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列伝第1話 奴隷クロードの冒険

新しく配下となった、クロード視点で26話の訓練を書いた短編です。

列伝(シールじゃない)なんて大げさな名前がついていますが、徐々に成長していくので誇大広告ではないつもりです。一応、配下視点の冒険話はこのタイトルで行う予定です。他のも列挙しますけど、若干ニュアンスが変わることがあるかもしれないのでご了承ください。

口伝:仲間の過去話

失伝:死亡したキャラの1人称死ぬまで

異伝:ifストーリー

列伝:配下の活躍話

外伝:それ以外(織原に限定しません)


 僕の名前はクロード。ただの奴隷だ。昔の夢は冒険者だったが、奴隷になったときに諦めた。なんてことはない、普通の口減らしだ。この国は比較的マシな方とは言え、貧しい村も簡単にはなくなりはしない。


 そんな僕だが、僕たちを拾ってくれたご主人様から魔物と戦えと言われた。僕たちのような幼い奴隷に魔物と戦うことなんてできるわけがないし、人数もいるので囮として使われて、命を散らしていくのかと恐々とした。


 しかしご主人様は囮としてではなく、戦力として扱うというのだから驚きだ。それもご主人様が僕たちの力を引き出すことで戦えるようにするという。


 信じられないまま馬車に乗った。馬車の中でご主人様が僕の額に手を当てる。驚くべきことに体中に力が漲ってくるのがわかった。信じられない、今までと比べると体中から重りを取り外したかのような感覚だ。


「こ、これは…」


 思わず声に出すと、ご主人様はにやりと笑った。


 全員が馬車に入り出てくる頃には、ご主人様が言っていた『魔物と戦う』という意味を全員が理解していた。今なら、魔物相手でもなんとかなりそうだ。


 僕たちのご主人様はとんでもないお方だ。盗賊を傷1つ負うことなく殲滅し、他者の力を引き出し、奴隷術まで行使できる。恐らくだが、それだけではないだろう。僕たちが見ているご主人様の力は、ほんの一端にすぎないと思っている。


 ふと、ご主人様に凄まれたときのことを思い出す。あれは怖かった。みっともなく漏らし、膝を振るわせて崩れ落ちた。いや、みっともないといったのは間違いかもしれない。あれは当然だ。僕と一緒にいた奴隷たちもみんな同じような状況だった。元々いた先輩奴隷や、さくら様、ドーラ様と言った方々は平気そうにしていた。なぜだろう…。


 とにかく、ご主人様から与えられた力で、魔物を倒すというのが僕たちの仕事らしい。


 ご主人様は僕たち奴隷1人1人に武器を与えるといった。奴隷に対して信じられないほどの好待遇だ。その時、よくわからない質問をされた。正直に答えたのだが、お気に召したようだった。良かった…。


 そのあと渡された武器についても、当然のように驚かされた。恐らく店売りの、作りのしっかりした剣だ。ワンハンドアイアンソードと言うらしい。


 そんなものをポンと手渡してくる。それだけ装備に余裕があるということだろう。気になったので見せてもらったご主人様の剣は、刀と言われる珍しい武器だった。一目で僕に渡した剣など足元にも及ばない武器であることがわかった。


 その後も戦ってもいない僕たちに食事を与えてくれた。さらにはデザートまで…。ご主人様は僕たちにここまでのことをしてどのような利益があるのだろう。僕たちを戦力として扱うと言い、力を与えられた。しかし、それを踏まえてもご主人様の方がはるかに強いだろう。僕たちが必要な場面が思い当たらない。


 疑問はさておき、戦闘訓練に入ることになった。8人いた僕たち(新人奴隷と言おう)は4人ずつに分かれて活動をすることになった。僕と同じパーティにはアデルとココとロロが入ることになった。


 アデルは臆病な性格の少年だ。でも戦うこと自体は仕方ないと考えているようだった。というか、嫌だと言い出せなかったようだ。ご主人様に意見するのが怖くて、怖いけどそれよりマシな戦いの方を選んだということらしい。ちなみに武器はリーチのある槍だ。遠くからある程度安全に攻撃できるからね。


 ココは金髪のきれいな犬獣人の少女だ。まだ慣れていないのか、皆比較的言葉が少ないけれど、この子だけは僕と同じくらいご主人様と喋っている。犬獣人は1度主人を決めると尽くすタイプらしく、ご主人様に捨てられないように必死だという。身軽な獣人らしく、武器は短剣2本で手数を重視してやっていくつもりらしい。


 ロロは赤い三つ編みを左右から垂らしている少女だ。どうやらご主人様に一目ぼれしたらしく、ココよりも早い段階でアプローチをしていたという。心当たりがないな。何をしたんだろう?武器は大剣だ。僕より年下の少女が、大剣を扱えるほどの力を与えるご主人様に、何度目かわからないが驚きを隠せない。


 ちなみに僕の装備はワンハンドアイアンソードとラウンドシールドと言われる円形の盾だ。一番冒険者らしく、基本的な格好だ。正直に言えば、憧れたスタイルである。


 防具に関しては簡単な胸当てや籠手を見繕ってもらった。ご主人様のパーティは年齢の低い人が多いので、装備にもいくつか子供向けのがあるみたいだ。それでもさすがに全員分は用意できず、あるものを分けることにした。


 僕は盾があるのでカバーしきれない足の防具をつけることになった。固いブーツで重量感がある。盾を使ったときに重心が下にある方が安定するだろうとのことだ。


 こちらのパーティにはご主人様とドーラ様とセラ先輩がついてきてくれた。もう1つのパーティと別れ、魔物を探す。馬車はそのままでいいのかと聞いたら、そのままで平気と返ってきた。いったいなんで平気なのだろう…。


 僕たちの最初の相手はゴブリン1匹だけだった。


 ゴブリンは魔物の中でも弱いと言われているが、普通の人から見れば十分な脅威だ。武器をもって襲い掛かってくる相手が、脅威でないわけがない。でも、今の僕たちならゴブリン程度なら相手にできるという確信がある。


「僕が前に出て、盾で攻撃を受けるから、皆はその隙に攻撃をしてくれ!もし攻撃を受けることになっても、出来るだけ武器や防具のある場所で受けるんだ!」


 そう言って前に出る。こちらに気付いたゴブリンが棍棒を振るってくる。すかさず盾を前に出す。


-ガキンッ-


 思っていた以上には衝撃がある。でも、受けきれないほどじゃあない。防御によりできた隙に、横からアデルが槍でついた。しかし、浅く肌を切り裂いただけで有効打にはなっていない。攻撃を加えたアデルの方を脅威と感じたのか、攻撃目標がアデルに移った。

 アデルはゴブリンとは言え魔物ににらまれて後ずさる。勢いに任せて攻撃したけど、いざターゲットが自分になると怯えてしまったようだ。


 それはマズい。すかさずアデルとゴブリンの間に立つようにして盾を構える。鬱陶しそうにこちらを見やるゴブリン。再び棍棒が振るわれる。今度は受け方にも気を使い、力を逃がすようにする。ゴブリンが体勢を崩した。


 ココが短剣で足を切り裂く。完全に倒れこんだゴブリンに、ロロが大剣で攻撃を加えることでゴブリンは絶命した。


 そうだ落ち着け。僕は1人じゃない。仲間がいるし、後ろではご主人様が見守ってくれている。本当に危ないようなら助けてくださると言っていた以上、僕たちはきっと大丈夫だ。


 こうして、僕たちの初戦闘は特に危なげもなく終了した。

 ご主人様が近づいてきた。


「みんな、お疲れさま。アデル、最初の攻撃のタイミングはよかったけど、もっと腰を落として槍先がぶれないようにした方がよかったな。ココとロロは見事な連携だったぞ。クロードも盾役としての仕事はこなせていたな」


 そう言って僕たちをねぎらってくれた。


「そうだロロ。とどめを刺してみての忌避感とかはあるか?」

「なかったです」

「そうか、これからは全員にとどめを刺させるが、厳しいようなら言ってくれ。後、最初の剥ぎ取りはとどめを刺したロロが行え」

「はい」


 そういうとロロは渡されたナイフでゴブリンの胸のあたりを切り裂く。血が飛び出さないように、うつぶせにした状態から少し持ち上げながら行うのがお勧めらしい。


 魔物の魔石は全ての魔物にあるわけではないけど、ゴブリンには必ずある。多くは動物で言えば心臓の近くに魔石は埋まっている。魔物とは言え人型の相手を切り裂くのは嫌な人も多いだろう。でも、奴隷生活がある程度あると、そういう普通の感情は徐々に崩れてくるみたいだ。

 ロロも全く気にせずに行っている。


「取れました」

「それはお前たちが持っていろ。初戦闘の証だ」

「はい」


 そう言ってロロは渡された袋に魔石を入れる。魔物の皮膚を切り裂くと血が出るのに、魔石の付近には血が通ってないらしく、魔石自体が血に濡れていることは少ないので、そのまま入れることができる。心臓のあたりにあるというのに、不思議な話だ。



 ご主人様に連れられ、2匹目のゴブリンの下へ向かう。どうしてご主人様は魔物の居場所がわかるのだろう?これも人には言えない力なのだろう。本当にすさまじいお方だ…。


「今度は僕がとどめを刺すから、体勢を崩してくれ!」

「わかったわ!」

「行きます!」


 2匹目にとどめを刺すのは僕だ。攻撃を盾で受けて体勢を崩したゴブリンにココとロロが攻撃を加える。とどめを刺さないように急所は狙わないようにしてもらった。傷だらけとなったゴブリンの首を剣で切り落としてとどめを刺す。


 うん、思っていたよりも忌避感がないみたいだ。奴隷生活って人格変わるみたいだね。

 そういえばご主人様に奴隷紋を見せろって言われたとき、皆何の躊躇もなく襤褸切れをまくっていたの思い出した。10歳を超えて多少の羞恥心とかもあったはずだけど、全く気にならなかったな。

 ああ、ロロのアプローチってもしかして最初に襤褸切れをまくったことなのかな。あの時は誰よりも先にご主人様の前に行っていたし…。


 無事に魔石も剥ぎ取り、何度か4対1の戦闘を繰り返した。その後は複数の敵との戦闘だ。見計らったかのように2匹のゴブリンまで案内された。しかも1匹は剣を持っている。ゴブリン・ソードマンと言われる種類のゴブリンだ。

 いきなり強くなり過ぎじゃありませんか?


 全然そんなことはなかった。アデルも慣れてきたのか、武器による防御ができており、僕の横を抜けていったゴブリンの攻撃に対処できていた。ココは攻撃を加えては離れるという動作を危なげなく繰り返し、ロロはココが作った隙を見逃さない。


 ご主人様は戦闘が終わるたびに良かった点と悪かった点を挙げてくれるので、次の目標として取り入れやすい。


 こうして、徐々に難易度を上げながら戦闘訓練が続けられた。戦闘にもだいぶ慣れ、戦いの中でいろいろと試す程度の余裕が生まれたとき、そいつは突然現れた。


 ゴブリン・ジェネラルだ。ゴブリンの指揮個体でゴブリン系統のほぼ最上位。少し慣れてきた頃が1番危ないというのはよく聞くのだが、まさにその通りだった。


 相手はゴブリン・ジェネラル1匹とゴブリン5匹。今までで1番数が多いうえにゴブリン・ジェネラルがいる。相当厳しい戦いになりそうだ。


 いつも通り僕が前に出る。ゴブリン・ジェネラルが剣を振りかぶる。


「ぐはっ!」


 その一撃に耐え切れず吹っ飛んだ僕は地面を転がる。


 違う。ゴブリン・ジェネラルは僕たちが今まで戦ってきたゴブリンとは全く別の存在だ。足が震える。衝撃と恐怖、その両方が足にきている。


 他のみんなも僕の有様を見て手を出せないでいる。盾役が吹っ飛んだんだ。まともな戦線など維持できないだろう。


 無理だ。


「みんな、この場を離脱する!今の僕たちには勝てない」


 この場は逃げるべきだ。手に負える相手ではない。


「合格だ」


 ご主人様がいつの間にか前に出てきていた。


「コイツは今のお前たちに勝てる相手ではない。初撃でその判断ができ、逃げる指示まで下せたなら上出来だ」


 そうだ。ご主人様がいたんだ。途中から僕たちのパーティだけで戦っているつもりになっていた。

 ご主人様は前に出るとゴブリン・ジェネラルに相対した。


「グギャア!」


 剣を振りかぶるゴブリン・ジェネラル。


「危ない!」


 ロロが叫ぶ。


 でもそれは全く見当違いの心配だったとすぐにわかることになった。なぜなら、ゴブリン・ジェネラルが振りかぶった剣が前に出る前に、ゴブリン・ジェネラルの首はあっさりと地面に落ちていたのだから…。


「今…、何が…」


 ご主人様が何かしたのだろう。それくらいは僕にでもわかる。いや、それくらいしか僕にはわからなかった。動体視力の高い獣人のココの方を見ても、首をかしげていた。同じようにわからなかったようだ。剣に手をかけているから、目にもとまらぬ速さで剣を振るったのかもしれない。

 よく見ると周囲のゴブリンも同じように首が落ちていた。ご主人様が強いことは予想できていたが、ここまでとは思わなかった。あのゴブリン・ジェネラルをあそこまで簡単に倒せるとなると、ご主人様の実力はB、いやAランクに届くほどなのではないだろうか…。


「これでも飲め」


 こちらを向いたご主人様はどこからかポーションを取り出し、こちらに渡してきた。


「あ、ありがとうございます」


 実は吹き飛ばされたダメージが結構大きくて厳しかったので、ありがたくいただくことにした。


 ん?なんか僕の思っていたよりポーションって効き目が悪いのかな?まだ怠さが残っている。ご主人様は少し顔をしかめた後、またもやどこからかポーションのビンを取り出した。


「こっちも飲め」

「は、はあ…」


 渡されたビンをグイッとあおる。…凄い。さっきのポーションは何だったのかというくらい身体に力があふれてきた。攻撃を受ける前と同じコンディションになった僕は今のポーションについて話を聞こうと思ったけど、止めた。ご主人様がすっごい複雑そうな顔をしていたからだ。

 奴隷生活で人の顔色を窺う術を身に付けたのでわかるが、あれは余計なことを言ってはいけない顔だ。ここは大人しくすべきだろう。



 それからはゴブリン・ジェネラルのような脅威はなく、順調に戦い続けられた。


 夕食時に聞いた話も信じられないような内容だった。僕たちにクランを作らせ、Sランク冒険者にさせるというモノだったからだ。いくら何でもSランク冒険者なんて考えたこともなかった。昔の夢でさえAランクになれれば奇跡だと考えていたのだから当然だ。

 でも、ご主人様は当たり前のような顔をしている。そんなご主人様を見ていると、もしかしたら本当にそんなことができるかもしれないという気分になってくるから不思議だ。


 そして、ご主人様自体はCランクで留めるという。なるほど、ご主人様は面倒を嫌うのか…。でも普通、Sランクで得られるものの方が、それに伴う面倒を上回るはずなんだけど…。僕のご主人様はいろいろと規格外のようだ。


 僕の名前はクロード。とんでもないご主人様に所有されることになった、ただの奴隷だ。


戦闘をがっつり書いてみたくなりましたので番外編で実現。仁が戦闘をするとあっさりと終わってしまいますから。セルディクが1番苦戦したんじゃないですかね。

ゴブリン・ジェネラルの首は風魔法で切り飛ばしました。剣?知りませんね。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
ご主人様大好きなロリ犬獣人のココ好きだ〜今後も出番ほしいな。でもキャラが増えれば増えるほどキャラの薄いさくらの影がどんどん薄くなってくな。喋り方にも特徴があまりないからさくらが話してると誰が話してるの…
[一言] ドレイ視点からの話は超すき
[良い点] 面白い小説が書ける作者は、観察力、分析力がとても優れていて、1つのストーリーとして物語の流れを矛盾なく展開できる想像力に優れた、頭脳明晰な人が多い感じがします。   この物語の作者のコーダ…
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