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第45話 王女と異界の勇者

KFNのせいで死にそうになっています。

この時期になると杉を全滅させたくなります。

「戦っている魔物は間違いなく異常イレギュラーだ。念のため新人は下がっていろ」


 シンシアに特攻させるには不安の残る相手だ。マグマのボディとか、下手に突っ込んでいい相手ではないだろう。


《わかりました。カレンさん、ソウラさんはシンシアさんを動けないようにしてください》

「はい、カレンちゃん」

「はい、ソウラちゃん」

「「せーのっ!」」

「な、何をするのです!放すのです!」


 暴れるシンシアを双子が拘束していく。ちなみに拘束の方法は簀巻きと言う奴だ。あっという間にぐるぐる巻きにされ、双子に担がれているシンシア。


 隣接エリアで戦っている探索者たちはどんどん数を減らしている。辺りに他の探索者がいないことを確認してから<縮地法>と『ワープ』の高速移動コンボで近づき、『サモン』で残りのメンバーを引き寄せる。5分もかからずに近くまで来たが、マップを見た限り20人程の探索者が死んで灰色表示となっていた。俺がたどり着いた時には、生き残っているのは1人の探索者と1匹のボルケーノゴーレムだけだった。その1人の探索者もかなりのダメージを受けて倒れており、このままだったら遠からず死ぬだろう。


「さくらは生き残りに回復魔法をかけてやってくれ!」

「はい!」


 さくらが生き残りの方へ向かう。俺たちに気付いたボルケーノゴーレムがこちらに向かってくる。


「セラはあのデカブツを倒せ!」

「わかりましたわ!」

「私が倒したいのですー!」


 そう言うとセラはボルケーノゴーレムに向けて走り出した。簀巻きシンシアの言い分は当然無視だ。

 俺たちも大分ステータスを落としているが、それでもレベル20そこそこの魔物にはまず負けない。ボルケーノゴーレムに接近したセラは大剣を一振りする。それだけでボルケーノゴーレムは縦に両断された。左右に分かれて倒れるゴーレム。中からは溶岩がこぼれ出すも、すぐに冷えて固まる。死んだら温度が急激に下がる様だな。


「終わりましたわ」

「ご苦労様」


 あっさりと勝負を決めたセラをねぎらう。俺がやっても良かったんだが、さすがにあれに腹パンしたら少々熱いだろうしな。


「こっちも問題ありません」

「お疲れさま」


 さくらの方も無事に回復が終わったようだ。倒れているのは1人の少女だ。軽鎧を着ているが、その鎧もボロボロだ。


「でも、腕の欠損や酷い火傷で『リバイブ』なしでは普通の生活には戻れないと思います」


 少女は片腕がつぶれており、身体中に火傷を負っている。この世界の回復魔法は自然治癒の延長にあると思ってもらっていい。なので欠損は治せないし、火傷痕や傷跡が消えるわけでもない。ある程度は良くなるが、目の前の少女ほど酷い場合は気休めにもならない。つぶれた腕も自然治癒でどうにかなるレベルを超えており、『リバイブ』がなければ元に戻ることはないだろう。


「仁様、いかがいたしますか?」

「と言うかこの子、この国の王女よね?」

「ああ、そうだな」


 ミオの言う通りこの国、エステア王国の国王の娘、王女だ。


名前:カトレア・アズウェル

LV12

性別:女

年齢:15

種族:人間

スキル:<剣術LV2><身体強化LV2><作法LV1>

称号:エステア王国王女


 もっと言えば、周りにある死体のいくつかには騎士と言う称号があるし、さらには王子と言う称号もある。


「彼女たちはどういった集団だったのでしょう?」


 さくらの疑問に答えたのはアルタ、ではなくケイトだ。


《おそらく、成人の儀式でしょう。エステア王家の人間は15歳になるとその力を示すために迷宮に潜ります。もちろん、騎士もついてきますし、親族がついてくることもあります》


 迷宮により支えられている国だからこその習慣だろうな。その習慣で王族が死んでいたら世話ないけど……。

 騎士たちのレベルは40前後だ。ボルケーノゴーレムは10匹以上いたが、全滅するほどの相手ではないはずなんだが……。


《10層のボスで終わらせるのが通例となっているはずです。なんで19層にいるのかは予想くらいしかできませんね》


 10層で終わるはずが19層って、結構無茶したよな。


「それよりもご主人様!王女よ、王女!ドーラちゃん、ユリアちゃん、サクヤちゃんに続いてエステアの王女もゲットしちゃいましょ!」


 ミオが凄く良い笑顔でゲスいことを言う。ああ、やっぱり王族の女性をコレクションしていると思われている。……否定できる要素がないのが悲しいけど。


「ゲットってどうするつもりだよ?」

「火傷と腕を直してほしければ配下になれって言えばいいんじゃない?簡単でしょ?」

「いや、簡単だけどさ……」

「それでしたら私が……」


 なぜかマリアがやる気を出している。


「待て待て。今回はそんなつもりはないぞ」

「え?なんで?」


 不思議そうにミオが聞いてくる。


「いや、王女を配下にするってことは、少なからず国と関わるわけだろ?そうしたら勇者と接触する可能性が無駄に上がるんだよ。わざわざ不快な方に近づく必要もないだろ?」

「勇者支援派のこの国で王族に関与すると、仁様のお嫌いな勇者との遭遇率が上がってしまいます」


 この国の権力に近づきすぎると、勇者との遭遇率が上がって不愉快だ。あくまでも一都市の騎士であるエリンシアくらいならまだしも、中枢である王家との接触はあまり増やしたくない。まあ、報酬受け取りに首都に行くのは決まっているのだが……。


「じゃあ、ここで放っていきますか?」


 さくらが鬼畜なことを言う。勇者を引き合いに出すと、さくらの行動は少し過激になるようだ。

 王家=勇者を支援=敵、と言うことだろうな。


「いや流石にそれは勿体無い」

「え?可哀想とかではなく勿体無いなんですの?……ご主人様も結構大概ですわよね」

「……セラ、飯ぬ……」

「ごめんなさいですわ!」

《セラの分はドーラが食べるー》

「勘弁してくださいですわ!」


 速攻で謝るセラ。そしてドーラは意外と容赦がない。


「とりあえず、まずは話だけ聞こう。そこから先はその後で考えればいいだろ?」

「そうですね。王族だからと言って全員が勇者を支持しているとも限りませんし」


 マリアが頷く。一応、支持されるべき勇者であるマリアが言うのも変な話だけど。


「火傷だけならミドリちゃんの秘薬シリーズで治せるわよね?」

「そうだな。『ヒール』だと火傷痕みたいのは治らないけど、秘薬は別だからな」


 ミオの言葉に頷く。ミドリの秘薬は異能ほど世界の理から外れていないから、最悪バレても何とかなる。


「う、ううう……」

《あ、おきるよー》


 ドーラが教えてくれた通り、そろそろ目覚めるようだ。



「あ、あれ?私、ボルケーノゴーレムに……。はっ!お兄様!お兄様は!?」


 目を覚ました王女は起き上がろうとするも、片腕がつぶれて動かないために起き上がれず、そのまま倒れこんだ。


「痛!?え?腕が……、それにこの身体……」


 自分の体を見て愕然とする王女。それでも何とか起き上がり周りを見る。この段階で俺たちの存在と、周囲の惨状に目が行ったようだ。ふらつきながらも立ち上がり、ある死体を目指して歩く。


「あ……ああ……お兄様、お兄様……」


 周囲の死体のうちの1つ。1番高級そうな鎧に身を包んだ死体に縋りつく王女。あそこまで死体が損壊していると、蘇生もできないだろう。


「うう……、どうしてこんなことに……、だから早く帰ろうって言ったのに……」


 王女は10層で帰るつもりだったのか?しばらく泣いていた王女だったが、俺たちの事を思い出したのか、涙を拭いてこちらに近づいてきた。自身もボロボロだというのに気丈なことだ。


「貴方たちは探索者ですよね?申し訳ありませんけど、私が気絶している間の状況をお教え願えませんか?」


 王女が上から目線で何かを言ってこなくてよかった。もし、不愉快だと感じたらその場で見限っていた自信がある。


「ああ、俺たちは探索者だ。この層を探索していたら、ボルケーノゴーレムとこの惨状を発見した。ボルケーノゴーレムは1匹だけ残っていたからそいつを俺たちで倒した。生き残りはアンタだけだったから、とりあえず『ヒール』をかけておいた」


 簡潔に説明すると王女は納得したかのように頷いた。


「わかりました。ご説明ありがとうございます」

「ここで何があったんだ?ボルケーノゴーレムはもっと下の階層の魔物だろ?」


 俺の質問に考えるような素振りを見せる王女。


「はい。何があったのかお話ししましょう。その前にまずは自己紹介をさせてください。私の名前はカトレア。この国の王女です」

「俺の名前は仁だ。人数が多いから、他のメンバーの紹介は機会があればと言うことで」

「はい。え?それだけですか?私、王女ですよ」

「ああ、それがどうかしたか?」

「……いえ、何でもありません。仁様とお呼びさせていただきますね」


 どうしたというのだろう?助けた相手が王女だったというだけの、よくある話だろう?


A:……。


「えーと、私たちみたいな探索者にそんな簡単に名乗ってもいいのですか?」


 さくらが質問した。ああ、俺は先に知っていたけど、普通は隠しておくのかな?


「助けて下さった方に名乗りもしないなんて失礼なことはできません。謝礼もお支払いするつもりですので、出来れば誘拐などはご遠慮いただけると幸いです」


 洒落が効いているね。謝礼だけに。……さて、モンスターハウスに入って死ぬか。あ、ダメだ。この層くらいじゃ、まともなダメージ入らない。

 俺以外のメンバーも苦笑いだ。


「私は成人の儀式でこの迷宮に潜りました。本来は10層までで良いのですが、同行者がどうしてもと言うので先の階層まで来てしまいました。ここまで来た段階でボルケーノゴーレムに囲まれてしまい、パーティが壊滅しました」

「同行者って?」


 王族が2人いて、1人が止めているのに意見をゴリ押せるような奴って何者だ?


「エルディアから派遣されてきた勇者です」

「「勇者……」」


 思わずさくらとハモり、顔を見合わせてしまった。いや、この国に来ている可能性は低くは無かったが、迷宮の中でその名を聞くことになるとは思っていなかったからな。


「どうかしましたか?」

「いや、気にしないでくれ。俺たちの個人的な事情だ」


 カトレアが不思議そうに聞いてくる。


「2週間ほど前にエルディアから派遣されてきた勇者が、私の成人の儀式に同行してきたのです。一応、勇者とともに戦うという権威付けの側面もあったと思います。彼は10層までの探索が退屈だったと言って先に進むことを提案してきました。私は反対だったのですが、勇者が勝手に進むので仕方なく私たちもそのまま進むことになってしまいました」


 確認したが、死体の中に勇者、と言うか異世界人はいなかった


「騎士たちは精鋭でしたが、10層までのつもりでしたので魔法使いは1人しか連れておらず、ボルケーノゴーレムとは相性が悪かったのです」


 ボルケーノゴーレムは固く、熱いので接近戦がしにくい。20層台で有名な、対策をしていないと詰む魔物の筆頭である。


「勇者は戦わなかったのか?」

「勇者は……、一応、戦いました。でも、ボルケーノゴーレムとのあまりの相性の悪さに、1人で逃げ出したのです。魔物を私たちに押し付けるために、お兄様を剣で切り付けて負傷させるオマケつきです……。そのまま魔物から距離をとり相転移石で逃げたようですね……」


 そこまで言うと、王女は俯いてプルプルと震えだした。顔を上げたときに映っていたのは明確な怒りだった。


「何が『僕が君を守る』ですか!真っ先に逃げる卑怯者が!私たちの中で1番強かったお兄様が負傷したせいでボルケーノゴーレム相手に壊滅することになりました!お兄様が無事だったらここまでの事にはなりませんでした!魔法使いはお兄様を回復しようとしているところをやられました!全員が無事だったら、逃げるくらいはできたはずなのに!それもこれも全て勇者のせいです!」


 そこまで叫ぶとハアハアと息を切らせるカトレア。少し聞いただけでも最低の人間だな、勇者。


「は!すいません。お見苦しいところをお見せして……」

「いや、まあ、うん……」

「仰りたいことがあるなら、はっきり言ってください!」

「溜め込んでいたんだな」

「ええ!この迷宮での最低な振る舞いだけではありません!勇者としておだてられて調子に乗り、嫌がる私の事を考えもせずに口説いてきて、口説いている途中に他の女性に目移りし、お父様に無理を言って成人の儀式についてくるような屑です!あんなのを支援するために勇者支持国になったわけじゃありません!帰ったらお父様に支援を撤回してもらいましょう!」


 相当に怒り心頭と言った感じだ。ただでさえ不快だったのに、実質的な兄の敵になったのだからそれも当然だろう。


《仁君。彼女に協力しませんか?》

《どうしたんだ、急に?》


 さくらから念話が来た。


《彼女に少し同情してしまいまして……。勇者の被害者と言う共通点もありますし……。それに上手くいけばこの国を勇者支援国から外すことが出来ます》


 確かに同情の余地は十分にある。それにこの国から勇者を追い出せる可能性があるなら、多少の協力くらい安いものだろう。……俺も結構勇者が嫌いみたいだな。


《わかった。とりあえずこの場は可能な限り協力しよう》

《はい。よろしくお願いします》


 カトレアが落ち着くのを待ってから質問する。


「で、この場をどうするんだ?」

「……」


 しばらく考え込むカトレア。


「まず、お兄様や騎士たちの遺体をできるだけ持ち帰りたいのですが、ご協力いただけないでしょうか?」


 死体を持ち帰るために、担ぐのを手伝えと言うことだろう。


「俺は空間魔法の『格納ストレージ』を使える。そちらに入れるのはどうだ?」

「それは凄いですね。……お願いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ」


 そう言うと、周囲の死体を『格納ストレージ』に入れるフリをして《無限収納インベントリ》に入れる。言われてみれば王子の遺体だけは剣で切られた形跡がある。


「私は首都から迷宮に入ったのですが、皆さんはどうでしょうか?」

「俺たちはリーリアの街だな」

「リーリアですか。少々遠いですね。……でしたら、騎士たちの相転移石を使い、首都まで来ていただけませんか?」


 相転移石を使用した際に戻るのは、『相転移石が最後に通った迷宮の入り口』である。つまり、騎士が持っていて首都の入り口を通った相転移石を俺が使うと、リーリアから入った俺が首都まで一気に移動できるのだ。1人1つしか使えない、他の人が使った物は使えないなどの制約はあるが、この点に関してはある種の裏ワザとして移動に使われることがある。


 余談だが、相転移石を持って、迷宮の入り口から他の入り口まで移動し、そこで相転移石を売る仕事を『移動屋ポーター』というらしい。相転移石は1つしか有効にならないので、帰りは自力で地上を歩いていくか、同じ要領で迷宮を進むしかない。結構過酷な職業である。


「別に構わないぞ。あ、リーリアでエリンシアに報告しておいた方がいいかな」

「エリンシアをご存じなのですか?」

「ああ、エリンシアからダンジョンカードEXの紹介を受けたんだ」

「それは凄いですね。彼女は国のためになるような人材にしか紹介状なんて渡しませんよ」

「王女こそ、一介の騎士をよく知っているな?」


 首都からそれなりに離れた地の騎士団長を王女が知っているというのも変な話だ。


「彼女の実家は首都にあります。貴族の娘で王家とも遠い血縁にあるのです。私も幼いころによく相手をしてもらいました。まあ、彼女の忠誠は王家ではなく、国自体にあるみたいですけどね……」


 言われてみれば王家云々とは一言も言っていないよな。


「エリンシアが認めるほどの実力でしたら、ボルケーノゴーレムを倒したのも納得です」

「まあ、知らない仲ではないし、王女を保護したんだったら、報告しておいた方がいい相手かと考えたんだ。それに、カスタールとの国境の村でも20層台の魔物が出てきたときにもいたからな。何か関係があるかもしれないし」

「え、話には聞いていましたけど、もしかして国境の村で氾濫した魔物を倒したのって……」

「俺たちだ」


 別に隠すようなことでもないしな。


「エリンシアも丁度リーリアの街にいるみたいだしな。最悪でも復興中の村にいるだろうし、連絡には困らないだろう」

「ああ、未発見の迷宮入り口のあった村にいる可能性もあるんですよね。……あの、1つお聞きしてもよろしいですか?もしかして、迷宮の入り口を発見したのって……」

「俺たちだ」


 不思議な予感が働いたのだろうカトレアの質問に答える。


「……よくわかりました。仁様は俗にいう『規格外』と言うお方なのですね」


 失礼?なことを言う王女。でも多分合っている。

 納得したような王女をよそに、マリアが宣言する。


「エリンシア様に報告するのでしたら、面識のある私が参ります」

「よろしく。あ、後何人かそっちに連れていけ」

「はい」

「あ、私そっちに行きたいのです」


 シンシアが手を挙げた。


「なんで?」

「え?マリア先輩の方だと、用件が終わった後に自由時間が出来て、迷宮で狩りが出来そうだからなのです」


 ブレないなシンシア。


「私もマリア先輩について行きます。カレンちゃんと一緒に」

「私もマリア先輩について行きます。ソウラちゃんと一緒に」


 双子が手を挙げたので、マリア、シンシア、双子の4人がリーリアに戻ることになった。


 あまり気分はよくないが、騎士たちの死体から相転移石を取り出す。余ったモノはマリアたちが首都に行くときのために迷宮の隅に隠しておく。『ポータル』なり『サモン』なりでどうにでもなる話ではあるが、王女の前なので念のための作業である。


「セラちゃん、仁様の事をよろしくお願いします」

「任されましたわ」


 マリアは俺の単独行動を酷く嫌がる。最低でも1人は護衛を付けないと気が済まないようだ。タモさんの場合もあるから1匹でも可。



 俺たちは騎士たちが持っていた相転移石を使い、首都へと転移した。


「あ、この姿だと目立つから、マントか何かを貸してもらえないでしょうか?」


 王女はボロボロになった鎧を着て、片腕を失い、身体中に火傷の跡がある。そんな姿で外を出歩くのは嫌だろう。

 俺は<無限収納インベントリ>からフード付きのローブを取り出して渡す。


「ありがとうございます」


 フードまで被り、顔を隠す王女。上手く勇者を排斥出来たら、ご褒美に火傷と腕を直してあげてもいいかな。見た限り、火傷さえなければ美少女だし。


 迷宮の入り口でカードを見せ、王女であることを受付に伝えた。受付の人は大急ぎで王城へと伝令を出して、王女を迎える準備をさせた。


 首都エスタルカは建物のほとんどが石造りで、所々にリーリアにもあったようなログハウス風の建物が点在している。もう夕方だというのに人通りは多い。王女を連れて俺たちは王城へと向かう。王城は街の中心に建っており、迷宮の入り口からは2kmほど離れている。


 アルタ、首都に勇者はいるか?


A:王城にいます。


 マジかよ。1人だけ逃げ帰っておきながら、王城にいるとか何事だよ……。


《どうやら、勇者は王城にいるみたいだな》

《逃げ帰ったことを報告しに行ったのかな?》


 ミオが推論を述べるが、その可能性はほぼ0だ。


名前:日下部修二くさかべしゅうじ

LV21

性別:男

年齢:17

種族:人間(異世界人)

スキル:<剣術LV2><話術LV1>

祝福:<加速アクセラレーション

称号:転移者、異界の勇者


《その可能性は低いな》

《?》

《コイツはそんなに殊勝な奴じゃあない》

《仁君、この勇者を知っているんですか?》

《ああ、同じクラスになったこともある》


 さくらは知らないようだが、俺は知っている。

 特に親しいというほどではないけど、多少は話をしたこともある。当時の印象ではあるが、信用できないタイプの人間だな。基本的に自分の言ったことに責任を持たない人間だった。コロコロ意見が変わるし、強い側にしか付こうとしない。見た目はそれなりにいいが、軽薄で軟派な奴だった。

 親しくないというか、親しくしたくないと言った方が正しい人間だった。そんな奴が異世界でチートを得たら、碌なことにはならないだろう。


《ご主人様の知っているこの勇者は、王女様の言ったようなことをしそうな人間なんですの?》

《ああ、名前を見て納得したくらいだよ》

《絶対に追い出します!》

《おいだせー!》


 さくらが握り拳を作って念話で宣言する。ドーラも過激である。



 しばらく歩き、王城へと到着する。王女は自分のダンジョンカードと、指輪を門番に見せた。恐らく王家を示す証か何かだろう。

 兵士2名が同行して王城を進む。俺たちの事は自分を助けた探索者として、丁重に扱うように指示する王女。


「すいません。いきなり謁見と言うわけにもいきませんので、少々お待ちいただけますか。その間にお兄様と騎士たちの遺体を安置してください」

「わかった。どこに行けばいい?」

「兵士の1人に案内させます」



 付き添いの兵士の1人が俺たちを案内する。案内された部屋で<無限収納インベントリ>から死体を出して並べる。


「本当に王子様が亡くなっていたのか……」


 兵士のつぶやきを聞きながら、全ての遺体を並べ終えた。焼けてボロボロになっている遺体も多いが、全く判別がつかない遺体はないのが救いだろうか。


「助かった。王女様の件も含め、謝礼が出るだろう。遺体安置場の近くで申し訳ないが、隣の部屋で休んでいてくれ」


 兵士に案内されるままに隣の部屋で休む。


「一応、俺たちが頼まれたのはここまでだけど、これからどうしたい?」


 主にさくらに向けて問う。


「私はできるなら会いたくはありません。でも、勇者がこの国を追い出されるところは見たいです」

「わかった。じゃあ、タモさんにでも見てきてもらうか。次に王女が来たときにこっそり後を追わせよう。そこで《契約の絆エンゲージリンク》を使ってタモさんの視覚と聴覚を共有する」

「ちょくちょくタモさんって便利よね」


 ミオも苦笑している。



 お、どうやら人が近づいてくるみたいだな。これは……、国王か?


-バン!-


 隣の部屋の扉が勢いよく開けられる。


「ジュリアス!?おお、どうしてこんなことに!?」


 マップを見ると王子の遺体に国王が縋りついている。国王はどうやらかなり先行していたようで、後から王女やら兵士が追い付いてきた。


「お父様!1人で先に行かないでください!」


 王女が国王をたしなめる。


「すまん……。しかしどうしても信じられなかったのだ。あのジュリアスがこんなに簡単に死んでしまうなど……」

「勇者が切りつけたからです。負傷さえしていなければボルケーノゴーレムが相手でもなんとかなったはずなのに……」

「そうだったのか……」

「はい……」

「葬儀の準備をする。それと勇者を呼べ。奴には聞かねばならぬことがある」

「お父様、勇者支援を撤回することも検討してください」

「うむ。パーティメンバーを傷つけ、囮にして逃げ出すような輩を勇者などと認めることはできぬ。そんな集団に支援をする価値などない!」


 国王が高々と宣言する。どうやらこの国は勇者支援を撤回してくれそうだ。さくらもにっこりである。



*************************************************************


あの人は今


ミドリ:仁の従魔、ドリアード

 新たなる秘薬『神薬 ソーマ』を生成する。

ミドリ《疲れた……》


神薬 ソーマ

部位欠損を治す。伝説上のアイテム。


カスタール冒険者組:8名の奴隷冒険者、Sランクを目指す

 クラン設立の準備中。クラン設立にはBランク依頼を一定数受けるなどの実績が必要。

クロード「Bランク依頼を受けています。後5回くらいかな」

ココ「最近ご主人様と会う機会が減っていて寂しい!」

ロロ「クラン設立したら、別に拠点を設けるんですよね。はあ……」


ルセア:仁の奴隷、第2の信者、元女王騎士

 カスタールから徐々に活動範囲を広げている。アルタ了承済み。仁は知らない。

ルセア「すべては主様のために!」

メイド一同「ご主人様のために!」


サクヤ:カスタール女王、のじゃロリ(余所行き)

 仁の屋敷で食事をとっている。料理人は泣いていい。

ニノ:奴隷メイド少女料理長、信者

 仁のため、おまけで他の人のために料理を修行中。

サクヤ「ニノちゃん!王城うちに来ない?給料弾むよ!」

ニノ「ごめんなさいです。はい。いくらさっちゃんの頼みでもそれは聞けません。はい」


ユリーカ:蘇生者、記憶消滅

 Cランク冒険者になる。依頼でコノエの町に到着。

ユリーカ「見たことあるような、ないような……」


ミラ:元人間の吸血鬼

 最近本編で話が出ているので省略。

ミラ「扱い酷くないですかぁ?」


恐竜の卵:幼女(確定)、変身有り(確定)、ティラノ(仮)

 ティラノを倒した直後にポップしたタマゴ。やっぱりティラノになりそう!

タマゴ「うまれるまでまだまだじかんがかかりそう」


ポテチ:ミオの従魔、ヘタレ犬

 カスタールの屋敷で犬小屋生活。雨が降ったら屋敷に入れてもらえる。

ポテチ「くーん……」


予防線を張っておきます。4月以降、3章終了後に投稿が安定しなくなる可能性があります。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
主人公鬼畜だなぁ。 なんでこんなに勇者自体を嫌ってるのか分からんなぁ。勇者=嫌いの構図が出来てしまってるが、勇者だって人によって性格は全く違うだろう。ひと括りにして嫌っても意味ないだろ?あんなに貴族…
 洒落が効いているね。謝礼だけに。……さて、モンスターハウスに入って死ぬか。 >念話で口に出してて笑ってしまった
[一言] 「・・・出来れば誘拐などはご遠慮いただけると幸いです」と簀巻きシンシアを見ながら言った。
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