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第50話 老木戦と火山エリア

少し長めで、場面が結構変わります。そのため、登場人物も多めです。

登場人物紹介は章の終わりと決めているので、覚えていないキャラがいたらごめんなさい。一応、ほとんどは3章登場のキャラですけどね。

 俺たちはそのまま部屋に入り、エルダートレントとの戦闘を開始した。


 エルダートレントはトレント(3mくらい)よりも遥かに大きく、天井ギリギリ(10m)の大きさである。<触手>スキルも持っており、木の根っこを自在に操り攻撃してくる。盾で防ごうとした場合、盾にぶつかった後に根っこの軌道を変えてくるので、避けるのが結構難しい。

 さらに部屋の中には樹がたくさんあり、エルダートレントは<擬態>によりその木の中に紛れて攻撃してくる。この擬態を使用すると完全に木々に紛れ込んでしまい、捕捉は困難である。一般的な対策は、木々に火を放ち、燃えていない奴がエルダートレントだと判断することである。燃えやすいのはエルダートレントも一緒だが、多少の耐性はあるようで、普通の樹よりは燃えにくくなっている。



「と言うわけで、見せ場もなく倒れ去ったエルダートレントの一般的な戦闘内容でした」

「仁様、何を喋っているんです?」

「いや、あまりにも簡単に勝負がついたんで、エルダートレントのいいところを紹介しようと思ってな」

「えっと……、いいところってどこでしょうか?」


 マリアが首をかしげる。


「えっと、自在に動く触手とか……」

わたくしとソウラさんで全て切り捨てたはずですわ」


 襲い掛かる触手は、剣を装備したセラとソウラの2人がすべて切り捨てたことで、誰もその被害を受けていない。

 ちなみに今回ボス戦に参加したメインメンバーはさくら、ミオ、セラ、双子の5人である。


「擬態とか……」

「マップがある私たち相手に何の役に立つのよ」


 擬態程度ではマップは誤魔化せない。隠れようとしたエルダートレントにミオが矢を何発も当てている。

 ついでに言えば、マリアはマップ無しでも気配でわかるらしい。俺にはとてもできない。


「普通のトレントより燃えにくかったり……」

「あくまでも燃えにくいというだけで、効かないわけではないんですよ?」


 さくら、ケイト、カレンの<火魔法>が直撃し、それがとどめになったところを見ている。


「いいところ、無いな……」


 頑張ってみたけどダメだった。ミノタウロスの時もそうだったが、ボスの扱いが酷い気がする。


「あ、いいところあったのです」


 シンシアが声をあげる。こちらの話が耳に入っていたらしい。


「ドロップ品なのです」


 そう言って手渡されたアイテムには見覚えがあった。


『神薬 ソーマ』


「普通に出るじゃねえか……」


 誰だよ伝説級のアイテムだとか言った奴。ご丁寧にビンに入っているし……。


《おかしいですね。今までのボスドロップで神薬が出たなんて記録はなかったはずです》

「そもそも、そんなのが出てたらもっと有名になっているよな」

「そうですわね。もっと多くの人間がボス部屋に押しかけているはずですわ」


 と言うことは、今回が初の超絶レアドロップか、特殊な条件があるかのどちらかだろう。


A:超絶レアドロップです。通常は出ても弓などに適した木の枝とかです。一応、薬になる植物もドロップしますが、あまり人気はありません。


「アルタによると超絶レアドロップのようだ。まあ、良くあることだよな」

「いや、無いって……」


 ミオが首を振る。


「この中の誰かの運が良かっただけの話だろ?俺はそこそこ運がいいと思うけど、今回ほとんど戦闘に参加してないし……。他の誰かかな?」

「いやー、奴隷組に運の良さを問うのはどうかと思うわよ?それに、この中で引きが強そうなのってご主人様以外にいないと思うんだけど……」

「そうですね。私も奴隷じゃないですけど、運の良さには全く自信がありません。運が良かったことがありません」


 とても悲しいことを真顔で言うさくらさん。


「ドーラちゃんはどうです?奴隷じゃなくて従魔ですけど……」

《ごしゅじんさまに会えたことはうんがよかったと思うー》


 ドーラが嬉しいことを言ってくれる。運に言及がないということは自信がないのだろう。


「ドーラちゃんの言う通り、仁様に会えたことだけは幸運だと思っています」

「そうですわね。ここにいるメンバーのほとんどはご主人様がいなければ死んでいましたわ」

「私たちもご主人様がいなければ魔物に殺されていたのです」

「右に同じく」

「左に同じく」


 俺に会えたことが幸運と言ってくれるのは嬉しいが、やはり、運に関しては自信がないようだ。まあ、奴隷になっている段階で運がいいわけがないともいえるのだが……。


「まあ、ご主人様は運がいいというよりは都合がいいという感じよね。異能も含めて」


 ミオが上手いことを言ったとドヤ顔をしている。確かに異能が発現するのも俺に都合のいいタイミングだしな……。


「そうだな。これで欠損の回復について言い訳が効くようになったからな」

「世界を揺るがす大発見が言い訳って言うのが、ご主人様の恐ろしいところですわよね……」


 セラが呆れたような声を出す。


「この件に関しては国王、いや、王子に伝えても問題なさそうだな」


 恐らくだが今度は公表され、今後は迷宮内の人口分布が変わるだろうな。


《旦那様、今回手に入れた神薬はどうするんですか?》

「そうだな。それについても王子に相談しよう。カトレアの時は実物がないってことになっていたが、今回は実物があるからな。使ってみるということになる可能性もあるだろう」

「まあ、証拠を見せろって話になるわよね、普通……」

「まあ、金さえ払って貰えるなら、使うこと自体は問題がないからな」


 後は誰に使うのかと言う問題もあるが、これに関しては王子に話してからでいいだろう。


「とりあえず、21層に向かうとするか」

「あ、ちょっと待ってて。『ポータル』置いてくるから」


 ミオが扉の外に『ポータル』を設置しに行った。ボス部屋付近に置いておくことで繰り返しボス撃破ができる。腕試しには丁度いいから、少人数撃破とかの訓練をさせたいときにでも使う予定だ。もちろん、10層のボス部屋にも置いてあるから、いつでも(1日1回)ミノ狩りができる。


「お待たせ。それじゃあ行きましょ」



 そのまま、ボス部屋の階段を下りて21層へと到着した。


「知ってはいましたけど、急に環境が変わりますわね……」

「今度は火山ですか……。フライングでこのエリアの魔物とは何匹か戦っていますけどね……。アルタの言っていた通り、暑くはないんですね……」


 21層から30層までは火山エリアだ。しかし、実際の火山のように暑くはない。壁も赤く燃えるように輝いているが、実際には触れても平気だ。あくまでも見た目だけである。もちろん、出てくる魔物は火属性だったり、火山にいてもおかしくない連中ではあるが……。

 もし仮に実際の火山と同じような環境だった場合、普通の人間は攻略を諦めるだろう。20層までよりも多くの罠、20層までよりも強力な敵、加えて人が行動するには過酷すぎる気温。よっぽど暑さに強い種族以外は攻略不可能だろうし、俺でも<水魔法>とかで暑さ対策するか、面倒になって10層分床をぶち破るかもしれない。

 ゲームバランスと言うといささか俗っぽいが、この迷宮の製作者は火山エリアの環境で探索者を殺そうというつもりはないようだ。よって、探索者は魔物と罠だけを敵とすればいい。


「気温は高くないけど、魔物は普通に熱いだろうから気を付けろよな。……特にシンシア」

「はいなのです……」


 大分マシになったとは言え、それでも現状1番の問題児に釘を刺しておく。


「まだ時間もあるし、少しだけ攻略していくか。今までよりもさらに階段間の距離が離れているから、今日中の21層踏破は難しそうだな」

《そうですね。<迷宮適応>でわかる正規ルートまで10kmはありますね》


 21層になり階段間の距離は15km程になった。ここからはさらに進むのが遅くなるはずだが、メインパーティも参加しているし、新人組もかなり戦えるようになっているから、思ったほどはペースが落ちないと思うんだけど……。


 結局この日は21層を少し進んだところで探索を打ち切ることにした。



「……はい。それで3年だけというのも父と弟には納得してもらいました」


 その日の夜、少しだけ時間が空いたということで、カトレアが俺の屋敷にやってきた。報告と挨拶だそうだ。


 話を聞くと、国王も王子もカトレアには隠居生活を送ってほしかったらしいが、カトレアが3年の期限付きと言うことで説き伏せたらしい。


「基本的にカトレアの望み通りになったと言う訳か」

「はい。ですが父を説得するのは大変でした……」


 あ、国王はまだ色ボケているらしい。しばらくは城に行けないな。


「他に戻ってからの変化と言うと、私宛に来る縁談が減ったことですかね。世間的には仁様からプロポーズされていると思われていますから……。それでも縁談を申し込んでくる相手には……」


 カトレアはその美貌から成人前から縁談がひっきりなしに来ていたという。結婚願望がなかったので何とか断り続けていたのだが、そろそろ限界も近かったようだ。

 今回、ノーコメントを貫いたことで俺にプロポーズされ、それを受けたと周囲には思われている。それに加えて、縁談を断る必殺の一言を手に入れたという。


「『神薬 ソーマ』よりも貴重なものを贈っていただけるのならば考えます」


 お前はどこのかぐや姫だと言いたい。ちなみに今のところ持ってきた者はいないそうだ。


「ところで、さっきからとてもいい匂いがしているのですが……」


 俺たちは今夕食前に食堂で話をしている。厨房が隣にあるのでそこからいい匂いが漂ってきている。


「ミオ特製の鶏の唐揚げだな。ミオの料理が1番美味いが、人数分作る手間もあるから大体1品だけミオが作ることも多いんだ。カスタールの女王もお気に入りだぞ」

「呼んだ?」


 そういって食堂に入ってきたのはカスタールの女王であるサクヤだ。割と頻繁に我が家の食事を食べていくグルメ女王である。


「お、サクヤか。今エステアの王女と話をしていたんだよ。ミオの料理が美味いって」

「え?カスタールの女王陛下!?」


 驚愕するカトレア。どうでもいいが、ここは『エステアの』屋敷である。『カスタールの』女王が気軽に来ていい場所ではない。


「あー、ミオちゃんの料理おいしいわよねー。あ、もしかして今日ミオちゃんが作るの?」

「ああ、ミオ特製の唐揚げだ」

「マジ!?やった!持ち帰りは!?」

「なしだ。あまり数を作らないって言っていたぞ」

「くぁー!残念!」


 横にいるエステア王女カトレアを無視して盛り上がる俺とサクヤ。


「え?え?」

「あ、サクヤちゃん。来たの?」


 ミオが皿を持ってこちらに近づいてきた。混乱するカトレアを誰も気にしていない。


「お、いい匂い。もう夕食なの?」

「ううん。違うわよ。味見用に先に少しだけ作ったの。ご主人様に食べてもらおうと思って」


 味付け調整のために、小さい唐揚げを少しだけ皿に盛ってきているようだ。


「あ、私も私も!」

「いいわよ。そのくらいはあるから。あ、カトレアさんもどうぞ。あーん」

「あ、あーん」


 カトレアは混乱したままミオの言う通りに口を開ける。そこに唐揚げを放り込むミオ。


「な、なんておいしさですかー!!!」


 その日、我が家の料理に新しいファンが増えた。『ポータル』を使って、割と頻繁にやってくる王族が2人になったのだ。

 後で聞いた話によると、一緒に料理を食べるうちに仲良くなって、念話でガールズトークをする仲にまでなったそうだ。謎のホットラインの完成である。



 次の日も1日中迷宮探索をすることにした。王子への連絡はもう少し後にすることにした。具体的に言うと国王が正気に戻ったころにする予定だ。カトレアに報告してくれるように頼んでおいた。


「暇があったら鉱石も掘りたいんだけどなー」

「確かにここまで来れば探索者の数もかなり少なくなったから、誰かの収入が減ることもないだろうけど、それをやったら大幅なタイムロスにならない?」

「そうなんだよなー」


 俺のボヤキにミオが反応する。11~20層の売りが薬草、植物なら、21~30層の売りは鉱物である。武器の材料に適した鉱物が比較的簡単に入手できるという。マップで検索してもそこかしこに採掘ポイントがある。あ、採掘ポイントって言うのはその名の通り、ここを掘れば鉱物が入手できるというポイントだ。ご丁寧にマップが表示してくれるんだよ。

 しかし、採掘するとなると本腰を入れてやらなければいけないだろう。目的が迷宮の踏破なので、はっきり言って時間がない。


「まあ、その辺は踏破した後にシンシア達に任せればいいか」

「「お任せください」」

「採掘よりも討伐がしたいのです!」


 本当にコイツはブレないな。


《旦那様に歯向かうのですか?》

「採掘楽しみなのです!」


 あ、折れた。ケイトはシンシアに強いな。

 結局、採掘とか宝箱は全無視することで今までのペースを保つことが出来て、22層までは踏破した。どうしても欲しいアイテムだけはこっそり回収することにしたけど……。ミスリル鉱石とか、火属性耐性をあげる指輪とか。


 層の環境が変化したので、当然新しい魔物が出てきている。いつもの通り、面白かった魔物、新規スキルが有った魔物だけをピックアップして紹介する。


フレアゴブリン

LV21

<棒術LV3><身体強化LV3><火属性付与LV3><火属性耐性LV3><迷宮適応LV3>

「赤棍棒」

備考:真っ赤なゴブリン。燃えるように熱い男。


マグマン

LV24

<火属性付与LV5><火属性耐性LV3><迷宮適応LV2>

備考:マグマの塊。近づくだけで熱い。


 フレアゴブリンは火属性を持った赤いゴブリンだ。普通のゴブリンと同じように、棍棒(赤)を振り回してくる他、時々火を噴いてくる。タメが大きいので避けるのは簡単だけど……。普通にレベルが高いので下手をしたらゴブリンキングよりも強いかもしれない。スキルが貧弱だから恐ろしさはないけど……。


 マグマンはそのままマグマの塊で、スライムのような不定形の魔物だ。当然のように熱いので、遠くから水魔法をぶつけることにした。水魔法にめっぽう弱いらしく、ボール1発で簡単に倒すことが出来た。コイツ相手に肉弾戦をしようとしたら、相当手強い相手になるだろうな。ボルケーノゴーレムもそうだが、対策なしで出会ったら詰むような相手が多いのも20層台の特徴かもしれない。



 翌日、翌々日で26層までの攻略を終えた。今のところ1日2層ペースを維持できているので、順調と言えるだろう。10層台に比べ、罠も凶悪になってきているのだが、マップで完全回避できるために全く脅威になっていない。

 俺たちは一切引っかからないが、この層の罠について説明しよう。モンスターハウスは強化され、入ったら魔物を全滅させない限り出られなくなっている。実力不足で降りてきた探索者はこれで大抵死ぬ。他に壁や床からは火が噴き出してくることがある。しっかりと対策をしていないと大抵死ぬ。よく見ればその部分だけ色が違うので、警戒さえしていればそもそも引っかからないタイプの罠である。


 さらにその翌日、そろそろ国王も大丈夫だろうということで、王子に神薬の件を伝えることにした。直接謁見を願い出ることは難しそうなので、エリンシアに頼もうと思う。エリンシアは現在首都に滞在して忙しそうにしている。ここ最近のドタバタで一時的に首都で仕事をせざるを得ないとの話だ。一都市の騎士かと思っていたら、首都でも通用する権力を持っていたようだ。


「国王、王子に謁見ですか?」

「ああ、エリンシアの方から申請してもらえないか?」


 俺はエリンシアの実家を訪ね、用件を伝えることにした。エリンシアの実家の情報は以前渡された紹介状の中に紛れていた。それを持って行ったら、速攻でエリンシアとの面会が実現した。エリンシアの屋敷の庭で紅茶を飲みながら会話をする。


「それは構いませんけど……、今度はどちらでしょうか?いい話ですか?悪い話ですか?仁さんが動いたときはいつも凄まじい影響が出ますので、こちらとしても心の準備が必要なんですが……」


 俺が来た時には大ニュースが待っているという固定観念にとらわれているようだ。部下であろうと冷静に殺すエリンシアを、ここまで動揺させることが出来るというのは誇ってもいいことなのだろうか?


「まあ、いい話かな。先に聞いておくか?」

「お願いできますか?」


 恐る恐る聞いてくるエリンシア。


「ああ、神薬をもう1つ入手した。そして、今度の入手法は公開してもいい」


-ガタン-


 エリンシアが椅子から転げ落ちた。屋敷にいるということもあり、現在のエリンシアは鎧姿ではなく、ゆったりとしたワンピースのようなモノを着ている。転んだ拍子にスカートがめくれ上がりパンツを公開していた。紫か……、紫?


「ほ、本当ですか!?」


 起き上がりながら聞いてくる。


「嘘をつく理由があるか?」

「……ありませんね。わかりました。すぐにでも国王様に連絡いたします」


 そう言ってエリンシアはさっさと出かけて行った。エリンシア曰く、最速でも謁見は明日になると言うので、本日も迷宮に潜ることにした。



「ボルケーノゴーレムが出現したのです!今度こそ私が倒すのです!」


 27層ではボルケーノゴーレムが出現するようで、マップでもちらほらボルケーノゴーレムが確認できる。19層で簀巻きにされて戦えなかったので、シンシアがやる気を出している。現在のステータスなら、ボルケーノゴーレム相手でも戦えるだろう。もちろん、肉弾戦では相当不利だが……。


《水魔法、行きます!》


 シンシアが特攻したので、ケイトが後ろから<水魔法>LV1のアクアボールで援護する。アクアボールが直撃し、ジュウジュウと煙を立てているボルケーノゴーレムにミスリルロッドを叩き込むシンシア。それだけでボルケーノゴーレムのHPは0になった。


 そうそう、20層台で入手したミスリルでシンシア、カレン、ソウラの武器をミスリル製に更新した。ケイトはさくらの使っていたミスリルの杖を受け取っている。ミスリルの武器はドワーフの鍛冶師ノットに作らせた。短期間ではあるが修行し、すでに十分な力を付けたとのことだ。もちろん、スキルの後押しもあるのだろうが……。今は少し足りないが、カスタールの冒険者組にも行き渡るくらいのミスリルは欲しいところだ。


「やったのです!次は1人で倒してみせるのです!」

「私たちは2人で倒そうね、カレンちゃん」

「私たちは一緒に倒そうね、ソウラちゃん」


 シンシアと双子がボルケーノゴーレムの死体の上で勝鬨をあげる。その後、27層で1日中ボルケーノゴーレムを狩ることになった。シンシアがボルケーノゴーレムを1人で倒せるようになったのはほぼ帰る直前だった。魔法を使えばもう少し楽なはずだが、頑なに使わないので効率が落ちている。勇者だから、才能自体はあるはずなんだけど……。


 屋敷に戻ると、エリンシアから使いが来ていたそうで、明日の午前中に謁見ができるそうだ。ついでに王子からも言伝があり、国王は何とか使える程度には戻ったらしい。『使える程度』と言うのが、どのくらいなのかわからないが、国王の扱いが酷いことだけは分かった。



 翌朝、屋敷にエリンシアが迎えに来た。


「おはようございます」

「ああ、おはよう」

「早速で申し訳ありませんが、王城へ向かう準備をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「もう準備はできている」


 マップで近づいてくるのがわかっていたから、丁度良く準備が終わるようにしていた。

 付き添いはマリアとさくら、ドーラの3人だ。他のメンバーはお留守番である。ミオはもちろん国王から遠ざけるためにお留守番である。


「準備がよろしいのですね……。わかりました。早速王城の方に向かいましょう」

「ああ」

《いってきまーす》


 そう言って俺たちは王城へと向かった。



「早速だが、『ソーマ』の入手方法について教えてもらえないだろうか?」


 謁見の間で挨拶もそこそこに国王が本題を切り出してきた。よく見れば謁見の間にいるのは以前と同じ面々だ。王子の言っていた箝口令が守られているから、他の人間は入れないのだろう。彼は約束をしっかりと守ったということだ。ただ、前回連れ出された貴族がここにいるのが少し気になる。


「ああ、構わない。まず、これが『ソーマ』だ」


 そう言って<無限収納インベントリ>から『神薬 ソーマ』を取り出す。周囲の臣下たちがそれだけでざわめく。

 ちなみに国王相手に敬語を辞めたのは、流石にそろそろ敬うのが無理になってきたからだ。ミオの件であれだけの失態を見せているせいか、臣下たちもそれを咎めない。


「これは迷宮20層ボス、エルダートレントからのドロップ品だ」


 俺の一言でざわめきがさらに大きくなる。やれ『聞いたことがない』とか、『偽物に決まっている』とか、『早く20層で戦える探索者を集めねば』とか色々言っている。


「静まれ!」


 国王の一言で騒いでいた臣下たちが一瞬で静かになる。久しぶりに真っ当な国王を見た気がする。しかし、俺達が謁見の間に入ったときにミオを探して、いないとわかると落胆したような顔をしたのを俺は見逃していない。


「そのような報告は今まで聞いたことがない。それが事実だと証明する手段はあるのか?」

「ないな。ボス戦なんだから、パーティメンバーしかいない」


 ボス部屋の扉は、1度閉めると冒険者が全滅するか、ボスが倒されるか、2時間経過するまで開けられなくなる。最後の時間制限はずっと居座って後続の人間の邪魔をするような奴を弾くためだ。あ、逆にボス戦直後の処理を狙った悪党の侵入を防ぐために、ボス戦終了後10分は外から扉が開かないようになっているよ。かなり親切設計だよね。


 つまり基本的にはボスドロップはパーティメンバーしか確認できない。パーティメンバーの証言には証拠能力が乏しいので、証明にはなりにくいということだ。


「それはそうだな。……しかし、これまでの長い歴史の中で出現した報告がない以上、にわかには信じられんな……」

「お父様、仁様が嘘をついているとでもいうのですか?」


 カトレアが俺の援護に回る。


「そうは言っておらん。ただ、今までにない報告と言うこともあり、事実関係の調査が困難であることも確かであろう?」

「それは、……そうですね。本当でも嘘でも証明が困難です」

「そうだ。だから正式な情報として公表することもできん。我々にできることは、『報告があった』と言うことを公表することだけだ。それが事実かどうかは別としてな」


 そこで国王は再び俺の方に顔を向ける。その顔には申し訳なさが混じっていた。


「そう言うわけで、申し訳ないが情報が集まるまで、この報告に対する褒賞を出してやることはできん。裏付けが取れた場合、改めて褒賞の話をしたいと思う。それでよいか?」

「ああ、構わない。俺としても褒賞が欲しくて報告に来たわけではないからな」

「そう言ってくれると助かる」


 うん、国王も大分まともになったね。いや、元に戻ったという方が正しいのか?


「国王陛下!それよりもその『ソーマ』が本物か確認する方が先ではありませんか!?」


 そう言って声をあげたのは、以前無理矢理情報を吐かせようとした公爵だ。そもそもなんでコイツココにいるんだろう。思わず王子の方を見ると、軽く頭を下げてきた。意味が分からん。


「それはもちろんワシも気になる。しかし、その『ソーマ』は彼の所有物だ。我々に何かを言う権利はないぞ?」

「し、しかし、報告が嘘かどうかの確認は必要かと……」

「だが、我々は彼に褒賞を支払っていない。『ソーマ』の代金を支払ったわけでもない。彼のしたことはあくまでも報告だけだ。もちろん、嘘である可能性がないわけではないが、少なくとも『ソーマ』が存在する可能性は非常に高いだろう。現実にカトレアの欠損が治っているのだからな」

「むう……」


 正論で返されて唸る公爵。そもそも、なんでこの公爵ここまで『ソーマ』にこだわっているのだろうか?


A:彼、ガーフェルト公爵の娘は優秀な音楽家だったのですが、事故で腕を失い、楽器が演奏できなくなり、失意のどん底に落ち、生きる屍のようになっています。公爵はそれを隠した状態で欠損回復の術を探している最中です。


 あ、説明ありがとう。なるほど、それであれだけ欠損の回復に突っかかってきたんだな。


「それで仁殿、その『ソーマ』はこれからどうするつもりなのか聞いても良いか?ガーフェルト公の言い分ではないが、こちらとしてもできれば本物かどうかの確認はしたい。出来ればそれを買い取らせていただけると嬉しいのだが……」


 俺としては別に『ソーマ』を売ること自体は問題ないと考えている。『リバイブ』もあるから、それほど重要とは言えないからな。

 ガーフェルト公爵が買い取ってくれるとみんな幸せなんだけどね……。


「売るのはいいんだが、値段の設定はどうするんだ?伝説のアイテムだし、適正な値段と言うのがわからない。それに買い取ったとして本物かどうかの確認ってどうするつもりなんだ?王家で買い取って、適当な誰かに使わせる気なのか?」

「むう……、確かに『いくらにするか』、『誰に使うか』と言うのは問題だな。値段に関しては参考になるものがないからな。そして、かなりの値段になるのは間違いないから、王家で買い取るというよりは、多少の援助をした上で必要とする人間に買わせるという形になるのだろう。……都合よくそんな者がいるのか?」


 よし、上手くいった。公爵と言うくらいだから、金はあるのだろう。そして娘は腕に欠損を抱えている。この場で名乗り出れば、丁度良いということになりガーフェルト公爵の娘に『ソーマ』を使うという流れになるはずだ。


「……」


 おい、何黙っているんだよ。さっさと名乗り出ろよ。俺の方を睨んでいる場合じゃないだろう?


「仕方あるまい。値段や使う対象についてはこちらの方で議論しておこう。別に急ぐものでもないからな。詳細が固まり次第、また連絡するということになる。仁殿はそれでよいか?」


 しばらく考えていた国王がそんな結論を出した。確かにこの場で即決できる内容でもない。それよりも俺としては折角のアシストが台無しになったことの方がモヤモヤしている。ガーフェルト公爵は何を考えているのだろう?


「ああ、構わない」

「わかった。では詳細は追って連絡する。本日は報告ご苦労だった」


 そう言ってその場は解散となった。ガーフェルト公爵は最後まで俺を睨んだままだった。



 半日以内で国王への謁見が済んだので、その日も迷宮に潜ることにした。

 28層、29層も問題なくその日の内に踏破できた。本来だったら21層からは今まで以上に難しくなるはずなのだが、シンシア、双子、ケイトの成長率の方が上のため、むしろ楽になってきているように感じる。


 層も進んだので、またいろいろと面白い魔物がいた。少しだけ紹介しよう。


フレイムゾンビ

LV26

<火魔法LV4><幻影魔法LV2><火属性付与LV3><火属性耐性LV3><迷宮適応LV3>

備考:人型の魔物で全身が燃え続けている。


ウィル・オ・ウィスプ

LV23

<火魔法LV4><浮遊LV5><火属性付与LV2><火属性耐性LV4><迷宮適応LV3>

備考:火の玉の魔物。空中に浮かんでいる。


ボルカノン・タートル

LV25

<火魔法LV4><土魔法LV3><火属性付与LV3><火属性耐性LV3><迷宮適応LV2>

備考:甲羅が火山のようになっている亀の魔物。


 フレイムゾンビは全身が燃え続けており、その状態で迷宮内を徘徊している。人型なので焼かれている人間にしか見えない辺りが悪趣味だ。名前と見た目でミオがビビっていたので、最初の1匹はミオに倒させることにした。「うぎゃー」と言いながら矢を連射するミオが見物だった。放った矢は半分以上外れていた。スキル……。


 ウィル・オ・ウィスプは火の玉だ。ミオ的にこちらは平気らしい。単独で迷宮内を徘徊するタイプもいれば、モンスターハウスなどで集団で襲い掛かってくるタイプもいる。モンスターハウスに入り、襲い掛かってきたところを<水魔法>LV1魔法の『アクアウォール』を使ったら、水の壁に激突しまくり、簡単に討伐数を稼ぐことが出来た。脳もない不定形の魔物だし、そこまで頭は良くないのだろう。……そもそも火の玉に頭や脳はないのだが。


 ボルカノン・タートルは亀だ。甲羅は火山のようになりマグマを噴出しているが…。そして攻撃方法は火を纏った岩石を火山の部分から飛ばしてくるというモノだ。例にもれず<水魔法>が効いたので楽だったが、こいつも<水魔法>が無ければ詰む可能性があるだろう。28、29層にはコイツがそこかしこにいるし……。



 火山エリアも深部になり、この辺りでは良質な鉱物類が大量に取れるようだ。そこかしこにミスリルの採掘ポイントがある。上の方でも採掘したが、他の配下の武器を更新するためにも、まだまだミスリルは欲しい。ミスリルはいくらあっても困らないからな。


A:わかりました。7日程お待ちいただければ、ミスリル採掘の準備が整います。


 え?何の話?


A:現在、奴隷たちを10名1組で探索者登録をさせ、マスターの使用していない3つのルートを攻略させています。現在、大体2日で3層ペースで進んでおり、最も進んでいるグループが10層を踏破したので、順調にいけば7日後には20層台に突入します。


 ……初耳なんですけど。

 マップで配下の所在地を検索すると、アルタの言う通り迷宮内に3組のグループが確認できた。

 ふむ、1人がズバ抜けてレベルが高くて、年齢も10代後半から20代前半くらい。他のメンバーはレベルは低めで10代前半くらい。ケイトと一緒に買った、『俺と一緒に戦いたい子』もいるな。ちなみに男性は各パーティに2人、子供側にいる。さぞ肩身が狭いことだろう。


A:レベルが高いのは、迷宮内で大怪我を負い欠損した元探索者です。その後、職を失い借金などを理由に奴隷として売られていました。探索者希望の奴隷を迷宮に送り込むときに、1人は基礎知識のある者が必要と思い、購入させました。信者いつものです。


 信者いつものか……。

 配下に加わってからの戦闘回数が少ないせいか、こちらのメンバー程のステータスではない。しかし、通常のレベルアップに加えて<生殺与奪ギブアンドテイク>によるステータスボーナスがあるのは大きいようで、現在いる層で戦えるだけの能力を備えているようだった。このまま順調にいけば、20層台でも十分に通用するだろう。


 ……アルタ俺に言わないでいろいろとやり過ぎじゃない?


A:些事はマスターに報告しないことにしています。基本的にマスターの要望に可能な限り早くお答えするための準備となります。ご希望でしたら、現在並列進行中の127件の活動についてご報告いたします。


 ……いや、いい。しかし、多いな。そんなに準備されても、使い切る自信ないぞ?


A:構いません。大半が無駄な労力になることを覚悟の上です。そのうち数点でも、マスターのお役に立てたのなら幸いです。


 無駄になるかもしれない手を大量に打つのって、普通の人間には結構な苦行だけどね。アルタならそれが平気なんだな……。


A:はい。一通り上手くいったらご報告するようなものもございますので、楽しみにしていてください。


 わかった。楽しみにしているよ。あ、重要そうな案件は気にせずに報告するのも忘れずにな?


A:了解しました。



 夜、ミラからの報告があった。


《本日、調査団の方々がぁ、村の方に到着しましたぁ》

《そうか、新しい村の方は順調か?》

《問題はありましたがぁ、順調と言えば順調ですねぇ》

《問題?何かあったのか?》


 ミラの口調は軽いから、酷いことがあったわけではなさそうだな。


《えぇ、調査団の方がぁ、山賊に襲われかけていたんですよぉ》

《あー、貴重品も山ほど乗せてそうな馬車だしな》

《そうなんですよねぇ。冒険者の護衛もいるにはいたんですけどぉ。どう見ても山賊とグルでぇ、調査団の方々を脅していましたぁ》

《救いようがねえな……》


 どこが依頼を出したのかわからないが、明らかな人選ミスだろう。


《で、どうなったんだ?》

《マップでそのことを知った私がぁ、村に駐在していた騎士団を引き連れて山賊を討伐しましたぁ》

《何故そうなった……》

《ついてきてもらうのは大変でしたよぉ。マップとか説明できないのでぇ……》

《よくそれでついていったな、騎士団》

《日頃の行いが良かったからですねぇ》


 ミオの知識を用いて、村の発展に大きな貢献をしていたミラだからこそ、その発言を無視できなかったのだろう。


《でもぉ、この一件でぇ、調査団の方からも神のごとく扱われる様になってしまいましたぁ……》

《半分以上自分のせいじゃないか……》

《でもぉ、せっかく村に来てくれる人をぉ、見殺しにしたくはなかったのでぇ……》

《いい村長さんだよ、まったく……》

《いえぇ、さすがに村長代理は引退しますよぉ……》

《出来るのか?引退?》


 村でのミラの扱いを見ていたら、そんな簡単に辞められるようには見えないのだが……。


《最初から調査団が来るまでの約束でしたからねぇ。王都からもぉ、しっかりと任命された村長さんが来ていますからぁ。……ただぁ、その正式な村長さんを含めぇ、村人ぉ、調査団の方ぁ、騎士団の方からぁ、村長になってくれと懇願されましたよぉ……》

《やっぱりな……》


 ミオの知識チートも含め、ミラの存在はかなり重要になっているのだろう。


《それでもぉ、こちらの意志が固いのがわかったらぁ、皆さん諦めてくれましたぁ》

《じゃあ、後数日で終わりか?》

《えぇ、その後はすぐにそちらに向かいますからぁ……。相転移石で》

《はい?》

《最終的には首都に行くと言ったらぁ。普通に手渡されましたぁ》


 相転移石の性質を利用すれば、長距離を一瞬で移動することができる。そのための相転移石を売る者を『移動屋ポーター』と呼ぶ。口で言うのは簡単だが、実際には迷宮一層を相転移石を持った状態で移動しなければいけないので結構過酷である。

 何が言いたいかと言えば、『移動屋ポーター』の売る相転移石は高い。とてもとても高い。余程の緊急時、貴族の移動時でもなければ手が出ないほどである。


《迷宮の研究者の方々はぁ、結構な高給取りも多いそうですよぉ……》

《貢がれたのか……》

《そう言わないで下さいよぉ。首都行きの相転移石の値段を聞いて心臓が止まるかと思ったんですからぁ……》


 馬車で10日かかる距離、1層とは言え迷宮を歩いていくのがどれだけ大変か。その元を取るための相転移石代がどれほど高額か、態々言うまでもないだろう。


今週の途中で短編(外伝)を投稿する予定です。仁の過去話の続きで、デスゲームモノです(盛大なネタバレ)。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
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