第20話 スライムテイムと冒険者登録
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昼食を食べた俺たちは、そのままカスタール女王国側から街を出た。
次の目的地はコノエという街だ。何となく日本人の名前のような街だが、それもそのはず。この街を興したのは、かつて勇者として召喚された者と言う話だ。
そして今、その街は冒険者の街として有名らしい。なんでも、2名のSランク冒険者を抱え込んでいるのだとか。あの爺に匹敵するような奴が何人もいる、恐ろしい街ということだ。
「次の街で冒険者登録をしようと思う」
以前から冒険者登録をするならエルディア以外と言うことを伝えていたので、驚いているものはいない。
「わかりました。仁様の実力でしたら、すぐにでもSランクとなることも可能だと思います」
ちょくちょく俺をヨイショしてくるマリア。でも、今回の言い分は正しくない。
「冒険者になるとは言ったけど、ランクはCまでしか上げる予定はないぞ」
「えー、史上最年少のSランク冒険者として名を馳せるという、ミオちゃんの夢がー!」
ミオが絶叫する。こいつそんなこと考えていたのか…。気持ちは分からなくもないが、明確にダメな理由がある。
「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
マリアも気になるようだ。
「ああ、冒険者って身分は旅をする上で便利だから持っておきたい。だが、Bランク以上になると、大きなメリットと引き換えに、いくつかのデメリットが生じるんだ」
ここで冒険者ランクについて説明しておこう。
まず冒険者は登録した直後はGランクとなる。そこからいくつかの条件を満たすとランクが上がっていく。Aランクまで上がるとその先は最上位のSランクとなる。ちなみにGからEを下級冒険者、DからCを中級冒険者、BからSを上級冒険者と区分している。
まずはBランク以上の冒険者になることのメリットについて説明しよう。Bランク以上の冒険者、と言うかBランク以上しか受けられない依頼は、他の依頼と比べて依頼料が一ケタ違う。正確に言うと、依頼を受け付けるときにBランク以上と判断された場合に、依頼料に設定できる最低価格などが変わってくるのだ。
もう1つ大きなものとして、ある種の特権階級として扱われるということがある。もちろん、貴族程の権力を持つわけではないが、それでも一般市民から見たら待遇が全く違ってくる。一部の貴族向けの施設とかも利用できるようになるという話だ。まあ、この辺は国によって多少変わってくるのだけど…。
次にデメリットについて話そう。それはある種の義務が発生することだ。まあ、権利を得たら義務が生じるのは当然の話だからな。具体的にどんな義務かと言うと大きく2つある。
まず1つ目は強制依頼に関わってくる。強制依頼と言うのは、街が魔物の大群に襲われるなどの街レベルの危機の際に、その街にいる冒険者全員を強制的に参加させるというモノだ。もちろん、冒険者のランクや状況によって従事させられる内容も変わってくるのだが…。
この強制依頼だが不参加とすることもできる。そして、Cランク以下の冒険者が強制依頼を断った場合は、1年間の冒険者資格の凍結となる。しかし、Bランク以上の冒険者が強制依頼を不参加とした場合、冒険者資格を剥奪される。権利を得ているのに、自分のいる街を守らない上級冒険者が許されるはずもない。当然、それ以降の風当たりも相当に強くなる。
2つ目は新しく指名依頼と言う制度の対象になるのだ。この指名依頼と言うのは文字通り、その街にいる冒険者を指名して依頼ができるようになるというモノだ。
Bランク以上の冒険者を指定するのだから、当然のように依頼料は跳ね上がる。そして、それだけの依頼料を払える人間となると、貴族が多くなるのは想像に難くない。
当たり前だが、基本的に貴族の無茶な要求は受け付けておらず、依頼内容はギルドの方で精査している。それに強制と付いていない依頼である以上、断ることもできる。と言う建前だが、全ての国や街でそれが徹底されているかと言われると微妙なところらしい。貴族に押し切られ、無茶な要求を半ば強制される可能性もある。最初のエルディアが特に酷いだけかもしれないが、貴族の中にはろくでもない人間も多いみたいだからな。
強制依頼も指名依頼もどちらもその国や街に大きく影響される。俺たちは旅をしている以上、色々な国や街に行くことになるだろう。その時にBランク以上となっていた場合、義務と称した不愉快な依頼が舞い込んでくる可能性が跳ね上がってしまうのだ。
特に秘密の多い俺たちは、名目上であっても一定以上の拒否権を確保しておくべきだろう。当然、その権利を越えて何かをしてくる相手に容赦をするつもりもないけどな。
もっと言えば、俺にとってメリットはメリット足りえない。各街における貴族に近い待遇とか、何の魅力も感じない。そもそも、『ルーム』にいろいろ入れて旅をしている俺たちのどこが貴族以下だというのだろう?
依頼料に関してもそうだ。この世界に来て間もないころならともかく、今の俺たちには人手と元手がある。ここに俺たちの異能が加わって、お金を稼げない理由があるのだろうか?ぶっちゃけて言うと、冒険者をするよりも稼ぐ手段なら山のようにあるだろう。
そもそも冒険者になるのは、旅のために手っ取り早い身分を得るのと、俺の趣味が合わさった結果の選択であるのは間違いない。異世界に来て、冒険者にならないとかありえないだろう。次点で勇者だったが、そっちにはもう価値を感じない。
色々と話したがメリットがなく、デメリットがある選択をする必要などないだろう。そこまで話すと皆も納得した顔をした。ちなみに全部ヘルプ先生からの情報だ。あ、当然か。
「自由な旅に過度な権利と義務は不要と言うことですね」
マリアが頷きながら言う。
俺たちの目的は旅をしてあちこち見て回り、冒険者として依頼を受けたりしつつ、面白おかしいトラブルに巻き込まれることだ。義務だ権利だの面倒な事はほどほどにしておきたい。
トラブルはトラブルでも貴族関係とかの不愉快なトラブルは御免だ。終わった後に大変だったな、と笑えるようなトラブルでなければ嫌だ。
ちなみに、扱いが大きく変わるのでBランクになる際には試験がある。つまり、その試験を受けなければBにならなくて良い。勝手に上がるシステムとかだったら冒険者登録を控えたかもしれない。
「さくらもそれでいいか?」
「はい、もちろんです。貴族関連のトラブルに巻き込まれやすくなると言われて、Bランクに上げたいなんて思うわけがありません。エルディアが特に酷いだけかもしれませんが、少なくとも実例があるのですから…」
「エルディアみたいなクソ国が他にもないとは言い切れないからな。まあ、わかった時点で出ていくだろうけど…」
「当然です」
Q:エルディアのようなろくでもない国ってあるの?
A:差別主義の国が2つ、腐敗政治の国が3つ確認されています。
後で詳細を確認しておこう。
「Sランクになれば富とか名声が手に入るけど、ご主人様の目的はそこには無いものね」
ミオの言う通りだ。俺たちの目的は富でも名声でもないからな。しかし、富や名声が絶対に不要かと聞かれると、そんなことはない。そちらについては考えていることがあるので、機会があれば試してみようと思っている。
《ぼうけんしゃー。ぼうけんしゃー》
ドーラには冒険者について、細かく説明しても理解できなそうなので、ざっくりとした説明だけ(ミオが)している。単独行動は命令権を行使して禁止した。精神的に5歳児の幼女とか、単独行動させるには不安が大きすぎる。
冒険者登録自体に年齢制限はないから、ドーラでも問題なく登録できる。…社会のルールとして問題がないかは置いておくとして…。
10分ほど馬車で進んだところで、魔物が数匹現れた。
スライム×3
メタモルスライム(レア)
LV10
<擬態LV2><吸収LV3>
備考:透明な粘液状の魔物。
何…だと…。メタモルスライムは普通のスライム(水色)よりも透明度が高く、マップがなければ視認しにくい外見をしている。
「じゃあ、私が相手をすればよろしいんですわよね?」
そう言って立ち上がるセラ。馬車の旅で出てきた魔物の相手をセラに任せて、実戦経験を積ませるという予定である。
「ちょっと待って!あいつレアだからテイムしよう!」
俺の声に驚く一同。
「えー、スライムなんかテイムしたって、何の役にも立たないわよー」
「ミオ…、その常識はもう古い。今はスライムの時代と言っても過言ではないんだぞ」
珍しくミオが怪訝な顔をする。
「嘘だー。スライムって雑魚よ?」
「ああ、雑魚だ。それは間違いがない。ただ、使い道が圧倒的に多い雑魚だ」
スライムに戦闘を担当させるのは確かに無理がある。しかし、あのメタモルスライムにはスライムチートであるスキルが揃っている(スライムチートって何だ?)。
「<擬態>と<吸収>!この2つがあるスライムは当たりと言ってよい。この2つのスキルはスライムでしか両立しえない神秘のスキルなんだ!」
「確かに、色々できそうなスキルですよね。悪いこと…」
「…」
さくらさん。最後の一言余計です。
「とにかく、あのスライムは俺がテイムする。セラはその後に残ったスライムを倒してくれ」
「はあ…、わかりましたわ」
「ご主人様、ときどきゴリ押して来るわよね…」
それは言わないでほしいかな。自覚はあるから。
俺は走り出すと<魔物調教>の陣を出し、メタモルスライムに当てる。そのまま渾身の腹パンを決める(腹はない:Q&Aより)。吹っ飛び、倒れるメタモルスライム。
>メタモルスライムをテイムしました。
>メタモルスライムに名前を付けてください。
「よっしゃー!」
早業だよね。何をしたかと言うと、スキル<手加減>です。
<手加減>
このスキルを意識して攻撃をした場合、相手のHPは0にならない。攻撃によるダメージ量の調整が出来るようになる。
テイムにぴったりなスキルでしょう?これ、マリアが手に入れたんだ。道中の魔物相手に殺さないように攻撃してみろって言ったら、3回目くらいで入手したんだよ。
人の事言えないけど、あの子も随分とチートだよね。
「ヒール」
テイムしてもダメージは残っているからね。さっさと回復してあげないと。
「セラ!残りのスライムを倒せ!」
「わかりましたわ!はあ!」
残ったスライム3匹相手に、大剣を一閃させる。それだけで残ったスライムは全て横に一刀両断されていた。
人の事言えないけど、あの子も随分とチートだよね。
「終わりましたわ…」
いや、訓練になってないよ。苦戦しろとは言わないけど、せめて戦おうぜ。これ、虐殺って言うんじゃないのか?え、お前が言うな?
「えーと、どうだった?」
「手ごたえがありませんね…」
うん、俺もそう見えた。
「じゃあ次はステータスを下げるぞ」
「お願いします」
セラのステータスを思い切って、買った時と同じくらいまで下げた。
そのすぐ後、背中に急に何かが飛びついてきた。
「うおっ!」
後ろを見るとメタモルスライムだった。敵が近づいたらアラートを出してくれる<千里眼>もテイムした従魔、つまり味方までは警告してくれない。
《な…ま…え…》
「どうしたんだ?ああ、名前を付けてほしいのか」
ドーラと違い、メタモルスライムは<契約の絆>を使っても綺麗には話すことが出来ないようだ。あまりにも人間と構造が違いすぎて、うまく翻訳できないのだろう。それでも何となく言いたいことは伝わる。
>「タモ」と名付ける
>「スラ」と名付ける
>「ゆかり」と名付ける
ゆかり(初恋の子)強いよ…。とりあえずタモかな…。メタモルのタモ。こいつはさん付けで呼ぶべきだろう。
「お前の名前はタモだ。これからよろしくな」
《よ…ろ…》
ミオが近づいてきた。
「テイムできたみたいね。で、<擬態>を見せてくれるのかしら?」
「そうだな。タモさん、擬態してみてくれ」
「…また、凄い名前つけたわね…」
そういうとタモさんがうねうね動き出した。しばらくうねうねして、その後変化した姿とは…。
「スライムね…」
「スライムだな…」
見事、スライム(水色)となっていました。
「透明から水色になっただけ?コレ、擬態って言うのかしら?」
「あー、でもこいつスライムより格上だから、弱く見せかけるって意味では擬態なんじゃないか?」
「あー、そういう…」
その後、少し検証して、タモさんの<擬態>は<吸収>を使った相手にしかなれないということがわかった。つまりコイツ、仲間を吸収したことあるんだね。
せっかくなので、手持ちの魔物の死骸を吸収させてみたら、今まで倒した魔物の姿になることが出来た。
「結構すごい能力ですね」
「そうだな。でもスライムに他の魔物を吸収する機会なんてあまりないから、死にスキルになりやすいんだろうな…」
「仁様にテイムされて初めて真価を発揮するんですか…。私やセラさんみたいですね…」
マリア…、スライムに共感するのはどうかと思うんだけど…。
ちなみにセルディクとかは与えないでおいた。いや、ほら、流石に…、ねえ?
流石にタモさんの検証だけで時間を使いすぎるのもよくないので、馬車の旅を再開することにした。
「はあ!」
あらわれた魔物の相手をセラに任せて3戦目。全て大剣の一振りで倒すため、何の検証も出来ないでいた。
ついには、買った時よりもステータスを奪って弱くしたのに、まだずいぶんと余裕がある。
マリアもミオもある程度こちらでお膳立てしたけど、セラの場合は本当に飯を食わせただけでこれだからな。ただの貴族じゃなく、騎士の家にでも生まれていたら名を馳せていたんじゃないかと思う。
「とりあえずセラが強いことは分かった。本当は連携の練習とかもしたいけど、馬車移動の途中で出て来る程度の魔物じゃ難しそうだ。冒険者登録してから本格的にやっていこう」
「わかりましたわ」
「ねー、セラちゃんの練習終わったんなら、出てきた魔物は私の弓でサクッと倒していい?早く<魔物調教>交換してほしいし…」
確かに約束していたな。ミオが倒した魔物のスキルの一部を<魔物調教>に変換してやるという話だ。
「そうだな。実戦でミオがとどめを刺したとか判断するのは難しいからな…。移動中の魔物退治が1番わかりやすいか…。ミオもそれでいいか?」
「うん。長距離から弓で狙い撃ちよ!あー、死体を拾うのどうしましょ…」
倒した以上は拾うべきだろう。大丈夫、俺たちの旅は加速度的に楽になっているから。
「『ワープ』貸すからそれで拾って来い」
「その手があったか…。贅沢ね…」
魔物を倒したら、倒した魔物から奪ったMPで帰ってくれば、MP消費量はかなり節約できる。
「私もお手伝いします。弓の練習にもなりますし、移動中でしたら私が倒したポイントもミオちゃんにあげてください」
「ううー、マリアちゃん!好き!」
ミオがマリアに抱き付く。マリアのメインウエポンに弓は入っていない。だからそれほどスキルレベルを上げてはいないのだが、マリアはやれることは何でもやるというスタンスである。
ちなみにマリアに色々やらせてみた結果、次のようなスキルを得ることが出来た。
<手加減><忍び足><言語解読><算術><忠誠>
戦闘訓練で<手加減>と<忍び足>を、ミオとの勉強で<言語解読>と<算術>を入手した。<忠誠>?コレの入手方法は黙秘させていただこう。
<忠誠>
上位者からの命令に従って行動している場合、各種ステータスにボーナスが付く。
マリアのチートは留まるところを知らない。大丈夫だよね?俺の異能、影薄くなってたりしないよね?
日も暮れてきたので夕食をとることにした。ミオがメインで、マリアとセラが手伝いだ。セラは料理をしたことがないということで、料理させるべきか考えたのだが、マリアが「料理は奴隷の仕事」と言い切ったので、セラにも手伝いをさせることにした。俺とさくらは何もしていない。奴隷より立場が上というのももちろんあるが、そもそも何の役にも立たない。
かなりどうでもいい話をしよう。料理のために奴隷を購入したり、さくらの魔法で移動手段を作ったのは、『異能にその枠を使わせないため』である。俺の危機(大したことではないものも含む)に反応する未確定の異能が、料理や移動という形を伴って開眼してしまったら、損した気持ちになると思ったのだ(代替手段があるので…)。
いくら後出しで異能が現れると言っても、数には限りがある。変な異能が開眼する可能性は、事前に潰しておきたい。
以上、どうでもいい話、終わり。
今日の夕食はオムライスだった。リラルカでトマトケチャップを買うことが出来たのだ。量の多くないお米を容赦なく使われた。<氷魔法>で冷やした『ルーム』を冷蔵庫として、色々な食材を放り込んでいる。日持ちのしない物は<無限収納>で時間を止めているが、冷やしておいた方がいいものは冷蔵庫の中に入れている。
《おいしいよー!》
ドーラが叫ぶ。いや、声は出てないから「きゅいー」って鳴いているだけなんだけど…。
小さい子にオムライスを食べさせて、喜ばないわけがない。声には出してないが、マリアのしっぽもいいテンポで揺れている。
「本当においしいですわね。貴族時代にも食べたことのない料理ですわ」
ミオ曰く、『この世界にない料理』の1つだ。マヨネーズがなく、トマトケチャップはあるのにオムライスがない等、この世界の事情はいまいち分からない。
ちなみにマヨネーズだが、<回復魔法>の『アンチポイズン』を使うと普通に中毒が無くなる。どうしても食べたければ、ミオにお願いして作ってもらい、『アンチポイズン』をかければいいよな、と話を振ったらミオが半泣きで土下座して『マヨだけは勘弁してください』と言ったので、勘弁してあげることにした。
ゴスロリの幼女に土下座させる俺…。そういえばさくらにも土下座させたよな…。
「ふっふーん、ミオちゃんのレパートリーはこんなものじゃないんだからねー。皆の胃袋を鷲掴みよ!」
自信満々に言うミオ。<料理>スキル持ちで、日本での料理経験あり。これは伸びる。
食後のデザートはプリンだった。当然のように皆大喜びだ。どうでもいい話だが、俺たちは今旅をしている。フレンチレストランとかの一幕ではない。貴族でもこんな旅は困難だろう。
そうそう、タモさんは魔物の死骸や、残飯などを適当に与えるだけで良いそうだ。高効率らしく、お腹はほとんど空かない上に、食いだめもできるので重宝することになりそうだ。ほら、やっぱりスライムはチートだ。
翌日の昼頃にコノエの街に着いた。リラルカのカスタール側と同じような街並みだ。石作りなのはどこも共通だが、装飾は少なく使いやすさを重視しているようだ。冒険者の街と言うだけあって、武器防具や冒険用の道具を扱っている店が多いようだ。なぜか奴隷商がない。残念。
宿をとり、馬車を置き、早速冒険者ギルドに向かう。
「最初にガラの悪いオッサンに、「その女共を置いてけ」とか絡まれるのよ」
ミオがまた変なことを言っている。確かにテンプレ的だが…。俺はメンバーを見渡す。うん、平均年齢低い。
「どっちかというと、「ここはガキの来る場所じゃねえ」の方が正しくないか?」
「あー、美少女はいるけど、美女はセラちゃんしかいないからそっちの方が可能性高そうかも…」
「美女だなんて…」
セラが照れているけど、確実に美女枠だよ。俺がセラだけ連れて行ったらミオの言う通りになるんじゃないかな…。
「2人とも、何の話をしているんですか?」
「「テンプレの話」」
ハモってさくらに返す。ゲームは多少知っていても、そこまでは知らないか…。
冒険者ギルドに到着した。流石に冒険者の街というだけあり、大きな3階建ての建物だった。残念ながら、受け付けに着くまでの間には絡まれなかった。というか、あまり人がいなかった。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか」
「…そりゃあ、もうすぐ昼だもんな。こんな時間から、人に絡むような奴がうろうろしてるわけないか…」
「…そだね」
真昼間から、ギルドをうろついて、新人に絡むような奴が、『冒険者の街』で一角の人物になれるだろうか。いや、なれない(反語)。
そして緊急性の低い依頼の多くは、依頼を受けた次の日の朝に貼り出される。緊急的な依頼を待ってギルドに居座るのも効率が悪いので、依頼を受けていない冒険者の多くは、魔物退治による魔石の回収に出ているらしい。
「どうかしましたか?」
受付嬢さんががっかりした俺らを気にして声をかける。
「いえ、なんでもありません。今日は冒険者登録に来ました」
「はい。わかりました。そちらの…6名様でよろしいでしょうか」
「はい、大丈夫です」
そこで、受付嬢さんはちょっと顔をしかめる。
「失礼ですが、女性が多く年齢も低めに見えます。ギルドとしては登録お断りというわけではありませんが、少々不安に思ってしまいまして…」
どうもこちらを心配してくれたらしい。
「はい。大丈夫だと思います。彼女たち全員に戦闘経験がありますし、単独でもゴブリン・ジェネラルくらいなら簡単に倒せると思います」
「それはすごいですね。そこまでできればDランク相当以上はあると思いますよ」
ふむ、ジェネラル単独討伐はDランク以上か。意外と大したことないんだな。Dランク。と言うか話を盛っていると思われているようで、受付嬢さんも軽く笑っている。
「ではこちらの紙に必要事項を記入して下さい」
言われるままに記入する。名前以外は皆空欄だ。名前だけは最低限必要らしい。
「ではギルドカードに血を一滴垂らしてください。『所有』の魔法により持ち主が固定化されます」
なんでもこのギルドカードを所有者が持った状態で、依頼の討伐対象を討伐したりすると、それが情報として記載されていくらしい。他にもいろいろと機能がある、便利な魔法の道具とのこと。
全員分の登録が終わった俺たちは、そのままパーティ登録をした。パーティに登録していると、討伐数などが共有される。複数人で1つの依頼を受けるときのシステムだ。ちなみに経験値の取得システムとは無関係なようだ。
パーティ登録を悪用すれば、何もせずに冒険者ランクを上げることが出来る。しかし、そんな手段で冒険者ランクを上げてもBランクの試験を突破することはできないだろうし、何よりも地力が上がらないから、本当にただのハリボテにしかならない。普通に時間の無駄である。
その後、依頼が貼られている依頼版に向かった。めぼしい依頼はギルドが開いてから、そんなに立たずに受けられてしまうらしい。そのほとんどは複数のパーティが重複して受けることは不可となっているものばかりだ。
そんな中俺たちが選んだのは。
ゴブリン5匹の討伐
Gランク
王都周辺でゴブリンを5匹退治しよう。
報酬:1000ゴールド
これだ!
うん。討伐系は常時依頼のこれしかなかった。流石冒険者の街。依頼の需要と供給が釣り合ってない。朝一で見ないとすぐになくなるのも納得だ。
壮絶なカットをして夜。宿で今日の反省をする。
「初依頼がゴブリンかー。テンプレならもっと大物を倒すべきなのに…」
「冒険者の街の真の意味に気付けなかったのがいけないよな。ヘルプ先生もこの町独自の冒険者事情までは聞かないと答えてくれないし」
まさか依頼が朝早くに無くなるとはね。
「明日はどうする?朝一で依頼見に行く?」
「私はパスかなー。朝行っても大したのなさそうだし、あったとしても取り合いになったらトラブルになりそうだし」
ミオは反対に1票。
「私は早く皆さんのお役に立ちたいから、依頼を受けたいですわ」
セラは賛成に1票。
「私はどちらでも構いません。仁様に絡むような連中がいれば私が真っ二つにします」
マリアは棄権。そしてマリアは危険。
「私、朝弱いんです…」
さくらは…これなんだ?棄権か?反対か?
《zzzz》
ドーラは寝ている。
「俺はこの街で依頼を受けることに魅力を感じないな。金を稼ぐとかCまではランクを上げるとかの目的はあるが、効率が悪すぎる。この街では依頼はあまり受けず、本格的な活動をするのは他の街でもいいと思う。いいか?」
「「「「はい」」」」
俺が反対票を出したので、賛成1、反対2、棄権2となり、この街ではあまり依頼を受けずに次の街へ行くことが決定した。ドーラは寝ている。
ちなみにタモさんには馬車の番をしてもらっている。スライムは基本的に寝る必要がないし、精神構造が違うらしく、長時間の待機とかも苦にならないらしい。夜の番とか、馬車の番にぴったりなんだよ。なんかあったら<契約の絆>ですぐに連絡とるように言ってあるし。
「とりあえず明日の朝は旅の準備をして、昼頃にもう1度だけ依頼を見に行く。それで何も無いようなら思い切って次の街へ行こう」
次の日、旅の準備を終えてギルドに顔を出すと、驚いたことに常時依頼以外の依頼が残っていた。
ポーションの作成
ランク指定なし
ポーションを作成し納品すること。
報酬:500ゴールド×納入数(上限100)
「受付嬢さん、この依頼ってなんで残っているんですか?」
とりあえず受付嬢さんに聞いてみた。<調剤>スキルが役に立つなら、受けてもいいだろう。
「ああ、その依頼ですね。いつもその依頼を受けている人が、たまたま不在で残っていたんですよ」
「いつも同じ人が受けているんですか?」
「ええ、ポーション作りには才能が物を言うらしく、ほとんどの人はまともに作れないんです。冒険者の街ですから、ポーションも大量の需要があって、不足した場合に依頼がかかるんですよ。なので、事実上の指名依頼みたいなものですね」
多分その才能って<調剤>スキルの事だな。作れる人が限られているから、受け手がいなければ残っているというわけか。
素人がいきなり受けていい依頼じゃなかったみたいだな。どうするか…。
「この街の冒険者の方々も、1度は依頼主のもとへ行って、ポーション作りの才能があるかの確認をするのが通例となっているんですよ。皆さんも1度行ってみたらどうでしょうか?」
<調剤>スキルがある以上、恐らく『才能あり』ということになるだろう。試しに行ってみるのもいいかもしれないな。
「この依頼を受けよう思うんだが、皆はどうだ?」
面白そうだと思うんだ。<調剤>スキルを死にスキルにするのももったいないし…。
「私は構いません」
「私もー」
「大丈夫ですわ」
「仁様が仰るなら拒否することなどありえません」
《おくすりつくるー》
満場一致で受けることにしました。
「じゃあこの依頼を受けます。というか、最初は才能の確認ですかね?」
「ええ、じゃあこの依頼は、確認中の人がいるという状態にしておきましょう。もしダメだったら教えて下さい」
「わかりました」
こうして俺たちの2回目の依頼は、生産系となりました。
「あのー、そういえば私の見せ場ってまだですの?」
「あ…」
タイトルからわかる通り、スライムをテイムしました。仲間が増えるとは言ったけど、ヒロイン限定ではありません。あと、喋らないキャラって置いておくだけでいいので楽です。
20151122改稿:
修正(9)対応