第40話 心の修復と報告
あまり気にすることではありませんが、一応本作、もしくは仁の方針を説明します。
仁、さくら、ドーラ、ミオ、マリア、セラまでが基本的にメインパーティです。あ、場合によってはタモさんまで。
それ以外の配下キャラクターは言ってしまえば、その章がメインとなるサブキャラクターです(通称仁ガールズ)。それ以降の章で出てこないとも、活躍しないとも言いませんが、基本的にはそれぞれがそれぞれの物語を勝手に進めています。時々短編でピックアップされます。クロードみたいに。
本編書く合間に、「あ、アイツ最近全く出てないな」とか思うと、思わず短編を書くこともあるかもしれません。
>生殺与奪がLV5になりました。
>新たな能力が解放されました。
<生殺与奪LV5>
能力の射程距離が常時30mになり、LV4までの10倍の速さで能力を奪える。範囲内の相手から同時に能力を奪える。1日1度だけ、射程距離100m、速さ100倍にできる。
>多重存在がLV2になりました。
>新たな能力が解放されました。
<多重存在LV2>
精神・記憶の保全、保護が可能となる。条件によっては復元も可能。
2つの異能のレベルが上がったようだ。そう言えば、<多重存在>もレベルがあったんだよな。
<生殺与奪>の方は単純な強化みたいだな。と言うか、かなり強化されているな。射程と速度の向上、範囲内の同時強奪、1日1度の強化強奪の3つだな。以前も1日1度強化した強奪が出来たけど、それが常時できるようになったようだな。その代わり、1日1度の方はさらに強化されたと……。100mって、馬鹿みたいに遠くから能力を奪えるようになったものだ。1つ問題があるとすれば、倒す前に能力奪うと経験値が勿体無いから、事実上使うことがないってことかな。
<多重存在>の方はこの状況で何をさせたいのかっていうのが明確だよな。
A:ええ、従魔にしたので、<契約の絆>を用いれば私の方で精神を元に戻せますよ。
俺はミラに対して<契約の絆>を発動する。従魔なので拒否権もなくすぐに配下として登録される。
とりあえず、よろしく頼むよ。
A:お任せください。
処理はアルタに任せることにした。多分、この能力はアルタにしか使用できないだろうな。もしかしたら<多重存在>のレベルアップによる機能の追加って、アルタ単体の強化なのかもしれないな。まあ、実質俺の強化だから構わないんだけど……。
少し時間が出来たので、他のメンバーにも現状の説明をしておこう。
「<多重存在>がレベルアップして、アルタが彼女の精神を元に戻せるようになったみたいだ」
「いつも思うんですけど、仁君の異能って都合よすぎませんか?」
「そうだな。困ったことがあるとすぐに異能が解決してくれるからな。この世界ではほとんど困ってないな。1番ヤバかったのが携帯食料がまずかった時だな」
「あれは辛かったですよね」
「ああ……」
料理の異能が出なくて本当によかったよ。……さくらの異能で料理の魔法を作れないことから考えて、俺の異能でも大したことが出来なかった可能性すらあるし……。
「携帯食料を食べたことはあるのですが、奴隷商で出る食事よりはマシな味ですわよ?」
「そうですね。店は違いますけど、私のいた奴隷商でも保存食以上のまずさでしたよ」
《とーぞくのアジトでもまずいえさしかでてこなかったのー》
なんだよ、皆あれより不味いものを経験済みかよ……。
「まあ、一般人からしてみれば不味いですけど、本当の底辺を味わった身から言わしていただければ、下には下がいるということですわね」
「食べられるだけマシと言うことです」
死亡直前だった奴隷組が言うと説得力があるな。
「とは言え、仁様も料理目的で奴隷を買う程度には困っていましたからね。そのおかげでミオちゃんを買うことになり、そのついでで目に留まった私も買っていただけたわけですから。……携帯食が不味いことに感謝した方がいいのでしょうか?」
「さすがに感謝する相手がおかしい気がするな……。それに携帯食が美味かったとしても、料理ができる人間は欲しかったから、どのみち同じだったと思うぞ」
「でしたら感謝の相手は今まで通り仁様とさくら様だけにしておきます」
状況説明のはずが、いつの間にか雑談になってしまっていた。
アルタによる人格の修復には結構時間がかかるようだな。結構な処理能力を持っているはずなんだけどな……。そんなことを考えているとマリアが声を上げた。
「ミラさん、様子がおかしいです」
マリアに言われてミラの方を見ると、ビクンビクン痙攣している。白目むいているし、涎もたれている。正直美人なだけにドン引きだ。精神の修復って怖いね。
しばらく見るに堪えない状態が続いたが、徐々に動きが小さくなり、最後には動かなくなった。
A:終了しました。
でも、倒れているけど?
A:起こしましょう。
「う、ううん」
ミラがむくりと起き上がる。その拍子に胸が揺れる。戦闘中は極力気にしないようにしていたが、やはり、デカい……。
「あらぁ、おはようございまぁす。貴方が仁さんですねぇ?」
甘ったるい言葉遣いで訪ねてくる。腕は胸を持ち上げるように組んでおり、動作がいちいちエロい。
「なんで俺の名前を?」
「アルタ様からぁ、情報を与えられておりますぅ。アルタ様と同じく『マスター』とお呼びさせていただきますねぇ」
アルタが様付けだ。と言うか、アルタ何やってんの?
A:ミオがいないので、僭越ながら私の方で状況説明をさせていただきました。正確には情報を直接送り込みました。
直接送り込むってなんだよ。……まあいい、じゃあミラは今の自分の状況をわかっているのか。
A:ええ、村人が全滅したことも、今の自分が吸血鬼だということも、精神が崩壊したことも、テイムされたことも全て受け入れています。
「ミラ、アルタから話を聞いているといったが、なんでそんなに落ち着いていられるんだ?」
ミラは特に不満や不安を顔に表してはいない。アルタが現状を並べたけど、中々に壮絶だよな。この状態で平常心を保てるとか、その方が不自然だ。
「アルタ様にお願いしてぇ、精神的な負担を直接排除していただきましたぁ」
え?アルタ、そんなことできるの?人の人格や感情を操作できるって、中々にヤバい能力だよな……。
A:普通はできません。今回は修復と言うことで直接人格をいじっているので、そう言った裏技的なことを行う余裕がありました。記憶喪失は治せない公算が高いです。今回の場合は崩壊、つまりバラバラになっただけなので、それを組みなおしたのです。その中から、記憶を発端とする不安などを取り除いたのです。
それって他に弊害とかでないのか?
A:その点に関してはかなり注意をしているので大丈夫でしょう。
アルタが大丈夫と言うなら問題ないだろう。あ、そうだ。少し気になっていることを聞いておこう。
「そういえば、テイムされているというのは構わないのか?人間に戻りたくはないのか?」
一応、魔法で人間に戻せる可能性もあるしな……。
「人間に戻るつもりはありませぇん。廃人になるのは嫌ですぅ」
A:もし彼女を人間に戻せたとしても、吸血鬼になった時と同じくらいの負荷がかかり、やはり精神崩壊します。そうなった場合、2度と元には戻せません。
アルタでも無理なのか?
A:無理です。1度壊れたものを直すだけで限界です。2度目はありません。
「化け物でもぉ、自我がある分だけいくらかマシですぅ。身体が人間でもぉ、畜生のように生きていくのは御免ですぅ」
さらっと凄いことを言った気がする……。
「従魔としてお仕えいたしますのでぇ、ご自由にお使いくださぁい。ほらぁ、胸触りますぅ?」
そう言ってボリュームのある胸を突き出してくる。
「また今度な。とりあえず、お前の考えは理解した。従魔としてこき使ってやるから安心しろ」
「はぁい、よろしくお願いしますぅ」
「あ、そうだ。ジオルグから奪った日光克服のスキル与えておこう」
「ありがとうございますぅ。あの吸血鬼は最低でしたけどぉ、死んでから少しは役に立ちましたねぇ」
なるほど、毒舌なのか。道理でさっきの言い回しにも毒があったわけだ。自虐だけど……。
そう言って丁寧にお辞儀をするミラ。魔剣・ブラッドハートは1滴の血を入れた吸血鬼のスキルを劣化させて引き継ぐようだ。ただし、<散歩日和>は引き継げなかった。これを与えておかないと、ミラが日光で大ダメージを受けてしまう。
その後は、吸血鬼の死体を格納した。とりあえず、この場でやっておきたいことはこれくらいだろう。となると……。
「あとは今後のことに関する相談だな。とりあえず、リーリアの街に戻って村の件を報告しないといけないな」
「と言うか、ミラさんの件はどう報告するんですの?人間が魔物になったなんて報告するんですの?」
「あー、それって結構な大事だよな?」
「当然ですわ。今までの常識がひっくり返って、大混乱を招きますわよ」
《ドーラもドラゴンになるよー?》
「ドーラさんは別ですわ!」
A:隠す以外の選択肢はありません。影響が大きすぎます。
「隠すとしたら人間のふりをさせるだけで十分か?ドーラはそれで何とかなっているし……」
「それで充分ですねぇ。普通の人に見た目以外でぇ判断する基準はありませんからぁ」
「じゃあ、羽を隠しておくだけで何とかなるか……」
「わかりましたぁ、ん……」
艶っぽい声を出しながらミラが蝙蝠のような羽を消した。こう見ればただの爆乳美人でしかない。白目の色も元に戻っているようだった。せめて瞳(ミラの元々の目の色は紫)の色だけが変わればいいのに、よりにもよって白目部分が赤になったら、充血しているようにしか見えない。プールで目を開いてしまったのだろうか……。
「じゃあ次だ。……この空間って公にしてもいいものなのか?」
「どうでしょうかぁ……。そもそもこの村が廃墟になったのはぁ、疫病が流行ったからですぅ。もう大丈夫であるという確認はとれているんですけどぉ、曰くの付いた土地には人が集まらずにご覧の有様ですねぇ……」
「『安全な迷宮』の価値ってどのくらいなんだ?」
A:とてつもなく高いですね。迷宮の研究者、迷宮用アイテムの作成者などには垂涎モノです。
「アルタ曰く、とても価値があるそうだ。公にするにしても相手は選ばないといけないな……。エリンシアあたりが妥当だろうか……」
「でも、エリンシアさんは村の方に行ったままですよね?」
さくらが聞いてくる。
「いや、俺たちが街を出る前には村を出たのを確認しているから、街にいる可能性が高い。ギルドへの報告も必要だから、エリンシアを連れてギルドに向かうのが丁度いいと思う」
「それにしても、この館の主はこんな重要なものをずっと隠してきたのですわね」
セラがあたりを見渡しながら言う。
「館から繋がっていることを考えると、街ができた時には知っていたということですよね」
「今考えれば当たり前なんですがぁ、この村は迷宮用のアイテムが特産品でしたぁ。この施設を活用していたのでしょうねぇ。滅んでしまえば何にも意味がありませんけどぉ」
マリアとミラが反応した。
「それよりも気になるのは吸血鬼がこの場所を知っていた理由だな」
「偶然、と捉えるのは都合が無理がありますわね」
「ああ、さすがに無理があるだろうな……」
若干の謎を残しつつも、俺たちはリーリアの街に戻ることにした。魔剣の回収はしたが、村人の遺体は持っていくわけにもいかないのでこのままだ。
廃村を出たあたりでミオに念話をする。
《ミオ、村を出たから馬を連れて戻って来い》
《わ、わかりましたー》
少し待つと『ポータル』でミオを乗せた馬車が転移してきた。ミオは御者台の上から飛び降り、そのまま土下座をした。これが世に言うジャンピング土下座と言う奴か……。
「途中で勝手に帰ってごめんなさい!」
「いや、別に怒っていないから安心しろ」
「でもでも、私が帰った後念話がなかったから、本気で怒っているのかと思ったの!」
「そっとしておいてやろうと思っただけなんだが……。漏らしてたろ?」
「え、……うん」
ミオがもじもじしている。直接口に出されるのは恥ずかしいようだ。
「でも、よかったー、私の早とちりで……」
土下座を解除して、気を取り直したように言う。
「苦手なことを無理にやらせるつもりはないぞ。俺だって料理を自分で作ろうとは欠片も思わないからな」
適材適所、これが1番ですね。苦手の克服なんて、余裕があるときにやればいいんですよ。だって、苦手なことを直すより、得意なことを伸ばす方がよっぽど楽だし、効果が高いから。
「本当に苦手なの。完全に暗い部屋じゃ眠れないくらい……」
「あれ、でも今は部屋の明かりは消しているだろ?」
「同じ部屋に人がいれば別なの。前世でも入院の時は必ず相部屋だったし」
「奴隷の時は?」
「さすがに直接的な死の恐怖の方が勝ってたからね。それにほとんど眠れなかったし……」
「じゃあ、苦手克服はその辺から始めようか」
「え?苦手なことを無理にやらせないんでしょ?」
「無理じゃない範囲で徐々にやるんだよ?」
「……」
ミオが小首をかしげたポーズのまま固まった。苦手の克服は余裕があるときにやる。今、余裕あるよね?
俺は固まったままのミオを小脇に担いで馬車に乗せると、マリアに出発を指示した。馬車はパカパカと音を鳴らし、ゆっくりとリーリアの街へと進んで行くのだった。
……『ポータル』で楽して帰りてー。
リーリアへと戻る馬車の中で、動き出したミオがミラに絡む。
「この人が新しい配下、え、従魔なんだ。へー、吸血鬼のミラさんね。吸血鬼っぽい名前ね?後、私とセラが混ざった名前でややこしくなりそう……」
変な観点で観察しているな……。
「ええとぉ、あ、貴方がミオさんですねぇ。アルタ様から聞いていますぅ。廃墟に入る前に怖くてちびって逃げたぁ、中身24歳の女性ですよねぇ?」
「……」
ミオが涙目でこちらを見てくる。可愛いので膝の上に乗せる。
アルタも余計なことを言うなよ……。
A:申し訳ありません。
「ミラ、ミオをいじっていいのは俺だけだ。その毒舌を味方に向けるな」
「っ申し訳ありません!」
ミラに向けて軽く殺気を飛ばす。ミラは凄い勢いで土下座して謝る。
「それもどうなのかな……」
膝の上でミオが呟く。いや、俺はいじるよ。絶対にやめないよ。でも、愛があるから。
「ミオさんもぉ、ごめんなさぁい」
「……まあ、ご主人様に殺気を向けられたみたいだし、それでチャラでいいわよ。あれ、かなり怖いし……」
「えぇ、私も少し濡れてしまいましたぁ。これでミオさんと同じですぅ」
「……嫌な共通点ね」
時間も遅いので途中で野宿し、翌日の昼前にはリーリアの街に到着した。
エリンシアは騎士団の拠点にいるようだったので、全員連れて騎士団本部へと向かうことにした。ミラも一緒だ。一応村の生き残りだしね。口裏合わせはできている。
騎士団の詰め所はそれなりに大きく、白い石造りの建物だった。当然と言えば当然だが、訓練場とかもあるみたいだな。
入り口でエリンシアがいるかを確認し、呼んでもらうようにお願いした。
「誰とも知れぬものを団長に会わせることなどできぬ!」
そう強く言われたので、エリンシアからもらったダンジョンカード用の封筒を見せる。
「少々お待ちください。今、エリンシア団長をお呼びしますので。あ、先に応接室にお通ししましょうか?え、いらない?わかりました。大至急お呼びしますので、少々お待ちください」
素晴らしいほどの変わり身だった。鎧姿でビシッとしていたのに、見せた瞬間に猫背になって揉み手をしてきた。エリンシアの威光つえー。
しばらく待つと、エリンシアが大慌てでやってきた。少し息を切らしている。ちなみに村で会った時と同じ鎧姿だ。あ、さっきの兵士も遅れてやってきている。
「お待たせしました。仁さん、本日はどのような御用ですか?」
「ええ、少々報告したいことがあるんですが、お時間よろしいですか?」
「ええ、大丈夫です」
そういうと後ろを向き、先ほどの兵士に声をかける。ちなみに兵士も全力で走ったのか息も絶え絶え、汗だくの状態だ。
「貴方。午後からの査察は私抜きで回るように調整してください」
「は、はい……」
何とか返事をすると、連絡のためにまたどこかへ走り去っていった。ふらついているけど、大丈夫かね?
「これでよいですね。で、どのような内容ですか?」
「ええと、良かったのか?」
「ええ、一応予定に入れてはいますけど、基本的に私抜きでも回るように編成しています。責任者1人に寄り過ぎる組織は脆くなりがちですからね。人員が1人2人かけたところで問題のない組織づくりをしています」
正直言うと驚いた。その考えはどちらかと言うと元の世界の企業に近い。どうしてもこの世界では個人の資質に依存しがちになる。その中でそんな組織編成ができるという段階で、エリンシアの能力の高さがわかるというモノだ。
「わかった。話の内容なんだが、冒険者として活動した中での出来事だから、冒険者ギルドへの報告と合わせて行ってもいいか?」
「わかりました。出発はすぐですか?」
「ああ」
「では、向かいましょう」
そう言って俺たちとエリンシアは冒険者ギルドへと向かった。前に見なかったミラが増えていたり、クロードたちがいなくなっているが、何も聞いてこない。徹底しているな……。
道行く人たちが俺たちに注目しているのを肌で感じる。美女・美少女が大量にいるから?ミラの巨乳?違うよ、全部エリンシアだよ。エリンシアの威光つえー。
冒険者ギルドへ到着した。扉を開けると数少ない冒険者がぎょっとした顔をする。
そんな中、受付嬢さんが俺たちの存在に気付く。
「あ、吸血鬼の……。って、鋼鉄……、エリンシア様!?なんで!?」
「ギルドと騎士団に報告することがある。出来るだけ、上位の立場の人間を呼んでくれないか?」
「ギ、ギルド長が時間を取れると思います。す、すぐに呼んできます」
そういうと受付嬢さんは奥へと人を呼びに行った。
奥から出てきたのは20代後半くらいの女性で、茶色の髪を床近くまで伸ばした美人さんだ。
「えーと、君たちが何か報告したいんだって?あ、エリンシア、久しぶり」
「ギルド長、お久しぶりです。私も同席するように言われたのでやってきました」
エリンシアとギルド長は知り合いのようだ。まあ、規模は小さいとはいえ冒険者ギルドと騎士団のトップだ。面識があってもおかしくはない。
「そうかい、応接室はとってあるから、そっちで話そう」
「わかった」
そういうとギルド長は俺たちを応接室へと案内した。国が変わっても応接室はあまり変わらないようで、他の国と大差がなかった。
「で?報告したい内容と言うのは何だい?」
椅子に座って聞いてくるギルド長。
「ああ、俺たちが受けた依頼についての報告だ」
「依頼……、受付嬢から聞いたが、吸血鬼退治の依頼を受けてくれたんだったな。帰ってきたのか?上手くいったのか?」
「そんな依頼が出ていたのですか……。騎士団に回していただいても良かったのですよ?」
「いや、騎士団も忙しそうだったからな。こっちで処理できるならしたかったんだ。まあ、特例を使ってたら同じな気もするが……」
この国の冒険者の状態を考えると、騎士団への依頼になる可能性も高かったというわけか……。
「で、その吸血鬼を倒したのはいいんだが、多分報告をした村が全滅している」
「何!?」
「それは本当ですか!?」
2人も立ち上がって声を荒げる。
「本当だ。こっちのミラがその生き残りだ」
「ミラですぅ。吸血鬼は<幻影魔法>で村人を操ってぇ、廃墟に行かせてぇ、そこで殺していましたぁ。私だけは助かりましたけどぉ、他の村人は全員死んでいますぅ……」
「むう……。村1つが滅ぼされるほどの被害か……。吸血鬼の脅威度を低く見積もり過ぎたか……」
「わかりました。すぐに被害を確認するための部隊を編成しましょう。ミラさんもついてきていただけますか?」
まあ、生き残りのミラはそっちについて行くべきだよな。
《行っていいぞ》
「わかりましたぁ。案内をさせていただきますぅ」
「では早速……」
そう言って出ていこうとしたエリンシアを止める。
「まだ話は終わっていないぞ」
「ま、まだ何かあるのですか?」
「今度は何が……」
流石のエリンシアとギルド長も緊張を隠せないようだ。
「廃墟、いや、廃村の館に地下室があった。そこは迷宮に繋がっていた」
-ガタガタッ-
エリンシアとギルド長がずっこける。
「ま、まさか……、未発見の迷宮入り口が見つかったというのか?」
「廃村、恐らくあの村でしょう……。あそこには迷宮の入り口なんてなかったはずです。あったら廃村のまま放置などできません……」
「恐らく館の主が隠していたんだろうな。なぜか吸血鬼はその迷宮の中にいた。ちなみにその中を確認したところ他の場所に続いている様子はなかったし、魔物は発生しないようだった」
ポカンとした表情の2人。ギルド長は知らないけど、エリンシアはそんな表情をするとは思わなかった。
「そ、それは大発見だ!こういう時はどうすればいい?国王に報告か?大臣を通した方がいいか?商業組合にはなんて伝える?」
ギルド長が色々と面白い動きをしている。今後のことで頭がいっぱいのようだ。
と思ったらエリンシアに抱きしめられた。鎧が邪魔である。
「やはり!やはり私の見る目は間違っていませんでした!素晴らしい国益です!」
「抱きしめるなら、鎧を外してからにしてくれ」
正直に言うことにした。
「あ、はい」
エリンシアは素直に鎧を外し、再度抱きしめてくれた。うむ。
2人が落ち着くのを待ってから、話を再開する。まあ、エリンシアが落ち着くイコール俺を抱きしめるのが終わるってことだからね。
「村の全滅と迷宮隠しエリアの発見。確かに報告してくれてとても助かる内容だな」
「ええ、これから忙しくなりそうです」
「ああ、ええと、仁君だったかね。これらの報告に関して報奨金が出ると思う。ただ、事が事だけにしばらく時間がかかると思う。その代わりと言うわけではないが、結構な額が出ると思うので安心してほしい。まあ、まずは確認が先なんだが……」
「ええ、早速2つの村に向かう準備をします。領主様や探索者協会への連絡は任せてもよろしいでしょうか?」
「ああ、許可が出次第連絡する」
「では、仁さん申し訳ありませんがこれで失礼します」
「ああ」
そういうとエリンシアはミラを連れて慌ただしく出て行った。
その後、俺たちとギルド長もそのまま応接室を出て受付まで戻ってきた。
「私も色々とすることがあるのでな。討伐自体の報酬は受付で貰ってくれ」
「わかった」
受付でギルドカードを見せ報酬をもらう。
「凄いですね!冒険者さん、いえ、仁さん。吸血鬼をこんな簡単に倒すなんて腕利きなんですね!」
「いや、このくらい大したことじゃない」
吹っ飛んできた相手を切り捨てるだけの簡単なお仕事でした。やったの俺じゃないけど。
「実力的にはBランク以上なんですね!あ、Cランク止めってやつですね!」
「まあな」
Cランク止めなんて言葉があるんだな。まあ、あんまりやってる人間は多くなさそうだけど……。
余談だが、受付嬢がそんなことまで大声でしゃべっていいのかと思ったが、ギルド内には人1人いないので問題なさそうだった。人1人いないことの方が問題なのは置いておく。
そんな話をした後に冒険者ギルドを出た。
その日は大したことをせずに終えることにした。明日の昼にはシンシアと双子のメイド教育も終わるからな。いよいよ迷宮探索の開始だ。
次回、迷宮に潜ります。
あ、その前にミオの短編が水曜か木曜くらいに入ります。これで固有の短編(口伝除く)がないのがセラだけになりました。セラの話は何にしようかな。無双か大食いか……。