダメと言うことで、ある意味バランスが取れているのかもしれない。何のバランスかは知らないけど……。あ、後ゾンビは二人とも嫌いらしい。グロ+ホラーなので最強である。
A:終わりました。
「お、丁度アルタの精神修復が終わったみたいだな」
「へー、30層台で戦える女探索者のパーティでしょ?結構な戦力になってくれそうね」
「全員60レベルを超えているんですよね?それも全員20代だとか……。この年齢でこのレベルって凄いんですよね?」
ミオとさくらの言う通り、全員20代の女性で、平均レベルが63だ。それなりの戦力ではあるのだろう。……普通に考えれば。
「そうだな。とは言え、シンシア達と戦ったら、シンシア達が勝つだろうけどな」
「ほえ?なんで?」
「ステータスを見ればわかるさ」
「まあ、ご主人様がそう言うんなら、なんかあるのよね」
そりゃあ、俺が言うんだから訳アリに決まっているだろう?
A:では出します。
アルタがそう言うと、俺の近くに裸の女性たちがポロポロ落ちてきた。<無限収納>から出すときに氷漬けも解除したようだ。
そうか、<無限収納>から出すってことは、俺の近くに落ちるってことだからな……。
「なんか卑猥な絵面ね……」
「皆さん、肉付きがいいですからね……」
20代の肉付きの良い裸の女性が折り重なるように倒れている。一言で言うと『酒池肉林』である。
「うーん。突っ込みどころの多いステータスね」
「これは……。チグハグと言うかなんというか……」
「だろ?」
名前:ルージュ・クリムゾン
LV68
性別:女
年齢:22
種族:人間
スキル:<剣術LV1><身体強化LV1><取得経験値増加LV6>
称号:仁の奴隷、真紅帝国皇女
コレが1番レベルが高く、変わったステータスを持つ探索者のステータスだ。うん、ミオの言う通り、突っ込みどころが多いな。
「レベルは高いけど、スキルレベルがとても低いです……。ステータスも同レベルから見たら低めだと思います……」
「私的には<取得経験値増加>のスキルが気になるかな。ゲーマーとしてはこれの有無は大きいし……。あ、後、称号。やっぱりご主人様、王族の女の子集めるの好きなのね」
「それは誤解だ。一塊になっていた時、スキルは見えていたけど称号は見えなかったから、皇女と知って助けたわけじゃない」
助けたのは丁度いい配下になると思ったというのが大きい。皇女だからではない。
「ふーん、じゃあ知ってたら助けなかった?面倒事の匂いはプンプンするし」
「助けたな。多少の厄介は抱え込むかもしれないけど、<取得経験値増加>のスキルはゲーマーとして見逃せない」
「だよねー。これ絶対凄いスキルよね」
とは言え、レベルによるステータス向上よりも、ステータス強奪による向上の方がはるかに大きいため、俺達に本当に必要かと言われると、微妙なところである。
先に言った通り、『ゲーマーだから』見逃せなかったということだ。
「ううん……」
倒れていた女性たちが目を覚まし始めた。
「ここは……、さっきのは夢ではなかったということか……?」
あ、アルタが説明しておいてくれたみたいだね。
「うう、ルージュ様、ご無事ですか?」
「ああ、私は平気だ。少なくとも生きてはいる」
ルージュは全裸のまま起き上がる。ルージュは赤い長髪ですらりと背が高い。胸は……さくら並みと言ったところか(大きくもなければ小さくもない)。
「ってなぜ私は裸なのだ!?」
そのまま蹲る。そりゃあ、着ていた服は混ざったときに破けて、分離した後何も着せていないんだから当然だよな。
「おい、貴様が仁と言うのだろう!服くらい用意したらどうだ!」
「ルージュ様!先ほどの話が本当なら、今私たちは彼の奴隷です!あまり尊大な態度を取られるのは……」
尊大な口調で言い放つルージュを止めようとしたのは、先ほどルージュに無事か確認した女性だ。おそらく、従者か何かなのだろう。あ、後巨乳だ。セラクラスだ。
「うるさい!そんなこと信じられるか!見ろ、私もお前たちも奴隷紋など刻まれていないではないか!」
そりゃあ、奴隷紋を見えないように設定しているからね。高レベルの<奴隷術>で。
「ですが、魔族に負けたのは覚えておいででしょう?その後の事も……」
「う……、私たちの身体が徐々に混ざっていく感覚か……」
「状況から考えて、少なくとも彼らが私たちを助けたのは事実でしょう。どちらにせよ、振る舞いには気を付けるべきです」
それからルージュは少しの間考え込み、顔を上げてこちらに話しかけてくる。
「ちっ、仕方あるまい。……仁とやら、とりあえず服を用意しろ。私は他国の重要人物だからな、覚えておけ。それと魔族から助けられたのは事実のようだからな。国に戻ったら褒賞を出してやろう。ありがたく思え。ああ、私たちが魔族に負けたなどと吹聴したら、即刻処刑してやるからな」
「……全くわかっていません」
横の巨乳が力なく項垂れる。うん、アルタに多少は説明されたようなのに、全く自分の状況をわかっていないね。
A:申し訳ございません。私の管理不行き届きです。
「がっ!?」
そう呻くとルージュはそのまま崩れ落ちた。口からは泡を吹いており、白目を剥いている。身体はビクンビクンと痙攣を繰り返している。
「ルージュ様!?」×7
A:マスターに尊大な態度をとるなど、許されるモノではありません。本気で、身の程をわからせます。しばらくお待ちください。
お、おお。
アルタが今までになく怒っている。
「こ、これは頭に直接!?」
「身体が動かない!?なんで?」
「力が抜けていく……。嫌だ!死にたくない!」
おお、おお……。
アルタが色々やっているようで、他の7人も恐慌状態に陥ったようだ。一言で言うと『阿鼻叫喚』である。
「凄いです……。アルタを怒らせると結構怖いんですね……」
「まあ、ご主人様にあんな態度をとったんだから当然よね。私もちょっとイラッときたし……」
さくらは少し引いている。ミオはそれが当然と言った顔をしている。
俺も少しイラついたのは事実だが、すでに生殺与奪権を握っている以上、あまり気にならなかったとも言える。
それからしばらくの後。そこには横たわる8人の20代全裸女性の姿があった。<無限収納>から出てきた時とは異なり、今度は全員意識はあるが目から光が失われ、痙攣している者、うめき声をあげている者、失禁している者、笑っている者に別れた。
個人的には笑っている者が1番怖い。一言で言うと『死屍累々』である。
「申し訳ございませんでした!」×8
さらにしばらくの時間を要し、全員が正常(?)に戻った後、8人全員が俺に対して全裸土下座をしていた。
アルタによる再教育が済んだようで、ルージュすら全裸を恥ずかしがる様子すら見せない。いや、必死でそれどころではないというのが正しい。なんでも、俺が許すと言わないともう1度お仕置きが待っているらしいからな。
「許す」
俺がそう言うと8人全員の身体から力が抜けた。
「では、お前たちの事情を話せ」
「その前に、服を着たいのだが……」
「え?何だって?」
「何でもない……」
諦めたルージュが黙り込む。それを見た巨乳が代わりに話を始める。そろそろステータスでも出してやるか。
名前:ミネルバ
LV64
性別:女
年齢:25
種族:人間
スキル:<棒術LV1><回復魔法LV3><身体強化LV1>
称号:仁の奴隷
「私たちは真紅帝国からこの迷宮に来ています」
「それは知っている。何故?の方を話してくれ」
「わかりました。私たちがこの国に来たのは、2つ理由があります。1つは真紅帝国に迷宮産の資源を送るためですね。もう1つは迷宮を攻略して最下層のアイテムを入手することです。どちらも最終的にはこの国と戦えるようにするための活動です」
エステアは迷宮用のアイテムにより、防衛能力が非常に高い。しかし、領土外ではほとんど使えなくなるため、侵攻するのは得意ではないという性質がある。つまり、外部の国がエステアと戦うためには迷宮産のアイテムをある程度確保、熟知している必要があるということだ。
「私の周りにいる者は昔から強くなるのが速かったからな。迷宮相手でもなんとかなると考えた兄、現在の皇帝によって派遣されている。もちろん、身分を隠した上でな。3年前から活動して32層だからな。歴代最速……だったわけだ」
「目の前にそれ以上の最速がいるわけですから、過去形ですね」
「まだ1月経っていないとか、異常にもほどがあるだろう……」
普通の人間から見れば、ルージュたちも十分異常なんだけどな。ちなみに<取得経験値増加>ではスキルポイントまでは増えない。だからレベルとスキルレベルの間に大きな乖離があるというわけだ。
「それで、この国を侵略するというのか?真紅帝国は?」
「ええっと、正確にはいつでも戦える準備をしておく。と言うくらいです。魔族が活動している中で戦争をするのも馬鹿らしいですからね。情勢がある程度安定した頃になるとは思いますが……、皇帝陛下の性格を考えると、戦わないという選択肢はないものかと思います」
話し方からすると皇帝って奴は随分と好戦的なんだな。
「つまりお前らはその先兵ってわけか。助けたのは失敗だったかな……」
「ひいっ!」
「お許しを!お許しを!」
またしても恐慌状態に陥る全裸たち。
この国に戦争を吹っかけられるのは困るな。カスタールほどではないが愛着もあるし、カトレアはすでに俺の配下だからな。無視するわけにもいかないだろう。
「黙れ」
その一言で全員が黙る。アルタの教育はしっかりと行き届いているようだ。
A:2度目はありませんから。
「エステアを攻められるのは嫌だな……。ルージュ、妹なんだから説得くらいできないのか?」
「無理だ。説得などあの兄が受け入れるわけがない」
「そりゃ、そうか……」
まあ、そんな簡単に説得できるくらいなら、最初から戦争なんて望まないか……。
「そうだな。丁度いいし次は真紅帝国に行くか」
「真紅帝国ですか。あまりいい噂は聞かないのですが……」
真紅帝国、エステア近隣の大国の1つである。
その特徴を一言で表すのならば『軍事国家』であり、軍部が最も大きな権力を持っている。帝国なので国王ではなく皇帝が最高権力者にして軍部のトップでもある。『騎士団』はなく、軍部のことは『帝国軍』と呼ぶ。
マリアの言う通り、周辺諸国の評判は悪い。特に現在の皇帝になってからはすこぶる評判が悪い。
まず、周辺諸国に小競り合いを仕掛けまくっているのだ。戦争とまではいわないが、小規模な紛争を年に数回起こしているのだとか。もっぱら周辺諸国の戦力を調査しているという見解である。そのため、いずれは大規模な戦争を起こすと予想されている。
そして、1つ面白いのが、反勇者支援国であるということだ。勇者に頼らず、自分たちの身は自分たちで守ると宣言しており、勇者に関しては入国すら拒絶している。ある意味、真っ当な宣言でもある。そもそも、異世界から人間を拉致して戦わせるという考え方自体が異常なのだからな。
俺の知る限り、最初から最後まで勇者を拒絶している国と言うのは他に存在しない。カスタールも俺たちがいなかったら勇者を支援していただろうし、エステアは元々勇者支援国だった。そういう意味では真紅帝国は他の国に対して異彩を放っているのだ。
そういった理由もあり、真紅帝国には少なくない興味があった。もちろん、不快な目にあう可能性も高いだろう。しかし、自分の目で見て確かめたいと思っている以上、その程度のことは飲み込むべきだとも思う。限度はあるが……。
「エルフの里に行くのに、真紅帝国を避けていくのは大変だしな……」
「エルフの里、ですか?」
さくらが首をかしげる。
「ああ、元の世界に帰る方法がわかる可能性があるって話だ」
「ああ!そんな話もありましたね……」
さくらは完全に忘れていたようだが、俺たちの旅の目的の1つに、元の世界に帰る方法を探す、というモノもある。さくらは帰りたいとは思っていないし、俺はどちらでもいいと思っているから、かなり優先度は低い。しかし、念のため帰る方法自体は探しておこうということになっているのだ。
アルタ、いや当時はヘルプ先生だったな。ヘルプによると、可能性があるのは古くから生きている者らしい。そこで候補に挙がったのがエルフの語り部である。エルフの語り部はエルフの里にいるらしいので、いずれはエルフの里にも足を延ばそうと考えていたのだ。
エルフの里は真紅帝国の先にある。もちろん、避けていけないことはないが、相当の遠回りになるのだ。そういった理由が重なり、丁度いいからこの機会に真紅帝国に向かいたいと言う訳である。
そんな話をみんなにしたところ……。
「仁様がそこまで決めていらっしゃるのでしたら、私には言うべきことはありませんね。私にできるのは仁様をお守りすることだけです」
《ドーラもまもるー》
「嫌な思いをする可能性もあるみたいですけど、少なくとも勇者はいないでしょうし……」
「真紅帝国、料理は美味しいといいですわね」
「そうねー、真紅帝国の料理はレパートリーにないからね。丁度いいわね。覚えましょ」
特に反対意見も出なかったので、次の行き先は真紅帝国に決定した。
まあ、正確にはアト諸国連合を通っていくことになるんだがな。真紅帝国の帝都とエステアの王都を線で結ぶとその間に少しだけアト諸国連合が入る。これまた避けて通るのも面倒だし、観光するのにもちょうどいいので、寄っていくことにしたのだ。
「当然行くのは迷宮攻略後だから、少しだけ攻略を急ごうか」
「おー!特に墓地エリアはさっさと終えましょ!」
「そんな簡単に!?」
ルージュが驚愕しているが、コレが平常運転である。
こうして、まだ迷宮をクリアしてもいない内から、その後の予定が決まるのであった。
「そう言えば、お前ら魔族とはどんな戦いをしたんだ?」
「あ、それは私も気になってた!」
迷宮を踏破した後、真紅帝国に行くと決めたが、他にも少し気になっていたことがあるので、この機会に聞いておくことにした。
「ああ、その事ですか……。あまり思い出したくはない事なんですけど、お話します」
きょ、……ミネルバが説明を始める。
「と言っても大した話ではないんですけどね。あの日、安全地帯で魔族に遭遇した私たちは、魔族の配下であるアンデッド系の魔物と戦闘になりました。アンデッド相手には、ある程度有利な戦いが出来ていたんですけど、一緒にいたボルケーノゴーレムに苦戦して……。しかもある時急にボルケーノゴーレムが強くなって、そのまま押し切られてしまいました」
「ふむ、俺達が戦った時にはボルケーノゴーレムはいなかったな」
「あ、そう言えば強くなる直前に『そろそろ限界だが構うまい』とか言っていました」
なるほど、<存在強化>の使い過ぎで寿命が限界だったボルケーノゴーレムだったのか。そうだよな、32層の魔物を使うんだから、上層の魔物がそれほど残っているわけないよな。
「でも、火竜を倒すくらいの戦力はあったんでしょ?今更ボルケーノゴーレムが出てきたところで、大した相手じゃないと思うんだけど……」
確かにミオの言う通り、ボルケーノゴーレムが手強いとはいえ明らかな格下相手だ。勝てていても不思議ではないだろう。
「いや、その考え方はコイツ等には通じないぞ」
「どゆこと?」
「コイツ等のアイテムボックスを見たんだが、アンデッド系の魔物に有効なモノしか入ってなかった。恐らく、層に合わせて徹底的に装備や持ち物を厳選しているんだろう」
もちろん、それ自体は悪いことではない。層ごとに出てくる魔物がガラリと変わるわけだから、前のエリア用の装備なんかは不要と言えるだろう。
「あー、ボルケーノゴーレムって対策なしだと格上でも辛いもんね」
「しかも、コイツ等誰も<水魔法>が使えないんだ。<水魔法>も無し、相性の良い武器も無し、熱耐性の防具も無しじゃあ無理だよな」
<回復魔法>はミネルバが使えるし、他の属性はレベルが低いが使える者もいる。しかし、肝心の<水魔法>がない。
「だから火山エリアでは水属性の付いたハンマーとかでボルケーノゴーレムの相手をしていたんですけどね……。エリアが変わったのに武器をアイテムボックスに入れるのも無駄ですし……」
「アンデッドならいくらいても大丈夫だったのだ!光属性の武器にアンデッド対策の防具、アクセサリにも耐性か特効がほとんどのモノに付与されていた!」
ルージュが悔しそうにしているが、本質的な問題はそこではない。
「お前ら、アイテムに頼り過ぎ。信じられるか?コイツ等の所持していた装備とかアクセサリのほとんどが『希少級』、『秘宝級』だ。それを層ごとに換えているってことだし……」
「なんとも贅沢な話ね」
「正直に言ってレベルとアイテムによるごり押しだな。まあ、その点に関しては人の事を言えないけど……。少なくとも技術、地力が足りてなかったんだろうな」
スキルとステータスでごり押ししている自覚はあるが、だからこそ自力を上げることを軽視はしていない。態々ステータスを落として戦いを繰り返しているのもそれが理由だ。あ、墓地エリアでは完全なごり押しですけど。
「うぐっ……、兄にも言われたな。『お前の方が腕力では優っているが、それだけだ。技術も覚悟も足らん、実のない攻撃だ』と……」
結構いいこと言うね、皇帝。
「装備に関しては国から持ってきたモノもありますし、この国で買ったモノもあります。皇族ですから、お金に余裕はありますからね」
「兄は装備を良いもので固めることは乗り気ではなかったがな。まあ、あまり強くは言ってこなかったが……」
「本当は付き添い7人も多すぎると言われていましたからね」
「そう言えば、深くは聞いていなかったが、お前らどういう関係なんだ?」
恐らく従者か何かだろうとは思うが、一応聞いておく。
「私たちは従者ですね。ルージュ様、姫様専属の従者です。子供のころからお側でお世話をさせていただいていました。一応、私たちも貴族の4女とか5女とかです」
「姫様は止めろ。ガラじゃないと言っているだろう」
「はい、ルージュ様」
<取得経験値増加>の対象がパーティで、小さい頃から一緒にいるとすればこの高レベル集団と言うのも納得だ。スキルレベルは低いけど……。
「まあ、今は俺の奴隷なわけだが……」
「うぐっ……、しかし、本当に奴隷紋を隠せるとは……」
「驚きです。そんなこと聞いたこともありませんから」
「アルタに言われていると思うが、俺達の事は口外するなよ?これは命令だ」
俺の方からも口外を禁止しておく。
「そうだ。そのことでこちらも聞きたかったのだが、今後我々の扱いはどうなるんだ?奴隷であることは分かった。アルタ様に逆らえないのも分かった。仁……様に逆らえないこともな。だが、これでも私は皇族だ。それを言ってどうにかなるレベルの相手ではないことは分かるが、大っぴらに他国の皇族を奴隷にしましたと言えるものでもあるまい?」
ルージュの言う通り、あまり口外できる内容でもないよな。と言っても内密ではあるが他国どころか3か国以上の王族(女性)を配下にしているんだけどな。
「それは決まっている。何事もなかったかのように探索者業を続けろ。奴隷であることも内密にな」
「え?それはどういう……」
「俺たちが動くまで、今まで通りにしろってことだ。アイテムの横流しもして構わんぞ」
「いいのか?真紅帝国が強くなるだけだが……」
「その程度じゃ、何も変わらんよ。装備とかも返してやるからな」
「本当に、規格外なのだな……」
諦めたように呟くルージュ。
「その代わり、俺からのサポートは最小限だ。報告は逐次アルタにしてもらうが、基本的には接点はほとんど無いものとして扱う」
「……わかった。もう1つ聞きたいのだが、結局帝国に向かって何をするのだ?戦争になるのは嫌だと言っていたが、兄は私の説得には応じないのだぞ?」
「ああ、そのことか……。とりあえずは様子見だが、基本的には俺が説得することになるだろうな」
「ご主人様の脅迫ね。それは強力だわ」
ミオが納得したかのようにうんうん頷いている。
「それでもダメなら、頭を挿げ替えることになるだろうな……」
「…………」
絶句する真紅帝国組。
「この国に手を出すつもりなら容赦をするつもりはないからな。その時にはルージュ、お前に皇帝になってもらう」
「……そうか。兄が説得に応じることを願うよ。私は皇帝の器ではないからな。ちなみに、兄が説得に応じたり、私が皇帝になった後の扱いはどうなる?」
「それは大して変わらんな。普通に生活してもらって、必要な時に俺の命令を聞くってだけだ」
サクヤやカトレアと同じだな。とは言え、今のところ大した命令はしていないけど。
「自由なようで自由はないということか。……まあ、どうあがいても逃げられぬのなら諦めて恭順するしかない。仁……様に従おう」
「凄い嫌そうだな」
「仕方あるまい。私は生まれてこの方、誰かの下に付いたことも、家族以外を敬ったこともないのだからな」
「それで敬語を使っていないのか。奴隷なのに」
「そ、それは……、アルタ様にもどうにか許してもらったのだ。そもそも、使ったことがないから使い方がわからん。勉強することは課題として言われているから、しばらく待ってほしい」
随分と我儘な姫様だったのだろうな。それに言うことを聞かせるアルタ凄い。
「わかった。アルタが良しと言っているのなら、しばらくは我慢しよう」
「すまない」
「仁様、私たちはルージュ様の配下なのですが……。今後はどのようにすれば……?」
そこでミネルバが前に出てきた。
「そうだな。ルージュと同じでいいぞ。普段は今まで通りルージュの配下で、俺の言うことも聞くって状態だな」
「わかりました。あの、勝手なお願いではございますが、ルージュ様にできて私たちにもできる命令をなさる場合、私たちの方に優先的に命令をしていただけないでしょうか?ルージュ様だけが働いているところを見るのは忍びないので……」
「お前たち……」
ルージュがミネルバのセリフに感動している。美しい主従愛ですね。ウチのマリアだって忠誠心?凄いよ!負けてないよ!
「わかった。考慮しよう」
「ありがとうございます」
さて、聞くこともなくなってきたし、そろそろお開きにするかな。
「じゃあ、とりあえず聞きたいことは聞いたから今日は解散だ。1度迷宮に送るから、そこから相転移石で何食わぬ顔をして帰れ」
「わかった。それで……服は?」
そういやコイツら、ずっと全裸だったな。
仁のやり方なら皆のトラウマ、ニ○ナとアレキサンダ○も分解できます。
2018/11/27改稿:
誤:真紅帝国がエステアと隣接している
正:真紅帝国はエステアの近隣にある