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外伝第2話 生徒会長と倶楽部

生徒会長視点の外伝2話です。別名、織原編。一応、今回で織原編は終了です。

後は本編とどう絡むかと言ったところですかね。

 俺たちがこの世界に勇者として召喚されてから1週間がたった。明日からは自由行動になる。今までのパーティで続けるもよし、解散して新しいパーティを組むのもよしということだ。簡単に言えば、思い思いの方法で魔王討伐を目指してくださいということらしい。


 一応、定期的に王国に連絡を入れる義務はある。王国としてもあまり圧迫して、反意を持たれても困るから、ある程度の自由を保障しているのだろう。もちろん、王国から依頼が来ることもあるようだけど…。


 俺は今のパーティを解散して、新しいパーティを組むことになった。生徒会メンバーでパーティを組まないかという話が上がって、俺もそれに賛成したのだ。水原、織原、木野もパーティ解散でいいとのことなので、俺たちのパーティは今日で解散となる。


 あまり言いたくはないが、織原への苦手意識がそうさせた面も否定はできない…。


 そうそう、驚くべきことに水原は1人で冒険に出るらしい。勝手な想像ではあるが、進堂のことを追いかけるのではないだろうか。


 水原の祝福ギフト、<剣聖ソードマスター>は剣術の達人になれるというものだ。それもただの達人ではなく、マンガのような無茶苦茶な奥義も使えるらしい。強力だが、ソロ向きな能力かと言われると疑問だ。同行を申し出たものもいたが、水原がそれを固辞していた。決意は固いようだし、外野があれこれ言うのも無粋だろう。


 木野は…わからん。パーティ解散の話をした時も頷いただけで、具体的にどうするつもりなのかは聞けずじまいだった。まあ、木野はあれで職人技と言うか、行動で語るタイプのようなので、わかる人にはわかるだろう。


 木野の祝福ギフト十人十色カラーバリエーション>は補助魔法のようで、色付きのシャボン玉のようなものを飛ばし、それに触れるとメリットやデメリットが付くというものだ。ゲーム的な言い方をすれば、バフとデバフを使い分けるといったところか。渋いというか使い手の技術がものをいうというか、何ともらしい祝福ギフトである。



 今日は集団行動最終日ということもあり、俺たちが呼び出された王宮のホールで立食パーティが開催されている。この世界で大きなイベントを行うのは、これで3度目だ。1回目と2回目は、良い話ではなかった。簡単に言えば、俺たち勇者の中から死者が出て、その葬儀を行ったということだ。


 俺たちは勇者として召喚され、祝福ギフトという大きな力を得た。しかし、死なないわけではない。油断すればあっさりと死ぬこともあるのだ。実際、死亡した2人は明らかに格下の魔物相手に油断したせいで負け、殺されることとなったらしい。


 一応詳細を確認したところ、死亡した2人は所謂ゲームオタクというやつで、この世界をゲームのように楽しんでいたという。おそらく、その感覚が彼らを油断させ、死に至らしめたのだろう。


 ゲームみたい、というのは俺も同じ意見だが、この世界はゲームではない。切られれば、殴られれば痛いのだ。そしてこの世界に死者をよみがえらせる方法はなく、肉体の欠損を治す方法もほとんどないらしい。そんなとこだけリアルにせず、もう少しゲームに寄せてくれてもよかったと思うのは、俺のわがままだろうか…。


 勇者の死亡というのはこの世界でも大事らしく、それなりの規模の葬儀が行われた。とはいえ、死体は回収できなかったので、空の棺桶に花を添えていくだけとなったが…。ちなみに葬儀を執り行ったのは教会だ。この国の国教は『女神教』というらしい。実在する、というか神託までくれる神様だから、宗教があるのは当然かもしれない。



 実は死者のほかに行方不明者も出ている。こちらは全員で5名だ。


 1名は気付いたらいなくなっていたらしい。祝福ギフトを確認した時に作った勇者のリストには載っていないことから、祝福ギフト確認中にいなくなったことは確実だ。この世界に呼ばれていない可能性?それは絶対にない。なぜなら、俺たちがこの世界に召喚されたとき、最初に大声を出した1年生だからだ。


 彼は勇者の召喚に対して文句を言った。その彼が行方不明になったのだから、怪しいのは当然この国だ。さすがに不審に思っていろいろと調べてみたが、どうやら国は関係ないようだ。そもそも、あの空間で国に不信を抱いている人間を、誰にも気付かれずに連れ出すなんてことが簡単にできるわけがない。


 正直、彼の件に関してはお手上げだ。情報が少なすぎる。せめて無事でいてくれるといいのだが…。


 残りの4人に関しては、少し状況が異なる。彼らは元の世界であまり素行が良くなかった。不良とまで言っていいのかは微妙なグループのリーダー格4人が、行方不明となっている。


 こちらは、集団行動や命令されるのが嫌いな連中が勝手に抜け出した、というのがみんなの共通の認識だ。正確には、何故グループのメンバーを連れて行かなかったのか、という疑問が残ってはいるのだが、基本的に行方不明であることに違和感のない連中だ。かと言って指名手配するわけにもいかず、目撃情報を集めるというレベルに留まっている。



 正直、たった1週間の異世界生活で、これだけの離脱者が出るとは思っていなかった。少なからず大人もいるはずだが、自分たちのことで手いっぱいで、生徒に気を配る余裕はあまりないようだ。残念なことに、俺たちの中には俺たちを引っ張っていけるだけのリーダーシップのある人間はいなかったようだ。


 俺?生徒会長なんてやっているが、実は裏方中心だ。表立ってみんなを引っ張っていくのはキャラじゃなかったりする。それに今日を過ぎれば個人行動だ。いまさらリーダーシップのある人間が出て来ても、何も変わらないだろう。


 さて、実は今日はある覚悟をもってこの立食パーティに臨んでいる。その覚悟とは『織原ともう1度話す』というものだ。以前話を聞いたときに、織原の進堂への執着心はわかった。理解はできないが、わかることはわかった。そして、状況によっては進堂と敵対するということも…。


 問題は織原の立ち位置だ。何を確認したいかというと、織原は俺たち勇者と敵対する気があるのか、ということだ。以前の話で分かったのは、『進堂の物語を面白くする』、『魔王には興味がない』といったようなことで、勇者に対するスタンスが抜けていた。織原の行動が、勇者に向かう可能性があるのかを確認する必要がある。


 同じパーティだったんだからいつでも聞けたはずなんだが、なかなか踏ん切りがつかなかった。織原への苦手意識は、結構根強いようだ。


 そのせいもあって、最近ではパーティ内の会話はほとんどなかった。俺は織原が苦手で、必要最低限のことしか話さない。水原も進堂の言いつけで織原とは話さない。木野はもともと喋らない。織原も自分からはあまりしゃべらない。結果会話は減っていくというわけだ。


 今日で解散になる。つまり、ラストチャンスということなので、大分無理をして、覚悟をしてここにきているというわけだ。


 しばらく織原を探してみる。…いた。料理が山盛りになった皿を持っている。近くのテーブルに重ねられた大量の皿も無関係ではないだろう。すごい勢いで食事をとっている。織原の祝福ギフトは物を食べるだけ強くなるので、こうしている間にも織原は強化されている。この1週間で1番強くなったのは、織原で間違いないだろう。


 ちなみに織原の祝福ギフトには、『物をいくらでも食べられる』なんて効果はないらしい。つまりアレは織原の素の食欲ということになる。あ、一応毒でも食べられるって効果はあると言っていた。…冷静に考えると、<毒無効>ってことにならないか?これ?


 織原に近づき、声をかける。


「織原、お疲れ様。少し話をしてもいいか?」


「あ、工藤さん、お疲れ様です。話ですか?構いませんよ」


 織原の近くで料理をつまむ。と言ってもこの辺はなぜか料理があまり残っていない。不思議だ。…いや、どう考えても織原のせいだな。


「織原に聞きたいことがあるんだ」


「何でしょう?」


「以前、進堂と敵対するという話をしたよな?」


「ええ、しましたね」


「織原は他に俺たち勇者とも敵対するつもりはあるのか?」


 直球だ。俺は織原に苦手意識を持っているが、こういう質問に嘘で返す人間だとは思っていない。それに不快になることもないと思っている。そんな人間なら、わざわざ幼馴染と敵対するなんてことを他人に言うわけがないからな。


「そうですね。今のところその予定はありませんね。勇者は進堂の物語の脇役になりうる存在です。ここで無関係な僕と戦っても、何の見せ場にもなりません。そんな勿体無いことできませんよ」


 織原がこの世界を漫画のように考えていると無理矢理納得してみる。理解はできないが、納得してみると見えてくるものはある。つまり、勇者は主人公である進堂の物語に脇役として登場するかもしれない。そんなキャラを自分の相手にしてしまうのは勿体無いということだろう。


 逆に言えば、それで進堂の物語が面白くなるというのなら、いくらでも利用するということなのだろうけど…。


「進堂の物語に関わらない人間に対しては、敵意や害意を持たないと考えてもいいのか?」


「うーん、悪意や敵意は持ちませんけど、害意に関しては保証しかねますね」


「同じじゃないのか?」


「違いますよ。全くの別物です。悪意や敵意を持たずに害意を持つというのは、すごく身近な事なのですから」


 織原は食べている物を指さしながら説明を続ける。


「例えば工藤さんが牛肉を食べたいと考えたとき、それは牛に対して『死んでくれ』と言うようなものですよね。それはつまり害意です。でも、牛に対して悪意や敵意を持っているわけではないでしょう?悪意や敵意と言った前提がなくても、害意だけを持つということはよくあることなのですよ」


 つまり、『害する』と言うことは、悪意や敵意の結果だけではなく、単独で存在することができるということか…。


 織原らしい例えで、わかりやすくはあった。しかし、言い換えれば織原にとっては牛肉として牛を害するのも、物語のために人間、…勇者を害することも本質的には違いがないということなんじゃないのか?『敵対』していない人間でも害することがあるという宣言じゃないのか?やはり、コイツは危険だ。


 気分も悪くなってきたので少し話題を変えてみる。


「じゃあ、織原はこれから何をするつもりなんだ。やっぱり魔王討伐でもするのか?」


「前にも言いましたけど、魔王はどうでもいいです。何をするつもりかといえば、…暗躍、ですかね…」


 また不穏な言葉を…。でもその暗躍は基本的には進堂に向かうのだろう…。流れ弾はあるにしても…。


 ある意味1番良い結果となったといえるだろう。織原が俺たち勇者と敵対するというのが最悪。織原が俺たち勇者に協力するというのが更なる最悪だ。織原が味方になる以上に悪いことなんてないだろう?


 よって、基本的には無関係という今の状況が最高なのは間違いないだろう。後は、進堂の物語にさえ巻き込まれなければ完璧といってもよいだろうな。流れ弾の可能性は0にはならなそうだが…。


「できれば、あまり周りに被害のない手段を選んでほしいものだな…」


「はは、善処します」


 ここでやらない奴の定型文を出してくるとは…。


「織原様、料理を集めてまいりました」


 そんなことを言って近づいてきたのは、4人組の男女だ。ちなみに男子2人、女子2人だ。4人が4人とも両手に料理の乗った皿を持っている。恐らく織原が食べるのだろう。


 今のセリフは背の高い女子が発したようだ。その女子は180cm近い身長で、ヒョロリとしていた。と言うか、今『織原様』って言わなかったか?どういう関係だ?


「あ、ありがとう。そろそろ料理がなくなるころだったんだよね」


 見れば織原の持っていた皿はほとんど空になっていた。織原は俺との会話の中でも、暇があれば料理を口に運び、数回の咀嚼で飲み込んでいた。気付いたらどんどん皿の料理が消えているというわけだ。


 4人は近くのテーブルに料理が山盛りになった皿を置く。


「彼らは?」


 織原に尋ねる。いや、正確には彼らがどのような生徒かは知っているが、織原との関係がわからないのだ。


「彼らは僕のパーティメンバーですよ。一応僕がパーティリーダーで、パーティ名は美食…、じゃなかった。グルメ倶楽部と言います。彼らはその四天王です」


 なぜ、そんなパーティ名にしたのかは聞かないでおこう。料理にケチをつけないだけ、良心的なのかもしれない。四天王の話はいったいどこから出てきたのだろうか…。織原がボスとなって、この4人も進堂の前に立ちふさがるのだろうか…。


「さっき、君は織原のことを様付で呼んでなかったかい?ちょっと不思議に思ったんだけど…」


「ああ、そのことですか。私たちは織原様に救われました。敬意をこめて様付で呼びますし、恩を返すために手足となって働くのも当然です」


 他の3人も頷いている。つまりは共通する理由で、織原を敬い、パーティとして行動をともしているのだろう。彼らの経歴を考えると、少し冷や汗が出てきた。


「その恩について聞いても平気か?」


「すいません。それはメンバーだけの秘密なので教えられません」


「そうか、それは残念だ」


 織原は今持っている皿の料理を食べ終えたので、次の皿に交換している。それが終わるとこちらに笑顔を向けてきた。


「彼らはみんな面白い能力の持ち主ですからね。僕としても重宝していますよ」


 織原が面白いという祝福ギフトには興味があるが、俺がそれを知ることは困難だろう。ほとんどの勇者は祝福ギフトの詳細を全ては話していない。国の方は何とか聞きたがっているが、生命線ともいえる情報をおいそれとは話せないからな。概要だけだ。


「そうか…。仲間が来たみたいだから、俺の話はこれで終わりにするよ。時間を取らせて悪かったな」


「いえいえ、お気になさらず」


 そういうと俺は織原から離れた。…わかっていたことじゃないか。織原と話をすれば、それだけでダメージを受ける可能性があるということは…。でも、これはないんじゃないのか…。あんまりだろう…。


 織原と一緒にいた4人の男女。彼らは行方不明になった4人のいるグループに、元の世界で苛められていたのだ…。


 4人の人間が行方不明となり、4人の人間が救われたという。行方不明の4人は、救われた4人を苛めていたという…。織原がどうやって救ったのかはわからない。しかし、どう考えても4人が行方不明となったことと無関係とは思えない。


 織原は無関係な勇者とは戦っても見せ場にならないと言っていた。つまり、関係のある相手をぶつければ見せ場になる可能性があるということだ。織原の性格を考えると、それくらいのことは普通にしてしまいそうだ。


 かといって、あの織原が簡単に証拠をつかませるとも思えない。完全に迷宮入りだな。この行方不明事件は…。


 織原に色々言ったが、すでに手遅れだったかもしれないな。敵対する?手を下した後だったかもしれない。周りに被害の無いように善処する?すでに最大級の被害が出ているのかもしれない。はあ、完全に無駄な時間だったな…。


 あとはもう、進堂の物語にかかわらないことを祈るしかなさそうだな。


 もしくは進堂を本気で探し出して、土下座をしながらこう言うんだ。


「どうか織原の奴を引き取ってください!」


作者はト○コをほとんど読んでいません(読み切りは読みました)。それっぽい感想が来そうなので念のため。


20150912改稿:

修正(6)の内容を反映。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
今後のヒロイン候補かもしれない水原が一人で旅に出るのは心配だなぁ。主人公の事を一途に思う幼馴染ヒロインって好きなんだよなぁ。いくら強力なギフトを持っているとはいえ一人旅じゃ夜はろくに寝れないだろうし女…
[一言] 美味しんぼ、、、
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