第32話 勇者の遺産と10日間
約束の日までの10日間を駆け足で通り過ぎます。今までで1番1話で経過した時間が長いです。
王都到着から1日後。
俺とさくらとミオは、アルタの言っていた道中の村にある面白いものを堪能していた。
「おーちーつーくー」
ミオが大の字で寝ている。ゴスロリのスカートが捲れて、パンツが丸見えだ。黒か…。黒?
「ミオ、さすがにそれははしたないぞ」
「ん?あ、パンツ見えてる。興奮した?」
「興奮した興奮した。だからさっさとスカートを直せ」
「むー、扱いが適当だー」
俺たちが今いるのは、この国に来て初めての、『正しい日本家屋』だ。この国の建物には中途半端に日本の建築様式が混じっていたが、ここにきてしっかりとしたものを見つけられたのだ。屋敷は木造で屋根には瓦、障子やふすまなども完備されている。
かつてこの世界に来た勇者は、この国に様々な日本文化をもたらした。しかし時間の経過とともにその情報は断片化され、本来の形を見失ったものも多い。その結果がこの国の不自然な建築様式だ。この屋敷の持ち主は、そんな断片化された情報を精査し、勇者が残した本来の形を復元することに成功したということだ。
ミオが落ち着くと言ったのは畳で、俺が今座っているのは縁側だ。
どうしてそんな屋敷の中で、俺たちが我が物顔でのんびりしているかといえば…。
「はい、お茶をどうぞ」
「あ、どうも」
「どもー」
俺たちにお茶を渡してくれたのは20歳くらいのお姉さんだ。この屋敷の主の孫娘で、俺たちがこの屋敷を覗いたとき、庭で倒れているのを発見した。どうにも持病(元の世界で言うと心筋梗塞みたいなもの)があったようなので、適当にミドリ産のネクタールを処方して完治させたらなぜだかやたら感謝されてしまい、自由にくつろいでよいとのお墨付きをもらったというわけだ。
「いえ、いいんですよ。こんなに体調がいいのは久しぶりです。だから、体を動かしたくてしょうがないんですよ」
腕まくりをする娘さん。ちなみに着物だ。金髪なので似合わないかと思ったが全然そんなことはない。これはこれで有りだ。
余談だがこのお姉さんの名前はユカリさんだ。なんでも件の勇者の娘の名前にあやかったらしい。この家の主はただの勇者マニアのようだ。…突っ込みたいところはあるが、無関係とわかっているのであまり強くは突っ込めない。ただ、ネクタールを使ったのはその辺りも無関係とは言い切れない。
お茶を飲み、団子を食べながら、日本人組がまったりと時間を過ごす。
「こんなにゆったりした気分はこの世界に来てから初めてかもしれません」
「あー、あんまり落ち着いて時間を過ごすことってなかったからなー」
この世界に来てすぐ王都を追い出され、国を出るために移動を続けた。エルディアを出てからは目的が変わり、急ぐ旅ではなくなったものの、時間をまったりと使うことはなかった。
「あ、そうださくら様。ユカリさんがお古の着物をくれるって!2人で着ましょう?」
「それもいいですね。でも私は着付けとかわからないですよ?」
「それならミオちゃんにお任せです」
そういうと2人は別室に戻ったユカリさんのもとへ向かった。しばらくすると2人とも花柄の着物を着てきた。
「どーお?似合う?」
「変じゃ、ないでしょうか?」
赤い着物を着たミオと、黄色い着物を着たさくらが並んで立っている。さくらは三つ編みを下したレアなスタイルだ。あ、寝る前は除く。
「ああ、似合っているよ」
心の中でミオは七五三だという感想を飲み込んだ。偉いぞ、俺。
「えへへー」
「ありがとうございます」
着物姿の美少女たちと縁側でのんびりする。
そのまま、日が暮れるまでのんびりさせてもらい、夕食にそうめんを食べて王都に『ポータル』で帰った。
ちなみに他のメンバーはアタリメ、王都間の村や町で冒険者として活動をしている。新しく入ったルセアは戦闘力、指揮力、指導力と三拍子揃った逸材だったので、新人の教育をさっさと任せてしまうことにした。なんかあればアルタが教えてくれるし…。
ルセアは騎士だが冒険者登録もしてあり、何と元Bランク冒険者だった。なんでも冒険者としての立場を用意しておいた方が色々と動きやすいこともあるそうだ。
マリア、セラ、ドーラのメインパーティ組と、ルセア及び新人奴隷たちのパーティに分かれて依頼を受けている。ルセアには念話を含めたいくつかの力を教えておいたので連絡で困ることはない。
ルセアは念話を教えたときに小さな声で「これが神託…」と呟いていた。ちゃうねん。
王都到着から2日後。
俺たちは本日も日本家屋にいた。
本日はマリアもこっちに来ている。正確には俺が頼んできてもらった。縁側に何か足りないと思ったら猫だった。そこでマリアには縁側で丸くなってもらうことにした。これで完璧だ。
ふと思いついたのでマリアには俺の膝の上に頭を置いてもらうことにした。完全に猫扱いである。
「仁様、これにはどのような意味があるのでしょうか?」
俺の言うことに従い、頭を乗せた後でそんなことを聞いてくる。従わないという選択肢はないようだった。
「嫌か?」
「いえ、至福の時です」
顔を覗き込んでみると、マリアにしては珍しく顔が緩みまくっている。こんなに緩んでいるのは猫耳を揉んだ時くらいじゃないだろうか。…結構しょっちゅう見ているな。
折角だから猫耳を揉むことにしよう。
「マリア、耳を揉むぞ」
「え、は、はい」
途端にマリアの顔と体が強張る。マリアには膝の上でうつ伏せになってもらう。
膝の上に頭があるので揉みやすい。モミモミ。
「ふくぅ、はう、あ…」
いつも通りの声を漏らし、マリアがもぞもぞと動く。1時間ほど揉んだだろうか。過去最長記録だ。やはりのんびりとした空間で揉むと時間を忘れてしまうな。
どうでもいい話だが、俺のズボンはマリアのよだれでベトベトになってしまった。マリアは平謝りしてきたが、最初から覚悟の上なので何の問題もない。
順当にいけば、明日にはギルバートがこの村付近に来るはずである。さすがにここで鉢合わせるつもりはないので、明日以降しばらくはこの村に寄らない予定だ。
王都到着から3日後~6日後。
村でのんびりするのをいったん終了し、俺も冒険者としての活動を再開していた。とはいえ、他のメンバーと異なり、冒険者ランクを上げるのが目的じゃないので比較的軽めだ。さくら、ミオ、ドーラとパーティを組んでいる。マリアとセラは冒険者ランクCまでは上げておきたいようなので、新人組とともに冒険者ランク上げに励んでいる。
その頑張りもあり、6日目にはマリア、セラ、新人奴隷は冒険者ランクCに到達していた。マップがあれば討伐依頼も採集依頼も余裕だろう。その証拠というわけではないが、俺の配下のパーティは依頼達成率100%だ。そりゃあ冒険者ランクもすぐ上がるよ。
「とりあえず、私とマリアさんのランク上げはここで終了ですわね」
「クロードたちはこのまま冒険者ランク上げに励んでください」
「はい。僕たちも随分戦えるようになりました。それにルセア先生もいますから、冒険者の流儀についても問題ないと思います。このままなら順調にランクを上げられると思います」
実際に元Bランクのルセアから、戦闘面だけでなく、冒険者の常識というのもしっかりと叩き込まれているようだ。荒くれ者が多い冒険者だが、そのほとんどが最低限のルールを守って行動している。ルセア自身も冒険者の身分を得る前に、先輩騎士から指導を受けたそうだ。もっとも、本来であればEとかFランクまでにはそんなものは覚えているべきで、中級ともいえるDランクになってから覚えるようなことではないそうだ。
余談だが、ルセアのランクはCに下がっている。奴隷の身分でBランク以上になることはできないらしい。新人たちには特別な方法を試す予定だ。
新人奴隷たちは助けた当初から見れば嘘みたいに強化された。期間にすれば10日程度だが、濃密な戦闘訓練によりいっぱしの戦闘能力を身に付けることができたようだ。もちろんこそこそとステータスを送ったのも効果があったと思うけど…。
ただ、やっぱり子供なので若干の不安も残る。もうしばらくはルセアの指導のもと、様々な経験を積んでもらいたいところだ。
「ご主人様!もう別行動になっちゃうの!?」
俺の考えを察したようでココが悲しそうな顔をして声をあげる。
「安心しろ。もうしばらく、後4日は王都で一緒なのは確実だ。ただ、お前たちの方もある程度目途がついてきたから、そろそろ覚悟はしておけよ」
「はい、ご主人様のお役に立つために頑張ります。ですが、やっぱり少し寂しいです」
ロロがしなを作りながら俺に寄りかかってくる。拾ったときに比べて肉付きも良くなっているので若干色っぽい。11歳でこの色気とは、末恐ろしいな。
王都到着から7日後。
ギルバートが王都に到着した。やはり王城に連絡が行っていたようで、俺たちの泊まっている『森の宿』にやってきた。
「すまないが、王城まで来てくれないか?」
招き入れた部屋で椅子に座ったギルバートはそう切り出した。
「女王陛下の話は3日後だろ?」
「ああ、だがその前に私の上司に会ってもらいたいんだ」
「ギルバートの上司?」
「ああ、ゴルド騎士団長だ。聞いたことくらいあるだろう?」
誇らしげに名前を出すギルバート。うん、すまんね。
「ああ、知らん」
「なん…だと…」
驚愕を顔に張り付けるギルバート。うん、すまんね。
「馬鹿な!いくらこの国に来たばかりとは言え、ゴルド団長の話を聞いたことくらいはあるだろう!」
有名なの?
A:有名です。「騎士」というくくりでは世界最高クラスの知名度です。
へー。
「ゴルド団長の武勇伝である『巨竜殺し』や『巨人殺し』、その2つ名である『覇者』、『もう1枚の城壁』などは国を越えて広がっているはずだ。それに冒険者ギルドで聞かなかったのか?ゴルド団長は元Sランク冒険者だぞ!騎士団長になったときに返上したらしいが…」
「うん、すまんね」
ギルバートは見てわかるくらいに肩を落とす。
「馬鹿な…、私の憧れが…」
ものすっごい凹んでいますね。大好きな芸能人のサインを見せたら、『誰それ?』って聞かれたときのような顔だ。
しばらく放っておいたら復活した。顔を上げて俺の方を見る。
「すまない。少々取り乱した。まさかゴルド団長を知らないものがいるとは思わなくてな。これが最近就任したルセア副団長だったらまだ理解できたのだが…」
「…!?」
思わずずっこけそうになった。ルセアのヤツ、副団長だったのかよ。いや、具体的な役職までは聞いてなかったけどさ。そりゃあ戦闘力も指揮力も指導力もあるわな。
A:ルセアの立場は把握していましたが、マスターにとってそれほど重要な情報ではないと判断したので、伝えませんでした。
まあ、急に聞いたから少し驚いただけで、今更『だからどうした』って話ではあるよな。
A:情報を適切なタイミングで提示できるよう努力させていただきます。
頑張ってくれ。
「どうかしたか?」
「いや、何でもない。それでなんでその騎士団長が俺に会うんだ?」
「うむ、私が集めた腕利きの冒険者について報告した時、君のスタンピード討伐にひどく興味を持ったようで、1度会ってみたいと言ったのだ。下手に部下に行かせて気分を害されても困るので私が直接呼びに来たというわけだ」
騎士の中には冒険者を下に見て、馬鹿にするような連中もいるらしいからな。不用意なことをさせないためにも、事情を知っている自分で行くのが1番だと判断したのだろう。
ある意味で丁度いいタイミングだ。ドーラとミオが城に入りたがっていたし、連れて行っていいのなら行ってもいいかな。
「うちの幼少組が城に入りたがっているから、それを連れて行っていいのなら王城まで向かおう」
「…それくらいなら構わないだろう。今から時間は空いているか?団長からできるだけ早くと言われているのでな」
「ああ、大丈夫だ」
あまり大勢で行くのも良くないので、俺、マリア(ついてくると言った)、ドーラ、ミオの4人で王城まで向かうことになった。
王都クインダム王城。
この国最大の建築物であり、王家の権威の象徴でもある。城自体が巨大な魔法の道具であり、いくつもの機能を内蔵している。その内の1つが詠唱無効である。この城の中では魔法の詠唱ができず、<無詠唱>や<詠唱省略>でさえも無効らしい。
じゃあ、魔法が必要な時はどうするのかと言えば、『王授の首飾り』という、これまた魔法の道具を付けているものだけが魔法を使えるというわけだ。『王授の首飾り』は王によってのみ与えることができ、『所有』の魔法がかかっているから他人のを使うこともできない。
外部からの魔法攻撃があったとしても、魔法に強い材質で作られた城壁により、それらはほとんど意味をなさない。
なぜここまで強固な守りの王城ができたのかと言えば、皆さんおなじみこの国の勇者である。勇者の持つ祝福は生産系のスキルだったらしく、様々な魔法の道具を生み出したようだ。
この城もその中の1つであり、最高傑作とのこと。
他に細かい機能として、『城内放送』とか『危険物探査』とか『貸金庫』とか『落とし穴』とか『回転扉』とか『秘密の抜け道』とか、便利な機能から、とにかく調子に乗ったとしか思えない機能まで盛りだくさんである。
そんな説明をアルタから聞きつつ城内を見て回る。なるほど、勇者の趣味か。道理でこの城だけやけに豪華だと思った。質実剛健なカスタールで、どうして城だけこんなに派手なのか疑問だったんだよな。
作りはしっかりしているんだけど、とにかく調度品が派手なんだよな。
A:調度品ではありません。壁の一部、床の一部のため動かせません。
マジで?じゃあそこの鎧は?
今通り過ぎたところに、『お城と言えばコレ!』といった感じの鎧が置いてあった。
A:床とつながっています。継ぎ目もないので、着ることは不可能です。
勇者テメエ阿呆か!
A:多分阿呆です。盗難防止のつもりだったのでしょう。完全に目的をはき違えていますね。
俺の中で評価を決めかねていたこの国の勇者は、『阿呆』に分類されることが確定した。
「やっほー!城だ城だー!」
《おっしろー、おっしろー》
幼女2人がはしゃぎまわる。俺の周りをくるくると回り、そのままどこかに走り去っていく。
「あんまり遠くへ行くなよ」
「はーい」
2人は俺たちから少し離れて見えなくなる。マップを見ると結構な速さで移動しているようだ。
「いや、止めないのか?」
ギルバートに呆れられてしまう。
「ああ、子供は自由が一番だ。あまり縛りつけるモノじゃない」
「まあ、それはそうだと思うんだが…」
「本当か?じゃあアレくらいいいじゃないか」
「まあ、この辺には重要な施設はないしな。せいぜい訓練場と地下牢があるくらいだ。地下牢には看守がいるし、中に入ることもないだろう」
俺が今歩いているのは1階だ。なんでも訓練場にゴルド団長がいるらしい。
正直あまりいい予感はしないよな。テンプレだと団長に模擬戦を挑まれるとかだろう
そんなことを言っていたら訓練場に着いた。ドーラとミオも追いついてきたようだった。
修練場では初老の男性が鎧姿で剣を振るっていた。うん、威圧感というか存在感というか、とにかく剣を振る姿に圧倒的な力強さを感じるな。
ゴルド
LV85
<剣術LV10><盾術LV10><身体強化LV10>
わー、スキルがカンストしてる。つまりこの人、人外に足突っ込んでるってことだね。スキル数こそ少ないものの、俺みたいなズル(チート)なしでその領域に行くって、並大抵の事じゃあないよ。
「ギルバートか。例の冒険者を連れてきたようだな」
こちらを見ずにそんなことを言うゴルド。この世界にはスキルがある。だが、スキルがないということは、それに準ずる行為が一切できないということではない。料理スキルがなくても料理の上手い人はいるし、幸運スキルがなくても運のいい奴はいる。
<気配察知>がなくても気配を判断できる人間がいても不思議ではない。
まさしく、俺の世界で言う『達人』ということだろう。この世界で出会った人間の中で、1番強い(初期値)のは間違いない。
剣を振るのを止めるゴルド。鞘に入れる姿までが1つの芸術のように洗練された動きだ。そのまま俺たちの方に近づいてきた。
「初めまして、私の名前はゴルド。この国の騎士団長をしておる」
こちらを見る目に侮りは一切感じられない。冒険者相手に、小僧相手にここまで真剣な目を向ける騎士は少ないだろう。
「初めまして、冒険者の仁です」
「ふむ、黒髪黒目で勇者の広めた制服。まさしく勇者の出で立ちだな」
「偶然ですよ」
面と向かって言われたのは初めてだ。勇者と同じ姿というのは割とありふれていて、黒髪黒目の人間はついつい制服を買ってしまうらしい。しかも、それを見る人々の反応には、『少し羨ましい』というのが入っているから驚きだ。
「最近隣のエルディアで勇者召喚がされたからな。実力者がそんな恰好をしていると勘ぐられても不思議ではないぞ」
なるほど、平時ならともかく勇者が召喚された状態で、この格好は誤解を生むかもしれない。割とあふれているから大丈夫だと思ったけど、力を見せるなら考え直した方がいいかもしれないな。
「そうですね。余計な誤解を生まないように服装を見直そうかと思います」
「ああ、それがいい」
なんで俺、騎士団長とこんな話してるんだろう?
「団長、そろそろ本題に入ってはいかがでしょうか?」
ギルバートがたしなめる。だがゴルドはどこ吹く風といった感じだ。
「これも本題だよ。彼の目からは大きな悪意は感じられなかった。純粋なる善性というわけではなさそうだが、それぐらいは普通のことだ」
俺の品定めが本題の1つだったということか。わざわざ本人の前で口に出すゴルド。これも試している一環なのかもしれない。
「さて、もう1つの本題だが、少々無理そうだな。仕方ない、諦めよう」
「はい?」
自己完結しないで、こちらにも情報をください。
「団長、説明を…」
「ああ、すまんすまん。自己完結して説明不足に陥るのは私の悪い癖なのだよ。昔からどうしても治らん」
薄く苦笑するゴルド。そのまま話を続ける。
「もう1つの本題というのは、ギルバートが見つけた、『今までうわさすら聞かなかった強者』の実力を確認したいというモノだよ」
やっぱり模擬戦イベントですか?
「だが、彼の実力は私よりも随分と上のようだ。強敵との戦いは惜しいが、これでもそこそこの身分になってしまったからね。衆人環視の中で無様をさらすのは控えねばならんのだよ」
アレ?イベント回避しちゃったみたい。というか、ステータスチェックとまではいわないみたいだけど、相手の実力も測れるんですね。さすが、達人さん。
「私にはわからないのですが、彼の力とはそこまでの物なのですか?」
「ああ、剣術だけ見ても互角、総合力では大分離されている感じか…」
ほぼスキルの内容と一致している。達人こえー。
「『剣神』と剣技で互角ですと!」
ギルバート今日驚いてばかりじゃない?また2つ名増えてるし。
「ああ、勝っているのは戦いの経験くらいだろう。それだけでこの差を埋めるのは少々厳しすぎる」
「…」
ついには驚きすぎて絶句するギルバート。キャラ崩壊してるよ。大丈夫?
「まあ、久しぶりに面白いものが見れたので、良しとしよう。すまないね。わざわざ呼び出してしまって」
「いえ、構いませんよ。こちらもいい経験になりました」
そう言って、ギルバートに連れられて王城を出る。宿まで送ろうという申し出を断り、俺たちは帰路に着いた。
王都到着から8日後。
この日は買い物に出かけた。ミオと一緒に服を買うのだ。冷静に考えたら、俺は学生服しか持っていなかったのだ。ちなみにさくらは私服も何着か買っている。ミオを連れてきたのは俺のファッションセンスに自信がないからだ。学生服があれば着るものについては考えなくていいから素晴らしい。
逆に言えば学生服が封じられた今、俺には打つ手がないということになる。保存食がまずかった時以来の最大級のピンチだ。
「ご主人様に似合いそうな服となるとこれと、これと…」
テキパキと服を選ぶミオ。本人はゴスロリとかいうある種の際物を着ているくせに、他人の服を選ぶのは得意らしい。
ミオが選んだのはこの世界で比較的よく着られている、麻のズボンと綿のシャツだ。ズボンは俺に似合いそうな色で何着か選んでくれたようだ。とは言え、黒とか茶色とかが多くなってしまい、結果的に少し地味になってしまうのはしょうがない。
わかってはいたが、凄まじい村人臭がする。大丈夫、それが目的なんだから…。
「まあ、野郎が着飾っても誰も得しないし、勇者呼ばわりが減ればそれでいいんだ…」
「どうしたの?遠い目をして」
「いや、何でもない」
ふと白いワンピースが目に付いた。元の世界で見たことあるような、清楚系の女の子が来ているような装飾の少ないタイプのものだ。
ワンピースとミオを見比べながら、黒髪には似合いそうだなーという感想を持った。ついでだからお土産に買っていこう。
その日の夜。
「えへへー、ご主人様に買ってもらったのー」
「う、うらやましいです…」
白いワンピースを見せつけられ、マリアがうなり声を上げる。…あそこまで悲しそうな顔をされては仕方がない。今度他のみんなにも服を買ってあげよう。センスがないので喜んでもらえるかはわからないけど…。
王都到着から9日後。
さすがに今日は明日の準備だ。何が起こるかわからないからね。最悪Sランク冒険者が複数敵に回るかもしれない。それにゴルドやギルバートも…。
ギルバートに聞いたところ、今回は無関係なミオやドーラは連れていけない。まあ、連れていく気もないけど…。連れて行っていいのは、スタンピード時に馬車に乗っていたマリアとセラの内、どちらか1人だけと言われた。マリアは俺の護衛としてついてくる気満々なので、セラにはお留守番をしていてもらおう。
「明日は荒事になる可能性が高い。最悪の場合、この国を出て行くはめになる」
「でも、上手くいく可能性も高いのですわよね?」
「ああ、現状の手持ちカードで十分に勝てるだろう」
「と言うか、ご主人様がジョーカー過ぎるんですけどね」
まあ、自覚はある。
「それでも万が一ということがあるからな。油断をするつもりはない」
「だったら最初からそんなことするなって話ではありますけどね…」
「でも、放っておくことはできない。この国は結構気に入っているからな」
エルディアはともかく、この国は趣味に合っている。ズタボロにさせるには少々惜しい。
俺は基本的に配下の過去にはノータッチだ。過去にあった出来事に関して、俺が直接動くことはしない。もちろん、配下が望むならその手助けくらいはしてやるつもりだが…。一方、俺の配下になった後に手を出されることは絶対に許さない。
今回の件は配下に手を出し続けているようなものだ。俺的にこれは許せない。絶対に潰す。
今週中に短編上げます。マリアとルセアのお話です。宗教的な成分を含むので苦手な方はスキップ推奨です。あまり、本編とは関わらせない予定です。予定は未定です。