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第35.5話 死者蘇生

死者蘇生の魔法のお話です。苦手な方は読み飛ばしてもしばらくは影響しません。ですが避けては通れない話題なので、いずれは本編でも出てくると思います。

「さくら、随分とMPも増えたんだが、そろそろ死者蘇生に必要な量が満たせたか確認してくれないか?」


 配下クロードたちが冒険者として魔物を討伐している分も合わせ、大量のMPを取得している。前にさくらに聞いた値から考えて、十分すぎるくらいにはあると思う。

 拠点も入手したし、随分と生活が安定してきたから、そろそろ死者の蘇生を試してもいいだろう。


「はい、わかりました」


 俺はさくらにありったけのMPを譲渡する。


「ええと、はい。大丈夫だと思います。必要量に対して、150%くらいありますから、余裕だと思います」

「……このタイミングで聞くのもアレなんだけど、本当にそんな魔法を創っても平気なのか?ある意味で最大級の禁忌だけど……」


 この世界に来て間もない頃、盗賊の死体を見て吐いていたさくらだ。普通の死生観では死者蘇生に忌避感があっても無理はないと思う。俺?今更だろ、気にすんな。


「大丈夫です。と言うか、私も死者蘇生の魔法は必要だと思っています」

「……そうなのか?」


 初耳である。普通の死生観がどこかへ飛んで行ってしまったのだろうか?


「この世界に来て初めて友達が出来ました。親しい人も増えました。そして何より仁君がいます。やっと人生が楽しくなってきたんです。死にたくないですし、大切な人に死んでほしくないです。そして、どうしてもそれが叶わないときのために死者蘇生を創っておきたいんです。私にはその異能ちからがあるのだから」


 これまでになく強い意志を感じる瞳でこちらを見てくるさくら。死生観よりも、今の幸せを壊されたくないという思いの方が強いということか……。


「……わかった。じゃあ、任せる」

「はい!」


 さくらの足元に魔法陣が輝く。いつもは比較的すぐに終了するのだが、今回は事が事だけに時間がかかるようだ。


「うん?」


 さくらが怪訝そうな顔をする。MPを確認すると、大量にあったはずのMPがすでに半分以上なくなっている。おいおい、150%以上あるんじゃないのかよ。

 そう思っている間に100%分を越え、150%ギリギリまで消費した辺りで完成したようだ。


「<魔法創造マジッククリエイト>「アンク」!!」


 魔法の完成を宣言すると同時にさくらが倒れる。MP消費が大きすぎたようで完全に気を失っていた。魔法も使い慣れているので、MPが少なくなったところで気絶なんかしなくなったと思っていたが、ここまで大量のMPを使うと話は別のようだ。

 なぜ予定よりも多くMPを使ったのかは、さくらが起きてから聞こう。とりあえずソファの上に寝かせておこう。


固有魔法オリジナルスペル>「アンク」

死者を蘇生する。異世界の勇者、異能者には使用不可能。欠損が激しい場合には使用不可。



「ん……」


 さくらが目覚めたようだ。


「起きたか?体調はどうだ?」

「大丈夫、です。貧血みたいなものですから」


 少しふらふらしながら起き上がる。


「しばらく横になっておけ」

「はい」


 パタンと倒れこむさくら。


「辛かったら後でもいいんだが、なんで消費MPが多かったんだ?」

「はい。それなんですけどね、100%だけだと不十分だったんです」

「不十分?」

「はい、100%の状態で行う蘇生では、ただの動く死体にしかなりません。話に聞く死霊術と何にも変わりがありません」


 死霊術でよみがえった死霊は、生前の性質を引き継がない。生気のない顔をして動くだけの操り人形だ。知識も知性もない。そんな状態で蘇生させることが目的ではないので、そのままでは失敗だった。


「110%くらいのMPを消費することで、肉体的に生き返らせることが出来ます。この場合、言うことを聞くだけの人形です」


 まだ、全然足りない。


「120%くらいで、知識の引継ぎができるようになりました。ですけど、これでできるのは尋問くらいです。肉体的には生前と変わりませんし、言うことは聞くのですが、自分で行動することはありません」


 それはそれで使い道があるかもしれないな。魔族ロマリエの死体で試してみよう。


「飛んで150%で意識まで元に戻すことが出来るようになりました。これでも結構ギリギリでしたね。後、記憶に関しては死後、時間がたっているほど欠損が大きいようです」

「それは魔法でどうにかならないのか?」

「どうにもなりません。私の創造する魔法では、記憶や精神に関する魔法はほとんど作れないようです。私の想像力に問題があるのか、別の問題なのかはわかりません」


 さくらの異能は<千里眼>でも詳しいことがわからないため、ほとんどは自己申告の情報しかない。


「なるほど、意外な欠点があるみたいだな。しかし、勇者と異能者が蘇生できないのは何とかならんのか?」


 異能者が作ったのに、異能者が対象外とはサービスが悪い。


「それはMP不足のせいですね。恐らく、300~400%分が必要になると思います」


 結構な無茶ぶりだな。しばらくは無理と言うことか。まあ、これだけでもあれば違うだろう。


「それともう1つ問題が……」

「……なんだ?」

「蘇生した人はスキルとステータスのほとんどを失います」

「デスペナかー」


 デスペナルティ。ネットゲーム等ではメジャーだろう、死亡に対する罰則のことである。経験値やお金、アイテムなどをキャラクター死亡時に喪失するという物だ。記憶が失われるのだから、そっちの可能性もあるかもとは思っていたけど……。


「これの回避をしようとすると、それだけで消費量が2倍くらいになります」

「そっちは回避できるのか……。でも、うーん。それは厳しいな」


 今現在の蘇生でギリギリなので、実現しようとすると今の倍のMPが必要になる。……そちらも今後の課題と言うことになりそうだな。


「でも生き返れるだけで十分と言う見方もできますよ」


 それは確かにそうだ。さっきも言ったが、死者の蘇生と言うのは1番のルール違反だ。身体と心と記憶だけ蘇れば十分すぎるだろう。


「でも、私と仁君だけは代わりが利かないので、守ってくださいね。そして、死なないでくださいね?」

「ああ、絶対に守るし死なない。安心してくれ」


 2人だけの空間を作る俺たち。そしてナチュラルに無視される勇者たち。いや、知らんがな。



「スキルは勿体無いけど、ユリーカを蘇生させようと思う」

「はい、わかりました。後、150%の方で行うと、自我があるせいで蘇生者の言うことを聞かなくなる可能性がありますので、先に110%か120%状態で奴隷契約を無理矢理実行してからの方がいいと思います」


 意外と黒いことをサラッと宣言するさくらさん。


「そんなことできるの?」

「はい、この魔法は上書きができるので、後で150%にすることもできます」

「便利だね……」

「はい、消費MPをやりくりして、何とかその機能をもぎ取りました」


 満足げに言うさくら。俺の見ていないところで高度な戦いがあったようだ。


「じゃあ、まずは120%で蘇生させようか」


 そう言って俺はベッドにユリーカの死体を乗せる。さくらから『アンク』を貰い、詠唱を開始する。

 ……長い。いや、当たり前かもしれないけどな。『リバイブ』で10分かかるんだから、それ以上かかるのは何もおかしくないけど、少々長すぎる。30分経ったくらいでようやく詠唱が完了した。消費MPも多めだが、魔法を作るときに比べれば微々たるものだ。


「アンク!」


 魔法の発動とともにユリーカの体が光り輝く。この辺りは『リバイブ』と変わらないようだな。その後しばらくして光が収まると、ユリーカは目を開けていた。しかし、その瞳には何も映していない。


「成功、したのか?」

「多分」


 ユリーカは何も言わないし動かない。呼吸をしていることで、かろうじて生きていることがわかる状態だ。

 とりあえず、質問してみることにした。


「えっと、お前の名前は何だ?」

「ユリーカです」


 お、ちゃんと質問には答える。これは成功みたいだな。


「死ぬ直前に何があったか言ってみろ」

「覚えていません」


 これだけじゃ記憶の欠損なのか、死んだ自覚がないのかわからないな。


「今までで1番恥ずかしい記憶は何だ?」

「え、そんなの聞くんですか?」

「ああ」

「スライムに負けて、服を溶かされた状態で何とか逃亡し、全裸で街に着いたことです」


 何ともらしいとしか言えないな。


「お前の職業は何だ?」

「覚えていません」


 これについては間違いなく記憶の欠損だな。自分の職業を覚えていないとなると、欠損の度合いは大きいのかもしれない。それなりに死んでから時間がたっていたからな。


「俺たちの顔に見覚えがあるか?」

「ありません」

「親の事は覚えているか?」

「いたことは覚えていますが、顔と名前が出てきません」


 その後もいくつか質問をしたが、かなりの記憶を欠損しているようだった。その上、冒険者であることは覚えていないのに、依頼の途中の出来事を覚えていたりとチグハグな状態になっている。

 正直言えば、まともに生きていける状態ではない。奴隷にしたとしても、メイドとして屋敷で使うくらいしかできないかもしれないな。


「奴隷契約をするぞ。背中を出せ」

「はい」


 大人しく背中を向けるユリーカ。冷静に考えれば、120%状態で奴隷契約しなくても実力差でそのまま奴隷契約できたかもしれない。弱いから、ユリーカ。


 ほどなく奴隷契約が終了する。次はこの状態から150%の『アンク』をかければいい。

 もう1度30分詠唱して『アンク』を発動する。150%の『アンク』の方が消費MPが多い。まあ、当然か……。


「アンク」


 1度目よりも強い光に包まれるユリーカ。光が収まる直前に力を失ったように倒れこむ。

 しばらくすると目が覚めたようで起き上がった。


「ここはどこ?私は誰?」


 まさかの記憶喪失鉄板ネタ。少し考え込んだユリーカはもう1度似たようなことを言う。


「ここは知らない。私はユリーカ」


 あ、やっぱり名前は覚えているようだ。


「あなたは誰?」


 首をかしげながら聞いてくる。死ぬ前と比べて大分印象が変わっている。声のトーンも落ちているし、元気がないというか気力がないというか……。とにかく別人にしか見えない。


「俺の名前は仁、こっちはさくらだ」

「私はなんでここにいるの?私は何者?」

「ここは俺の屋敷だ。お前は俺の奴隷になった」

「奴隷、なんだ。……あ、奴隷紋が刻まれている……」


 背中を見て淡々と語るユリーカ。記憶と知識は別なようで、奴隷紋のこと自体は覚えているようだ。


「お前が何者かは俺にはわからん。お前が覚えていることは何だ?」


 ある意味答え合わせみたいなものだが、一応確認してみる。


「わからない。記憶みたいなものも多少あるんだけど、頭の中で整理できる形になっていないから、いつ、どこ、誰といったことが全く分からない」


 欠損が大きすぎると、それを引き出すことも難しくなるようだ。まだ、120%蘇生の方が答えられていた。一種の催眠術みたいなものかね。催眠状態だと、意識に上がらない情報を引き出せるとかテレビでやっていた気がする。意識が情報の引き出しを邪魔するのかもしれないな。


「そうだな……、お前にはこれからこの屋敷でメイドとして働いてもらう」

「わかった……、わかりました」


 ちなみに、ユリーカのスキルは全て消失しており、ステータスも80%減くらいになっている。このまま放置したら遠からず死ぬので、多少のステータスを与えておく。


「ちなみにお前、やりたいこととか、主義とかってあるか?」


 これも1つの確認。


「ない……ありません。……いえ、1つだけありました。『長生きしたい』、それだけです。この望み、叶えて頂けますか?」


 苦笑が漏れてしまった。いい感じに皮肉が効いているな。1度死んで蘇った者のたった1つの願いが『長生き』か……。断片的な記憶しか残っていないとはいえ、『死んだ』という衝撃自体はユリーカの中に残っているようだな。


「ああ、可能な限りは長生きさせてやる。代わりと言うわけでもないが、しっかりと働けよ?」

「はい」



 次にロマリエを120%『アンク』で蘇生させて魔族の事を尋問しようと考えた。しかし、結論から言ってそれはできなかった。なぜならば、ロマリエの腹には俺が開けた穴が開いているからだ。

 状況を整理しよう。『アンク』は欠損を回復しない。『リバイブ』はHPを回復しない。腹に穴が開いた状態で蘇生させたらHPが減る。ロマリエからはステータスを奪っているのでHPは1である。死体にはステータスを与えることはできない。


 結論。このまま蘇生させたら直後に死ぬ。相当タイミングよく『アンク』、『リバイブ』、『ヒール』、ステータスの譲渡を行っても無理なようだ。

 結局、MPを増やして、『アンク』に欠損の回復を付与するまではお預けと言うことになった。



 こうして、俺たちの初めての死者蘇生は1件の成功と1件の失敗で終わることになった。そして、想像以上に大きな課題が残ってしまった……。

 今後もMPを稼ぎ、『アンク』を強化していく必要があるだろう。少なくとも、俺とさくらを蘇生できるようになるまでは……。

アンクと言う名前は、どう考えても『死者蘇生』です。気になる方は調べてみてもいいかもしれません。


20160906改稿:

不自然な表現(心臓の上下)の削除

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
さくらが攻撃魔法を作れないのは未だに戦闘に関する忌避感があるから、精神や記憶に関する魔法を作れないのは自分の過去に嫌な記憶があるからかな?異能は本人の望みを叶える方向に発現するから今後さくらがこの障害…
[一言] アンク…オーズしか出てこんかった
[一言] アンクってなんだ?って思ったら遊戯王かーーい!
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