第37話 国益と孤児奴隷
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声のした方を向いてみると、穏やかな笑みを浮かべた鎧姿の女性が立っていた。走ってきたのか、若干息を切らしている。年齢は20歳くらいで、長い金髪をたなびかせている。武器は腰に下げた細剣だろう。
「だ、団長。どうしてここに!?」
驚愕の声を上げたのは偉そうな騎士だ。
「それはもちろん。貴方がこの村にいるのと同じ理由ですよ」
「え、ええ。ですが、支援物資の準備をしてから来る予定だったのではありませんか?」
「そのつもりだったのですけどね。貴方が先に出発したという話を聞いて、大慌てで追いかけてきたのですよ。そのせいであまり物資を積めませんでした。勿体無い」
女性の声は穏やかなんだけど、偉そうな騎士の方を見るとすごい脂汗を流している。
「それでお聞きしたいんですけど、何故貴方はこの村への救援に来てくださった冒険者さんにそのような要求を出しているのですか?」
「そ、それは調査目的で、魔物の死骸を得るために……」
「では何故、適切な対価を支払おうとはせず、恐喝まがいのことをしようとしているのですか?」
「そ、それは……」
言葉に詰まる偉そうな騎士。どう考えても正当性がないのだから言葉などでてこないだろう。
「もう1つ。なぜ貴方が連れてきた部下は、魔石の剥ぎ取りが得意な騎士ばかりなのでしょうか?」
「……」
なるほど、俺たちを追い出そうとした理由。死骸を取り上げようとした理由が1つに繋がるわけか。つまり、魔石を横領してその責任を俺たちに押し付けようというのだろう。しかし、何ともお粗末な策だな。
「はあ、何を考えているか予想は簡単なんですけど、絶対に上手くいきませんよ。それ……」
確信を持った口調で女性が言う。
「な、なにを……」
「少し考えればわかることですよ。この冒険者さんはカスタールの依頼を受けてここに来ました」
「え、ええ」
「どうやって?」
「え?」
呆けた顔をする偉そうな騎士。
「カスタールの王都からここまで、馬車で2週間はかかります。それだけの距離が離れているのに、国から依頼を受けてきたんですよ。高速の移動方法か、我が国の対話石のような長距離伝達手段がなければ、依頼なんてできません」
「あ……」
あ、対話石っていうのは、エステア以外では使いにくいって説明をした遠距離通信用の魔法の道具のことだよ。
「もっと言えば、カスタールへの緊急通信は王家に向けて行われます。つまり、その冒険者さんには、カスタールの王家と少なくはない繋がりがあるんですよ」
「ああ……」
そこまで言われた段階で、偉そうな騎士は真っ青になっていた。
「さて、お待たせして申し訳ありません。冒険者さん、お名前をお聞かせいただいてもよろしいですか?」
「仁だ」
「マリアです」
「ありがとうございます。仁さん、マリアさん。今からお話は私エリンシアが引き継がせていただきますね」
そういうとエリンシアはこちらに近づいてきた。その途中で偉そうな騎士が急に立ち上がり、エリンシアに向けて剣を振りかぶった。おいおい、短気はよくないよ。
エリンシアは偉そうな騎士の方を一瞥すると、剣が振り下ろされるよりも先にその眼球を細剣で貫いた。そのまま崩れ落ちる偉そうな騎士。まあ、即死だろうな。
一瞬の早業により偉そうな騎士の命を刈り取ったエリンシアは、何事もなかったかのように近づいてきた。
「申し訳ありませんね。騎士団の者がとんだ粗相をいたしました。ご覧のとおり処分しましたので、どうかお許しください」
丁寧にお辞儀をするエリンシア。こっちは正直ドン引きである。何事もなかったかのように穏やかな顔のままだし……。
「よかったのか?アレ……」
「ええ、ここまで勝手に振る舞ったのです。襲い掛かってこなかったとしても、謝罪の意味を込めて死んでもらう予定でしたから」
「そ、そうか……」
この女、結構容赦ないな。
「そこで死んでいる騎士が言ったことは、全て忘れて頂けると幸いです」
「そうか。この村から出て行けと言われたから、その準備をしようと思っていたんだがな……」
「出ていけだなんてとんでもありません。ぜひゆっくりしていってください」
「わかった。そうさせてもらおう」
「では、私は村の方に向かいます。仁さんはいかがいたしますか?」
「馬車の方に行く理由もなくなったからな、俺も向かおう」
連れ立って村へと戻る。後から来た騎士たちが、すでにいた騎士たちを叱責している。俺たちが倒していない魔物の魔石をはぎ取ろうとしていたようだ。
「ご安心ください。彼らも後で処分いたしますので」
いや、そこまでしろとは言っていない。でも撤回させる義理もない。
「それで、今度こそ引継ぎを任せてもいいのか?」
「ええ、お任せください。私は急いでいたのであまり物資を持ってきてはいませんが、後続の騎士たちがしっかりと準備してきているはずですから」
「それならいいんだ。正直アイツらに任せるのは不安だったんだ」
A:警戒の引継ぎより先に、魔石漁りに精を出していましたからね。
救いようがねえな。
「そうでしょう。急いで警戒用の人員を、続いて補給物資を送ろうとしたんですけど、まさか彼らが警戒用の人員として向かうとは……。いえ、私の監督不行き届きですね。本当にご迷惑をおかけしました」
「まあ、いまさら言っても仕方のないことはいいさ。それよりも今後の話だ」
「ええ、今仮設の対策本部を設置させていますので、続きはそちらで……」
新しく来た方の騎士たちが仮設のテントを用意していた。奥の方にはテーブルも用意されている。用意してもらった椅子に腰掛ける。
「では、お話の続きをいたしましょうか」
「ああ」
「まずは状況の説明をお願いします。あ、先ほど話していた高速移動とか遠距離通信の話はしなくて結構です。あまり大っぴらにできない話でしょうし、他国のトップも関わる話ですからね」
言える訳がないことなのでありがたいな。と言うか、こういう対応に関しては凄く真っ当だな。
「ああ、俺たちがこの街に来た段階で、Bランクの魔物が10匹、それ以外の魔物が30匹程度いた。正確な魔物の内訳とかは必要か?」
「いえ、結構です」
「わかった。俺たちのパーティ14名で2人1組となり殲滅に当たった。外側から中心に向かった組と、村の中から外側に向かった組に分かれたので、打ち漏らしはないはずだ。俺たちが倒した魔物はその場で回収し、それ以外はその場に残した」
「はい」
紙に内容を記載していくエリンシア。
「魔物を殲滅した後は消火活動と救護活動を行った。Bランクの魔物は火属性を持っていたので、火災が起きていたからだ。救護活動の方は重傷者から順に回復魔法をかけた。俺たちが来てからの死亡者はいないようだった」
「回復魔法まで使えるのですね」
「その後は魔物が出てこないよう警戒しつつ待機していた。後は村人たちが亡くなった人たちを回収に出ていたな」
「以上ですか?」
「ああ」
そこでエリンシアは手を止める。
「良かったです。あの騎士を早いうちに殺しておいて」
またしても物騒なことを言う。
「処置に関しては文句のつけようがありません。実力があり、カスタール上層部とのつながりのある冒険者さん。そんな方に対してあれ以上失礼なことをされては、国益に関わります」
はあ、とため息をつく。それだけ見れば穏やかな淑女なんだが、如何せん行動が物騒すぎる。
「話は分かりました。警戒はこちらの方で引き継ぎます。魔物の死骸については適正価格、いえ、迷惑料も合わせて割増しで買い取りましょう。とは言え、手持ちでは払いきれないので街でお支払いすることになります。とりあえず数匹はこの場でお引き取り致します」
少なくとも死んだ騎士よりはまともな対応だな。
「お金は割増ししなくていい。代わりにこの国で迷宮に入る権利を貰えないか?」
「そんなものでいいのですか?この村……、は無理ですけど、どこの街でも普通に得られますよ」
「ああ、でも騎士の推薦で発行するカードの方が上等なんだろ?」
アルタ情報である。迷宮に入るには冒険者のギルドカードとは別の証明証、「ダンジョンカード」が必要となる。普通の街で発行してもらえるのだが、騎士の推薦があると少し上等な「ダンジョンカード」が貰えるとのことだ。
上等なダンジョンカードがあると、迷宮に入るのにお金が不要になる。毎回お金を払うのが面倒だし、あれば困ることはない。
「ええ、その通りです。わかりました、人数分のダンジョンカードの推薦はお任せください」
そういうとエリンシアは荷物から上等な封筒を取り出し、サラサラとなにかを書いていった。恐らく推薦文だろう。
「こちらをお持ちください。この周辺の街でしたらこれだけで十分なはずです。さすがに少し離れると確認に時間がかかりますけど……」
「いや、十分だ。ありがとう」
「いえ、お役に立てたなら幸いです」
どうやって手に入れるか悩んでいたんだよな。サクヤ経由はやり過ぎだし……。いや、入場料が高いってわけじゃないんだけどさ、ただ、ほら、特別版があると欲しくなっちゃうだろ?ギルドカードのSランクと違ってデメリットないし……。
「あ、そうだ。魔物を渡さないと……。この場でいいのか?」
「ええ、そちらのシートの上においてください」
「わかった」
近くにブルーシートのようなものがあり、魔物の死骸が集められている。その一角にファイアーファングの死骸を置く。
「報告にあった通りファイアーファングですか……」
「フレアテイルもいるぞ」
「間違いなく迷宮を進んだ先の魔物ですね」
見る人が見ればわかるのだろうか?
A:わかるみたいですね。ステータスもそれを示しているでしょう?
エリンシア
LV52
<剣術LV5><盾術LV2><風魔法LV2><身体強化LV4><迷宮適応LV2>
もしかして<迷宮適応>スキルの事か?これって人間にも付くんだな。……て、あれ?俺に付けることできないみたいだけど?
A:それを付けるには条件があります。
何それ?
A:ヒント1、<迷宮適応>を持てるかどうかは生まれ出る前に決まっており、生まれたときに付きます。ヒント2、<迷宮適応>は迷宮内で生まれたものに付きます。ヒント3、迷宮内は薄暗いところも多く、魔物が多いので緊張感があります。
あー、はい。なんかわかりました。……しかし、下世話な話だな。
A:だからこそのヒント形式なんですけどね。
ってことはエリンシアも?
A:まあ、そういうことです。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
「そうですか。ではこちらが料金になります」
「ああ」
袋を受け取り、中身を確認する。
「一応、これで用事は終わりなのですが、仁さんはこれからどうなされますか?」
「そうだな。時間も半端だし、今日はこの村で1泊して、明日近くの街へ向かうとするよ」
「わかりました。それでしたら私共の拠点であるリーリアの街へお越しください。この辺りでは大きな町ですし、お勧めできますよ」
「ああ、参考にさせてもらうよ」
仮設テントを出て馬車へと戻る。夜になる前に補給物資を乗せた馬車がやってきたようなので、ミオたちに料理を手伝わせたり、お米を炊いて村人に配ったりした。
次の日、出発前にエリンシアとローナに挨拶をしていこうと思ったら、都合よく2人が仮設テントで話をしているようだった。
「……何とかなりませんか?」
「無理でしょうね。街の方も余裕があるわけではないですから」
なんかあまりいい雰囲気ではなさそうだな。
「おはよう。どうしたんだ?」
「あ、仁さんおはようございます」
「おはようございます。ええと、少しこの村の今後について相談をしていたんです」
「何のことだ?」
「簡潔に言えば孤児が多すぎるということです」
「ああ……」
先にも述べた通り、冒険者などの戦える人間の多くは魔物を食い止めるために死亡したり、重傷を負ったりした。その代わり、女子供の被害は少なめだ。その結果、孤児が多く出てしまったということだろう。
「孤児院とかがあるだろう?」
マップを見る限り、この村にはなさそうだが……。
「この村にはありません。数名、私の家、つまり村長宅で孤児を育てているんですけど、これ以上は無理です」
「街の方に行っても孤児院に空きはありません。この国は良くも悪くも迷宮が屋台骨です。探索者が死に、孤児が出てくることはなくなりません。孤児院に余裕のある町はないでしょう」
村でも孤児院でも育てられないとなると……、あまり愉快な未来は見えてこないよな。
「国益のためには子供を囮にしても働き盛りの男性に生きていてほしかったところですね」
「そ、そこまで言うことはないでしょう!」
ローナが声を荒げる。
「結論から見れば、この村は村人のバランスが崩れて、少々厳しい状況に立たされましたよ?」
「ですが、戦える人は少しでも女性や子供を守ろうとしたんです!その行いが間違っているとは思いたくありません!」
エリンシアは少々考え込むそぶりを見せる。
「そうですね。少々言い過ぎました。申し訳ありません。結論だけを見てはいけませんね。仁さんがあれほど早く到着しなければ、正しい判断だったはずですからね。例外を想定して、普通だったら非難されるような行為をするのは合理的ではありませんからね」
え?俺が悪いの?そんな俺の表情を読み取ったエリンシアが補足する。
「あ、仁さんは悪くありませんよ。仁さんが来なければ被害は確実に大きくなっていましたからね。その場合はうまく隠れた方が数名生き残ればいい方と言う予想でしたから」
「はい、普通に全滅もあり得ました……」
うん、残った村人でどうにかなったとは思えない。
「戦ったことの是非はともかく、この村の状況はいまさら変わりません。1番の危機は去りましたが、復興にも大きな力が必要です。しかし、今のこの村に力はほとんどありません」
エリンシアの言い方は苛烈に過ぎるが、死亡者の比率が偏り、村として厳しいのは事実だ。
「国から補償金が出るとは言え、孤児全員を生活させていくほどの余裕はありません。少しでも働ける男の子は何とかしても、力のない女の子は奴隷として売るしかないでしょうね」
「やっぱり、それしかないですかね……」
「少なくとも、この村、周辺の街で打てる手はそれくらいになると思います。騎士団もいつまでも逗留できるわけではありませんし、早いところ最低限の復興はしてもらわないと困ります。孤児の問題に力を入れる余裕は、どう考えてもありません」
エリンシアは多数を生かす代わりに、少数や力の無いものは容赦なく切り捨てる方針のようだ。偉そうな騎士しかり、孤児しかり……。反面、俺のように利益、エリンシア的に言えば国益になるような相手への配慮は忘れないようだ。
ここまで思い切った人間は嫌いではない。中途半端に媚を売るのではなく、『貴方は利益になるから大切にします』と宣言しているような感じだな。いや、まあ、やや苛烈すぎる気もするけど……。
……と、話がそれたな。とりあえず話を聞いていて思ったこと。
コレ、チャンスじゃね?
「もし奴隷として売るなら、俺が買い取ってもいいぞ?」
「え?」
ローナが驚いたような声を上げる。エリンシアは喜色を浮かべて話しかけてくる。
「よろしいのですか?そうしていただけると非常に助かるのですけど……」
「ああ、これでも結構な数の奴隷を所有しているからな。何人か増えたところで大して変わらない」
「……でしたらお願いしてもよろしいでしょうか。今、孤児の女の子は7名います」
ローナも覚悟を決めたようだ。7人くらいなら全く問題はないだろう。
アルタ、この国の奴隷の相場を教えてくれ。
A:孤児も多いので、子供は安いです。1人5000ゴールドあればで十分です。
「全員買い取ろう。料金は20万ゴールド払おう」
「よろしいんですか?相場よりもかなり高そうですけど?」
「大丈夫だ。復興資金の足しにでもしてくれ」
「わかりました。奴隷紋は街で付けてもらいましょう」
「いや、俺は奴隷術を使える。仮にも村人を奴隷にするわけだし、ローナとエリンシアには立ち合いをお願いしてもいいか?」
奴隷狩りのように無理やり奴隷にするのでなければ、公的な立場の人間に立ち会ってもらった方がいいというのは、暗黙のルール、いやマナーのようなものらしい。無理やりじゃないですよアピールと言うわけだ。
「仁さんは多芸なんですね。わかりました。説得をしたら連れてきますので、しばらくお待ちください」
そう言ってローナが出て行った。顔色は良くない。親を失った孤児に奴隷になれと言いに行くのだから当然だ。それを買い取る俺マジ鬼畜。だって、カスタールの孤児院に連れていくとか、奴隷にしないで仕事を与えるとか、その気になればいくらでも打てる手を俺は持っているのだから……。
あ、そうだ皆に遅くなるって伝えておこう。
《ちょっと遅くなる》
《どうかしたんですか?》
《孤児を奴隷として買うことにした。奴隷紋とかいろいろするから結構時間がかかる》
《またですか。わかりました。ごゆっくりどうぞ》
《いってらっしゃーい》
さくらさん。もう言い訳する必要もなく受け入れてくれてますね。
しばらく待っていると、ローナが年齢のバラバラな女の子たちを連れてきた。1番上が11歳で1番下が5歳か。うん、予定通り。
「皆、彼があなた達のご主人様になる仁さんよ。ご挨拶なさい」
ローナがそう言うと、1番年齢の高い少女が前に出てきた。他の子たちも一様に暗い表情だ。まあ、当然だろうな。
「旦那様。私たちはあなたの奴隷となります。しっかりと働きますので、よろしくお願いします」
少女がそう言って頭を下げる。それに合わせて他の子たちも頭を下げる。
「わかった。よろしく頼む」
俺がそう言うと、少女たちは服を脱いで背中を見せてきた。順に奴隷紋を刻んでいく。そのまま血を付けて正式契約まで終わらせる。
無事7人は俺の奴隷となった。
A:おめでとうございます。これで勇者の配下が2人目になりました。
つまりはそういうことだ。今回の奴隷となった孤児の中に1人勇者称号を持つ子がいたのだ。元々奴隷でないのだから、配下にするのは無理だと思っていた。俺の運がいいのか、はたまた勇者に運がないのか……。多分両方だろう。
シンシア
LV1
性別:女
年齢:11
種族:人間
スキル:<封印LV10><迷宮適応LV1(無効状態)>
称号:仁の奴隷、人間の勇者
シンシアは腰まで伸びた紫色の髪を後ろで1本に縛っていた。
ちゃっかり<迷宮適応>のスキルもついているし、想像以上に良い拾いものだった。あ、後3人ほど<迷宮適応>のスキルを持っている子がいたけど、今は詳細を省く。
「じゃあ、これが代金だ」
そう言って、ローナに30万ゴールド渡す。
「ありがとうございます。……明らかに20万より多いんですけど……」
「復興資金の足しにでもしてくれ」
「……はい。ありがとうございます」
気分がいいときにはチップをはずまないとね。
「あ、仁さん。ちょっとよろしいですか?」
「なんだ?」
エリンシアに呼ばれてテントの端の方に向かう。
「これを」
「?」
ダンジョンカードの時と似たような封筒を渡された。
「リーリアの街の奴隷商への紹介状です。そこは愛玩用奴隷の品ぞろえが良いことが一部に知られています。その紹介状があればスムーズに取り次がれるでしょう。不要でしたら破り捨てて構いませんので……」
「……ありがたく受け取っておく」
エリンシアさん。利益のためなら手段を選ばないみたいですね。この短い時間でこんなものを用意していたなんて……。後、エリンシアが奴隷商、しかもそんな奴隷商とコネがあることにも驚きだけどね。うん、詳細は聞かないよ。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
「ええ、何でもありません」
ローナに問われたので、何でもないと返す。ああ、何でもないな。
「そうですか。それで、彼女たちはどうするのですか?」
そう言って、奴隷になった少女たちを示す。
「ああ、数名は迷宮探索に加え、残りは俺の拠点に送る。秘密の方法でな」
「迷宮探索!秘密の方法?」
理解できないようで、ローナは少し混乱しているようだ。少女たちも怯えているようだ。
「ああ、安心しろ。囮にするとかそういう話じゃない。戦う力を与えてやるというだけだ。魔物を屠る力は、持っていて困ることはないぞ」
俺がそう言うと、数名の少女の目に力が宿った。やられっぱなしが嫌な子もいるよな。丁度良く<迷宮適応>持ちだ。うん、育て甲斐がありそうで何よりだ。
そしてエリンシアは何も聞かない。力ある冒険者ほど、聞かれたくないことが多いということをわかっているようだな。本当に、適切な対応だよ。
「旦那様は私を強くしてくれるのです?」
勇者であるシンシアが聞いてくる。
「ああ、お前たちが望むのなら」
「なら、私を強くしてほしいのです。魔物に、いえ、どんな敵にも負けないくらいに」
真剣な目で訴えかけてくる。勇者だから戦わせるのは決めていたが、本人がここまでやる気と言うのは嬉しい誤算だったな。
「それはお前の努力次第だな。何もしない奴に力は与えられない」
「はいなのです!」
シンシアに呼応するように他の<迷宮適応>持ちの少女の内2人が前に出てきた。
「「あ、あの……、私たちも戦います」」
「わかった。お前たちも強くなりたいんだな?」
「「はい!」」
声がそろっている。見た目もかなり似ているので、恐らく双子だろう。
A:そうです。
ほらね。
ソウラ
LV1
性別:女
年齢:10
種族:人間
スキル:<剣術LV1><迷宮適応LV1>
称号:仁の奴隷
カレン
LV1
性別:女
年齢:10
種族:人間
スキル:<槍術LV1><迷宮適応LV1>
称号:仁の奴隷
青い短髪がソウラ、赤い長髪がカレンだ。天然で1ポイント武術スキルを持っているし、何より双子だ。双子と言ったらとりあえず同調技かな。声を出さずに息の合ったチームプレーだ!……念話でOK。あれ?
「他のメンバーは俺の拠点でメイド見習いだがいいか?」
「はい、よろしくお願いいたします」
また最年長の子が頭を下げ、他の子が追従した。まあ、無理矢理連れていくつもりもないし、迷宮係もまずは3人いれば十分だろう。
「ローナ、エリンシア、こちらは終わった。本当は出発の挨拶をしに来たんだ。すっかり話し込んでしまったが……」
「そうだったのですか。仁さんの出発前にこの話題が出てよかったですね」
「そうですね。仁さん、何から何までお世話になりました」
「いや、気にするな。それよりもこの村が大変なのはこれからだからな。頑張ってくれ」
「はい」
そこでエリンシアが手を挙げる。
「仁さんは次はどちらへ?」
「あそこまで堂々と誘っておいてそれを聞くのか?リーリアに決まっているだろ」
「そうですか。それは嬉しいです」
小さく微笑むエリンシア。いや、決して奴隷商に惹かれたわけじゃないからな。近くで大きくて、エリンシアの推薦状でギルドカードがもらえる街だから行くんだからな。……いかん。言い訳をすればするほど説得力がなくなっていく。
A:そうです。
いや、そこで定型文を出されても困るんだが……。
「では、機会があればリーリアの街でお会いしましょう」
「ああ」
そう言って仮設テントを離れる。
これで迷宮攻略がだいぶ楽になりそうだな。え?マップがあるって?いや、マップと迷宮って一部相性が悪いんだよ……。
新キャラのエリンシアは個人的には結構お気に入りです。あ、配下にはなりません(盛大なネタバレ)。ポジション的にはギルバートが近いです(こっちのほうが有能)。
あらあら、うふふなおお姉さんを書きたかったので書きました(ただし剣は血で濡れている)。
新勇者へのコメントはまだありません。