第31話 王都到着と女騎士
ダイスロールは変身有り○○になりました。次はこっそり、変身形態を決めます。第1候補はやはりティラノかな。死んだティラノの怨念ネタができるし。もちろんダイスには従うけど。
あ、今回軽めのグロ注です。仁がこれ見よがしに注意してるので、苦手な人はその辺を3行改行しているあたりまで飛んでください。
1時間後、俺たち一行は王都に到着していた。
え?経過時間がおかしい?面白いものがある村はどうした?嫌だなー。そんなの王都についてから『ポータル』で戻っても同じだろ?
目的のないぶらり旅ならともかく、明確な期限のある移動は早い方がいいに決まっている。そこで俺は『ワープ』と<縮地法>の高速移動コンボで王都まで向かい、後から馬車を『ポータル』で引っ張ってくることにしたのだ。
途中の村の近くに『ポータル』を設置し、後で戻ってこれるようにするのも当然忘れていない。これで面白いものの回収準備も万端だ。…まあ、観光としては邪道な気もするけど…。
というか、アルタが思わせぶりなことを言うから、そちらを優先するために移動時間の方を減らすことにしたという方が正確かもしれない。
まあ、道中は魔物が少なめだったから、のんびり進むというのも有りだったんだけどね。期限がなければそれはそれで好きだし…。
そうそう、ティラの森に向かった時よりも移動速度が速いのには理由がある。1度上空に『ワープ』してから次の転移先を指定することで、『ワープ』の制限である「目視できる範囲」を広げ、更なる高速移動を実現できたというわけだ。詠唱を短くする必要があるので若干MP効率は悪いが、地上でのコンボも併用してほぼノンストップで移動することができた。誰かに見られていないといいんだけど…。
「ご主人様、王都まで7日って言ってなかったかしら…」
「それはもう過去の話だな。今は大体1時間だ」
「ご主人様に常識って通用しないのね…」
馬車(内の『ルーム』)から出てきたココを含む新人奴隷たちにも高速移動したことだけは伝えた。詳しいことは伝家の宝刀でゴリ押しした。
街に入るため列に並ぶ。
王都は周囲を10mほどの外壁に囲われている。門自体も5m程あった。他の馬車は商隊とかが中心だろう。歩きできた人の列に比べ、馬車の方は手続きが多いらしく時間がかかっている。
「そうだ。ギルバートからもらった茶封筒でも見てみるか」
いろいろと書いてあるらしいからな。地図とかはマップの方が確実だから見てなかったけど、宿とかはギルバートおすすめのところに泊まるのもいいかもしれない。
「…地図とかの話はいいから、この話をしてほしかった」
「どうしたんです?」
聞いてきたさくらに茶封筒の中にあった書類を手渡す。
「あー、これがあれば外壁の門を素通りできたんですね」
そう、茶封筒の中には貴族とかの優先通路を使わせてもらうようにギルバートが一筆したためていたのだった。恐らく、地図とかを見るときに気付くと思ったので、わざわざ言わなかったのだろう。でも、こっちの方が説明欲しかったです。
「次の人どうぞー」
そんな話をしている内に俺たちの番がやってきた。せめてもの悪あがきとしてギルバートの手紙を門番に渡し、通行料を免除してもらうことにした。
多分だけどこれを見せると上の方に連絡が行くんだろうな。つまり、あまりに短い移動時間の件がばれる可能性も高い。でも、スタンピードを1人で討伐とか非常識な事やってるし、今更隠したところで意味ないだろ…。
《でかーい》
「本当に大きいわね」
街の中に入るとそこから王城が見えた。結構距離があるみたいだけど立派な洋風の城が街の中央にたたずんでいた。楽しみにしていたと言うミオとドーラの幼少組は目を輝かせていた。
例のごとく街の中には日本建築が混ざっており、そこはかとない違和感を俺に与え続けていた。中途半端に日本文化を広めた勇者の罪は重い。ただし米は認めざるを得ない。
さくらの目は幼少組と反対に少し澱んでいた。さくら顔に出し過ぎ…。
「さくら」
「…なんでもありません」
「顔に出てる。今度はあんなことにはならない。させないから、俺を信じてくれ」
「はい」
さくらに少し笑顔が戻った。本当に嫌な思い出になっているようだな。何とかしてあげたいな。王国滅ぼせば笑顔になるかな?…いや、それで笑顔になられても怖いか…。
「ご主人様、着きましたわ」
そういって馬車を止めるセラ。ギルバートおすすめの宿に到着したみたいだ。名前は『森の宿』?ちょっと意味が分かりませんね。
「いらっしゃい」
受付をしてくれたのは恰幅のいいおばちゃんだ。看板娘!看板娘はどこですか!
A:いません。
……。
「ギルバートさんの紹介できました。とりあえず10日の宿泊をお願いします」
「はいよ。ギル坊ちゃんの紹介なら少し負けとくよ」
ギル坊ちゃん…。イケメンが坊ちゃん…。
少しニヤけながらお金を払い、いつも通り2部屋とる。今回は完全にメインパーティと新人奴隷を分けることにした。
その内の一部屋に入り、メインパーティのメンバーを集める。
「さあ、じゃあ恒例の奴隷商だな」
「まだ増やすの!?」
ミオが少し呆れたような声を上げる。そんなこと言っても俺の基本戦術だし…。
「ああ、アルタが面白い奴隷を見つけてくれたんだ」
「今度はどんな奴隷なの?また秘密?」
「いや、今回は先にネタバラシをしておく。次に配下に加えるのは女騎士だ」
「おー。お?え?騎士って、この国の?」
「ああ」
「なんでそんな人が奴隷になっているんですの?」
普通その国の騎士が奴隷に落ちるってありえないよな。
「さあ?そこまで個人的なことは分からない。ただ、欠損が酷いみたいだからな。さっさと買い取って回復してやらんと死ぬな」
「買うのが決まっているのでしたら、早くいきましょう」
マリアが俺を促す。無関係な相手ならともかく、買うと決めている相手の欠損は気になるようだ。
「ああ、大勢連れていく必要もないから…」
「私が行きます」
「…わかったよマリア」
マリアは俺を1人にはしたくないようだ。仕方ないのでマリアだけを連れていくことにした。
「ちなみに1番の目的は新人たちの教育係だ。いくら強くなっても子供だけじゃあ余計なトラブルに巻き込まれやすい。まあ、言ってしまえば引率役だな」
「新人組と別行動の時は近いということですね」
一緒に旅をするのはここにいるメンバーと従魔くらいで十分だ。新人組に引率役をつければ別行動をさせてもある程度安心だろう。まあ、アルタがいればその心配はないんだけど…。でもやっぱり、目に見える形の保護者って必要だと思うんだよね。
「ああ、そういうことだ。あ、他のメンバーは王都観光を楽しんでてくれ。ついでに新人組にもそう伝えておいてくれ」
「「「はい」」」
《?》
あ、ドーラ話聞いてない。
俺とマリアは宿を出て奴隷商に向かう。マップを見れば位置は分かるが若干遠い。さすがに王都と言うだけあって、今までの街とは比べ物にならないくらいには大きい。人口は10万人とこの世界でも多い方に含まれる。
余談だが、これほどの都市を1つの結界石で守るのは困難、というかそんな結界石が存在しない(と言われている)ので街をブロックごとに分け、それぞれを結界石で守っているようだ。
歩いて15分くらいかけて奴隷商に到着した。奴隷を運ぶ手間もあるから、帰りはこっそり『ポータル』でも使おう。
奴隷商での指定は『捨て値同然の女奴隷』。うん、少しテンプレ化してきた気がする。一応言っておくとアルタからの指定だ。
奴隷商に連れられ、いつものように薄暗い部屋に入る。
「こちらにいるのが捨て値の奴隷たちになります。あ、1番奥にいるのはあまりにも見苦しいので布をかぶせております」
はい、そいつですね。
A:奴隷商の言う通り、かなりひどい有様です。覚悟の方はよろしいですか?
もちろん。大丈夫だ、…と思う。
「悪いがその奴隷を見せてくれないか?」
「お客様も結構な趣味をお持ちですな」
そう言って、かぶせていた布を取る。うん、冗談抜きで酷い有様だ。
まず、欠損している物から挙げていこう。両腕、両目の眼球、鼻、両方の乳房、頭皮。…うん、冗談抜きでひどすぎるだろコレ…。腕や乳房は鋭い刃物…、ではなく恐らくのこぎりのようなモノで切られたようで、切断面もギザギザだ。眼球はえぐり取られ鼻も切り落とされ、頭皮は髪の毛ごと力任せに引き抜いたかのようだった。
喉は完全に潰され声も出せない。足はついているものの腱は切られているし、槍のようなもので刺されたような穴がある。股と口の中はナイフでほじくり返されているようで傷だらけだ。
何が凄まじいかって耳だけは完全に無事なんだよ。つまり自分の状況は聴覚により判断がつく。しかも回復魔法が使われたようで、血は流れていない。つまりほっといてもしばらくは死なない。
まさしく生きているだけと言った有様だ。
「コイツはいったい何があった?」
俺の質問に奴隷商も困った顔をする。
「少し特殊な伝手で連れてこられたんですが、最初からこの有様でこちらとしても拒否したかったのですが…」
言葉を濁す奴隷商。恐らく金でも握らされたのだろう。そこまでして奴隷にするってどういうことだろうな…。
「まあ、とりあえず引き取ったはいいものの、ナニに使うにしてもどこもかしこも使えないようにされてるとしか思えない状況でして、扱いに困っているのですよ」
マリアやセラも酷かったが狂人ならば使い道もあっただろう。しかしここまで来ると狂人でも少し辛いかもしれないな…。
マリアやセラ以上に酷い奴隷がいるとは、世界って広いな(遠い目)。ふと横を見るとさすがのマリアも憐れむような顔をしている。
「連れてきた者からは売ってもいいが簡単には殺すなと言われていますし…。ただ、食事量が少なくて餓死するのは構わないと言っていたので、放置している状況ですな」
本人がいる前でそんなことを言う奴隷商。だから、声は聞こえるんだって…。
「わかった。俺が買おう」
「え、本気、いえ、正気、いえ、よろしいのですか?」
奴隷商の俺を見る目が変わった気がする。具体的には狂人を見るような目だ。うん、こんな奴隷を買うなんて言ったら、そんな目で見られても仕方がない気がする。
「ああ、本気で正気で問題ない」
「は、はあ…」
奴隷商が唖然としている。
「え、えーと、料金は…、3000ゴールドで結構です」
はい、安値更新しました。
奴隷紋と『隷属の首輪』をつけるには1万ゴールドかかる。1万ゴールドで丁度奴隷紋と同じ額だったのに、安値を更新したことでついには奴隷紋等の方が高額になるという事態が発生した。
「あ、そうそう、この奴隷は奴隷紋が付いておらず、『隷属の首輪』一択となりますことをご了承ください」
奴隷紋は格下か了承した相手にしかつけられない。ゲーム的に言えば奴隷術のレベルと、受ける方のレベルによっては失敗するというモノだ。女騎士の方は高レベルなので、奴隷紋を拒絶することができたのだろう。
隷属の首輪経由で所有者登録をし、奴隷商の持ってきた袋に詰め込む。歩けそうにないし、担いでいくにも他人に見られたら厄介だ。そりゃあ袋詰めしかないだろう。
こうして俺は無事、無事ではない新たな奴隷を手に入れることができた。その後は裏路地で『ポータル』を使って馬車の中に戻ることにした。馬車の中に到着した俺は女騎士を椅子に座らせる。座らせる?どちらかというと置くって感じだな。
「さて…」
「少々お待ちください」
「うん?」
マリアが俺を引き留める。一体どうしたというのだろうか?
「先にこの者に教育をしてもよろしいでしょうか?」
「教育?」
「はい、この者はこれから奇跡を目の当たりにすることになります。その際、仁様に不快な思いをさせないために、先に言い含めておこうと思いまして…」
ああ、神様呼びとかが嫌だっていう話か。そうそう神様呼ばわりされることもないとは思うけど…。
「まあ、構わないが…」
「では、大変申し訳ありませんが、言い含める中にも不快な単語があるかもしれませんので、外でお時間の方を潰していただいてもよろしいでしょうか?」
「わかった」
確かに横で聞いていたら同じだからな。じゃあ、少し外で待っているか。
「では1時間後くらいに念話をしますので、そしたらお戻りくださるようお願いいたします」
「長いな!」
せいぜい10分くらいだと思ってたよ。
「ええ、恥ずかしながら私が仁様に拾っていただいた際には、仁様が不愉快になる言葉を多く口に出してしまいました」
神様、貴族、勇者と3拍子揃っていたからな。
「幸いにもセラちゃんはそのようなことがありませんでしたが、奴隷が増えていく中で私は気付いたのです。このままでは私と同じ轍を踏む奴隷が出てくる可能性があるということを。ですので事前にそのようなことがないように教育をするべきだと考えました」
マリアは胸を張り、誇らしげに言い放つ。
「中途半端なことはできません。教育をするならするでしっかりと時間をかけ、仁様のお役に立てる奴隷に少しでも近づけるようにしたいのです」
「そ、そうか」
マリアの揺るがぬ意思を感じ取った俺は、大人しく馬車の外で時間を潰すことにした。みんなは王都でショッピングみたいなので、久しぶりに1人の時間がとれ…なかった。
マリアから連絡を受けたセラが『ポータル』で戻ってきて、俺の護衛、というかエスコートをしに来たのだ。
俺の腕を引き寄せて歩くセラ。二の腕の感触は気持ちいいんだけど、最近1人で過ごす時間が少ない気がする。
「ご主人様。どこか行きたい場所はございますか?」
「うん?他のメンバーと合流するんじゃないのか?」
「いえ、他の方たちは結構バラバラに行動をしているので、あまり気にしなくていいと思いますわ」
マップを見ると3~4人くらいで行動しているのがわかる。さくらはあまり動き回りたくないようで、図書館にイリス、ユリアとともにいる。ミオとドーラはロロと一緒に食材の調達だ。気弱なアデルは荷物持ちだ。クロード、ノット、ココ、シシリーは武器屋を見て回っているようだ。
確かにここまでバラけていると、どこに向かうか迷うな。
結局俺とセラは2人でウィンドウショッピングというか、目的もなくぶらぶらと王都を歩きまわることにした。
途中、立ち往生している馬車をセラが片手でどけたり、見世物小屋から逃げたワイバーンを服従させたり(テイムじゃないよ)、露店の食べ物をセラが食いつくしたり、3階から落っこちた子供を<縮地法>を使って助けたくらいで、大したイベントは起きなかった。
ぶらぶらしている時間というのは意外とあっという間に過ぎてしまい、もうすぐ1時間というところでマリアから念話が入る。
《お待たせしました。準備の方ができましたので、お戻り頂けますか?》
《わかった。すぐに行く》
本当に1時間近くかかったな。
「セラ、俺は戻るがお前はどうする?」
「私も戻りますわ。邪魔になるといけないので部屋の方でお待ちしていますわ」
「わかった」
俺は馬車にセラは宿に『ポータル』で転移する。
「仁様、では『リバイブ』の使用をよろしくお願いいたします」
「ああ」
パッと見た限り何かが変わったという感じはしない。
A:大きな違いがありますよ。こちらをご覧ください。
そう言って表示されたのはマップだ。マップ上の馬車には、俺を示す点と味方を示す青い点が4つ。マリア、タモさん、ミドリ、そして女騎士だ。女騎士には<契約の絆>を使っていないから、まだ配下としての青表示にはならないはずだ。現に連れてきた当初は緑表示だった。
つまり、マリアによる1時間の教育の結果ということだろう。
何があったし…。
A:聞きますか?
いや、いい。あまり聞きたくない。
色々なことを無視して『リバイブ』の詠唱を始める。以前と同じように10分ほどかけて詠唱が完了する。
「リバイブ」
マリアと同じように光に包まれ、徐々に輪郭が変わっていく。
光が収まるとそこには美女が立っていた。腰まで伸びた銀髪にルビーのように赤い瞳。鼻は高く全体的に整った顔のパーツ。形の良い乳房はセラよりは小さいが十分に存在感を放っていたし、腕も脚もすらりと長く傷1つ無い。
そのどれもが10分前までは台無しになっていた代物だ。なぜここまで詳細に説明できるかと言えば、奴隷商から連れてきた状態のまま、つまり全裸だからだ。
女騎士は自らの手足や顔などを触って、見て確かめ、一通りの確認が終わると目を閉じた。閉じた瞳から涙が流れ落ちる。少し待つと女騎士はその場に跪いた。両手を組み、祈るように掲げながら頭を下げる。
うん、これどう見ても信者ですね。女騎士と言いつつ、忠誠ではなくて信仰を捧げられちゃっていますね。
いや、マリアに任せた段階で、そんな予感はあったんだけどね。だって、シチュエーションがマリアの焼き直しみたいなんだから…。
そしてマリアは満足したかのように頷いている。
「仁様、新たな下僕に声をおかけください」
マリアから挨拶?を促される。そうしている間も女騎士は全く動かない。騎士とかってじっとするのも仕事みたいなものだから、同じ態勢で居続ける訓練とかしてそう。
とりあえず何か言おう。俺が何か言うの待っているみたいだし。
「えっと、…元気?」
うん、気の利いたことなんて言えるわけないって。奴隷に対する挨拶とは求められているものが違う気がするし…。
「はい、主様のお慈悲により私も新たな生を得ることができました。すでに騎士の身ではありませんが、せめてこの身と忠誠を捧げさせていただきたく思います」
だから忠誠を捧げる格好じゃないって…。多分マリアから『神様扱いはNGだから、あくまで忠誠で』とか聞いているんじゃないかな。
A:正解です。
…NGワードこそ避けてはいるものの、完全に神様扱いだわ、コレ。
さて、そろそろ女騎士のステータスでも表示しますかね。いつまでも女騎士呼ばわりも可哀想だし。
名前:ルセア
LV49
性別:女
年齢:24
種族:人間
スキル:<剣術LV6><盾術LV6><忠誠LV1><身体強化LV4>
称号:仁の奴隷、元女王騎士
脳筋だけど馬鹿みたいに強いよね。後ちゃっかり<忠誠>がついてる。これ、いつ付いたんだろう。騎士時代?
A:ついさっきです。
あ、そう…。そっか、もう付いちゃったか…。まあ、ついて損のあるものでもないし放っておこう。
あ、そうだ。マリアがどの程度の話をしたのか聞いておかないと。
《マリア、ルセアにはどの程度の情報を与えた?》
《仁様が特殊な力を持っており何でもできること。主な仕事が新人奴隷の育成であること。これらを教えています》
《何でもできるわけじゃないんだが…》
気になる話が混じっていた気もする。しかし、これだけで1時間はかからないだろうから、今のポーズにかかわる話が中心だったのだろう。
「ルセア、聞いていると思うけど、お前の仕事は俺が従える新人奴隷たちの教育だ。元騎士であるお前の実力と指導力に期待をしている」
「はい。お任せください」
そう言いつつもルセアは祈りのポーズのままだ。これ、いつになったら止めるの?
A:マスターかマリアが指示をしなければ倒れるまでこのままでしょう。
「話をするから、立ち上がってくれ」
「はい」
そういうとルセアは立ち上がった。俺が目の前にいるというのに、一切裸体を隠そうとしない。
「恥ずかしくないのか?」
「いいえ、すでにこの身を捧げているので恥ずかしくなどありません。お目汚しになっていないかだけが心配です」
「まあ、治す前ならともかく、今のルセアを見て不快になる男はあまりいないと思うぞ」
「ありがとうございます」
正直眼福です。ただ1つ残念なのが『隷属の首輪』だな。白っぽくきめ細やかな肌に、武骨な首輪は少々趣が異なる。それがいいという人もいるかもしれないが、俺の趣味ではない。
俺の視線を読み取ったのかルセアが口を開く。
「恐れながらお願いがございます。『隷属の首輪』でなく、奴隷紋をお刻みくださいませんでしょうか?忠誠の証を自ら立てたいのです」
違った。俺の思っていた意味とは違った。
前にも言ったが、奴隷紋は力量差があるか、合意がなければ刻めない。そんな奴隷紋を自ら望むことで、忠誠を示そうというのだろう。
「わかった。では背中を見せろ」
「はい」
疑問も口にせず背中を見せる。
《マリア、俺が奴隷術を使えることを話したのか?》
《いいえ、ただご主人様は何でもできるから、何を見ても驚かないように教育しただけです》
《…》
マリアの教育が怖い。信者発生魔法と狂信者のコンボにより、新たな信者が誕生したのだった。
そういえば、名乗らせていないのに、こちらが名前を呼んだときも無反応だったな。
マリアに驚愕しつつもルセアに向き合う。正面と同じようにきれいな肌だ。…いや、よく考えればおかしい。騎士なんてやっていて、傷1つ無いものなのだろうか?もしかして『リバイブ』って古傷とかも治せるの?
A:治せます。
なるほど、古傷もある意味『欠損』というわけか。古傷を消せるって、人によっては結構な価値が付きそうだよな。いや、欠損を直せる魔法に対して今更か…。
とりあえずルセアに奴隷紋を刻む。合意が取れたようで、仮奴隷用の紋が刻まれる。そこに血を垂らし、正式な奴隷として登録する。『隷属の首輪』を取り外し、正面から見る。うん、余計なものがなくなった。
「ありがとうございます」
礼を言い、頭を下げるルセア。さて、そろそろ本題に入りますか。
「ルセア、お前はなぜあのような状態で奴隷として売られていたんだ?」
まず聞いておかなければいけないことだ。
「はい、それは…」
「なるほど、やっぱり予想していた通りだったか」
「仁様、いかがいたしましょうか?」
「いや、特にどうもしないな。当初の予定通り、10日後まではこの街に滞在だ」
「わかりました」
ルセアから話を聞いた俺は、アルタから聞いた予想が正しかったことを確信した。このままだと少し面倒な事になりそうだな。
「一応、対策というか打てる手を打つ準備だけはしておこうか」
「はい」
タイトルからくっ殺を思い浮かべた人も多いと思います。
コーダの新次元くっ殺、「苦しい、殺してくれ」。