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第51話 火竜戦と暗殺者

外伝5話を入れた理由ですが、多少の伏線、設定の逆輸入(仁の偽名のジーンとか)、東と浅井の人となりを知ってもらう、の3つがあります。

そもそも、他の失伝とか口伝とか列伝と違って、外伝のキャラは将来的に本編に関わる予定です。あ、工藤と木野は出ないかもしれないです。

なので、外伝を見ていないと本編で話が分からなくなる可能性もあります。出来るだけ、そうならないように注意はしますけど。

 翌日、午後に少し差し掛かったあたりで30層を踏破し、ボス前の扉までやってきた。扉には翼を広げたドラゴンが描かれている。そう言えば、この世界に来てドラゴンと戦うのは初めてだな。ドーラに関しては竜人種ドラゴニュートであって、ただのドラゴンではないし……。


火竜フレイムドラゴン

LV55

<竜術LV5><魔法耐性LV5><火属性耐性LV5><飛行LV5><門番LV5><迷宮適応LV5>

備考:火属性のドラゴン。火を吹く。空を飛ぶ。


 と言うわけで次のボスを確認したら、驚くべきステータスが表示された。今までの階層はボスのレベルは階層+5だった。ミノタウロスは10層ボスで15レベル。エルダートレントは20層ボスで25レベルと言ったように。しかし、30層ボスはいきなり55レベルだ。これは21~30層の魔物の平均レベルに対して30近く上となる。これ、普通にここまで来た探索者だと返り討ちにあって死ぬよね。


A:30層のボスには手を出すな、と言う話は探索者の間では有名です。30層を相当余裕を持って攻略できる者だけが挑むようにとも言われています。


 正直なところ迷宮に関してはそれほど情報収集していないからな。知らない情報があっても当然だろう。


A:そもそも、だからどうしたという話ですので……。


 まあ、押して通るのは確定事項だしな。しかし、少々気になることがある。


「これ、新人組を連れて行って大丈夫か?」

「わ、私はやれるのです!」


 シンシアが力強く宣言するが、少し声が震えている。


「無理です!勝てないよね、カレンちゃん」

「無理です!負けちゃうよね、ソウラちゃん」

《このままだと厳しいですね》


 双子とケイトはこのままでは無理だと判断したようだ。


「ステータスを渡せばシンシア達でも勝てるだろうけど……」

「気が乗らないようですけど、何か問題でもあるんですの?」


 歯切れの悪い俺に対し、セラが質問をしてきた。


「ああ、基本的に<生殺与奪ギブアンドテイク>によるステータスの分配は、倒した敵のステータスをその時のパーティで等分するって決めているんだ」

「ご主人様が上前をはねた後に、よね?」

「……まあ、そうだな」


 あえて言わなかった部分をミオに言われてしまった。やっぱり人聞き悪いよな……。


 基本的に俺は最初にある程度ステータスを与えたら、それ以降は戦闘経験やレベルなどに応じて、徐々にステータスが加算されていくようにしている。

 これは、急激に能力が向上することで、力に振り回されたり、増長したりすることを防ぐためと言うのが主な理由だ。

 とは言え、最初の頃に仲間になったメインパーティには、自重無しでステータスを与えたせいでとんでもないステータスとなっており、それ以外のメンバーとの間に大きな開きが出来ているのだが……。


《階層突破のために私たちにステータスを与えることは、旦那様の決めたルールに反すると言う訳ですね》

「ああ、自分で決めた強制力のないルールとは言え、破るのは何となく気持ちが悪い」


 もちろん、どうしても必要と言うのであれば無視できる程度の決め事なんだが、今回はそこまで重要度が高いわけではないというのが悩みどころだ。


《旦那様、私たちの事は気にせず、先に進むべきだと思います》

「どういうことだ?」


 ケイトの意見を聞いてみよう。


《旦那様が私たちを連れている理由は<迷宮適応>による正解ルートの検索と、探索者として活動する配下の育成ですよね?》

「ああ、それが1番の理由だな。後者の方はここにいる4人を基幹メンバーに据え、今後増やしていく予定だ」

《今後増える配下の方たちは旦那様のルールに則るはずです。それなのに頭となる私たちが特別扱いを受けるのは良くないと思います。旦那様も不快な思いをしますし、私たちも後ろめたさが残ります。良いことがありません》


 言われてみればその通りである。たかがボス攻略で不快な思いをするなんて馬鹿らしいよな。


「シンシア、カレン、ソウラはどう思う?」

「ケイトちゃんの言う通りだと思うのです。個人的には早く先に進んで強くなりたい気持ちもあるのですが……、今後の事を考えるとわがままは言えないのです」

「右に同じく」

「左に同じく」


 他のメンバーもケイトの意見に賛成のようだ。


《旦那様は新しい層になったときだけ私たちを呼んでくだされば、正解ルートの検索は問題ないはずです。それ以外の時はこの辺りの層で戦闘を繰り返していればいいと思います。いずれは自力でのボス部屋突破もできるでしょう》

「確かにそれなら問題はないな。わかった。じゃあ、申し訳ないが4人はこの層で一旦別行動と言うことでいいか?」

「「「はい(なのです)!」」」

《はい》


 こうして俺達は新人組4人と別行動で攻略を進めることになった。4人には念のため<迷宮適応>のポイントを与えてレベル8にしておいたから、余程のことがない限りは大丈夫だろう。後、時々でいいからミスリルを採掘してもらうことにしたので、少し予定ミスリルあつめの前倒しが出来そうだ。



「まあ、わかってはいたんだけど、広いね……」


 ボス部屋に入った俺は思わず呟く。

 30層のボス部屋は他の層のボス部屋に比べてかなり広かった。具体的に言うと、高さ30m、1辺300mくらいの正方形の部屋だった。


「火竜って言うくらいですし、空も飛ぶでしょうし、このくらいの広さがあるのは当然ですわね」

「RPGみたいに一か所で動かないってわけはないわよね」

「RPG、確かミオちゃんの言っていたゲームの1つでしたよね」


 そう言えば、マリアがゲームについての説明をミオにせがんでいたっけ。


「そーよ。ファンタジーではドラゴン相手もお約束ね」

「異世界出身のお三方がよくファンタジー世界とか言ってますわね」

「どう見てもファンタジー世界だからな」

「そうですね。ゲームと言わず小説とかでのお約束もかなり盛り込まれていますね」

「あ、さくら様はどう見ても文学少女よね。そっちの方が詳しいのか……」

「まあ、有名ファンタジー小説は図書館で一通り読んでいますね」


 雑談をしながら進み、寝ている火竜に近づいた。火竜は迷宮奥にある次の層への扉を守るように蹲っていた。しかし、俺達がある程度近づくと目が覚めたようで起き上がって翼を広げた。全長5mくらいかな。羽を広げたら10mくらいだな。


「GYAAAAAAAAAAAAA!」


 お、叫び方がティラノサウルスと同じ仕様だな。


「うるさいわねー。さっさと倒しちゃいましょ!」

「そうですわね。まずはわたくしが前衛で様子を見ますわ」

《ドーラも行くー!》


 そう言ってセラとドーラの盾職2人が前に出る。火竜もこちらへの敵意を露わにした。


「GYUOOOOO!」


 そう叫びながら腕を振るい爪で攻撃してくる火竜。


《ふにゃ!》


 気の抜けた掛け声でそれを受け止めるドーラ。ステータスの補正によりほとんど押されてはいない。重量差がとんでもないから普通だったら吹っ飛ぶんだけど……。ステータスの方が常識や物理法則よりも上位の概念だと実感するな。


「今度はこちらの番ですわ!」


 セラが火竜の腕に向けて斬撃を放つ。火竜も脅威と感じたのかすかさず腕を引いたが、剣が速すぎたせいで避けきれず、深く切り裂くことに成功した。


「GYOOAAAAAAAAA!」


 血が噴き出して叫ぶ。こちらの戦力を甘く見ていたことを悟ったのか、翼を羽ばたかせ空へ飛ぼうとする。


「さっせないよー」


 ミオの矢が火竜の翼に突き刺さる。ご丁寧に両の翼に3本ずつ、それも氷属性を付与した矢を使っているため、当たった箇所から氷が張った。


「GYUUUUUUU……」


 竜は翼だけで空を飛ぶことはできず、<飛行>スキルで空を飛んでいる。しかし、翼が不要と言うわけではなく、<飛行>スキルを有効に使うには翼の存在が不可欠となる。当然、翼に損傷を受ければ<飛行>スキルもうまく使えなくなる。

 何とか飛行することには成功したようだが、あっちへふらふら、こっちへふらふらと安定していない。そんな状態ではあるが、<竜術>のブレスを吐こうと息を吸い込んだ。


「『アクアカーテン』!」


 すかさずさくらが魔法を発動する。LV4魔法の『アクアカーテン』だ。LV4で習得できるカーテン系の魔法は言ってしまえばウォール系魔法の上位で広範囲を覆うことが出来る。魔法の中にはレベル1で覚える魔法から純粋に強化されるというモノも多い。弾丸バレット系の上位に投槍ジャベリン系って言うのが有ったりね。

 あ、壁よりカーテンの方が範囲が広いこととか、銃弾が槍よりレベルが下な件については俺に言うなよ。そういうモノなんだからな。


 ドーラを狙ったブレスは『アクアカーテン』により完全に封じられた。ジュウジュウと水のカーテンが蒸発する音だけが響く。


「GYAAAAAAAAA!」


 ブレスが通じないと見るや、今度は上空から急降下で攻撃してくるようだ。ドーラに向けて口を大きく開け噛みつこうとする。……ドーラの事、狙い過ぎじゃね?あ、好きな子には嫌がらせしたくなるみたいな?


《ドラゴンきらーい!》


 声を張り上げてドーラがバトルスタッフを振るう。バトルスタッフは向かってくる火竜の顎に直撃した。


「GYUUUOOOOOOOOOO!」


 メチャクチャ痛そう。空を飛んだままだがスッゴイふらふらしている。これでLV55か、正直張り合いがないな。


「マリア、やれ」

「はい」

「HYO!?」


 次の瞬間火竜は地面に墜落した。その横には、無事に着地したマリアの姿が。

 先ほどの急降下の際に背後にしがみついたマリアが空中の火竜にとどめを刺したというだけなんだけど、火竜も全く気が付いてなかったな。まるで暗殺者のような見事な手腕だった。……マリアはどこに向かっているのだろうか?勇者だよね?まあ、世の中には職業盗賊の勇者もいるから、別に問題ないんだけどさ。



>生殺与奪がLV6になりました。

>新たな能力が解放されました。

生殺与奪ギブアンドテイクLV6>

同系統のスキルを統合できる。ユニーク、デメリット、種族等限定のスキルは統合できない。1ポイント吸収で統合。スキルポイントの獲得は変換(10:1)でのみ可能。


 お、<生殺与奪ギブアンドテイク>が強化されたな。……あれ?今回俺全く手を出してないけど?

 まあいいや。ふむ、スキルの統合か。アルタ、具体的にできることを教えてくれ。


A:はい。まず、スキル統合についてですが、これは<武術系>、<魔法系>などのくくりによってスキルを統合できます。例えば、武術系スキルを統合すると<武術>と言うスキルが出来ます。<剣術>と<槍術>を統合した<武術LV2>がある場合、<剣術LV2>と<槍術LV2>があるのと同じになり、その全ての効果を使うことが出来ます。


 聞いただけでもかなり強力そうだな。じゃあ、次は制限とかについて教えてくれ。


A:まず、説明にもあった通り、ユニークスキル、デメリットスキル、限定スキルは統合できません。限定スキルは性別、種族などにより、習得できる対象が限られているスキルの事です。


 この辺は何となく言いたいことがわかるな。つまり普遍的に扱えるスキル以外は統合できないということだろう。


A:そして<武術>などの統合スキルはスキルポイントを入手できません。鍛えることが出来ないという方が適切かもしれません。ポイントの入手は未変換ポイント2ポイントとの交換のみになります。


 未変換ポイントと言うのは、スキルポイントを別のスキルポイントにするための中継地点だ。余っているスキルを5ポイント使うことで1ポイント入手できる。そして未変換ポイントは持っている他のスキル1ポイントに変換できる。2ポイント必要と言うことは他のスキルポイントを10変換するということだ。得られる効果からすると随分良心的と言えるだろう。


A:そして、すでにある統合スキルに新たなスキルを追加する場合、1ポイント消費する必要があります。消費した分のポイントは消滅します。統合スキルは分離できないので、1ポイントしかないスキルを統合しないように注意してください。


 あ、はい。注意します。


 スキルポイントを鍛えることが出来ないのは残念だが、そもそもスキルポイントはそんな簡単に上がるようなモノじゃないし(マリア除く)、気にすることはないだろう。

 それよりもこの統合スキル、10ポイントで1上がるということは10以上のスキルを統合していれば収支はプラスと言うことになる。そして統合すればした分だけプラスの幅が増えていく凄い能力だな。

 後でスキル統合をいろいろと試してみよう。



「仁様、またドロップアイテムです。……どうかしましたか?」


 マリアが近づいてきた。うん、まあ、ボスだしドロップアイテムくらいあるよね。


「いや、異能がレベルアップしただけだ」

「おめでとうございます」

「詳しい話は後でするとして、今度は何が出たんだ?」

「はい、こちらになります」


 そう言って見せてきたのは真っ赤に輝く金属のインゴットだった。


ヒヒイロカネ

備考:とても軽くて固い伝説の金属。


 ヒヒイロカネ、俺達の元の世界でもそれなりに有名な伝説の金属だな。特徴も大体備えているみたいだし、同じものと考えても問題なさそうだな。ドロップ品としては多分『ソーマ』と同じ枠じゃないかな。説明に普通に伝説って書いてあるし……。


「お察しの通り、伝説のアイテムです」

「だよなー」

「おー、ゲーマーとしては見逃せないアイテムね。あ、ご主人様、今度は公表するの?」


 ゲームでおなじみのアイテムが出てきたことに、興奮を隠せないミオが質問してくる。


「いや、今回は公表しないつもりだ。公表しても死者が増えるだけだろうし……」

「まあ、馬鹿者が殺到するでしょうね」


 20層で『ソーマ』を探すのとは訳が違う。何と言ってもボスのレベルがけた違いに高いからな。20層台で何とか戦えている程度の連中が挑んだら、屍の山を築くだけだろう。個人的に発表したい理由もないし、こっそり持っておくのが吉と言うわけだ。


「ノットへのお土産かな」

「いやー、ミスリル武器作成がギリギリみたいだし、先は遠そうね」

「そだな」


 鍛冶をやらせている奴隷のノットはミスリル装備を作れる。しかし、ヒヒイロカネはミスリルよりも要求レベルがはるかに高い。残念ながらしばらくは扱えないだろうな。

 ヒヒイロカネで武器を作ると最低でも秘宝級アーティファクトみたいだし、色々な特殊能力もつきやすいという(アルタの)話だから、ぜひ頑張ってほしいところだ。



「それはそうと、どんな異能が増えたの?」

「あ、私も気になります。仁君の異能はいつもとんでもないですからね」

「そうですわね。レベルアップと言っていましたから、<生殺与奪ギブアンドテイク>か<多重存在アバター>のお話だとは思うのですけど……」


 現状、レベルのある異能はセラの言う通り、<生殺与奪ギブアンドテイク>と<多重存在アバター>の2つだからな。


「ああ、<生殺与奪ギブアンドテイク>のレベルが6になった。新しく習得したのはスキルの統合だな」


 そのまま、アルタに聞いた内容を皆にも伝える。


「ふむふむ、10個以上のスキルを統合していると得になるわけね。ついでにレベルが統一されて、ステータス画面的にも見やすくなると……」


 ミオは流石ゲーマーと言うべきか、詳しく話していない部分にも思い至ったようだ。


「でも、ユニークスキルの類、恐らくわたくしの<英雄の証>とかマリアさんの<勇者>は統合できませんわね。全体を通して『その他』項目のスキルは無理でしょうね」

《<竜魔法>もむりっぽーい》


 あ、当然、<竜魔法>は統合できないよ。でも必要なのはドーラだけだから問題ないけどね。

 そう言えば、火竜フレイムドラゴンのスキルは<竜術>で、ドーラの<竜魔法>と異なるのは何でだ?


A:竜人種ドラゴニュートは<竜魔法>、通常のドラゴンは<竜術>とスキルが分かれています。効果はほぼ同じです。


 面倒だから出来れば統一してほしいんだけど……。


A:不可能です。


 あ、そう……。


「後、スキルポイントを習得できないとなると私にとってはマイナスとなるかもしれません。私の分は統合しない方がいいかもしれませんね」

「仁君、統合スキルと統合前のスキルを両方持っている場合はどうなるんですか?」

「お、それについては考えていなかったな。アルタ、どうなる?」


A:統合前スキルにポイントが加算されます。有効になるのはレベルが高い方です。


「となると、最低でも1ポイントずつは統合前スキルも持っておいた方がいいというわけですね」

「かなり有利な仕様ね。まあ、都合がいいけど……」


 他のメンバーにもアルタが伝えたようだな。



 一通りボス部屋ですることも終わったので、次の層へ向かうことにした。ボス部屋から続く階段を下り、次のエリアが見えてきた。


「ひい!」


 ミオが俺にしがみついてきた。

 そうだな。このエリアを一言で説明するとしたら、『墓地エリア』だからな。怖がりなミオにとっては地獄のようなエリアだろう。墓地だけに……。


「とりあえず、『ポータル』だけ設置して1度帰るぞ」

「設置、終了いたしました」


 仕事の早いマリアがすでに『ポータル』を設置済みだった。さすがマリアだな。

 どう見てもミオがダメそうなのでさっさと屋敷に帰還することにした。ガクガク震えてるし……。


「ふいー。あ、『清浄クリーン』」


 ミオが脱力し、すぐに『清浄クリーン』を発動した。つまり漏らしたわけだ。しがみついてきていたけど、俺の方は平気かな?……平気そうだ。


 その後すぐに念話でシンシア達に帰った旨を伝えると、もうしばらく戦闘を続けると返ってきた。


《無理するなよ》

《大丈夫なのです!》

《私たちがついていますので……》

《なら平気だな》

《酷いのです!》


 ケイトがいれば無茶はさせないだろう。1番不安なのが勇者って言うのもどうかと思うけど……。


「さて、今後の方針を決めないといけないな」

「あ、私無理っす」


 ミオがあっさり白旗をあげる。一応、怖がりを治す訓練はしているみたいだけど、あれは流石に荷が重かったのだろう。

 『墓地エリア』は西洋風の墓地のようなエリアだった。通路の真ん中は石畳となっているが、壁の近くは土の地面となっている。調べた限りだけど、その辺りからアンデッド系の魔物が出てくるようだ。墓石とかもそこかしこに設置されており、この迷宮を作成した人間の趣味を疑うレベルだ。


「どうしてもついて来いって言うのなら、目隠し、耳栓、おむつ装備でご主人様にずっと抱き着いている」

「そこまでですの!?」

「Yes!」


 ミオのテンションがおかしなことになっているな。


「わかった。じゃあ、それで」

「Oh No!」


 俺が許可をするとミオが頭を抱える。言った以上はちゃんと守ってもらうからな?


「ミオの参戦が決定したところで、今日は自由行動ってことにするか。1度屋敷に戻ると、もう1度行こうって気にならないし……」

「ご、ご主人様ー」


 ミオが涙目で裾を引っ張るが無視する。あ、本当に目隠しと耳栓とおむつは用意させたよ。背負いやすくするための背負子も用意したから準備は万全だ。



 その日の夜、俺達が寝静まったころに侵入者があった。マップからのアラートで気付いたのだが、10名の人間が屋敷に忍び込んだようだ。当然、屋敷の警護を任せていたメイドたちによって捕えられている。アラートにより起きて、マップを確認するまでのわずかな時間で全員捕縛されたようだ。

 1度は起きたが、メイドたちが尋問までしてくれる(とアルタが言っていた)ので、再び眠りにつくことにした。優秀なメイド達だよ、本当に。


「彼女たちはガーフェルト公爵の放った暗殺者だったようです」


 翌朝、カスタールからエステアに来ていたメイド長ルセアが俺に報告してきた。

 そうか、ガーフェルト公爵はそっち側を選んでしまったのか。フフフ……。


「彼女たちって言ってるということは、全員女だったのか?」

「ええ、少女と言っても差し支えないような若い女たちです。相手を油断させるためだそうですよ」


 まあ、割とよくある話だよな。ハニートラップとまでは言わないけど、少女って言うのは警戒心を抱きにくいからな。俺?マップを見て色で判断するから関係ないな。殺せる距離まで近づいてから、急に害意を持つなんてことは滅多にないからな。俺も1人しか心当たりないし……。アイツが近づいてきたら青色みかたでも警戒するし……。


「メイドが多いんだから、相手が女でも油断なんかしないよな」

「当然です」

「で、その暗殺者たちはどうしたんだ?マップを見ても見当たらないけど……」


 マップにはそれらしき存在はいない。メイドは全員黄色しんじゃだし、赤色てきのマークもない。皆殺しか?


「ああ、彼女たちでしたらそこにいますよ。心を入れ替えてメイドとして、奴隷として主様にお仕えするそうです」


 指し示された先にいたのは真新しいメイド服に身を包んだ10人の少女たちだった。スキルを見ると確かに<暗殺術>とかがついている。まあ、俺配下のメイドに<暗殺術>持ちがいないかと言われると、そんなこともないんだけど……。

 10人の信者メイドはその場で腰を下ろし、揃って土下座の体勢となる。


「申し訳ありませんでした。旦那様!」×10

「……」


 一体、何をしたら暗殺者が心を入れ替えて黄色しんじゃメイドになるというのだろうか?


A:色々と薬物を投与されており、洗脳された状態でした。『秘薬』により、薬物の影響を取り除いたら、あっという間に隷属、入信いたしました。記憶は残っているようで、全ての情報をこちらに引き渡しました。


 結局こちらも洗脳しているようなもんじゃねえか……。薬物による洗脳よりは健全か?


 基本的に俺は敵対した者を許すことはしない。とは言え、例外がないというわけではない。例えば、『自分の意志ではなく』『実害が出ておらず』『すでに無力化されている』と言う3つの条件を満たしている場合には許すこともある。今回の暗殺者たちはこの条件を満たしているため、わざわざ殺したりするつもりはない。

 もちろん、このどれか1つでも満たしていなかった場合は許したりなどしないつもりだ。あ、『人質を取られて』とか『脅されて』は『自分の意思』扱いなので悪しからず。


「メイドとしての教育は不十分ですので、この後カスタールでの教育となります。もし、お望みでしたら、その前に罰を与えることもできますが、いかがいたしましょうか?」


 そう言うと10人のメイド(暗殺者)はいそいそとメイド服を脱ぎ始めた。一体何をさせるつもりなのだろうか?そう思ってメイド(古参)の方を見るとナイフや鞭などを準備していた。


「……いや、必要ない」


 敵ならまだしも、態々配下になった奴を痛めつける趣味はない。それに信者メイドって俺に対しては羞恥心がないみたいで、恥ずかしがらせることも難しいしな。


「わかりました。あなた達、下がっていいですよ」


 そう言うと10人は部屋を退出した。半裸のままだ。確かにここで着替えていいとは言っていないな。


A:薬物の影響が残っており、羞恥心などの一部感情が機能不全を起こしています。完治した後に思い出して身悶えるでしょう。


 むしろそれが見たい。


 さて、さてさて。俺はメインメンバーを自室に集めた。


「と、言うわけでガーフェルト公爵には後悔してもらいます」

「仁様、必要でしたら私が暗殺してきます」


 マリアがあっさりと言ってのける。俺のスタンスからすれば暗殺に暗殺で返すというのも悪くはない。


「ご主人様、確かチャンスは与えたのよね?」

「ええ、確かに仁様はガーフェルト公爵に娘の欠損を治すチャンスを与えましたよ。ガーフェルト公爵はその時に何もしませんでしたけど」

「お金を払って『ソーマ』を買うより、暗殺して奪う方を選んだのですわね。愚かですわ」

「そこだ。俺としても折角の善意を無視されたからな。その上暗殺と来たものだ。結構不愉快だから、ただ殺すだけではつまらない。しっかりと後悔させてやる」

「ご主人様、結構マジでイラついてる。公爵、死んだわね」


 だから殺しはしないって。……直接は。


 色々と準備があるので、その日は午前中だけ自由行動とした。一応、午後からは迷宮に潜る予定だ。



「……と言うわけだ。任せたぞ」

「はい。お任せください。もぐもぐ」


 朝食を食べに来ていたカトレアに、少しだけ頼みごとをする。

 どうでもいい話だが、カトレアはこの屋敷によく食事をしに来るため、城ではあまり食事をとらない。それが『小食で儚げ』と人気を上げるのに一役買っているらしい。『ポータル』でこっそり来るからバレないとのことだ。その儚げな姫様は現在お茶漬け(2杯目)をどんぶりを持ち上げながら食べている。


「後は謁見だが……」

「今日中に片が付くと思いますので、明日でもよろしいでしょうか?もぐもぐごっくん」

「そうだな。それで頼む」

「はい。もぐ……」

「食いながら喋るなよ」

「もぐもぐもぐ……」


 こいつ、喋る方を捨てやがった。



 それから、いくつかの準備を終わらせたあたりで午後になった。

 さて、これでやることは終わった。迷宮に潜るぞ。新しいエリアが楽しみだ。

 あ、スキル統合しなきゃ……。


スキル統合は51.5話でやります。


外伝5話で最後省略された部分のダイジェストです。

仁たちがログアウト→東に再配布可能なパッチを作らせる→再ログイン→浅井の伝手を使って配布→GM焦る→プレイヤーの一部を監禁→謎のプレイヤーオリファー登場→GMの管理エリアに向かう→パスワード(30桁)を仁が一発解除→仁がGMに顔パン→東がGMの居場所をハッキング→浅井の伝手で警察に連絡→逮捕

Q:それをダイジェストにするなんてとんでもない。

A:え?

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
カトレア好きだけど多分今後の出番は殆ど無いんだろうな
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