第24話 冒険者の街出発とまた盗賊
2話投稿2話目です。週のどこかで投稿しようとしていて、ギリギリになってしまいました。本編は固定なので2話投稿です。こちらが本編になります。
《魔力……、足りない……》
街に戻る馬車の中で、ミドリが呟いた。ステータスを確認すると、MPがごっそりと減っていた。恐らく、<秘薬調合>にはMPの消費が必要なのだろう。その代わり、<調剤>等と異なり、材料が不要、と言うかミドリ自身で賄うことができるのだろう。
《仁……こっち……来て……》
ちなみにミドリは俺のことを仁と呼ぶ。マリアは『仁様を呼び捨てなんて!』と怒っていた。一応様付けもさせてみたのだが……、『仁……様……、長い……、仁……で許して……』と言われてしまったので、仁と呼ぶことを許可した。同じ理由で『ご主人様』呼びもない。
言われた通りミドリに近づいてみる。
「どうした?」
《手……出して……》
手を差し出してみる。ミドリは差し出された手を取り……、人差し指を口にくわえた。
「うお!」
「な、何をしてるのですか!?」
マリアが叫ぶ。あ、MPが徐々に減っていってる。MPドレインってヤツかね。
A:そうです。
「MPが足りないみたいだな。MPドレインだろう」
「いや、<契約の絆>で譲渡すればいいでしょうに……」
それもそうだな。パッと見小さい女の子に、指をくわえさせるとか絵面がやばい。
「ミドリ、こんなことをしなくてもMPならあげられるぞ?」
《これが……、1番……、美味しい……》
俺にはMPの味は分からないんだけど……。よーく見ると、若干嬉しそうな顔をしているので、このままでもいいかという気持ちになってくる。でも、<契約の絆>による譲渡と違って変換効率悪いな。渡した内の3分の1くらいしかミドリのMP回復しないぞ。しかも遅い。
さすがに面倒になってしまったので、ミドリのMPが満タンになるまで<契約の絆>による譲渡をした。
《勿体無い……》
少し残念そうな顔をするも、大人しく俺の指を放してくれた。
「そうだミドリ、またその内<秘薬調合>してくれ」
ネクタールはなかなかに有用そうだし、調べた感じだと他の秘薬もなかなかに優秀だったからな。
《作るとこ……見ない……?》
「ああ、見ないからな」
《わかった……、頑張る……》
よっぽど見られたくないんだな。無気力な感じのミドリがここまで恥ずかしがるって、一体何やってるんだろうね?いや、やばい感じがするから、聞かないけどね。
「そういえば、トルテの森にきた1番最初のきっかけってポーション作りですよね……」
「そうだな。それがどうかしたか?」
さくらが話しかけてきた。くわえられた指は水魔法で洗っておいた。
「いえ、ポーション作りがきっかけできた森で、いつの間にか秘薬が作れるようになっているのがなにか不思議で……」
「確かに展開が早すぎるよな」
「でもご主人様。秘薬はポーションほど手軽に作れませんわ。と言うか売ったら大事になりますわね」
セラも話に加わる。ミドリの作る秘薬は、普通の手段ではほとんど手に入れることができず、何らかの手段で入手されたものがオークションに出されると、数千万ゴールドは軽く超えると言う話だ。金を稼ぐ手段としては悪くないのかもしれないが、やっぱりトラブルの元になるのは間違いない。もう少し平穏に……、いや、俺に直接被害のない形で稼ぐ手段はないものか……。
「勿体無いけど、いまは死蔵かな……」
「それがいいと思いますわ」
「秘薬の中には欠損を治すものもあるみたいですが、『リバイブ』のある仁様には今更な感じもしますね……」
「そうよね。ご主人様とさくら様の異能で、大体事が済んじゃうものね」
《私……役に……立つもん……》
《げんきだしてー》
大体みんなが話に加わった。結構な大所帯になってきたな。あ、タモさんは会話には参加しないよ。と言うか基本発言はないよ。
旅がメインとは言え、そのうち拠点もほしいよな。大っぴらにはできないけど、『ポータル』でいつでも帰れるわけだし……。家があれば全員が馬車に乗らなくてもよくなるからな。このまま人数が増えたら馬車1台では足りなくなるから、その前に何とかしたいところだ。商隊でもないのに馬車を複数用意する意味もないからな。
そんなことを考えたり話していたら、無事コノエの街についた。盗賊とか魔物は少ないからな。なんていったって冒険者の街だから。
お供にマリアだけ連れて、ギルドに報告に行くことにした。みんなは次の街への出発のための買い出しだ。毎回準備をしっかりしているから、あまり買うものはないんだけどね。
「依頼終了しました。これ終了証です」
「はい、承りました」
受付嬢さんに証明証を渡す。パーティ登録をしていると、代表者が報告するだけで他のメンバーのカードも自動で更新される素敵機能付きだ。
気になるランクアップ条件だが、Gランクの場合はランクを問わず10回連続で依頼成功すればFランクに上がることができる。しかし、この街では依頼を得るのは難しいから、次の街へ行こう。
「そうだ。念のためソラさんに報告に行くか」
「何をですか?」
「いや、ユリーカが危険かもしれない森に勝手に入ったって伝えるんだ。ポーション作成の依頼を出すのはソラさんみたいだし、一応な」
「まあ、私たちはどうなったか知っているんですけどね……」
「その辺は適当に誤魔化すさ。俺たちは俺たちが知っていておかしくないことだけを話すんだからな」
もしかしたら突っかかってくるかもしれないけど、俺たちは間違った判断はしていないから問題はない。
ソラさんのお店を訪ねる。そこらの店員さんを捕まえたら、すぐにソラさんを呼んでくれた。
「あら、今日はどうしたの?何か買い物?」
「いえ、一応耳に入れとこうかと思ったことがありまして」
「何?」
とりあえず村で依頼を終えた後、勝手に森に行ったことまでを伝えた。
「ユリーカの実力で、異常事態が起きているかもしれない森の調査は無理だと思います。帰ってこなければ、そういうものだと思った方がいいと思いますよ」
「……なんでわざわざ私にそんなことを?」
「ポーション作成の依頼を受ける人がいなくなるかもしれませんからね。俺たちも今日中にはこの街を出ますし。と言うか本来はポーション作成の依頼を、最後にしようと思ってたところでしたからね」
「そう……」
ソラさんが何かを考え始めた。
「ねえ、なんでユリーカちゃんのことを追いかけてあげなかったの?」
やっぱり来たか。とは言え、ソラさんも非難している口調ではないな。
「他人の勝手な正義感に付き合って、自分や仲間を危険にさらすつもりはありませんから」
きっぱりと言う。ソラさんはその言葉を聞いて、ため息をついた。
「そうよね。あの子、実力がないのに正義感だけは強くって……。冒険者に向いてないのに冒険者にこだわって……」
とても残念そうな顔をして話を続ける。
「この街は冒険者の街と言うだけあって、いろんな冒険者が来るのよ。その中でも特にあの子は早死にしそうだったわ。何とか調剤師の方に引き込めないかと思ったけど、無理だったわね……」
「まだ死んだと決まったわけではありませんよ」
白々しいけど、いずれ蘇生させるつもりだし、死亡は確定させたくない。
「確かにあの子は逃げ足が速いみたいだけど、森のように動きにくい場所では、その効果も低くなると思うわ。でもそうね、死体が見つかるまでは死んだなんて言っちゃダメよね。もしかしたらひょっこり帰ってくるかもしれないし……。一応、教えてくれてありがとうね」
そう行ってソラさんは持ち場へと戻っていった。
「俺たちも戻って次の街へ向かうか」
「はい」
そういって馬車に向かった。宿はもう取っていないので、門の近くの馬車置き場に向かう。
「お疲れ様、意外と遅かったのね」
準備が終わったようで、皆馬車の中でくつろいでいた。ミオが『ルーム』の冷蔵庫から冷たい飲み物を取り出して俺たちに渡してくれた。
「お、ありがとう。一応ソラさんに報告してきたからな」
「どういたしまして。この街から、ポーション作れる冒険者がいなくなるわけですからね」
冷たいオレンジ?ジュースだ。トルテの森にあった果物もこっそり回収して、それでジュースを作ったとのことだ。異常種が発生していたから若干の不安はあるけど、鑑定したらMP回復促進の効果があるくらいで、悪影響はないらしい。と言うか、MP回復促進って結構重要じゃないか?
一応トルテの森にも『ポータル』を設置しているので、欲しくなったらまた取りに行こう。
「じゃあ出発だな。そんなに依頼が受けられなかったのが残念だが、とりあえず冒険者登録はできたし、仲間も増えたしで、悪くはなかったな」
「そうですね……。エルディアがあまりに酷かったから、判定が甘くなっている気もしますけど……」
「それもそうだな。アレに比べればどこもマシだろう」
「ご主人様とさくら様のエルディア嫌いが凄い……」
それに関しては今更過ぎるだろう……。
「では、出発いたします」
準備を終えたマリアが馬車を走らせる。御者台にはマリアとセラが座り、外に1番近い席にはミオが陣取っている。魔物が出た時にすぐに外に出られるようにしているようだ。<魔物調教>と言う餌が、結構うまく働いたみたいだな。
「ミオに聞きたいんだが、ミオはテイムする気はないのか?」
「そういえば、<魔物調教>のスキルは上げていますけど、テイム自体はしてないですよね……。仁君からスキルはもらっているはずですけど……」
ミオが倒した魔物のスキルのうち、仲間が使用できないスキルの半分を<魔物調教>に変換してミオにあげている。そのおかげで、ミオも<魔物調教>を持っている。しかし、今のところテイムを実行する場面は見ていない。
「あー、それなんだけどね、ご主人様が意外とテイムするみたいだから、私の方は控えることにしたのよ。馬車の大きさにも限りがあるでしょ。2人でテイムとかしたら、すぐにいっぱいになっちゃうわよ」
確かに全く自重せずにテイムしているもんな、俺。
「それはすまなかったな。確かに俺がテイムしていたら、ミオの方はテイムしにくいよな」
「そりゃあ、奴隷ですから多少は気を使いますとも。それで、ご主人様はこれからも配下を増やしていく予定なのよね?馬車がいっぱいになったらどうするつもりなの?その方策次第では、私もテイムできるんだけど……」
いい機会だから、拠点についても話しておこうか。
「一応、いずれは拠点を構えるつもりだ。『ポータル』があればいつでも帰還できるわけだからな。拠点があって困ることはないだろう。ただ、もう少しエルディアから離れたところにしておきたいな。後は収入がまだそこまで多くないのが問題かな」
「今後も仲間を増やすなら、それなりの規模の拠点が必要ですね……」
「となるとしばらくは難しいかなー。ミオちゃん軍団はもうしばらくお預けね」
「安心しろ、俺たちが自重せずに行動すれば、大金を得るなんてそれほど難しいことじゃあないからな」
「いや、そこは自重しましょうよ……」
ミオが呆れながら言うが、俺としては今までは結構自重してたつもりなんだけどな……、テイム以外。
そもそも、自重せずに行動するなら、秘薬を売るだけでも十分に稼げるし、『リバイブ』使って欠損を治す商売を始めてもいい。お金を稼ぐという1点で考えれば、さくらの<魔法創造>にはできることがいくらでもあるからな。
「自重については考えておこう……。目下の目標は拠点を得られるように金を稼ぐことだな」
「そうですね……。今後も仲間を増やすことを考えたら、早い方がいいのは間違いありませんから……」
早く拠点を構えて、ミオにもテイムさせてあげたいな。
次の目的地にしたアタリメの街は……、て誰だこんな名前を付けたのは。
A:コノエの街を作った勇者です。
あ、そう。いや、コノエの街はまだいいんだけど、何だよアタリメって……。好物?とりあえず過去の勇者がフリーダムにいろいろやらかしたのは理解した。そのおかげで米が食えたのかもしれないが……。
アタリメの街はここから4日程度かかるようだ。なぜアタリメの街を選んだかと言うと、王都に向かう途中にあるからだ。エルディアでは王都にいい思い出はないけど、カスタールでも同じとは限らないし、折角なんだから王都と呼ばれる街も見てみたいからな。
コノエの街を出て2日後。
「仁様、盗賊です」
マリアから声がかかったので、マップで確認してみると、15人の盗賊が確認できた。冒険者の街の近くで盗賊やるなんて勇気あるね。
「さて、どうするかな」
倒すのは簡単だ。本当に簡単だ。
「仁様、良ければ私たちに任せてもらえませんか?」
「私たち?」
「私とマリアさんとミオさんですわ。私たちも対人戦の経験が必要と感じたんですの」
「セラちゃんはいなかったけど、この間の執事の件もあるからね。戦わないってわけにはいかないでしょ?」
確かにいずれは対人戦も必要だとは思っていたが、自分たちから切り出してくるとは思わなかったな。
「わ、私は……」
さくらが言いよどむ。魔物相手には容赦がなくなってきたが、恐らくさくらにはまだ無理だろうな。
「あ、ごめんなさい。さくら様に無理をしろって言っているわけじゃないの」
「そうなんですか?」
「はい、今のままでは対人の経験があるのが仁様1人と言うことになってしまうのです。これはあまりよくありません。まずは私たちにそれができるかの確認をしておきたいのです。ドーラちゃんとさくら様にまで人を殺せとは言いません。あくまでの奴隷組での話し合いの結果です」
その辺のこともしっかり考えていたということか。言い出したのはマリアかな?それにしてもミオもそれに参加するんだな。一応元女子高生らしいけど、ずいぶんと肝が据わっているというか、こちらの世界に馴染み切っているというか……。
「わかった。お前たちに任せる。人殺しが難しいようだったら言えよ。俺が瞬殺するからな」
「ありがとうございます。恐らく私は問題ありません」
「私は弓なら大丈夫かな。直接となるともう少し待ってほしいかも」
「私も大丈夫ですわ。奴隷商での生活で、いろいろと価値観が変わってしまったみたいですわね」
奴隷を経験すると、人殺しへの抵抗が減るのかな。前も言ったけど、死が身近になるんだろうな。そして他人の死に関しては無関心というか、優先度がかなり低くなるんだろう。
「そこの馬車!止まれ!」
しばらく馬車を進めたら盗賊と遭遇した。マリアは盗賊の言葉に従って馬車を止める。一応、イベントは一通りこなすように指示したからな。
「何でしょうか?」
10人くらいの盗賊が兵士のような恰好をしていた。マップで見れば称号で盗賊って一目でわかるんだけど、知らない人は兵士と思って行動しちゃうかもしれないな。
「この地を治める領主様の命令により、この道を通行するものから税を徴収している。財産の半分を差し出せ」
凄いな。兵士の格好をしてたとしても、そこまでの無茶は通るわけがないだろう。
いや、どちらでもいいのか?騎士の格好をして、税と称して金品を巻き上げる。上手くいけば楽をして儲ける。そうでなければ力ずくで奪う。盗賊だって戦わないで金が手に入るならその方がいいだろうしな。
兵士の格好と言うことは、その時点で武装しているということだ。武器をもって相手に近づくには丁度いいかもしれない。
《マリア、『じゃあ違う道を通ります』と言ってくれないか》
念話で指示をする。この茶番がどういう方向に転ぶのか見てみたい。
「じゃあ違う道を通ります」
「そうはいかん。もうすでに該当する道へと入ってしまっている。戻るにしても税は払ってもらうぞ」
予想通りだな。
《『財産の半分を差し出す』と言ってくれ》
「わかりました。財産の半分をお支払いいたしましょう」
「ああ、若い女がいるならそれも税として取り上げろとの仰せだ。女も半分連れていくことになるぞ」
そう言って、セラの方をいやらしい目つきで見る。……そう来たか。さて、仲間に手を出すといった以上、茶番はおしまいだ。面白いからもう少し見ていても良かったんだけどね。
《もういいぞ。いつ戦闘に入っても構わないからな》
《わかりました。セラちゃん、ミオちゃん、行きますよ》
《大丈夫ですわ》
《準備オッケー》
そういうとマリアが正面の盗賊に向かって飛び出した。長剣による斬撃を繰り出す。いとも簡単に盗賊の首が飛んだ。全く躊躇がありませんね。
盗賊はあまりの出来事に動きが止まる。その隙を見逃すマリアとセラではなく、マリアが正面から右側に、セラは左側に向かう。左側にいた3人がセラの大剣一振りで上下に分かれる。右の2人もマリアの長剣と短剣により絶命している。馬車の後ろ側に回っていた2名はミオの矢により喉を貫かれる。
ここまでおよそ5秒だ。盗賊たちは武器すら構える暇がなかった。見事だね。
残る数名が武器を構えるものの、まるで歯が立たずに倒れていく。兵士の格好をしておらず、少し遠くにいた連中もミオの矢を受けている。
「やっぱり大丈夫でした」
「魔物と大して変わりませんわね」
「もうしばらく繰り返せば、直接でも行けそうね」
これが戦闘を終えての感想ですよ。頼もしい限りだね。
「さて、この死体をどうしようか。<無限収納>に入れてもいいんだけど、あんまり死体でいっぱいにするのも嫌だしなー」
入れること自体に抵抗はないんだけど、際限なく入れているといつの間にか死体の方が多くなってそうで嫌だ。それでなくても魔物の死体は回収しているのだし……。
決めた。
「まずは<無限収納>に回収」
「結局回収するんですか?」
まだ終わってないよ。
「次に<土魔法>で穴を掘る」
「穴?なんで?」
道の真ん中に穴を掘るのもあれなので、少し離れたところですね。
「<無限収納>の中でアイテムを取り外し」
「なんとなくわかりました……」
服とかはいらないですね。金属とか価値のありそうなものだけ回収です。
「死体を穴にポイ」
「可愛く言っても絵面は酷いですわよ」
15人分となるとさすがに手間ですね。
「死体をファイ」
《ファイアー》
上手に焼けました。
「上から土をポイ」
「平たく言うと、死体から価値のあるものをはぎ取って、焼いて埋めたってことよね」
「そうだな。素敵なのは1度も死体に触れずにできるところかな」
死体をコレクションする趣味はないからな。わざわざ盗賊を蘇生する気もないし、<死霊術>とかを入手したら一応の使い道はできるけど、あまり趣味じゃないからな。
え?奴隷軍団を作り始めている奴がいまさら何を言うのかって?いや、生きている軍団と死んでいる軍団じゃ、やっぱり差があるって。ほら、世間体とか。
「そういえば、また盗賊を討伐したことになりますけど、アジトとか残党とか買戻しとかどうします?」
そういえば、さくらだけが前回の盗賊討伐に参加していたな。
アジトと残党の位置は分かっている。マップを見れば一発だ。
今回は冒険者になっているから、余計な面倒が増える可能性が高い。以前のように『冒険者じゃないから』という風に言えなくなるからな。
多少のトラブルは旅のスパイスになるが、買戻しは不快指数だけが上がっていくから遠慮したい。
「このままアジトに向かって残党狩りをする。盗品については買戻しの報告をしない予定だ。絶対に面倒な事になるからな」
「わかりました。今度も私たちに任せて頂けますでしょうか?」
「ああ、任せる。油断はするなよ」
「「「はい」」」
さくらが居心地の悪そうな顔をしている。
「やっぱり、私も頑張った方がいいのでしょうか……」
「無理をするな。奴隷組に触発されただけでそんなことを選ぶ必要はない。本当に本気で必要だと思ったときに言ってくれ。無理強いはしないしさせないから」
「わかりました……。ありがとうございます……」
人殺しっていうのは相手が悪人であっても、敵であっても、物凄く高いハードルだ。無理にそんなことをさせれば、絶対に歯車が狂ってしまうだろう。俺?言わせんなよ恥ずかしいだろ。
盗賊と言うのは洞窟が好きなのだろうか……。今回のアジトも洞窟だった。奴隷組がこれを襲撃し、待機していた10名を倒した。そこからはさっきと同じように処理をする。さて、今回のお宝は何かな。
楽しみを取っておくために、危険物以外はマップに詳細を表示しないことにしている。ドーラの時はモチベーションを上げる要因になったけど、趣向を変えてみるのも一興だろう。
「あー、こういうこともあるよな」
お宝部屋の扉を開けた俺を待っていたのは、薄汚れた数名の子供たちだった。
部屋には『黒い狼』のアジトと同じように木箱や樽などが置かれていたが、隅の方に鎖につながれ、ぼろきれのような布をまとっただけの子供たちが倒れこんでいた。
楽しみとか言っている場合じゃないな。マップの表示を元に戻す。ふむ、死んでいるものはいないみたいだな。全員10~12歳くらいで合計8人だ。内訳は男が3人と女が5人となる。称号欄に仮奴隷と書いてあるから、まだ主人の定まっていない奴隷と言うことだ。
「仮奴隷……ですか。先ほどの盗賊が奴隷商隊でも襲ったんでしょうか?」
「そんなところだろうな。特に虐待とかを受けている様子はないから、来て日が浅いのだろう」
「でもHPがかなり減っていますわね。……いえ、これは空腹が原因ですね」
「倒れていると思ったら、空腹が原因か。流石セラ、空腹のスペシャリストだな」
「ご主人様も私のHPを容赦なく削ってきますわね……」
腹が減っていると、継続ダメージを少しずつ受けていくらしいな。サバイバル物のゲームみたいだ。
「対症療法として『ヒール』をかけておいてくれ、その間に人数分のエナジーボール(かなり軽め)を作るから」
別名兵糧玉。セラの主食で原材料は俺のMPだ。
本気を出すとカロリーの取り過ぎになるからな。あんなの食って平気なのはセラだけだって……。
「わかりました……。手分けをして回復しましょう……」
そういうと、それぞれが『ヒール』をかけていく。こちらもエナジーボール(かなり軽め)を作り出す。
HPの回復した奴隷たちの口にエナジーボールを放り込む。ついでに水分も与えておいた。これでしばらくすれば目が覚めるだろう。その間に他の戦利品でも物色していましょうかね。
それなりにいいものがあった。『黒い狼』もそうだけど、この世界の盗賊は意外といいお宝を抱えているな。そんなに治安が悪いのかね?盗賊退治は実入りがいいから、これからもちょくちょくやっていこう。買戻しは無視の方向で……。
HPポーション×5
弱めの武器防具
色々と雑貨(もしかしたら、買戻し品もあるかも)
この辺は正直どうでもいい。と言うかどうにでもなる。
400万ゴールド(現ナマ)
隷属の首輪×2
この辺は素直に嬉しい。隷属の首輪は1個も持っていないからね。何かしら使えるでしょう。
宝剣・常闇
分類:片手剣
レア度:秘宝級
備考:1日に1度攻撃力を上昇させた一撃を放てる、自動修復
これが今回の大当たりかな。かなり強力な武器だ。でも、冷凍ミカンの方が上と言う現実。マリアにでも使わせるかな。
主人公の目の前に、主人の決まっていない奴隷が現れた(フラグ)。
20151122改稿:
修正(9)対応