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列伝第2話 冒険者クロードの冒険(4/5)

3章の目途がついたので次の日曜0時に本編を再開します。

投稿間隔の都合で列伝5/5は明後日投稿予定です。

「いや、聞きたいことは色々あるんだけどよ、手の内を聞かないのは冒険者のマナーだからすげえ今葛藤している」

「まあ、答えろと言われても無理なんですけどね」

「だよなあ」


 帰りの馬車でクーガさんが色々と聞きたそうにしていたが、僕たちに答えられることは非常に少ない。冒険者のマナー的にも手の内を明かす必要は一切ないので気が楽だ。


 ブライト・ファルコンとメタルタートルの死体は『格納ストレージ』に何とか収めた。余計なものを他のメンバーの方に移してやっとだった。


 しばらく王都に向けて走っていると外から声が聞こえてきた。


「助けてー!」


 どうやら悲鳴のようだ。慌てて外を見てみると、馬に乗った少女がファングウルフの群れに追いかけられている。見れば馬は怪我をしており、速度が出ておらず、その内に追いつかれそうだ。

 少し離れたところには馬車が止まっており、数名の冒険者らしき人たちがファングウルフの群れと戦っていた。


「僕は少女の方を追いかけます。皆は馬車の方をお願いします。クーガさんは馬車で待っていてください」

「おう、任せておけ!」


 ノットが力強く返事をする。他のメンバーも頷いている。


「いいのか?馬車の方に俺が行ってもいいんだぞ?」

「まだ依頼の最中です。ここで彼女たちを助けるのは僕たちの都合ですから」


 クーガさんも手伝うことに問題はないようだけど、今はまだ試験官だからね。試験に関係ないことに手を出さない方がいいと思うんだ。

 少女は馬に乗っているから、<縮地法>のある僕が担当した方がいいだろう。僕の補助と言うことでシシリーがついてくることになった。そして他のメンバーは馬車の方に向かう。


「先に行くよ」

「後から追いかけるね~」


 シシリーに一言入れ、<縮地法>で先に向かう。シシリーはおっとりしているけど、戦闘中の動きまでは遅くない。ココほどではないけど、仲間内では素早い方だし……。


「ギリギリかな……」


 見た限りもう少しで馬がファングウルフに追いつかれそうだ。さっき土壇場で縮地を成功させてから、目に見えて成功率が上がっている。普通に走るよりは断然速いけど、数回に1度は<縮地法>に失敗しているから、間にあうかどうかはギリギリなところだ。

 そんなことを考えながら走っていると、ついにファングウルフが馬に飛びかかった。


「きゃあ!」


 馬が態勢を崩し、少女が空中に投げ出される。結構な勢いがついているから、そのまま地面に激突すればただでは済まないだろう。

 もう失敗はできない。今まで以上に気を引き締めた僕は連続で<縮地法>を発動する。


「間・に・合・えええええ」


 連続5回の<縮地法>に成功した僕は、何とか投げ出された少女を受け止める。


「ふう……、大丈夫ですか?怪我はありませんか?」

「ひいっ、えっ、あ……?」


 まだ、現状が理解できていない少女が、目線をあちこちに彷徨わせる。


「あ……」


 気が抜けたのか急激に脱力する少女の身体。少女の服が湿ってきた。力が抜けて漏らしてしまったのだろう。まあ、よくあることだよね。僕たちもご主人様を相手にしたときは耐えられないし……。


「『清浄クリーン』」


 僕たちもよくお世話になった魔法を少女にかけてあげる。少女の顔がやたら赤くなっているのはどうしてだろう?


「立てますか?僕はこのままファングウルフを倒します」

「え?」


 ファングウルフは急に現れた僕を警戒して襲ってこないけど、徐々に包囲を狭くして来ているから、あまり余裕はない。

 少女を地面に下ろす。足に踏ん張りがきいていないから、このままだと立てそうにない。僕は少女を片腕で支えながら、胸ポケットからハンカチを取り出して地面に敷く。そのまま少女をハンカチの上に座らせる。


「そこに座っていてください。大丈夫、絶対にあなたには近づけさせませんから」

「は、はい……」


 そう言って『格納ストレージ』から剣と盾を取り出して構える。こちらの準備が整うのを待っていたかのようにファングウルフが飛びかかってくる。数はおよそ20匹だ。今の僕ならば倒すことは難しくない。でも、誰かを守りながらだと中々に難しいかもしれない。

 でも、僕の仕事は守ることだ。このくらいの相手から少女1人も守れない奴に、仲間を守ることなんてできないだろう。


「はあっ!」


 飛びかかってきたファングウルフを盾で受けとめ、そのまま弾き飛ばす。僕を避けて少女の方に向かうファングウルフには蹴りを喰らわせて近づけさせない。


「1匹!」


 上手くタイミングが合ったので、まず1匹切り伏せることが出来た。あまり深く踏み込むと少女の方に行ってしまうから、あくまでも守り主体にして攻撃は余裕があるときだけ行う。


「ふうっ!」


 ファングウルフにシールドアタックを喰らわせて弾き飛ばす。しかし、徐々に近づいてくる個体が増えてきた。このままだと突破されるのは時間の問題だろう。でも僕は何の心配もしていない。


「お待たせ~」


 頼りになる仲間たちがいる。僕は1人ではない。

 遅れて近づいてきたシシリーが槍を突きだす。それだけで数匹のファングウルフがまとめて串刺しになる。


「僕は守るから、殲滅は任せた!」

「任せて~」


 そこからはあっという間だった。僕1人が守り主体で動いていたからかろうじて拮抗していた状況は、シシリーの参戦によっていとも簡単に崩れ去った。僕の方も攻撃に参加する余裕があったくらいだからね。



「立てますか?馬車の方に向かおうと思うのですが……」


 ファングウルフを全滅させた後、ハンカチの上に座っていた少女に声をかける。少女は綺麗な青い髪を肩まで伸ばしていた。眼も宝石のように美しい青色でドレスのような服を着ていた。年は僕より少し上くらいだろう。今更ながら少女の姿をしっかりと確認し、もしかしたら貴族かなー、あまり関わらないようにご主人様に言われているんだよなー、とかどうでもいいことを考えていた。


「た、助けてくださって、本当にありがとうございます!」


 少女は座りながらお礼を言ってきた。どうやらまだ立てないようだ。


「いえ、気にしなくても大丈夫ですよ」


 できるだけ笑顔で答える。また少女の顔が赤くなったけど、どうかしたのだろうか?


「どうかしましたか?」

「い、いえ、大丈夫です……。でも、まだ立つのは無理みたいです……」

「そうですか。では、失礼します」

「きゃっ!」


 そう言って僕は少女の背中と膝に手をかけて持ち上げる。今まで以上に少女の顔が赤くなる。


「あ、嫌でしたか。ごめんなさい。シシリー、代わってもらえるかな?」

「ふふ~、その必要はないと思うよ~」


 シシリーが含みを持たせて言う。少女の方を見ると、赤い顔をしながらコクコク頷いている。


「そのままがいいよね~?」

「は、はい……」

「よくわからないけど、問題ないならこのまま向こうに行きますね?」

「お願いします……」



 シシリーはファングウルフの死体を回収してから追いかけてくるそうで、僕と少女は先に馬車に向かうことになった。シシリーはなぜか最後までニヤニヤしてたけど、どうしたんだろう?


「あ、あの!私シェリアと言います。貴方のお名前を教えて頂けないでしょうか?」

「僕はクロードと言います。冒険者をしています」

「クロード様……。素敵なお名前ですね」

「僕は様付けされるような立派な人間ではないですよ、シェリアさん」


 ご主人様に偶然拾われなかったら死んでても不思議ではないただの奴隷だから、様付けなんてされると体がムズムズする。


「シェリアとお呼びください。命の恩人に敬意を払うのは当然の事です。クロード様と呼ばせてください!」

「まあ、どうしてもそう呼びたいというのなら、無理にとは言いませんけど……」

「はい!クロード様!」


 クロード様呼びは決定みたいだね。そんなことを話していたら、馬車に近づいてきた。

 こちらの方もファングウルフの殲滅はとっくに済んでおり、死体の回収と負傷者の手当てを行っていた。



「またかよ……」

「まあ、これがクロードだからね……」


 シェリアを抱えた僕の方を見たノットとアデルがぼやく。どうしたんだろう?時々2人は僕の方をこんな風に苦笑いしながら見てくる時がある。前はギルドの受付嬢のお姉さんを助けたときだったっけ?


「お、お嬢様!よくぞ御無事で!」


 ユリアさんに回復魔法をかけて貰っていた鎧姿のおじいさんが急に立ち上がって、シェリアに話しかけてきた。


「小僧!貴様いつまでお嬢様を抱えているつもりだ!」


 凄い剣幕で怒鳴ってくるおじいさん。困ったな、下ろしていいんなら下すんだけど……。


「グート!この方は私の命の恩人ですよ!なんてことを言うのですか!」

「しかし……」

「シェリア、下ろしても大丈夫ですか?」

「小僧!お嬢様を呼び捨てとはどういう了見だ!」

「グート!」


 グートと呼ばれたおじいさんは僕の事を凄い睨んできているけど、シェリアが声をあげたのでそれ以上文句は言わないみたいだ。


「クロード様、申し訳ありませんがまだ立てそうにありません。もうしばらくこのままでもよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」

「ぐぬぬ……」


 グートさんが歯ぎしりをしている。血管も浮き出ているし、大丈夫なのかな?

 ちなみにシェリアを抱えていること自体は本当に問題ない。シェリアは凄い軽いし、戦いを続けていたらいつの間にかかなり体力がついたみたいだしね。



「改めまして、私の名前はシェリア・ハードナーと申します。この度は危ないところを助けていただき、本当に感謝しております」


 慣れたしぐさでドレスの裾をつまみ一礼するシェリア。一通りの戦後処理が終了したので、状況説明をしてもらうことにしたのだ。シシリーとクーガさんもこちらに来ている。

 余談だけど、さっきシェリアを地面に下すときに凄い残念そうにしていた。どうしたんだろう?


「で、どうしてこんなところでファングウルフに襲われてたんだ?」


 ノットが気安く質問する。当然のようにグートさんが声をあげる。


「こぞ……」

「グート!」

「……」


 間違えた。声をあげようとしたけど、シェリアに止められていた。


「正確には、ファングウルフに襲われたこと自体が問題ではなかったのです」

「どういうこと?」


 ココが先を促す。


「はい。ファングウルフに襲われる以前に、Aランクの魔物であるブライト・ファルコンに襲われていたのです。その時にきし……、護衛が犠牲になって私たちを逃がしてくれたのですが、残った者も何名かは負傷していました。その血の匂いに寄ってきたファングウルフの群れをさばききれずにあの有様です……」


 うん、2つ気になるワードが出てきたね。シェリア、確実に騎士って言ったよね。慌てて護衛って言いなおしたけど、騎士って言ったよね。貴族確定。

 後、ブライト・ファルコンって間違いなく僕たちが倒した奴だよね?あんなのがあちこちにいたら堪らないよ?


「まだ、この付近にブライト・ファルコンがいるかもしれません。出来るだけ早くここから離れることをお勧めします」

「あ、そのブライト・ファルコンなら俺たちが倒したぞ?」

「え?」

「は?」


 ノットの説明にポカンとするシェリアとグートさん。その他の人たちも大体同じように呆けた顔をしている。


「冒険者のランクアップ試験でな。討伐した帰りだ」

「クロード様はAランクになるのですか?」

「いいえ、僕たちは今度Bランクになります」

「え?」

「は?」


 シェリア達に僕たちの事情を説明するのは意外と時間がかかってしまった。Bランク試験の最中に、Aランクの魔物をほぼ完封した冒険者の存在を信じさせるのに、時間がかかったという方が正しいのかもしれないけど……。


「わかりました。私たちが色々と幸運だったことは嫌と言うほどわかりました」

「む、むう……」


 シェリアとグートさんも理解してくれたようで何よりだ。


「そろそろ聞きたいんだけど、貴女何者なの?普通の旅人じゃないわよね?最低でも貴族だと思うのだけど?っていうかさっき騎士って言ってたわよね。騎士を護衛にできるなんて貴族、あるいは王族くらいだものね。この国の王族は今1人しかいないから、この国の貴族、あるいは他国の貴族か王族ってところかしら?方角から考えるとアト諸国連合が有力かしらね?」


 イリスが一気にまくしたてる。僕たちが気になっていたことを大体1人で聞いてしまった。


「ええと、はい。お察しの通り、私はアト諸国連合の加盟国の1つ。ガシャス王国の第12王女です。この国には交易についての交渉をするためにやってきました」


 アト諸国連合はカスタールの東に位置し、複数の小国が1つの連合国としてまとまることで他の大国に匹敵する発言権を持つという国だ。シェリアはそのいくつかの国の1つの王女様と言うことらしい。えーと、僕シェリアの事呼び捨てにしてるんだけど……。


「あ、クロード様。シェリアとそのまま呼び捨てで構いませんので……。皆様も今まで通りの接し方で構いません」

「お嬢様、それでは示しが……」

「グート!」

「はい……」

「それに私は小国の第12王女です。王位継承なんて考えておりませんし、この国に来たのも交易の交渉をしつつ、適当な貴族に嫁入りして、国家間のつながりを強くすることですし……」


 その道中でこの有様とはツキがない……。


「厚かましいお願いなのですが、王都までの護衛をお願いできないでしょうか?謝礼もお支払いしますので……」

「僕としては構わないと思いますが……、クーガさん、どうですか?」


 一応、今はBランク試験の最中なのだから、試験官のクーガさんに聞いておかないといけないだろうね。


「別に構わねえぞ。まあ、俺は直接護衛はできないけどな」


 Aランク冒険者のクーガさんを雇うとなったら、結構な額が必要になる。それに試験官は試験中に勝手に雇われてはいけない様だから、護衛に参加しないのは当然だろう。


「わかりました。シェリア、僕たちが王都まで護衛しますね」

「よ、よろしくお願いいたします」


 またシェリアの顔が赤くなっている。


「あ、これは完全に落ちていますね」

「ね~言ったとおりでしょ~」

「本当にすごいわね。これで何人目よ……」

「ロロの知る限りで5人目です」

「バッカみたい……」


 女子たちがそんなシェリアを見て色々と言っているけど、何の話だろう?時々、僕に内緒の話をしていることがあるので、少し悲しい。


 その後、謝礼、と言うか依頼料の打ち合わせをしてからすぐに出発した。

 王都につくのは明日になるので、その日はある程度進んだところで野営をすることにした。


「なんで、野営の料理がこんなにおいしいんですか!?」


 夕食時、シェリアの叫び声がカスタールの夜に響き渡った。王女様、あまりいいもの食べてなかったのかな?


アト諸国連合は3章の舞台ではありません。

やるとしたら4章、もしくはクロード編です。基本的にクロード編は仁がやらなかったイベントを回収するためにあります。例えば、冒険者の昇格試験とか。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
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正直主人公より主人公してるよなクロード。お姫様助けて惚れられるとか完全に主人公のやることだよ。キャラクターとしては主人公よりずっと好感が持てる。境遇的にしかたない面も多少あるけど今までの主人公の動きっ…
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