第27.5話 マリア叱られる
マリアの短編です。かなり短いです。
本編が仁の一人称視点かつストーリーを進めることに重きを置いているため、キャラクターの掘り下げが不足しており、短編で補おうという姑息な手法です。
利点はこのくらいの長さなら負担が少なく、書きやすいこと。欠点は本編が連続しないので読みにくいことです。何か手はないものか…。
新人奴隷たちを冒険者登録させた日の夜、仁は『ルーム』で作った部屋の中にマリアだけを呼びつけた。
「マリア、今日勝手に<縮地法>を使ったよな」
「申し訳ございません。思わず使ってしまいました!」
マリアとしてもうすうす感じていたのだろう。仁が「縮」と言った段階で、マリアは土下座の姿勢に入っていた。
「確かに<縮地法>に関しては『命令』ではなく、あくまでも『あまり使わないように』という方針程度だった。しかし、不必要に使っていいわけじゃあなかった。あの場面で、<縮地法>は絶対に必要だったか?」
「いえ、不要でした。非は私にあります。どのような罰でもお受けします。出来れば、これからもお仕えすることを許していただければ幸いです」
「いや、そこまでの罰を与えるつもりもないんだが」
仁としても叱る必要はあると考えていたが、どの程度の罰を与えるかまでは考えていなかった。
「と言うか、マリアって何されたら嫌なんだ?」
「1番嫌なのは死ぬ事です。仁様に不要と言われるのも同じくらい耐え難いです」
「死ねなんていうつもりもないし、これからも役になってもらいたいし…」
「ありがとうございます。では、腕1本でも切り落とせばよろしいでしょうか。あ、でも『リバイブ』があるから、大した罰にはならないですね…」
通常、治るとわかっていたとしても、腕を切り落とすようなことは大した罰である。
「マリアは痛みに慣れている節があるから、物理的なダメージじゃ罰にならなそうだな…」
仁としても、自分の奴隷を痛めつけるような趣味はない。なので、恥ずかしい方面の罰がいいだろうと考えた。もちろん、仁の趣味である。
「じゃあ、何をしたら恥ずかしい?」
「全裸で街を歩く、とかですかね?」
「却下だ」
仁にも独占欲があるので、不特定多数に痴態を見せるようなマネは許容できない。
「困りました。仁様からの要求ならどんな恥ずかしいことでもできる自信があります。仁様に対してだけ恥ずかしいことなんて思いつきません…」
「えー」
さすがの仁も呆れる。というか若干引いていた。自分からそういう方面の要求を出しておいて勝手である。
「じゃあ、裸になれ」
「これでよろしいでしょうか?」
次の瞬間には服を<無限収納(貸与)>に入れ、全裸になるマリア。
「えー」
全く恥ずかしがる様子を見せないマリアに、普通に引いてしまう仁。
「じゃあ…」
それからしばらく、仁は『ルーム』の外では絶対にできないような要求をマリアにし続けた。マリアは悩むそぶりなくすぐさま実行に移す。そのたびに仁は引く。
「これでは罰になりません。仁様、他に何かないでしょうか?」
「えー」
流石の仁もネタ切れだ。ここまでの2時間で、たとえ恋人であろうともそんな要求をしたら100%振られるようなことを要求し続けたため、そっち方面で思いつくことなどなくなってしまった。
まさか裸○○を躊躇なく行うとは仁も予想外であった。冗談だったのに。
そんな中ひらめくことが1つ.
「あ、そうだ。マリア、明日1日語尾に『にゃん』をつけて過ごせ」
「はい?」
仁は罰だと思うことを止め、自分の趣味を前に押し出すことにした。折角の猫獣人、キャラ付けのためにも語尾は必須だ。
「お、お待ちください!それは、それだけはご容赦をお願いします」
急に反応が変わったマリアに対し、怪訝な顔を見せる仁。
「どうした?」
「猫の獣人にとって、猫の鳴きまねをするということは、とても恥ずかしいことなのです。それが許されるのは、ひどく仲のいい恋人同士か、甘ったるい新婚夫婦くらいのものです」
どうやら、猫獣人独自の恥ずかしいポイントらしい。
「仁様の前でならいくらでも語尾を変えます。ですが、外で語尾を変えるのだけはご容赦ください!」
「俺の前ならいいのか…」
「それはもちろんです!」
ある意味では全裸で街を歩く、に近いタイプの罰のようだ。種族固有なら独占欲も特に刺激されない。
「折角マリアが恥ずかしがっているから、罰はそれにするか…」
「そ、そんな…」
「明日の戦闘訓練でも続けろよな?」
「はい…」
「では行きますにゃん」
次の日、魔法を解禁した状態での戦闘訓練が開始された。
「魔法が使えるとは言え、全員が魔法を使う理由もないですにゃん。半分は前衛、残りも補助に1人つきますにゃん」
「あのー、そのごb」
「黙りなさいにゃん」
質問を言い終わる前に牽制するマリア。
(…これ、何だと思う?)
(ご主人様関連じゃない?昨日2人で『ルーム』に入っていたし…)
(あれ?猫獣人族って確か…)
「無駄話をしてる暇があったら、進みなさいですにゃん」
いい慣れていないため、『にゃん』の付くタイミングが若干おかしいマリア。表面上はいつもと変わっていないが、内心はすごく恥ずかしかったりする。
(仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令、仁様の命令)
『仁から言われた』というただ1点でもって、猫獣人としては耐えられないような辱めを耐えるマリア。
「その魔物には火属性の魔法は効きにくいですにゃん!」
「詠唱中は特に周囲への警戒を強めるにゃん!」
「魔法を使う訓練とは言え、武器を使う方が有効なら迷わず武器を使うのですにゃん!」
新人組にとっては厳しい訓練だった。しかし、もしこの訓練を傍から見ている者がいたら、ふざけているとしか思えなかっただろう。
その日の夜、昨日のように『ルーム』に呼ばれたマリアは、語尾の解除を許された。
「意外と厳しい罰だったかもしれないな。別にそれほど怒っているわけでもなかったのだが…」
「いえ、辛かったですけど、罪には罰が必要ですにゃん。あ…」
「癖になったみたいだな。別にその語尾を続けてもいいんだぞ?」
「それだけはお許しください…」
マリアの猫耳が珍しくふにゃっと萎れている。
その後、1時間くらい語尾から『にゃん』が抜けなかったため、『ルーム』の中にいるしかなかったマリアであった。