第41話 メイド探索者と戦闘狂
え?聖バレンティヌス氏がどうかした?普通に投稿するよ。
甘ったるいSSを書いたりはしないよ!
マリア(猫)にチョコは厳禁だよ。
「と言うわけで、3人へのメイド教育が終わりましたのでご報告いたします」
メイド服を着たルセアが言う。横にはメイド服を着たシンシアと双子が立っている。
「ってなんでルセアもメイド服を着ているんだ?」
「はい。私は今ここでメイド長をしておりますから」
「初耳なんだが……」
「子供が多いですから、年齢の高い私が務めさせていただくことになりました。仁様にはそのような些事、ご報告するまでもないと思いましたので……」
「いや、ルセアには冒険者組の教育もあるだろう?」
仕事が多くて回らないんじゃないのか?そんな意味を込めて聞いてみると……。
「冒険者組もかなり実力をつけていますので、引率も回数を減らしています。メイド側も初期のメンバーはすでに1人前となっておりますので、私の役割は代表である以上の事はありません」
「まあ、それならいいけど……。で、メイド修行が終わったってことは迷宮に連れて行っても問題ないな?」
「はい。最低限の戦闘訓練もしようとはしたのですが、そちらはあまり進んでおりませんね。あくまでもメイドとしての修業が中心です」
「まあ、3日でできることなんて限られてるしな……」
「それでも主様に恥をかかせない程度の教養は身につけたと思います」
ルセアがそう言うと3人は一歩前に出てきてスカートの裾を広げるようにつまみながらお辞儀をした。うん、何ともらしい挨拶の仕方だな。
「旦那様。改めて自己紹介をさせていただくのです。私はシンシアなのです」
「同じくソウラと申します」
「同じくカレンと申します」
「「「よろしくお願いします」」」
「ああ、よろしく」
そういうと3人はまた一歩下がる。ルセアがさらに話を進める。
「ソウラは剣術、カレンは槍術、シンシアは棒術の基礎を教えています。実戦でもそのままの方がよろしいかと思います」
「双子はともかく、シンシアはなんで棒術?」
勇者が棒術って少し違和感があるな。いや、悪いとは言わんけど……。
シンシアが一歩前に出てくる。……何?発言時には一歩前に出るの?
「棒術ならば武器の質による影響が低そうだからなのです。刃こぼれとか整備に時間を使うぐらいなら、その時間で魔物を倒したいのです」
発想が物騒である。と言うか、戦闘狂の理屈である。
「じゃあ、素手の格闘術でもよかったんじゃないか?」
「それは最終目標なのです。いつかは素手だけで大量の魔物を狩れるようになりたいのです」
発想が戦闘狂の理屈である。
そうだ、そろそろシンシアのステータスを見てみよう。<封印>を除去してから、意図的に覗かないようにしていたんだよな。
シンシア
LV1
性別:女
年齢:11
種族:人間
スキル:
武術系
<剣術LV4><棒術LV1><格闘術LV1>
魔法系
<火魔法LV1><水魔法LV1><光魔法LV4><回復魔法LV1>
技能系
<魔物調教LV3><家事LV2><裁縫LV1><鑑定LV3><侍女LV2><歌唱LV2><舞踊LV2>
身体系
<身体強化LV3><HP自動回復LV3><MP自動回復LV3><気配察知LV1><覇気LV4><索敵LV1><心眼LV3>
その他
<勇者LV4><激情LV2><迷宮適応LV1>
称号:仁の奴隷、人間の勇者
予定通り大量のスキルを習得しているな。基本的にはマリアと同様だな。他のスキル習得が速いという特性も同じようだ。しかし、マリア程色々なことに挑戦したわけではないようで数はあまり多くなかった。
特筆すべきは<激情>スキルだろう。これはマリアも持っていないし、レアの部類に入ると思う。
<激情>
感情の高ぶりによりステータスが上昇。高ぶり方や感情によって上昇値が変わる。例、『怒り』の場合、攻撃力上昇大。
後、ちゃかり<歌唱LV2>、<舞踊LV2>の辺りから以前の趣味が窺える。
ソウラとカレンには残念ながら特筆すべき成長点が見られなかった。まあ、勇者称号持ちと比べるのは可哀想だろう。一応、<侍女>スキルは1ポイント分上昇していた。うん、十分十分。
「で、武器はどうするんだ?」
「はい、それなんですが、ノットの作った武器を与えようと思います」
「ノット?ドワーフの?なんで?」
ノットはカスタールの拠点で冒険者をさせているドワーフの奴隷だ。鍛冶師になりたいと言っていたな。
「ノットは以前助けた鍛冶師に気に入られ、鍛冶の技術を仕込まれているそうです。冒険者としての活動も並行して行っているので、問題はないと判断しました」
「まあ、問題はないな。いずれはこの拠点にも設備を作ってやるつもりだしな」
技術習得の予定が早まったと思えばいいだけだ。
「確か1ポイントだけ<鍛冶>スキルを与えていたよな?多少の武器は作れるようになったのか?」
「はい、まだ簡単な物しか作れないようですが、新人の武器としては丁度いいと思います。見た限り、品質自体はそう悪くありませんから」
「ルセアがそう判断したなら、俺から言うことはないな。ただ、他の奴隷も含めてたまには現状の報告をしてもらった方がいいかもな。大分把握できていないことが増えたからな」
A:私は全部把握していますよ。優先度の低いものは基本的にお伝えしないことにしていますから。
「アルタは全部把握しているみたいだが、俺としても直接話を聞いてみたいからな」
「わかりました。こちらの方でも準備を進めておきます。必要でしたらお声かけください」
「わかった」
その後、準備された武器、防具をそれぞれが装備する。
「そういえば、メイド服はそのままなのか?」
「ええ、メイド教育をした以上、彼女たちの正装はメイド服ですから」
「そうなのか?」
「はい。迷宮内でもぜひメイドとしてお使いくださいませ」
結構過酷な気もするけど……。でも3人の方を見ると真顔で頷いている。やる気があるのなら構わないか。
「本人にやる気があるのならそれでもいいだろう。準備も終わったようだし、早速迷宮へ向かうぞ」
「はいなのです!」
「はい!楽しみだね、カレンちゃん」
「はい!頑張ろうね、ソウラちゃん」
双子は同時に発言しているので、同じセリフの時は良いが、若干違うことを言ったときには聞き取りにくいので止めてほしい。
他のメンバーも集めてからリーリアの街へ戻り、探索者協会と冒険者ギルドで3人の登録をした。幼いとはいえ3人ものメイドを連れているから人の目を引いたが、幸いにしてガラの悪い連中に絡まれることはなかった。まあ、股間を細剣で貫かれたくない者は俺にちょっかいはかけてこないだろう。ちなみにこの間のエリンシアからの紹介の件で、街の噂になっているとアルタが教えてくれた。どんだけビビられているんだよ、エリンシア。
「こ、これがダンジョンカードEX!噂には聞いたのですが、まさか私がこれを手にすることになるとはです!」
「嬉しいね、カレンちゃん!」
「凄いね、ソウラちゃん!」
エリンシアからの推薦状で、3人のダンジョンカードもEXにできたんだが、それ以降3人のテンションがおかしい。なんだ?そんなに憧れるモノか?まるで宝物でも見るような目で見ている3人に聞いてみた。
「はい!この国の住人にとっては憧れの1つなのです!」
「憧れです!」
「宝物です!」
「そうか、それは良かったな」
「「「はい(なのです)!」」」
すっかり上機嫌になった3人も含め、総勢9人で迷宮の入り口へと向かう。
迷宮の入り口は街のほぼ中心にある。最初の村も同じだが、まずは階段があってそれを下りていくことで地下1層へと到着する。大抵の場合は『地下』を付けずに1層とだけ呼ぶようだな。
この街では地下への入り口の上に建物があり、建物に入る。受付をする。地下へ潜るという手順を踏む必要がある。迷宮用のアイテムボックスから中身がこぼれても、建物の中ならしっかりと管理されているから安心だ(多分)。少なくとも、この街では。
建物に入ってもやはり注目されている。ほとんどが少女やら幼女で、メイドまでいる不思議な集団が来たんだから、それも仕方がないだろう。あ、後エリンシアの威光。
受付を済ませ、地下への階段を下りる。廃村の地下と同じように壁自体が淡く光っており、視界の面で不自由することはなさそうだな。
廃村の階段と同じくらい下まで降りると、すぐに通路になっていた。通路は広く、元の世界で言えば道路の4車線分くらいはあった。魔物は壁や床から這い出るように出てきたり、空中に突然出てきたりもするので、油断はできない。マップでも魔物が発生する位置までは分からないので、中々に相性が悪い。
「ミオ、これくらいなら平気か?」
「うん、迷宮の方は平気みたい。いるのは幽霊じゃなくて魔物ってわかっているからかな?」
「え、幽霊の魔物も出るらしいぞ?」
「え?」
ミオが固まった。仕方ないので肩車をする。ドーラがうらやましそうに見ている。
《後でな》
《うん!》
ドーラを肩車した状態で空を飛ばせたらどうなるのだろう。今度やってみよう。
「旦那様、迷宮で遊ばないでください」
「旦那様、迷宮でふざけないでください」
双子から呆れられてしまった。
「これが平常運転だから、慣れてくれ」
「無理ですよね、カレンちゃん」
「駄目ですよね、ソウラちゃん」
「あれ?視界が高い?ってなんで私肩車されてるの!?」
正気に戻ったミオが混乱している。
そんなことを考えていたら、迷宮最初の魔物が現れた。
ダンジョンスライム
LV3
<吸収LV1><分裂LV1><迷宮適応LV1>
備考:白色の粘液状の魔物。
ダンジョンにのみ生息しているスライムだな。さて、これなら新人3人に任せても……。
「行くのです!」
シンシアが魔物に向かって飛び出した。メイドが主人を放って突っ込んじゃダメだろ……。
シンシアに気付いたダンジョンスライムはタメを作りシンシアに向かって体当たりをする。それに対しシンシアは持っていたアイアンロッド(ノット作:鉄の棒)を振り下ろす。突進の勢いそのままにアイアンロッドと衝突したダンジョンスライムは、すぐにHPを0にして地面に激突する。
「はあ、はあ……」
荒い息をしているシンシア。戦闘時間こそ短かったものの、初戦闘で緊張していたのだろう。
指示を聞かなかったことを叱り、初戦闘で勝利を収めたことを誉めてやろうと近寄る。
シンシアは頬を上気させ、目が潤み、口元がだらしなく緩んでいた。そして、股間の部分と地面が濡れていた。
……緊張じゃなくて、興奮していたようだ。そして興奮のあまり漏らしたと……。
「……初戦闘、どうだった?」
何とかそれだけを聞く。
「すっごく、気持ちよかったのです!」
「そうか……、だが……」
-コツンー
頭に軽くゲンコツ。
「痛いのです!」
「指示も聞かないで突っ走るな!」
「ご、ごめんなさい!」
「あと、何漏らしてるんだみっともない」
「あ、本当なのです……。気付かなかったのです」
本当に気付いていなかったようで、股間を見て驚いている。後、ミオがこっそり目をそらしている。
「『清浄』」
「さくら様、ありがとうなのです」
横からさくらが魔法をかける。『清浄』の主な役割が確立されつつある。……本来は返り血とか泥汚れとかに使う魔法だと思うんだけどね。
「シンシアちゃん1人だけズルいです」
「私たちも戦いたかったです」
「ごめんなのです……」
双子からもブーイングが来た。最初は新人3人で戦うという話だったのに、いきなり1人で飛び出したから、双子は何もしていない。
「まあ、無事倒したことは素直におめでとうと言っておこう。命を奪うことへの忌避感はあるか?」
「いえ、魔物相手なら平気なのです」
そりゃあ、興奮で漏らすくらいには平気だよな。
「私たちみたいに奴隷商行きになっていませんけど平気なんですのね」
「そうですね。私やミオちゃん、セラちゃんは奴隷商で価値観が変わりましたけど、そんなものなくても意外と何とかなるのでしょうか……」
セラとマリアが不思議そうに言う。
「いや、村が魔物に襲われたんだ。価値観の変わる理由としては十分すぎるだろ?」
「それもそうですわね……」
「はい!私は魔物に負けないくらいに強くなりたいのです!だから魔物を倒すくらいで動揺なんてしている場合ではないのです!」
「でも、指示には従えよ?」
「……はいなのです」
しょんぼりとするシンシア。とりあえず次は3人で戦うように指示をし直して前に進む。
1層は魔物の出現頻度が低めなのだろう。1戦目から10分経っても魔物が出てこない。ちなみに俺たちは今、マップに従い1番近い2層への階段へと向かっている。リーリアの街にある入り口から2層へ行くには30分くらい移動すればいい。この国にある街の規模と言うのは、下層への行きやすさと言う要素も大きい。小さな村の入り口では下層へのアクセスが悪いことが多々ある。だからこそ、最初の村の襲撃が異常だと言えるのだ。
「魔物が来るぞ。ダンジョンスライム3匹だ」
俺がそう伝えると、3人が武器を構える。少し移動すると3匹の魔物が見えてきた。
「よし、次こそ3に……」
そこまで言った段階でシンシアが飛び出す。聞けよ、話を……。
「2人も追いかけろ!」
「「はい!」」
先行したシンシアが渾身の一撃を繰り出す。1匹のダンジョンスライムに大ダメージを与えるも倒しきれなかった。さらには力み過ぎていたせいで次の動作が遅れ、横にいた2匹の体当たりが直撃した。
「あう!」
「「シンシアちゃん!」」
吹っ飛ぶシンシア。そこに双子が追い付いてシンシアの前に出て構える。無事な2匹が双子に向けて体当たりをした。カレンは槍で防御したが、ソウラは避けようとしたが避けきれずに肩に直撃する。
「きゃっ!」
「ソウラちゃん!……よくも!」
ソウラを攻撃されて頭に血が上ったカレンは自分に攻撃してきた方のダンジョンスライムではなく、ソウラに攻撃した方のダンジョンスライムに向けて槍を突き出した。
槍はダンジョンスライムに当たったものの、HPは半分以上残っている。そして、元々カレンに体当たりをしていた方のダンジョンスライムがもう1度カレンに向けて体当たりをした。再び突きを繰り出そうとしているカレンは当然避けきれず背中に当たる。
「きゃう!」
こうして人生初の大ダメージを受けた3人は倒れて動けなくなった。
……思っていたよりも弱いな。と言うか戦いを全く分かっていないな。ルセアが多少は教えていると言ったからいきなり戦わせてみたが、ちょっと訓練してからじゃないとダメそうだ。
「とりあえず3人とも戦闘不能かな。セラ倒して来い」
「わかりましたわ」
セラは駆け出し、倒れた3人に追撃を加えようとしていたダンジョンスライムを一振りですべて両断した。
倒れている3人に『ヒール』をかけた。HPは残っているが、初めてのダメージが想像以上にショックだったようだ。
「はい、反省会だ」
3人をダンジョンに正座させて反省会を開催する。違った、シンシアは土下座状態だ。
「ごめんなさいなのです!どうしても魔物を前にすると感情が抑えきれずに飛び出してしまうのです!」
シンシアは完全に戦闘狂だな。自制できないとなると、正直扱いにくい。
「とりあえず、シンシアには後で罰を与えるとして……」
「ひいっ!」
悲鳴を上げるシンシアは無視する。
「戦闘の基礎は習っていないのか?」
「「はい。武器の握り方と振り方、足さばき等は教わりましたが、実践の立ち回りまでは教わっていません……」」
「そっか、それだけじゃいきなり実践は厳しかったかもな。じゃあ、一応今の戦闘の悪い点を挙げていくぞ。まずシンシア、相手が多いのに1匹だけに全力攻撃するな。次の動作を考えろ」
「はいなのです……」
「ソウラ、まだ戦闘に慣れていない内から回避ばかりを考えない方がいい。まずは防御から慣れていけ。剣での防御ならそれだけでダメージになるからな」
「はい……」
「カレン、ソウラが攻撃されたからって目の前の敵から目を離すな。ソウラを援護するのなら、せめて両方の敵に意識を向け続けておけ」
「はい……」
ますます落ち込む3人。
「じゃあ、次は敵の数を減らそう。まずは3対1から徐々に慣らしていこう」
「「私たち、まだ戦ってもいいんですか?」」
「いや、1回の失敗で戦うななんて言わないぞ?」
「ありがとうございます。良かったね、カレンちゃん」
「ありがとうございます。助かったね、ソウラちゃん」
「わ、私はどうなるのです?」
不安そうな顔でシンシアが聞いてくる。シンシアは2回目だからな。『1回の失敗』に含まれていない。さて、どうするか。さすがに何も対策をせずにこのまま戦わせるわけにもいかないだろうな。
俺がシンシアの暴走対策を考えていると、シンシアが泣きそうな顔になった。
「だんなさまー、ごめんなさいなのですー。おゆるしくださいー」
俺が考え事をしているのを怒っていると勘違いしたようだ。まあ、怒っていない訳ではないのだけど……。
「許す許さないは別として、このままだと迷宮攻略には連れていけないぞ?その場合は拠点でメイドを続けてもらうからな?」
突撃癖のあるメンバーなんて、迷宮攻略においてはマイナスしかない。だったら拠点でメイドをやらせつつ躾けて、モノになったら戦闘に加えるなり冒険者をやらせるなりと言った扱いになるのだろうな。
その言葉に顔を青くしたシンシアは俺に縋りついてくる。
「そんな!それだけはお許しいただきたいのです!言うことを聞くのです!戦いたいのです!それに旦那様に迷惑をかけて送り返されるなんてことになったら、先輩たちが怖すぎるのです!」
俺に縋りついてブルブルと震えるシンシア。メイド業界と言うのは縦社会なのだろうか。しかもシンシアの場合は新入りなのにいきなり俺についてきているからな。前からいたメンバーとしては面白くないだろう。ほとんどのメイドは俺のそば付きになりたいらしいってルセアが言っていたし……。
「シンシアの突撃癖を直さないとな。さて、どうしたものか」
「奴隷紋で縛ればいいんではありませんか?」
さくらさんが画期的な解決策を挙げた。
「さくら様、奴隷紋は命令違反できなくなるのではなく、命令違反をすると激痛が発生するだけです。突撃したところで激痛が発生すれば、敵の目の前でのたうち回ることになって危険です」
しかし、マリアがそれを止める。突っ込んで、痛くて転んで、のたうち回って、敵に攻撃される。あれ?死ぬんじゃね?
「そうなんですか。それじゃあ止めた方がいいですね」
「そうだな。それじゃあ根本的な解決にはならないしな。他にアイデアはないか?」
聞いてみるが特にアイデアはないみたいだ。じっくり躾けていくしかなさそうだな。
「仕方ない。とりあえず今日のところは力づくで突撃を抑えよう。セラ、シンシアを持ち運べ。ミオ、敵が出てきたら丁度いい数まで減らせ」
「3人だから2匹くらいにすればいいわね?」
「そうだな。それくらいなら3人いれば大丈夫だろう」
1対1よりは有利に進められるだろうな。
「敵が減ったらシンシアさんを放せばいいのですわね?」
「ああ、双子もそれに合わせて戦闘開始するんだぞ」
「「はい!」」
「シンシア。今日の戦闘が終了したら、躾が待っているからな」
「ひいっ!」
シンシアが短い悲鳴を漏らす。
「それが嫌なら今日中に突撃癖を治すんだな」
「はひっ」
とりあえずシンシア対策は保留にして先に進むことにした。
シンシアはセラが小脇に抱えている。さすがに魔物が出ても抜け出せないから突撃できない。ついでにドーラは俺に肩車されている。つまり、戦闘参加できない人間が4人いることになる。迷宮を舐め過ぎではないだろうか……。
少し歩いたらまた敵が出てきた。今度はダンジョンゴブリン1匹が相手だ。ダンジョンゴブリンは1層レベルで言えば結構な強敵で、群れて出てくるのは3層以降になる。俺からしてみればゴブリンと言うだけで雑魚扱いだが、新人3人からしてみれば十分以上に脅威だろう。
タイミングを合わせてセラが手を放すと、シンシアがそのまま突っ込む。うん、全然治る気配がないね。
「たあ!」
シンシアがアイアンロッドを振り下ろす。ダンジョンゴブリンがそれを受け止める。押し合いになるがシンシアの方が弱いらしく、徐々に押し込まれる。
「「やあ!」」
だが、シンシアはそこであえて引かずに時間を稼いだ。その隙にソウラとカレンが両側から攻撃をする。ダンジョンゴブリンの手は2つしかなく、今両手でこん棒を持っている。つまり避けること受けることもできずに直撃する。
「えい!」
双子の攻撃により力が緩んだところでシンシアが棍棒を弾き飛ばして打撃を加える。この段階でダンジョンゴブリンのHPは0になった。連携と言うにはつたないが、数の利を多少は使うことが出来たみたいだな。
「やったね、ソウラちゃん!」
「そうだね、カレンちゃん!」
双子が手を合わせて喜ぶ。しかし、シンシアは不満そうな顔をしている。
「どうした?」
「え?1人で倒せなかったのが不満なのです……」
「協力しろよ!」
「うー、理想は格闘で1人で戦うことなのですよー」
ソロプレイヤーの戦闘狂とかキャラが立っているとは思うが、自重しろと言いたい。
「とりあえず突っ込むのはセラに抑えさせるから、戦闘中は双子との連携を1番に考えろ」
「はいなのです」
その後も1層でしばらく戦闘を続けた。2層への階段は発見したが、いきなり新人3人への負担を上げることもないので、しばらくは1層だな。
双子の方は言われたことを素直に直すので上達が早い。シンシアの方は圧倒的な才能があるのに、突っ込み癖が直らないままだ。勿体無い。
ただ、10回ほど戦闘をしたのでレベルも上がっているし、ほんの少しだが倒した魔物のステータスを分配しているので、全員強くなっているのは間違いない。
さらに5回戦闘をしたあたりで、1層なら何とかなる程度の実力を付けられたようだ。本日の締めにダンジョンスライム3匹と戦わせてみる。3対3は最初の1回以来やってなかったからな。
「ダンジョンスライム3匹だ。さっきみたいな無様を晒したら、お仕置きだからな」
「「は、はい!」」
双子の足が震えている。ダンジョンスライムよりも俺のお仕置きの方が怖いようだ。
「うー、うー」
シンシアはセラの腕の中でもがいている。全く治る気がしないな。
セラに手を放させると、シンシアがいつも通りに突っ込む。少し慣れてきたようで双子もそれに合わせて前に進む。
戦闘自体は危なげなく終了した。シンシアは相変わらず全力攻撃だが、双子がそれをサポートするように動き、被弾することもなかった。ついでに言うとシンシアの最初の一撃で1匹のスライムは即死だった。
余談だが、ダンジョンに生息する魔物の7割以上は外にいる魔物の色違いで、頭にダンジョンと付いている。いわゆる手抜き魔物だ。グラフィックを用意するのが面倒だったのだろう。
ダンジョンラビット
LV3
<身体強化LV1><跳躍LV2><迷宮適応LV1>
備考: ダンジョンに生息しているホーンラビット。外にいるのよりはおいしくない。角の生えたウサギ。
ダンジョンウルフ
LV3
<身体強化LV1><咆哮LV1><迷宮適応LV1>
備考:ダンジョンにいるファングウルフ。やっぱり不味い。
とりあえず1層にいたのはこんな感じ。食料として美味い魔物がいない。
ミオとか料理できる人間がいなかったら、俺、迷宮に潜らなかった自信があるよ。
第3章がやっと書き終わりました。とりあえず3章ではエタらないことが確定です。HDDクラッシュとかしなければ……。あ、バックアップはあるけど。