外伝第3話 元の世界の一幕
クリスマススペシャルと言うことで2本投稿します。まあ、1話目は登場人物紹介何ですけど。しかもこっちも外伝なんですけど。…本編はしばらくお待ちください。
内容に関しては前日譚のようなモノです。(なぜか)新キャラも出てきます。クリスマス成分をほんの少し含みます。盛り上がりもオチもないので、合わない人がいるかもしれません。その場合は申し訳ありません。
…よし、このくらい予防線を張っておけば大丈夫だろう。
これは俺、進堂仁が異世界に転移する前の、どこにでもあるような、あまりないようなお話だ。
「浅井、君の誕生日は11月5日でしたよね?」
「ああ、そうだけど、それがどうかしたか?」
俺の親友の1人東明が、もう1人の親友である浅井義信に質問した。
「いえ、少し考察をしただけです」
東は眼鏡を中指で押し上げながらそう言った。
「またか……。今度は何だ?」
浅井はため息をつきながらも、東に先を促す。
「いえ、浅井の両親はクリスマスに盛り上がってしまったんだなと思いまして……」
「はあ?親父とおふくろがどうかしたのか?」
怪訝な顔をする浅井。うん、俺も意味が分からない。東は頭がいいせいか1人で考え、勝手に結論を出して俺たちに説明しないという悪癖がある。
「また悪い癖が出ているぞ、東」
「そうだぞ、トーメイ。さっさと説明しやがれ」
トーメイと言うのは浅井が東を呼ぶときのあだ名だ。東明と言うわけだ。
「ああ、すいません。浅井の誕生日から十月十日を逆算しただけですよ」
「十月十日……、なるほど」
納得がいった、いってしまった。ある意味で、もう1つの誕生日と言うことだ。
「うげえ、親父とおふくろのそう言った話なんて、聞きたくないぞ……」
心底嫌そうな顔をする浅井。気持ちは分かる。俺も家族のそんな話は聞きたくないからな。
「調べた限りですけど、夏の終わりから秋くらいに誕生日の人が多いらしいですよ。寒くなり、人肌が恋しい季節から計算すると一致しますね。あ、浅井の妹は確か9月生まれでしたね」
「だから聞きたくないって……。つーか、人の妹でそんなこと考えるのは止めろ」
「まあ、そう言わないでください。思いついてしまった以上、調べなければ気が済まないので……。僕の知る限りの知人の誕生日は調査済みです」
「余計なことすんなよ、トーメイ」
「いつも通り悪趣味な話だな。東の思い付きは……」
東は頭が良いのに、時々無駄なことを真剣に考察する。確かこの間はシンデレラについて考察していたな。なんでも、シンデレラの話において、もっとも得をしたのは魔女だとか……。話が終わった段階で、王家とのコネクションを得た魔女。場合によっては脅すこともできるだろう。そして、それが魔女の狙いなら、シンデレラが1人とは限らないのではないか?ダンスパーティには語られることの無かったシンデレラが他にもいたのではないか、とのことだ。
正直に言ってどうでもいい、そして何となく悪趣味なことを考えるのがこの東と言う男なのだ。
「さて、これで終わりです。もう打つ手なんてありませんよね?」
「お、これでジンの負けが決まったも同然だな」
「それはどうかな」
俺たちは今、放課後の学校でカードゲームをしている。まあ、あまりよろしいことではないが、特に禁止もされていないので自由にやらせてもらっている。
「ドロー。お、これなら何とかなるんじゃないか?」
そこから数枚のカードを使い状況をひっくり返す。
「おー、これは凄いな……」
「何故!?何故8割がたの行動を封じられて逆転のカードを引けるのです!?」
「まあ、ジンにとってはいつもの事だろ?」
「それがおかしいのです!僕はこれでも優秀な方だと自負しています。その頭脳が運に完全に押し切られるなんて不条理もいいところです!」
「普通の人から見たら、東の頭の良さも不条理なんだけどな……」
東はとてつもなく頭が良い。どれくらい頭が良いかと言うと、小学校の夏休み自由研究で『数学ミレニアム懸賞問題』を解きかけるくらいだ。『数学ミレニアム懸賞問題』とは数学上の未解決問題で100万ドルの懸賞金がかけれらた7つの問題だ。
東は帰国子女で自由研究の意味をよく分かっていなかったらしく、自分にできる最大の研究を発表しようとしていた。夏休み中に偶然そのことを知った俺が止めなければ、多分大変なことになっていた。9割がた証明が終了したノートは今も家の押し入れで厳重に封印されている。
その東の圧倒的な戦略を俺は大体いつも運で押し切る。大抵都合がいいカードが来るからな。何と言うか、いつも強い手札じゃないけど、困ったときだけは助けてくれる感じだな。
「じゃあ、次は俺の番だな。俺はトーメイよりも強いぜ」
「勝率上は僕が勝ち越しているんですけどねえ!?」
席を代わり、次は浅井と勝負をする。浅井はこちらの手札を読み切ったような戦略を使う。間違えた、相手の手札を見て戦略を立てる。
東の最大の武器が頭の良さならば、浅井の最大の武器は目の良さだ。平たく言えば、相手の眼球に映った手札を見て戦えるということだ。正直に言ってチートである。ちなみに東のスタンスは『見られても勝てる戦術を立てる』。俺のスタンスは『次に引くカードは分からないよね?』である。
「負けたー!ジンつえー!」
「ほら見たことですか。僕が勝てない相手に浅井が勝てるわけありません」
そもそも、俺達が仲間内でカードをしているのは周辺のカードショップは大体出入り禁止だからだ。調子に乗って勝ちすぎてしまったせいか、俺たちが大会に参加するとほぼ全員キャンセルする。そうして残った初見さんが俺たちにぼこぼこにされて再起不能になる、と言うのを何回か繰り返していたら、割引券をあげる代わりに大会に参加しないでくれと言われた。反省はしているが、後悔はしていない。
「うーん、このカードゲームもそろそろ辞め時かな。全国大会も制覇したし……」
「そうだな。次は何する?格ゲー、も大体出禁だし……」
格闘ゲーム、と言うかゲームセンターも出入り禁止である。賞品系のゲームを俺たちがやると商売にならないからね。俺達3人は色々なものに手を出しては制覇し、次の何かを探すということを繰り返している。
幼馴染に聞いたんだけど、一部では俺たち3人の事を『地震雷火事』とか呼んでいるらしい、アホか。なんでも、『アイツらが通った後には草1つ残らない』とか……。もう1度言う、アホか。
「じゃあ、今日はここまでにしましょう。各自、次に手を出すものを考えておきましょう」
「おう!」
「りょーかい」
そうして俺体は帰り支度を始めた。それと同時に教室の扉が開く。
「あ、仁君。終わった?終わったなら一緒に帰ろ?」
そう言って入ってきたのは、女の幼馴染である水原咲だ。家が隣同士で、昔からの付き合いだ。窓からお互いの部屋が覗ける関係と言うのが一番わかりやすいだろうか。
「お、正妻の登場か?」
「やだ!浅井君、正妻なんて!」
-ドン-
-ガラガラ-
照れ隠しに浅井を突き飛ばす咲。身長が180cm以上あり、スポーツマンのような体格の浅井をいとも簡単に突き飛ばす。机をいくつか巻き込んで吹っ飛ぶ浅井。
「あ、ごめんね。浅井君」
「大丈夫か?」
よろめきながら立ち上がる浅井。さすがだな、タフだ。
「この、惨状を見て、俺が、大丈夫だと、思うなら、眼医者に行け……」
大丈夫じゃないようだ。全員で机を直してから帰路に就くことになった。
「じゃあ、また明日!」
「ういーす」
東が最初に別れ、次に浅井と別れたところで、咲と2人きりになる。咲は俺が東や浅井と一緒にいるときにはあまり話に入ってこない。もちろん話しかければ反応はするが、そうでなければ聞きに徹している。加えて、俺の事をずっと見ている。
そして2人きりになると積極的に話しかけてくるのだ。
「ふーん。じゃあ、そろそろ別の遊びに移るんだ……」
「ああ、一通りやることはやり切ったと思うし、そろそろ満足したからな」
「そっか。(……じゃあ、仁君にあげるつもりで買ったカードは全て処分しないと……)」
「ん?なんか言ったか?」
「ううん。なんでもないの」
慌てて手を振る咲。どうかしたのだろうか。まあ、俺達がやることを変えると、同じような反応をすることがあるし、気にするほどの事でもないだろう。
「あ、あ、そう言えば教室の前でびしょ濡れの女の子を見かけたよ」
唐突に話を変える咲だが、これもいつもの事だし気にしないでおこう。
「なんだそりゃ?幽霊か何かか?」
「多分、隣のクラスの子だよ。女子の体育で見たことあるし。隣の教室に入っていったし。さすがに名前は分からないけど……」
夏場とは言え、びしょ濡れになんてなるのだろうか?酷いいじめとかじゃないといいんだけど……。隣のクラスにはあんまりよくないのがチラホラいるし……。
「ふーん。それでどうしたんだ?」
「え?どうもしないよ」
「え?そこまで話しておいてオチとか何もないのかよ!」
「うん、仁君のところに行く方が大切だし」
「じゃあ、何故その話題を振った……」
「特に意味はないよ?」
「さよか……」
実はこういうことは咲と話しているとよくある光景だ。意味もオチも盛り上がりもない、まるで話すこと自体が目的のような会話だ。
「あ、織原君だ。織原君も帰りみたいだね」
「え?マジか?」
「うん、500mくらい後ろにいるよ」
織原と言うのは男の幼馴染だ。訳あってこの2人にはあまり接点を持たせないようにしている。
川沿いを歩いているので、500mくらいなら見ることが出来る。後ろを振り向くと確かに遠くの方に織原っぽい奴がいる気がする。あ、軽く手を振ってきた。と言うことはやはり織原なのだろう。家は咲ほど近くないが大体同じあたりにあるから、帰る方向は大体一緒になる。
とは言え、用がなければ近寄りたい相手でもないので、申し訳ないがこのまま進もう。
「じゃあ、行くか」
「え?織原君は待たなくていいの?」
「前も言っただろ?」
「あ、うん。覚えているよ。1、織原君とは関わり合いにならない。2、もしどうしても関わらなければいけない場合でも、最小限にすること。3、絶対に織原君と2人きりにはならない。だよね?」
「よくできました」
そう言って咲の頭をなでる。
「えへへー」
嬉しそうな顔をする咲。もう高校生だというのに、こういったスキンシップに拒否感を見せない咲が少し心配だ。家でも用があって窓を開けると、高確率で着替え中+カーテン閉めてないし……。
そのまま織原を気にせずに家まで帰った。
「じゃあな」
「うん、また明日ね」
そう言って家の前で咲と別れた。着替えまで済ませた俺はパソコンで次にやるものを調べることにした。
さて、何かいいものはないかな。出来れば、多少は長く続けられるものがいいんだけど……。
「お、これなんかいいんじゃないか?」
俺の目に留まったのは1つのオンラインゲームだった。
『史上初、バーチャルMMO「ワールド・ディザスター・オンライン」』
そう言えば、最近よく宣伝しているのを見かけるな。技術的なブレイクスルーによって生み出されたバーチャルリアリティを実現したゲーム。その第一弾からMMOをやるというチャレンジ精神旺盛な開発陣。話題性が尋常じゃないからな。
偶然だけど、俺達の通り名と一致する部分もあるし、オンラインゲームなら出入り禁止になることは……、まあ、マナーさえ守れば平気だろうしな。
どれどれ、お、丁度来週からベータテストの募集開始か。まあ、俺が応募すれば当たらないってこともないだろ。
よし、これを明日提案してみよう。
作者は独り者なので、クリスマスでも執筆できます。時間があるって素晴らしいですね。
ずいぶんと寒くなってきましたので、独者の皆さんも風邪などひかれないようにご注意ください。
20151231追記:
作中で出した十月十日の計算は誤りです。実際には280日、しかも月経が基準だそうです。つまり外部の人間には致した日までは分からないということです。作者の昔の想像と、勘違いをそのまま使うことにしたという話なんですけどね。
20151226補足:
嶺岸は浅井の初期の名前です。全部浅井に直したと思ったら、東の方に間違えて書いていたのを残してしまったということです。眼がいい→マサイ族→浅井