第34.5話 さくらとサクヤ
短編です。かなり短いです。
本編の進行速度が速く、仁視点のため、女性キャラ同士の会話が少ないという悩みを抱えています。その対策として短編で女性同士の会話を挟んでいこと思っています。
キャラクターを掘り下げるのにもちょうどいいと思います。なのに初回がサクヤ。さくら視点の話は何気に初だったり…。
―――さくら視点―――
私は暇なときは個人用の『ルーム』の中で本を読んでいることが多いです。個人用の『ルーム』は簡単に言えば私室の事で、1人1部屋持っています。あ、最近入った新人奴隷の子たちやルセアさん、サクヤさんはまだ持っていませんけどね。
この中は外の音が届かないように設定できるので、落ち着いて本を読むには最高の環境です。自由行動の時に思い思いの家具を集めてコーディネイトした部屋は、今までの人生で1番居心地のいい空間です。元の世界の自室?そんなこと思い出したくもありませんね。
部屋には本が溢れています。おさげに眼鏡と言ういかにも図書委員のような私は、その見た目に反せず本を読むのが大好きです。本を読んでいる間だけは、つらい現実が少しだけ薄れますからね。とは言え、図書委員ではありません。本当はなりたい気持ちもあったんですけど、ほら、閉じ込められたりして仕事ができないことが多いと他の委員の子に悪いじゃないですか。
この世界ではこれ以上苛められる心配はありません。それに、私の事を守ると言ってくれた仁君がいます。だから本を読んで現実を忘れる必要はないのですけど、染みついた癖と言うのはなかなか抜けず、気付いたら本を買いあさり、自室は本が大部分を占めるといった有様です。
「ふう」
読み終わった『魔物の生態』を閉じ、一息入れます。乱読家である私ですけど、元の世界で1番好きだったのはファンタジーですね。1番現実から遠いから、その分現実の薄れ方が強いです。そんな自分が今ファンタジー世界にいることについては苦笑しか出てきませんね。
それと物語の中ではあんなに輝いていた勇者をここまで嫌悪することになるとも思っていませんでした。あ、マリアちゃんは別ですよ。
-コンコン-
私が次に読む本を本棚から選んでいると、扉がノックされました。そのまま扉に向かいます。
「どなたですか?」
「あ、さくらさん、私、サクヤです」
どうやらこの国の女王であるサクヤさんが訪ねてきたみたいですね。
「今開けます」
扉を開けるとサクヤさんが、仁君からプレゼントされた白いワンピースを着ていました。少し羨ましいです。いえ、私もプレゼントはされたのですが、清純派を体現したような白いワンピースを着る勇気がなく、自然に着れるのが羨ましいという意味です。
「お邪魔します」
「どうかしたんですか?」
サクヤさんと私には大した接点もないですから、訪ねてきた理由がわかりません。あ、名前はやたら似ていますけどね。
私はサクヤさんに椅子を勧めます。
「ありがとうございます。実はさくらさんにご相談がありまして…」
「相談、ですか?」
サクヤさんは仁君と話しているときは結構砕けた口調ですが、それ以外の人と接するときは固めの口調です。私の言えたことではありませんが、仁君への心の開き方が尋常じゃありません。
「はい。お兄ちゃんの配下と言うことについてです」
「え?ああ…。他の人は皆奴隷か従魔で、それ以外の配下は私だけですね」
そういう共通点があったんですね。
「はい。それで、お兄ちゃんは配下にどんなことを要求するのですか?」
「不安なんですか?」
確かに配下になると言ったとき、少しも不安がなかったと言えば嘘になります。同じ年齢の男の子に全権をゆだねるというのは抵抗があって当然だと思います。でも、あの時はそれ以上に仁君との間に確かな絆が欲しかったのです。
…今までの人生で、私を守ってくれるなんて言ってくれた人はいません。初めて仁君にその言葉を言われたときの感動は今でも覚えています。ですけど、ただの旅の同行者だと、いずれは捨てられるんじゃないかと言う気持ちが抜けませんでした。そんなときに仁君の異能が明らかになりました。チャンスだと思いました。配下と言う形なら、少なくともただの同行者よりは強い絆が得られると思ったのです。歪んだ感情であることは否定しませんけどね。
「いえ、不安はありません。と言うか、配下になるのは自分で望んだことですので…。お兄ちゃんの庇護下と言うのはそれだけで安心できることです」
その感覚は私にもわかります。<契約の絆>の効果なのかはわかりませんが、仁君との間の確かな繋がりは精神を安定させてくれます。
「そうではなく、お兄ちゃんが配下に望むことを教えてほしいのです。私はあの方に何がしてあげられるのですか?何を望まれているのですか?」
仁君の望みですか…。はっきり言って私にもわかりません。仁君は私に魔法を作ってくれと言いますが、決して無理強いはしません。それに、私の想像力の問題だと思うのですが、攻撃の魔法が一切作れません。それを知っても仁君の態度に変化はありませんでした。
「仁君の望みは私にもわかりません。私にできることも言われたときに言われた魔法を作るくらいですし…」
「いえ、それは凄い貢献だと思うのですが…」
「そんなことはありません。便利だとは思いますけど、欠陥もかなり多い異能ですし…」
欠陥の多さについては嫌になるくらいに理解しています。発動するのにも仁君ありきで、面倒くさい女と思われていなければいいのですが…。
「正直な話、仁君が本格的に困るなんてことはないと思うんです」
1番大きな問題だった料理も<無限収納>に入れればそれでいいわけですし…。戦闘力に関して言えば、多分現時点で国を落とせますし…。
「誰の手助けもいらない人間にしてあげられることなんて、私には思いつきません。私にできるのはお願いされたときにその通りにしてあげるくらいです」
私は魔法を作る。サクヤさんは多分権力でしょうね。国はいらないとは言っていましたけど、権力は近づきすぎないで利用する分には便利ですから。
「そう、ですよね。やっぱりそういう結論になりますよね」
どうやら同じあたりまでは考えていて、煮詰まったから私のところに来たみたいですね。
「サクヤさんは女王に戻って、仁君のために色々と便宜を図るのが1番なんじゃないですか?」
「ええ、私もそう思います。結局、お兄ちゃんに取り戻してもらったものでしか、恩を返せないというのが、情けないですね…」
それは私にも言えることなので、否定も肯定もできませんね。
「でも、やれることをするしかありませんよね。まずは女王に戻ってしっかりと国を治めることから始めます」
「それがいいと思います。仁君、結構この国を気に入っているみたいですから」
「すいません。相談に乗ってもらって、かなり気が楽になりました」
「それは良かったです」
それから、私たちは他愛のない会話を長い時間楽しみました。他の奴隷の子たちは私の事は目上の存在としてみているようですから、ある意味で対等な同性の友達と言えるのかもしれませんね。ドーラちゃんはペット枠ですし…。
残念ながら友達トークの定番、好きな人の話はできませんでした。まあ、見ればわかるというか、話しても不毛なだけと言うか…。
後はサクヤちゃんから聞いた、まだ食べていないお菓子とか、面白そうな本とか、まだこの国には楽しみがいくつもあるということがわかりました。
「じゃあ、また今度です。さくらちゃん」
「はい、必ずまたお話ししましょうね。サクヤちゃん」
結構遅い時間になったので、今日はここまでと言うことになりました。今日はもう本は読まなくていいですね。それよりも楽しい時間が過ごせましたから。
まさか、こっちの世界に来て守ってくれる人と、同性の友達ができることになるとは思いませんでした。
勇者もエルディア王国も嫌いですけど、この世界自体は結構好きかもしれません。私に幸せになる機会をくれたのですから。
次で2章が終わります。クロードの短編(34000文字)が完成したので、3章開始前に上げる予定です。