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第36話 迷宮王国と異常

本編新章突入です。タイトルからわかるかもしれませんが迷宮王国編です。

……また好き嫌いの分かれる物を選びやがって。

迷宮だけで設定がパンクしそうになっております。もし設定上の矛盾があったら、こっそり教えてくれると幸いです。矛盾の確認や修正で筆が進まないったらありゃしない。

 魔族ロマリエ撃破から約半月。


「と言うわけで、そろそろこの国を出ようと思います」

「え、お兄ちゃん出て行っちゃうの!?」


 俺のセリフにサクヤが驚いた声を上げる。

 ちなみにこの場には俺の配下が全員集まっている。膝の上にはサクヤとドーラ、横にはココとロロと言うフル装備だ。ミオは領土争いに負け、横で体育座りしている。


「ああ、この街にもそこそこ滞在したし、目的であった拠点の入手と配下の拡充も随分と進んだ。だから、主目的の1つである観光、各地を巡る旅に戻ってもいいと思ったんだ」

「最初に思っていたより、拠点の規模は大きいですけどね……」


 さくらが苦笑しながら言う。うん、ここまで大きな屋敷にするつもりはなかった。


「気付いたら配下の数も多くなってたし……」


 この拠点に残す配下だけで30名以上になっているのだ。この国だけでここまでする予定はなかった。


《ドーラがさいしょのはいかー!》


 ドーラが自信満々に言う。そう言えば<契約のエンゲージリンク>を最初に使ったのはドーラだったな。配下としては1番の先輩と言うことになるのだろう。


「メイド、執事見習いたちの教育も一段落付いたし、冒険者組もBランクになったからな。丁度いいだろ?」


 マリアとルセアが買ってきた奴隷たちの教育を、ルセアの屋敷にいたメイドと執事にお願いしたんだが、最初に与えた<侍女><執事>スキルが良い方に作用し、半月経たずに1人前と言われるほどになった。全員、<忠誠>付いてるし……。

 ちなみにそのメイド、執事元見習いたちは1か所に集まり、跪いて祈りを捧げている。コイツら、俺が見える位置にいると必ず祈りを捧げてくる。仕事中であろうとも変わらないようで、掃除の手を止めて跪いたときは何事かと思った。そのせいで俺は厨房に近寄れない。料理中でも跪くのは止めろと言いたい(衛生面含める)。


 盗賊のところで拾った8人の奴隷たちは、精力的に依頼をこなしていた。そして数日前にBランク冒険者用の試験を突破し、晴れてBランク冒険者に名を連ねることになった。最終的にはSランクになってもらう予定なので、あくまでも通過点ではある。しかし、Bランクともなれば上級冒険者だ。1つの区切りとしては丁度いいだろう。

 余談ではあるが、メイドと執事にも戦闘訓練をさせている。やっぱり、メイドや執事っていうのはある程度戦えなきゃダメだよね。


「そうですね。居心地はかなりいいんですけど、1番の目的は旅ですからね」

「仁様が旅に出るのなら、当然私もお供いたします」

わたくしもついて行きますわ」

《ドーラも行くー》

「料理なら任せてよ!」


 連れていくメンバーはさくら、マリア、セラ、ドーラ、ミオの5人とタモさん1匹だ。

 他のメンバーはこの屋敷に残していく。ミドリは庭でのんびりしつつ、たまに生産をしてもらう。ルセアと冒険者組にはこの街、この国を中心に冒険者として活動をしてもらう。そして、もう少し名声が高まったころにクランの設立を予定している。メイド、執事組にはこの屋敷の管理をさせる予定だ。


 これらのメンバーには全てではないが、俺たちの能力について説明してあり、当然口止めもしている。なので、俺たちがいつ帰ってきても問題はない。


「とは言え、この国を出るのにも時間がかかるから、当分は昼は馬車で移動して、夜になったら宿に泊まるか、野宿するかこっちに戻るっていう生活になると思う」


 野宿自体も旅の醍醐味ではあるが、家でのんびりしたいときにはいつでも帰れるようになったわけだ。


「本当にヌル旅よね」

「ああ、ついにここまで楽にできた。『それ本当に旅?』の完成だな」

「自信満々に言うことじゃないでしょうに……」


 ミオが呆れたような声を出す。


「じゃあ、ミオ1人でずっと野宿するか?」

「いーやー。そんなの嫌ー。あ、ご主人様大好き!愛してるー!」


 そういうと抱き着いてくるミオ。凄い手の平返しだ。食事を引き合いに出した時のセラ並みの手の平返しだ。


「ミオの愛の叫びは置いておいて、次はどの国に行くかだな」

「置いておかれた!」


 ミオは放置です。

 さて、これが1番の議題、『どこの国に行くか』である。そして、カスタール女王国は4つの国と国境を面している。西の1つはエルディア王国。まあ、これはない。


 次に北のサノキア王国。ここはセラの生まれた国でかなり貴族の権力が強い国らしいからな。パスだ。


 次に東のアト諸国連合。こちらは小国の集まった連合である。連合国にすることで発言権を高めている。個々の国としては小さく、文化も多様なので、観光としてみるのならばいいかもしれない。


 最後に南のエステア王国。別名迷宮国。この国は領土の地下に巨大な迷宮ダンジョンがある。いや、これは少し正しくないか……。正確には地下に迷宮がある場所全てが領土なのだ。つまり、その迷宮ダンジョンと言うのは、1国分以上の面積があるということだ。そして、迷宮は階層構造となっているので、実質的な領土は表面上の領土の何倍、何十倍となる。

 迷宮への入り口と言うのは各地にある。もっと言えば、迷宮への入り口がある場所が街、ないしは村となっている。迷宮内は資源の宝庫であり、冒険者、いや迷宮の場合は探索者とも言われるが、彼らが持ち帰る資源が主な特産物である。

 ある意味異世界のテンプレの1つであるダンジョン。これは挑まない手はない。なのでできれば迷宮国の方に行きたい。


 以上のことを皆の前で長々と語った。


「いや、私は知ってるけどね……」


 サクヤが言う。そりゃあそうだろう。隣国のことを知らない女王は辞めるべきだと思う。


「というか、1番交易してるの間違いなくカスタールウチだし……」


 エステア王国は食料自給率が低く、迷宮産の鉱物資源が豊富だ。対してカスタールは食料自給率が非常に高い。豊かな森に広大な田畑、俺たちは行かなかったが湖もある。対して鉱山の数は少ないので、エステアとは持ちつ持たれつと言った状況にある。腕自慢の冒険者が迷宮に挑んだりと人材の交流も多い。


「でもいいの?あの国、勇者支援派だけど……」


 勇者支援派。国家レベルで勇者の冒険をサポートすると宣言している国の事だ。俺が王都で忙しそうにしている間にエルディアから各国に正式に勇者を召喚したから支援してほしいと連絡があったのだ。国内での育成に一段落が付いたので、各地を巡りより腕を磨いてほしいという建前で勇者を各国に派遣し、金銭的なものも含めた支援を引き出そうということだろう。

 調べたところ、魔族の言っていた隣国に戦争を吹っかけて滅ぼしたというのは本当だった。エルディアの北側にあるメルティス王国と言う小国が滅ぼされていた。王族のほとんどが処刑され、ほとんどの住民が殺されるか奴隷に落とされたらしい。


 そんな状況で白々しく他国に援助を求めたので、いくつかの国は支援しないと宣言した。ちなみに支援をしない国には勇者を派遣せず、万が一魔族に襲われても助けないと宣言している。カスタールにとっては何をいまさら、と言った感じである。

 当然、カスタールも支援しない方の国だ。正確にはサクヤは少し悩んでいた。いや、俺やさくらが支援するなと言ったわけじゃないよ。……もしかしたら、その話題が出たときにさくらが急に不機嫌になって、サクヤがちびるほどの殺気を俺が出したことが関係ないとは言えないけどね。


「どちらかと言えば、勇者を支援する国の方が多いからな。勇者支援派と言うだけで行くのをやめていたら、いける国がほとんどなくなってしまうよ。それに、俺が勇者を避ける理由なんてどこにもないからな。出会ったところで鬱陶しい羽虫と何ら変わらないさ」

「勇者を羽虫と言えるご主人様スゲー」


 ミオが変なところで感心している。


「仁様がお望みでしたら、私の事を『羽虫』とお呼びくださっても構いません」


 マリアも勇者だからな……。でもなマリア、そう言うのは忠誠とは違うと思うんだ。


「私は……、出来れば会いたくないですね。でも、勇者がいるかもしれないから行かないというのは、逃げるみたいで嫌です」


 さくらも逃げるつもりはないようだ。『会いに行く』なんてするわけはないが、『会うかもしれないから行かない』と言うのは気に喰わないようだ。ずいぶんと俺に感化されている様だな。


「はい、じゃあ決をとります。エステア王国行きに反対の人ー」


 誰も手を挙げない。うん、知ってた。というか、この言い方で手を挙げる人間を俺は知らない。


「まあ、ご主人様が行きたいと仰るのでしたら、わたくしの方に反対意見はございませんわ。そこそこ活躍できそうですし……」

「そもそも、今のご主人様の言い方で反対できる人がいないでしょ……」


 みんなも知ってた。と言うわけで、次の目的地がエステア王国になりました。


「じゃあ、明日には出発しよう。いつでも戻れるとはいえ、準備だけはしておこう」


 そう言ってその場は解散となった。各人、旅の準備に取り掛かっている。基本的には迷宮攻略に必要そうなものを買いあさる作業だ。メインメンバー以外も俺たちの旅に必要な荷物をまとめたりしてくれている。



 次の日、準備を終えた俺たちは王都を出発した。屋敷の前の見送りはメイドや執事全員が跪いた状態のやや異様な光景となっていた。通行人明確に避けていた気がする。


 エステアまで順調に進めて2週間前後かかる。その間にも街や村はいくつもあるので、のんびり観光をするには丁度いい。サクヤとアルタから話を聞いて、どのような村があるのかは事前に予習済みだ。



 馬車で3時間くらい進んだところで、サクヤから念話が入った。


《お兄ちゃん!本当にごめん!急いでエステアとの国境を越えた先の村に向かって!》

《どうしたんだ?そんなに慌てて?》

《迷宮から魔物があふれてきたみたい。今、緊急連絡用の魔法の道具マジックアイテムで救援要請があったの》


 緊急連絡用の魔法の道具マジックアイテムはエステアでは一般的だが、他の国ではあまり使われていない。これはその魔法の道具マジックアイテムが迷宮から離れるとほとんど使えないという理由から来ている。エステアの迷宮には他にも迷宮専用アイテムがある。迷宮内では有用だが、迷宮から出ると使えないアイテムとか、ある意味わかりやすい。ちなみに迷宮国外では1回使うだけで相当量の魔石が必要になるらしい。


 村や町を守る結界石。当然、エステアの街や村にも配置してある。しかし、エステアの特殊な立地ゆえか、迷宮から出てくる魔物に対しては無力らしい。そのため、入り口周辺の魔物は定期的に間引かれるし、出入り口は厳重に管理されており、衛兵が駐在しているはずである。


《周辺の冒険者で何とかならないのか?》

《規模とレベルが違うの!そこの迷宮は初心者向けのはずなのに、Bランク相当の魔物が複数出てきているの。すでに結構な被害も出ているし!》


 らしいと言えばらしいのだが、迷宮内の魔物は地下深くに行くほど強くなる。そして、ほとんどの魔物は階層間の移動をしない。そのため、上層の魔物が弱い入り口は、初心者用として親しまれて(?)いる。

 初心者用と言われていた出入り口から、Bランク相当の魔物が出てきて無事で済む村はあまり多くない。


《それに国境に近いからカスタールにも被害が出るかもしれないの。そして、今の私にとって、1番機動力が高くて強い冒険者なんて、お兄ちゃんしか思いつかないの!騎士やSランク冒険者に依頼して、全力で飛ばしても数日は絶対にかかるし!》


 サクヤには俺の高速移動コンボを教えてある。『ポータル』にしても『ワープ』にしても、今までの軍事行動を根底から覆すので、内密にしてくださいと土下座されてしまった。


 別にサクヤの頼みを聞いてあげること自体は問題がない。ただ、少し気になることがあるので確認しておく。


《なあ、サクヤ。俺のことを都合がいい手下みたいには考えてないよな?》


 少し声のトーンを落としてサクヤに語り掛ける。魔族関連の後処理は俺も関わったからいいとして、これは完全に国としての対応だ。ただのCランク冒険者に頼むような内容ではない。俺がただのCランク冒険者かは置いておくとする。


《ぴっ。も、もちろんよ。私の方が配下よね。だからこれは依頼。お兄ちゃんを冒険者として扱った指名依頼よ》


 サクヤが変な声を上げて弁解する。

 Cランク以下の冒険者相手に指名依頼はできない。より正確に言うなら、指名依頼に強制力はない。


《報酬は?》


 正直報酬はどうでもいいが、依頼と言うならば用意してしかるべきだからな。


《え?えー、うーん。どうしよ?》


 特に考えてなかったようだ。と言うか、サクヤから俺に与えられる報酬ってほとんどないんじゃないかな。だって、サクヤ自体が俺の配下ものなんだから……。


《まあ、報酬に関しては後でもいいぞ。とりあえず、今はその国境近くの村に向かえばいいんだな?》

《あ、うん。お願い。国境はそのまま越えちゃっても平気だから》


 そこでサクヤからの念話が切れた。まあ、報酬は後のお楽しみと言うことで……。


「と言うわけだ。残念だが観光は無しだな。またの機会と言うことだ。とりあえず、俺は高速移動で先に件の村へと向かう」

「仁様、私もついて行きます」


 当然のようにマリアが手を挙げる。まあ、そうなるわな。


「わかった。他の面々は馬車を屋敷に戻して戦闘準備をしていてくれ。大規模な戦闘になる可能性もあるからな」


 馬車で行って、巻き込まれたら嫌だからな。屋敷においておけば安全だろう。


「せっかくここまで馬車できたのに、何の意味もないわよね……」

「まあ、仕方がありませんわ。とりあえず、ここに『ポータル』おいて行きましょう」



 準備もできたので、俺とマリアは高速移動コンボで進み始めた。

 7日かかる道のりを1時間で踏破した実績のある高速移動コンボだ。今回はさらに本気を出して、30分で2週間の距離を進み切った。途中の村でポータルを置かなかったのが効いたのかもしれない。


 隣接エリアまで到達したので、村の様子をマップから確認する。


「うわー……」

「酷いですね。これ……」


 マリアが渋い顔をして言う。

 そこから見えたのは、大量の赤い点と、緑枠の灰色の点だ。つまり、大量の敵と、死んだ村人と言うことだ。魔物側も結構死んでいるが、Bランクの魔物は10匹残っている。


「急がないとやばそうだな」

「はい」


 ある程度近づいたところで『ポータル』を使い、他のメンバーを呼び寄せる。


「お待たせー」

「おう、早速で悪いがかなりやばい状況だ。魔物の分布自体も結構広がっているから、2人1組で殲滅戦だ。組み合わせは俺とマリア、ミオとセラ、さくらとドーラだ」

「「「「はい!」」」」

《ごしゅじんさまといっしょがよかったー》

「また今度な」

《うんー》


 ドーラは盾役だから組むと若干機動力が不足するんだよな。空を飛ばせれば話は別だけど……。


「あ、拠点組を呼びますか?」

「ああ、さくらの方で呼んでくれるか?」

「はい」

「じゃあ、散開!」


 掛け声とともに2人1組で魔物の殲滅を開始する。

 村に到着した。思っていた以上に被害は大きいようだ。あちこちで火の手が上がっている。どうやら魔物側に火を使うのがいるみたいだな。


ファイアーファング

LV23

<火属性付与LV4><火属性耐性LV3><噛みつきLV3><身体強化LV3><迷宮適応LV3>

備考:火属性の牙を持つ狼。全身が高熱を帯びている。


フレアテイル

LV20

<火属性付与LV3><火属性耐性LV2><噛みつきLV3><気配察知LV4><迷宮適応LV3>

備考:火の尾を持つトカゲ。ヒ○カゲほど可愛くはない。


 この辺りがBランクの魔物だ。レベルの概念は浸透していないが、大体20~30レベル台の魔物はBランク相当として考えてよい。


A:その内、魔物のレベルとランクの早見表でも作りましょうかね。


 誰が作るんだよそれ……。

 それ以外でも見慣れた魔物ゴブリンや見慣れない魔物がちらほら。


ダミーテイル

LV9

<気配察知LV2><迷宮適応LV1>

備考:トカゲの魔物。尻尾は切ってもすぐ生える。ヤ○ン。


ダンジョンワーム

LV12

<毒攻撃LV1><掘削LV1><迷宮適応LV1>

備考:ダンジョン内にいるミミズの魔物。全長1m弱。


ダンジョンゴブリン

LV7

「迷宮こん棒」

<棒術LV1><身体強化LV1><迷宮適応LV1>

備考:迷宮産のゴブリン。普通のゴブリンと大差はない。


迷宮こん棒

分類:棍棒

レア度:一般級


 ちなみに<迷宮適応>スキルは迷宮内で補正を得られるスキルのようだ。主に道に迷わないとか、お腹があまり空かないとかの補助的なものが中心で、戦闘力はあまり上がらない。まあ、迷宮の魔物が迷子になったり、空腹で死んでたりしたら興ざめだ。

 余談だが、迷宮内はほぼすべて魔力だまりのようなものなので、どこで魔物が発生しても不思議ではない。もちろん、その階層に合った魔物だけだが……。そして、このとき迷宮内で生まれた魔物に<迷宮適応>のスキルが付く。


「とりあえず、Bランクの魔物を蹴散らすぞ。それ以外でも出来るだけ強い魔物から倒すんだ」

「はい!」


 村の中にはまだ多数の魔物と村人がいる。木造の建築物が多いせいで、火属性の魔物相手に対する防衛力が低いようだ。


「俺たちはカスタールから救援に来た冒険者だ!逃げるなら俺たちの方に逃げてこい!」


 街の中心に陣取り、大きな声で叫ぶ。これに気付いてこちらに逃げてくれば、それだけ助けやすくなる。


「た、助けてください!」


 言ったそばから1人の女性がこちらの方に駆け寄ってきた。後ろから近付いてきたのはBランク魔物のファイアーファングだ。よく見れば女性が元いた方には数名の冒険者と思われる死体が転がっていた。

 女性が倒れこむように俺に抱き着いてくる。俺と同じくらいの年齢で、怪我はしているものの軽傷と呼べる範囲だ。こんな状況でもなければ役得と言えるんだが……。


「もう大丈夫だ。安心しろ」

「で、ですが、あの魔物はBランク相当の……ひっ!」


 そこまで言った段階で、ファイアーファングは俺に向かって飛びかかってきた。霊刀・未完を飛びかかってきた方に向ける。それだけでファイアーファングは真っ二つになってしまった。あっけないな……。


「凄い……」


 Bランクとは言え、今の俺たちからしてみれば雑魚も同然なので当然の結末だ。

 周辺の魔物を切り捨てながら、徐々に安全圏を広げていく。マップがあるので、隠れている村人を見つけては街の中心の方に誘導する。

 マリアはマリアで最初にフレアテイルを瞬殺してからは、俺とは逆方向を中心に魔物の討伐と誘導をしていた。


 途中からクロードたち拠点組も合流し、村内の討伐も進んでいった。逆に村の外側にいるメンバーは、徐々に内側に進むように討伐している。今のところ打ち漏らしとかもなさそうだな。

 拠点組も危なげなくBランクの魔物を討伐できている。配下の強化も順調のようだ。


 村の中にいたBランク10匹とその他の魔物約30匹は、散開してから10分もしないで全滅することになった。

 とりあえず指示を出しておこう。


《殲滅が完了次第負傷者の手当てや、火災の消火に当たれ》


 さて、街中の負傷者を検索っと。


A:重傷者20名、負傷者34名、死者16名です。重傷者から順に表示します。


 わかった。死にそうな人から順で頼む。


A:はい。


 アルタの示す重傷者のもとに向かう。重傷者の多くは腕や脚などに欠損があった。さすがに『リバイブ』を使うわけにもいかないので普通のハイヒールで治す。欠損こそ治らないものの、出血も止まり、HPも安全圏まで回復する。


 村中を巡り、順々に回復をかけていく。冒険者や衛兵は最初の方で魔物を食い止めるために戦い、ほとんど生きてはいなかった。村人も森の方に逃げて、他のメンバーに保護された者もいれば、途中で魔物に殺された者もいる。


A:マスターたちが来てからの死亡者は0名です。


 一通りの村人に回復を施したので、サクヤに連絡を取る。


《サクヤ、言われていた魔物の殲滅が終わったぞ》

《え?もう?やっぱりお兄ちゃんは常識から外れているわね……》

《魔物が溢れたって言ったから、100~200匹くらい出てきたのかと思ったら、B級が10匹、それ以外が30匹くらいの小規模戦闘じゃないか……》


 不謹慎かもしれないが少々肩透かし気味だ。ティラの森からのスタンピードくらいは想定していたのだが……。


《いや、お兄ちゃんからしてみたらそうかもしれないけど、普通の村人から見たらそれって大惨事だよ……。死傷者も出てるでしょ?》

《あー、それもそうだな。あ、それで思い出したんだが、俺たちはこれからどうするべきだ?一応、負傷者の回復は済ませたんだが……》


 魔物を倒してハイさようなら、と言うわけにもいかないだろう。一応、国からの依頼でここにきているわけだし……。


《そうね、魔物討伐の連絡は私の方でするね。お兄ちゃんは追加で魔物が出てこないかの警戒と、近くの大きめの街から派遣される騎士への説明をお願いしてもいいかな?》

《まあ、そのくらいは依頼の内だろうな。あ、報酬の件は忘れるなよ?》

《だ、だいじょうびよ。報酬ね。ま、まかしぇておいて》


 とりあえず念話を切る。呂律が回っていなかったけど、本当に大丈夫だろうか……。


「仁様、負傷者の手当てと消火活動が終了しました。私たちが討伐した魔物は回収済みです」

「わかった」


 マリアの報告を聞いて、俺はこの街で1番大きな建物へと向かった。今現在、負傷者も含めてすべての村人をそこに向かわせている。



「この村の責任者は誰だ?」


 集まっている村人に尋ねる。その中から、1人の女性が近づいてきた。さっき最初に助けた女性だった。


「多分、私と言うことになると思います」

「多分?」

「はい、父が村長だったのですが、魔物に襲われた村人を逃がそうとして……。いざと言うときには私が村長代理と言うことになりますので」

「わかった。じゃあ、俺たちのことを説明するぞ。エステアからの救援要請を受けたカスタールに依頼された冒険者だ」

「はい、国の方には救援要請を出しました。もっとも、あなた方が来てくださらなければ、まず間に合わなかったと思いますけど」


 1番近くの街からは馬を使っても3時間はかかる。それだけの時間があったら、全滅もありえただろう。


「俺たちはこれから、人が派遣されてくるまで迷宮の警戒をする予定だ」

「そこまで、していただけるんですか?魔物を討伐していただき、負傷者の治療、しかも魔法まで使っていただき、その上そこまで……」


 申し訳なさそうな顔をしているが、この街に選択肢がないのは明白だ。辺りを見渡しても、無事な男性なんてほとんどいない。多くの男性は魔物の被害を少しでも抑えるために戦い、大怪我、もしくは死亡している。

 ここにいるのもほとんどが女、子供、老人だ。


「気にするな。報酬の方はしっかり出るみたいだからな」

「……わかりました。ありがとうございます。あ、私の名前はローナです。すいません、名乗るのが遅れて……」

「俺は仁。救援に来た冒険者のリーダーをしている」


 そんな話をしていると、数名の村人たちが建物の外に出ていこうとしていた。


「皆さんどちらに行かれるんですか?」


 ローナが声をかけると、比較的軽傷だった中年女性が答えた。


「ああ、冒険者の方々が警戒をしてくれるんだろう?アタシらは亡くなった人たちの死体を集めようと思ってね。いつまでも野ざらしじゃ可哀想だからね」

「あ、私も手伝います。仁さんたちは警戒の方、よろしくお願いします」

「わかった」


 戦闘中は人間の死体にまで気を回してはいなかったからな。<無限収納インベントリ>で拾うって言うわけにもいかないし……。いつまでも放っておくわけにもいかないから、俺たちが警戒している内に集めてしまおうということだろう。手伝ってもいいが、一応俺たちの仕事は警戒ってことだしな。


 タイミングを見計らって馬車を持ってきた。俺たちが先行して、馬車が追い付いてきたというような筋書きだ。今は村はずれに置いてある。タモさん以下略。



 それから3時間ほどして、近隣の街から騎士がやってきた。前に出てきたのは豪華な鎧を着こんだ40代くらいのおっさんだ。


「貴様らがカスタールからやってきたという冒険者か」


 一言目だけで察する。あ、これ、アカン方の騎士だ。


「ああ、そうだ」

「チッ、カスタールからの連絡で、出てきた魔物は全部退治したと聞いたが、それは本当か?」

「ああ、今は迷宮から魔物が出てこないように警戒しているところだ」

「ふん、その仕事は今から我々が引き継ぐ。貴様らはさっさとこの村から出ていけ」


 なあ、なんでコイツこんなに喧嘩腰なんだ?


A:カスタールに仕事を奪われたからじゃないですか?エステアは迷宮があるから冒険者とか騎士の質がカスタールより上だと自負しているみたいですからね。


 なるほど、カスタール側の冒険者が活躍したのが気に喰わないと……。おっと。


《マリア、殺気を出すな》

《ですが、この者は仁様に……》

《大した相手じゃない。こんな小物相手にいちいち怒っていたらキリがないぞ》

《……はい。わかりました》


 愉快な相手ではないが、旅をしていればこんな相手に出会うことも多々あるだろう。いちいち相手をしていたらキリがない。直接的な害が出そうになるまで、放っておいてもいいと思う。もちろん、害が出るのなら絶対に容赦しないが……。


「わかった。警戒の引継ぎが終わったら俺たちはこの村から出ていく」


 本当はこの村から迷宮に入ってみたいが、異常があったばかりだし、調査目的で入るわけでないのなら止めておいた方がよさそうだ。


 マリアとともに馬車の方へ向かっていると、例の偉そうな騎士が近づいてきた。


「おい、冒険者。街中に魔物の死骸がほとんどないぞ。どういうことだ!?」

「ああ、俺たちは<空間魔法>を使えるから、俺達が倒した分はすべて回収しておいた」

「チッ、おい。ここで倒した魔物の死骸を置いていけ。俺たちが調査するからな」


 態度悪いな。正直言えば気に入らないが、調査が必要と言う点については間違いない。


「Bランクの魔物もいるから結構な金額になるぞ。近くの大きな町で引き渡せばいいか?」


 ダンジョン内の魔物にも魔石はある。当然Bランクの魔物となれば結構な額になる。この場の取引だけで払いきれる金額かと言われると微妙なところだ。


「何を馬鹿なことを言ってる。なんで俺たちが金を払わなければならないんだ?」

「そっちこそ何を言っているんだ。討伐依頼で倒した魔物は冒険者の所有物になるはずだ。事前に依頼内容に含まれていなければな」


 サクヤからそんな話は聞いていない。言っていない以上は通常の処理に則るはずだ。


「よそ者が勝手なことを言うな!黙って俺たちの言うことを聞けばいいんだ!」

「話にならんな」

「なんだと!騎士を相手にそんな態度をとるとは、この国を敵に回す気か!」


 そっちこそ救援に来た相手にこんな態度をとるなんて、馬鹿にしているとしか思えない。マリアも臨戦態勢だし……。直接的な害が出そうなので敵認定をしたところで、その場には相応しくない、落ち着いた女性の声が響いた。


「少々お待ちいただけますか?」



あ、先に言っておきます。それほど迷宮迷宮しません。そもそも、しばらく迷宮に入りすらしません。迷宮が主の題材ではないので……。じゃあなんで1国の領土全てが迷宮とか風呂敷を広げたのか……。

2018/09/02改稿:

カスタールが海に面していると言う記述を削除。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
勇者召喚ってエルディアのみの特権なのか?かつてはカスタールにも勇者が居たみたいだけど。 勇者自体は主人公に害をなす存在じゃないのに羽虫とかってなんで主人公はナチュラルに勇者を敵だと考えてるんだろう?…
[一言] 作者ポケモン好きだよなぁ。 ミュウツーの逆襲とか、がくしゅうそうちとか、ヤドンとか……
[一言] ぶっちゃけ勇者じゃなくても力が強いものなら魔族だろうと討てるでしょ。その程度に支援もクソもへったくれもないよね。
2021/02/26 18:40 退会済み
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