第52話 墓地エリアと断罪
本話から「ステータス」とか「あの人は今」と同じ枠組みで「裏伝」と言うのを追加しました。簡単に言うと裏話、こぼれ話です。
話に組み込むほどではないけど、話した方がよさそうなことを補足するモノです。今までは活動報告で行っていた補足を本編側に持ってくるようなイメージです。
午後は集めたメンバーと迷宮に潜ることにした。
ミオは背中にしがみついてブルブル震えている。本当に目隠し、耳栓、おむつのフル装備のようだ。どう見ても戦力にはなりそうにない。いや、わかっていて連れてきているのだが……。
「なんで仁君はわざわざミオちゃんを連れてきたんですか?」
「さすがに憐れですわね」
《ミオー、へいきー?》
「むーりー」
「えーっと、仲間はずれは可哀想だからだな」
「この状態の方が可哀想だと思いますわ……」
セラの最後の一言を無視して、先へと進む。この層からは罠がさらに強力になり、矢が飛んでくるとか天井が落ちてくるとか、直接的に人を殺す罠が増えてきた。マップがなければ相当進みにくいエリアと言うことは間違いない。1番進んでいる階層が32層と言うのも納得だ。
出てくるのはゾンビやスケルトンと言ったアンデッド系の魔物が中心だ。
ゾンビ
LV51
<亡者LV1><迷宮適応LV1>
備考:腐った死体。くさした。
スケルトン
LV50
<亡者LV1><迷宮適応LV1>
備考:骨。
スケルトン・ソードマン
LV54
<剣術LV2><亡者LV1><迷宮適応LV1>
「ホーンソード」
備考:剣を持った骨。
ホーンソード
分類:片手剣
レア度:一般級
備考:持ちにくい。壊れやすい。
極端にスキルのレベルが低く、スキル入手のうまみは非常に少ない。じゃあ、弱いのかと言われればそんなことはなく、ステータスはレベル相応だし、<亡者>スキルにより、倒してもすぐに復活するという厄介な特性を持っている。完全に倒すには魔石を破壊するのが手っ取り早い。しかし、魔石は大きいほど価値が高く、破損していると極端に値が下がる。
さらに、このエリアには特産品がない。植物エリアの薬草や、火山エリアの鉱物のように採取したいものがないのだ。強いて言うなら骨?……いらんな。せっかく火竜を倒したというのに、敵は強い、罠は凶悪、なのに得られるものがないという3重苦により、墓地エリアを探索したいという探索者が少ないのも頷ける。
「もちろん、本気で攻略を考えている人間は別だけどな」
「それはそうですわね。そもそもの目的が異なるんですから。事実、32層まで行っている探索者がいるわけですし……」
「この間仁様と別行動をしたときに情報収集したのですが、攻略を本気で考えている探索者はかなりの少数派だそうです。それこそ全体の1%以下だと……」
今までは同じ層にいる探索者も(マップ上で)チラホラいたんだが、この層からは本格的に見かけない。
「火山エリアまでがお試しエリアで、ここから先は本当の実力者以外お断りといった印象を受けますね」
さくらの言う通り、ここからが迷宮の本番のようだ。眼に見えた特産物がなくても迷宮を踏破しようという人間だけを選別するために、あえてこのような造りとなっているのだろう。
この国にはいくつかの言い伝えがあり、最下層まで行った者には莫大な富が与えられると言われている。ちなみに全50層と言うのもその言い伝えの1つである。
しかし、ゲームとか小説とかで迷宮について知っている俺たちとしては若干の疑問が残る。『最下層に到達した後、この迷宮はどうなるの?』というモノである。ゲームとか小説によっては踏破された迷宮は崩壊したり、踏破した者の管理下に置かれることになる場合もある。
「管理下ならまだしも、崩壊は困るよな」
「そうですわね。国家のバランスが崩れる。いえ、1つの国家が崩壊しますからね」
地下の迷宮が崩れたら、その上にある都市はどうなると思う?崩壊(物理)である。
「最下層に行くのは禁止されていないとも聞きました。崩壊の可能性を考えていないのでしょうか?」
「小説とかの下地がなければ、最下層に行くだけで崩壊とかは考えないと思います」
「でも、この迷宮の造りを見てると、崩壊でも管理下でもどっちでもおかしくない気がするんだよな……」
「確かに……」
ここまでお約束のような迷宮を作っておいて、最下層に行ったらお宝渡してバイバイなんてありえないと思う。
「まあ、流石に行ってすぐに崩壊ってこともないとは思うから、崩壊だけはしないように動けばいいだろう」
「そうですわね。管理下の方を願いしますわ」
「ご主人様がダンジョンマスター!!!」
《きゃう!?》
ミオが急に叫び出した。耳栓しているとはいえ、これだけ近くで会話すれば聞こえるのだろう。横にいたドーラもびっくりしている。
「ダンマスになったら、墓地エリア削除してください。何でもしますから」
ん?
その後も次の層への階段に向かい続ける。あ、最初にシンシア達に階段の方向を確認済みだからな。その後すぐに火山エリアに返したけど……。
「……それにしても気が滅入りますわね」
「ええ、正直言って面倒です……」
セラとマリアの顔にも少し疲れが浮かんでいる。体力には余裕があるから、精神的なモノだろう。
「敵が多すぎますわ!」
セラが叫んだ通り、魔物の出現率がやばい。通るたびに横の土の部分から魔物が出現するのだ。その為、ひたすら<光魔法>を撃ち続ける羽目になっている。アンデッドだけあって、<光魔法>が有効なのはゲームとかの通りだ。ステータスは増えるし、敵が発生しない地点もあるのだが、それでもこの数は面倒である。
もう、夕方も近いのだが、いつもの半分も進んでいない。勝てる相手なのに時間だけを使わされるというのは趣味じゃないな。
「仕方ない。イカサマをするか……」
「仁様、何か手があるのですか?」
「ああ、簡単にコイツ等を殲滅する方法がな」
別に大規模な魔法を使うとかそう言うわけではない。ただ、<生殺与奪>を使うだけだ。
-カランカラン-
-グシャ―
それだけで周囲にいたゾンビもスケルトンもばらばらになって崩れ落ちた。
「何をしたんですの?」
「普通に考えて、ただの骨や死体が動くわけはないよな。まあ、ファンタジーに対して今更だが……」
「そりゃあ、まあ、そうですわね……」
「動かしているのは<亡者>スキルの影響だとしたら?」
「あ、それを奪えば……」
「ご覧の有様だ」
最近は異能で相手を弱体化させるという戦術はほぼ使わなくなった。しかし、絶対に使わないと決めているわけではない。そもそも、能力を奪うと経験値が入らないから使わなくなっただけだしな。後、戦力に余裕ができたから。
それに今回は……。
「経験値が入っていますね。仁様がステータスを奪った場合は無いものだと思っていましたけど……」
「ステータス自体はそのままで、HPだけが0になっています」
「なるほど、奪ったのはあくまでも<亡者>のスキルだけと言う扱いになるのですね」
「そういうことだ。経験値は通常通り、ステータスは倒したから奪える、魔石はそのまま残る。完璧だろ?」
これを使えば、パワーレベリングも簡単そうだよな。
ついでに言えば、<生殺与奪>がレベル5になった時に得た射程距離と速度、ついでに同時強奪が、ここにきて大きな助けとなってくれた。
「仁君、凄くズルいです……」
「最初にイカサマって言っただろ?それに正直鬱陶しすぎる」
「まあ、これでだいぶ楽になりますわね」
「ええ、先に進みましょう」
《ごーごー!》
こうして、前半は時間がかかったけど後半は一気に進んだため、何とかその日の内に31層を突破することが出来た。
そうそう、帰ってから話を聞いたんだけど、ガーフェルト公爵家がお取りつぶしになったんだってさ……。なんでもカトレアがガーフェルト公爵家の不正の証拠を提出したそうだ。結構いろいろやっていたみたいだよ。誘拐、暗殺部隊の育成、暗殺、違法薬物の取引、その他もろもろ。あまりの出来事のため、首都はそのニュース一色となっているそうだ。
ガーフェルト公爵は逮捕されて、王城で拘留中だ。公爵個人ではなく、公爵家単位で色々とやっていたみたいだから、関係者にも追及、逮捕の手は伸びている。お取りつぶしも当然と言えるだろう。明確な証拠が挙がっているから、言い逃れすらできなかったみたいだしね。
ガーフェルト公爵が育てた暗殺部隊なんだけど、教育係とかは捕えたんだけど、実際のメンバーはいつの間にかいなくなっていて、誰も捕まえることが出来なかったそうだよ。今は報復行為を警戒してカトレア王女の周りは厳戒態勢が敷かれているそうだ。
それと、腕を失って心神喪失状態になっている娘に関しては奴隷堕ちさせることになったようだ。本人に罪状はないんだけど、家がつぶれて世話をする人間が1人もいなくなるからね。自分で動けない人間に対する扱いなんてそんなものだろう。欠損はあるけど美人だし、まあ、買い手はつくんじゃないかな。
あ、全く関係のない話なんだけど、俺が迷宮に行っている間に、特殊技能を持った奴隷メイドが数10名新しく入ることになった。そういえば、カトレア王女の護衛をしているのも特殊技能を持ったメイドみたいだな。いやー、偶然偶然。
後、欠損があり心神喪失状態だが結構な美人の奴隷も購入したよ。
メイドの方は教育のためにカスタールに行っている。欠損奴隷の方は丁度いいから、明日謁見の時に『神薬』の効果を見せるための被験者になってもらうつもりだ。
あ、これがその欠損奴隷のステータスな。
名前:フィーユ
性別:女
年齢:17
種族:人間
スキル:<歌唱LV7><演奏LV8>
称号:仁の奴隷、元貴族令嬢
翌日、言っていた通りに謁見の間に集まった。
「ふむ、丁度良く欠損のある奴隷を購入したから、その者に使って『神薬』の効果を見せると……。それは正直言って助かるな。代金を払う必要もなく、効果だけ見せてもらえるのだからな。こちらも探してはみたが丁度良い対象がおらんかったからな」
俺の意向を伝えたら、国王はあっさり許可を出した。
「じゃあ、欠損奴隷を謁見の間に入れる許可を」
「うむ。よかろう」
国王が許可したので、謁見の間にフィーユを招き入れる。と言っても、車椅子に乗せたフィーユをセラが押してきただけなんだけど。
「む、その娘は……」
「むぐー!」
国王の顔が苦いものでも食べたように歪む。少し離れた場所からは罪人のうめき声が聞こえる。
「俺の新しい奴隷だ。この欠損を『神薬 ソーマ』で治そうと思う」
「……なるほど、ガーフェルト元公爵をこの場に招いたのはこのためか」
「ぐー!」
今、この場には拘束されたガーフェルト元公爵が連れてこられている。カトレアが要請した理由を国王はわかっていなかったみたいだが、今理解が及んだようだ。
「悪趣味なことをするな」
「やられた分は返す主義だからな」
「ふむ。……ああ、なるほど。ガーフェルト元公爵が先に手を出したということか。まあ、証拠は改竄されていたわけでもないし、なるべくしてなったということだな」
「ぐむー!」
背後関係についてもおおよそ理解できたようだ。やっぱり、通常状態なら有能みたいだな。当然ミオは連れてきていない。
「じゃあ、早速『神薬』を使うぞ」
「任せる」
そう言って俺は『ソーマ』のビンを開け、中身をフィーユに飲ませる。すぐにフィーユの身体が輝き始める。この辺りは『リバイブ』と同じようだな。まあ、光っていないと肉が再生するグロ画像を見る羽目になるしな。
しばらくすると光が収まり、欠損が完治したフィーユがその場に残る。
「む、むぐー!!!」
罪人がひときわ大きく叫んだあたりで、周囲も大きく騒めく。まあ、有体に言って、伝説をその眼で目撃したんだから当然か。
フィーユは欠損こそ治ったものの、いまだに心神喪失状態からは脱していない。眼は開いているが、何も映していないということだろう。自分が治るなんて思っていないから、外部からの刺激をシャットアウトしているのかもしれない。これに関しては時間をかけて元に戻すしかないだろう。もしくはアルタで強制再起動。
「これは……、疑っていたつもりはないが、思っていた以上だな……」
国王も驚きを隠せないでいる。
「私も似たような状況でした。これで今度こそ『神薬 ソーマ』の存在証明です。文句はありますか?」
「あるわけがないだろう」
カトレアの言葉に国王が応える。
ガーフェルト元公爵はいつの間にか蹲っていた。最初のチャンスを受け入れていれば、この場でフィーユを抱きしめる権利があったんだけどな。それを無視したのは自分自身だ。さらには暗殺者なんかを使い、俺を殺して『ソーマ』を奪おうとした。当然許すつもりはない。
すべてを失い、ありえたかもしれない幸福を外から、無関係な立場に落とした上で見せつけるというのが、俺の考えた仕返しだ。うん、悪趣味。
「ではお父様、仁様への褒賞はいかがしますか?」
「何のことだ?褒賞はエルダートレントから『神薬』がドロップしたら渡すという話だろう?『神薬』の代金も不要と言っておったし……」
「ええ、ですが『神薬の存在証明』についての話はしていなかったではありませんか。それだけでも十分な功績のはずです」
「む、確かにそれはそれで褒賞を与えねばならぬほどの功績だったな」
国王もうんうんと頷く。
今回の俺の報告では、『エルダートレントが神薬を落とす』と言う情報の他に、『神薬が実在する』と言う情報も含まれていたわけだ。前者の証明は後回しになるが、後者の証明をしたのだから、褒賞があってもおかしくないというわけか。カトレアの時は事後報告だから、証明にはならなかったしな。
それにしても俺、この国から褒賞貰い過ぎじゃね?
A:それくらいの事はしていると思いますよ。
地下迷宮の発見、カトレアの救助、国王の治癒、勇者の討伐、『神薬 ソーマ』の存在証明。うん、それなりにやってきているね。
「して、仁殿。何か望む褒賞はあるか?……最近、仁殿にしか褒賞の話をしていない気もするが」
やっぱり国王も似たようなことを感じていたようだ。多いよね?謁見の間に入る回数も含めて。
「まあ、それだけ仁様の活躍が目覚ましいということですよ、お父様」
「もちろん、悪いことではないのだがな。いっそ貴族にでもなってもらえれば、細かい話を内部で処理できて楽なのだが……。功績はワシ名義にできるし……」
「お断りする」
間髪入れずに答える。貴族は嫌だって。
「まあ、前に貴族の話をした時の反応から、予想はできておったがな……。考えるそぶりも無しか……。丁度爵位が1つ余っておったのに……」
「むぐー……」
苦笑する国王と唸る罪人。
さて、褒賞には何を貰うべきか。今、とりわけ欲しいもの無いんだよな。むしろ、欲しいものはすでに大体貰ったし……。
「じゃあ、褒賞は魔法の道具で」
「ふむ、わかった。では目録を準備しておこう。個数については応相談だな」
困ったときの『魔法の道具ください』である。手に入れる機会が稀なモノもあるし……。
そうしてその場は解散となった。城内にある魔法の道具をアルタに検索してもらい、目ぼしいモノをいくつかピックアップしておいた。渡される目録にそれがあったら優先して選ぶ予定だ。
午後からはいつも通り迷宮に行くつもりである。しかし、その前に皆を集めて報告をする。
「本当にミオがダメっぽいので、ここからは全力で行こうと思います」
「お願いします……」
ミオが横で土下座している。
昨日の夜、ミオが土下座して頼んできた。さすがの俺も少々可哀想になってしまい、最短期間で終わらせることを約束したのだ(連れて行かないという選択肢はない)。
「昨日と同じように<亡者>スキルを強奪して進もうと思う。今回に関しては訓練とかを無視してとにかく速さを重視する。その為にさくらに新しい魔法を創造してもらった」
<固有魔法>「バキューム」
討伐した魔物の死体を回収する。発動すると一定時間持続する。設定により魔石だけを回収したり、価値のある物だけを回収したりすることが出来る。
「この『バキューム』により、魔石とか価値のあるモノだけを拾っていくつもりだ。あ、魔物の死体もタモさん用に2匹(予備含む)までは回収することにするけど」
「便利な魔法ですわね。でも、迷宮以外ではあまり使う機会がないような気がしますわ」
まあ、迷宮のために作った魔法だから当然だよな。
「本来、さくらの<魔法創造>って言うのは、その場その場で汎用性は低いけど役に立つ魔法を創造して対応するというのも、正しい使い方だと思うんだよ」
さくらが魔法を創造するのに大きなデメリットはない。だったら、困ったときに使わなければ損というモノだ。
「今までに仁君に頼まれて創った魔法は汎用性が高いものが多いですよね」
「そうだな。ここまで限定的な魔法というのは初めてだな。もう1つの魔法もかなり限定的だし……」
<固有魔法>「アントラップ」
周囲にある罠を破壊する。
「シンプルですね」
「シンプルですわ」
《しんぷーる》
「シンプルな方が消費MP少ないんですよ」
シンプルな効果である。今までは罠があるたびに足を止めて解除していたんだけど、それだと時間がかかるから、移動しながら罠を解除するために創ってもらった魔法である。正直言って反則である。
「一応、この2つの魔法を使って2日で攻略するつもりだ。スマンが2日だけはミオも我慢してくれ」
「うん、頑張る」
準備が終わったので32層の攻略を再開した。頑張るとは言いつつ、ミオは結局俺の背中にしがみついている。
「それはそれ、これはこれ」
だそうだ。
32層は現在の最高到達層だ。普通の探索者がよくあの31層を突破できたものだと思う。さらに驚くことに32層に到達しているパーティは3つもあるのだとか。
<生殺与奪>、『バキューム』、『アントラップ』により、かつてなく速い攻略ペースで32層を進んで行く。そのおかげで1時間かからずに階段のあるエリアに到達した。
そのとき、さらに隣のエリアに見たくもないものが見えてしまった。
「うげ……」
「仁様、どうかなさいましたか?」
「ああ、隣接エリアに魔族がいる」
「こんなところに魔族ですか。……え?何ですか?これ」
さくらも気が付いたようだ。この階層にいる魔族の横に探索者のパーティだったものがいるということに。
本来、マップにおける人の位置は色付きのマーカーで示される。マーカーは高さも考慮されるため、人が積み重なっていれば、マーカーも積み重なることになる。それなのに探索者たちのマーカーは現在、『×8』と一括りにされているのだ。
「一か所に8人いる?どういうことですか?」
マリアが聞いてくる。
「多分、生きたまま混ざった感じになっているんじゃないか?」
「うえ、何か想像しちゃったんですけど……」
さくらが青い顔をしている。俺だって気分がいいわけではない。
「さくら、多分本物は想像以上だと思うぞ」
「わ、私見たくないんですけど……」
「俺もだよ。でも、流石にこれを無視するわけにもいかないな。正直言って魔族は有害だ。見かけたら潰しておかないとな」
「扱いが完全にゴキブリですよね」
「ゴキブリよりも明確な実害が出るけどな」
魔族と横の探索者の塊が無関係とは思えない。十中八九この魔族の仕業だろう。カスタールにいたロマリエだけが残虐な性格だった可能性もあったのだが、これはもう魔族自体が残虐な性質だと考えた方がいいんじゃないかな。まだ2人しか見かけていないけど、その2人が酷すぎるからな。
少なくとも活動範囲で見かけたら倒しておくのが吉だろう。放っておいていいことはないだろうし。
「と言うわけで階段横に『ポータル』置いたら、魔族を潰しに行く。さくらは苦手だろうから、ミオと一緒に戻っていてくれ」
「すいません。多分見たら吐くので……」
「ミオ、申し訳ないが2日で墓地エリア攻略は無理かもしれん」
「屋敷で待っていていいなら大丈夫よ」
次の層への階段まで到着したので、2人を屋敷へと返す。マップを見た限り、魔族は探索者の塊に対して何かをするつもりはないようだ。放置されているのが救いかどうかは別として……。
「他のメンバーは大丈夫か?」
「仁様が行くのでしたらどこにでもついて行きます」
《へいきー》
「気分は良くないでしょうけど、胃の中の食べ物が勿体無いので、私は絶対に吐きませんわ」
セラはここでも通常運転だ。
隣接エリアと言うこともあり、全力移動して20分ほどで魔族のいるあたりに着いた。魔族がいるのはどうやら安全地帯のようで、その中では魔物が発生しないようだった。あ、魔物が発生しないだけで魔物が入れないわけじゃないからな。逃げ込んだだけで安全と言うわけではないぞ。
ゼルベイン
LV65
性別:男
年齢:43
種族:魔族
スキル:<剣術LV7><空間魔法LV6><身体強化LV7><魔物調教LV8>
呪印:<存在強化LV->
<存在強化LV->
自身、または従魔の能力値を一定時間大幅に上昇させる。代償に対象の寿命を大きく減らす。
「はあ、今日は落ち着いて研究が出来ぬようだな」
俺たちが安全地帯に入るなり、魔族、いやゼルベインがそんなことを呟いた。肌の色はロマリエと同じ紫、髪は長い銀髪。白いコートにモノクルをかけているので、いかにも科学者と言った印象だ。
視界の端にいる探索者の塊はあまり見ないように心掛ける。マップで確認したらあの塊に含まれる探索者は全員女性だった。アルタに聞いたところ、3組中1組だけは完全な女性限定のパーティと言うことなので、恐らくそのグループだろう。
「ようこそ、招かれざる客人よ。残念だが吾輩の姿を見た以上、生きて返すわけにはいかんな」
そう言うとゼルベインの後ろからアンデッド系の魔物が大量に近づいてきた。50匹くらいはいるんじゃないかな。さすがは<魔物調教>レベル8。
「これで相転移石で逃げることもできまい?」
相転移石は近くに魔物がいると使えない。相手を逃がしたくないなら魔物を呼び寄せればいいというわけか。……『ポータル』で逃げたらどんな顔をするのか見てみたい。いや、やらんけど……。
「まあ、逃げる必要があるかと言われれば、全くないと答えるだけなんだが……」
「ほう、魔族を前に面白いことを言うな。それは吾輩が魔王軍四天王『大軍のゼルベイン』と知っても同じことが言えるのかな?」
……なんだ、ロマリエの同僚かよ。じゃあ悪趣味なのも納得だな。
「魔王軍四天王ねえ、最近カスタールで1人討たれたって話だけど、その程度の連中だろ?」
とりあえず煽ってみた。そもそも討ったの俺だけど……。
「ロマリエなど戦闘力では四天王最弱だ。策が暴かれた時点で死ぬのは当然の事だ。一緒にしてもらっては困る」
あ、やっぱりロマリエは戦闘向きじゃないんだ。まあ、持っている呪印も戦闘向きとは言えないものだったしな。
「それよりも人間、貴様カスタールの事を知っているのなら、聞きたいことがある」
「……いや、なんで態々魔族の質問に答えてやらなきゃなんないんだよ」
「殺してから記憶を暴くのが手間だからな。生きているうちに答えるのなら、そこの肉塊とは違って安らかに殺してやるぞ?」
殺してから記憶を暴くですって、物騒なことを言いますね。あ、はい。俺もできますが、何か?
「そんな事は望んでいない。代わりにこっちの質問に答えろ」
殺し合う前に少し聞きたいこと、気になっていたことがあるんだよな。折角だからこのタイミングで聞いておこう。
「言ってみろ……」
しばらく考えていたゼルベインは頷いてから先を促してきた。
「あんた、この迷宮の魔物に上の階層に行くように指示しなかったか?」
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裏伝
*本編の裏話、こぼれ話。過去の話に追加する可能性あり。
・ガーフェルト公爵
ガーフェルト公爵が仁の暗殺と言う手段を選んだのは、娘の欠損を周囲に知られたくなかったのが理由である。
本物である確証のない状態で、公にして、万が一偽物だった場合の取り返しがつかないと判断した。……してしまった。
もちろん、娘を想う気持ちもあったが、娘の利用価値が高かったので、欠損を知られたくないと言う気持ちが暴走した結果である。
元々悪いことをしていて、暗殺という手段をとることに抵抗がなかったというのも、悪い方に向かった理由の1つではある。
裏伝の第1回からこいつの話っていうのもどうかと思うんですけどね。
普通、この内容なら「秘伝」が相応しいんですけど、既に予約済みなので「裏伝」にしました。