第43.5話 フードファイト!セラ(上)
セラの短編です。セラの短編です。ええ、セラの短編です。
明日か明後日に後編を上げます。
思い付きでここ数日中に書いたギャグ回ですので、後で何かしらの修正を入れるかもしれません。
カスタール女王国とエルディア王国の国境にあるリラルカの街。
この日は年に1度のお祭り、その名も「フードファイト選手権」の開催日である。数千人の観客、数100人の参加者がひしめき合う会場は国境の町をかつてなく賑わせている。
「さあ、今年も始まりました!年に1度のフードファイト選手権!この日のために過酷な訓練をしてきた猛者たちが、試合の開始を今か今かと待ちわびております!」
マイク(カスタール女王国貸し出しの魔法の道具)を持った司会が、参加者の声を代弁するかのように実況を開始する。
「カスタールが勇者支援をしないということで、国同士は若干ピリピリしてますけど、フードファイトにはそんなのは関係ありません!今年も張り切っていきましょう!」
「自分から言いにくいこと踏み抜いていくんですか。はい」
現在、エルディアの行った勇者召喚に対し、カスタールが支援をしないことを表明している。カスタールは過去に勇者と深い縁があり、当然支援してもらえると思っていたエルディアは、苦情とともに撤回を求めている最中である。
「司会は私、実況ギルド所属のマイク・アンプリファイアーがお届けさせていただきます!」
「えーと、カスタール側の料理実況、ニノです。はい。よろしくお願いします。はい」
「エルディア側料理実況、ドルトンだ」
司会席にはマイク(人名)の他に、40代ほどの男性と10代前半の少女が座っている。
「はい!料理実況の方々もよろしくお願いします!さて、いよいよルール説明に移らせていただきたいと思います!知っている方も多いとは思いますが、外すわけにもいきませんし、若干の変更もあるのでお付き合いください!」
マイクがそう言うと、巨大なパネルが会場のあちこちに設置された。
「まず!知っての通り大会は食戦と武戦を交互に行い、最後まで残ったものが優勝になります!食戦はいわゆる大食い大会、武戦はいわゆる武闘大会となります!大食いだけでも!強さだけでも勝ち残れない!過酷な戦いとなるわけです!」
誰が何を思って始めたのかは知らないが、既に20年以上の歴史を誇る競技で各地にファンも多い。世界大会も開催を予定され、各国で日程の調整を行っている最中である。魔族はどうした。
「まずは全体の流れから説明します!最初に来るのは大食い大会です!これによりまずは40名まで参加者が減ることになります!年々参加者が増えますからね。記念参加の方々はここまでとなります!」
フードファイト選手権には参加費1万ゴールドが必要になる。大会の参加費としては結構な金額だが、会場の運営や料理の費用などを考えるとある意味当然である。
記念参加者(参加するだけで男気の証明となる)達の参加費により、黒字は確保できているので、次回開催の不安がないというのは大きい。
「次に残った40名の方々で武闘大会を行います!これにより参加者は半分の20名となります!」
人間、食った直後に激しい運動をするというのは中々に辛い。そういう意味で『過酷な戦い』なのである。
「全試合終了後、10分のインターバルを置いて残った20名で大食い大会になります。10名まで減った後に武闘大会で5名に、5名で大食い大会を行い2名になったところで武闘大会の決勝となります!」
大食い大会(多数→40名)→武闘大会(40→20名)→大食い大会(20→10名)→武闘大会(10→5名)→大食い大会(5→2名)→武闘大会(2→1名)となる。
かなり過酷である。
「細かいルールの説明をします!まずは食戦!1試合30分で1つの料理を食べ続けていただき、完食した皿の枚数を競います!当然、上位から武戦への参加資格を得ることになります!同率の場合、最後の一皿の重量の少ない方の勝ちとなります!」
「料理人として言わせてもらえば、出来れば味わって食べてほしいです!はい!」
「そういう戦いだ。諦めろ」
「わかってはいるんですけどね。はい……」
料理実況のニノは、大食いのための料理というモノに若干の後ろめたさを持っているようだ。ドルトンの方はその辺りの整理はついているようだった。
「その他のルールとしましては、皿は一皿ずつ運ばれるということと、『変身禁止』、『魔法使用禁止』となります」
「変身って何ですか?はい」
「獣人には<獣化>と呼ばれる秘術がある。それを試合中に用いることで胃のサイズや消化の速度が変化、食べられる量を増やすという方法をとった者がいるのだ。その大会では認められたが、それ以降は禁止となった」
「ドルトンさん、わかりやすい説明ありがとうございます!はい!」
<獣化>が直接の原因ではあるが、他にも同様の手口を使われないために、まとめて『変身禁止』としている。
「次に武戦の説明です!勝負は一対一!武器無しの戦いです!こちらも魔法、変身は禁止となります!試合時間は食戦と同じく30分、勝敗は場外、気絶、降参、嘔吐によって決まります!相手を殺した場合は普通にお縄になります!時間切れの際は直前の食戦の順位で決まります!」
「嘔吐が敗北条件なのですか?はい」
「当然だ。食べ物を粗末にするような奴に、勝利を与えるわけにはいかない」
「それもそうですね。はい」
あえて誰も説明していないが、吐いても吐き出さなければセーフである。そのままごっくんすれば問題はない。人として問題があるかどうかはこの際考慮しない。
「そしてこれがフードファイトの真骨頂!食戦において、トップだった参加者との皿の差1枚につき1kgの重りをつけて武戦へと参加することになります!食戦でギリギリ突破した人はかなり不利になります!あ、武戦の組み合わせは完全ランダムですので悪しからず」
例えばトップが100皿食べ、予選ギリギリ通過が50皿だったとすると、ギリギリ通過の方は50kgの重りをつけて戦わなければいけなくなる。当然食べた方は食べた方でお腹が重くなるので、その塩梅が難しい戦いとなるのだ。対戦相手がどれだけ食べた人間かわからないのも各自の判断力や戦術、運を要求してくる点である。
「さあ、これでルール説明は終了!早速最初の食戦が開始されようとしています!参加者たちも空腹の限界が近そうです!」
「まあ、昼食は抜いてきていますよね。はい」
「当然だろう。さすがに飯を食ってこれに参加するような奴は今まで1人もいなかったぞ」
現在、昼の1時を過ぎたところである。
「それでは第1回戦の料理は!これです!じゃじゃん!」
自分でじゃじゃんを言う司会者。司会者の鑑である。
「シムーランベーカリーの焼きそばパンです!」
―ザワザワ―
参加者たちが騒めく。
「まさか、1回戦から主食+主食のデスコンボが来るとはな……」
「ふ、この程度、俺の鍛え上げた胃袋にとっては大した相手ではない」
「腹に溜まるのは問題ではない。問題なのは喉が渇くことだ。給水タイミングが勝負を分けるな」
「1回戦から水で腹を満たそうっていうのか?へっ、狂ってやがるぜ。嫌いじゃないがな」
いい感じにジャンキーな連中が多そうな催しである。
発表と同時に、各参加者に焼きそばパンの乗った皿が配られていく。
「エルディア王都に本店を構えるシムーランベーカリーの売れ筋第1位、焼きそばパン!最近勇者から伝えられた調理法を使い、瞬く間に頂点に躍り出た一品です!働き盛りの若者に大人気となっています。これが1皿に1つ乗っています!」
「流行っているんですか?はい」
「うむ、しかしあればかり食べ続けると体調を崩すというのが調査で分かっているのだが……」
「はい、料理実況の方!盛り下がること言わないでください!」
「すまん」
「ごめんなさいです。はい」
素直に謝る料理実況の2人。
「それでは第1回戦、食戦!開始!」
司会者の開始の合図とともに参加者たちは一斉に焼きそばパンにかぶりつく。
「さて、食戦も残すところ後5分になりました!現在の第1位は前回大会の優勝者でもあるカスタールのSランク冒険者!ガリオン選手!」
「すごい勢いで食べているな。もう70皿を超えているぞ……」
現在1位のガリオンは、焼きそばパンを30秒に1つ以上のペースで食べ続けている。
「私は多分2皿でお腹いっぱいです。はい……」
10代前半の少女に大量に焼きそばパンを食べろというのは酷だろう。
「そしてそれを追いかけるのは、今回初参加!数少ない女性参加者のサラ選手です!こちらは今70皿目を完食いたしました!」
別のテーブルでは、20歳くらいの金髪の女性が、ガリオンに迫る勢いで焼きそばパンを食べている。
恐らく、単純な食べる速さではガリオンと大差はないのだが、サラと呼ばれた女性の方が丁寧、上品に焼きそばパンを食べているため、若干の差が生じたということだろう。その証拠に、ガリオンのテーブルは飛び散った焼きそばがあるが(1皿につき一定重量まではこぼしても良い)、サラの方はきれいな状態を保ったままである。
「凄いですね。セ、こほん、サラ選手。同じ女性であそこまで食べられるなんて驚きです。はい」
「女性参加者も0ではないのだが、最初の武闘大会で大抵全滅するからな」
実は大食いに関していえば、得意とする女性も決して少なくはない。しかし、大食いかつ肉弾戦にも自信のある女性となると、その数は激減する。そのため、数少ない女性参加者は武戦までたどり着けないか、武戦で降参するものがほとんどなのである。
「あの姉ちゃんもヤベえな。ここまで一滴も水を飲んでねえ。狂ってやがるぜ。嫌いじゃないがな」
「馬鹿な!この俺の胃袋ですら10皿食べる間に10杯はお代わりしたというのに!」
「喉が渇くのに胃袋は関係ない。お前、馬鹿だろ。後、飲みすぎだ」
ジャンキーな参加者たちの言うように、サラの方は飲み物を一切飲んでいない。
パンのように乾燥した食べ物を、水分無しで大量に食べるのは自殺行為なのでやめましょう。
「食戦しゅーりょー!」
30分が経過し試合が終了した。半分以上の参加者はすでに降参しており、見学の方に回っている。試合終了してから全員を移動させると時間がかかりすぎるので、事前の移動が推奨されている。
「大方の予想通り、ガリオン選手が81皿でトップだー!」
―おおー!―
観客席からも称賛の声が上がる。
「2位は惜しくも79皿!サラ選手―!」
―パチパチパチ―
女性で食戦2位と言うのは、普通に快挙である。そして、サラは華奢(胸以外)のため、恐らくは武戦は棄権だろう。1位をとれなかったのは残念だが、十分な結果であることは言うまでもないため、会場中から惜しみない拍手が送られた。
サラはなぜ拍手をされているのかわからない様子である。
「さあ、続きまして武戦に移ります。残った40名の選手はくじを引いて出た番号の舞台に進んでください!」
食戦から場所を変え、選手たちは20の舞台が並ぶ会場へと移動した。
(リング)は10m四方で、地面から50cm程高い場所にある石畳である。そこから落ちると失格となる。
舞台はあまり大きくはないが、武器無しの肉弾戦のため大抵は問題にならない。
トップとの差の分だけ付ける重りは1kg、5kg、10kgの輪を、手首か足首につけることになる。配分、配置は個人の自由である。全て腕につけて、一撃の威力を上げるという戦術もあるので、意外と馬鹿にできない。食べ方、戦い方の全てが勝利へとつながるのがこのフードファイトの面白いところなのである。
「さて、それぞれ舞台に上がってください!降参の場合はこの段階で表明してくださると後が楽なのでよろしくお願いします!」
その時点で数名の参加者は降参を申し出ている。
「ちっ、まーた俺の対戦相手は棄権かよ。軽く動いとかないと次の食戦に響くな」
降参を宣言したのは、女性の参加者、もしくは相手が悪すぎると判断した参加者である。具体的にはSランク冒険者ガリオンの対戦相手である。対戦相手棄権によりガリオンは試合がなくなったので、軽く動いて消化を促進しておくつもりのようだ。
「これはどうしたことだー!サラ選手、なんと棄権していません!リングに上がっています。これは相手のパイモンド選手も驚きを隠せない。そして視線が胸から外れない!」
サラの胸部は結構な破壊力である。対戦相手の視線はサラの胸に固定され続けている。
「最低ですね。はい」
「最低だな」
「料理実況の辛辣な一言!しかしパイモンド選手は構わずに胸を凝視しているー!」
パイモンドの見た目は有体に言って不細工だった。少なくとも女性の友達はいなそうだった。今、彼の目には何が映っているのだろうか。
女性の観客はサラの身の安全が心配だった。
「さて、若干の不安はありますが時間となりました。では第2回戦、武戦!開始!」
司会の合図により一斉に試合が開始される。
ほとんどの観客の視線はサラの試合に釘付けである。男性は楽しみ半分、嫌悪半分。女性は嫌悪100%である。
「おーっと!パイモンド選手!サラ選手につかみかかろうと猛ダッシュ!その手の位置は!どう見ても胸を揉むつもり満々だー!」
「屑ですね。はい」
「屑だな」
辛辣なセリフにめげることなく、会場の4分の1を味方につけ、4分の3を敵に回したパイモンドは猛然とサラに襲い掛かる。
女性たちが惨劇を予想し、目を背けようとした瞬間。
―カラン―
「え?あれ?サラ選手が動いたと思ったら、パイモンド選手の重りが落ちた?」
実況が実況をできていないが、サラが動いたと思った瞬間、サラの姿は試合開始地点から5mほど移動しており、パイモンドの背後にいた。
そして、パイモンドの腕につけていた重りが砕かれ、地面へと落下していた。
腕輪は金属製で、つけた後にサイズを調整するタイプのものだ。簡単には外れないし、壊れない。それが、まるで握りつぶしたかのようにひん曲がった状態で地面に転がっている。
「えーと、大会の規定では、重りをつけて戦うのがルールで定められているため、重りが破損した段階で、パイモンド選手の敗北となります。よってサラ選手の勝利です!」
―お、おおー!?―
観客も何が起こったのかいまいち理解していない。しっかりと認識できていたのは、パイモンドが限度を超えた場合にすぐに乱入できるように近くでストレッチをしていたガリオンだけである。
(この俺が目で追うのがやっとだと……。クソッ、王城で魔族を倒した奴の他に、まだそんな化け物がカスタールにいるっていうのかよ)
その後、パイモンドは逃げるようにリラルカの町を出て行った。女性からの100%純粋な軽蔑の目は流石に辛かったようである。
タイトル以外にセラって単語出てないんですよね。
あ、突っ込みが色々あるのは覚悟の上です。
下手するとifレベルではっちゃけているので。
後、作者はごっくんしたことがあります。