第46話 追放と凶刃
今更ですけど、「失伝」って随分と悪趣味ですよね。
本編で死んだキャラの死ぬ直前までを描くんですから。
「それで、カトレアを助け、ジュリアスをここまで運んでくれたという探索者はどこへ?」
「はっ!隣の部屋で待機してもらっています」
「そうか、ではまずは礼を言いに行こう」
国王は俺たちの居場所を兵士から聞いてすぐに、隣の部屋に向かってきた。
俺たちのいる部屋の扉を兵士が開け、40歳くらいの男性が入ってくる。青と黒がメインの高級そうな服に身を包んだナイスミドルだ。
俺たちを見て近づいてくる国王。後ろには王女も控えている。
「君たちがカトレアを救ってくれたんだな。それだけでなく、ジュリアスの遺体を持ち帰ることにも協力してくれたようだな。本当にありがとう。カトレアも言ってはいると思うが、後で謝礼を払うから、しばらく城で待っていてはくれぬか?」
「ええ、構いません。1つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
兵士たちは俺が質問をするのを快く思っていないようだ。タダの探索者風情が話をしていい相手ではないとでも思っているんじゃないかな。まあ、そんなことを気にする俺じゃあないけどね。あ、一応国王なので敬語です。まあ、念のため。
「エルディアから派遣されてきた勇者が原因でこのような事態になったのだと、カトレア王女からお聞きしました」
「うむ、嘆かわしいことだ。仲間を見捨てて逃げるなど、勇ましい者とは到底呼べん」
本当だよな。勇者なんて本来は行ったことの結果呼ばれるべき名前であって、勇者として召喚するっていうこと自体が大きく矛盾していると思うんだよな。
「それで、今後勇者をどのように扱うのかをお聞かせ願えませんか?」
「貴様、一介の探索者風情が政治に口を出す気か!」
兵士、いや装備が豪華だから騎士かな。騎士の1人が吠えてかかる。
「よい」
「しかし……」
「よいと言っておる」
「は……」
とりあえず国王が収めてくれた。おうおう、騎士がこっちを睨んでいるよ。
「勇者の扱いか。まずは勇者支援国の宣言の取り下げだな。エルディアは『魔族を含めた脅威からの防衛』を謳っておったが、仲間を見捨てて逃げるような者を派遣してきたのだ。到底信じられぬ」
王族に被害を出したんだから、むしろ勇者が脅威だよな。
「そして勇者は国外追放だな。出来れば罪に問うて殺してやりたいが、そこまでしたらエルディアとの関係に完全に亀裂が入るからな」
そこまで話した段階で、兵士が部屋に入ってきた。
「勇者を謁見の間に呼びました。国王様もお急ぎください」
「ああ、わかった。今向かう。礼は勇者を追放した後に渡そう。それまでここで待っていてくれ」
そう言って退出しようとする国王。王女は何かを考えているようで、国王の後に続こうとはしない。
「カトレア?行くぞ?」
「そうです!皆さんも一緒に勇者が追放される様を見ませんか?」
王女が急にそんなことを言い出した。タモさんをけしかけようとしていた手を止める。
「カトレアよ、急に何を言い出す。あまり、他者に見せるようなものでもあるまい」
「いえお父様、これは見せるようなものです。偉そうにしていた勇者が国外追放されるなんて、見世物みたいなものでしょう?」
「いや、しかし……」
「それに私、まだまだ怒りが収まらないのです。お兄様、騎士たちの件ももちろんですが、私だって十分に酷い有様です」
「そういえば、ずっとローブを着ておるが……」
そこまで言うとカトレアはローブを脱いだ。現れたのは満身創痍と言った風情の少女だ。王城に戻ってから着替えていないのだろう。ボロボロの鎧と全身の火傷が目立つ。青い髪の毛も焼けて縮れている。右腕はつぶれており、だらんと垂れ下がっている。
「なんと言うことだ……」
「全身が火傷だらけで、右腕はつぶれました。今は全く動かせません」
「おお、おお……」
国王は言葉にならないようだった。
「出来るだけ自分の現状については考えないようにしていたのです。でも、無理でした。お兄様だけでなく、私の未来も真っ暗なのです。絶対に勇者を許せません。少しでも鬱憤を晴らすために、見世物にして出来るだけ追い込みたいのです」
ずいぶんと冷静だと思っていたが、我慢していただけのようだ。殺せないなら、せめて少しでも酷い目に合わせたいというのだろう。
「……わかった。カトレアがそこまで言うのならば許可しよう。君たちもついてきたまえ」
渡りに船と言った感じで、俺たちも勇者が追放されるところを見られることになった。でも、さくらは勇者を直接見たくないようだ。俺も顔見知りだし、わざわざ前に出るつもりはない。
「すいません。俺たち2人はここで待っていてもいいですか?」
「まあ、無理にとは言わん」
「残念です」
残念そうに言う王女。そんなに『勇者ざまあ』を見せたいのか。
「じゃあ、他のみんなは勇者を見てきてくれ」
「わかったわ」
「わかりましたわ」
《任せてください》
《はーい》
思い思いに返事をする少女たちを見送り、俺とさくらだけがこの部屋に残った。それからしばらくして……。
A:国王たちと勇者が謁見の間に揃いました。
じゃあ頼む。
A:わかりました。目をつぶってください。
言われた通りに目をつぶる。その瞬間、つぶっているのとは別の視界が俺の周りに広がる。少し目線が高いので、セラだろう。
「私はミオちゃんです」
「俺はセラだ」
わざわざ別の視点にしてくるアルタ。芸が細かいな。
玉座に国王が座り、その横にはフードをかぶった王女がいる。勇者はその前に立っている。ちなみにセラやミオと言った俺の仲間たちは国王から見て右側に並んでいる。
勇者の顔が見えるが、やはり俺の知っている日下部だな。その周囲にはエルディアの兵士がいる。さすがに他国への使者として1人で行かせることはないよな。
「勇者よ。ここに呼ばれた理由は分かっておるか?」
「ええ、約束の支援についてですよね。資金と人材と物資を提供する代わりに勇者が魔族を含めた脅威からエステア王国を守るという約束です」
「その件も絡んでおるな。しかし、それよりも先に聞いておかねばならんことがある。迷宮の件だ」
「ああ……」
それを聞いた日下部は一瞬だが面倒くさそうな顔をした。
「勇者は本来いるはずのないボルケーノゴーレムが出現し、勇者を守るために王子や王女が命を散らしたと言ったな」
「ええ、私もともに戦ったのですが、王子も王女も私を庇って亡くなってしまいました。その隙をついて私がボルケーノゴーレムにとどめを刺したのです。彼らのおかげで僕は今も生きていられます」
「そうか……」
国王が恐らく怒りでプルプルと震えている。凄いな、よくここまでペラペラと嘘八百を並べられたものだ。
「それならばこれはどういうことだ!」
そう言うと横にいた王女が前に出てフードを外す。火傷だらけの王女が姿を現した。
「なっ!」
それを見て驚いたのは当然日下部ただ1人だ。後ろの兵士たちは困惑している。
「に、偽物です!王女は確かにボルケーノゴーレムに殺されました!誰かが化けて!そう、きっと魔族が化けているんですよ!」
うん、実は該当する魔族はいるんだけどね。偶然って怖いね。でも、そいつなら俺が殺したから。
「カトレアはボルケーノゴーレムに殺されそうなところをたまたま通りかかった探索者に救われたらしい。カトレアが言うには勇者はボルケーノゴーレムと遭遇して、攻撃が通じないとわかるや否やジュリアスを切り付け、ジュリアスやカトレアを囮にして逃げたそうだ」
「偽物の言うことなんかに耳を貸さないでください!」
「勇者は王子や王女の遺体はボルケーノゴーレムにより焼き尽くされてしまい、全く残っていないといったな。しかしその探索者が王子や騎士たちの遺体を全員分持ち帰ってくれたぞ。損傷がひどいものもいたが、個人の判別はつくレベルだったぞ。そしてジュリアスの遺体には剣で切られた跡があった!」
「それも偽物です!国王様、騙されないでください!」
日下部のセリフからバリエーションがなくなったな。
「ワシは勇者、いや貴様が嘘をついているようにしか見えぬ!故に勇者支援は撤回するし、貴様は国外追放じゃ!2度とこの国に入ってくるではない!」
国王がそこまで言うと、日下部の顔から表情が抜け落ちた。
「ふざけんなよ……。折角異世界に来て好き勝手出来ると思ったのに、こんなところで邪魔されてたまるかよ……」
「早くその者をつまみ出せ!」
国王が配下の兵士に命じる。エルディア側の兵士も困惑しているが、勇者を守ろうと兵士たちの前に出る。しかし、誰かが明確な行動に出る前に動いたのはその日下部だった。
「ふざっけんな!」
日下部はそう言うと祝福の<加速>を発動した。
<加速>
意識と肉体を加速させることが出来る。常人の1秒が使用者の3秒となる。使用限界は5秒。体感的には15秒。クールタイムは10秒。
簡単に言えば自分以外がスローモーションになるという能力だ。攻撃力が劇的に上がるわけじゃないから、ボルケーノゴーレムには攻撃が通じなかったんだろう。それに、逃げるのには都合がよさそうだな。
加速した日下部は国王に向かって走り出した。途中で持っていたアイテムボックスから剣を取り出し、国王の腹を刺し貫いた。……事前に取り上げておけよ。
「ぐはっ!」
「ははは!俺の邪魔をした罰だ。死ね!」
血を吹いて倒れる国王。日下部は加速したまま兵士の隙間を抜けて謁見の間から抜け出した。
突然の凶行に唖然とする一同。すぐに騒ぎが大きくなった。エルディアの兵士は捕縛され、騎士たちは日下部を追いかけた。
「お父様!今回復魔法の使い手が来ますからね!それまで意識を手放さないでください!」
王女は国王に縋りついて励ましている。この場には回復魔法の使い手がいなかったようで、兵士が慌てて呼びに行っているが、このままでは確実に間に合わないだろう。
《ミオ、国王に回復魔法をかけてやれ》
《う、うん》
1番近くにいたミオに国王の回復を任せる。
「あ、貴女は?」
「私、回復魔法が使えるから!」
「そ、そうですか!お父様をお願いします!」
「任せて!『ハイヒール』!」
『ハイヒール』により国王のHPは回復していく。正直、日下部が弱くて助かった感があるよな。あそこまで堂々と刺しているのにHPを削り切れていないんだから。
「もう大丈夫だからね!」
「うう……」
これで国王の方は大丈夫そうだな。さて、問題の勇者はどうなったかな。
俺は勇者が逃げ出した時にタモさんを追手として放っていた。タモさんを鷹の魔物に擬態させ、<飛行>スキルを使って追いかけさせたのだ。
いくら速く動けるとは言え、時間制限もクールタイムもある。捕まえるのは難しくても、空から追いかけるのはそれほど難しくはない。もちろん、マップ内なら俺だけでも捕捉できるが、別エリアに行かれたときのためだ。
勇者はどうやら宿をとったみたいだ。馬鹿なのだろうか。まだ連絡が回っていないうちに首都から出るべきじゃないのか?
ああ、馬鹿だったわ。そうでなければ無意味に国王を刺したりはしないよな。どのみちこの国にいられなくなるのは同じなんだから。
「勇者が追放されたら溜飲が下がると思っていたんですけど、なんか変な方向に話が進んでしまいましたね」
「そうだな。短絡的に国王を刺したりすれば、この国にいられなくなるのは同じだし、普通に犯罪者として手配される可能性すらあるのがわからないのかね」
「わかってたらしませんよ。あんなこと」
「それもそうだな。後はエルディアの対応が気になるな。さすがに公の場での王族相手の蛮行だからもみ消したりはできないと思うけど……」
「正直に言えば、碌なことはしなさそうですよね」
「それは間違いないな」
しかし、どうしてあんな馬鹿が使者になれたのかね。基本的に同じ学校だった連中の事は嫌いだが、多少はまともな奴もいるだろう。わざわざあんなのを使者にするとか、理解できないな。
謁見の間でも動きがあった。国王は一命をとりとめたが体力を失っており、部屋で治療を受けつつ休息をとるそうだ。一通りの指示を出した後に退出していった。
俺の仲間たちは客室に案内されている。今日は城で寝泊まりしてほしいと王女からお願いされたようだ。今、俺たちの方にも兵士が連絡に来ている。
しばらくすると兵士がやってきて、俺たちも客室の方に案内された。個室を用意すると言われたが、特に必要もないので全員同じ部屋にしてもらった。メイドが部屋の説明を軽くしていったが、最後に『王城ですから。不埒なことは控えてくださいね』と言われてしまった。何故?
A:(女性が多い中に、男性が1人で同じ部屋。そのほとんどが奴隷となれば、誤解されるのも当然かと……。)
「いやー、まさか国王様が刺されるとは思わなかったわー」
王城客室の豪華なベッドに座ったミオが言う。ドーラはすでにお休み中だ。
「そうですわね。私たちがいなかったら、国王陛下も死んでいました。勇者はいったいどういうつもりだったのでしょう?」
「何も考えてなかったと思うぞ」
「あんな奴が勇者なんて信じられないわよね」
セラの言う通り、本当に国王は死ぬところだった。皆の勇者評価もダダ下がりだ。まあ、俺たちから話を聞いているから、もともと低いんだけどね。底値更新と言う奴だ。
《シンシアさんが勇者っぽいかと言われると私も疑問なのですが……》
ケイトの言い分は分からなくもない。うん、マリアも勇者かと言われると微妙な感じだし……。
《それで、私たちは今後どうする予定ですか?》
「そうだな。乗り掛かった舟と言う奴だ。ある程度は成り行きに任せてみようと考えている。午前中に国王か王女からなんかしらの話があるだろうし、それがなくても昼にはマリアたちと合流する。……そうだな。マリアたちの様子も聞くか」
マリアに念話を向ける。
《マリア、そっちはどうなった?》
《あ、仁様。丁度良かった。こちらからそろそろ御報告しようと思っていたところでした》
こちらの情報をマリアに伝えた。マリアの方からも言うべきことがあるそうだ。
《まず、エリンシア様が首都に向かいました。報告後まもなく相転移石を使って行ったようです》
《エリンシア、フットワーク軽いな》
相転移石で別の街に行くことにもデメリットがあり、簡単に言えば『攻略を諦める』ことだ。例え何層まで進んでいようとも、1層で相転移石を使って他の入り口に行くのだから、次に開始するのは1層となってしまう。普通に移動する分には有効な手法だが、探索者にとっては気軽に使えることではない。まあ、エリンシアが探索者としてどの程度活動しているのかは知らないけど。
《あと、勇者を殺すために部隊を編成しているみたいです》
《怖えよ》
エリンシアにとって、日下部はすでに殺すべき対象のようだ。いや、王家の対応がそちら側に傾く可能性も低くはないけど……。
しかし、マリアが話をした段階では王子と王女に害をなしたところまでだ。国王も追放で踏みとどまっていたからな。エリンシアは踏みとどまるつもりはないということだろう。
正直言えば、俺としては日下部が死のうが死ぬまいがどちらでもいい。俺にとって、勇者召喚された学友たちのほとんどは既にどうでもいい存在にまで成り下がっているからだ。殺したいほど憎い理由も、何かをされて許す理由もない。エリンシアや国王、王女が日下部を殺したいというのなら、報酬次第で手伝ってもいいくらいだ。
《エリンシアは他に何か言っていたか?》
《大したことは……。あ、また何かお礼をしたいと言っていました》
《まだ、国王からも褒賞を貰う予定なんだが……》
《それとは別でと言っていました》
《エリンシアがわかっているならいいか……》
マリアとの連絡を終え、その日はもう寝ることにした。いつの間にかミオやケイトが眠っているからな。探索を終わろうとしてから色々あったせいで、結構遅くなってしまったからな。
次の日、城の兵士に呼ばれて国王と王女の待っている謁見の間へと向かう。兵士の話だと、国王の容体は完全に回復したらしい。なんでも、城勤めの回復魔法使いが寝ずに『ヒール』その他回復魔法をかけ続けたという話だ。お疲れさまとしか言えないな。言ってくれれば、ミドリ印の秘薬を売ってあげたのに。
謁見の間に入ると、玉座に国王が、その隣に王女が座っていた。その横には12歳くらいの男の子が座っている。ステータスを確認したところ、王子のようだ。後、普通にエリンシアが部屋にいる。タイミングがなくて挨拶とかはしていないけど……。
俺たちが前まで行くと、国王自ら跪かなくていいと言った。周囲にいる騎士や重鎮たちは不愉快そうな顔をしているものも多いが、表だって文句は言えないようだ。功績が大きいからだろうな。
「まずは昨日の迅速な対応に礼を言う」
「いえ、当然のことをしたまでです」
一応、俺が答えた。立場としてミオは俺の奴隷だ。奴隷の功績は基本的に主人が総取りで問題ない(ってアルタとケイトが言ってた)。今更と言えば今更だが、奴隷の立場で謁見の間で発言させるのもどうかと思ったのもある。ミオ達が奴隷と言うことは伝えてあるからね。
「王女の件も含め、大きな借りが出来てしまったな。褒賞は後で必ず与えるので安心してほしい」
「はい、ありがとうございます」
「うむ」
国王はそこで大きく頷くと、再び話し始めた。
「君たちを呼んだのは、褒賞の件も含め3つの理由がある。まず第1に勇者の件だ」
それは当然予想されてしかるべき内容だな。
「昨日の件でワシは勇者を指名手配することにした。そして、この件を含めてエルディアにはかなり強く抗議する所存だ」
「国王を勇者が刺したとなればそれは当然だと思います」
「うむ。あのような者を使者にするというだけで、我が国を低く見ていると言っているようなものだからな」
さすがにアレはないよな。もっと適任な奴がいくらでもいるだろうに。
「そして、君たちに勇者の捕縛、もしくは討伐を頼みたいのだ」
「討伐、ですか?」
いきなり討伐と来たか。ある意味では予想通りだ。
「昨日、ワシが刺された後に騎士たちが街を捜索したところ、どうやら勇者は迷宮に入っていったようだ」
今朝起きたら、タモさんが迷宮にいたので驚いた。勇者は今18層の安全地帯にいるようだ。
「正確には、騎士たちが捜索しているのを見た勇者が迷宮に逃げ込んだという方が正しいな。入ってすぐに相転移石を使ったようだから、今は19層付近にいることだろう」
「ああ、私たちの相転移石の記録地点から近いということですね」
「その通りだ。今、この国にいる者の中から、19層付近で活動しているパーティで、勇者の顔を知っており、勇者を捕縛できるだけの実力があり、事情を知っている人間など他におるまい。見つかるまでと言うわけにもいかぬから、1週間ほど19層付近で捜索してくれればよい」
確かにここまで条件が揃っていたら、頼みたくなるのも当然だよな。
「可能ならば勇者の捕縛、無理なら討伐をしてほしい。もちろん、討伐した場合も死体を持ち帰ることを忘れないでくれ」
「ですが、俺たちは探索者です。いくら罪人とは言え、勇者を殺害するのは問題になるのでは?」
正直言えばこれは言ってみただけだ。エルディアなんぞ別に怖くもないし、せいぜい、『旅行するのに邪魔者が増えそうだな』くらいの感想しかない。とは言え、国王がその辺のことをきちんと考えているのかと言う確認にはなる。
「……確かに、エルディアからしたら勇者の敵と言うことで、追われることになるかもしれん。もちろん、素性に関してはこちらの方で隠すし、それ以外にも予防策としてカトレアを同行させようと思っておる」
「カトレア王女殿下をですか?」
そりゃあ、王女の再開位置も19層であることには間違いないけどさ。明らかに足手まといだよ?
「うむ、君たちにはカトレアの手伝いをしただけで、勇者を直接討伐したのはカトレアと言うことにしてほしいのだよ。もちろん、事実は問わない」
「カトレア王女殿下を矢面に立たせるというわけですか?危険ですよ?それに、どこの馬の骨とも知れない奴にカトレア王女殿下を預けてしまってかまわないのですか?」
「うむ、全ての面においてカトレアは了承している。と言うか、カトレアが自分から行きたいと言ったので、そのような筋書きにした。もちろん、捕縛で済むならそれに越したことはないが……」
「出来れば本当に私がとどめを刺したいくらいです。機会があれば確実にとどめを刺すでしょう」
カトレアがその眼に怒りを湛えたまま言う。
「酷なことを言うが、捕縛した場合、カトレアがとどめを刺さないように見張ってくれると助かる。後、カトレアを守ってやってくれ」
国王が無茶ぶりをしてきた。カトレアを連れていき、守り、勇者を捕縛、もしくは殺害し、捕縛した場合はカトレアがとどめを刺さないように守る。普通は無理だよね。
「2つ目の話とも絡んでくるが、当然、相応の報酬は用意しよう。どうだ?受けてくれるか?」
さて、どうしたものか。受けないと言ったとしても、悪いことにはならないだろうな。とは言え、乗り掛かった舟と言う奴だ。昨日の夜も依頼されたら受けてもいいとか考えたばかりだしな。
「わかりました。その依頼お受けしましょう」
「おお、受けてくれるか。それは助かる。しかし、流石のワシも『勇者を倒せ』などと言う依頼をしたことはないので、その報酬は要相談とさせてほしい」
普通、その依頼をするとしたら魔族だと思います。
「はい」
「2つ目の話は、勇者討伐とは別の褒賞の話だ。ワシら2人を救った他に先日の隔離迷宮や、カスタール国境の魔物放出でも活躍をしたと聞いた。隔離迷宮の褒賞を受け取ってはいないようだし、それもこの場で渡すとしよう」
「あ、その件なのですが、褒賞をまとめてより豪華にすることとかできますか?」
「どういうことだ?」
「すでに貰えることが確定している『国王陛下の回復』、『王女殿下の救出』、『隔離迷宮の報告』。これらの褒賞を1つの豪華な報酬にまとめてほしいということです」
「それは別に構わないが、それに匹敵する褒賞となると何がある?金銭で払うとなるとどれくらいが妥当なのか……」
考え込む国王。しかし、俺が欲しいのはお金じゃない。折角交渉できる立場にいるのだ。3つの褒賞を交渉カードに使ってでも欲しいものがある。
「俺が欲しいのはお金ではありません」
「ではなんだ?貴族にでもなりたいのか?」
「地位も不要です。俺が欲しいのはただ1つ。使用済みの『大魔結晶』です」
『大魔結晶』それは迷宮でごくごくまれに発見される巨大な魔石の事である。それ1つでこの城中の魔法の道具を30年は動かせるという代物だ。そして使用済みと言うことは内部に貯められた魔力(MP)を全て使い果たしたということである。
通常の魔石は魔力(MP)を使い果たすと崩れさってしまう。しかし、『大魔結晶』は魔力(MP)を使い果たしても崩れない。そして、外部から魔力(MP)を加えることで再び使用できるようになる。しかし、この充填は非常に効率が悪く、城中の魔術師が全力で1年間魔力を込めても1%も充填できないのが現状だ。希少品であることは間違いがないし、いずれ技術のブレイクスルーが起きた時には役立つかもしれないが、現状では使用済みの『大魔結晶』には利用方法がなく貴重品とは言えない。
「使用済み……。そんなものを貰ってどうする?」
もちろん再充填して使うに決まっている。魔力(MP)を貯めておけるというのは色々と役に立ちそうな気配がするからな。
「特に何に使うというわけではありません。現状『大魔結晶』は王国が買い上げていますから、使用済みであっても市場には出ないじゃないですか。折角の機会だから、普段望んでも手に入らないようなものが欲しいんですよ」
言ってみて気が付いたのだが、これはこれで俺っぽい理由な気がする。俺が言いそうな気配がひしひしと伝わってくる。
「確かに、外で上手くさばけばそれなりの価値にはなるだろうし、他に持っている者も少ないだろうから優越感も得られるだろうな。希少とは言え、使用済みであれば現在7個は王国が保有しておるから、どうしても譲れないというわけではない。……よかろう。我が国の保有する『大魔結晶』の1つを君に譲ろう」
「ありがとうございます」
国王は兵士に指示し、倉庫から『大魔結晶』を取ってこさせた。アイテムボックスから取り出された『大魔結晶』は1mくらいの大きさでとても重い。アイテムボックス無しでは運べないようだった。ちなみに色は透明だ。話によると魔力が充填されているときは虹色に光り輝くのだとか。
国王から直接譲ると言われ、床に置かれた『大魔結晶』を俺のアイテムボックスに入れると周りから拍手が起きた。一応、褒賞を与える場だからだろう。普通は国王が手渡しなりするのだろうが、重くて持てないのだから仕方がない。
褒賞の話が一段落し(勇者討伐の報酬の話はまた後で)、国王が最後の話を切り出した。
勇者のルートがほぼ固定されました。
日下部の祝福は主人公っぽいんですけどね。使い道がなんとも……。