第25話 奴隷軍団とハイエルフ
キャラがバンバン増えます。覚えておいた方がいいのは、クロード、ユリア、ココですかね。次点でノットとロロくらい。
「ううっ」
お、仮奴隷たちの1人の目が覚めたようだ。
「あれ?僕、生きてるの?」
どうやら死を覚悟していたらしい。12歳、最年長の少年だ。
「目が覚めたようだな。体調はどうだ?」
「え?」
恐る恐る自分の体が動くか確認している少年。
「はい、問題はないようです。それよりも、あなたは何者ですか?盗賊ではないようですけど」
ずいぶんと丁寧な喋り方の少年だな。
「俺か?俺たちは冒険者だ。盗賊のアジトを壊滅させて、お前たちを見つけたからとりあえず回復させた」
「そうですか。それはありがとうございます」
お辞儀をする少年。面倒だな、名前を聞くまではステータスに表示されている名前で呼ぶわけにもいかない。
「ところで、お前はなんて名前だ?どうしてここにいる?」
そういうと、少年は言葉に詰まる。言いたくないことでもあるのだろうか。あ、奴隷だって言い出しにくいのかな。
「僕の名前はクロードです。僕たちは…、奴隷です。奴隷商が兵士の格好をした盗賊に殺され、戦利品として連れてこられました」
「お前たちをどうするかと言うのは何か話していたか?」
「いえ、連れてきたのはいいものの、どうするかはあまり考えていないようでした。女子も、その、特に手を出されてはいないようです。なんでも、子供は趣味じゃないとか…」
ふむ、珍しいな。盗賊と言えば、手に入れた女にはすぐに手を出すものだと思っていたけど…。そういえば、盗賊たちはセラばかりを見ていたな。マリアは見向きもされなかったし…。
その点で見れば、変態の多い貴族よりはマシなのかもしれない。いや、盗賊と貴族を並べるっていうのも結構おかしいんだけど…。
「捕えたはいいものの、売りに出すような伝手はないし、させるようなこともあまりないので、飼い殺しと言うか、放置されていました」
「なるほど、それで空腹で倒れていたというわけか」
「ところで…、僕たちに何したんですか?さっきからお腹空いているような膨れているような不思議な感覚なんですけど…」
「食べ物を与えたんだ。小さいけど、そこそこ腹が膨れるものをな」
この程度のぼかした説明で問題ないだろう。エナジーボールは栄養があるけど、量自体は少ないから変な感覚だろうな。
「そ、そんな高価そうなものを僕たちに…」
おや、少し受け取り方が違ったみたいだな。驚愕したような表情をしてこちらを見ている。
「ウウ…」
「ん…」
女子も2名ほど起きてきたようだな。1人は人間だが、もう1人は獣人のようだ。あれは犬耳かな。少しくすんだ金髪だからゴールデンレトリバーがベースかな。安直な発想だけどね。
A:そうです。
いや、別に今の質問じゃなかったんだけど…。
辺りを見渡す少女たち、最初に来るのが混乱なのはデフォのようだ。
「俺たちが盗賊を倒し、君たちを助けた。オーケー?」
「お、おーけー」
「は、はい」
その一言で説明を済ませることにした。クロードが起きていること、俺の発言を否定しなかったことから判断したというのもあるだろう。
「私たち、これからどうなるのでしょう」
人間の方の少女が、不安そうに言う。
「僕たちは仮奴隷で…、物です。盗賊を倒したのが貴方達なら、あなたたちの所有物になります…」
「そんな、折角奴隷商も盗賊もいなくなったのに、自由になることはできないの!?」
犬耳少女が叫ぶ。俺としては奴隷を増やしていって、戦力増強はしていく予定だが、この子達のような立場の者を使うかは決めていなかった。
正直なところ、ミオ、マリア、セラのように琴線に触れた奴隷以外を買う予定も、従える予定もなかったからだ。
「いや、別に無理矢理に所有権を主張するつもりもないけど…」
俺の否定に安堵する犬耳少女、いやクロードやもう1人の少女も安堵した顔をしているな。しかし、急にクロードの表情が曇る。
「でも、この人たちが所有権を主張しなかったとして、僕たちが自由になることはできないよね」
「え…」
同じく、2人の少女の顔も曇った。
「僕たちには仮奴隷用の奴隷紋が刻まれています。これを外すには奴隷商に行かなければいけません。でも、仮奴隷が奴隷商に行ってまともな対応がされるなんてことがあるとは思えません。その場で商品扱いされるのがオチでしょう」
おお、クロードは中々に頭の回る少年のようだ。
「仮にまともな対応をされたところで、奴隷紋の解除にもお金はかかります。そんなお金出せるわけありません。奴隷紋をつけたままどこかに逃げる。どこに行くんですか?こんな格好で外を出歩いて、生きてどこかにたどり着けると思うんですか?仮にたどり着いたとして、こんな何の役にも立たないような子供が真っ当に生きていけるとは思えません」
そこまで言った段階で、少女たちの顔は真っ青になっていた。
「そ、そこは、ほら、このお兄さんたちにお願いして…」
「対価も何も持たない僕たちが、盗賊を倒せるほどの力を持つ冒険者さんにただでそこまでのことをしろと言うんですか?どこまでのことをさせれば僕たちが真っ当に生きていけると思っているんですか?」
犬耳少女も何も言えなくなってしまったようだ。仮に俺の奴隷となるなら、様々な恩恵を与え、生活に関しては保証するつもりだ。しかし、そうでないのなら俺がこの子達に積極的な援助をする理由は何もない。
俺も鬼ではないからな。多少の手助けくらいはしてもいいと思うが、俺たちの異常性を隠したままでこの子達にしてあげられることはそんなに多くない。
クロードの声に反応したのか、他の子たちも続々と起きて、すべての子が目を覚ましたようだ。
「俺たちが盗賊を倒し、君たちを助けた。オーケー?」
完全なコピペで状況を説明した。それぞれが思い思いの方法で反応を返したが、人数が多いので省略する。
「僕たちにできることは、冒険者のお兄さんたちに主人になってもらい、ある程度の生活を保障してもらえるようお願いすることしかないと思います」
クロードがそう締めくくる。確かに俺からしてもそれがベストな判断だと思うな。1度奴隷になった者が、そこから這い上がるのは並大抵のことではない。だったら、奴隷であることは甘受して、その中で少しでも良い境遇を目指すというのは1つの考え方ではある。
「そう、なのかな…。家には戻れない…、働く当てもない…、生き残る見込みもない…。うん、無理だ。それしかない。もう自由はない。なら、せめて生きていたい…」
自由を求めていた犬耳少女も、クロードの説明により心がポッキリ折れてしまったようだ。俺の方を懇願するような、捨てられた子犬のような目で見ている。犬の獣人だから、1度主人と決めたら従順なのかもしれない。マリアは猫?あれは…知らん。
辺りを見ると、他の少年少女たちもクロードの説明に納得したようで、俺の方を懇願するような目で見ている。中には絶望や諦めが混じった目をしている子もいるが、それでもそれ以上のことは思いつかないようだ。
「仁様、この子達を奴隷として配下に加えるのですか?」
マリアが聞いてくる。今までは説明役が多くても混乱するだろうということで、俺が代表して話すことを決めていた(ミオに任せても良かったが…)。話が一段落したということで確認を取りに来たのだろう。
「どうするかな。みんなの意見を聞いておこうと思うけど…」
今まで話をしていた方針にはなかったからな。みんなの意見も聞いておきたい。
「私はどちらでもいいです。仁君が配下にしてもいいと思ったら、反対はしません」
「私もどちらでも構いません。仁様が選んだことを支持いたします」
この2人は基本俺に追従するからな。予想の範囲内と言えばその通りだ。
《はいかー?なかまー?いっぱいいるほうがいいー》
ドーラは配下に加えるのに賛成のようだ。どうでもいいことだが、多数決とか意見を聞く場合はドーラも頭数に入れている。
「私は配下に加えるに1票ですわ。幼いとはいえある程度の人数を確保しておけば、いろいろと使い道があると思いますわ」
ふむ、セラがそう言った意見を持っているとは知らなかったな。もしかして、空腹に親近感でも持ったのかな?
「私は反対かな。デフォルトスキルがない子まで増えると、私の影が薄くなりそうな気がするから…」
いや、ミオは結構キャラが立っているから、その心配はないと思うよ。未だにクロード以外に名乗らせてないし。
「そんなことを心配してるんですの?」
「死活問題よ!ご主人様に忘れられて兵糧玉貰えなくなってもいいの?」
「私も配下に加えるのは反対ですわ!」
「おい…」
まさかの手の平返し。
「自分の言ったセリフに対するプライドみたいなものはないのか?」
「プライドでお腹は膨れませんわ!お腹いっぱいものを食べるためなら、そんな物ポイしますわ。と言うか、奴隷商の床に落ちていると思いますわよ」
まさかのノープライド宣言。元お嬢様のプライドは奴隷商に落っこちているらしい。
「配下が増えても、お前たちの扱いは変えないと宣言しておこう。ミオもキャラが立っているから大丈夫だろう。その上で配下にするかと聞いたらどうだ?」
「それなら問題ありませんわ」
「私もメインに残れるなら反対はないわ」
自分たちの境遇が変わらないなら何も問題はないようだ。なんだ、そんなこと気にしていたのか。
と言うことで、仮奴隷の少年少女たちを配下に加えることが決定した。
「決まったぞ。お前たちの主人になってやる」
「ありがとうございます。街に行って奴隷商で正式契約と言うことでよろしいでしょうか?」
今まで事の成り行きを窺っていたクロードが質問してきた。
「いや、俺の<奴隷術>により、この場で正式登録をする」
「ご主人様は奴隷術まで使えるのですね。盗賊を倒す力を持ち、不思議な食べ物を持ち、奴隷術まで使える。凄まじいお方ですね」
クロードが驚いた顔をする。
「まあ、冒険者ランク自体は最近登録したばかりだから低いが、実力の方にはかなりの自信があるからな。さて、じゃあ奴隷紋を見せろ」
俺がそう言うと全員後ろを向き、ぼろきれのような服をめくり上げ、背中の奴隷紋を見せてきた。当然のようにパンツなんかはいていないから、8つの尻がこちらを向いてくる。いや、3つ程どうでもいいのだが…。後、1人凄い勢いで服をめくり上げた奴隷がいる。何だ?
それにしても、簡単に服をめくり上げるんだな。コイツらもいい感じにプライドとか羞恥心がぶっ壊れているみたいだな。それほど奴隷って過酷なのかな…。
A:過酷です。プライドも羞恥心も徐々に削られていきます。自由になれれば最高、生きていれば十分と言う価値観になる者も多いです。
「じゃあ順に登録していくからな。さくらたちは少しましな服を準備しててくれ。男には俺の予備を、女には…、ミオとマリアの服から安物を渡せばいい」
「はい」
「多少なら<家事>と<裁縫>でパパッと直すわよ」
ミオが頼もしい。マリアも十分戦力になるしな。
ナイフで指を切り、血を出す。1人ずつ<奴隷術>を使い、主人としての正式登録をしていく。あ、順番は男からだよ。どっちを後まで残したいかなんて、言うまでもないことだろう?
全員分の奴隷契約を終了したところで、本題に入る。
「ミオ!カモーン」
「はいはい、いつものヤツね」
説明担当のミオ。ほら、キャラ立ってる。
そうだ。念話で少し伝えとかなきゃ。
《ミオ、あんまり踏み込んだ説明はしないでくれ》
《え?全部話すんじゃないの?》
《今回は人数も多いし、管理しきれない可能性もあるからな。奴隷紋で行動は縛るとはいえ、何が起こるかわからない。隠し事が多いとか、特別な力があるくらいはいいけど、転移者とか、異能とかの話はうまくボカしてくれ》
《ちょっと待って…、うん、やってみる》
《よろしく頼む》
と言うわけで、いつものようにミオが説明してくれましたとさ。
概要を説明するとこんな感じ。
・俺たちは観光を主目的とした旅をしている
・それと同時に役に立つ配下を集めている。
・俺たちの能力には秘密にしなければいけないものが多い。
・俺は他人の力を引き出すことができる。
・俺達は他にもいくつもの能力を持っているが、今はまだ教えられない。
一応、奴隷たちについてもステータスを確認しておくかな。スキルは大したのないから端折るけどね。
まずは男の子から。
名前:クロード
年齢:12 種族:人間
備考:かなり冷静に思考できる。線の細い少年。髪:青色。
名前:アデル
年齢:11 種族:人間
備考:ずっと怯えたような顔をしている少年。髪:緑色。
名前:ノット
年齢:10 種族:ドワーフ
備考:かなり小柄な少年。髪:茶色。
次は女の子だな。
名前:ココ
年齢:12 種族:獣人(犬)
備考:ゴールデンレトリバーの獣人少女。髪の毛の量が多く長い。最初の方で起きた、自由を望んでいた少女。髪:金色。
名前:シシリー
年齢:11 種族:人間
備考:ココと同じタイミングで起きた少女。髪は肩くらいまで伸ばしている。ココの後をいつもついて行っている。髪:茶色。
名前:ロロ
年齢:11 種族:人間
備考:奴隷紋を出せと言ったときに真っ先に服をめくった少女。三つ編みのを左右から垂らしている。ココと名前が紛らわしい。髪:赤色。
名前:イリス
年齢:10 種族:ハーフエルフ
備考:眠そうな顔をしている少女。地面近くまで伸びた髪がミドリを彷彿とさせる。と言うか、早速キャラ被りが発生した。髪:緑色。
何?女子の方が備考欄が長い?当然だろ?何が悲しくて男の特徴を長々と説明しなきゃいけないんだよ。
そうそう、大したスキルがないって言っていたけど、1人だけそこそこ面白い子がいたよ。
名前:ユリア
年齢:392
種族:ハイエルフ
スキル:<精霊術LV10><精霊魔法LV10><不老LV->
称号:エルフの姫巫女、エルフ王族、記憶喪失
備考:パッと見は10歳くらいの少女。髪は肩より少し下まで伸ばしている。汚れていてはっきりとはわからないけど、恐らくすっごい美少女。髪:銀色
ごめん。嘘だ。すっごい濃いキャラだな。年齢、種族、スキル、称号、どれをとっても突っ込みどころが満載だ。
《なんか凄い子が1人混ざってるわね》
《なんでこんなところで奴隷をやっているのでしょう?》
みんなも気になっているようだな。
392歳のハイエルフ。ハイエルフと言うのはエルフの上位種というか、先祖返りと言うべきか、とにかくごく稀に生まれるらしい。純血のエルフ同士の子供がハイエルフになる可能性があるらしく、数百~千年に1度くらい生まれるそうだ。これだけで超レア確定だ。
寿命もエルフより長く、数千年生きると言われている。そういう意味では392歳はまだ若いのかもしれないな。ついでに言えば種族ユニークのスキルである<不老>により、ハイエルフは老衰で死ぬことはないようだ。数千年生きる、逆に言えば数千年で死ぬというのは、何が原因なのかね?
A:自殺と戦死が半々くらいです。
はい、不老不死者の死亡原因第1位(当社調べ)、自殺が入りました。うん、<不死>ではないからそれよりは楽だろう。
スキルはスキルでとんでもない。さっきも触れた<不老>はユニークだし、<精霊術>と<精霊魔法>はなんとカンストだ。エルフ種は人間よりもスキルレベル上昇速度が遅いらしい。確かに、寿命が長いから人間と同じペースでスキルレベルが上がったら、エルフが最強軍団となっているだろう。それなのにこのレベルの高さだ。相当の才能があるはずだ。…とりあえず、縦ロールから奪ったスキルが、完全に無駄になったな。
そして称号。どう見ても重要人物です。と言うか王族とか姫巫女とかキーパーソン度の高い称号だな、おい。そういえばドーラも皇女だったよな。あれ、王女をコレクションでもするのか、俺?あ、エルディアの王女はいりません。チェンジで。
それと最後の称号も気になるよな。
「記憶喪失?」
「な、何でそのことを!?まだ説明してないのに!」
口に出てしまったようだな。ココが驚愕の声を上げる。うん、ステータスが見えると、結構個人情報ダダ漏れなんだわ。
「俺の力の1つだ。当然この事も秘密にするんだぞ」
さっきもミオと話したが、この人数を1度に配下にするのは初めてだから、管理しきれるかはわからない。まずは絶対に逆らってはいけない相手で、自分の上位者であることを理解させよう。<恐喝>と<覇気>のスキルを発動して宣言する。少しスキルの発動に抵抗がある感じだな。
「もし俺たちの秘密をバラしたら、…生まれてきたことを後悔させてやるからな」
「ひぃ!」
-じょろろろろ-
当然のように8つの水溜りを作った。
この2つのスキルを合わせた脅迫かなり強力だな。全員目の焦点が合わなくなってるし、立っている者は膝をガクガク震わせて崩れ落ちた。あれだけ冷静だったクロードすら同じ有様だ。
どうにも複合スキルっぽいので一応…。
<恐喝>+<覇気>=<恐怖>
奴隷たちが全員へたりこんだところで<恐怖>の発動を止める。
ちなみにこの<恐怖>だが、<千里眼>の恩恵を受け、個人を対象に発動することができるようだ。新しい奴隷8人にだけ<恐怖>を与えた。ドーラとかに受けさせるのはかわいそうだからね。おっと、ミオの方に<恐怖>スキルが漏れてしまった。
「ぴっ」
ミオが変な声を上げた。
《ミオー?どうしたのー》
ドーラが声をかけるが何も言わない。
《ご・しゅ・じ・ん・さ・まー!》
と思ったら、泣きそうな声で俺だけに念話で叫んできた。どうかしたのかね?
《どうした?何かあったのか?言ってみ?》
《ううー》
それきり黙り込んだミオ。どことなくモジモジしている気がする。近づいていろいろ確認してやりたいが、それはやり過ぎだろう。この辺にしておこう。
奴隷たちの方を見て話を続ける。
「さて、新人奴隷の諸君、俺たちの秘密を守ってくれるかな?」
新人奴隷たちは必死に首を縦に振った。ほとんどの奴隷の目には若干の怯えが混じっているのも当然だ。
…まあ、これだけ脅しておけば、俺の言うことに逆らおうとする者はいないだろう。上下関係は最初にはっきりさせておかないとね。
「で、この子の記憶喪失についてココ、説明してくれ」
ハイエルフのユリアを指して説明を促す。
「は、はい。その子は記憶喪失のようで、よくわからないうちに仮奴隷の契約を結ばされてしまったそうです。なんでも、つい最近拾われたらしく事情はあまり詳しくは知りません」
ココが少し震えながら説明してくれた。耳はペタンと伏せている。
「お前は記憶喪失なのか?詳しい話を説明できるか?」
ユリアの正面に立ち、しゃがんで目線を合わせてから質問した。<千里眼>の補正もあるから、この至近距離で嘘をつくのは困難だ。
「は、はい。しばらく前に目覚めましたけど、その時には記憶がありませんでした。しばらく呆然としていたのですが、その間に仮奴隷の契約を結ばされてしまいました」
嘘ではないようだ。それに400年近く生きたような知性を感じられない。まさしく子供のような目をしている。記憶喪失は間違いないだろう。そもそも、ステータスが間違えているとは思っていないんだけど…、念のため。
「どこで拾われたんだ?」
「わかりません。呆然としていた期間が結構長く、その間の記憶が曖昧なのです」
ヘルプで聞いてみる?いや、いいか。過去はどうあれ、今はただの俺の奴隷だ。
「まあいい、過去はともかく、今は俺の奴隷だ。いいな?」
「は、はい、問題ありません。後、絶対に秘密をばらしたりはしません。絶対、絶対です…」
少し脅かし過ぎたかもしれない。俺に至近距離で見つめられるほど震えが大きくなっているみたいだ。
恐らくだが、精神の弱い相手に<恐怖>スキルを全力使用したら、廃人になるんじゃないかな。それだけ強力な複合スキルだ。
「わかった、わかった。お前たちが秘密をバラさないということは信じておく。とりあえず、服を着替えろ…、と、その前に『清浄』をかけるぞ」
<生活魔法>の『清浄』は対象の汚れを取る魔法だ。とは言え、ここまで汚れたぼろきれをきれいにするのが目的ではなく、あくまでも体をきれいにするためだ。
皆と手分けをして新人奴隷たちに『清浄』をかける。ミオがこっそり自分にも『清浄』をかけていたのは武士の情けで見て見ぬふりをしてあげた。
その後、ミオとマリアが用意していた服に着替えさせる。今更あまり意味はないが、一応土魔法で簡単に仕切りを作って男女別にしておいた。
一通り着替え終わったみたいだな。本当に予備、安物の服だがぼろきれから見れば随分とマシだろう。
『清浄』で汚れを落としたユリアは、予想通り凄まじい美少女?だった。年齢的に少女と呼んでいいのかは判断がつかないので保留だ。他の連中もビフォーアフターに驚いている。ユリアは顔を隠しとかないと、面倒事が増える気がする。もちろん、過去の話も含めて…。
「じゃあ、話を再開するぞ。お前たちの主な仕事だが、それは魔物との戦いだ」
「そ、それは、僕たちを戦いの囮に使うということでしょうか」
クロードが震えながら聞いてくる。他の奴隷たちも怯えた目をしている。
ああ、そういう風に勘違いされるのか。そういえば、コノエの街に奴隷商がなかったのは、冒険者の街だけあって奴隷を囮として購入するケースも多く、ギルドが奴隷商の出店拒否をしたとか。外聞が悪いからな、冒険者の街としては止めさせるのも当然だ。
「いや、最初にミオが言っただろ?俺には他人の力を引き出すことができる。その力でお前たちを戦えるようにしてやるつもりだ」
「ほ、本当にそんなことができるの?」
ココが聞いてきた。確かに簡単には信じられないだろうな。まあ、実際にやってみれば信じざるを得なくなるんだけどな。
「ああ、出来る。ここを出たら早速戦ってもらう。どうしても戦いたくないという奴がいれば、その時は他の仕事を割り振ることになるな」
奴隷の仕事については色々と考えていることもあるからな。頭数が増えればできることも多くなる。
特にどうしても戦いが駄目と言う奴はいなかったようなので、盗賊のアジトを引き払うことにした。<無限収納>にアイテムを入れるところは見せていないけど、そのうち話そうかと考えている。
外に出て、馬車の前に集まらせる。奴隷たちは冒険者が馬車を持っていることにも驚いていた。
「さて、じゃあお前たちに力を与える。1人ずつ、馬車の中に入ってもらう。中で起こったことは秘密にすること。わかったな」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
全員必死で返事をしている。そんなに怖かったのかね。
ちなみに馬車云々に意味はない。雰囲気作りだけだな。
1人ずつ馬車に入れ、手を額に当てて能力を与える。それっぽいだろ?<契約の絆>で遠隔で能力を与えることもできるのに…。
それほど経たずに全員に能力を与え終わった。ステータスの詳細?面倒だから省かせてもらうよ。どうせ俺たちと一緒に戦闘するわけじゃないからな。
俺が奴隷たちにさせようと考えているのは、別パーティと言う名の下部組織だ。奴隷たちに戦闘力を与えて別パーティで魔物と戦わせ、<契約の絆>による能力の共有で<生殺与奪>を使わせる。すると、離れていても別パーティが倒した相手のステータスやスキルが俺の方に流れてくるというわけだ。もちろん、過労死や戦死するほどの無茶をさせるつもりはないし、何割かは倒した当人たちに還元する予定だけどね。
俺の奴隷となる以上、魔物との戦闘は避けられない。だが、1パーティに大量の人材がいても無駄になるだけだからな。別行動のできる下部組織と言うのは、俺の異能にとっても都合がいいというわけだ。
ちなみに戦闘が嫌な奴隷がいた場合は、生産系のスキルを与えて、その方面で活躍してもらう予定だった。簡単に言えば、お店を出させてお金を稼いでもらうというわけだ。
悪く言えば上前をはねる元締めと言ったところか。奴隷の使い方としてはある意味正しいんだけどね。
「なんか、力が漲ってくる気がします」
「体が軽い!今までと全然違う」
「これは、他の生き物の気配?こんなにはっきりとわかるなんて!」
「ああ、やっぱり!」
奴隷たちの反応は上々だ。今の俺から見れば雀の涙みたいなものなんだけど、奴隷たちから見たら、戦闘能力が10倍近くまで上がっているわけだから、驚くのも当然だ。
今のところムチが多めだから、そろそろアメをあげないとね。
ちなみにユリアだけはスキルを逆に奪っておいた。ステータスは普通の奴隷並みだったけど、スキルの方が高すぎるからな。不自然にならないようにスキルレベルを1にしておき、徐々に戻していく予定だ。
これから、俺たちは新人奴隷の調きょ…、洗の…、教育を始めていこうと思う。
一般人に能力を与えて優秀な部隊を作る。ある意味持っている異能からすれば自然な流れかと思います。ただ、やっていることが女神と変わらないのが気になる…。