第38話 メイド修行と探索者登録
3章が書き終わらない!
早く次の○○編が書きたいのに(盛大なネタバレになるので自主規制)!
当然と言えば当然だが、馬車に戻ると全員揃っており、俺の帰り待ち状態だった。
「ただいまー」
「仁様、お疲れ様です。そっちの子たちが新しい奴隷ですか?」
「また、結構な人数連れて……、あ……」
ミオが言葉を途中で止めた。称号を見たのだろう。念のため念話で話しかけてくる。
《2人目!人間の勇者がいたのね!》
《ああ、そういうことだ》
《私の獣人、そして人間となると、エルフやドワーフにも勇者がいるかもしれませんね……》
《どらごにゅーとにもいるとうれしいなー》
《ドラゴニュートは魔物扱いだから難しいと思いますわ》
《ざんねんだー》
珍しいものを見るような目がシンシアに集まる。まあ、勇者なんてそうそう見つかることはないと思っていたからな。まさか、マリアに続いて2人目すらも俺の奴隷となるなんて、誰も考えてなかっただろう。
A:いえ、皆さんもマスターならやりかねないと思っていましたよ。
マジか……。1度皆の中の俺の評価を聞いてみたいな。嫌われてはいないと思うが、まともだとは思われていないんだろうな……。
「あ、あの、何なのです?」
シンシアはみんなに見られて落ち着かないようだ。双子の方にも少しだけ目線が行く。まあ、他の子は正直印象薄いから……。後、家族を失って心も弱っているからな。
「いや、何でもない。それよりも拠点に戻るぞ。新人の内4人は拠点でメイドにする」
「わかりました。『ポータル』は設置済みですので、いつでもお戻りいただけます」
村の中で『ポータル』を使うわけにもいかないので、少し村から離れた位置にポータルを置き、それを使って拠点に戻ることにした。
「な、何なのです?これは……」
「言っただろう。俺の拠点だ」
驚く奴隷少女たちを見て満足する。今まで俺たちの異能に関する力を見て、驚かなかった奴なんて……、あ、ルセア驚いてないや。『リバイブ』使ってすぐに跪いたわ。
「Bランクの魔物を瞬殺するだけじゃなくって、こんな不思議なことまでできるのです?本当に強くなれるのかも……」
シンシアが呟く。後半はほとんど聞こえないほど小さな声だったが、俺には聞き取れてしまった。
A:あ、補正しておきました。
孤児だし、昨日襲われたばかりだしで小汚かったので、屋敷に入れるなりメイドたちに奴隷少女たちを風呂に入れるように指示した。
風呂から上がり、メイド服に着替えた新人奴隷少女たちを屋敷の広間に集めさせた。
「「あのー、なんで私たちもメイド服を着ているのですか?」」
双子が質問してきた。戦闘を担当するのにメイド服を着せた理由。まあ、大半は趣味だ。
「それはメイド教育を受けて貰う予定だからだ」
「そうなのです?戦闘だけをすればいいんじゃないのですか?」
シンシアも疑問に思ったようだ。俺としては戦闘専門の奴隷は特に求めていないな。と言うか、マリアとセラがいれば十分すぎるくらいには十分である。
「戦闘が中心だとしても、それだけやって生きていくわけじゃない。礼儀も躾もなっていない奴隷では、いくら強くても連れていく気にはならないからな」
「連れて行ってもらえないのですか!?メイド教育を受けるのです。何日くらいです?」
「何日くらいだ?」
俺は付き従っているメイドに尋ねる。余談だが、俺が屋敷にいる間は最低1人はメイドが付き従う。ちなみにこのメイドは跪かない。正確には跪かない様に言い含めてある。
「はい、最低限の教育でしたら、出来れば1週間、急ぎでやれば3日で実施できます。幸い、教育マニュアルが先日完成いたしましたので、それに従っての指導となります」
「3日でお願いするのです」
シンシアが強く主張した。双子も頷いているので、満場一致で3日コースだな。
「わかりました。3日コースですね。少し大変ですよ」
「「「はい!」」」
その間何して過ごすかは皆と要相談だな。
じゃあ、そろそろ本題に入るか。
「さて、俺の奴隷たちには多少だけど、俺たちの秘密を教えることにしている。もちろん、他の人間に伝えてはいけないぞ」
「秘密、なのですか?村でも言っていたですけど……」
「ああ、さっきの移動も含めていくつもの秘密がある。その内の1つがお前たちを強くするんだ」
「教えてほしいのです!」
「ミオー」
「はいはーい」
省略。
「……他にも色々あるけど、話していいって言われているのはここまでね。もっと詳しいことが知りたかったら、ご主人様の役に立って認められてからお願いしてみることね」
「まだ、他にもあるのですか……。絶対に認められてみせるのです……」
ふんすっ!と握り拳を作るシンシア。凄まじいやる気だ。でも今から3日はメイド修行だ。
「とりあえず、予定していた話は以上だ。後はメイド修行に励むといい」
はい!と7人全員が返事をしたところで、メイドたちが新人奴隷少女7人を連れて出て行こうとした。
「ちょっと待て」
俺はシンシアを呼び止め、額に指をあてる。
「なんなのですか」
「おまじないだ。気にするな」
「はあ……」
そう言ってシンシアも出て行った。最後にしたのは当然、<封印>の除去だ。これで3日後が楽しみになったな。
「さて、3日間で俺たちは何をしようか?」
「あれ?迷宮に行くのではありませんの?」
「ああ、あの3人を連れていく。あの3人が持っている<迷宮適応>があると無いとでは、大きく違うと思うんだ」
「そうなの?マップがあれば十分じゃないの?」
確かに、罠の位置や敵の位置はマップで調べるだけでも十分だ。しかし、迷宮踏破が目的となると事情が変わってくる。
「いや、マップでは不足だな。マップで見られるのは隣接エリアまでだ。そしてこの国の地下はすべて迷宮、それは数エリアでは済まないんだ。さらに階層が変わるとエリアが変わる。つまり、<千里眼>では、ゴールまでの道筋が見えないんだよ」
「<迷宮適応>があるとどうなるんですか?仁君は知っているんですよね?」
「ああ、低レベルでは恩恵も少ないが、高レベルとなると正規ルートとかもわかるようになるようだ。魔物を倒してスキルを奪い、まずは<迷宮適応>のレベルを上げる。これが踏破への最短ルートだと思う」
もちろんマップだけでも無理ではないだろうが、その分余計に時間がかかるだろう。
「というかご主人様、迷宮踏破するつもりだったのね……」
「ああ、中途半端は嫌いだからな。やるからには踏破するつもりだ。ちなみに目標は40日だ」
「すいません。長いのか短いのかわかりません」
「迷宮は全50階層。現在踏破されているのは32階層までだな。1日2層で25日、予備日も入れて40日の計算だ。ちなみに村を襲ったBランクの魔物は大体、20階層後半くらいの実力だ」
「まだ20層近くも残っているんだ……」
そうなんだよな。いまだに踏破には程遠いレベルの攻略しかなされていない。つまり探索者のほとんどは上層部分で活動をしているということだ。それなのに迷宮探索が仕事になるんだから、相当に割がいいのだろう。
「まあ、上層に関してはそんな苦労はしなそうだけどな」
「まるで見てきたように言いますけど、アルタさんから聞いたんですの?」
「ああ、その話か。難しい話じゃない。地下と地上は隣接エリアと言うだけの話だ。だからマップで見ようと思えば見られるんだ」
「なるほど!国中の地下に迷宮があるのだから、第1層に関しては地上からでも把握できるのですわね」
「そういうことだ。それで事前に予習をしているというわけだ」
まあ、1層だけだから、大した情報は集まってないけどね。
「話がだいぶズレたな。元に戻そう。あの3人の<迷宮適応>を育てつつ、迷宮を進みたいから、3日は時間ができる。この間に何をしようかと言う相談だ」
「それでしたら、先にリーリアの街に向かうだけ向かうというのはいかがでしょうか?」
マリアが手を挙げて発言した。
「ああ、それがいいな。迷宮専用のアイテムとかもいろいろあるし、準備だけはしておいても損はないからな」
「そうですね。それでしたらメイド教育と並行しても、問題なさそうですね」
「他に意見がなければ、リーリアの街に向かおうと思う。どうだ?」
特に他のアイデアもなさそうなので、リーリアの街に行くことにした。
拠点に戻る前の『ポータル』へ移動し、リーリアへの道を進んでいく。馬を飛ばして3時間、馬車でゆったり行くと5時間くらいかかるから、夕方までには十分に着くだろう。
馬車の旅は順調に進み、日が暮れる前にリーリアの街へと到着した。リーリアの街は木造の建築物、ログハウスのような建物と、石造りの建物が半々くらいだった。さすがに日本の建築様式の建物は見当たらなかった。よし、ここまでは勇者の影響は届いていないようだった。
街の規模としてはアタリメと同程度くらいだろう。
まずは冒険者ギルドに向かい、ギルドカードの更新を行おう。そうすれば、この国でも冒険者として活動できるようになる。
冒険者ギルドも木造だった。今までのギルドは全て石造りだったので、なんか新鮮だ。
ギルドに入ったのだが、あまり人はいなかった。依頼の掲示板を見ても、あまり依頼の数は多くない。
A:この国では冒険者よりも探索者の方が圧倒的に人気です。探索者は冒険者ギルドにも登録していることが多いですが、冒険者としての活動はあまりしません。
「あまり人がいないわね」
「皆迷宮の方に行っているみたいだな」
「基本的に迷宮ありきの国と言うことですわね」
「地下に迷宮があるせいで、田畑を作るには土の質があまり良くないし、大きな鉱山とかもない。牧場はあるが、農場はあまりないという結構偏った国土のため、どうしても迷宮が中心になってしまうみたいだな」
そのせいで、迷宮に異常があると国家レベルの危機になってしまう可能性がある。結構リスキーな国だよな。
そんな話をしながら受付へと向かう。
「すまない。カスタールから来たんだが、ギルドカードの更新を頼めるだろうか?」
「はい、わかりました。お預かりします」
全員分のギルドカードを渡す。カードを受け取った受付嬢はギルドカードを確認する。
「皆さん、CランクとDランクなんて、お若いのに凄いんですね。この国には迷宮に潜りに来たんですか?」
「ああ、迷宮関連の処理は隣の建物でいいんだよな?」
「はい、隣の探索者協会で登録をお願いします。あ、出来れば、冒険者としての仕事も受けて頂けると嬉しいです」
「はは、探索の合間に立ち寄らせてもらうよ」
苦笑が漏れてしまった。受付嬢さん、1人で業務回せているからね。本格的に人がいないということだろう。
「はい、ギルドカードの更新終わりました」
「ああ、ありがとう」
3日あるから、その間に冒険者として活動するのもありだな。まあ、まずはダンジョンカードやアイテムの購入からだな。
「ねえ、ご主人様。ダンジョンカードにはランクってあるの?」
「ダンジョンカードにはないみたいだな。その代わり、到達階層が記録されるみたいだな。ある意味ではランクみたいなものだが、冒険者ランク程の面倒は付随しないから問題ないな」
「いや、到達階層50って書いてあったら、絶対目立つけどね……」
「そこは……、考えてなかったな。どうしよう……」
困った。さすがに踏破したとなれば面倒事になるだろうな。
「あ、二度とこの国に来なければいいんだな」
「思いきり過ぎですわ」
セラからの突っ込みをいただきました。うん、さすがにそれはやり過ぎだ。
「まあ、何とかなるだろう。なんだったら早いところ王様にコネを作って、上から余計なことをしないように脅させればいいし」
「サクヤちゃんみたいに、この国の王族も跪かせるのですか?」
さくらさん、俺サクヤにそんなことさせてないよ……。でも、サクヤの件で本当に王族(女性限定)をコレクションしている気になってきたからな……。機会があったら狙ってみよう。
あ、何度でも言うよ。エルディア王女、てめーはいらねえ。
「機会があったらな。まあ、捕らぬ狸を数えていても意味がない。まずは迷宮を攻略しようか」
「はい、それもそうですね」
冒険者ギルドの隣にある、探索者協会。こちらは冒険者ギルドと打って変わって石造りだ。何が違うのだろうか……。予算?
A:予算。
中に入ると、こちらの方がどう見ても冒険者ギルドと言った感じだ。ガラの悪そうな奴らが入ってきた俺らの方を見てくる。まあ、女子供が連れ立って来たら、見てしまうのも無理はないよな。
すぐに絡んでは来ないみたいだけど、俺たちが受付の方へ向かっても視線は外れなかった。
「すまない。ダンジョンカードの発行を頼む」
「えーと、後ろの子たちもですか?」
「ああ、6人分のダンジョンカードだ。騎士からの紹介状があるので、そちらの処理を頼む」
「は、はい」
そう言って受付嬢さんに紹介状を手渡す。エリンシアはこの街の騎士だし、これで大丈夫だよな。
その段階でガラの悪い男が数名近づいてきた。よし、テンプレだ。
「騎士からの紹介状だー?てめえ、一体いくら騎士に金渡しやがったんだ?」
なるほど、大したことなさそうな奴が騎士から紹介を受けていた場合、騎士を金で買収したと思われるのか。最初に来てエリンシアに殺された騎士は買収できそうだな。エリンシアは……、うん、無理だな。
余談だがマリアは調教済みなので、いきなり攻撃せずに大人しく殺気を飛ばしている。
「そんなに金が余ってるなら俺……」
「ひいっ!」
―ガタッ―
受付嬢さんが悲鳴をあげて椅子から転げ落ちた。覗いてみるとひっくり返っており、ストッキング越しに白いパンツが見えている。
「な、なんだ?」
話を途中で遮られたガラの悪い男も当然のように驚いている。受付嬢さんはブルブルと震えており、俺のことを悪魔でも見るような目で見ている。
「どうしたんだ?」
「ひいっ、すいません。すいません。すぐにダンジョンカードを用意しますから、この失態は内密に!」
「落ち着いてくれ。別に取って喰うわけじゃないんだから……」
「は、はい……」
「で、なんであんなに驚いたのか、教えてくれるよな?」
強めの語尾で問いただす。さすがにあんな反応をされたら、気になるじゃないか。
「は、はい。そのかわり、この事はエリンシア様には内緒にしていただけますか?」
「エリンシア!?」
「まさか!?エリンシアの推薦!?」
―ザワッ―
周りにいた人間すべてが騒めき、その顔に恐怖か驚愕を張り付けた。
エリンシアがどうかしたのだろうか?確かに苛烈な部分もあったが、悪人と言うわけじゃあないだろうに。
「ああ、わかった」
多分そう言わないと話が進まないので、とりあえず了承する。
「はー、ありがとうございます。……驚いたのは推薦者がエリンシア様だという点です。エリンシア様について詳しいことはご存知ですか?」
「いや、少し縁があっただけで、詳しいことは知らない」
「そうですか。それなら納得です。では少々説明させていただきます。まず、あの方はこの街に駐在している騎士団の団長で、この街の探索者としても最強の1人と言われています」
確かにエリンシアのレベルもスキルも結構高かった。あれくらいあれば、街最強の称号くらいは得られるだろうな。
「彼女はその力と苛烈さ、そして武器の細剣から、鋼鉄の処女と言われています。もちろん、陰でですけど……」
この世界にも鋼鉄の処女とかあるのか……。
「そして、彼女は国益に反したものを容赦なく断罪します」
「国益……、彼女も口にしていたな」
「そうでしょうね。エリンシア様から推薦を受けたということは、貴方は国益になると判断されたのでしょう。ですから、そんな方に無礼な真似をすれば、私の方が断罪されてしまいます」
いつのまにか絡んできた冒険者が元の位置に戻っている。つまり、この街の人間はエリンシアを敵に回すことを恐れているのか?
「ゴビットさんも逃げられませんよ!」
「止めろ!俺の名前を出すな!俺はもう2度とエリンシアに関わらないと決めているんだ!」
そう言って、ゴビットと呼ばれたガラの悪い男は顔を隠して俺から逃げるように距離を取る。よく見るとメチャクチャ震えている。しかもなんか内股になっている。
「ゴビットさんはですね。エリンシアさんに国益を損なうと言われて、股間を細剣で一刺しにされました。殺すほどでもない場合は、大体がそのような処置となります」
この世界に欠損を直す魔法はない。つまりはそういうことだ。少し下半身がひやっとした。
「この街には少なからず、エリンシア様の断罪を受けた男性がいます。あ、女性の場合もほぼ同じ処置です。なんでも、国益を損なう血統を次代に残すわけにはいかない、だそうです」
「それはまた、何とも……」
いや、まあ、彼女を見ていたら、やりかねないという気もするけどね。
横で見ていたミオが話に入ってきた。
「じゃあ、受付のお姉さんやゴビットさんがご主人様に粗相をしたって、エリンシアさんに伝えたらどうなるの?」
「止めろ!」
「止めてください!」
2人とも必死な顔をして叫ぶ。
「あ、だから受付嬢さんは最初に内密にって言ったのか……」
「ええ、その通りです。私、初めての相手が細剣なんて、絶対に嫌です。結婚して幸せな家庭を築きたいのに……」
ちゃっかり、受付嬢さんの個人情報が垂れ流しになった。
「で、ゴビットさんはどう落とし前を付けるのかな?」
ミオが笑顔で言う。それを聞いたゴビットは顔を真っ青にする。そんなにエリンシアが怖いのか……。
「あ、有り金全部渡すから!そ、それで許してくれ!」
「どうします?ご主人様?」
そこで俺に振ってくるのか。ミオも若干ずれたがテンプレを楽しんでいるようだな。
「いや、別に大したことをされたわけでもないし、有り金全部を貰っても困るんだが……」
絡もうとして失敗しただけの相手くらいなら別に気にしないよ?実害はなかったし。もちろん、不愉快な言動を繰り返したり、武力行使に出てきたら話は別だけどね。
「いや、やっぱり有り金全部払わせてくれ!そうしないと、謝罪してないってこと自体が怖え!」
ああ、お金を払ってしまえば明確な謝罪になるけど、ただ単に気にしないと言われただけでは相手がそれを翻したときの言い訳がしにくくなるのか。
だからと言って有り金全部はやり過ぎだ。だって、絶対今後の生活に差し障るだろ?後、俺が恐怖の代名詞にされる。
「……そうだな。有り金全部は要らない。その代わり、お前の知っている美味い食事を出す店で夕食を奢れ、それで許してやる」
「わ、わかった。任せてくれ!常連になっている美味い店を教えてやる!」
コクコクと頷くゴビット。街を知っている地元民から、美味い店の場所を聞いてそこで奢らせる。完璧だ。
《セラ、奢りだけど兵糧玉も食えよ》
《なぜですの!?折角の奢りですわよ!》
《いや、セラに満腹まで食わせたら、有り金全部奪うのと変わらないからな?》
《と言うかセラちゃん。奢りで満腹まで食べる気だったんだ……》
さくらも呆れている。日本人の感覚から言うと、奢りでお代わりってあまりしないよな。
《くっ、仕方ありませんわ。我慢しましょう……》
そんなことを考えていると、受付のテーブルの上にカードが置かれた。
「お話し中すいませんが、ダンジョンカードの準備が出来ました。騎士の紹介が……、エリンシア様の紹介があるので、ダンジョンカードEXをお渡しします。後は血を垂らせば登録完了です」
EX。なんか素敵な響きだな。言われた通り血を垂らして『所有』の魔法を有効化する。この辺りはギルドカードと同じだな。
「ありがとう。じゃあ、俺たちはこれで失礼するよ」
「あ、じゃあ俺について来てくれ。美味い店に案内するからよ」
ゴビットが先導する。
「あ、くれぐれも内密にお願いしますよ!私の未来のために!」
最後に念を押すのを忘れない受付嬢さんに会釈をして、探索者協会を後にする。
「こっちだ」
ゴビットに案内されたのは街の西側にある宿の付いた食堂で、食事だけをとることもできるようだ。早速入ると、恰幅のいいおばさんと、若い女性が切り盛りしているようだった。
「いらっしゃい。おや、ゴビットか。また夕食を食べに来たのかい?」
恰幅のいいおばさんはガラの悪そうなゴビットに物怖じせずに言う。常連と言うのは本当のようだな。
それよりも看板娘ですよ。看板娘!やっぱり酒場とか料理店とか宿屋には看板娘が必要だよね。20歳くらいで茶髪を肩くらいで切りそろえている。美人と言うよりは愛嬌のある感じだな。
「サナちゃん。いつものヤツを人数分頼む」
「わかりました。7人分ですね」
「ああ」
しばらく待っていると、人数分の料理が運ばれてきた。メニューはパンとシチューとステーキだ。ガッツリですね。女の子が多いのに、このメニューのチョイスはどうかと思うんだ。
早々にギブアップしたさくらとミオは食べる前から半分くらいをセラの方に移していた。
シチューは牛乳が使われているようでなめらかな味だった。美味いな。シチュー自慢のエルディア最初の村よりも美味い。ステーキも特製のソースがかけられており、香ばしい匂いがしている。こっちも美味い。この国は食料自給率が高くはないが、牧場はあるからな。肉や牛乳には強いのだろう。穀物はあまり得意ではないからか、パンの質だけは肉に対して低かったが……。
「美味しいわね。レシピが欲しいわ」
「そうですね。今まで食べた中では肉質が最高です。まあ、仁様の奴隷になる前は大したものを食べてないから比較対象が少ないんですけど……」
「セラちゃん、少し返してくれませんか?」
「ダメですわ」
「……とりあえず、宿はここで決まりかな」
《やったー!》
メンバーのみんなにも好評なのでおばさんに言って宿をとることにした。ゴビットにも合格のサインを出してお役御免だ。ちなみに拠点に帰らないのは観光中にいちいち家に戻るとか興がそがれること請け合いだからだ。
翌日、朝食をとった俺たちは迷宮探索用のアイテムを買いに行くことにした。余談だが朝食にはステーキは出てこなかった。せいぜいハムが出てきたくらいだ。いや、当然か……。
マップで調べて、探索者協会御用達の道具屋を見つける。木造の店で、品物が棚に置かれている。見れば初心者用セットが置いてある。中身はどうなっているんだろう。
A:初心者用セットには迷宮用相転移石が1つ、迷宮用マップが1つ、迷宮用アイテムボックスが1つ、迷宮用ポーションが3つ入っています。
全部に迷宮用って付いているんだな。
A:はい。迷宮でしか使えません。細かい説明をしますか?
頼む。
A:相転移石は迷宮からの脱出用で、使えば迷宮の入り口に転移できます。もう1度使うことで迷宮内の相転移石を使ったところから再スタートできます。補足としましては使い捨てで、魔物との戦闘中には使えないことですね。
言ってしまえば中断セーブと言うことか。しかもセーブ枠は1つしかないと……。
A:迷宮用マップは通った道を自動でマッピングしてくれます。ただし、その階層の間だけで、他の階層に行くとリセットされます。なので階層移動の前に書き写すのが探索者のお約束となっています。探索者協会でもマップは買い取っていますので、未踏破地域の情報はお金になります。逆に探索者はお金を出してマップ情報を買うこともできます。
まあ、大抵の人間にとって迷宮内の地図情報は生命線だろうしな。
A:迷宮用アイテムボックスはその名の通り迷宮内でのみ使えるアイテムボックスで、容量は物置2個分くらいですね。迷宮を出るとばら撒かれますので、その前には預り所とか、換金所があります。迷宮用ポーションも迷宮内でしか使えませんが、通常のポーションよりも大分安くなっています。
本当に初心者用って感じだな。それにしても迷宮用か……。迷宮内でしか使えないのが悔やまれるような効果だよな。
A:逆ですね。迷宮でしか使えないという条件を付けることで、何とか実現できたという方が正しいかと。
ああ、転移魔法も有用なレベルでの実現はないみたいだしな。だからさくらが作れたわけだし……。
と言うか、コレ、買う必要あるか?全部俺たちなら何とかなると思うんだけど……。
A:不要です。ですが、探索者として活動するのなら買わないのも不自然なのではないかと思います。
それもそうだな。折角探索者をやるなら、序盤だけでも手順に則るべきだろう。後半?自重が消えるね、確実に。
そんな内容を念話で伝え、人数分の初心者用セットを買うことにした。1つ1万ゴールドだ。アイテムボックスとかを考えればかなり安い。
他にも迷宮内でしか使えないアイテムを細々と買い込み、迷宮探索の準備が完了……してしまった。新入り3人のメイド修行を待つので、することがなくなってしまった。
「じゃあ、冒険者として活動しませんか?」
さくらからの提案を受け、ギルドの受付嬢さんからも誘われていたことを思い出したので、早速冒険者ギルドに向かうことにした。
そこにいたのは涙目になった受付嬢さんただ1人だった。冒険者が1人もいないし……。
「あっ!昨日の冒険者さん!丁度いいところに!」
受付から出てきて俺にしがみついてくる。柔らくて気持ちいいのだが、結構強めに抱き着いてきている。何としてでも逃がさないぞと言う執念を感じる。
「誰も受けてくれないんです!この依頼を受けてください!」
そう言って渡された依頼票にはこう書かれていた。
吸血鬼の討伐
Bランク
期限:依頼受諾より10日間
リーリアの街西部にある廃墟に潜む吸血鬼の討伐
報酬: 500万ゴールド
テンプレは叩き潰すもの。ギルド登録とかでガラの悪いやつに絡まれるイベントは最後までやらせません。
迷宮王国編も3話を超えたのにまだまだ迷宮に入る気配すら見えません。なんだよ、迷宮関係ない普通の依頼が来るとか。