失伝第2話 ハーフエルフ
2話投稿1話目です。週のどこかで投稿しようとしていて、ギリギリになってしまいました。本編は固定なので2話投稿です。
ユリーカの失伝です。愉快な話ではありません。と言うか、失伝に愉快成分があるわけがない…。
私の名前はユリーカ、Gランクの冒険者だ。…まだ。
冒険者の街とも言われているコノエの街で依頼を受けているんだけど、今受けている依頼の失敗を報告したら5連続依頼失敗で1年間の登録停止処分になってしまう。
それを防ぐために今からギルドに行って、ポーション作成の依頼を受けなければならないというわけだ。どういうわけか昔からポーション作りの才能があるようで、定期的に張り出されるポーション作成の依頼は、ほぼ私の専属依頼となっている。
ポーション作りの才能がある人は普通その道に進む。間違っても冒険者などはしない。それは当然だ。冒険者の街においてポーションは必需品だ。必需品を作れる人間は仕事を失わないからね。冒険者より安全でお金を稼げる仕事を選ばない方がおかしい。
そう、私は少しおかしいのかもしれない。
私が冒険者になったのは、小さいころに私のいた村に盗賊が来たとき、それをあっという間に倒してくれた冒険者さんに憧れたからだ。その時の私には冒険者さんが正義の味方に見えた。いや、正義の味方だった。その憧れが夢に変わるのも時間の問題だったと思う。
私はいつの間にか冒険者になると決めていた。そのために木の棒で素振りをしたりもしていた。全く才能がないみたいで、よく転んでは怪我をしていた。その怪我を直すために作ったポーションの方が上達は早かったのは何の皮肉だろうか…。
冒険者になってしまえば少しは変わるかと思ったけど、何も変わらなかった。それどころかほとんどの冒険者が、私の憧れていた冒険者とは全く違った。そもそも、無償で人助けをするのは冒険者の仕事ではないそうだ。多分だけど、私の憧れた冒険者さんも誰かから報酬をもらっていたのだろう。それは、仕事として依頼を、人助けをするのだから当然かもしれない。
でも私は冒険者になりたいんじゃない。私の憧れた正義の味方になりたいんだ。だから、無償は無理でも格安で依頼を受けてあげる冒険者になろう。
理想は高いけど、現実は厳しくてこのままではGランク冒険者からも落ちてしまうところだ。
「ってない!ポーション作成の依頼がない!」
ギルドに着いて、依頼版を見たらポーション作成依頼がなくなっていた。今朝はあったのに。この街の冒険者でこの依頼をわざわざ受ける人なんていないのに。
「あら、ユリーカどうしたの?」
「ポーションの依頼は!?」
「ちょっと前に新人の冒険者さんが受けていったわよ」
顔馴染みの受付嬢さんがそんなことを言う。
しまった。新人さんが受けるという可能性を忘れていた。いや、でも今から行けば間に合うかもしれない。そもそも、新人さんが受けるというのはポーション作成の才能があるかの確認の意味合いが強い。才能がなければそれまでだし、才能があっても依頼数の最大100本は簡単ではない。どうにか頼み込んで依頼を分割してもらえば、私の方も依頼達成になる。
「ごめん!ちょっと急ぐから!」
「あ…、依頼の報告は?」
「後で!」
私は全速力でポーション作成を依頼してくれるお店へと向かった。そうそう、戦闘に関しては全く才能がないと言われている私だけど、足には自信がある。特に逃げ足に関しては他の冒険者をうならせるほどだ。
足には自信がある。そう、胸はないけど、足は自信がある…。2つの意味で…。
はっ、走りながら暗くなるという器用なことをしていたら、いつの間にか店に着いていた。後、どこからかポーションと言う叫び声が聞こえる気がする。幻聴かな?
そこにいたのは恐らく新人であろう6人組のパーティだった。う、うらやましい。私なんてパーティもあんまり組んだことないのに…。いや、わかるよ。ポーション作りが得意で、戦闘が弱いやつを仲間に加える意味は…。というか、完全に経費節減じゃん。戦わせてよ…。
話がそれたけど、驚くべきことにこの6人。全員がポーションを作れるらしい。そしてもう100本作り終えてしまったらしい。
終わった。5連続の依頼失敗確定だ。
と思ったら店員のソラさんが私のためにポーション作りの依頼を追加してくれた。ありがとうソラさん。でもごめんね。私、ポーション作成だけで食べていくつもりないんだ。
さらに驚くべきことに、6人組の新人さんたちが、私の依頼を引き継いでくれるという。この人たち、冒険者登録は最近みたいだけど、明らかに戦いなれている感じがする。具体的には私よりも絶対強い。幼い子もいるけど、強い。
この人たち、困っている私や村の人を助けようとしてくれているのかな。正義の味方なのかな。
待っていてくれるということなので、全速力でポーションを作る。おっと、手は抜かないよ。全力で、全速力で作るんだよ。
…今回も満足のいく出来だった。ソラさんも褒めてくれたしね。でも、本当にごめんね。冒険者一筋なんだ。
ギルドで引継ぎが終わった。でもこのままこの人たちと離れるのは嫌だし、何よりも後味が悪い。
と言うわけで、新人さんたちに連れて行ってもらえるようにお願いしてみた。最初は難色を示していたけど、最後は連れて行ってくれることになった。やっぱり、この人たちは良い人たちだ。私の理想とする正義の味方に近いのかもしれない。
さらに驚くべきことにこの人たち馬車も持っている。貴族と言うわけじゃないみたいだけど、色々と凄い人たちなんだ。出来れば私も仲間に入れてほしい。何とか気に入られようとしたら、結局私ばっかり話すことになってしまった。仲良くなる作戦はあまり上手くいかなかったようだ。
村に着いてすぐにファングウルフを倒しに行くという。この点も高評価だ。コノエにはあまりいないけど、態度の悪い冒険者の中には討伐前に村で好き放題するような輩もいるからね。正義の味方なら、無駄口を叩かずに颯爽と仕事をしないとね。
ファングウルフとの戦いを見たけど、圧巻としか言えなかった。私の半分しか生きていないような幼女が、ファングウルフの眉間を正確に打ち抜いたんだから…。しかも、扱いを見るにあの子はパーティの中では戦いが得意な方じゃないみたいだ。じゃあ、リーダーである彼はいったいどれだけ強いんだという話だ。
仲間を大切にして、余裕があって、正義を為す。まさに私の理想のパーティだ。絶対に入れてもらおう。
と思っていたらまさかの急展開。村長さんが出した依頼を受けないというのだ。なんで?貴方達なら余裕でしょ!
「そんなこと言わずに、受けてあげなよ!あなた達強いんだから!」
思わず声に出してしまった。前にも似たようなことがあったな。その時はパーティに参加していたけど、受ける依頼で方針と合わないと言われて結局脱退したんだっけ…。
彼が言うには、依頼の条件が不適切だという。そういえば、最初に受けた依頼も珍しく残っていたから受けたんだっけ。聞いたら、あまり条件が良くないって他の冒険者が言っていた気がする。だとすれば多分彼の言い分が正しいのだろう。でも、それでも、私の正義はこの依頼を受けてあげるべきだと言っている。
…でも、彼は結局依頼を受けはしなかった。依頼票を持っていくのは手伝うと言っているから、やっぱり正義の心はあるんだ。もしかしたら彼の言う通り、依頼の方が冒険者の理屈から外れすぎているだけなのかもしれない。
決めた、明日の朝にもう1度お願いに行こう。その時は村長さんに言ってもう少し依頼の内容を詰めてからにしよう。
次の日、その話を村長さんにしに行ったら、すっかりやつれた顔の村長さんがいた。なんでも、森の様子が気になって眠れなかったとのことだ。依頼票も準備ができていないらしい。
このままもう1度頼み込んだところで、彼は依頼を受けてくれないだろう。だったら私が依頼を受けるしかない。幸い、依頼は調査だけだ。戦わないで逃げてもいいのなら、私にだって可能かもしれない。
「村長さん、その依頼私が受けます!」
「そうですか!それは助かります!」
村長さん変わり身早すぎない?
早速トルテの森に出かけることにした。前に別の依頼で行ったことがあるけど、取り立てて変わったことのない森だったから、異変があればすぐにわかるだろう。
村長さんには「私は森に行くけど、心配しないで」と伝言を頼んだ。これはあくまでの私の依頼だ。私が原因を突き止めてそれを報告する。場合によってはそれで新たな依頼を出せばいいんだ。そこまですれば彼も依頼を受けてくれるだろう。
森に入った。うん、これは明らかに異常だ。植物が前に来た時より成長している。しかも色合いも普通じゃない。見ただけで毒ってわかる。どうする?これだけで報告するべきかな?いや、これが原因とは言えない。こうなった原因を突き止めないとダメだ。
そう思った私は森の中を進んでいく。魔物との遭遇が多い気がするが、全て逃げている。うん、私の逃げ足はここでも有効みたいだ。
魔物との遭遇は多いが、全て植物の魔物だ。ファングウルフの1匹も見当たらない。森の異常も含めると、植物系の魔物が優勢になったせいでファングウルフが住処を追い出されたって感じみたいだ。
魔物同士で争うことも決して少なくはないみたいだからね。
じゃあ、植物系の魔物が優勢になった理由は何かと言われると私にはわからない。依頼の完遂となると、そこまで調べないとダメな気がする。
なんか、どんどん深みにはまっている気がする。
ああ、そうだ。前に脱退した冒険者パーティのリーダーが言っていた気がする。依頼の達成基準はきちんと把握しておかないと、自分の分を越えたことまでしなければならなくなって危険だって。
今の私はどうだろう?これは私の能力に適した依頼かな?…絶対に違う。単独では勝てない魔物が大量にいる場所に向かい、その原因を突き止める。原因が何か予想ができないから、無計画に動き回らなければいけない。以前来た時よりも異常な状態なので、わずかな土地勘すらもない。
はは、冷静に考えると今の私にこの依頼を完遂できるわけがないよ。
とりあえず、一旦この森から出よう。明らかに私の分を越えている。ここまでの報告をして、後は村長さんの判断に任せよ…う…。
背中に衝撃を受けたみたいで意識が遠のく。
「はっ!」
意識が戻った。私は自分の状況を確認する。うん、全裸でツルに吊り下げられている。なんで?
いや、辺りを見渡せばこの状況にも納得だ。あれは、マンイーター。Bランクの魔物だ。ギルドの図鑑で見たことがある。私に、いや、彼らのパーティでも倒せないだろう。
横を見ればファングウルフも同様に吊り下げられている。私はマンイーターのツルに不意打ちを食らったのだろう。マンイーターは魔物であろうと人であろうと殺して栄養にすると書いてあった。そうだよね。食べるのに服は邪魔だよね。そりゃあ、全裸にされるよね。と言うか、明らかにこれがこの森の異常の源だよね。
「わああああああああああああああ」
無理だ。冷静なふりをしていたけど、抑えきれるわけがなかった。私は完全に詰んでいる。今までピンチになったことはいくらでもあったけど、逃げ足のおかげで何とかなっていた。
首を、足を、動かせる場所を全力で動かす。
「あああああああああアアアアアアアアアアアア」
今、私の足はどうなっている?宙に浮いている。つまり逃げられない。
必死でもがく。
「あああああああああぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ」
死にたくない。その一心で暴れまわる。運よくツルが緩んでくれればまだ逃げられる。
「誰か助けて!」
その言葉を発した時、私の中で何かがかみ合った。合ってしまった。
私は絶対に助からない。なぜならば、私が目指しているのは正義の味方だからだ。正義の味方のピンチを救うのは、無関係な正義の味方ではない。仲間だけだ。そして、今の私に仲間はいない。
私の中の正義が音を立てて崩れていった。今の私を助けない正義に、何の価値がある?正義、そんなもの、死んでしまえば、何の意味もない。
鬱陶しく思ったのだろう。マンイーターの触手が私の方に向かってきた。
また村長のヘイトが上がりそうですが、主人公には実害がないので断罪と言う話にはなりません。
仁はミドリが仲間になり、死者蘇生の実験台を確保。ユリーカは蘇生が確約。村長は森の異常が直った。これでみんなハッピーエンドですね。