口伝第3話 セラの事情
短いですが、セラの過去話です。
いくつか注意があります。
まず、この話は全てセラのセリフです。括弧がありませんが全て口に出しています。後、同じ部屋に仁もいます。複数人いる中で1人のセリフだけで状況を示せるかと言う試みです。そのせいで若干セラのセリフが説明臭くなっています。
後、この話はあまりにもタイミングが遅く、実際には20話と21話の間くらいに入れるのがいいと思っています。今は最新話として出しますが、どこかのタイミングで時系列的に問題がない場所に移そうと思います。
え?私の過去をもう少し詳しく聞きたい?なんでまたそんなことを…。
いえ、嫌と言うわけではありませんわ。今更隠す様なものもありませんしね。
さて、どこから話しましょうか。まずは私はこの国の生まれではないということからですかね。私が生まれたのはカスタール女王国から見て北側にある、サノキア王国と言う国ですわ。サノキア王国はコテコテの貴族社会で、貧富の差がとても大きいのです。そして、貴族にとって子供とは家を発展させるための道具にすぎません。私自身4女ですし…、恐らく嫁がせるとかそういった目的で産まされただけだと思いますわ。
ええ、両親からの愛情なんて感じたことはありませんわ。両親からはあれをしろ、これをしろと言う指示しか聞いたことがありませんわ。
兄弟も大勢いたようですけど、滅多に会うことはなかったですわね。幼いころから私の不自然さは周囲に知れ渡っていましたからね。兄弟たちも気味悪がって近づいてきませんでした。
え?さっき両親からの指示があったじゃないかって?嫌ですわね、そんなの使用人に任せていたに決まっているじゃないですか。兄弟に会うより、両親に会うことの方が少なかったですわよ。
ええ、幼少期からこの体質、スキル<英雄の証>ですね。このスキルのデメリットで体重が重く、よく食べて、そのくせ病弱ということで、周りから避けられていました。一応、両親としてもどこかしらに嫁がせようとでも思っていたようで、貴族的な作法やたしなみを教えられていましたわ。もちろん両親は顔を見せませんけど…。
ですが、当時の私は顔立ちこそ整っていたものの、痩せこけており、見た目からして縁起が悪そうな雰囲気でした。
ミイラよりはマシ…。その通りだとは思いますけど、もう少しまともな言い方はありませんか?今更プライドなんて残っていませんけど、これでも女の子ですわよ。ミイラ扱いはあんまりですわ。
きゃっ!いきなり何を!?え?大分膨らんだな?まあ、ご主人様に買われてからの食事のおかげで、ずいぶんと張りも肌ツヤも良くなりましたけど…。と言うか見ればわかるでしょうに…。
続きですね。ご主人様自由すぎますわ。
貴族社会で噂というモノはすぐに広まりますわ。私の存在と、家族に疎まれているということも知れ渡っていたみたいですね。
両親も何度か縁談を持ちかけたみたいですけど、その噂のせいで受けるような貴族はいませんでした。メリットの少ない格下に嫁がせるようなことは良しとしなかったみたいで、メリットの大きいところばかりを狙っていたみたいですわね。妥協すれば無理やりねじ込むこともできたかもしれませんけどね。
私としても貴族の責務として、望まぬ相手と結婚することも覚悟はできていました。結局は無駄になった覚悟ですけどね…。ですが、私のところまでは一切そんな話が来ませんでしたわ。来るのはたまに縁談用の写真を撮りに来る時くらいですかね。写真を撮ることになった時「あ、近々縁談があるのかな?」と思うくらいでしたから。
そうですわ。たまにたくさん食べて調子がいいといったのは、写真を撮る前にガリガリなのを何とかしようと、普段より多めに食べられた時のことですわ。そんなに長くはもたないのですけど、多少は体が軽くなっていましたわね。
なぜ食事の量を増やさないのかって?両親から料理人の方に量の指定が入っているのですわよ。以前平民よりはいいものを食べていたと言いましたが、他の親族から見ると数ランクは落とされていたみたいですわね。一応、10歳くらいまでは10人前、それ以降は3人前くらいは食べさせてもらっていたのですが、見ての通り、全然足りませんわ。
え?話に大きな動きがない?当然ですわよ。習い事以外の時間はできるだけ動かないようにして、お腹が減るのを抑えようとしていましたからね。まあ、基本的に無駄な努力だったのですけど…。
両親はそんな私に見切りをつけたようで、縁談の話も来なくなりました。丁度その頃、両親の活動もあまり上手くいっていなかったようですわね。両親が縁起の悪いものを処分しているという話を聞きました。当然、私も処分されるモノだと思いましたわ。
私が殺されずに奴隷に落ちた理由ですか?そうですね、今の両親の活動のお話とも関係あるんですけど、兄弟の1人が何かやらかしてしまったようで、病死することになったんですの…。
ええ、ご想像の通りですわ。それで、私の方も同時に病死させると、少々対面が悪いと考えたようで…。
…同感ですわ。家族を殺しておいて体面も何もないとは思いますわ。ですがそのおかげで私が生き残れたことを考えれば、その兄弟には悪いですけど運がよかったのでしょうね。
体面を考えた両親が私を放逐…、まあ、最終的には死なせる予定だったみたいですけど、他国の奴隷商に売るという選択をしたみたいですわね。
扱いとしては行方不明みたいですわね。夜中にこっそり連れ出されましたわ。
抵抗なんかできませんわよ。そんな力出ないですし。ある意味で諦めていた部分もありますからね。殺されなかっただけマシだなんて呑気なことを考えていた覚えがありますわ。
奴隷商に連れていかれてからも過酷でしたわね。一応少し前までは貴族だったので、料理…、いえ、あれは餌ですわね。餌を食べさせられるのですけど、全く足りません。そのくせ馬車の居心地は悪いから、体力を使ってお腹が減るという死のサイクルですわ。
何とか奴隷商について、私を見た奴隷商がこのままでは売れそうにないと考えたのか、数人前の料理を持ってきました。それで何とか見れる見た目にはなったのですが、長くは持ちません。奴隷商も手をかけるほどの相手ではないと思ったようで、放置と言う手段がとられました。
聞こえた話ですけど、元貴族だから多少丁寧に扱うなんてことは全く考慮されないようですわね。
ええ、やっぱり殺す気だったのは間違いありません。すぐにガリガリになって、あのような状態になりました。正直、後1日遅れていたら死んでいたと思いますわ。ご主人様には本当に感謝しております。
帰属意識?あるわけないじゃないですか。と言うか、今の生活が良すぎて、あの頃自体が地獄のように思いますわよ。少なくとも、ここでは空腹で眠れないなんてことはないのですから。
それよりも私の生存が家の方にバレて、刺客でも差し向けられないかが心配ですわね。
追手なら倒せばいいって…。ご主人様、相手は貴族ですわよ。元貴族の私が言うのもなんですけど、相手にしていい存在じゃあないですわ!
え、結構敵対している?正気ですか…。いえ、ご主人様が言うんだから嘘じゃないですわよね。それで今まで無事なのですか。
いや、Sランク冒険者なんて、貴族でも召し抱えているところなんてほとんどありませんって…。それを倒した。しかも1対1で大きな傷を負うこともなくって…、ご主人様どんだけ化け物なんですか…。
痛い!痛いですわ!すいません!化け物なんて言って申し訳ありません!
はあ、はあ、うう…。
いえ、何事もなかったかのように話を進めないでくださいな。
ご主人様に追手とか、いらぬ心配のようですね。Sランク相当が複数いるパーティ相手に暗殺を成功させるような者など、あの家に雇えるとも思えませんわ。
…ありがとうございます。私自身がSランク相当になって、自分で撃退できるようになるとか、普通の人でしたら詐欺にしても盛り過ぎだと笑われるところですわよ。ご主人様が言う以上、本当のことになりそうですけど…。
とりあえず、私の過去として話すべきことはこれくらいですかね。大した話がなくて申し訳ありません。
ええ、ご主人様の奴隷として、これからもお仕えさせていただきますわ。
あ、具体的にどういう状況かと言う説明は省かせていただきます。
定型文で言うとあれですね。
「ご想像にお任せします」