第49話 王子への報告と第2拠点
リザルト回です。
相転移石で首都にある迷宮入り口に戻ると、30人以上の兵士たちが入り口付近に待機していた。万が一勇者が同じ入り口に戻ってきたときに捕縛するための人員だろう。
勇者の祝福には時間制限があるから、物量作戦でその時間を押しつぶすというのは理にかなった戦術と言える。国王は気絶して使い物にならないだろうから、王子が考えたのだろうな。
その内の1人を捕まえ、勇者を討伐したことを伝えた。
「い、急ぎ国王陛下にお伝えします。皆様はこのまま王城へお向かい下さい!」
俺たちの話を聞いた兵士は大慌てで城に向かって走っていった。
まあ、兵士が大慌てになったのは勇者討伐についてではなく、カトレアの怪我が治っていたことに気付いたからなんだが……。
現在、カトレアは顔を隠しておらず、火傷を負う前の綺麗な姿を見せている。間違いなく騒ぎになるから、顔を隠しておいた方がいいのではないかと言ったのだが、『もう顔を隠してコソコソするなんて嫌です!』とすごい剣幕で詰め寄られたので、仕方がないからそのままにさせている。
言われた通りのんびりと城に向かっているのだが、カトレアが顔を隠していないせいで、やたらと目立つ。王女の顔を知っている者も、知らない者もその美貌に思わず振り向いてしまうのだ。街の視線を独り占めである。エリンシアとは別の意味で……。
ちなみに今回は双子だけリーリア側に帰ってもらうことにした。そろそろリーリア側に人を戻すのも面倒になってきたな……。
《旦那様。まだ依頼を受けてから半日と経っていませんが、国王様からその辺りの理由を聞かれたら、どのように答えるつもりなのでしょうか?》
城に向かって歩いていると、ケイトがそんなことを質問してきた。
「あー……」
そうだよな。1週間期限を用意されているのに、半日で終わらせて来るとか普通じゃないよな。その辺りについては全く考えてなかったな。もちろん、聞かれたからと言って絶対に答えなければいけないというわけでもないだろうけど……。
どうするか考えているとミオが手を挙げて発言してきた。
「はいはーい。別に正直に答えればいいだけだと思いまーす」
「その心は?」
「だって、18層の安全地帯なんて、いかにもあの勇者の逃げ込みそうな場所でしょ?そういう予想を立てて、実際に向かったら本当にいて、そのまま戦って倒したって言えば済む話だと思うのよね」
「なるほど、確かに日下部の性格を考えると、1人でより下の階層に行くとは考えられないな。近くに安全地帯があるのなら、そこに向かう可能性は低くない。と言うか第1候補だよな」
《追われる立場で、そんな分かりやすい場所に逃げ込む神経が理解できないです……》
「本当ですわね。せっかく高速移動ができるんですから、せめてもっと距離をとるくらいの事はしても良かったと思いますわ。まあ、ご主人様相手には無駄な努力ですけど……」
ケイトの呟きにセラが賛同する。
カトレアが19層から帰還したことを思えば、捜索の手がそこから伸びることも考えられると思うのだが、日下部はそんなことも思いつかなかったのだろうか?それとも、捜索が始まるまでには他の探索者から相転移石を奪えると思っていたのだろうか?日下部が死んだ以上、その答えは誰にもわからない。それほど興味もないけど……。
「とりあえず、ミオの案を採用だな。聞かれたらそう答えるんで、口裏合わせはよろしく」
「はーい」×6
《はーい》×2
その後もしばらく歩き、王城の門の前に到着した。門番はカトレアの顔を見てしばらく呆けた後に俺たちを通した。カトレアの火傷が治っていることに驚いたのだろう。
案内兼護衛の兵士が言うには、すでに謁見の間に国王たちは集まっているらしい。
「おお!カトレア!まさか本当に火傷が治っているとは!」
「お父様!痛いです!」
謁見の間に入るや否や、国王がカトレアに向かって突進し、そのまま盛大なハグをする。謁見の間で王様がアクティブに動き回るのはいかがなものかと思うのだが……。普通、玉座でどっしりと構えるべき場所だろう?
「いったい何があったのだ?勇者はどうなったのだ?どこにいたのだ?帰ってくるのが早いな?なんで火傷や腕が治っているのだ?」
「ちょ、ちょっと待って下さい。せめて、せめて質問は1つずつ……」
国王の怒涛の質問ラッシュ+ハグにより、カトレアは目を回してふらふらしていた。
そんな国王だが、視界にミオが入るとカトレアから手を放し、今度はミオにハグをしようとしてきた。
「おお、ミオさんも無事に帰ってきたのだな!」
当然、俺がそんな暴挙を許すはずもない。しかし、今回は俺が手を下す必要はないだろう。なぜなら……。
「ぐっぴい!?」
横から近付いていた王子の突きが国王のこめかみに突き刺さったからだ。王子の突きはかなり洗練されており、一撃で国王の意識を刈り取った。国王のHPは5分の1くらい減っている。加減はしているのだろうが容赦はない。
この歳でここまでの突きを放てるとは将来が楽しみである。頭も良いようだし、文武両道の良い国王となることだろう。いや、俺が言うことではないが……。
「すいません。依頼達成が早すぎて、父の矯正がまだ済んでいないのです。今の件は見なかったことにしていただけると幸いです」
「わかった」
「あ、報酬の拠点に関しては最優先でまとめさせたので、後で候補の中から選んでください」
「早いな……」
繰り返しになるが、俺たちが依頼を受けてから半日も経っていない。準備が終わるには少々早すぎないだろうか?
「ええ、状況によっては半日以内に決着がつく可能性も考えていましたから、準備を急がせました。……勇者がいたのは18層の安全地帯ではありませんか?」
「正解だ……。もしかして最初から予測していたのか?」
「はい。あの勇者の性格を考えると、そこにいる可能性は低くないと思っていました」
何でもないことのように淡々と返してくる王子。
「父じゃありませんけど、こちらとしても聞きたいことがいくつかあります。よろしいでしょうか?」
「答えられることなら」
質問が来るのは当然のことだ。ちなみにこの返答は答えられないことには答えないぞと言う、俺なりの意思表示だ。
「ええ、もちろんです。聞かれたくない話の場合はそう言ってくだされば結構ですので」
無理に聞き出すつもりはないようだ。エリンシアもそうだが、相手に秘密がある前提で深く聞いてこない人間と言うのは付き合いやすい。俺の様に秘密が多い人間は特にそう感じるだろう。
「まず1つ目は勇者に関することです。姉さんの件も気になりますけど、王家としては勇者の件を優先しないわけにはいきません」
あまり反応はしていないが、王子もカトレアの件は気になっているようだ。……当然か。
「それで、勇者はどうなりました?討伐とは聞いていますけど、出来るだけ正確に説明していただけますか?」
「ああ。まず、迷宮に転移してすぐ、王子の考えと同じように18層の安全地帯が怪しいと思ってそこに向かうことにした。勇者は18層安全地帯の泉付近に座っており、カトレア王女を隠した状態で近づくと、どこから入ったのか聞いてきた。リーリアの街と答えたらすぐに襲い掛かってきたから返り討ちにした」
ある程度ゆったりとした速度で説明する。近くで書記らしき人が俺の話した内容を記録しているから、早口にすると可哀想なことになる。
「ああ、仲間の方はリーリアにいるそうですね。確かにリーリア側の相転移石も持っているということですか」
エリンシアから聞いていたのだろう。王子が納得する。
「姉さん、今の話に補足はありますか?」
「ないですね。仁様の言った通りです」
「わかりました。ありがとうございます。では、申し訳ありませんが、勇者の遺体をこの場で確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「この場で出して問題ないのか?」
謁見の間で遺体を取り出すというのも如何なものかと思う。
「構いません」
「じゃあ、遠慮なく」
『格納』風<無限収納>から日下部の遺体を取り出す。血はもう流れていないが、そのまま床に置くのもアレなので、シートも一緒に取り出してその上に置く。
2名の兵士が近づいてきて遺体を確認する。
「勇者に間違いありません」
「確かに死んでいます」
兵士の言葉を聞き、頷く王子。
「確認できたようですね。遺体は安置所に運んでください」
「「は!」」
そう言うと兵士たちがシートごと遺体を運んでいった。俺の私物……。
「勇者の件は以上です。次なんですが……、なんで姉さんの火傷が治っているんです?」
「私の火傷が治ったらいけないんですか?」
王子の言い方が気に入らなかったのか、カトレアが少しむくれながら返す。
「いえ、そう言うわけではありません。治っていること自体は嬉しいのですが……。回復魔法で治るレベルの火傷ではなかったと思うのですけど……」
「ああ、それでしたら仁様に治していただきました」
カトレアの言葉に俺達以外の人間たちがざわつく。
「仁さんは……、どのような方法で姉の火傷を治したんですか?」
王子が恐る恐る聞いてくる。最初に答えたくないことは答えなくていいと言っているから、ここで話を終わらせても構わないんだが、折角言い訳を考えてきたんだから使うとするか。
「ここだけの話にしてくれるか?」
「わかりました。皆も構いませんね?」
辺りにいた臣下にも確認を取る王子。全員が頷いている。これで簡単に話が漏れるようなら、この国の滞在を切り上げて、『ポータル』経由で迷宮だけ攻略すればいいか……。
「『神薬 ソーマ』を使った」
「ま、まさか18層には神薬があるのですか!?」
少し勘違いされてしまった。そうか、植物エリアだから神薬がある可能性に思い至ってしまったのか。18層で手に入れたと言ったら、大勢の人間が18層に大挙して押し寄せるだろうな。少し見てみたい気もするが、嘘をついてまでそんな悪趣味なことをするつもりはない。
「いや、迷宮に入る前から持っていた『ソーマ』を使った」
「それをどこで入手したかお聞きしても?」
「それは言えない」
「そうですか……」
目に見えて落胆した様子の王子。普通に考えて大発見だし、欲しがる人間も山のようにいるだろう。
「王子!なぜそこで聞くのを止めてしまうのです!ここは無理やりにでも聞き出すべきです!」
「馬鹿なことを言わないでください!」
貴族の1人が物騒なことを言ったのを王子が止める。いいよ、相手になるよ。
「最初に言いたくないことは聞かないと言ったのはこちらです。それでも彼は話してくれたのです。これ以上は不義理になります」
「ですが、これはそんな簡単な話ではありませんぞ!神話、伝承にしか残っていない、欠損を治す神薬!これがどれほどの価値を持つのか、わからないわけではありますまい!」
王子が真っ当なことを言うも止まらない貴族。うーむ、ちょっと影響が大きすぎたか。
「仁さん、その神薬はまだあるのですか?」
「いや、(手元には)ないな。カトレア王女に使った(ことにして<無限収納>にしまってある)1個だけだ」
大切な部分をほぼ隠して説明した。
「だ、そうですよ」
「入手法さえわかれば!2つ目の神薬を入手することが出来るかもしれませぬ!何としてでも口を割らせ……」
「ガーフェルト公爵をつまみ出しなさい!」
話が終わらないと判断した王子が強制ストップをかけた。ガーフェルト公爵と呼ばれた貴族を兵士が強制連行する。『離せ!ワシを誰だと思っておる!』とか、『絶対にワシはあきらめんぞ!』とか言いながら去っていった。
後で面倒な事にならないといいけど……。あ、無理か。
「すいません。お騒がせしました。神薬の件は事が事だけに改めて箝口令を敷こうと思います。最低でも『誰が』の部分は徹底させますので安心してください」
やはりわかっているな。まあ、本当に隠したいのは『神薬』ではなくて『リバイブ』の方だから、『神薬』がバレてもそれほど困らないんだけどな。
「それで、姉さんはどうするの?」
王子が今度はカトレアに問いかける。事前に話していた通り、プロポーズだと思われたようだ。
「ノーコメントです」
「いや、でも今後の事とか……」
「ノーコメントで」
「……」
決めていた通り、ノーコメントを貫くカトレア。諦めたのか王子はこちらを見る。
「仁さん、これは姉へのプロポーズとみて問題ないですか?」
「ノーコメントで」
「……はあ」
深いため息をつく王子。この時点で口裏合わせに気付いただろうから、聞いても無駄だという諦めのため息だろう。
「わかりました。この件についてはこれ以上何も聞きません。その代わり、こちらの方からお礼を出したりはできませんよ。説明がない以上、褒賞を与えるわけにもいきませんから」
「ああ、それで構わない」
「他にも聞きたいことは山ほどありますけど、今の答えから察するに望み薄でしょうから諦めます」
まあ、あまり突っ込んだ質問に答えるつもりはないからな。しっかりと引き際をわきまえている王子の好感度がまた少し上がった。
「あ、最後に1つだけ。勇者にとどめを刺したのはどなたですか?対外的には姉と言うことにしますけど、少し気になったので……」
対外的にはカトレアが勇者を討伐したことにして、俺達の名前は出さないという約束だからな。
「カトレア王女だ。もちろんサポートはしたが、とどめは確実にカトレア王女の剣だ」
「ええ、私がとどめを刺しました。お兄様の剣でしっかりと敵討ちをしました」
「姉さんが?対外的な建前ではなく本当に?」
驚く王子。まあ、カトレアは戦士と言うわけではないからな。戦闘特化の勇者を倒したと聞いても簡単には信じられないだろう。
「それは……驚きましたね。でも、良かったです。姉さんも少しはすっきりしましたか?」
「ええ、火傷は治り、お父様も無事だった。……お兄様と騎士たちはもう戻らないけど、それは勇者の命であがなわせました。だからでしょうね、少し肩の荷が下りました」
勇者討伐の前は火傷も合わせて暗い表情だったカトレアだが、言った通り肩の荷が下りたのか少し穏やかな表情でほほ笑む。何人かの騎士がノックアウトされているが気にしない。30人中14人だな、この国大丈夫か?
「わかりました。僕の方から聞きたいことは以上になります。この後、屋敷への案内をさせようと思っているのですが、いかがでしょうか?」
「ああ、よろしく頼む」
その後、王子の号令によりその場は解散となった。王子もカトレアも(ついでに国王も)することが多いらしく、そこで別れることになった。
《頑張れよ》
《はい!本当にお世話になりました!今後ともよろしくお願いします》
文官のような男に連れられて、数件の屋敷を案内された。とは言え、どの屋敷にもそれほど大きな差異はなかったため、1番風呂の大きい屋敷を選択することにした。
カスタールの屋敷と同じくらいの土地の広さだが、屋敷自体はカスタールの物よりも大きい。その分庭が小さく、向こうの屋敷とは別の使い方をすることになるだろう。
屋敷の管理はルセア率いるメイド部隊に任せることにした。ルセアにそのことを伝えると、すぐにエステア王国で購入した孤児奴隷と愛玩奴隷の少女たち13名に加え、見慣れた信者と見慣れぬ信者のメイドたちが派遣されてきた。
見慣れた信者はカスタールで屋敷を貰った時にルセア達が購入した奴隷の一部だ。見慣れぬ信者を確認したところ主人がルセアと俺になっているから、ルセアの血を使って奴隷契約をしたのだろう。
奴隷が奴隷を持つことも可能だが、最終的な主人は全て奴隷の持ち主になるからあまり意味はない。奴隷術を使えば所有権の譲渡が出来て、俺だけを主人とすることも可能だが、以前その話をしたとき俺が面倒だと言ったから、そのまま2人の主人がいる状態にしているのだろう。
「まあ、配下が増えるのは構わないんだが、なんか見慣れぬメイドがやたら多いな」
「はい。カスタールで主力となっているものを3名、主様が連れてきたメイドが13名、新たな信じ……、コホン。新たに購入した奴隷を10名連れてきました」
引率としてついてきたルセアが説明する。ルセアが言いかけたセリフに関してはもはやスルーである。直接神様呼ばわりされないのなら、この扱いも黙認していこうと思う。とりあえず、害はなさそうだからね。
総勢26名(ルセアを除く)のメイド少女たちが新しい屋敷の調度品をそろえたり、掃除をしたりしているのは壮観である。そんな中、新たな奴隷10名は俺の事をかなり熱っぽい目で見てきている。中には俺と同じくらいの年齢の少女もいるので、正直落ち着かない。先輩である見慣れたメイドから、作業に集中するように注意を受けたりしている。とは言え、その先輩メイドも時々俺の方をチラ見しているので、人の事は言えないのではないだろうか。
「1つ聞きたいんだが、今メイドって何人いるんだ?」
アルタに聞けばわかるし、俺自身調べれば簡単にわかるだろう。しかし、あえてルセアに聞いてみる。ルセアは少し目線をそらしながら答えた。
「メイド教育を施したものでしたら、180名ほどになります」
「多いよ!?」
思っていたよりもはるかに多かった。何だよ180人って……。
「軍隊でも作る気か?」
「主様が望むのでしたら、今すぐにでもメイド部隊を軍事仕様に転換いたしますが?」
「……いや、そんなことは望んでいないからな」
軍隊を作って何と戦うんだよ。魔王か?そんなのは勇者に任せておけよ。エルディアを潰すのか?そんなの俺1人で十分だよ。
「カスタールの屋敷には180人もいなかったと思うんだが……」
「以前、主様にもお伝えしたと思いますが、各地にメイドたちを派遣しておりますので、屋敷にいるメイドの人数はそこまで多くはありません」
「あれ?あれってこれから各地に派遣するぞって言う意味だったんじゃないのか?」
「いえ、あの時点で結構な人数のメイドたちが各地に散っていましたよ」
「マジか……」
あの時点ですでに動き始めていたようだ。何人かは商人として各地を巡っているらしい。その道中で各地に『ポータル』を設置しており、その気になれば『ポータル』だけで世界旅行ができるようにするのが目標なんだとか……。
さらに各地の奴隷商で奴隷を見繕っているので、加速度的に配下の数が増えているらしい。つまりはこういうことだ。
メイドを派遣する→行動範囲が広がる→新たな奴隷を購入する→奴隷がメイドになる→メイドを派遣する→以下繰り返し
いや、何となく配下の人数が急増したんじゃないかなと思ったことはあるんだ。最近俺の方に流れてくるステータスとかが急激に増えたからな。
どうやらアルタの許可を取って、新入りメイドたちにもステータスを譲渡していたようだ。一部のメイドは冒険者登録をして魔物を狩っているらしい。
「あんまり無茶なことはさせるなよ?」
俺の知らないところでとは言え、実質的に配下となるのならそれは俺の庇護対象だ。死なせるつもりは全くない。
「もちろんです。彼女たちには大物の相手はさせず、数をこなすように指示してあります」
質が低くても数で補えば<生殺与奪>的にはあまり大きな差がないんだよな。危険が少ないのなら問題ないだろうし、最悪アルタの指示によりルセアか俺が『サモン』で逃がせばいいだろう。それでも、どうしても回避できずに死んでしまったのなら、せめてその直後に<無限収納>に入れさせ、絶対に蘇生させてやるつもりだ。
そんな話をしていたらメイドたちの作業が終了したようだ。
カスタールにも屋敷があるからわざわざこの屋敷の部屋を決める必要もないのだが、立場的なものもありメインメンバー(+探索者組)の私室はこちらでも用意することになった。
この屋敷入手に関しては俺が頑張ったわけではないのだが、やはり1番大きい部屋を割り振られた。俺の部屋の隣はさくらとセラが勝ち取り、正面は負けたミオがとるものかと思いきや、ケイトが割り込んでミオに勝負を挑んだ。白熱した戦いの末(あいこ10回)、勝利したのはケイトだった。勝利の栄光とともに俺の部屋の正面をケイト(シンシア、双子と同室)が獲得する。
なんでも最初から正面を狙っていたとのことで、理由を尋ねたら『正面ならば壁越しではあるけど常に旦那様の方向を向いていられます』と言った。色々な意味でケイトの本気を窺わせるセリフだと思う。
こちらの屋敷は別館がないので、メイドたちは本館にある一画を使用人エリアとして使うようだ。当然のように数人で1部屋を取っていくので1人1部屋でもいいと伝えたところ、『自分の部屋があるだけで望外の幸せです』と言われた。
この日は屋敷関係の作業で残りの時間がつぶれてしまったので、そのまま屋敷で寝ることにした。
この屋敷の売りである風呂に関してだが、1番風呂は俺が貰うことになった。ゆったり風呂に浸かっていると、暴走した一部のメイド達が俺の身体を流そうと風呂に特攻してきた。その直後、ルセアの『サモン』により回収されていった。強制回収ってすごい。一瞬ではあるが中々眼福な光景だったが、あそこまでぐいぐい来られると少々引いてしまう。
ルセア曰く、『求められたのならともかく、自分からあそこまで売りに行くのはメイド失格』とのことで、厳しいお仕置きが待っているとのことだ。
次の日、食事の準備ができたということで食堂に向かう。ちなみに中を改装して厨房の近くの部屋を食堂として利用している。食堂に入ると、数名のメイドたちが土下座をして待っていた。
「昨日のメイドにあるまじき身勝手な振る舞い、誠に申し訳ありませんでした!」
俺と同じくらいの年齢の子が代表して謝る。土下座をしながらもしきりにお尻を触っている。どうやら、厳しい罰とは尻叩きだったようだ。
気にしていない旨を伝え、土下座を解除させる。ルセアはもう少し罰を与えたそうにしていたが、俺の方から許すように言った。相も変わらず俺の指示が優先のようで、ルセアからもお許しが出た。
そうしたらまたメイド少女たちの目が熱を帯び始めた。
「で、今日から迷宮攻略再開でいいの?」
食事が終わり、部屋でドーラ(竜形態)を愛でているとミオが質問してきた。部屋にはメインメンバーとシンシア、ケイトが集まっている。ルセアはカスタール側に帰っていったようだ。
他のメイドたちはこちらの活動拠点を整備するために今日も動いている。
ついでに言うと、双子にはリーリアの街の宿を引き払うと同時に、馬車の移動でこちらに向かってもらっている。当然、人気がなくなったところで『ポータル』を使うのだが……。
「ああ、そのつもりだ。今日中に20層のボス攻略くらいはしておきたいな」
「頑張るのです!」
「シンシアちゃんが頑張るのはいいのですが、そろそろ私もボス戦に参加したいですわ」
セラが言うように、現在はメインメンバーを戦闘に参加させていない。ケイトが指示をすることでシンシア達だけでも十分に戦えるようになったからな。
とは言え、いつまでも戦闘に参加しなければ何のために迷宮まで来たのかわからなくなってしまう。
「そうだな。そろそろメインパーティからも戦闘参加メンバーを出すか……。全員参加は過剰戦力すぎるから、多くても3人ずつくらいかな」
《わかりました。今後は仁様の指示に従って行動いたします》
新人組への指示は今までケイトが出していた。メインメンバーが本格参戦することになったので指揮権を俺に返そうというのだろう。
「いや、この人数に指示をするのも大変だし、メインメンバーには俺が、新人組にはケイトが指示を出すという方針にしよう」
《はい、わかりました。初めての旦那様との共同作業……》
後半のセリフは気にしないことにした。
―コンコン―
扉がノックされる。マップを見ると双子が来ているようだ。
「入れ」
そう言うと扉が開き、双子が入ってくる。
「「ただいま到着しましたー!」」
「おかえりなのです」
《お疲れ様です》
シンシアとケイトが双子をねぎらう。
「ご苦労。馬車はどうした?」
「外にある小屋に連れて行きました。ね、カレンちゃん」
「すでに何台か馬車がありましたよ。ね、ソウラちゃん」
「ああ、それは問題ない」
既に馬車を数台と馬を数頭購入し小屋に入れている。昨日の段階でルセアの指示によりメイドが買ってきたようだ。各地に派遣するメイドの足とするつもりらしい。
害にならなければいいというスタンスで放置しているが、ルセア(とマリア)がどこまでやるのか、少し興味があると同時に恐ろしくもある。1番の理由は今のところルセアが連れてくる奴隷がすべて黄色表示ということである。一体どんな洗脳を施しているのだか……。
A:聞きたいですか?
……いや、いい。愉快なことにはならないだろうからな。
「もうしばらくしたら迷宮に行くから、お前たちも準備しておけ」
「「はい」」
双子に声をかけつつ、俺も準備を始めた。
首都の入り口から迷宮に入り、転移したのは19層だ。18層で薬草を回収した後、一応19層までは戻ってから帰還したからだ。
19層からの戦闘は今まで以上に簡単に進んだ。ステータスを落としているとはいえ、メインパーティが参加しているのだから、楽にならないわけがない。ステータスを多少落としたところで、セラの斬撃はあらゆる魔物を一刀両断するし、マリアの攻撃は的確に急所を打ち抜いている。
あっという間に19層を抜け、20層へと降りていく。19層へと続く階段のすぐ近くにボス部屋があるので、20層では1度も戦闘をすることはなかった。<迷宮適応>により、当たりの進路がわかると、こういう部分でも得になるようだ。
「次のボスは……、不気味な樹ですね」
扉に描かれた絵を見てさくらが呟く。扉には10層の時と同じく「20」の数字と見慣れぬ文字、それと樹の魔物の絵が描かれていた。
「名前はエルダートレントだな。トレントの親玉、植物エリアらしいボスだな」
エルダートレント
LV25
<擬態LV3><触手LV3><門番LV2><迷宮適応LV3>
備考:トレントのボス。老人と言っているのに、普通に再出現する。