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第44話 牛人戦と植物エリア

ちょっと長くなりました。

見直し時の書き直し、書き加えで大量の修正が入ると長くなってしまいます。

ミノタウロス

LV15

<斧術LV3><身体強化LV2><門番LV1><迷宮適応LV2>

「迷宮牛人の大斧」

備考:牛面の魔物。迷宮と言ったらコレ!


 ミノタウロス。元ネタはギリシャ神話だったと思う。迷宮に住まう顔は牛、体は人間の化け物である。ミノはミノス王から取られており、牛のミノ、胃袋とは関係がない。そもそも胃袋部分は人間だ。

 そんな背景があるものの、この迷宮のミノタウロスは随分と昨今のファンタジーに忠実だ。顔だけ牛と言うよりは、2足歩行する牛と言った方が正しい。足は完全に蹄だ。それなのに手は人間のように5本指で斧を持っている。レッサーの方は身長が2mくらいだったが、コイツは3mを優に超える。


 10層までの魔物は全てレベル10以下だったが、こいつはレベル15だ。その代わりボス部屋に1匹でいるから罠とか増援の心配をしなくていいということだろう。

 俺たちが全員中に入ると、扉は自動的に閉じた。念のため引いてみるが開かなくなっているようだ。ステータス全開にして無理やり開けたり、横の壁を壊して出入り自由にしたい衝動に駆られるが、製作者が可哀想なので止めておく。


 ボス部屋は高さ10m、広さが1辺50m位の正方形の部屋だった。まあ、ある程度広くないとボス戦なんてできないから当然といえば当然なのだが……。


《基本パターンはレッサー種と同じです!攻撃力が高いので、攻撃は防御ではなく回避を中心にしてください》

「「「はい(なのです)!」」」


 ケイトの指示で戦いが始まる。シンシアが真っ先に飛び出す。ケイトがその背中にファイアボールを撃ち込む。シンシアの走る速度とちょうど同じぐらいの速度で進むファイアボール。ミノタウロスからは良く見えない位置に隠れている。


「ブモゥ!」


 接近してきたシンシアに対し、ミノタウロスが斧を振るう。


《シンシアさん!跳んでください!》

「はいなのです!」


 言われた瞬間に地を蹴るシンシア。空を切り地面を打つ斧。隠れていたファイアボールがちょうど振り下ろしたミノタウロスの手に当たる。


「ブモッ!?」


 思わず斧から手を放すミノタウロス。


「喰らうのです!」


 のけ反ったミノタウロスの顔面にシンシアの振るうアイアンロッドが直撃する。


「ブモオオ!」


 完全に態勢を崩し、背中から地面に倒れこむミノタウロス。カレンが槍で追撃を加え、ソウラはミノタウロスの斧を離れた場所にポイした。

 それにしてもあのミノタウロス、たかが手にファイアボールが当たった程度で武器から手を放すなんて、武人としては三流以下だな。


《『アイスバレット』!》


 ケイトがアイスバレットを数発撃つ。それはミノタウロスへ当たらずに付近の床に直撃し、表面が氷で覆われる。ケイトの事だから、わざと外したのだろうな。

 ミノタウロスはタコ殴りにしてくるシンシア達を振り払い起き上がろうとする。丁度、ケイトがアイスバレットを撃った場所に手をついた。知らない人はいないと思うが、氷というのはよく滑る。ミノタウロスの手にはチェーンなど付いていないので当然滑る。なるほど、面白い。


「ブモンッ!?」


 そのまま再び倒れこむミノタウロス。当然のように追撃を加える3人。ちゃっかりアイスバレットの着弾個所を増やすケイト。以下、起き上がろうとしてはすっ転び、タコ殴りにされるミノタウロス。


「ブ、ブモウ……」


 ついにはHPが0になるミノタウロス。

 シンシアたちは攻撃を一切受けていない。まさしく完封と言っていいだろう。負けるとは思っていなかったが、ここまで圧倒できるとも思わなかったな。まあ、ケイトの功績がすさまじいのは明らかなんだが……。


「やったのです!勝ったのです!」

「楽勝だったね!カレンちゃん!」

「圧勝だったね!ソウラちゃん!」


 シンシアが勝鬨を上げる。双子も手を取り合って喜んでいる。ケイトだけは俺のほうに向かってきた。


《旦那様。ミノタウロスのドロップ品を<無限収納>に入れておきました》

「ああ、ご苦労様」

《はい》


 ケイトは勝利の余韻に浸ることもなく、ドロップ品を回収していたようだ。


 ドロップ品と言うのはボス魔物だけが落とすアイテムの事である。そもそも、迷宮のボス魔物はポップが固定されていることも含め、普通の魔物とはいくつか仕様が異なる。

 まず、ボス魔物は倒すとすぐに灰になって消える。そしてその場には何も残らない。当然、魔石も残らないので探索者的には実入りが安定しない。ボスが持っていた武器もその時に消えるし……。

 しかし、本当に得るモノがないかと言えばそうではなく、今回のように極々まれにドロップ品を落とす。確率は相当低いらしく、それを目的にボス周回をするのは割に合わない。報告されているのも、運のいい探索者が偶然手に入れた、と言うくらいだ。


 ちなみに今回のドロップ品は「迷宮牛人の大斧」である。……つまり、ミノタウロスの武器が消えずに残ったということだ。こういうこともあるらしい。

 まったく嬉しくはないな。俺たちの仲間に斧の使い手はいない。使い手のいない希少級レア程度のアイテムをどうしろというのか……。


A:<無限収納インベントリ>の肥やしにするか、売ればいいと思います。


《本日の探索はこれで終了でしょうか?》

「ああ、そうだな。階段を降り、次の層に入ったあたりに『ポータル』を設置して帰るとするか」


 『ポータル』を設置はするが、実際には相転移石を使って帰るつもりだ。あまり『ポータル』を使いすぎると、『あいつ等いつ帰ってきてるの?』とか言われかねないからな。


「おしまいなのです!今日の夕飯何なのです?」

《料理担当のニノさんがカレーだって言っていましたよ》

「やったのです!。カレー大好きなのです!」

「カレンだって!嬉しいね、カレーちゃん!」

「ソウラちゃん、逆……」


 夕飯はカレーか。カスタールにいるときにミオが試行錯誤して何とか形にしたんだよな。幼い子供が多いせいか、甘口がやたら人気である。

 あ、ニノはカスタールでルセアが買った古参メイド奴隷少女で料理担当。現料理長にしてミオの弟子だ。奴隷たちの胃袋の支配者でもある。ニノはよくカスタール王城に行って料理人の指導をしたり、もてなしの料理作りをサクヤから依頼されている。


 そのまま階段を降り、次の階層の入り口付近で帰還した。



「まさか迷宮に潜った初日にあそこまで戦えるとは思わなかったわね。ケイトちゃん、相当凄いわね」


 カスタールの屋敷に戻ったところでミオが言う。


《いえ、まだまだ足りません。あの程度で旦那様のお役に立てたとは思えませんから……。もっと、もっと勉強して賢く、修行して強くならないと……》

「どんだけ向上心が高いのよ……」

《全ては旦那様のお役に立つために!》


 握り拳を作ってケイトが宣言する。


「頑張るのはいいが、夜更かししすぎると健康に良くないぞ。折角きれいな肌しているのに台無しになるかもしれないな」

《では、おやすみなさい》

「変わり身早!?」


 寝る準備を始めたケイトにミオが突っ込みを入れる。


《旦那様が私の肌に価値を見出して下さったのなら、私はそれを全力で守るだけです。遅くまで起きて勉強をするのではなく、早く起きて勉強することにいたします。では、本日はこれで……》


 そういってケイトは本当に部屋に戻っていった。まだ夕飯前だというのに……。


「ケイトちゃん、本当に旦那様のことしか考えていないのです……」

「仲良くできるかな?カレンちゃん」

「多分いい子だよね?ソウラちゃん」


 今後パーティを組む予定のシンシアと双子が若干不安そうにする。いや、1番の不安要因のシンシアが言うなという話だが……。


「多分、仁君の一言で彼女の行動って大きく変わりますよね」

「ああ、ケイトの前じゃ迂闊なことは言えないな……」

「迂闊なことを言うと、それを達成するために何をしでかすかわかりませんものね……」


 セラが呆れたように言う。


「え?仁様のお望みを叶えるために無理をすることの、どこに問題があるのですか?」

「え?」×マリア以外のほぼ全員


 そうだったな。迂闊なことを言えない人間はここにもう1人いたんだ。



「そういえば、ダンジョンは次から森になるんですのよね?」


 夕食カレーを食べている最中にセラが質問してきた。


 11層から20層までは、今までのスタンダードな迷宮からがらりと変化し、植物の生い茂った環境となる。迷宮の壁は10層までと同じようにあるのだが、その壁にも植物が張り付いている。

 さらにはこの層から迷宮内に罠が設置されるようになる。10層まではせいぜいミミックがいるくらいだったが、ここからはモンスターハウスを含むいくつかの罠が追加されている。下へと向かっていく迷宮の仕様上、ショートカットにも使えてしまう落とし穴のような罠はないのだが……。


「ああ、植物エリアだな。今までとはだいぶ環境が変わるぞ。罠も出てくるしな……」


 余談ではあるが、この罠の存在こそが迷宮の攻略が進まない1番の理由だという話だ。基本的に下の階層に行くほど罠の凶悪度は増す。ある程度レベルの高い探索者なら、魔物に負けて殺される可能性はかなり減るだろう。しかし、罠を解除できなければ、どんなに強くても死ぬときは死ぬ。そして、死んだ人間は情報を持ち帰ることが出来ない。その上、迷宮自体がとてつもなく広く、罠の位置は固定ではないとなれば警戒して攻略が進みにくいのも当然といえるかもしれない。つまり何が言いたいかというとマップ最強。


「次の層からは全員マップの確認を優先しろ。アルタもいるし、おそらく大丈夫だとは思うが、絶対という保証はないからな」

「仁様のマップがあり、<迷宮適応>の持ち主が4人います。滅多なことでは罠になどかからないでしょうが、注意しておくに越したことはありませんからね」


 マリアも頷いている。<迷宮適応>を持つ者はダンジョン内の罠の位置がなんとなくわかる。一部の罠に至っては<迷宮適応>を持っていると動作しないらしい。正直反則である。あ、マップはもっと反則です。


「っと、それでセラ、何の話をしたかったんだ?」

「いえ、迷宮には食べられる植物はあるのか聞いてみたかったのですわ。珍しい果物とかあれば最高ですわね」

《ドーラもたべるー!》


 食事大好き組が元気になった。食事中に別の食べ物に関心を持つのか……。食事に比重を置きすぎじゃないか?まあ、セラにとっては死活問題だから仕方のない部分もあるのだが……。


「あったとしても、迷宮産の食べ物は食べたくないな……」


 迷宮の不思議生態系で生まれ育った植物とか、若干どころではなく不安がある。「産地:迷宮」と書かれた野菜がスーパーに置いてあっても絶対に買わないだろう。あ、料理できない俺が野菜を買いに行くことなんてないんだけどな。電子レンジって偉大だよね。


「え?わたくしは平気ですわよ?拾い食いまではしませんけど、普通に果物とか木の実でしたら食べると思いますわ。あ、<毒耐性>を上げといてくださいませんこと?」

《ドーラにもたいせいちょーだい》

「毒でも食う気かよ……」


 結局、2人の<毒耐性>スキルを上げることはしなかった。迷宮産の植物を食べることまでは禁止しないが、事前のステータス確認だけは徹底することを約束させた。

 <毒耐性>があれば毒のある食べ物を食べても平気だろうが、そんなゴリ押ししてまで食べるようなものではないだろう。と言うか、俺がそんなシーンを見たくない。



 次の日、11層から探索を再開した俺たちは植物エリアを進んで行く。魔物の種類はガラリと変わって、植物、昆虫、獣が多くなった。まあ、予想の範囲内だ。ここでも外にいる魔物の色違いが多い。この点は基本的な特徴なのだろう。

 それと魔物の最低レベルが10付近になった。勝手な推測だが1~10層はレベル1~10。11~20層はレベル11~20と言う風になっているのではないだろうか。当然魔物のレベルが上がった上で罠などが増えるので一気に難しくなる。ステータスに余裕があり、罠をマップで検索できる俺には、はっきり言って誤差でしかないが……。


 最初だから倒した魔物を記載するが、今後は面白いと思った魔物だけピックアップすることにする。迷宮の魔物とか全部紹介してたら日が暮れるよ。


バーストレモン

LV12

<自爆LV3><根性LV1><迷宮適応LV1>

備考:爆発するレモン。なぜ爆発するかは不明。果汁が目に入るとやばい。


マジカルマッシュー

LV15

<地属性魔法LV2><状態異常耐性LV2><胞子LV2><迷宮適応LV2>

備考:カサの色が常に変化しているキノコ。胞子がやばい。


パインマッシュー

LV11

<料理LV1><状態異常耐性LV2><胞子LV2><迷宮適応LV2>

備考:簡単に言えばマツタケ。形状は若干いやらしい。


ダンジョンマンティス

LV11

<身体強化LV2><飛行LV2><迷宮適応LV2>

備考:ダンジョンに生息する巨大カマキリ。ダンジョンで生まれた魔物には珍しく卵を産む。


ダンジョンアント

LV13

<酸攻撃LV1><噛みつきLV2><迷宮適応LV2>

備考:ダンジョンに生息する大型の蟻。巣がないのに生息している不思議。


トロピカルウルフ

LV13

<栽培LV1><迷宮適応LV1>

備考:体から植物が生えている謎生態のウルフ。スキル構成が光る。


 またマッシューがいるし……。マジカルの方は名前からしてヤバいな。絶対に胞子を吸い込んではいけない。パインの方は名前が示す通りマツタケだ。形状はほとんどそのまんまである。しかし、通常のマッシュー系統の魔物はなぜか食べられない。普通に腹をこわす。もしかして、スキルに<料理>があるのは、食べられると言うことなのだろうか……。


A:そうです。<料理>スキルを魔物が持っている場合、スキルにより強制的に『食用』として扱えるようになります。後、普通に料理も覚えます。


 思っていたよりも<料理>スキルの影響がやばかった。スキル1つで生物が食用に適した生態になるとか、ちょっと怖すぎるんだが……。とりあえず、ドーラ達テイムした魔物には<料理>スキルは与えないでおこう。仲間を食用に適した状態にするとか狂気以外の何物でもない。非常食のつもりだったら別だが……。

 どうでもいいことだが、キノコは植物じゃないので、植物系魔物って言うのはある意味間違いである。まあ、大した話じゃないしいいか……。


 パインマッシューを焼いて食べようとしたミオ、セラ、ドーラにチョップを与え、先へと進む。この時から、毒のある食べ物の他に、<料理>スキル持ちの魔物も食べてはいけないものリストに追加されることになった。

 余談ではあるが、セラとドーラは本気、ミオはネタで食べようとしていたようだ。ミオ、ホラー以外については結構チャレンジャーだよな。マヨとか……。



 11層以降になって変わったことがもう1つあった。それは下へ降りる階段間の距離である。10層までは5km毎に配置されていた階段が、11層からは10km毎に配置されるように変わっていた。単純計算でも1階層あたりにかかる時間が倍になるということだ。もちろん、先にも述べた通り魔物や罠の強化も相まって、急激に手強くなったように感じるだろう。

 事実、ミノタウロスを越え11層に足を踏み入れた探索者の半数は、ここから先の攻略を諦めるという。もっとも、10層まで攻略できれば収入としては不足しないので、そこで満足してしまうことが多いのも理由だろう。


 しかし、11層は10層までに比べ、格段に稼ぎが良い。それはここが植物エリアだからに他ならない。ポーションの材料となる薬草や魔力草、そのほか価値のある植物があちこちに生えており、集める素材には事欠かないからだ。

 どうでもいい話だが、迷宮産の野菜は食べたくないのに、迷宮産の薬草だとむしろ効果が高そうに感じるのはなぜだろう……。


 話がそれたが、先ほど述べた11層以降の攻略を諦めた冒険者たちも、稼ぎのいい11層で活動するのが多いというのも納得の理由である。

 簡単に言えば、11層と言うのは1番人の多い階層と言うことだ。そして、人が多ければ当然かち合うことも増えるわけで……。


「仁様、進行方向に戦闘中の探索者がいます」


 マリアの言う通り、このまま進むと魔物と戦闘中の探索者に遭遇することになる。

 その探索者たちはモンスターハウスを引き当ててしまったようで、大量のマッシュー系の魔物と交戦中だった。


「どうやらモンスターハウスを引き当てた探索者がいるみたいだな。避けようとすると結構遠回りになるから、援護がいるかを確認し、必要と言われたら俺たちで殲滅しよう。不要と言われたらスルーだ」


 迷宮内では探索者同士は基本不干渉というのが暗黙の了解である。戦闘中に横から魔物に攻撃するのも当然NGだ。交戦中ということが明らかなら、あまり近づかないのが正解なんだが、マップで見た限りずいぶんと苦戦している。了承があれば援護をするのは禁止されていないので、早く先に進むためにも可能ならばさっさと殲滅しようと思う。


《モンスターハウスは乱戦になりやすいので、他の探索者の位置は正確に把握してください》


 忘れている人も多いかもしれないが、<契約の絆エンゲージリンク>の加護を受けている者同士では味方への攻撃フレンドリーファイアが無効になっている。具体的な理屈は分からないが、剣が当たっているのに傷つかないし、魔法は直撃しても問題ない。あ、熱は感じるぞ。ダメージにならないというだけなので……。当然、味方に当てる前提の戦い方は禁止している。


A:異能は物理法則より優先度が高いルールだと考えてください。具体的には、異能>>祝福ギフト=呪印カース>スキル>物理法則となります。なので理屈は考えるだけ無駄です。


 結構酷い言いようである。


 この場に配下しかいないのであれば、最悪<火魔法>の範囲攻撃で味方を気にせずに焼きマッシューに出来るのだが、他の探索者がいるとそういうわけにもいかない。普通に焼き探索者になっちゃうからね。



 そのまま駆け足で迷宮を進み、探索者たちを視界にとらえる。探索者の後ろから、20匹ほどのマッシューが追いかけてきている。


「た、助けてくれー!」

「ひいー!」


 同じく俺たちを発見した探索者たちが助けを求めてくる。探索者は全部で5人、その内1人はすでに灰色マーカーだ。つまり死んでいる。

 レベルは全員10台中頃で、この階層で戦うには妥当な範疇だ。逆に言えばマージンがあまりないから、突発的なトラブルに対処しきれないということだろう。

 こちらに逃げてくる探索者たち。こちらに救援の意図がなければ魔物のなすりつけと言う立派な犯罪行為だ。もちろん、立証とか難しいけど。


「援護はいるか?」

「頼む!魔石も素材も全部あんたらのモノでいいから!」


 俺の問いかけにすぐさま答える探索者。素材の取り分については揉めることもあるからな。本当に助けが必要な時は全部渡してしまうのが定石、というか推奨されているらしい。

 聞いた話ではあるのだが、1度援護時の素材の取り分で揉めた探索者は、それ以降援護をする気がなくなってしまうことも多いとのことだ。確かに気持ちはわかるな。善意を仇で返されて、それ以降同じことを続けたいとは思わないだろう。


「よし、じゃあすぐに殲滅だ!」

「行くのです!」


 俺の掛け声に1番最初に反応し、魔物に突っ込んでいったのは、我らが鉄砲玉のシンシアである。ブレないなー、あいつ。


 シンシアがつぶれマッシューを量産している間に、追いついた他のメンバーもマッシューを倒していく。やはり<火魔法>は嫌いなのか、軽く『ファイアボール』を放つと一目散に逃げだしていく。もちろん、逃がすわけがない。逃げ出したマッシューにはミオが矢を命中させる。矢が命中した瞬間、マッシューの体が火に包まれた。

 これは最近、カスタールの拠点でノットに作らせた、属性を持った矢の効果だ。元々ユリーカが持っていた<魔道具作成>のスキルは<鍛冶>のスキルと相性が良く、作った武器に効果を付けるのに役立つことがわかった。ゲーム的に言うとアビリティ付与と言ったところだ。


「うはー、凄い威力ね。事実上の消耗品だから無駄遣いはできないけど……」


 ミオも満足のいく出来だったようだ。ミオも俺と一緒であまり戦闘に参加しておらず、使う機会もなかったのだろう。ここぞとばかりに使っている。運が良ければ後で回収して再利用できるけど、基本的には使い捨てだからあまり使い過ぎないように言っている。


 それから時間もかからずにマッシューの群れを殲滅した。殲滅してから気付いたのだが、20匹程度では1人2匹倒したらすぐに全滅できてしまう。しまった、戦闘メンバーを限定するべきだったか……。一応言っておくと、探索者パーティ10名は普通だ。地上では1パーティは6名ぐらいと言われているが、迷宮はより多くの役割が必要になるため、ある程度の人数で進むことが推奨されている。


「すまねえ、擦り付け同然だったのに回復まで……」

「いえ、仁様の指示ですから」


 探索者たちはボロボロだったので、マリアに指示して回復魔法をかけてやった。手持ちのポーションも尽きかけていたようで大変感謝された。なんでわざわざ回復までしてやったかと言うと、一言でいえば下心だ。今、コイツ等は俺に大きな借りがあるわけだ。

 そして俺が貸しのある奴に要求することはたった1つである。……と言うわけでありがたく持っていないスキルを1ポイント貰うことにした。


<獣調教>


 このスキルは<魔物調教>の別バージョンみたいな名前であるが、実際には結構違う。テイムのような契約関係を作るスキルではなく、普通の獣を躾けたり、芸を仕込ませたりするようなスキルである。折角だからシンシアにでも使ってみようと思う。


 助けた探索者たちはこのまま相転移石で帰還するようだ。装備も含めてボロボロだから、当然と言えば当然だろう。

 死んだ探索者は残念ながら放置していくとのことだ。死体の場所からそれなりに離れてしまい、すぐにでも帰りたい彼らに拾いに行く余裕はないようだった。迷宮用のアイテムボックスにも死体は入れられないが、相転移石を使うときに担げば持ち帰ることはできる。あ、これは死体限定であり、生き物を背負っても連れて帰ることは出来ないからな。相転移石代を浮かせようとかセコイことは出来ないから……。


 その後、香ばしい匂いのするマッシュー達から魔石と素材を回収する。セラとドーラが焼きマッシューを食べたそうにしているのを黙殺して先へと進んだ。ちなみにミオは天丼をしない主義らしく、すでに興味を失っているようだった。


 他にはこれと言ったこともなく、その日の内に14層まで攻略できた。順調順調。



 その日の夕食時、再びミラからの念話があった。


《何故かぁ、迷宮入り口があった方の村の村長代理になることになりましたぁ……》

《すまん。前後関係が全く分からない》


 ミラはあくまでも『吸血鬼に滅ぼされた村』の代表だったはずなのに、いつの間にか2つの村の代表になっていたらしい。意味が分からない。


《首都からの調査団の他にぃ、周辺の村からの移住者なり、協力者なりを募っていたらしいんですよぉ》

《まあ、おかしな話ではないよな。ああ、それでその村の代表者を決めることになったとき、ミラに白羽の矢が立ったのか?》

《平たく言えばそうですねぇ。マスターには言っていなかったと思うんですけどぉ、私一応吸血鬼に滅ぼされた村の村長の娘でぇ、村の運営とかを手伝っていましたから心得はありますよぉ》

《……そんな人間が廃村の復興に関わったら、村長にされるのも自然な流れじゃね?》


 実際には代理ではあるが、他に適任者などそうそういないだろう。


《まぁ、他にも別の村の村長の次男とかぁ、立候補者はいたんですけどぉ、とどめとなる出来事がありましてぇ》

《……なんかあったのか?》

《はいぃ、先走った立候補者の方が部下を連れて、例の屋敷に勝手に入ったんですよぉ。功績を求めていたんでしょうねぇ。で、運悪くボロボロになっていた屋敷の一部が倒壊してぇ、大勢の怪我人が出たんですよぉ》

《そりゃまた運が悪いな……》

《結局私が救助してぇ、回復魔法をかけることにしましたぁ。こんなことで死なれたらぁ、新しい村の幸先が悪すぎますからぁ》


 まあ、疫病で滅んだ村の復興って段階で縁起は悪いんだけどな。


《それでぇ、騎士団よりも先に救助を終わらせた頃にはぁ、満場一致で村長代理になっていましたぁ》

《満場一致ってことは、例の他の立候補者もなのか?》

《……むしろぉ、その方が1番に押してきましたぁ》


 惚れたな。


《挙句の果てに『女神』などと呼んでくる始末ですよぉ》

《盛大な皮肉だな》


 よりにもよって俺の配下を『女神』呼ばわりかよ。と言うか、女神の実在が確認されている世界でその呼び方はどうなん?


《えぇ、それだけは止めるようにお願いしてぇ、何とか『ミラ様』まで落ち着かせましたぁ。その後も色々ありましてぇ、意外とすんなり村長代理になりましたぁ。ここまで来たらぁやれるとこまでやりたいですねぇ……》

《わかった。必要なことがあれば協力するから言ってくれ》

《はぁい、ありがとうございますぅ》


 そこでミラとの念話を切った。

 とりあえずアルタは可能な限り面倒見てやってくれ。


A:わかりました。


「ミラちゃん村長するの?内政?内政なら任せて!」

「そういえば、ミオちゃん前世で色々読んでいたって言っていましたよね」


 ミオがぐいぐいと前に出てくる。さくらの言う通り、いろんな知識があるってアピールしていたよな。


「うん、出来る立場になかったから諦めていたけど、内政チートだったらワンチャンあったわよ!」

「マヨ……」

「せ、生産チートは別よ!」


 顔を真っ赤にして言い返すミオ。可愛い。


「とは言え、俺があの村に行くわけじゃないからな。ミオだけ行くか?」


 どうしても内政チートがしたいなら行かせてあげてもいいけど……。その場合、料理はどうしようかな。

 奴隷メイド少女のニノをはじめ、配下の中にも料理特化した連中が増えてきたが、今現在の1番はミオである。余談ではあるが、ニノは料理スキルを1ポイント与えてから、自力でレベル2となる10ポイントまで上げた天才である。ミオが離脱するとなった場合の料理担当有力候補である。

 俺がそんなことを考えているとミオは首を横に振った。


「え、うーん。じゃあいいや。ご主人様と一緒に行く。ご主人様と別行動してる間にチートしたってなにも面白くないし……」


 あっさりと引き下がる。どうやら内政チートで成果を出すところを俺に見せたかっただけらしい。別行動してまでやりたいことではないようだ。


「わかった。まあ、ミラに直接アドバイスするくらいならいいんじゃないか?」

「あ、それがいいわね。後でいくつか紙にまとめて、<無限収納インベントリ>経由で渡しておきましょ」


 その後、元々ある程度の知識があった上に、ミオのアドバイスまで得たミラは、村長業務を期待以上にこなし、さらに多くの『人間』から慕われるというのは別のお話である。



 次の日も無事に4層分の攻略を行い18層まで到達した。本日の面白い魔物を数匹挙げておこう。


ウッドゴーレム

LV16

<硬化LV3><栽培LV1><迷宮適応LV2>

備考:木でできた―ゴーレム。丸太が組み合わさったほぼログハウス。倒すとバラバラになる。


マッドスライム

LV19

<水属性耐性LV1><土属性耐性LV1><吸収LV3><分裂LV3><迷宮適応LV2>

備考:土色の粘液状の魔物。と言うか泥水。


大兜

LV15

<身体強化LV3><飛行LV1><闘気LV1><迷宮適応LV2>

備考:本当にデカいカブトムシ。



 まずウッドゴーレム。コイツは丸太でできたゴーレムだった。倒すとバラける。つまり数多くの丸太が襲い掛かってくるのだ。突っ込んでいたシンシアが丸太に潰されて、戦闘時よりも多くのダメージを食らっていた。完全に気絶していたので『サモン』で引っ張り出してあげた。まだまだ詰めが甘いな。ケイトが忠告していたのに失敗するんだから……。


 次にマッドスライム。泥水の塊のようなスライムで水と土に耐性を持っている。泥水を吸収することで体積が大きくなるらしく、俺たちが戦った奴は10mくらいはあったと思う。火の魔法を食らわせると、蒸発してどんどん小さくなっていったのが面白かった。


 最後に大兜。これは2mくらいのカブトムシだった。凄まじいパワーだったのだが、セラを押し切れなかった。単純なパワーだけならセラが最強かもしれない。何が面白いかと言うと、スキル<闘気>だ。ご存知セルディクの必殺技だ。つまり、セルディクはカブトムシであることが明らかとなったわけだ(暴論)。急に青く光りだした時は何事かと思った。ついでなので少々乱獲して、<闘気>のスキルポイントを確保することにした。



 まだ若干時間に余裕があるから、次の階層を覗くだけ覗いておこうと階段を下った。19階層のマップと隣接するマップを確認したら、隣接マップで異常事態が起きていた。

 探索者たちが多数の魔物に蹂躙されているのだ。


ボルケーノゴーレム

LV28

<火属性付与LV3><火属性耐性LV3><硬化LV3><迷宮適応LV2>

備考:溶岩のような体を持つゴーレム。直接触れるのは危険。


 明らかに20層以降に出現する魔物だ。話によると21層~30層は火山エリアらしいからな。……と言うか、最初の村で出てきた魔物も20層台の魔物が中心だよな。何か関係があるのだろうか……。


*************************************************************


ステータス


進堂仁

LV71

スキル:

<奴隷術LV7 up><魔物調教LV7 up><獣調教LV1 new>

装備:霊刀・未完


木ノ下さくら

LV54

スキル:<火魔法LV8 up><水魔法LV8 up><風魔法LV8 up><土魔法LV8 up><雷魔法LV8 up><氷魔法LV8 up><闇魔法LV8 up><回復魔法LV8 up>

装備:星杖・スターダスト


ドーラ

LV50

スキル:<盾術LV7 up>

装備:ミスリルスタッフ、ミスリルの円盾


ミオ

LV45

スキル:<剣術LV5 up>

装備:ミスリルの弓


マリア

LV60

スキル:<魔法剣LV3 up><神聖剣LV3 up>

装備:宝剣・常闇


セラ

LV40

スキル:<盾術LV6 up>

装備:守護者の大剣、守護者の大楯


前回短編で出てきたニノについて少し触れています。今のところ本編で喋ることも今後の短編に出る予定もありません。

36話でちょろっと話に出てきた、料理中に跪いて祈りをささげた子です。その時に料理を焦がしたのが唯一の失敗だったりします。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
倒す魔物のスキルを先に奪ってしまうと弱体化して経験値が美味しくない。とのことだけど、 得物、ミノタウロスなら斧しか持ってないだろうから、得意スキル(この場合斧術LV3)を奪って屑スキル(栽培LV3とか…
火属性付与ってもう持ってるよな? それで事足りるんじゃないの?
[気になる点] マジカルマシューが〈地属性魔法〉持っているけれど〈土属性耐性〉ではないでしょうか
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